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No.29850の一覧
[0] 【一発ネタ】そして、今日から「ゆ」のつく自由業【完結・DQ3・TAS臭】[気のせい](2011/09/21 12:08)
[1] QB「僕と契約して勇者になってよ!」【DQ3+QB・TAS臭】[気のせい](2012/02/24 15:03)
[2] もし転生のカミサマがQBだったら【シリアス】[気のせい](2011/10/16 16:13)
[3] 【恋愛】惚れたあの子は残機が足りない【誘爆系ヒロイン・他短編】[気のせい](2012/01/20 10:00)
[4] 【恋愛】惚れたあの子は残機が足りない②[気のせい](2012/01/22 23:32)
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[29850] 【恋愛】惚れたあの子は残機が足りない【誘爆系ヒロイン・他短編】
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/01/20 10:00
本作は恋愛物(作者的には習作)です。

 本作に含まれる要素
・恋愛(→変愛or変態)
・へたれ
・恥じらい
・誘爆(自爆)
・SとかMとか(何かの特殊プレイ)
・苦行スイッチ→ON
・それと便座(カバーではない)注意

 (他、詳しくは本話後書きにて)





 春、それは始まりの季節。新年度、特段凄く珍しい……とまでいうこともなく、転入生が現れることは往々にしてあるもの。中高一貫校であっても帰国子女が高校から転入してくることはある。
 新学期初日、M大附属高等学校1年B組の黒板に貼り出された座席表には、中学からそのまま進級し制服が一応高校仕様に変わった新高校1年生達の見知らぬ名前が一つあった。結論から言ってしまえば、クラスの殆どが「転入生が来るのだろう」と察しはついた。ただ、クラス替えの影響もあって、次々に登校してくる生徒達は去年同じクラスだった友達、部活が同じ友達など既存の仲間内で適当に集まって話したりしている内にすぐ時間は過ぎていく。
 完全に予定の電車に乗り遅れ、かなりギリギリで急いで教室に入ってきた岡野は、パッと座席表を確認して窓側一番後ろの席についた。
(窓側後ろ……っと)
 適当に鞄を置いているとチャイムが鳴り響き、朝のHRの時間を報せる。間もなくスーツ姿の女性が入ってくる。
(ぁ……ここ相澤さんのクラスか)
 相澤は教壇に立つと目の前の生徒に声を掛ける。
「小林さん、号令お願い」
「あ、はい。きりーつ!」
 起立すると、礼という言葉に従って、全員着席する。
「はい皆知っていると思いますが、このクラスの担任になりました相澤です。よろしく」
 相澤が続けて転入生の件について軽く述べる。
(え、あ、転入生? 帰国子女か)
 そういえばと、隣の席が空いているのを見やり、岡野は相澤の話でこのクラスに転入生がいるとようやく気がついた。ドアを開けてすっと教室に入って来た転入生は教壇の前で止まる。
(ん)
 一斉にクラスの視線が転入生に集中する。
「初めまして、この度1年B組に転入してきました楠木まひると言います。皆さんよろしくお願いします」
 言って余裕ありげに頭を下げ……そこまでは普通の導入だったが。再び頭を上げると、

「……ところで、私は、私とお付き合いして下さる方を探しています。つきましては、挙手して頂けませんか?」

 こう宣言してまひるはクラスを見渡した。
(は?)
 教室総ポカン状態。一瞬して、例えて言えば、完全に滑った発言をして「あ、自分やらかしたァ……」と、気づいた時のあの居心地悪い感じにクラスの空気が変化した。
 ふざけた冗談なのでは、とクラスのいくらかは黙って見ていたが、
(堂々としすぎだろ……)
 と、言いたくなる程にまひるの様子は本気にしか見え無かった。相澤が眉を少しひそめ、かなり言いにくそうに口を開く。
「えーと……楠木さん? それはアレか、堂々と彼氏募集……ということ?」
「はい。ただ、異性に限定はしませんので……同性でも構いません」
 まひるは即答してクラスの女子達にもさらりと流し目を送った。
(ちょ)
 耳を疑う発言にクラスは更に反応し「え、えェ?」と女子の何人かは互いに顔を見合わせ、男子は「パネェ」と騒然。相澤はすぐには声が出ず、それよりも先にまひるの口が再び開く。

