弐の章【御影之石】までの重要語句をまとめました。ネタバレ前提で書いていますので、本編未読の方は注意してください。以下はあいうえお順で並べています。
登場人物のまとめを追加しました。
【愛華女学院(あいかじょがくいん)】
作中世界において、全国でも有数のお嬢様学校のことを指す。高臥菖蒲と壱識美影は、ここの生徒である。
英国のパブリックスクールを原型に創設され、明治初期には淑女を教育するに相応しい現場という触れ込みで周知のものとなり、一躍その名を轟かせた。昭和中期までは、聖書について学ぶ授業や、特定の曜日におけるミサも取り入れられていたが、第二次世界大戦の終戦をきっかけに大規模な見直しがなされ、宗教的な概念は排除されることになった。
県内でも上位の偏差値を誇り、部活動にも積極的に力を入れている。また入学する生徒は、一般的な水準よりも裕福な立場にあることが多く、資産家、政治家、官僚、芸能人、経営者などを親に持つ子供が、全校生徒の実に半数近くを占める。独自の奨学金制度を持つことから、中流家庭の出であっても入学することは難しくない。学生寮も完備しており、地方出身者を受け入れる体制も万全。
【悪魔】
広義には、人間以外の生物。狭義には、かつてソロモン王に仕えた72柱の大悪魔のことを指す。
そもそも悪魔の定義は、非常に曖昧である。例えば、欧州において低級悪魔とされるオドは、日本においては邪悪な悪霊と認識されている。表社会の人間にとっては架空の存在だが、裏社会の人間にとっては脅威に他ならない存在。
【悪魔祓い】
悪魔と敵対する組織。とある新興宗教が母体となっている。
【オド】
低級悪魔。日本では悪霊とされている。単体では何もできない。心に傷を負った人間に取り憑き、宿主を操ることで真価を発揮する。
取り憑かれた人間は、慢性的な殺人衝動に悩まされたり、高い身体能力を得ることが多い。なかには異能を発現するケースもあるが、これは非常に稀なパターン。死者の魂を喰らう特性を持ち、宿主が人を殺せば殺した分だけ、オドの力も強くなる。自分よりも上位の悪魔がいた場合、それを盲目的に欲する傾向にある。
【十二大家(じゅうにたいけ)】
作中世界において、日本国に深く根付き、強大な力を持つに至った十二の家系を指す。他を凌駕する財力、権力、暴力、政治力などを持つ。
・碧河 (あおがわ)
医療方面に大きな力を持つ家系。
・如月 (きさらぎ)
十二大家のなかでも最大の規模と勢力を有する家系。
・姫楓院 (きふういん)
日本における華道最大の流派を誇る家系。
・九紋 (くもん)
殺し屋の家系。単独で、武門十家の全てを敵に回しても同等に渡り合うだけの戦力を持つ。
・高臥 (こうが)
表社会の経済を動かす家系。いくつかの分家とともに大きなグループを形成している。『未来予知』の異能を有する。
・朔花 (さくばな)
・哘 (さそざき)
裏社会において、仁義と任侠を取り仕切る家系。日本で起こった暴力団絡みの事件は、元を正せば哘に責任が帰結する。
・鮮遠 (せんえん)
陰陽道本家と目される家系。《青天宮》の頂点に立つ。
・高梨 (たかなし)
代々続く政治家の家系。その規模は、内政や外交にも深く関与するほど。
・月夜乃 (つくよの)
・斑頼 (まばらい)
・御巫 (みかなぎ)
【青天宮(せいてんぐう)】
日本の霊的守護を担う退魔組織。その起源は鎌倉時代にまで遡るとされる。裏社会のなかでも特に大きな力を持つ勢力。
表向きは防衛省に属する形態をとっているが、事と場合によれば警察や軍部を上回る権限を持ち、一定の条件を満たした上でなら超法規的な措置を取ることも認められているため、実質的に青天宮はどこの管理下にも置かれていない、独立した組織である。
