※今回辺りから、戦闘などに関し、自己解釈等が入ってきます
源忠勝と九鬼英雄の対決、まだ始業時前と言う事もあって、校庭にはその対決を見物するために、かなりの人数の見物達が集まっていた。
その中に一子と悟空、岳人の姿が見える。
「タ、タッちゃんと九鬼君が決闘って、一体何がどうなってるの!?」
「いや、オラもどうしてこうなったんか、よくわかんねえんだけど。なんでもオラ達のチームにどっちが入るかでもめてるらしいんだ」
悟空を追いかけ学校に辿りついたと思ったら、二人の決闘の話しを聞いて一子がパ二食った様子で悟空に問い詰めるが、悟空の方も理由がわからず腕を組んで悩むだけである。
そこに二人の姿を見つけた岳人が近づいてきて説明する
「俺様も話しを聞いただけだがな。最初に九鬼の野郎がゲンさんにワン子のチームから抜けろとか喧嘩売ってきたらしい。ゲンさんの実力じゃ相応しく無いとかえらそーなこと言ってな。そしたらゲンさんが、力を証明してやるとばかりに決闘を申し込んだんだとよ」
クラスメート達から聞いた話を簡略して聞かせる岳人。それを聞いた一子はますます慌てる。
「え、えー!! そんなの、止めないと」
武術家として争いを否定する達ではない、寧ろ肯定する一子だが、それが知り合い同士の険悪なもの、ましてや自分達が原因で起きた争いとしれば話しは別である。何とか辞めさせようとするが、それを岳人が引き止める。
「まあ、待て。俺様としてはゲンさんにはムカつく九鬼の野郎をぶっ飛ばして欲しいし、何より男の意地がかかった勝負だ。ここは黙って見守ってやるのが正解だぜ」
「よくわかんねえけど、やらせてやってもいいんじゃねえか。オラの友達にクリリンって奴がいんだけど、昔は結構嫌な奴で、オラも最初はよく喧嘩したかんな。思いっきりぶつかってみんのも悪くねえと思うぞ」
「おっ、悟空。なかなかよくわかってんじゃねえか。まあ、ゲンさんと九鬼が仲良くなるとも思えんが。男同士ってのはそういうのが大切だからな」
意外なところで意気投合する悟空と岳人。二人の話しを聞いて一子は不安そうな表情をしながらも納得し、頷く。その頃、一子達と離れた別の場所では大和と百代が話をしていた。
「姉さんはこの決闘、どっちが勝つと思う?」
「うーん、忠勝はかなり喧嘩慣れしてるし、九鬼の奴は揚羽さんから武術の鍛錬を受けていると聞いたことがある。いい勝負……っと言いたいところだが、九鬼の奴の方が大分有利だな」
「えっ!?」
驚く大和。忠勝は80キロを超える握力と言う恵まれた身体能力を持ち、その上で喧嘩慣れしており、ここいらの不良では敵無しの強さである。まあ、あくまで不良ではで、一定以上のレベルに達した武術家達には敵わないのであるが。しかし大和は九鬼がそこまでの戦闘力を持っているとは考えていなかった。
「揚羽さんが言ってたよ。九鬼は気を扱う素養こそ低いが、それ以外の才能は自分に近いってな。だが、九鬼は効き腕に古傷を抱えていた。これは大きなハンデだ。川神院にも腕に大怪我を負い、完治しなかった人が居た。その人は若くして準師範代にまで上り詰めた実力者だったが、怪我の後、大きく戦闘力を低下させ引退してしまったんだ。人間の身体は全てが繋がっているからな。人体の一部に大きな怪我を負う事は単にその部分が使えなくなるだけでなく、全体的なバランスを崩し、それ以上に戦闘力を低下させてしまうことがある」
「けど、九鬼の怪我は孫の仙豆によって完治している。つまり、今の九鬼は……」
驚く大和に対し、武道四天王、百代と渡りあえる数少ない実力者である九鬼揚羽との比較を交えて解説をする百代。大和は彼女が言わんとしていることを察する。
そして百代はその予測を肯定する言葉を発した。
「ああ、最低でも少し前の数割増しの強さがあるということだ。最悪の場合気を使わない時の揚羽さんに近い実力を持っているかもしれない」
観客達の見守る校庭の中心に向かいたつ、九鬼と忠勝。審判役は川神学院の教師でもあるリー師範代である。
「覚悟はいいな?」
「ああ。てめえこそな」
お互い睨み合う二人。武器は持たず、素手同士。決闘の方法はシンプルに殴り合いである。
「二人とも気合い十分。準備もいいようダネ。それじゃあ、レェーーーッツ、ファーーーイト!!」
ルーの試合開始の合図と共に両者が飛び出す。先に攻撃を仕掛けたのは忠勝。右拳の一発。中々に速く重い一撃。しかし、その一撃は空を切る。