「……もう一度聞きます。私とお付き合いして下さる方は挙手して頂けませんか?」

 ここに来て男子の一部はちらほら挙動不審な動きを見せる。しかしそれはどうにもぎこちなく、すぐ止まったりする。なぜなら「あいつ意識してるな……」とか思われたくないから。……クラス替えしたばかりでこの釣り針は劇物だった。
 相澤は右手で左腕を掴み、やや頭を捻りようやく復活する。
「……ぅん……だ、そうだ。ほら男子、誰かいないの?」
 冷静さを取り戻したというより、大分やっつけだった。「先生! そこは楠木をやんわり止めるかスルーすべき所ですよ!」という生徒達の心の中のツッコミは別に声に出やしない。
 まひるは相澤に目を向ける。
「質問です相澤先生。このクラスの男子生徒の皆さんにはホモの傾向があったりするのですか?」
 おぉぁ……と男子達は前のめりになった。
 ゆっくり瞬きをして相澤は右手で引きつる目元を抑えそうになりながら声を絞り出す。
「……いや、流石に……せめていわゆる草食系ということにでもしておいてやってくれないか」
 草食系という単語が妙に重く響き渡ったようで「先生ェ……」と男子は心の中で呟いた。
「分かりました」
 まひるは相澤の返答を聞くとクラスを見渡し、少し俯いて言う。
「……あの、転入早々こんな発言をしてしまい、その上、このまま誰も手を挙げてくれないとなると、私は明日から不登校になるぐらい恥ずかしいまま席に着くことになります」
 クラスは皆目のやり場に困る。「なら何故、言ったァ……」という疑問を返してやりたいが誰も言えず、聞いてる側が寧ろ苦しくすらあった。
 そんな中、不意に一つ手が上がる。まひるの視線は窓側後ろの席へ。……そこには左手で机の縁を掴み、右手は挙手し、妙に力んだ岡野の姿があった。
(ヤバイ。終わった……っ!)
 もう取り返しがつかない。まひるとやや驚いた様子の相澤の視線に、クラスは皆すぐに岡野に気が付き凝視した。「岡野ォ……」というクラスの次から次へと刺さる視線のせいで後悔の念がじわじわと岡野に沸き上がった。
 ……と、思うと、違う場所でも手がポツ、ポツリと上がり、更に三人釣れた。
(って、ちょぃ!)
 恥を忍び、勇気を出して単独で手を上げたというのに、芋づる式に四人に増えると、突然四体の生命体がアホ面を晒しているかのようになってしまう。
 だが、それも束の間。 

「…………名前、教えて貰えるかしら?」

 そう言いながらまひるはカッカッと机と机の間を歩き、岡野の隣で立ち止まった。
「岡野……岡野悠」
 ややあって悠は上体を少し後ろに引いて答えた。まひるは右手で髪の毛に触れる。
「岡野君、手を挙げてくれたということは私と付き合ってくれるのかしら?」
「……は、はい」
「そう。岡野君、これからよろしく」
 まひるは柔らかく微笑えんだ。
(な)
 悠はもうクラスの他の生徒を気に留める余裕も無く、
「……こちらこそ、よろしく」
 絞りだすように返した。すると心なしか満足そうにまひるは教壇の相澤の方を見て、
「相澤先生、失礼しました」
 言って席に着いた。
「あ、ああ。……えー、ま、とりあえず始業式なので各自体育館に移動するように」
 ポンと手を合わせた適当な相澤の言葉でHRは終了。
 尚、スルーされた三人は爆死である。



「岡野」「岡野」
 「岡野」
  「おお岡野」
 終わった途端、わらわら男子達が悠の席に近く寄ってきて、やたら生暖かい表情で見やる。しかし、問題のすぐ隣のまひるがガタリと立ち上がって、

「ひゅう」

 ……全員停止。続けてまひるは悠の前の男子達に軽く首を傾げて見せる。
「……こんな時、こんな風に茶化したりするのかしら?」
 言葉を投げられた男子達は再起動するとそろそろと撤退し始める。
「ぁ……はは……」
 「ははは……」
  「まぁ……」
 そして、
「た、体育館行こうぜ」
「だ、だな!」
 散っていった。
 ……見事に全滅である。

(ワオ……)
 悠は何とも言えない空気に微妙な表情になった。不意にまひるが声を掛ける。
「岡野君、体育館の場所、私知らないのだけど……案内して貰える?」
「も……勿論?」
「ありがとう」
  上ずって答えた悠にまひるは自然に返した。
「あ、ああ」
 刺さる視線を感じながら、悠はぎこちなさ爆発でまひるを体育館に案内し出す。
「た、体育館、皆歩いてる方だけど、あっちで……えっ、体育館履き持ってる?」
「あるわ」
「そ、そっか」
 まひるは柔らかく言う。
「気に掛けてくれたのね」
「い。……いや、まあ」
 動転しまくりの悠に対し、
「フフ」
 まひるはくすりと笑った。