もとは陰陽師と呼ばれる者たちの集まりだったこともあり、初期の活動理念は”妖”の排除だった。しかし近代化が進むにつれ妖の個体数が著しく減少したため、現代では指定された危険度を超えた異端の生物を観測しては対処する、という活動を行っている。十二大家の一つ、【鮮遠】を頂点に置いたピラミッド組織。
【ソロモン72柱】
かつてソロモン王が使役したとされる、72体の大悪魔のこと。法王庁や悪魔祓いが本物の悪魔と認識しているのはソロモン72柱だけである。古くは神に匹敵する力を誇っていたが、ソロモンに封印されたことを機に、本来の力の大部分を失っている。
人間とは比べ物にならないほどの高い身体能力を持ち、生命力や回復力も目を見張るものがある。
Dマイクロ波と呼ばれる波動を体内で生成し、《ハウリング》と呼ばれる固有の異能をふるうことでも知られている。ただし現在の彼らがふるう異能は、本来のものではなく、劣化した、いわば残滓に過ぎないもの。彼らは膨大なDマイクロ波を消費することで、本来の異能をふるうこともできる。それは《ハウリング》とはべつに、《フィードバック》と呼称される。
具体例を挙げると、ダンタリオンのハウリングは『生物の体感時間を停止させる力』だが、フィードバックは『時の流れを停止させる力』となる。
【大崩落(だいほうらく)】
約二十年前、日本の裏社会で起こった未曾有の抗争。過去数百年ものあいだ変動しなかった裏の勢力図を一遍に塗り替え、表の経済に深刻なダメージを与えた。抗争自体は都合四年も続いたが、十二大家の一つである【九紋】が介入したことにより終結を迎える。
大崩落の発端となった出来事は、いくつかの有力な説が提唱されているものの、仮説を裏付けるだけの論拠がないため、実質的に判然としていないのが現状である。語源は『既存の勢力や経済が、崩れ落ちるようにして壊れた』ことに由来する。
【田辺医院】
いわゆる闇医者。街外れの閑散とした区画、その路地裏にひっそりと立地している。経営者は田辺。彼の助手として、辻風波美がいる。
明らかに病院とは思えない店構えだが、裏の者が頻繁に利用するという性質上、そこそこ儲かっている。《大崩落》の折に、安全地帯として機能した。院長である田辺に命を救われた者も多く、田辺医院は現在においても戦闘禁止区域として扱われている。
【Dマイクロ波】
悪魔が体内で生成する、マイクロ波のなかでも特殊な波長域にある波動のことを指す。正式名称は『Devilment Microwave』だが、日本が舞台の本作では、主に『Dマイクロ波』の呼称が用いられる。
このDマイクロ波が大気中に流れ出し、万物の分子系に影響を及ぼした結果が、《ハウリング》と呼ばれる異能。余談だが、『デビルメント』とは『悪魔の所業』という意味である。
【ハウリング】
広義には、悪魔がふるう異能全般を指す。狭義には、本来悪魔が持っていた異能の残滓を指す。
Dマイクロ波が万物の分子系に影響を及ぼした結果、発現するものとされているが、真相は不明。なかには科学ではまったく説明のつかない異能を操る者もいる。
ハウリングが行使される際、膨大な量のDマイクロ波が必要となる。このときDマイクロ波は、人体の大小の筋肉に軽微の痙攣をもたらし、周囲にいる者に耳鳴りを引き起こす。この甲高い耳鳴りが、音響機器を共鳴させたときに発生する現象である”ハウリング”と酷似していたため、それにちなんで悪魔の異能にも『ハウリング』の名称が用いられるようになった。ダンタリオンの『生物の体感時間を停止させる力』、ナベリウスの『氷を生み出し、それを自在に操る力』などが該当する。
・フィードバック
こちらが悪魔本来の異能。物理法則を書き換えるほどの力。悪魔の切り札とも言える力だが、行使したあとは戦闘力が大幅に落ちてしまうという欠点もある。ダンタリオンの『時の流れを停止させる力』が該当する。ナベリウスは不明。
