「日本帝国は、このままではもたんぞ」
サー・アーサー・ダウディング英国陸軍予備役大将は、落ち着いた声で、だがはっきりと断言した。
片手にグラスを持った姿勢で、テーブルを挟んで向い側に座る軍服姿の日本人を見つめて。
「……その口ぶりだと、あちこちを嗅ぎ回ったようだな?」
応じた日本人は、ダウディングと同じ初老の男だった。
栗橋芳次郎・帝国陸軍中将。現在は、榊内閣において国防省次官を務めている。
親内閣軍人のトップ、といっていい。
ここは、ダウディングが日本の名所めぐりのために私的に取ったホテルの一室。
窓辺からは、開鑿が進む滋賀県・琵琶湖運河の広大な水量を眺めることができた。日の光が湖面に反射して、まるで万華鏡のようだった。
「ああ。たっぷりと。帝国の元枢府や軍部の動向、国内の言論状況……本来の目的のついでだが、な」
在日英大使館が行っている日頃からの情報収集、そして人脈を駆使した裏取り。
イギリス王室と日本皇帝家は、昔から関係は良好だから、その伝手も最大活用した。
「ついででそれか。我が国の情報管理の甘さを嘆くべきか、それともお前の所の仕事の速さを褒めるべきか?」
「茶化すな。日本が落ちれば、影響は欧州まで及ぶ」
ダウディングが視線を鋭くすると、栗橋は肩を竦めた。
栗橋はごく若い頃、イギリスに軍事留学していた。二人はそれ以来、立場を超えた親交を結んでいる。
自然、二人の言葉は『俺、お前』の青春時代に帰っていた。
が、久闊を叙する、というような雰囲気はどこにもない。
当初はそれなりに和やかだったのだが、この時代……一国の重責を担う人物同士の会話は、自然と舌鋒が鋭くなる。
「――外国人の目から見ても、やはりそうか」
「把握はしているのだな」
「BETAはこうしている間にも、我が国に迫ってきている。にもかかわらず、元枢府……城内省も議会も軍もばらばらだ。
これで勝てる相手なら、人類はこうも追い込まれてはいないさ」
誰もが国、そして世界が一つにまとまる事を望んでいた……ただし、自分の主導で。
そう他人事のように付け加える栗橋の髭を蓄えた口元を見て、ダウディングが眉間に皺を寄せる。
「分かっているのなら、手を打たんか。なりふり構っている場合ではないだろう?」
「……ここは、イギリスではないし。俺は、ダウディングではない。
今の帝国の内閣は、軍も城内省も統制しきれず、議会さえ抑えられん有様だ」
「方法はあるはずだ。まさか、諦めて運を天に任せる、とでも言う気ではあるまいな?」
「では、お前が帝国内閣の一員なら、どんな動きをする?」
栗橋の挑発的な言葉に、ダウディングは即座に答える。
「まず、武家を分断する――武家社会全体はともかく、内閣と武家のトップである五摂家の関係は、良好だったな?」
ダウディングは、かつて英本土防衛戦で辣腕をふるった時のように、早口で説明した。
五摂家にお墨付きを貰い、『内閣の政策に同意する武家には、優先的な叙勲を与える』などの恩賞を用意してもらう。
そして、城内省と斯衛軍を改めて内閣の傘下に入れる法案を出す。
武家達は、二つに割れるだろう。一致団結を防ぎ、ある程度の数を味方につければ、あとは一気に押しきる。
武家階級を抑えることにより、内閣の指導力を見せつければ、他の勢力の説得もしやすくなる。
既得権益にこだわる武家には恨まれるだろうが、所詮は帝国全体から見れば少数派の特権階級の、そのさらに分派だ。
大多数を占める軍や、平民を敵にするよりはマシになる。
「さすがイギリス人はえげつないことを考える……いや、確か、似たような事を既にやっていたな?」
聞き終えた栗橋が、にやりと笑う。
第一次大戦前、イギリスは特権を濫用する貴族に悩まされていた。
軍事費と社会保障費を、富裕層への増税法案で賄いたい内閣を、損をする貴族(議会の貴族院)が邪魔をしたのだ。
当時のイギリス内閣は、国王の賛意を得る事で貴族達を分断、法案を通して今日の内閣及び下院(庶民院)優越の基礎を作った。
平等を叫び、貴族を武力で打ち倒すだけが改革の方法ではない。
とかく保守的で利己的になりがちな特権階級を、血を流さず政治的に無力化した手法。
軍人畑であるダウディングの独創ではなく、自国の歴史から学んだやり口だ。
「だが、我が内閣ではできんよ」
すぐに笑みを消し、力なく首を振る栗橋。
「なぜだ。見せしめを作るのが気に入らんのか? 今のままでは敵を作り続けるだけだぞ?