 校長の話やら何やらの始業式。
 教室に戻り、そして一年間使う大量の教科書の受け取りに移動。
 LHRで委員・係決め……と初日はなし崩し的に時間が過ぎていく。
「はい次。美術係二人、やる人―?」
 最初に学級委員を決めて仕事を任せようかと思っていた相澤だったが、自分がやったほうが早いとサクサク割り振りをしていた。
「あ、はい」
 手を上げたのは悠。
「はい、岡野ね。後もう一人」
 相澤がすぐ黒板に「オカノ」と書くと声が上がる。
「はい」
「あぁ、楠木さん……ね」
 ざわ、とこれにはクラスが反応して皆後ろを見た。
(ま、マジ……?)
 はは、と悠は隣の様子をチラと目で伺うと、何も意に介さない、澄ましたまひるがいた。
(この子、普通じゃ無いわぁ……)


 かくかくしかじか、LHR一旦終了、掃除をして大体正午になる。
「明日はいつもの通り、健康診断です。尿検査忘れないように。保健係は明日の朝回収お願いね。袋は教卓に入れてあるから。じゃあ終わり」
 そして号令。
 これにてHR終了。
 悠は時間の経過に比例して減った視線にほっとしつつも、HRの号令で立ったままの所、ふとまひるをチラ見する。
 が、丁度目が合った。まひるの方から口を開いた。
「ねえ、午前中ちらちらと岡野君の視線を感じたような気がしたのだけれど、私が自意識過剰なだけかしら?」
「いや、そんな事は無いと…ぉ……」
 すかさず悠はフォローを入れようと試みたが、
(いや、いやいやいや、これじゃ『ガン見してた』って言ってるようなものだって)
 その発言が意味するところに言葉を濁した。まひるは顎に人指し指を当てる。
「つまり、どういうことなの?」
「つまり、どういうことなの……っていうのは……?」
 悠は半歩下がって濁すが、まひるが半歩近づく。
「あら、これからお付き合いするというのに、岡野君、随分歯切れの悪い返しね。今の言葉、強がって言ったけれど実際に口に出すのは恥ずかしいのよ」
 その言葉の割にはまひるは不敵な表情をしていた。
(それっぽい感じはしたけど……まさかドS……?)
 ぐぅの音も出ない……否、心中は「ぐぅ」と潰れるような感覚で、悠は色々堪えて白状する。
「ぁ…あー……恥ずかしながら、ちらちら楠木さん見てました、すいません」
 するとまひるはスッと天井を仰ぎ、左肩を右手で触り、そこから手首までそっとなぞって言う。
「嗚呼、恥ずかしい台詞ね。女子にちらちら見てました……なんて、普通は、しかもよりにもよって直接当人に向かって言う言葉ではないもの」
「で、ですよね……」
 はは、と悠は思わず乾ききった笑いが出てしまう。
(何かこう…来る……)
 まひるはサッと悠に向き直し、
「でも謝る必要は無いわ。謝るようなことではないのだから」
 さながら何かを宣告するように言い切った。
(ありがたき幸せ……)
 何故か、旧時代の言葉が脳裏に思い浮かんだ悠だったが、
「それは……どうも」
 盛大にへたれて見せた。

「ところで、岡野君。一緒に帰らない?」

 唐突。
(積極的っ……!)
 まひるの首を傾げた姿に、思わず悠はごくりと生唾を飲み込んだ。
「は…はい」
「なら決まりね」



 いきなり一緒に帰ることにした二人。
 そんな中、特段会話無くスイスイ先を歩いて行くまひるに歩調を合わせながら悠は途中で声を掛ける。
「あのー楠木さん?」
「……何かしら?」
「ここ完全に通学路外れてるけど……」
 通学路に指定されていない、普通通らない住宅街を歩きながらぎこちなく悠が手で示すが、まひるは真顔で語りかける。
「安心して。大丈夫よ」
「……そう、ですね」
 何が安心で大丈夫なのか良く分からないまま、まあ確かに通学路を絶対歩かないと直ちにどうにかなってしまう訳でもなく、悠は答えた。
(え? というか住んでるとこどの辺とか、バスなのか電車なのかとか……)
 そう、隣のまひるに色々確認したい、というか確認した方が良いことを考えていると、
「着いたわ」
「はい?」
「ここが私の家よ」
 まひるが示して見せると、その日本家屋の表札には、
「楠木」
 と確かに書かれていた。
「え。近ァッ!?」