『萩原邸(はぎわらてい)』
物語の主な舞台であり、萩原夕貴にとっては母親との思い出が詰まった大切な場所。
もはや邸宅と言っても過言ではない広大な敷地面積を誇る。母子家庭の二人暮しにはいささか豪華すぎるが、これは夕貴曰く『父親の遺産があるから』とのこと。
庭には花壇、別棟の倉庫、鯉の泳いでいる池などがありながら、小さな子供が遊びまわれるぐらいのスペースも残っている。
建物は三階建て。一階にはリビング、キッチン、トイレ、風呂、客間が三つ、応接間が一つ。二階には夕貴の部屋、小百合の部屋など家人の私室と、トイレ、洗面所、ちょっとしたバルコニーがある。三階には空き部屋が三つ。さらに上に屋根裏部屋が一つ。
余談だが、近所の間では『萩原さんの家は、どこぞの名家の親戚筋なのではないか』とまことしやかに囁かれている。高臥菖蒲が滞在していることを知る、一部の者たちは『なるほど。萩原さんは、あの高臥家の親戚だったのか』と妙に納得されていたりもするが、それは当人たちの知らない事実である。
【武門十家(ぶもんじっけ)】
裏社会において圧倒的な戦闘能力を誇る十の家系を指す。それぞれの家系が特殊な戦闘術を継承しており、これが”武門”の語源となっている。零から玖までの漢数字を冠することでも知られている。
悪名的なネームバリューを持ち、裏社会では十二大家よりも恐れられる勢力。また零月家、壱識家ではなく、零月一門、壱識一門といった呼称が用いられる。
・零月 (ぜろづき)
武門十家のなかで唯一、零落している家系。大崩落の折、玖凪との抗争に破れ、絶滅したとされる。
・壱識 (いちしき)
特殊な糸を用いた戦闘術で知られる家系。彼らの技は、俗に『壱識の操糸術(そうしじゅつ)』と呼ばれる。
・弐伊 (にい)
・参波 (さんなみ)
全身に仕込んだ暗器を用いて戦うことで知られる家系。十二大家の一つである【高臥】とも密接に関わっている。
・肆条 (しじょう)
・伍瓦 (ごがわら)
・陸崎 (ろくざき)
・漆坂 (しちさか)
・捌宮 (はちみや)
・玖凪 (くなぎ)
大崩落の折、零月を滅ぼしたとされる家系。
【フレンチトースト】
萩原夕貴が、実の母親である小百合からレシピを教わったお手軽料理。高臥菖蒲の大好物。困ったときはこれを女性に食べさせれば大抵なんとかなる。
余談だが、夕貴のレシピは以下のようなもの。
材料は、四分の一カットした食パン、牛乳100ml、卵一個、砂糖大さじ一杯、バター。
まずボウルに牛乳100ml、卵一個、大さじ一杯の砂糖を入れて、よくかき混ぜる(お好みでシナモンを入れてもいい)。次にカットした食パンをそれによく浸す。ここで手を抜いてしまうと、食パンの中身まで液が浸透せず、完成したときの味が落ちてしまうので要注意。
熱したフライパンにバターを入れる。サラダ油のようなものでも代用できるが、塩気のあるバターを使ったほうが、甘みが引き立つ。
あとは、よく液が染み込んだ食パンを、こんがりときつね色になるまで片面ずつ丁寧に焼いていけば完成。夕貴の経験上、シロップをかけたほうが女性陣の受けはいい模様。
【御影石(みかげいし)】
美しい光沢を放つ石。花崗岩とも呼ばれる。墓石に使われることでも有名。弐の章【御影之石】のキーアイテム。
作中ではペンダントとして登場した。原型は満月のような真円のフォルムだったが、現在は割られたスイカのように歪なかたちをしている。ただし表面は研磨しているので、それほど不恰好なわけでもない。
もともとは壱識千鳥が祖母から譲り受けたもの。千鳥と冴木は、御影石のペンダントを結婚指輪の代わりにそれぞれ所持し、愛を誓い合った。最終的には、冴木は夕貴に、千鳥は美影に、それぞれペンダントを譲った。
