「なあじじい、何時になったら、悟空と再戦させてくれるんだ」
「こっちに戻ってきてからまだ2週間じゃろうが。少しはこらえい」
「んなこと言ったって目の前に極上の餌がぶら下がってるんだぞー。おまけに悟空がこっちの世界に居るのって、後2ヶ月ちょっとだろ。今の機会を逃したら次にチャンスがあるかどうかもわからないっていうのに、我慢しろって方が難しいぞ」
悟空との対決を禁止され、それに対し鉄心に不満を言う百代。鉄心にしても彼女の言う事が全くわからないと言うでもなかった。確かに期限付きで異世界の強者と戦えるチャンスとなれば、現役時代の彼であってもまず間違いなく心踊らせたであろう。それに加え、元々ガス抜きを含め、百代の心境の変化を期待し、悟空を川神院につれてきたのである。戦わせてやりたい気持ちはある。
とはいえ、最悪の場合の被害を考えると悟空と百代を戦わせるには、鉄心と師範代全員で結界を張るか、彼が同行の上、街中から離れる位のことはする必要がある。既に夏休みも終了しているので、前者は勿論、後者だって頻繁にできる訳ではない。
そこで彼は彼女が興味をひくであろう出来事について、その気を紛らわすことにした。
「仕方無いのう。いいことを教えてやる。本当はまだ、秘密なんじゃがな。今から2ヶ月後に九鬼財閥が、ある催しを実施することになっておる。KOSと言う名の格闘大会で4人1組と言う事以外はルールが無いことがルールだそうじゃ。賞金は何と500億円、賞金と名誉、そして強者との戦いを求めて世界各地から強豪が集まることになるじゃろう。元々、未知なる強豪の発掘が目的らしいしのぅ。この催しに川神院も協力することが内密に決まっておる」
「おっ、そいつは2倍の意味で魅力的な。賞金に強敵との戦い。私も出ていいのか?」
鉄心の話しに彼の期待通り、大いに興味をひかれる百代。
そして彼は百代の問いかけに頷き意図を説明する。
「うむ、当初はお前とわしとルーは出場できない予定じゃったが、九鬼財閥の九鬼揚羽が悟空君のことをどこからか聞きつけたらしくてのう。その実力をその目で見たいと言う事で彼に対しては出場を許可するそうじゃ。しかし、一人、あまりにも特出した選手が居てはバランスが取れないと言うことで、お前だけは出場が認められておる。勿論、悟空とは別のチームになることが条件じゃがな。当初は七浜での開催が予定されておったが、一般人に被害の及ばぬ場所に変更になった。十分に力を出し切るがよい」
「願ったりかなったりだな。だが、そういうことになると、悟空と戦えるのは後、1回だけということか?」
悟空が元の世界に帰る時期を考えると、2ヶ月後の大会が悟空と戦える次の機会であるならば、実質それが最後の機会になってしまう可能性が高い。そのことに心配と不満と若干の怒りが混じった表情を浮かべる百代。
それに対し、鉄心は少し考えて答えた。
「……まあ、わしとルーの立会のもとなら稽古なら許可しよう。無論、気功波系の技は禁止じゃぞ」
「よし、それならばOKだ!! 感謝するぞ、じじい。さてと、なら、早速チームを結成してくるとするか」
返って来た答えに満足すると百代は早速メンバー集めに向かおうとする。しかし、そこで彼女は制止をかけられる。
「待てい。まだ秘密だと言ったじゃろうが。あまり、公にするでない。発表は3日後の夜の予定じゃ。その前に秘密を誰かに明かしたりしたら出場はさせんぞ」
「ぐっ、……わかった」
出場を許さないという脅しの言葉に百代は仕方ないと言った表情で頷く。
それから3日間、彼女は話したくても話せない話題を抱えていることの辛さにうずうず、いらいらとし、それを周囲がみて不安があるのでった。
そして3日後、KOSの開催が公開されると鉄心の予想通り、世界中の強者がこれに興味を持ち、次々と参加を表明することとなる。
並び立つ世界の強豪達。
「兄さーん、僕の計算では、僕達の優勝確率は99.98%だよー」
「グゥゥゥド!!」
アメリカからは全米格闘チャンピオンカラカル・ゲイルとその弟ゲイツ、そして軍のスーパーソルジャー計画によって産まれたエリート戦士であるワンとツーがチームを組んで。
「俺の力、みせてやろう!!」
ロシアからは暴れ熊と呼ばれる身長230センチメートルの巨漢、セルゲイが。
「行くぞ、我が弟子達よ、強者達との戦いを求めて!」
アルゼンチンからは太陽の子と呼ばれる強者、メッシが。
「ヨガの力を世界に知らしめよう」
「余はメム23世。コブラ神拳の伝承者だ」
インド、エジプトの連合からはダルビッシムとメム23世の微妙にキャラかぶってるコンビが。
「くくっ、こりゃあ、おもしれえ。おい、お前等、こいつに出るぞ」
「ひゃっはー、ゲームみてぇでなんかおもしろそうじゃねえか」
「ふーん、ついでに新しいマゾ奴隷でも見つけてみるかね」
「ふあー、ねむい……」
日本の親不孝通りからは川神院の元師範代とその弟子達が。
中には強い関心を持ちながら、参戦を諦めた強者達も存在した。
「ふぅーむ、国の最高指導者が最強ってのも、他国に対するアピールになると思ったが、時期が悪いな。仕方ない、諦めるか」
「500億円か。そんだけあればオジサン、夢がかなえられそうだが、流石に川神百代がでるってんじゃ、分の悪い賭けすぎるわな。噂ではあの教室乱入君もでるってことだし……ふぅ、分かっちゃいだが上手くいかないねえ、世の中」
日程の都合で参加を諦める日本国首相、あまりの勝算の低さに戦略的撤退を選ぶ川神学園教師。
そして……
「くく、九鬼揚羽、お前はこう思っているのだろうな。この大会を武術家達の祭典だと。だが、違う。お前達は自ら世界に示すことになるのだ。武術の時代が終わったことをな。才能、努力、血筋、それら全ては科学の技術の前にひれ伏す。そう世界は気づくことだろう。それらの無意味さをな」
ある組織の研究所、そこに武術ではなく、異なる力によって世界の頂点に立ち、その力を誇示しようとするものが居た。
そしてその後ろには男によって産み出されたその力の象徴となる存在が。
「例え、誰であろうと、武神と言われる川神百代だろうと、全盛期の鉄心だろうと、私達の敵では無い。なあ、人造人間5号、6号、7号」
暗闇に3つの影が浮かびあがる。その存在を見ればこう言うだろう。
『人の姿、形をしているのに、生命の象徴である“気”をまるで感じない』と。
集まる強者達、2ヶ月後、KOSの舞台にて彼等は一体どのような戦いを繰り広げるのであろうか?
その答えを知る者はまだ、誰も居なかった。
(後書き)
最終章、KOS編スタートです。主人公達側のチーム分けは次回で。