いまのところ俺の周囲で目立った変化はないが、このまま平穏無事では済まないだろう。
なにせ菖蒲は家出したのだ。今頃、高臥の家では大騒ぎの真っ最中だろうし、警察に捜索願が出される可能性だって十分にある。
今日、最低でも明日には、菖蒲と本格的に話し合ったほうがいい。彼女を説得して家に帰すか、もしくは高臥家に直接連絡して指示を仰ぐか、まあ二つに一つだろうが。
「……ふーん。なあ夕貴。それが本当なら、わりと冗談じゃ済まないぜ」
その声には、意味ありげな、どこか忠告にも似た響きがあった。
俺と玖凪託哉(くなぎたくや)は、一限目の講義を受けるために、大学のキャンパス内を歩いていた。
雑多な学生たちが、スクランブル気味に通路を横断していくせいで、人ごみの密集率が実際の人数よりも多く感じられる。それぞれの行きたい教室が違うものだから、こうなるのも必然なのだろうけど。
俺は悩んだ末に、友人である託哉に現状を相談することにした。この玖凪託哉という男は、一見チャランポランな野郎に見えて、まあ実際もチャランポランな野郎なのだが、その実は思慮深い一面を持っていたりする。こいつは友人の相談事を鼻で笑って一蹴するような友情に疎い男じゃないのだ。
「夕貴ちゃんも運がねえなぁ。押しかけてきた女が、よりにもよって高臥菖蒲。いや、【高臥】の人間かよ」
「誰が夕貴ちゃんだ。それにしても意外だな。託哉なら、もっと疑ったり騒いだりするかと思ったんだけど」
高臥菖蒲が俺を訪ねてきた。そんな冗談にしか聞こえない話を、託哉はあっさりと信じた。いや、正確には、女の子が押しかけてきたと話したところまでは興奮していたが、その女の子が高臥菖蒲と聞いた途端、託哉は難しそうな顔をしたのだ。
「はっはー、まあ細かいことは気にするなよ。とにかく、だ。憧れてた女優と仲良くなれるかもなんて中途半端な気持ちなら、【高臥】と関わるのは止めとけ。場合によれば、夕貴が考えてる以上に面倒なことになるかもしれないぜ?」
「……中途半端な気持ちなんかじゃねえよ。自分でもよく分からないけど、俺は菖蒲のことを護ってやりたいって思うんだ」
「ふーん、まあ夕貴は気持ち悪いぐらい高臥菖蒲のファンだったもんなぁ。もしかしてアレかい? 高臥菖蒲に、あなたと私は結ばれる未来にありますー、みたいなことを言われたりした?」
心の底を見透かされたような気がして振り向くと、託哉は人懐っこい笑みを浮かべた。
「あれ、まさかビンゴだったりすんの?」
「……おまえ、なにか知ってるのか?」
「いや、いまのは嘘から出た真ってやつさ。オレは少なくとも、夕貴の役に立つような情報は何一つとして知らねえよ」
どことなく含みを持った言い回しだった。
俺の役に立つような情報は知らないのなら――俺の役に立たない情報ならば、託哉は知っているのだろうか。
そう思ったところで、遠くのほうが騒がしいことに気付いた。
俺たちが通う大学は、よりよい生活環境や職場環境などを実現するために、いわゆるコンビニエンスストア店舗と業務提携を結んでおり、その結果としてキャンパス内にコンビ二があったりする。コンビニの目の前にはセラミックブロックを敷き詰めた大きな広場があり、そこにはベンチが複数設置されているだけではなく、大学内でも数少ない喫煙スペースが存在する。
どうやら、その広場のほうでちょっとした騒ぎが起こっているらしい。人のざわつく気配というのは、言葉にしなくても分かるものだ。
「なあ夕貴。どうせ一限目が始まるまで時間あるし、見に行ってみないか?」
趣味が悪いな、とは思ったが、やはり多少は興味を惹かれるわけで。
「ああ。行ってみよう」
俺たちは、人込みに逆らって広場のほうに向かった。託哉に聞きたいことがあったが、なんだか真面目な話をする雰囲気でもなくなったので、後回しにしよう。
広場の人口密度は、いつもよりも明らかに増していた。さらに言うなら、集まっているのは女よりも男のほうが多い気がする。すれ違う男たちは、みんな揃って鼻を伸ばしていた。それは街中でとびっきりの美人を見かけた反応に似ている。
やがて、広場を賑わせた”原因”を見つけた瞬間、俺は自分の観察眼が捨てたものではないと思い知った。周囲には大学生が群がっていて、口々に小声で何かを囁きあっている。また、男より数は少ないものの、女の姿もそれなりに見られた。
この広場に集まった大学生たちの注目は、いきなり現れた場違いな女子高生にあった。
黒を基調とした制服は、間違いなく愛華女学院指定のセーラー服。女子高生が大学キャンパスを闊歩するだけでも相当目立つのに、それが天下の愛華女学院の生徒ときた。これは騒がれないほうがおかしい。