結局、千鳥と冴木が交わした『すべてが終わったら、二つに割れた御影石をもういちど一つに合わせよう』という約束が果たされることはなかった。冴木に想いを託された夕貴と、千鳥の血を受け継いだ美影。次世代の彼らに、その気があるのかは全くの不明である。
【法王庁(ほうおうちょう)】
ローマ教皇庁の裏の顔であり、バチカンに総本山を持つ、世界でも有数の特務組織。法王庁の傘下である異端審問会のなかでも、対悪魔に特化した部隊を特務分室と呼ぶ。
以下は登場人物のまとめになります。引き続き、ネタバレにはご注意ください。
・荒井海斗 (あらいかいと)
高臥菖蒲を誘拐しようとした六人の男たちのリーダー格。喧嘩に強く、度胸もあり、頭の回転も早い。非凡な人物であり、暴力団の若頭からも一目を置かれるほどだった。現在は【高臥】監督の下、罪を償っている。父親はすでに鬼籍に入っているが、母親と妹は存命している。
あらゆる悪事に手を染めているが、喧嘩には刃物を一切使わないというポリシーを持つ。実は『高臥菖蒲』のファンだったという裏設定がある。
・壱識千鳥(いちしきちどり)
美影の実の母親であり、武門十家の一つである《壱識》の人間。
腰まで伸ばした艶やかな黒髪と、透き通るような色白の肌が特徴的な、大和撫子という形容がぴったりの美女。美影とよく似た容姿をしている。夕貴曰く、仕草の一つ一つまでそっくりらしい。ただし娘とは違い、女性的な丸みを帯びた身体をしている。
愛する夫の遺言により、あまり良好とは言えなかった娘との仲を不器用ながらも改善しようと密かに努力している。御影石のペンダントを美影に託した。
・壱識美影(いちしきみかげ)
愛華女学院に通う高校一年生。自称ニーデレ(普段はニートで、いざというときはデレデレする人)。メインヒロインの一人。
腰まで伸びた長い黒髪をポニーテールに結わえた美少女。抜けるような色白の肌と、いつも気だるそうにした茫洋な眼差し。左目の下にできた泣きぼくろが特徴。よく鍛えて引き締まった身体をしているが、あまり胸はない模様。身長は150センチほどと小柄。本質的には怠惰な少女で、休日には部屋で引きこもっていることが多い。
母親譲りの美貌を持ち、黙っていれば誰もが振り返るほどの整った容姿をしているが、あまり人付き合いというものに興味がないため、異性どころか同性との交流も皆無。オリジナルの流行語を作るのが趣味の一つらしく、たまに意味不明な発言をして周囲を困らせる。ポン酢が大好物で、ごまダレでしゃぶしゃぶを食べる人が許せない。
作中でも屈指のずば抜けた戦闘センスを持つが、これは希代の殺し屋と謳われた男と、裏社会に広く知られる《壱》の一族に生まれた女、この両者の遺伝子を正しく受け継いだため。その天賦の才とたゆまぬ修練が実を結んだ実力は、一目で萩原夕貴に憧憬を抱かせ、歴戦の大悪魔から手放しの賞賛を送られるほど。
好きな異性のタイプは『男らしい人』と本編では口にしたが、これは夕貴に対する皮肉のようなもので、実際には特定の好みはない。ちなみに夕貴のことは好きでも嫌いでもなく『どうでもいい』とのこと。
作中では最後まで、自分の父親が誰なのかを知ることはなかった。
・瓜生雷蔵(うりゅうらいぞう)
武門十家の一つである《玖凪》に仕える老人。
白く染まりきった髪をくしで撫でつけ、口ひげと顎ひげを短くたくわえている。老いを伺わせない恰幅のいい身体を礼服に包んでいる。全盛期の頃は、裏社会のなかでも最強の刺客と目された人物。《玖凪》の擁する最高戦力。
かつて《音無し》とは三度に渡って殺しあったが、決着はつかなかった。
・如月紫苑(きさらぎしおん)
十二大家の一つである【如月】の人間。
青みがかった黒髪をうなじのあたりで一房に結わえている。パンツルックのスーツに身を包んでいることが多い。キャリアウーマンという形容が似つかわしい美女だが、やや目つきが悪い。