武家に対して日本人の伝統から腰が引ける、というのなら対象は他でもいい」
『敵』に利を喰らわせて味方にすれば、相手の力を一引いて、こちらの力は一増す。結果、差は二になる。
一見乱暴に見えて、もっとも無理が小さい、古来からの政治手段の定番だ。
混迷の時代を切り開くには、非情にならなければならない。
BETAという大敵を前に、自国さえまとめきれない政権に、どこの外国が本気の信を寄せるというのか。
その頼りなさは、他国にとっては害ですらあり、内政干渉や謀略を用いてでも除きたくなるだろう。
「すまんな。いくら友が相手でも……お前が、本心から俺の身を案じてくれていることがわかっていても、言えない事があるのだ」
「それは――」
若き日の血の気を取り戻しつつあったダウディングの顔が、強張った。
思い当たる節はあった。
イギリスの諜報力をもってしても鬼門であり、正規ルートからの情報以外はろくに入手できない国連秘密計画――オルタネイティヴ4。
帝国の内閣の、非効率的な動きの根っこは、そこにあるのか?
軍部が一国防衛主義に走るように宮中の意志が発せられたような不可解な動きも、国内にあるオルタネイティヴ4の拠点をより確実に防御するため……?
例えば、軍部の政治介入を容認する代わりに、帝国軍自体の軍備更新が滞るほど、在日国連軍に兵器を回させるよう仕向ける。
(国連に提出された予定表では、ある国連軍基地には三個戦術機甲連隊分もの戦術機が帝国から提供される。質はともかく量的には帝都防衛師団並の大盤振る舞いだ)
こう考えると、城内省の税金無駄遣い、危機感欠如としか思えない独自軍備を放置しているあたりも、伝統にひれ伏しただけではない可能性がある。
宮中・武家や軍あるいは議会に対し、切るべきカードを切らない代わりに、あるいは切ってはいけないカードを切ることで、『何か』を計画のために通す。
取引をした相手方以外からは、不信と不満……敵意を買うのを承知で。
そういった行為を内外で繰り返した結果が、今の日本なのか?
一国と、そこに住まう者達の命運をチップにするほど、内閣は国連秘密計画に賭けているのか?