おまけに、なんかまあ、とにかく説明するのも馬鹿らしくなってくるのだが、その女子高生さんは変装のつもりなのか、目深に帽子を被っており、口元をサージカルマスクで隠している。
今時、花粉症にかかっている人でも、あそこまで分かりやすい防御はしないと思う。だがその下手な変装が功を奏しているのは否定できない。彼女は目立ちまくる代償として、その正体を誰にも知られることなく、ここまでたどり着けたのだから。
「……なにしてんだよ、菖蒲」
無意識のうちに声が出た。
ここで正体がバレたら大変なことになる。もしかしたら一限目の全講義に出席する生徒数が、半分以下にまで落ちるかもしれない。
ただ不幸中の幸いにも、菖蒲が愛華女学院の生徒であるという事実は伏せられているので、周囲の大学生たちは、突如現れた謎の女子高生を只者ではないと確信しながらも、彼女を女優である『高臥菖蒲』と結びつけることができないようだった。
「……なあ夕貴。もしかしてこれって、噂をすればってやつか?」
託哉の問いに、俺はゆっくりと首を縦に振った。
全力で変装している菖蒲は、どうやら誰かを探しているらしく、キョロキョロとあたりを見渡している。注目されるのには慣れているのだろう、自分に視線が集まっていることを不思議には感じていないみたいだ。
……うーん、この状況をどう乗り切るべきか。
菖蒲が探しているのは間違いなく俺のはずだ。もちろん名乗り出てあげたい。だって、菖蒲がちょっと不安そうに見えるんだ。やっぱり大学内で一人は心細いんだろう。でもここで名乗り出るのは自殺行為だ。俺にまで注目が集まってしまう。
そのとき、事件は起こった。
「あっ、夕貴様っ!」
口元をマスクで覆っているせいで、その声はくぐもっていたが、それでも十分に澄んだ音色だった。おかげで注目が二割増しだ。
好奇的な色を多く含んだ衆人環視の中、菖蒲は親を見つけた子供のように弾んだ歩調で、トコトコと俺のほうに歩いてきた。
えっ、夕貴様ってあいつのこと? ていうか”様”ってなに? もしかしてそういうプレイ? まわりにいる学生たちの憶測はどんどんヘンな方向に広がっていく。
託哉のやつは、面倒に巻き込まれるのが嫌なのか、いつの間にか離れた距離にまで移動していた。
「探しましたよ、夕貴様」
そうこうしているうちに、菖蒲が俺の目の前まで歩み寄ってきていた。ざわつく気配。さっきまでは俺も野次馬の一人だったのに、いまは俺が当事者になってしまっていた。
向かい合う俺と菖蒲のまわりには、興味津々な顔をした若者が集まっている。
「もうっ、駄目ではありませんか。お弁当を忘れて行ってしまわれるなんて」
菖蒲は学生鞄のなかから、青い風呂敷に包まれた弁当箱を取り出した。ちなみに、これを用意してくれたのはナベリウスだ。もちろん菖蒲の分もある。そういえばリビングに置きっぱなしにしたまま、持って行くのを忘れてたっけ。
「……あ、ありがとう。おかげで助かったよ」
なんとか笑顔を浮かべてみたものの、きっと俺の顔は引きつっていたと思う。
「これぐらい当然です。だって、わたしは夕貴様のものなのですよ?」
なんでよりにもよって、そんな言い回しをするんだ……。
菖蒲が「わたしは夕貴様のもの」と言った瞬間、男の学生たちが露骨に不愉快そうな目をしやがった。広場の喧騒が強くなる。まさに菖蒲に夕貴を注いだかのごとく――ちがった、火に油を注いだかのごとくだった。
これは撤退するのが無難かもしれない。
「あー、君。とりあえず俺とあっちに行こうか」
菖蒲は不服そうに瞳を細めた。きっとマスクの下では、頬が膨らんでいるんだろう。
「……夕貴様? どうして”君”などと他人行儀な呼び方をするのですか? 夕貴様は、わたしの旦那様なのですよ? ですから、もっと菖蒲のことを――っ!?」
「よしっ、あっちに行こうねー!」
愛想笑いを浮かべながら、菖蒲の手を取る。こうなれば強制連行だ。これ以上この場にいたら、菖蒲は確実にボロを出してしまう。
俺は菖蒲の手を取って、ほとんど競歩に近いスピードで歩き出した。
背後からは「……あ、あの、夕貴様のお気持ちは嬉しいのですが、まさかこんな外でなんて……大胆です……」と明らかに勘違いしている声が聞こえてきた。
握り締めた手は、力加減を間違えば折れてしまうんじゃないかと思うほど小さくて、柔らかかった。でも憧れの人と手を繋いだ、という感動も、さすがにいまだけは味わう余裕がない。
がむしゃらに広場から離れるうちに、俺たちはいつしか大学の近所にある公園に辿り着いていた。どうも、ここ最近は公園に縁があるようだ。
