「では、よろしく頼むぞ、百代」
「ええっ、でも、約束は忘れないでくださいよ」
「うむ、我が約束を破る筈もなかろう」
悟空と揚羽が戦う場を作るために、百代が結界を張る。当然、この行動に対し、彼女は最初不平不満を述べたが、先程悟空と戦った双子の姉妹、もしくはそれと同等の実力者との試合を確約させることで納得していた。
「西方、九鬼揚羽……東方、孫悟空……始め!!」
「いきなり行くぞ!! 九鬼雷神金剛拳!!」
試合開始の合図と共に最強の奥義を放つ揚羽。彼女の拳を電撃のような闘気が纏い、百代の富士砕きに近い威力の必殺の拳が放たれる。その一撃に対し、腕を十字にしてガードする悟空。両者の腕が激突、激しい圧力に悟空の足が地面をえぐり、身体全体が数メートル後方におされた所でやっと停止する。
「たああああ!!」
揚羽の攻撃は止まらない。防がれた拳をさげ、代わりに秒間100発を超える連続蹴りを放つ。様子見も手加減無しの全開状態で攻め。その激しさに悟空の体勢が僅かに崩れる。それを見て、彼女は更にラッシュを強めた。
「ぐっ」
「はっ!!」
息次ぎすらも止めて蹴りを続ける揚羽。悟空の体勢が更に崩れ、そこを狙ってのとどめの回し蹴りを放ち直撃させる。
「!!」
「てりゃああ!!!」
しかし、彼女の一撃が切り裂いたのは悟空の残像。
そして本物の悟空は一瞬にして、彼女の側面に移動していた。回し蹴りであげた蹴りが地面に戻っておらず、回避の取れない体勢。そこに悟空の一撃が迫る。
「くっ」
必死に腕をあげ、なんとかガードする揚羽。しかし片足を上げた状態で踏みとどまれる筈もなく彼女の身体は大きく弾き飛ばされ、結界の境界ギリギリの位置で地面に転がる。
ダメージが大きいかと思われたが、何とか立ちあがる揚羽。改めて悟空の強さを実感した彼女は彼に向かって問いかけをした。
「ぐっ、流石は百代に勝っただけのことはあるな。異世界と言うのはお前のような強さを持った奴が大勢いるのか? お前よりも強い者も居るのか?」
「おう、つええ奴一杯いんぞ! オラより強い奴って言うと、多分まだ神様には敵わねえんじゃねえかって思う。それに上には上が居るかんな。世の中にはまだまだオラより強い奴がいるかもしんねえ」
「ふむ、神か……。そのような存在が実在するとは、改めて世界の広さを感じさせてくれるな。なあ、百代?」
試すような口調で言う揚羽に、大人にからかわれた子供のような気分になって、少し不不機嫌そうな口調で答える百代。
「揚羽さんからかわないでください。私だってもう世界の広さ位、気付いていますよ」
「ふっ、そうだったか。成長したものだ」
百代の答えを聞いて少し優しい表情を浮かべる揚羽。
そして悟空の方に視線を戻すと表情を引き締める。
「戦いの最中に無駄話をしてしまったな。そろそろ再開するとしようか」
「おう! 何時でもいいぞ!」
揚羽に対し、言葉と闘気を持って応じる悟空。
そして二人は再度激突した。
「うはははははっ、こうまで見事に負けたのは初めてだ。いっそすがすがしいな」
全身を埃まみれにし、身体中に細かい傷を負った姿で高笑いを上げる揚羽。
中断の後、再開された戦いは一方的な展開となり、悟空の勝利となって終わっていた。
再開直後から一気に攻勢に出た悟空の猛攻を受け、揚羽は防戦一方になり、反撃の糸口もつかめないまま、最後は蹴りによって上空に浮かびあがらせられてから、それよりも高く飛び上がった悟空によって地面に叩きつけられ、気絶という形である。
嘗ては百代と互角であった彼女であったが、百代との最後の試合では敗北を喫し、その後は武の道を引退。腕を落とさない程度に鍛錬は続けていたものの、その後更に強くなった百代とは大きな差が開いていた。当然、百代と互角以上の実力を持つ悟空との差はそれ以上に大きく、序盤の猛攻が凌がれた時点で彼女の敗北は決まっていたであった。
「しかしこれ程の逸材、異世界へ帰してしまうのは惜しくなった。なあ、悟空よ、元の世界に帰らず、我の従者になる気はないか?望む限りの待遇を与えようぞ」