ダンタリオンに関する一連の事件を、表沙汰にすることなく葬った人物。
・玖凪託哉(くなぎたくや)
萩原夕貴の親友。武門十家の一つである《玖凪》の人間。
明るめに脱色した髪、左耳につけたピアス、精悍な顔立ちが特徴。身長も高く、異性に好まれそうな容姿をしているが、そちらの方面にはあまり誠実とは言えないので、特定の女性はいない。
色々と謎が多い青年。参波清彦とは仲が悪い模様。
・高臥菖蒲(こうがあやめ)
愛華女学院に通う高校一年生。予知っ娘。メインヒロインの一人。
色素の薄い鳶色の髪はゆるやかなウェーブを描いて背中まで流れ、いつも眠そうに少しだけ目を閉じている。年相応のあどけなさを残した愛らしい顔立ちをしており、その美貌は異性を惹き付けて止まない。プロポーションも優れており、バストの大きさは特筆すべきものがある。身長は162センチ。夕貴からは『清楚・オブ・清楚』という異名を勝手につけられている。
十二大家の一つである【高臥】に生を受け、幼い頃から淑女としての教育を施されてきた。昔ながらの女性のように、一人の男性に尽くして尽くして尽くしぬくタイプ。高臥宗家の直系女児として、『未来予知』の異能を持つ。
誰に対しても丁寧口調で接する。基本的には聞き分けのいい少女だが、夕貴が絡むと途端に意固地になる。大好物は夕貴の作ったフレンチトースト。
以前は『未来予知』の異能に振り回されていたが、夕貴と出会ってからは徐々に安定しつつある。
・高臥重国(こうがしげくに)
十二大家の一つである【高臥】の現当主にして、東日本を中心に展開する高臥グループの総帥。
相対する者に是非もなく降伏を促すような存在感と威圧感を持つ。他に類を見ないほど優秀な傑物。婿養子でありながら名実ともに【高臥】の頂点に立っている。
厳格で気難しい面が目立つが、その実は愛情に深い人物であり、妻と娘のことを誰よりも愛している。菖蒲が芸能界に入ることに強く反対していたが、いまとなっては菖蒲が出た番組や雑誌を、多忙なスケジュールの合間を縫って密かにチェックしている。
十六年前、彼は誰よりも生まれてくる娘の未来を案じていた。【高臥】の長い歴史のなかでは、自身の強力な異能に耐え切れなかった者も少なくなかった。未来とは、個人が扱うにはあまりにも重すぎる究極の情報。それに娘が惑わされる可能性を、彼は夢想せずにはいられなかった。
だから彼は、生まれてきた娘を抱くよりも早く、母親の腕のなかでむずがる我が子に『信じる者の幸福』という意味を持った名を授けた。歩むべき道を迷わぬように。己の信じた未来を違えぬように。
しかし時が流れるうちに、いつしか彼は『娘が信じた未来を歩ませる』という想いを忘れ、『自分の手で娘に幸福な未来を与える』という父ゆえの使命感に捉われていた。だが一人の少年の言葉により、原始の想いを取り戻した彼は、十六年前と同じように娘の信じた未来を歩ませることにした。
・冴木(さえき)
うだつの上がらないサラリーマンのような容貌をした隻腕の男性。常にへらへらとした締まりのない笑みを浮かべているが、相対する者には不思議な安心感を抱かせる。
その正体は、かつて《音無し》とまで呼ばれた希代の殺し屋。数多くの異名を持ち、その実力と、目的のためなら手段を選ばない狡猾さから、裏社会の要人を震え上がらせた。
左腕がないのは、己の死を偽装するために自分で切り落としたため。”冴木”というのは美影が適当につけた偽名の一つに過ぎないが、彼はそれを死ぬそのときまで大切に抱き続けた。彼の墓には、本名ではなく、『冴木』という銘が刻まれている。
御影石のペンダントを夕貴に託した。
作中では、最後まで娘に自分が父親だと明かすことはなかった。