いかに秘密計画のリターンに期待していたとて、あまりにもハイリスクだ。
自国の不合理・時代遅れの部分をあえて是正せず、日本の発案といえど国連の計画にそこまで肩入れするなど、およそまともなやり口ではない……。
だとすれば、プライベートな場といえど、踏み込めない。
ダウディングの予想が正解ならば、一部で囁かれている国連を世界の中心としたがる思想――超国家主義どころの騒ぎではない。
内閣が、自国を半ば捨て石扱いなど、政治の道義や責任もあったものではないのだが……。
もし追及すれば、長年の友情が終わるだけでは済まない、とダウディングは相手の気配から悟る。
しばらく、空気にタールを混ぜ込んだような沈黙が降りた。
「……そういえば、アラスカで国連が行っているプロミネンス計画。あれに、欧州連合はEF-2000を出さんそうだな?」
栗橋が、テーブルの上に置かれたチーズの皿に手を伸ばしながら、話を変える。
「ああ。トーネードADVを送った。欧州連合としては、スウェーデンのグリペンと合わせて二個実験小隊」
EF-2000 タイフーンは、ステルス性を除けばアメリカの第三世代機に迫る性能を持つ、と軍事関係者の間で言われていた。
(実際には、アクティヴ電子走査レーダーの開発が遅延し、旧方式レーダーを装備しているなど、他にも見劣りしている点はあるのだが)
プロミネンス計画でアメリカ企業の支援を受けても、恩恵はさほど見込めない。
国連の顔を立てるという意味で、二線級になりつつあるトーネードADVを出すのがせいぜいだ。
「我が国こそが、不知火を送るべきなのだが……難しい」
あえて話題を振ってきた、ということはオルタネイティヴ絡みではない、ここで言っても差し支えない理由で不参加姿勢のままなのだろう。
そう察したダウディングは、自分もチーズを一つまみしてから、
「アメリカの極東における姿勢が転換したからな。それに、帝国内の国粋主義勢力もまだまだ手強いのだな?」
と、言った。
これまで、アメリカがソ連や日本の技術盗用、というべき行為を黙認していたのは、極東戦線でのアジア諸国による自主防衛を期待していたからだ。
が、その思惑ほど両国は力をつけてくれず、ソ連は残存する自領防衛に手一杯。日本もまた、本土防衛に気をとられている。
結局はアメリカ軍本体が出撃し、多大な犠牲を払って防衛線を支えねばならなくなった。
まだまだ弱体な大東亜連合構成国を補強するための兵器供与、軍事指導の負担も、馬鹿にならない。
アメリカからすれば、これほど業腹な話もあるまい。
日本国内をまとめてプロミネンス計画に不知火を送り、強化に成功したとしても、その改修部分のライセンス生産許可を出してくれるかは、不透明だ。
それどころか、これまで黙認された話を蒸し返すきっかけを与えかねない。
「お陰で八方塞りだ」
栗橋の肩が大きく落ちる。
『イーグル・ショック』により、帝国の戦術機行政は袋小路に陥った。それは、確定のようだ。
「……なんなら、タイフーンを買うか? 今はまだ未完成品だが、それだけに先物買いのチャンスだぞ?
仲介ルートの心当たりはある」
友人の態度があまりに気の毒で、ダウディングは思わずそう口にしていた。
「それは魅力的な提案だな。だが、試供品さえ無い物を、検討はできんぞ?」
力なく笑った栗橋に、しかしダウディングは人の悪い笑みを返す。
「試供品なら、ある」
「……何?」
「乗ってきた空母の船腹に、一個分隊のタイフーン技術実証機・ESFP(Experimental Surface Fighter Program)があるのだよ。
本来は、帝国がストライクイーグルあたりを買ってのアメリカ依存に戻る気配が見えた場合に、牽制に出すつもりだったものが、な」
先程とは種類の違う沈黙が、二人の間を支配する。
やがて、低く喉を震わせた倉橋が、白い歯を見せる。
「用意周到な事だ……そういう手管でイギリスは長年、他国への侵略を続けてきたわけか?」
「なに、他国に侵略呼ばわりされるほど憎まれるのは、強者の特権だ。憎まれた挙句、短期間で敗北した国もあったようだがな」
二人以外が交わせば、即喧嘩になってもおかしくない毒舌を向け合った後。
ダウディングは英国上院議員の、栗橋は帝国国防省次官の表情をそれぞれ取り戻し、探るような視線を交わすのだった。