「ホワッチャー!!!」
拳をしゃがんでかわした英雄はそのまま忠勝の脇に入りこみ、連打のラッシュを彼の腹部に見舞う。
「うぐっ」
ダメージに苦悶しガードが下がる忠勝。そこを逃さず、全身で伸びあがるアッパーが放たれる。
「九鬼家必殺、小竜拳!!」
「ぐあああ」
下からの拳を顎にまともに受けて倒れる忠勝。それを見て、周りから悲鳴と歓声があがる。
「姉さん!!」
「やはりな。揚羽さんには劣るようだったが、いい動きだ。キレもある。これじゃあ、忠勝には勝ち目が無いぞ」
観客席で両者の実力差を評価し、忠勝の不利を告げる百代。それを肯定するように戦いの場では英雄が余裕の笑みを浮かべていた。
「大層な口をきいた割にこの程度のものか、庶民よ」
「んなわきゃ……ねーだろ」
見下した視線を向けて言う英雄に対し、忠勝が立ち上がってみせる。しかし、足元が少しふらついており、ダメージが大きいのは誰の目にも明らかだった。
「タッちゃん!!」
その姿を見て一子が観客席から叫ぶが、その声は周りの騒音にかき消された、戦っている二人には届かない。
そして忠勝は再び挑みかかる。
「ふはははは、見え見えな上に遅いわ!!」
だが、その一撃は軌道がわかりやすいテレフォンパンチな上、ダメージのためか動きも最初の一撃より速度が落ちていた。それを見て英雄は回避ではなく、通常であれば難度の高いカウンターを選択する。両者の拳が交差するが、速さからして突きさるのは英雄の拳のみ。カウンターによって両者の速度が合わさり、倍増した一撃を受ければ今度こそ忠勝の意識は断ち切られることになる。
「何!?」
しかしそこで忠勝は歯を食いしばって動きを制止させた。その行動に驚きながら勢いがつき過ぎた英雄の拳はそのまま忠勝の顔面に突き刺さる。だが予め攻撃を受ける覚悟をしていた忠勝は、殴られながらもその場に踏みとどまって見せたのだ。
「技量ではてめえには敵いそうにねえからな」
普通に殴りかかっても回避されるだけと判断した忠勝は、己の肉体を囮にした罠をしかけたのである。その狙いはわざと相手に先に殴らせ、動きが止まった瞬間を狙うこと。その思惑通りにことを運んだ彼は英雄に向かって全力で拳を振るう。
「でりゃああああ!!!」
勢いのついた拳が英雄の顔面に突き刺さる。よろめく英雄。更に忠勝は身体を捻って、追撃の回し蹴りを放つ。
「ぐふっ」
脇腹に勢いのついた蹴りを受け、その場に膝をつく英雄。それを見て観客達は忠勝の逆転勝利を予想する。
だが、今度は英雄の方が立ち上がってみせる。最初の一撃で口の中が切れたらしく、口元から流れる血を拭うと、相手の弱点を宣告する。
「こざかしい真似を。だが、今のような戦法、何度も使えるものではあるまい。次の攻防で我が勝利する」
英雄の言葉通り、忠勝の取ったのは捨て身の戦法、先のダメージに技と殴られた一撃の重みが加わり、蓄積したダメージ量はかなりのものだった。
今の状態で、もう一度先程と同じ行動を今度は踏みとどまれないだろう。
「てめえこそ、足にきてるようじゃねえか」
「ぬっ」
戦法の弱点を見破られても動揺せず、指摘し返す忠勝。確かに九鬼の足は震えていた。右腕が完治した九鬼だったが、彼にはまだ他に弱点が残されていた。それは彼の基本ポジションが王者あることである。幾ら訓練をしようと王者である彼が直接地に降りて戦う機会と言うのは少ない。そのため、殴られる機会というものが少なく実力の割に撃たれ弱いのである。
「この程度の足の震え、英雄(ヒーロー)たる我には足かせにもならん!!」
しかし精神の力で足の震えを止めて見せる英雄。とはいえ、それでダメージが消える訳では無論無い。あくまでやせ我慢に過ぎない。
「なら、もう一発だ!!」
再度攻撃を仕掛ける忠勝。英雄は最初のようには回避しようとするが、上手く動かず、一撃を受ける。
「ぐっ、ホワッチャー!!!」
「ちっ、やっぱ、やるなてめえ」
けれどもダウンはせずに反撃の蹴りを放ってみせた。忠勝もまた、回避はできず一撃を受ける。更に互いに攻撃し合う二人。お互い何発もクリーンヒットを受ける。しかし二人共に決して倒れようとはしなかった。
「けっ、九鬼の野郎にこんなこと言いたかねえが、根性あるじゃねえか」
「おう、いい勝負だぞ。忠勝って奴も頑張ってるじゃねえか」
「タッちゃん……九鬼君……」
悔しそうな表情をしながら九鬼を認める岳人と、忠勝を賞賛する悟空。二人を心配そうな目で見守る一子。