「……上がっていかない?」
 という言葉に、悠は少し迷って結局従った。
 促されるまま和室に悠は正座し、そわそわしながら待っていると、制服のままのまひるが茶を持ってくる。
「どうぞ」
「ありがとう」
 悠が受け取ると、まひるも卓袱台を挟んで悠と反対側に座った。二人はとりあえず茶に口をつけたが、その後、重い沈黙が流れる。
(……話しにくい……)
 聞きたい事は色々あるが、いざ聞くとなると「それどうよ?」と自分で却下したくなるようなものばかりだった。
 そこへ、ゆっくり吐息を吐いたまひるがポツリと言う。
「……岡野君、気まずい?」
「や、気まずいというか」
「私ね、今……緊張してるの。岡野君はどう?」
 囁くように問いかけると、
「ぇ……緊張……しますね」
 それはもう、滅茶滅茶緊張していた。
「なら一緒ね」
 まひるはくすりと笑った。
(何これ。さっき学校にいた時より恥ずかしい……?)
 まひるを見ると悠は急に動悸がしてくる。そこへ丁度、まひるがゆっくり話し始める。
「……いきなり転入初日に何故あんなこと言ったかというとね。私、今まで特定の誰かとお付き合いしたことが無くて、とにかく付き合ってみたかったの」
 悠は意外な言葉に耳を疑う。
(付き合ったことがない……? 冗談じゃなくて……?)
 まひるが続ける。
「それで、あんな事言って、でも凄く不安だったわ。完全に無視されたらどうしようとか。実際、そうなりかけたし、あの時どうしようかと思ったのだけど、そんな時、ね? 岡野君?」
 そこで名前を呼ばれ、びくりと悠は反応する。
「は、はい」
 まひるはやや上を仰ぎ見る。
「まるで岡野君、炎上中の炎の中に飛び込んで一緒に燃えてしまう人みたいだったわ」
「う……うん」
 悠はとりあえず相槌を打ったが、
(今の例え、どういう意味……? え、一緒に燃えてしまう人みたいって何? それただのおかしい人じゃなくて? 実際おかしかったけどもさ?)
 色々突っ込みたかった。
「そして、その後よ。ポコポコ後から都合よく沸いて来たのは」
「あぁ……沸いてって……」
「私、あの時、ああいうのが嫌いだとはっきり分かったわ。あの三人はどういうつもりで岡野君が手を挙げたのを見てから手を挙げたのかしら?」
 まひるはまた突然質問を投げかけた。悠は一瞬詰まって目線を虚空に向けて考えながら言う。
「いや……まぁ、俺が挙げて、あの三人は普通にイケメンだし『行ける』とか思って……なんて大体そんな感じじゃないか……?」
「成る程。それで、岡野君はどう思って手を上げたの?」
 不意に冷静にまひるは悠を直視して言った。
「へ」
「……岡野君はどう思って手を上げたの?」
 再度。首を傾げる。
「えぇ…ぁー……」
 悠は目を泳がせる。しかし、

「 岡 野 君 は ど う 思 っ て 手 を 上 げ た の ?」

 三度目。強い語調は超ハッキリ。
(違いない。ドSの目だっ……!)
 まひるの刺すような目に、一つ息を吐いて悠は口を開いて、またへたれる。
「それ言うの恥ずかしいんだけど……」
「安心して。恥ずかしいセリフを聞く、その私も恥ずかしいのだから」
 片手で制止してまひるは堂々と言った。
(ん。これはドSというより……ドSに似た何か違うモノのような気も……あ)
 悠は何か思い出したのか、まひると同じように一度天井を仰ぎ見て、
「ヤバイ。終わったって……思った」
 盛大に逃げた。
 んー? と要領を得ない様子でまひるが指摘する。
「それは手を挙げてからよねぇ? 私が聞きたいのはその前なの。上げる前から上げる瞬間までのことよ?」
 ほら、どうぞ言ってみて、と凄い澄まし顔だった。
(前言撤回。この子やっぱりドS!)
 悠は息を吐く。
「はァァ……。言うなれば『行けェ!』って感じで上げたかな」
「もう少しそこ詳しくお願い」
 ピッとまひるが掌を差し出て見せた。
 ぐぅぅ、と悠は手を握りしめて、力む。
「ぐ。で……できたら付き合いたい……」
 言い切ったが。
 まひるは真顔と無言で返した。