「なっ、揚羽さん一体何を!?」
敗北した悔しさや敵意よりも悟空に対する興味を強め、彼を勧誘しだした揚羽。その行為に百代は驚きの声をあげる。
「言った通りだ百代よ。我は悟空の存在が欲しい。それにこれはお前にとってもいい話であろう。悟空がこの世界に残れば強敵には不足しまい。最も、悟空にとっては故郷を捨てる選択。簡単に決断できることではないであろうが、どうだ、考えるつもりはないか?」
百代の問いに当然のこととばかりに答える揚羽。それを聞いて、百代ははっとした表情をする。
そして二人の視線が悟空に集まる。美女二人、あるいは強者二人に見つめられると言う普通であれば緊張しまくりなそのシチュエーションにあって、悟空はそれを気にしない態度で、腕を組むと唸って考え込む。
そして数十秒後、結論をだした悟空は、片手と頭を小さくさげて揚羽に対し答えを出した。
「わりぃ、オラ元の世界に帰るぞ。百代との戦いはおもしれえし、ワン子とか岳人とかいい奴も一杯いてこの世界に住むってのも悪くねえんだけどな。やっぱ元の世界にも会いてえ仲間が居るし、何よりオラ、決着をつけなくちゃいけねえ奴がいるかんな」
悟空の答えは揚羽の申し出を断るものであった。彼の脳裏に浮かぶのは一度倒した男の生まれ変わり。戦いたいと、そして同時に戦わなくてはいけないとも考える未だ見たことも会った事の無い宿敵。その相手を思う悟空の表情には強い決意が浮かんでおり、揚羽はそれを理解する。
「ふむ、そうか。お前の意志の強さ伝わってきた。今回は引くとしよう」
この場でのこれ以上の説得は無意味と判断し、引き下がる揚羽。しかし、彼女の悟空に対する興味と欲求はいささかも薄れて居ないようであった。
そして彼女の後ろでは、百代が少し残念そうな、ほっとしたような表情をしている。
「それでは、今日は失礼しよう。我も多忙故、会う機会はなかなかつくれないであろうが、今度のKOSの際には主催者として、我も顔をだす。その時にまた会おうぞ」
そこで再会を約束し、退席しようとする揚羽。その言葉を聞いて、悟空は揚羽がKOSの主催者であることを思い出して礼を述べる。
「おう、わかった。面白そうな大会開いてくれてサンキューな。オラ、すっげえ楽しみにしてるぞ」
「うむ、元々我自身の願いで開いた催し故、礼を言われることではないが、喜んでもらえれば何よりだ。では、さらば」
KOSの話題に興奮した態度を見せる悟空。それを見て満足気な表情で頷くと、迎えのヘリコプターから降りて来た縄梯子に地面から数メートル跳びあがって捕まる。そのまま彼女は縄梯子に乗ったまま飛び去って行った。
そして、彼女の姿が見えなくなったところで百代が悟空に近づく。
「なあ、悟空、お前はやっぱり元の世界に帰って……」
「んっ、なんだ?」
「いや、何でも無い」
問いかけようとして辞める百代。それを見て訝しげな顔を浮かべる悟空。
「変な奴だなあ。まっ、いっか。そういや、そろそろワン子がランニング戻ってくる時間だな。わりいけど、オラ、行ってくっぞ」
「ああ、たっぷり鍛えてやってくれ」
ワン子と稽古をするために走り去って行く悟空。それを一人見送り百代は呟く。世界の広さを知ったが故に、その上でそれが届かない遠くへ行ってしまうことを改めて考えてしまった故に感じる寂しさを交えて。
「お前が居なくなった後、私は誰と戦えばいいんだろうな」
(後書き)
KOS編と銘打ってから、大分たってしまいましたが、次回よりKOS開始です。
PS.何故かクリスチームの最後の一人が名前だけの軍人キャラだったと勘違いしていました。ゲームをやり直してみたら梅子で焦っています。一子の誘いを断らせた手前、今更入れられませんし。代わりにこいつを入れて欲しいというキャラいましたらアイディア募集しますのでよろしくお願いします。DB側のキャラでもOKです。書けそうだと思ったら採用させていただきます。
(おまけ)
※今回は短いのでおまけをつけました。本編にはあまり関係無い裏話的なものです。