・櫻井彩(さくらいあや)
夕貴や託哉とおなじ大学に通う一回生。清楚な容姿の少女。好きな異性のタイプは、お母さんを大切にする可愛い顔をした男の子。
誰よりも慕った母親を交通事故で亡くし、信頼していた義理の兄から性的暴行を繰り返し受けていたという過去を持つ。さらには低級悪魔であるオドに取り憑かれ、本人の意思とは無関係のところで何件かの殺人を犯した。
最終的には夕貴の決断により、彩はもとの平凡な日常に戻れるようになった。それと同時に、大学に入学してからの記憶をすべて無くした。悪魔に関する記憶も、自身が殺人を犯したことも、萩原夕貴という少年と出会ったことも、その少年に恋をしたことも。
ある夜に起きた出来事をすべて忘却してしまったが、それでも、とある少年に対する想いだけは消えなかった。
・参波清彦(さんなみきよひこ)
【高臥】の家令を努める男性。武門十家の一つである《参波》の人間。
社会人の見本のような風貌をしているが、カラスの濡れ羽のような黒髪をオールバックにしていたり、右目のあたりに大きな切り傷が入っていたりと、明らかに堅気とは思えない身体的特徴がいくつかある。普段は銀縁の眼鏡をかけているが、戦闘の際には外すことが多い。
壱識千鳥とは古い知り合いらしい。
・肆条緋咲(しじょうひさき)
繁華街にあるランジェリーショップに勤める女性店員。歩く下ネタ製造機。
淡いブラウンに染めた長髪をアップにした美形の女性だが、とにかく発言が危ない。蠱惑的なプロポーションをしており、あどけない少女には醸し出せない大人の色気をまとっている。何事にも大らかな女性だが、口を開けば一言目から下ネタが飛び出すので注意が必要。
菖蒲とは数年来の付き合いで、年の離れた友人といってもいい仲。初音という妹がいる。学生時代は剣道を習っていたらしい。
・田辺(たなべ)
街外れの閑散とした区画、その路地裏にひっそりと立地する『田辺医院』の経営者。いつも私服の上からよれよれの白衣を着ている。
すでに年齢は五十を過ぎているが、恰幅がよく年のわりには若々しい顔つきをしているので、その気になれば四十代と言っても通用する。いまだにお盛んらしく、辻風波美によると、複数の女性と交際しているらしい。巨乳好き。
壱識千鳥や冴木とは古い知り合い。昔は千鳥にぞっこんだったらしく、彼女の娘である美影のことも何かと気にかけている。横柄な言動が目立つが、その実は情に厚い。
・ダンタリオン
ソロモン72柱が一柱にして、序列第七十一位の大悪魔。
不健康そうな白蝋の肌、豪奢な金色の髪、眼球がまったく露出しないほどの細い糸目、漆黒の神父服。つねに柔和な笑みを浮かべており、外見だけなら善人に見えないこともないが、その実は『自分こそ崇高』と考えている性格破綻者。他者を見下す傾向にあり、彼が認めるのはソロモンの同胞だけ。
人間のことを知恵と運動能力を持ったオモチャ程度にしか見ていないが、気に入った相手には多少の礼を尽くす。狡猾な頭脳を持ち、ナベリウスをして用心深いと言わしめるが、『ここぞというときに遊んでしまう』悪癖を持つ。だがそれも自身の圧倒的な力に裏づけされた、一種の余裕である。
他者の心を潰すことに快楽を覚える。確立された一つの自我を潰すのは、誰かが積み上げたトランプの山を勝手に崩すような優越感があるらしく、強い心を持った人間には一定以上の関心を持つこともある。壱識美影がその実例。
人間の女と交わったバアルに失望すると同時に、大悪魔を束ねる立場にあった彼に強い敬意を払っている。そのため愛憎入り混じった複雑な感情を抱いている。
《ハウリング名:静止歯車(シームレスギア)》