彼女に見守られながら殴り合う二人。その戦いは駆け引きも何も無い泥仕合の様相を示していたが、観客は皆、興奮し、声援を送る。
しかし二人は最早、限界が近く、その決着は近づいていた。
「はあ、はあ……庶民、貴様、何故、そこまでして戦う?」
「てめえに言う筋合いは……いや、男なら惚れた女に対して、かっこつけてえだろうが。役に立たないからチームを抜けますなんて言えるか」
息を切らしながら問う英雄の言葉に、忠勝は答える気は無いと返そうとし、思い直し本心を漏らす。
「何!? まさか、貴様!?」
その言葉に忠勝の想い人が誰であるかを察し、衝撃を受ける英雄。この二人のやりとりは周りの騒がしさにかき消され、当人達以外には聞こえていない。二人はしばし睨み合うと、英雄は黙って構えを取り直す。
「ならば庶民、いや源忠勝よ。同じ女に惚れた者同士、男の意地をかけたこの勝負、決着をつけようではないか」
「ああ」
英雄と同じく構えをとる忠勝。
そしてこれ以上の言葉は要らないとばかりに、両者は同時に飛びだした。
「引き分けだな……」
百代が呟く。決着の最後はお互いの拳が顔面につきささり、両方が崩れたダブルKOであった。
「凄い勝負だったね」
「ああ、あの二人が悟空のチームに加わることになれば、KOSますます面白くなりそうだ」
笑みを浮かべる百代。無論のこと、英雄と忠勝の実力は百代とは比較にもならない。二人がかりでも彼女に傷を負わせることもできないだろう。しかしその実力差を無視し感じさせるものが二人の戦いにはあった。
「あの時のことを思い出すな」
百代の脳裏に浮かぶのは自分に初めて敗北感を与えた少年のこと。強い武力を持つ以外で自分が敬意を持つ数少ない自分達のリーダーとの戦い。
「本当に楽しみだ」
川神学院の医務室。そこには運びこまれた英雄と忠勝が並べられて寝ていた。
「うっ、くっ……」
「英雄様ぁぁぁ!! 目を覚まされましたがか!?」
痛みからか苦悶の声をあげながら英雄が目を覚ます。それに気付き、傍についていたあずみが彼に近寄った。
「あずみか? 勝敗はどうなった?」
「その、審判は引き分けと裁定しました。しかしこうして先に目を覚まされたのですから、実質的には英雄様の勝ちかと!!」
主の問いに対し、言い辛そうに答えた後、言い訳を述べるあずみの口が止められる。
「みっとも無いことを言うな、あずみ。審判が引き分けと判定したのならば引き分けであろう。みすぼらしく勝利にすがりつく必要など無い」
「も、申し訳ありません!!」
主の叱責に謝罪するあずみ。
そして英雄は彼女に指示をする。
「あずみよ。席をはずせ」
「もしかして先程の事を怒っておられですか!? 申し訳ありません」
突然の退席の指示に不安そうな表情するあずみ。謝罪の意志を込めて、自分の腕の骨を筈そうとする。
しかし英雄は首を振って否定した。
「そうではない。我の横で寝ている男に二人だけで話しがあるのだ」
「この男に……。わかりました、それではしばらくの間、失礼します」
軽く礼をして、立ち去るあずみ。彼女の姿が見えなくなるのを確認すると、英雄は隣にねる忠勝に声をかける。
「忠勝よ。そろそろ目を覚ましておるのだろう?」
「ああ、横であんなやかましく騒がれりゃな。てか、何、慣れ慣れしく名前で呼んでやがる」
不機嫌そうな声で返事をする忠勝。それに対し、英雄は対照的な機嫌のよさそうな声で答えて見せた。
「チームメイトを名前で呼んだ所で不自然はあるまい」
「お前、それは……」
相手の言わんとすることを察っし、驚く忠勝。
「うむ忠勝よ。我と一緒に一子殿のチームに入れ」
「てめえに命令される筋合いはねえ……。まっ、ここで喧嘩なんかしても一子を困らせるだけだろうからな。入ってやる」
「うむ、それでよい」
予想通りの言葉に忠勝はいつも友人達に見せるようなツンデレな態度で肯定の意をしめす。それに対し、鷹揚な態度で満足そうに頷く英雄。こうして、悟空、一子のチームのメンバーが揃うのであった。
そして2ヶ月後のKOSに向け、川神のそして世界の強者達はそれぞれが備えを始めていた。
(後書き)
次回よりタイトルを「真剣で悟空と闘いなさい!(旧:DB×真剣で私に恋しなさい!(仮))」に変更して、その他版に移ろうかと思っています。
ここ数回、悟空の影が薄かったですが、次回は大暴れしてもらう予定です。後、揚羽さんが登場予定です。