PXで雑談に興じていた俺を呼び出したのは、SES計画付の整備班長だった。
二人で、ある通信室のひとつに入る。
ドアをロックした後に、整備班長は一つの端末画面の前に俺を導いた。
例の不知火の改修問題はじめとする、いくつかの技術的な事について話があるという。
「まず、TYPE-94のほうから……。思いっきり乱暴にまとめれば、改良・改修に耐えられるだけの出力や電力の余力をどう都合つけるか、がポイントになる」
整備班長の太い指が、意外な滑らかさで備え付けられたキーボードを叩く。
「幸い、TYPE-94の内部パーツの大半は、F-15Cのそれと近似している。アメリカ製の新型を小改造で組み入れる事は難しくない。これが第一案」
画面に、いくつかの機体パーツのデータ図が浮かび上がった。
「こいつは、ボーニングが社内プロジェクトとして進めている『フェニックス計画』で試作されたパーツだ。
規格は旧来のF-15C用とほぼ同じだが、省電力化されている」
次いで、ジャンプユニットの概念図が表示される。機体に接続するアーム込みで、だ。
「で、こっちがF-22開発技術のスピンオフである、ジャンプユニット。
既に、F-15Eや近代化改修を受けたF-15Cに使われている、高出力低燃費なやつだ。
これらを組み込めば、機体バランスの崩れを最小限にして、性能向上が可能になる」
不知火のベースは、F-15J 陽炎のライセンス生産技術だ。親和性が高いのは、不自然な話じゃない。
「ただ、こういうパーツは、アメリカの軍や企業が知的財産権や特許を持つモンだ。
俺達はSES計画権限でアクセスしているが、日本に流すのはいろいろとまずい」
ぶっちゃけ最新技術泥棒だ。
帝国軍は大喜びかもしれないが、アメリカは怒るだろう。
特に、省エネルギー部品のほうは、米軍機でもまだ試作機レベルでしか使われていない代物だ。
プロミネンス計画に帝国が正面から参加して、払うものを払っていれば、問題はなかったんだろうが……。
「で、こっちが第二案だ。改修・強化用の外付けパーツ側に、サブの燃料電池やジェネレーターをワンセットで組み込む」
新たに表示されたCGによる機体想像図に、俺の目は吸い寄せられた。
不知火の上半身にかぶせるように、ブロック状のサポートモジュールが取り付けられている。
素の不知火と比べ、逞しい印象になっていた。
サポートモジュールは、サブジェネレーターとスラスター(あるいは36ミリチェーンガン)を一まとめにしたもの。
兵站を考えて、極力規格品の組み合わせで構成されるようになっている。
追加装備に必要とされるパワーを、追加装備自体が賄う方式だ。
「逆転の発想、ですか? 内側からの供給が無理なら、外側からにすればいいじゃないっていう……」
「そこまで上等なもんじゃないがな。ただ、こっちはこっちでかなり難しい。
ジェネレーターや燃料電池っていう弱点部分が露出……せいぜい軽装甲でしか防護できなくなる。
被弾に弱くなっちまうし、機体バランスも悪くなりそうだ。無理に内部を弄るよりはマシだろうが」
見た目に反して、防御面は脆弱化しているわけか……。
「うーん……」
俺は腕組みした。険しい顔つきにどうしてもなってしまう。
米国製最新パーツ組み込みは、アメリカ政府や企業の許可が要る。
進んだ技術の恩恵により、比較的無難に性能向上が可能な点は魅力的だが……帝国の現状を考えると難しそうだ。
おおっぴらにアメリカに頼めるのなら、俺達みたいにまだまだ微妙な存在に裏取引など持ち掛けないだろう。
サポートモジュール追加は、言われた通り防御力に不安が出るのが痛い。
かといってモジュールを重装甲化すれば、せっかく外側からの動力補助で上がった出力が打ち消されかねず、結局は不知火そのままのほうがマシ、となる。
出力にモノをいわせた一撃離脱の強襲型として使うのなら、防御不安もさほど気にしなくてもいいのかもしれないが。
やっぱり、汎用性は落ちるしなぁ……。
「今のところ、『ごたまぜ』を弄ったデータを元にした改良試案で出たのはこの二つだな」
困難な仕事だ、と改めて確認する。
俺は因果情報で、
『少なくとも2001年末までは、拡張性の無さが致命的になるほどの、BETAの大幅な変質は起こらない』