さすがに運動が過ぎたのか、春先だというのに身体は熱を持ち、微かに発汗を始めている。
菖蒲が公園に着いて最初にしたことは、マスクを外すことだった。
「……夕貴様? 一体どういうことなのか、説明してくださいますよね?」
菖蒲の顔は笑っているけれど、その声には明らかな棘があった。
「いや、えっと、ごめん」
「菖蒲は賢くありませんので、ごめん、だけでは分かりません。夕貴様は、一体なにに対して謝っていらっしゃるのですか?」
「だから、その……菖蒲を”君”って呼んだこととか」
「そうですね。本当に、そうです。あのとき、菖蒲が心の中で泣いていたことを、夕貴様はご存知ないでしょうけれど」
うわぁ、拗ねてる。
でも正直な話をすれば、俺は菖蒲の拗ねている姿が嫌いではないので、逆にもっと拗ねさせてみたいとか思ってしまう。
「えっと、あとは……勝手に手を繋いだこととか……?」
女の子はデリケートな生き物だから、これは怒っているだろうなぁ、と思っていたのだが。
「……いいです。それは、特別に許して差し上げます」
菖蒲は赤くなった頬を隠すかのように、ぷいっと顔を背けたのだった。許して差し上げますとか言ってるけど、やっぱり怒ってるみたいだ。
「そうか。でも本当に悪かったな。俺がもっと菖蒲を気遣ってやれればよかったんだけど」
「いえ、思い返せば菖蒲も軽率でした。人込みの中に夕貴様のお姿を見つけた途端、つい舞い上がってしまって」
「謝らなくてもいいって。元はと言えば、弁当を忘れていった俺が悪いんだから。菖蒲は学校を遅刻してまで、俺に弁当を届けに来てくれたんだろ? だから、俺が”ありがとう”って言って終わりだ」
微笑みかけると、菖蒲は何度かぱちくりと大きく瞬きをしたあと、俺につられて笑った。
結局、俺は一限目の講義を欠席することになった。なぜか菖蒲も「では、わたしもお供しなければなりませんね」と意味の分からない理論を発動し、遠まわしに学校を欠席する意志を表明した。
軽く雑談しているうちに腹が減った俺たちは、公園のベンチで二人並んで弁当を食べることにした。すこし遠くのほうでは小さな子供たちが天真爛漫に走り回っており、それを離れた場所から何人かの女性――恐らく母親だろう――が見守っている。
菖蒲は相変わらず帽子を被ったままだった。
常識的に考えれば、セーラー服に帽子という組み合わせは合わなくて当然のはず。しかし菖蒲の着こなしのせいか、不思議と違和感なく見れてしまうのだった。
菖蒲がいちいち微笑むたびに、俺も嬉しくなって、つい笑ってしまう。そうすると菖蒲もまた笑って、俺もふたたび笑うのだ。
こんな綺麗な笑顔、初めて見た。何の裏もない、あらゆる打算が排斥された、子供みたいな笑み。
でも、いまは楽しそうに笑っていても、菖蒲は不安を抱えているんだよな。もう自分一人で、未来を信じるのは怖い。そう菖蒲は言った。
これまで俺の知らないところで、菖蒲は密かに涙を流してきたのだろうか。
テレビや本でしか菖蒲を見る機会がなかった俺は、彼女が楽しそうにしている姿しか見たことがなかった。でも菖蒲と触れ合える機会ができて、初めて知ったんだ。昨日の夜、俺の部屋に菖蒲が訪ねてきて、色々と話をして、ようやく思い知ったんだ。
菖蒲は、いままで未来に救われるのと同時に、未来に惑わされてきた。その結果、信じるべきはずの未来を恐怖するようになった。
おかしな話だ。菖蒲ほど、未来を信じるべき女の子はいないのに。まさに菖蒲は、未来を信じるために生まれてきたような女の子なのに。
だって――
「見ーつけた。勝手に出ていっちまうから、探すのに苦労したぜ」
そのとき、軽薄さを隠そうともしない声が聞こえてきた。
俺はため息をつきながらも、そいつに向かって文句を言う。
「……おまえが俺を見捨てたのが始まりだろ、託哉」
「はははは。夕貴ちゃん、拗ねた顔も可愛いなー」
「喧嘩売ってんのかてめえ! あと夕貴ちゃん言うな!」
相変わらず変なところで掴みどころのない奴である。
託哉は、俺の『夕貴ちゃんと言ったことを訂正して謝罪しろ』攻撃を華麗に捌いたあと、菖蒲に向き直った。
「……ふーん、確かに本物の高臥菖蒲だな。あぁ、でも【高臥】なだけマシか」
面倒くさそうに頭を掻いて、託哉は言った。その脱色した前髪から覗く瞳は、どこか冷たい光を宿している。
「はじめまして、高臥菖蒲さん。さて、いきなりだが言わせてもらおうか。実はオレは、ずっと前から君のことを警戒していた。なぜだか分かるかい? まあ分からないだろうな。とにかく君は危ない。危ないからこそ、オレが一夜を共にして、ずっと君のことを見守ってあげようと思うんだよ。前口上が長くなったが、なにが言いたいのかと問われれば、オレはこう言うだろう」