「ヤバイ」

 ……悠は天井に向かって後悔の念を三文字で口走った。
 数秒の間を置いて、まひるは何やら再現を始める。
「……で……できたら付き合いたい! 行けェ! ……ヤバイ。終わった! こういうことなのね」
「何かやめて!!」
 こうよね? 分かるわ? という表情のまひるは悠の心に大ダメージを残した。
 卓袱台の縁に両手をつき、頭を俯かせた状態で悠は呼吸をする。
(は……はぁ……パネェ……)
 少しして、まひるは納得するように言う。
「……良く分かったわ。岡野君は真面目に最初に手を上げてくれた。他の三人とは明らかに違う」
「ぇ、そ、そう……?」
 まひるが肯定する。
「そうよ。……私ね、どうせならやっぱりイケメンならイケメンであるに越したことは無いのだけれど……私を見てないのは論外なのよ」
 悠の心に更に何かが刺さる。
(包み隠さず言った!?)
 ただ同時に悠は聞き返す。
「ん……ぅん。いや、それってどういう?」
 まひるは両手を広げて説明を始める。
「私の考える経緯はこうよ。岡野君さっき、あの三人は普通にイケメンで、だから行ける、と思ったって言ったけれど、私は更に、彼らは岡野君より自分はイケてると思って、放っておいてそのまま私が岡野君と付き合うことになったら何か癪、だったら参戦しよう、そんな感じだと思うの。大分穿っているかもしれないけれど。つまり、彼らには、岡野君みたいに一番最初に『できたら、楠木まひる、と付き合いたい』という積極的に『私だからこそ』選ぼうという意思がペラペラなのよ。言ってみればきっと誰でもいいのね」
「な……なるほど」
「つまりね、私は岡野君が最初に手を上げてくれた時、嬉しかったのよ?」
 話に聞き入っていた悠に、まひるは人差し指を唇の下に添えて言った。
(!)
 悠はその不意打ちに目を見開き、全く声が出ず停止し、心中悶えた。
「はい、恥ずかしいセリフ」
 パッとまひるは手を合わせた。悠の様子が落ち着くのを待ってまひるは声を掛ける。
「お茶のおかわり、いる?」
「……いや、悪いんだけど……トイレ借りられる?」
 あら、とまひるは答える。
「もちろん? でも、その前に私が先に入るわ」
「ぇ」
「案内するわ。こっちよ」
 まひるは悠の疑問符をスルーして、移動を促し、悠は立ち上がった。トイレの前に着くと、
「すぐ出るから待ってて」
 ……本当にまひるが先に入った。
(……いやいやいや、ちょっとどういうことなの。連れションとかそういうアレじゃない)
 まひるが入ったトイレの前に立って待つ状況である。更に、

(音が……聞こえるんですけど……!)