KOS、500億円という破格の賞金が据えられ、世界各地より強豪が集められた大会。そのような大規模な催しとなれば、当然の如く付随するものがある。トトカルチョ、優秀チームを予想する賭けごとである。合法・非合法合わせ、そこで動く金額は賞金額を遥かに凌駕し、兆の単位に届くのではないかと言われるこの賭けごとで評価の高いチームを幾つか紹介しよう。
<アメリカチーム>
紹介文:全米格闘チャンピオンカラカル・ゲイルとその弟ゲイツ、そして軍のスーパーソルジャー計画によって産まれたエリート戦士であるワンとツーが組んだチーム。アメリカ政府が国の名誉を賭け、公式に支援していることもありアメリカ国民を中心に評価が高いチーム。
前評判:
公式賭博:人気1位
非合法賭博:人気2位
<メッシチーム>
紹介文:太陽の子と呼ばれるアルゼンチンの格闘家メッシとその弟子達のチームである。元々メッシは表の格闘技会においては彼かミスマの何れかが世界最強と言われており、ミスマが揚羽に惨敗、それが大々的に放送されたため、相対的に彼の評価が高まり、優勝候補の一人とされている。
前評判:
公式賭博:人気2位
非合法賭博:人気5位
<百代チーム>
紹介文:武術にある程度以上深く携わるものであれば知らぬもの無い川神院の後継者にして、10代にして既に当代師範に匹敵する実力を秘めた百代を中心としたチーム。その名は川神院師範であり、彼女の祖父である鉄心と共に広く知られており、天変地異と呼べるような事象が起ころうともそれが百代の仕業だと分かれば『なんだMOMOYOか』で納得されてしまう位の実力者。
しかし、公の場でその武を披露することは無いため、地元民以外の一般人知名度は低く、その名を知る者も、直接その戦いぶりを目にした者以外は、実力を正確に把握しておらず過小評価するものも多いため、公式賭博での人気は然程高くない。反面、大富豪などが多く参加する裏賭博では優勝候補本命とされているが、KOSはチーム戦であり、そのルール詳細も秘密扱い、彼女以外のメンバーは無名に近いため、2番人気以降との差は然程開いていない。
前評判:
公式賭博:人気11位
非合法賭博:人気1位
<フリードリヒチーム>
紹介文:ドイツ軍人の名門、フランク・フリードヒとクリス・フリードヒの親子と欧州最強と言われるマルギッテ・エーベルバッハが組んだチーム。知名度、実力共、そしてドイツ軍と言う肩書が揃ったチームだけに、公式賭博、非合法賭博の両方で人気が高い。
前評判:
公式賭博:人気5位
非合法賭博:人気3位
<悟空・一子チーム>
紹介文:異世界の武術家である孫悟空と、川神一子が中心となって結成されたチーム。一般の知名度は皆無に近いため、公式賭博の人気は極めて低い。しかし非合法賭博では一部の耳ざとい者が悟空の強さを聞きつけたのと、一子が義理とは言え百代の妹であること、超人的格闘家であり大会の主催者でもある揚羽の弟である英雄がいることなどからダークホース的扱いをされ、上位の人気となっている。
前評判:
公式賭博:人気72位
非合法賭博:人気8位
<風間ファミリーチーム>
紹介文:風間翔一を中心に、風間ファミリーと呼ばれる友人軍団のメンバーのみで結成されたチーム。一般には完全に無名の学生チームであるため、人気はほぼ0である。しかし、その潜在能力は侮れず、ある意味真のダークホースと言えるかもしれない。
前評判:
公式賭博:人気100位圏外
非合法賭博:人気100位圏外
<親不孝通りチーム>
紹介文:元川神院師範代にして元内閣調査室の一員である釈迦堂刑部とその弟子達で構成されたチーム。一般での知名度は低いため人気はないが、裏での地名度は高く悟空・一子チームと並ぶダークホース扱いされている。
前評判:
公式賭博:人気80位
非合法賭博:人気7位
<弾金重工チーム>
紹介文:現在は没落傾向にあるが嘗ては九鬼財閥と争う程の技術力を持っていた企業である弾金重工より派遣されたチーム。再起を賭けたアピールの場として本気で優勝を狙っており、そのための秘策があるとの噂がある。
公式賭博:人気32位
非業方賭博:人気40位