託哉は、菖蒲の前に片膝をつき、
「オレは高臥菖蒲さんの大ファンなんだよぉぉぉぉっ!」
身振り手振りを交えて、そう宣言した。
結論。やっぱりコイツは真性のアホだった。
なんだか妙なことになっている。
常日頃から女の尻ばかり追いかけている託哉にとって、高臥菖蒲という少女は、まさに至高のご馳走に見えるらしい。託哉はこれ幸いにと菖蒲を口説いていた。
……なんか、面白くない。
玖凪託哉という俺の友人は、三枚目っぽい言動とは裏腹に、かなり整った顔立ちをしている。身長は俺より五センチ以上高く、ガタイだっていい。その容姿には女々しいパーツが一つもなく、精悍という言葉がよく似合う。まあ髪を明るめに脱色しているものだから、一見してナンパな野郎に見えることは間違いないんだけど。
託哉は誰に対しても積極的に声をかける。それは良く言えば人懐っこいが、悪く言えば遠慮がない。初めは戸惑い気味だった菖蒲も、いつの間にか託哉と打ち解けていた。
「というわけで菖蒲ちゃん。夕貴のことなんか放って、オレと一緒に遊びに行かない? この間さ、すげえ雰囲気のいいバー見つけたんだよ」
「託哉様のお誘いは嬉しいのですが、丁重にお断りさせていただきます」
「ぐはっ……! せめてもう少しぐらい考えてくれても……!」
わざとらしく吐血の仕草をする託哉。
「ち、ちなみに理由を聞いてもいいかい? どうしてオレが駄目なんだ?」
「託哉様が駄目――というよりも、わたしが駄目なのです」
「君が駄目なわけないだろう!? 菖蒲ちゃんが駄目なら、この世でオッケーな女の子がいなくなるぜ!?」
「……いえ、そういう意味ではなくて。……ただ、わたしが、夕貴様じゃないと駄目なのです」
そう言った菖蒲の頬は、ちょっとだけ赤くなっていた。
思わず心が温かくなる。自然に口元が緩み、笑みがこぼれた。温かなお湯に浸かっているような、なんとも言えない気持ちのいい感情が胸に溢れた。
ふと気付くと、託哉が瞳に涙を浮かべながら俺を睨んでいた。よほど菖蒲に誘いを断られたことが悲しかったのだろうか。
「……なんだよ託哉」
「ふーんだっ! 夕貴ちゃんなんてもう友達じゃないもんねー!」
普段の俺なら”夕貴ちゃん”と呼ばれて怒るところだが、いまだけは怒りが沸いてこない。それぐらい俺の心は澄み渡っているのだ。
「おまえは子供か。駄々を捏ねるみたいに言うなよ」
「うるさいもんねー! 夕貴の言うことなんて聞かないもんねー! 夕貴は女の子みたいな顔をしてるんだもんねー!」
「あーはいはい。俺は女の子みたいな顔してるなー」
いまだけは、どんなことを言われても怒らないのである。
「やーい、やーい! 夕貴のお母さんはでべそー!」
「んだとコラぁ!? 俺の母さんがでべそなわけねえだろうがっ!」
しまった、母さんの悪口につい反応してしまった。
「まあ。夕貴様と託哉様は、仲がよろしいのですね」
ガキみたいな口論をする俺たちを一歩引いて眺めていた菖蒲が、口元に手を当てて上品に笑った。
「誰がこんなやつと!」
偶然か必然か、その否定の声は合成したみたいにハモっていた。それがまた、俺と託哉は仲がいい、と菖蒲に思わせたのだろう。彼女は笑った。すると不思議なことに、俺と託哉もつられて笑ってしまうのだった。
この高臥菖蒲という少女は、ただそこにいるだけで周囲の人間を惹きつける。
よく芸能人にはオーラがある、というような話を聞くが、それは真実だと、菖蒲を見ていれば強く思う。高臥菖蒲が支持されているのは、その清楚なルックスや、純真な性格や、高い演技力や、女子高生にしては飛びぬけたプロポーションだけでは決してない。
口には出来ない、真似しようとしても出来ない、後天的には身につけることの出来ない、そんな”なにか”が菖蒲にはある。
言ってしまえば、それは女優としての資質なのだろうし、もっと言えば人の上に立つ器というやつなのかもしれない。
頭の隅で、ぼんやりとそんなことを考えながら、俺たちは取り留めのない話に興じていた。
「……あれ?」
俺がそれに気付いたのは、菖蒲が不自然に言葉を詰まらせたからだった。談笑していたはずの菖蒲が、急に不機嫌そうに目を細めて、遠くのほうを見つめている。その視線を辿ってみると、公園の外には黒塗りの高級車が停まっていた。
公園内にいる主婦たちは、一瞬その高級車に注目したものの、やはり我が子を見守るほうが大切なのか、すぐに視線を戻した。
菖蒲はこれみよがしにため息をついた。やっぱりあの高級車は、菖蒲と関係があるのだろうか。