 例のアレの音が聞こえる中、完全停止だった。程なくして、流れる音がして、
「お待たせ。……どうぞ?」
 何食わぬ顔でまひるはドアを開けて出てきた。
「ぁ、失礼します」
 悠が入れ替わりに入ろうとした所、
「ねえ、岡野君知ってる?」
 と、まひるは声を掛ける。
「……立ってすると目に見えないぐらい小さな水滴が便座の床周りに数千近く跳ねるんですって」
「へ、へぇ。そんなに……?」
 ドアノブに手を置いた状態で話を聞いた悠は驚き混じりに言って、トイレに入った。
(今の何? 立ってするなという振りと取るべきなのか……?)
 一瞬停止して、更に思考を巡らす。
(いや。この便座は……楠木がさっき座っていた。よりにもよって直に。いや、それ以外に方法無いけど。あヤバイ。早まるな)
 一人で勝手に手を抑えるような動きをしながら瞬きをする。
(落ち着け……考えろ。……立ってする場合に飛散することを楠木は気にするんだから、直接座るのも同じように気にしてもおかしくない。……となれば)
 そして、悠は行動に移った。
1.トイレに丁度置いてあるウェットティッシュを一枚取り
2.便座の蓋を開けてきちんと拭き
3.空気椅子気味に便座にギリギリ座らないよう用を足し
4.念のためもう一度ウェットティッシュで便座を拭き
5.ウェットティッシュを便器の中に入れ
6.蓋を閉めて流す
 悠は一つ息を吐いてタンク部分から流れる水で手を洗った。
(これで……完璧だろ)
 そのままドアを開けると、
「ちょうァア!!」
 声を上げて一歩下がった。目の前にまひるが全力待機していた。
 当のまひるは構わずトイレを覗き見て呟く。
「閉じてある……」
 身体を横にしてするっとトイレから出た悠にまひるは振り返って尋ねる。
「岡野君……座ってしたのよね? 音的に」
「そ、そうだけど?」
「ふぅん……」
 意味深なまひるに悠が尋ねる。
「な、何か……?」
 まひるはトイレを指さして解説を始める。
「岡野君、音がし始めるまでに少し時間があった気がするけど、その空白の時間に私、興味があるの」
 思わず悠は額に手を当てた。
(なんで!? 興味持たなくていいよ!)
 考えこむまひるに、悠は声を掛ける。
「楠木さん、あのー」
「待って。二つ仮説があるの」
 無駄に真剣なまひるは悠をばっさり制止した。
「ぁ、はい」
 まひるは指を立てる。
「一つ目。岡野君がトイレに入る直前に、私が言った事を気にして、立ったままするか、座ってするかを考えていた」
 ぅ……うん、と悠は頷き、まひるが続ける。
「二つ目。続いて岡野君は直前に入った私が座った便座にあろうことか興奮してしまい、更に何かをしていた?」
 悠は心で突っ込みを入れた。
(何もしてない! てか二つ仮説って言った割に二つ連続してる!?)
 まひるが尋ねる。
「どう?」
「前者で……。付け加えると、考えて、そこのウェットティッシュで便座を拭いてから座って済ませて、もう一度拭いた……んだけど、信じて貰える……のかな……」
 即答している内に悠はある問題に気づく。
(よくよく考えると自己申告してもね……)
 ティッシュを流さなければ良かったと後悔していると、まひるが確認する。
「岡野君って……潔癖性だったりする?」
「いえ、違います」
 即答。
「拭いた理由、もう少し詳しく説明して貰えるかしら?」
 まひるの質問に悠は既視感を覚えるものの、
(何かこの展開、さっきもあったような……)
 回答する。
「え……えっと、寧ろ楠木さんがさっきの跳ねることについて言ったから、かなりの綺麗好きなのかと思って……ほら、まあ、間接的にというか、座られるのも嫌かなと、拭いておこう、みたいな?」
「……へぇ、岡野君って繊細ね」
 まひるは興味深そうに、ドアを開け放ったトイレにもう一度入っていく。
「繊細?」
 蓋を開けて便座を凝視し、ウェットティッシュのケースを確認したり、まひるは振り返って言う。
「んー。本当みたいね。……少し驚いたわ。でも岡野君、そこまで徹底したということは私が座ったこと、意識してたのよね?」
「ぬ」
 またか……! と悠は思考を巡らせ、
(ちょい。ちょいちょい……意識したからこそ拭いたんであって……あ。無理だこれ。否定……できない)
 悟って白状する。
「……えぇと、そうなり……ます」
 すると急にまひるの様子が少し変化し、俯いて悠の顔を見ず堪えるようにして尋ねる。
「こ……心の底では直接座りたかった?」
 悠は反対に天井を見上げる。
「それ……流石に答えるの恥ずかしいんだけど」
「敢えて質問するのって恥ずかしいのよ?」
「恥ずかしさ自慢みたいになってない?」
「茶化さないで?」
「はい」
 疑問系の応酬に悠が折れる。まひるが顔を少し戻して語り始める。 
「……あのね、岡野君。私、男子って女子に対して色々興味があると思うの。それがこのトイレのような生理現象に関係するようなデリケート問題は特に。私がさっき済ませているときの音、聞こえたでしょ?」
「ん……ぃゃ……その通りです……」
 悠は頭に手を当てて肯定した。
「それはそうよね。だって私、聞こえるようにしたんだもの」
「な」
 まひるの言葉が脳内で再生される。
(聞こえるように……した……?)
 悠は更に額を片手で強く抑える。
(ヤバイ。なんか興奮する)
 そこへまひるが悠を直視して心なしか震える声で再び尋ねる。
「……もう一度、聞くわ。……心の底では直接座りたかった?」
「ぐ」
 悠とまひるの目が完全に合う。
(え、なに、何でこの子超顔真っ赤なのに敢えてまだ聞いてくるの? 何かの苦行なの? たかが便座と思ってたら何なのこの大型地雷! でも答えないとこの状況から脱出できそうにないし……何より早くしないとこっちがっ……!)
 悠はまひるに負けない程真っ赤な顔で激しい動悸の中、声を絞りだす。
「こ、心の底では……」
「心の底では……?」
「座りたかった……」
「…………」
 言い切った悠は上を向いて、目を手で完全に覆った。
(駄目だ……何かこう……色々と公開ならぬ後悔処刑すぎる……)
 しんみりしてまひるが言う。
「……分かったわ。無理に聞いてごめんなさい」
 立ち尽くしたままの悠は脳内で突っ込む。
(分からなくていいから! つか謝るなら聞かないで! 何がそこまで駆り立てさせるんだよ!)
 ……それからようやく目からゆっくりと手を離し、悠はフォローを入れる。
「い、いや……気にしないで……」
 互いにしばらく深呼吸を繰り返し、まひるが息をつく。
「は……落ち着いてきたわ。私としては、岡野君の異性としての私への興味をちょっとしたイタズラ心で具体的に確かめようと思った程度だったのだけど……予想以上の大火傷を負った気分だわ」
 悠は心中で突っ込む。
(こっちは一緒に燃やされた気分だわ……)
 まひるの独白が続く。
「私はてっきり男子なら私が言った事だって『そんなの知るか!』なんて別に気にしないかと思ってたのに、何か変に間があるものだから、引くに引けなかったのよ」
「引いていいから! そこ引いていい所だからね!? 寧ろ引いて!」
 とうとう悠の心中の突っ込みが現実に発せられた。すると、まひるはくすくす笑い始める。悠が唖然としていると、一頻り笑ったまひるは口元に手を当てる。
「岡野君、私の前で緊張ほぐれて来た? さっきの突っ込みは素なんでしょう?」
 悠は息を吐いて、肩の力を抜いて答える。
「……素というか、何というか、こう、心の叫びか漏れたって感じで……緊張はさっきよりは確かに解れた、かな」
 まひるは頷いて、囁くように言う。
「それは良いわ。……ところで、岡野君、さっき見えたのだけど、ズボンの膨らみって結構すぐ収まるのね」
「はァ!! やめて! もうヒットポイントはゼロだから!」
「やっとゼロならまだまだね。私は既に残機が減ってるもの」
 絶叫する悠にまひるは余裕で切り返した。だが原因は全部自身を省みぬ、相手をも巻き込む捨て身の自爆。
「さ、和室に戻りましょう」
「あぁ。人の家のトイレの前で長話しとか斬新すぎる……」
「お互い滅多にない経験ね?」
「……違いないね」