生物の体感時間を停止させる異能。正確には、体内にDマイクロ波を持たない生物の体感時間を止める力である。火力こそないが、非常に燃費がよく、長時間の戦闘に向いている。人間だけではなく、吸血鬼や人狼であっても《静止歯車》から逃れることはできない。事実上、全力を出したダンタリオンに対抗できるのは地球上に71体しかいないとされる。
ダンタリオン本来の異能は、時の流れを停止させる力。これを発動させた彼は、まさしく絶大な戦闘能力を誇り、自分よりも上位の大悪魔が相手でも互角に渡り合えるようになる。
・辻風波美(つじかぜなみ)
田辺医院に勤める看護士。田辺の助手。自称は『新米看護士』。勤務暦は二年ほど。
小柄というほどではないが身長は低いほうで、どことなく小動物のような愛嬌がある。勤務中は長い髪を団子に結っており、わりと仕事ができるような女性に見えないこともないが、まだ学生気分が抜け切っておらず、その言動はいささかハイテンションである。
裏社会の情報を集めるのが趣味で、駆け出しの《情報屋》という顔も持っている。夕貴とはメールアドレスを交換した。女優『高臥菖蒲』の大ファン。
・ナベリウス
萩原邸に居候する美女。銀髪悪魔。メインヒロインの一人。ソロモン72柱が一柱にして、序列第二十四位の大悪魔。
銀色の髪と瞳が特徴的。本人は自分の髪が自慢らしく、白髪と呼ばれると怒ったりする。一見して人間とは思えないほどの完成された美貌を持つが、これは彼女が《悪魔》と呼ばれる種族であることに起因する。かなり胸が大きく、《悪魔》ゆえの極上の柔らかさとかたちを誇る。
奔放なところが多く、夕貴が抱える心労の八割近くは彼女の仕業。しかし母性的な一面も確かにあり、夕貴も心の底では彼女のことを強く慕っている。基本的に家事は万能で、彼女が料理を作ることが多い。トラブルメーカーであると同時に、萩原家を支える大黒柱のような役目も担っている。
夕貴の実の母親である萩原小百合とは、過去に何かしらの付き合いがあった模様。
《ハウリング名:絶対零度(アブソリュートゼロ)》
氷を生み出し、自在に操る力。悪魔のなかでも特に強力な異能とされており、威力、持続力、汎用性、利便性、応用性に長けている。ただし効果範囲が広く、ロケーションによっては力の行使を自重せざるを得ない場合もある。
・萩原小百合(はぎわらさゆり)
物語の主人公である萩原夕貴の実の母親。夕貴曰く、意外と子供っぽくてバカなところもある女性らしい。
・萩原駿貴(はぎわらとしき)
物語の主人公である萩原夕貴の実の父親。夕貴が生まれる前に鬼籍に入っているが、息子である夕貴からは尊敬されている。ナベリウスを含めた二柱の悪魔を従えていた。
萩原駿貴とは人間社会で活動する際の名前で、真名は《バアル》。ソロモンの序列第一位に数えられた最強の大悪魔。他者を見下す傾向にあるダンタリオンですら、彼には確かな敬意を払っていた。
・萩原夕貴(はぎわらゆうき)
大学の一回生。経済学を専攻している。物語の主人公。
女性的な美しさと男性的な凛々しさを融合させたような顔立ちをしているが、どちらかと言えば前者の成分のほうが多いため、彼を見た者の多くは『綺麗』や『可愛い』といった評価を抱く。主に年上の女性から好意を寄せられることが多い。彼自身は密かに男らしさというものに憧れているが、はたから見ればあまり密かではない。
多方面に秀でた才を持つ。学業成績は非常に優秀で、運動神経も高い。ただし彼は、これを才能ではなく努力の成果だと認識している。高柳書道祭と呼ばれる書道コンクールにて入賞したこともあり、実はかなりの達筆。
女手一つで自分を育ててくれた母親を尊敬しており、心の底から愛している。好きな異性のタイプは、お母さんを大事にする女の子。女優『高臥菖蒲』の大ファンでもある。
《ハウリング名:不明》
鉄分に作用する力。金属製の物体を操ったり、怪我を治癒することが出来る。まだ詳しいことは分かっておらず、能力の全容も不明。