ほどなくして車から一人の男性が降りてくる。
「……参波(さんなみ)」
ぽつりと菖蒲が言った。
それを聞いた託哉が目を見開き、次の瞬間には忌々しげに舌打ちした。
高級車から降り立った男性は、一直線に俺たちに向かってくる。彼は見るからに品のいいスーツに身を包んでいた。遠目でも分かるほどの高い身長が、またスーツとよく合っている。振る舞いの一つ一つは非常に洗練されており、手足はもちろんのこと、指先までが測ったようにピンと伸びている。
特筆すべきは背筋か。彼は、まるで背中に定規でも当てているのではと疑うほど背筋が垂直だった。
「ご無沙汰しております、菖蒲お嬢様」
俺たちの目の前で歩みを止めた彼は、ぴったり九十度で頭を下げて、うやうやしく礼をした。それは、きっと三角定規よりも美しい直角だったと思う。
「……参波。まさかお父様に言われて、わたしを連れ戻しに来たのですか?」
菖蒲は腕を組み、やや権高に疑問を口にした。その物言いが板についているあたり、菖蒲はこの男性と親しい間柄なのだろう。
「仰るとおりでございます――と言いたいところではありますが、違います」
言って、彼――参波さんは顔を上げる。
参波さんは、社会人の見本のような身なりだった。品のいいスーツを嫌味にならないように着こなし、顔には拘りのありそうな銀縁の眼鏡をかけている。年の頃は、大体三十半ばから後半ぐらいだろうか。
間違いなく大企業に勤めていらっしゃるような装い――と言いたいところではあるが、なぜか参波さんは、カラスの濡れ羽のような黒髪をオールバックにしていた。
しかも、参波さんの右目付近――ちょうど眉のあたりから頬の上部にかけてまで――には瞼を通過する大きな切り傷が入っている。
社会人として完璧なまでに整った風貌は、しかし髪型と切り傷が与える暴力的な迫力によって、彼を只者ではないように見せていた。
「違う……? その心は何ですか、参波」
「そのままの意味です。私には――いえ、重国(しげくに)様には、お嬢様を連れ戻す意思はございません」
今のところはですが、と参波さんは付け足した。
「……お嬢様。こちらの方が、例の?」
参波さんの目が、俺を捉える。
「はい。貴方には説明するまでもないでしょうけれど、このお方が萩原夕貴様です」
「……ふむ」
萩原夕貴という人間の価値を計るように、参波さんは俺の足先から頭のてっぺんまでを観察した。さすがにじろじろ見られるのはあまり気分のいいものじゃないな。
「これは失礼を致しました。萩原夕貴様の気分を害してしまったようですね」
「いえ、頭を上げてください。僕は何とも思っていませんから」
俺の許しが出たからか、参波さんは面(おもて)を上げた。
「寛大な処置痛み入ります。では、遅ばせながら自己紹介を。私は、参波清彦(さんなみきよひこ)と申します。現在は【高臥】において家令を努めさせていただいております。以後、お見知りおきを」
「ご丁寧にありがとうございます。僕の名前は、萩原夕貴。今は大学で経済学を学んでいます」
「はい、存じております。しかし夕貴様。私には丁寧語を使用せずとも構いませんよ。普段通りのお言葉でどうぞ」
そう言われても、はい分かりました、と簡単には頷けない。彼のほうが目上なのだ。礼儀は払うべきだろう。
俺の躊躇を読み取ったのか、菖蒲が口を開いた。
「夕貴様。参波の言うとおりです。だって、夕貴様と菖蒲は添い遂げる未来にあるのですよ? つまり長い目で見れば、参波は夕貴様に仕えることにもなるわけです」
「……いや、そうは言われてもなぁ」
「お嬢様の仰るとおりでございます。夕貴様、どうか私に対しての丁寧語は控えるようお願い申し上げます」
頭を下げる参波さん。そこまで懇願されたら、逆に丁寧語を使うことが失礼にも思えてきたな。
「……分かった。これからは普通に話すよ。でも、その代わり、夕貴様って言うのは止めてくれないか?」
「畏まりました。では、夕貴くんと」
俺としては、目上の方にタメ口を利くのは逆に落ち着かないんだけど――丁寧語を使ったままじゃ、参波さんずっと頭を下げてそうだもんな。
「……はい、これにて一件落着です。夕貴様と参波は、今のうちから仲良くするのが正解ですからね」
嬉しそうに両手を合わせて、菖蒲は続けた。
「参波。こちらの方は夕貴様のご友人で、玖凪託哉様です」
紹介された託哉は、どこかふてぶてしい態度。
紹介された参波さんは、怪訝に眉を歪めていた。
「参波だぁ?」
「玖凪ですと?」
不機嫌そうに足を組みなおす託哉と、不愉快そうに眼鏡をくいっと上げる参波さん。
「おいあんた。もしかして漢数字の”参”に、津波の”波”って書いて参波じゃねえだろうな」