 和室に戻ると、まひるの提案により二人は適当に互いに質問する事になった。
「岡野君は部活入っているの?」
「あぁ、実は美術部に入ってて……相澤先生が顧問」
「へぇ、だから美術係?」
「そんな所。楠木さんも何で美術係に……?」
 尋ねて、悠はお茶に手を伸ばした。
「岡野君が立候補したから」
「ごふッ」
 悠はその答えにむせ、寸前で口を手で完璧に塞いだ。
(迂闊に質問しなきゃよかったっ……!)
 ごほごほ咽ていると、まひるが声を掛ける。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫……」
 そこでまひるはふと、改まる。
「一応言っておくと、岡野君、私を意識している所悪いのだけど、まだ私岡野君のことはっきり好きという感情は持ってないわ。もちろんどちらかというと好意的ではあるけれど」
「そう……ですよね」
 そうなんだ……と漏らしかけた所、悠は軌道修正した。まひるが説明を続ける。
「きちんと説明すると、私はこれから岡野君とお付き合いする以上、岡野君を知っていく必要がある。そのため同じ美術係になれば少しでも接点が増えるから美術係に立候補したし、こうして今話をしているという訳。分かって貰えたかしら?」
「はい……分かりました」
 悠はかなり冷静になって言った。
(美術係選んだのはそういう理由か……。勝手に勘違いとか調子に乗ったりなんていうのは最悪だわ……。しかも今早速勘違いしてた訳で……痛い……)
 そこで、まひるはまた質問を再開する。
「また質問。岡野君、これから誰かに私とお付き合いしていることをからかわれたらどう対応する?」
 悠は目を瞬かせる。
「もっと具体的な質問をするのかと思ったんだけど、そういう話?」
「そうよ。でも、これは重要だと思うの。……あら、そういえばきちんと確認していなかったけれど岡野君、今までに誰かとお付き合いしたことはある?」
「無いです」
「そう。私が心配しているのは、お付き合いするからには、程度の差はあるでしょうけど、何らかのからかいを受ける事は十分ありえるということ。それが嫌で、私が岡野君に、岡野君が私に、心にも無い事を近くで、あるいは近くにいない時に、言ってしまうかもしれない。何しろ誰かとお付き合いするのが互いに初めてなのだから」
「そうか……うん……よく考えてるね。で、あのさっきの質問だと漠然としすぎて、できればシチュエーションとか」
「なら私が岡野君に絡む生徒Aの役をするわ」
「ぇ」
 突然、まひるはわざとらしいそぶりで声を掛ける。
「『おう岡野! 楠木って転入生と付き合ってるってホントかよ!』」
 悠には突然で、
(やっぱりこの子、普通じゃ無いわぁ……いやもうこうなったら)
 やけである。
「ああ、本当だけど?」
「『マジ!? いきなり告白したのか?』」
「いや……告白はしてない。楠木さんが付き合ってくれる人手を上げてって言って、それで手を挙げてって説明長いな……」
 急に悠は微妙な表情をすると、まひるも素に戻る。
「そうだったわ、岡野君。私に告白らしい告白してなかったわね。あ、でもさっきの『……で……できたら付き合いたい! 行けェ! ヤ』」
「はァァー! それ止めて!」
 途中で悠が遮った。息を吸ったり吐いたりしている悠に、まひるは困った様子で言う。
「でも困ったわね。これでは岡野君、へたれ上級者みたいね。実際私の目から見ても、へたれに見えるけれど」
 悠は頭を抑える。
「ァぁ……へたれであることは否定できないのが……そもそも、始まりがアレだったから……」
「……ねえ、岡野君、こういう時、どうしたらいいと思う?」
 尋ねられて、悠は頭から手を離す。
「……えぇ……解決策は単純明快。もう一度楠木さんに正式に交際を申し込み直します。これだ」
「頑張って、岡野君」
 うん、とまひるは頷き、どこか吹っ切れた様子の悠が立ち上がる。
「はい」
 悠は卓袱台を回り、まひるの傍に、丁度まひるが立ち上がろうと腰を浮かす瞬間に、静かに正座した。少し瞠目して、まひるは上げかけた腰を落とし、悠と同じように真っ直ぐ正座で向きあう形になる。
 悠はスッと両手を畳につき、真っ直ぐまひるを見る。
「……岡野悠は貴女に一目惚れしました。楠木まひるさん、付き合って下さい。お願いします」
 そして、やや斜めに頭を下げた。同じようにまひるも返す。
「はい。こちらこそよろしくお願いします、岡野悠君」
「ありがとうございます!」
 そして、少しの間を置き。
 静かに上体を戻すと、
「ァぁ……ぁぁ……」
 悠は我に返ったのと合わせ、恥ずかしさの余り、すごすごと元の位置に戻り、顔を赤くして黙る。卓袱台を間に挟んで、まひるは相変わらずの余裕振りで声を掛ける。
「今の、格好良かったわよ、岡野君。『岡野悠は貴女に一目惚れしました』……そんな風に言われたの初めて。これから、私のことをもっと知って、外見以外にも惚れてね?」
「……は……はい」
 その言葉に悠が流れのまま、俯いて答えると、まひるはやたら嬉しそうに続きに戻る。
「ではさっきの続き。『マジ!? いきなり告白したのか?』」
「……い……いきなりではないけど、告白はした」
 容赦無いまひるの振りに、悠は気力を振り絞って言った。
 まひるはノリノリで続ける。
「『何て告白したんだ? なー教えろよー!』」
「ッぅ! 一目惚れしました! 付き合って下さいってはっきり言ったァ!」
 悠はやけ気味に答えた。
(ぁぁ……こういう質問してくる奴がマジでいそうだからうぜぇぇぇぇ!!)
 そこまでで、まひるは澄まし顔になってポツリと呟く。
「シミュレーションとはいえ、告白した当の相手である私を前に言うのって……岡野君、ねぇ、どんな気持ちかしら?」
「何かこう……心が折れそうです」
 まごう事無き、本音。