確率が高い事を知っている。
不知火は不知火のままが一番バランスが良いのだから、この情報をいっそ帝国軍に流すか、という誘惑に駆られてしまう。
……いや、やっぱり駄目だな。表面上は大差ないように見えても、内実が『この世界』では全く違う可能性を捨てきれない以上、禁じ手に近い。
「で、その話とは別に面白い物が回ってきた。戦術機用の、試作演算装置だ」
整備班長が話題を変えたので、俺はひとつ息を吐いて気持ちを切り替える。
「面白い物?」
「バイオコンピュータって知っているか?」
「…………はい? あの次世代コンピュータって言われているのですか?」
ぎょっとして目を瞬かせる俺に、整備班長ははっきりとうなずいた。
人間はじめとする生物の細胞の設計図――遺伝子は、四つの塩基から成る。
塩基は、特定の対となる塩基としか結びつかない、という特徴があった。
これを利用し塩基の配列をナノレベルでコントロールすることにより、現在の主流であるシリコン製の物よりも、はるかに微細・高度・複雑な集積回路を作る事が可能、と言われていた。
生体素子による、バイオチップ。
このバイオチップを集積して作られるのが、バイオコンピュータ。
仮にこの技術が実用化された場合、現在のスーパーコンピュータの何倍もの演算能力を持ち、さらにエネルギー消費は小さい物を作成可能だという予想がある。
構造が人間の脳細胞や神経系統に近いため、従来のコンピュータでは不可能だった、生物的な『並列処理』や『直感』さえ弾き出す事もできるらしい。
バイオコンピューターが兵器の演算装置として実用化できるのなら、悩みの種だったXM3のための処理能力不足は、あっさりとクリアできる……。
いや、もっと進んだOSさえ夢ではないかもしれない!
「お、大まかな概要ぐらいは」
勢い込んで続きを促す俺に、整備班長は「まだ不完全もいいところのレベルだからな」と釘を刺すように言った。
「ハード上の問題は、こっちや物の送り元が担当するとして。お前さんに覚えておいて欲しいのは、ソフト面の問題だ」
バイオコンピュータを提供してきたのは、米軍高等技術研究所の支援を受けた、あるアメリカのベンチャー企業だという。
「……?」
「在来のコンピュータとソフトウェアの概念からして違う事から、戦術機制御用情報の蓄積が無いに等しいんだよ。
つまり、機動データを覚えこませようと思ったら、ほぼ一からやり直し」
「そ、それは」
浮かれた気分が吹っ飛び、俺は考え込んだ。
いくらハードの性能が上がっても、ソフトが追いつかないのでは、宝の持ち腐れもいいところだ。
それに、BETAがバイオチップに対して何か特別な反応を示す可能性もある。
……ああ、だから俺達なんかに、そんな世界を変えてしまいかねないコンピュータが回ってきたわけか。
所詮、試作品は試作品、か。
「理論上、最低限の『学習』が済めば、あとはまさに生物的に『自習』して成長し、教えられた事以外も『直感』でやれるようになるはず、なんだが」
「その『はず』が本当にそうなるか、を実験するのが俺達ってことですね」
「そういうことだ」
体のいいモルモットだな……。
まあデータの収集自体は、今でもやっていることだから手間は同じだろうな。
そこではたと気づいたのが、オリジナル武がいた並行世界との違いについて、だ。
因果情報経由の記憶では、バイオコンピュータに関する話はなかったはず。
00ユニットは、量子電導脳ってやつだった。
XM3実用化と同時に用いられた、オルタネイティヴ計画スピンオフの画期的なCPUがバイオチップ利用だった可能性はあるが……。
これがオリジナル武の世界と、俺がいるこの世界の顕著な違いと断定するには早いか。
それにしても……仕事量がまた増えそうだ。
SES計画所属衛士が俺一人って状況、本気でなんとかなってくれないだろうか?
俺は、なおも続く説明を聞きながら、意識の隅で疲労を覚えていた。
整備班長との話が終わった後は、またまた訓練がある。
米軍との模擬戦だ。楽に終わるとは思えない。何しろ、出撃必至の部隊ばかりでかなり気合入っているし。
今日は、日付が変わる前に寝たい。
そう思いながら、俺は必死でバイオコンピュータに関する情報を頭に叩き込んだ。