「そういう君こそ、まさか漢数字の”玖”に、朝凪の”凪”で玖凪じゃないだろうね?」
互いの問いに、互いとも答えなかった。それでも二人は、自分の知りたい答えを得たように見えた。
「ちっ、相変わらず主体性のない人たちだねぇ。あんたらは、とうとう十二大家(じゅうにたいけ)の一つにまで取り入ったのかい?」
「人聞きの悪いことを言う。私たちは、己の信ずる方に仕えているだけだよ。君たちと違ってね」
ピシリ、と空気が軋むような音が、聞こえた気がした。なんだか分からないけど、止めに入ったほうがよさそうなことだけは確かだ。
しかし、俺が仲裁するよりも数瞬早く、二人は顔を背け合った。
「……さて、話が逸れましたね。まさか夕貴くんのご友人が、あの玖凪だということには正直驚きましたが」
眼鏡をくいっと上げた参波さんは、それでは本題に入りましょう、と言った。
「単刀直入に申し上げます。夕貴くん、お嬢様をお願いします」
「は?」
いきなり頭を下げて、菖蒲を頼まれてしまった。まったくもって単刀直入じゃない。だって意味が分からないし。
「噛み砕いて言えば、お嬢様をしばらくの間、夕貴くんの自宅に泊めてあげてほしい、ということですね」
いや、それ噛み砕けてないような。
参波さんの説明によると、菖蒲の父親である高臥重国さんは、経営者としては他に類を見ないほど優秀な方で、それと同じぐらい厳格なのだそうだ。
しかし重国さんは、まわりにはバレていないと思っているそうだが、超がつくほど菖蒲のことを溺愛しているという。だからこそ菖蒲が予知夢を見ても、高校を卒業するまでは、と制限を設けて娘を手放そうとしなかった。
結果として、菖蒲は束縛にも似た過保護に嫌気が差し、父親に反発した挙句、家出という強行手段に出てまで俺の家に来たというわけである。
ここからが本題。
娘に泣きながら「お父様なんか、大っ嫌いです!」と言われた重国さんは、やはりまわりにはバレていないと思っているそうだが、この世の終わりを目前にしたかのような勢いで落ち込んでいるらしい。
家出した菖蒲の行方は、高臥の持つ組織力を駆使することによって、間もなく判明した。すぐに菖蒲を連れ戻さなかったのは、菖蒲の母親である高臥瑞穂(こうがみずほ)さんが、重国さんを『いい機会だから』と説得したから。
高臥家直系の瑞穂さんと、婿養子として高臥に入った重国さん。この二人の間に偏った発言力の差はないそうだが、それでも【高臥】の保有する未来を垣間見る力が絶対だと理解しているのは、正統な血を引く瑞穂さんのほうだった。
歴代の中でも稀有な能力を持つ瑞穂さんに説得されたなら、さすがの重国さんも覚悟を決めないわけにはいかない。どちらにしろ菖蒲と重国さんは、親子史上初と言ってもいいぐらいの大喧嘩をしたのだから、しばらくの冷却期間は必要となってくる。
俺には知れない複雑な事情があった模様だが、とりあえずは様子見ということで、しばらくの間、菖蒲が俺の家に滞在することは黙認されるということだ。
女優業のほうは生活が落ち着くまで一時的に休止。まあ元々、菖蒲がメディアに露出することは少なかったし、女子高生にもなって学業も本格化してくるのだから、その措置は自然かもしれない。女優はアイドルとは違って融通も利くらしく、例えドラマや映画の出演依頼が入ったとしても、一身上の都合があればキャンセルすることも出来る。
また、菖蒲が俺と同棲している、というスクープが人目に触れないようにするためのシステムはすでに構築されている。高臥一族は、該当地域における各社報道局、新聞社、雑誌社などにコネクションを持っており、必要とあらば情報を握りつぶせるという。つまり、圧力をかけるってことだ。
参波さんはハッキリと口にしなかったが、その発言の節々から察するに、【高臥】はその気になれば検察や行政のほうにも手を回せるようで、大抵のスクープや特ダネ程度ならばあっという間に葬れるらしい。
「決して言葉にはしませんが――重国様は、夕貴くんに期待しているのです」
重国さんは、目に入れても痛くないほど菖蒲のことを可愛がってきた。だが娘は、いずれ男の元に嫁がなければならない。
息子が結婚するときは『おめでたい』と素直に思うものだが、娘が結婚するときは『取られてしまった』という気持ちが胸のうちで燻るのは、やっぱり父親だからなのだろうか。
それでも重国さんは「菖蒲が視て、選んだ男ならば信用してみよう」と断腸の想いで決意し、菖蒲が萩原邸に滞在することを許可した。
すべての話を聞いて、俺は思った。
あれ、なんか俺が菖蒲と結婚することが前提になってないか?