本話後書き
ここまでお読み下さった皆様ありがとうございます。
恋愛物習作(一応)の本作は、
1.ファンタジー系のオリジナルを牛歩ながら書こうと思い、
2.恋愛要素も入れるかと思ったものの、
3.過去まともに恋愛要素を話に混ぜた経験が無く(そもそも書いたことも無い)、
4.だったら恋愛に絞った物を書いてみればいいのでは……?
という流れで出来ました。
しかしながら、前書きに書きました通り、

×恋愛→○変態
×恋愛→○変愛

何かこのような感じになったようで……どういうことなの……。
というか恋愛物ってこうですか? わかりません! 状態です。
多分私の頭がおかしいのだと結論付けるのが良さそうです。
本作の問題点は、いきなり家行くんかい! という所でしょう。いくらなんでも早すぎて、段階が色々おかしいです。
後、キャラクターの外見描写が無いですが、ご自由な妄想にお任せであります。

需要があるかどうかはわかりかねますが、この続き、ネタだけはやたら思いつくので話の元的には間違いなく続けられます。しかし、個人的現実的な時間が以前に比較すると明らかに無いので……大変申し訳ありませんが、更新するとしても超不定期更新にならざるを得ないです。

 明らかに影響を受けている作品
・化物語シリーズ(私はアニメのみですが)
・魔法少女まどか☆マギカ(上記と合わせて中の人が同じ的なアレ)
・俺の妹がこんなに可愛いわけがない(上記二作と中の人は同じではないが某キャラ的に)
・僕は友達が少ない(アニメ作中の合宿の夜中にトイレの件)


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