「……つまり、しばらくの間、菖蒲を預かって欲しいってことか」
「端的に言えば、そうなります。私としても、これは重国様が子離れをするいい機会だと思うのですよ」
「…………」
俺の知らないところで、話が飛躍しすぎているような気がする。
ナベリウスの場合は、あいつが母さんの知り合いで、俺の父親とも仲がよくて、なにより悪魔という繋がりがあるからこそ、当たり前のように居候しているわけだが。
でも菖蒲は、客観的に見れば赤の他人なんだ。いくら本人が『萩原夕貴と結ばれる未来にある』とは言っても、今のところは他人なんだ。
付き合ってはいないから、恋人同士じゃない。
血が繋がってないから、親類同士じゃない。
もちろん菖蒲と同居することは素直に嬉しいし、考えるだけで楽しそうだなと思う。
ただ常識的に考えて、知り合ったばかりの、それも年頃の女の子と同棲するのは、道徳的に問題があるように思えるのだ。俺だって健全な男だし、なにかの間違いで、菖蒲に欲情して襲い掛かってしまうことだってあるかもしれない。
そう考えると、自信を持って『菖蒲を任せてください』とは言えないのだ。
「……夕貴様は、菖蒲と一緒にはいたくないですか?」
優しく、ともすれば遠慮がちに、菖蒲が俺の手を握ってきた。菖蒲の瞳は悲しそうに揺れていて、俺が拒否の言葉を吐き出せば、その瞬間に泣き出してもおかしくはなかった。
「……いや、そんなことはない。菖蒲と一緒にいるのは凄く楽しいよ。だからこそ――」
だからこそ。
容易に頷くことが出来ないのも、確かである。
「……菖蒲は、夕貴様をお慕いしております。それだけでは、駄目でしょうか?」
駄目だ、と口にするのが、ある意味では正解なのかもしれない。そうすれば菖蒲は高臥家に戻り、安全で、贅沢で、恵まれた環境の中で学業に励むことができる。
俺の家にいれば、ナベリウスという銀髪の悪魔がいるし、なにより間違いが起きないとも限らない。
それでも。
俺は思い出していた。
昨日の夜、菖蒲が泣いていたことを。
あんなに澄んだ笑顔を浮かべる菖蒲が、今にも消えそうな儚さを身に纏い、辛そうな表情をしていたことを。
あの菖蒲が俺だけに見せた弱さを知った上で、彼女を放っておくことができるのか? そんなの、女々しい男のすることじゃないか? 菖蒲のことを護ってやりたいって、そう思ったあのときの俺は嘘だったのか? 道徳とか、性欲とか、そんなちっぽけな鎖に縛られただけで迷う程度の想いだったのか?
いや、違うよな――
「……分かりました。俺が責任を持って、菖蒲を預かりたいと思います」
参波さんに向けて頭を下げた。一度決意してみると、さっきまで悩んでいた自分がバカに見えてきた。
さりげなく横を確認すると、菖蒲が何度も頷きながら、瞳を拭っていた。その涙が、悲しいからではなく、嬉しいからであるといいけど。
「……やはり、ですか。夕貴くんならば、そう言ってくれると思っていました」
参波さんは、最初から俺の答えを知っていたような口ぶりだった。
それを疑問に思って尋ねてみると、
「夕貴くんは、お嬢様が選んだ方ですから」
と、彼さんは笑った。
聞くところによると、参波さんは菖蒲が生まれるよりも前から高臥家に仕えていたという。それゆえに参波さんと菖蒲の両親は、上司と部下というよりも、もはや友人のような間柄らしい。つまりこの人は、十六年間もの間、菖蒲のことを見守ってきたのだ。
参波さんにとって、菖蒲は娘のような存在であり、菖蒲にとって、参波さんは第二の父親のようなものなのだろう。
相変わらず定規を当てたみたいに真っ直ぐ背筋を伸ばしながら、参波さんは公園内で遊ぶ子供たちを見つめていた。公園を走り回る少年少女と、幼き日の菖蒲を重ねているのだろうか。
「……素晴らしい」
鉄棒で戯れる幼い少女二人を見つめながら、参波さんが呟いた。確かに、小さな子供が遊ぶ姿って、なんか尊い感じがするよなぁ。
俺にその素晴らしさを再認識させてくれるとは、さすが参波さんである。
「それに比べて菖蒲お嬢様は……ふぅ」
うんうん、と俺が頷いていると、参波さんは菖蒲を見つめながらため息をついた。
「……参波、どこを見ているのですか?」
菖蒲は警戒心をあらわにしたまま、両腕で胸を隠した。
「いえ、他意はないのです。ただお嬢様の成長した胸を見ていると、私は残念でなりません。幼いころのお嬢様は、それはもう天使が顕現したのかと本気で信じるほど愛らしかったというのに」
確かに、菖蒲の幼少期といったら、常軌を逸するほど可愛らしかっただろう。
「しかし、今のお嬢様を見ていると反吐が出そうになりますね」
「えっ?」
俺の気のせいじゃなければ、参波さんの口から紳士らしかかぬ言葉が漏れたような。
「まったく、あの天使のようになだらかだったお嬢様の胸も、今となっては……はぁ」
「……参波? 夕貴様の前で、失礼な発言をしてはいけませんよ?」
菖蒲は優しげに微笑んではいるが、その眉は微かにつりあがっていた。密かに怒っているようである。
「夕貴くん。どう思いますか?」
「どう思いますかって、言われても……」
なんの話だ?
「ふむ、分かりませんか。ならば、あれを見てください」
参波さんは、鉄棒で遊ぶ女の子たちを指差した。
「あの小さな身体、なだらかな胸、丸みを帯びていない体つき……最高だと思いませんか?」
「ぶっ!」
なにも飲んでないのに咽せてしまった。
ま、まさか参波さんは……!
「ロリコン、なのか……?」
「ふっ、あまり褒めないでくださいよ夕貴くん。照れるではないですか」
銀縁の眼鏡をくいっと上げて、参波さんは朗らかに笑った。実にいい笑顔である。でも俺は、朗らかに笑えなかった。
「さ、参波さん! さすがに子供に手を出すのはまずいだろ!」
「参波ではなく、きよぴーとお呼びください」
どうやら幼女の話をするときは、参波さんではなく、きよぴーと呼ばなくてはいけないらしい。
「安心してください。幼女とは、手折るものではありません。ひたすらに慈しんで、愛でるものなのです。分かりますか? 愛でるものなのです。それなのに昨今ときたら、幼女に性的興奮を催すような下賎な輩が増えているというではありませんか。まったくもって度し難い。いいですか、幼女とは興奮するものではなく、癒されるものなのです。そこを間違えてしまった者こそが、ロリコンではなく、犯罪者と呼ばれるのですよ」
急にロリコン講座を開かれても対応に困るんだけど。
「もうっ、参波! 夕貴様に変なことを吹き込まないでください!」
まさに救世主のごとく、菖蒲がきよぴーを……じゃなかった、参波さんを止めてくれた。
「むむ、ここにはおっぱいお化けがいることを忘れていました。では夕貴くん、この話はまた後ほど」
「さ、ん、な、み? あまり、わたしを怒らせないほうが賢明ですよ?」
何気なく横を見て、俺は思わず息を呑んだ。いちおう菖蒲は笑っているのだが、さっきからひっきりなしに頬の筋肉が痙攣しており、今にも爆発しそうである。噴火寸前の火山があるとすればそれだ。
二人は、しばらく仲睦まじい口論をしていた。と言っても、菖蒲が怒って、それを参波さんが華麗に受け流していただけだが。
「さて、では私は戻ります。こう見えても時間が押しているものでして」
腕時計を見つめながら、参波さんが言った。菖蒲はよほど怒っているのか、腕を組んだまま、そっぽを向いている。恐らく慣れっこなのだろう、参波さんは気にした様子もなく、黙って翻った。
参波さんは俺と別れの挨拶を交わすと、そのまま振り返ることなく歩き始めた。相変わらず背筋を真っ直ぐ伸ばしたまま。
その最後。
「玖凪の。なにを企んでいるのかは知りませんが、お嬢様と夕貴くんに手を出すことだけは許しませんよ」
「はん、あんたに言われるまでもねえよ参波の。夕貴はオレのダチだし、それにダチの女に手を出すほどオレも落ちぶれちゃいねえさ」
参波さんと託哉は、そんな嫌味を交換し合っていた。
一体、この二人はどういう関係なんだ? 少なくとも良好な間柄ではなさそうだが――いや、それを言うなら今日が初対面のようだったのに、どうして互いのことを知っているような口ぶりなのだろうか。
黒塗りの高級車に乗り込む参波さんを眺めながら、俺はそんなことを考えていた。