神奈川県丹沢山地、KOSの開催地であるこの場所には名誉を求めたもの、戦いを求めたもの、500億円の賞金につられたもの、さまざまな目的を秘めた強者達、総数133チーム532名が集まっていた。
その中には悟空、一子、英雄、忠勝の姿も見える。
「ふええ、すげえ、人数だな。けど、モモヨや鉄心のじいちゃんくれえの奴は見当たんねえみたいだな」
天下一武道会出場者の数倍の人数に驚きながら、その強さのレベルが予想していた程高くないことに意外そうな顔をする悟空。この世界に来て最初に会った二人が共にこの世界で5指に入る強者であり、その後あった相手もこの世界で上位に入る実力者が多かったため、悟空の中で強さの基準が少々ずれていたようだった。
その勘違いに忠勝が溜息をついて突っ込みを入れる
「学園長の実力は噂でしか知らないが、少なくともモモ先輩は完全に別格に位置する人間だ。基準にすんな、馬鹿」
「あはは、流石にお姉様やじいちゃんと比べちゃあね。けど、あの人なんかかなり強いんじゃない?」
悟空の言葉に普段はボケ役に回ることが多い一子も流石に苦笑いし、一人の人物を指し示す。それは太陽の子と呼ばれる大会優勝候補の一人であるアルゼンチンのメッシであった。他の者達とは明らかにレベルの違う闘気を身に纏っており、近くの者達は彼を避けるようにしている。
その姿を見た悟空は何故か驚いた顔をして、いきなり彼に近づいて行く。
そして彼に向かって話しかけた。
「メッシ、メッシじゃねえか。おめえもこの大会に参加すんのか?」
「むっ、悟空か。やはりお前も来ていたのか」
「えっ、えっ、知り合いなの?」
南米No.1の格闘家と親しげな態度を見せた悟空に戸惑う一子。それに対し、悟空が彼との関係を説明する。
「おう、山ん中で修行してた時に、メッシの奴が鉄心のじいちゃんに挑戦しに来てな」
「その条件として私は悟空と百代の二人と闘うように言われたのだ。その結果は私の完敗。二人に負けた私は自分の未熟さを知り、己を鍛え直してきた。今回の大会にはその成果を試し、更なる高みを目指すために来ている」
「おう、おめえかなり腕、あげたみてえだな」
彼から感じる気の強さが以前よりも遥かに強くなっていることを感じ取り、その成長を評価する悟空。話しを聞いて感心した様子を見せる一子。
「へー、そうなんだ。流石お姉様と悟空君ね」
「ところで、悟空、その子は君のチームメイトなのか?」
「おう、オラの仲間でモモヨの妹だ」
そこでメッシが一子のことを尋ね、悟空が紹介する。その答えを聞いて、彼は一子の方に改めて視線をやると納得したように頷いてみせた。
「百代の妹か。なるほど、確かに相当の実力を感じるな。この大会で戦うことになれば楽しみだ」
「うん、私も負けないわよ!!」
自分の実力を認められ喜び、競争心を返す一子。それに対し、傍で見ていた忠勝は軽い疑問を覚えていた。
(今の評価……単にあの男がモモ先輩の実力を測りきれていないだけなのか?)
百代と一子の間にははっきり言って比較対象として成り立たない程の実力差があった筈である。にも関わらずメッシは一子が百代の妹であることに対し、その実力を感じ取った上でそのことに疑問を持たなかった。
(相手は仮にも南米No.1、表の世界最強候補。しかも悟空の奴の言葉が本当なら、そこからかなりレベルアップしてるし、モモ先輩とも直接対峙している。そう考えるとあまり的外れなことを言っているとも考えづらいが……)
「ふははははは、一子殿を認めるとはメッシよ。なかなかに見どころがあるな」
考えこむ忠勝の横で、一子が褒められたことに対し素直に喜び、評価したメッシを褒め、高笑いをあげる英雄。メッシはそのテンションの高さに流石についていけないようで、少しひいた態度を見せる。
「か、変わった人だな。彼も君のチームメイトか。っと、そろそろ開会式が始まるようだ。私は弟子達の所へ戻る」
「おう、お互いがんばろうな」
「ああ」
挨拶をかわしメッシと別れる悟空達。
そして参加者達の前に大会の主催者である揚羽が現れる。
「全世界の戦士諸君!よくぞ、集まった!! これより武の祭典、KOSの開催を宣言する!!」
その言葉に周囲より歓声があがる。それに対し、揚羽は軽く頷くと説明を再開した。
「それでは戦いの説明をしよう。事前説明したようにこの大会は四人一組。一人でも戦闘可能なものが残っていれば失格にはならん。それと戦いの範囲はこの地図に書いてある通りだ。受け取れ!!」
揚羽が叫ぶとヘリコプターが上空に現れ、そこから大量の紙がまき散らされる。選手達はそれを拾って書いてあることを見る。どうやらその紙はこの辺りの地図のようで山地と街の一部が赤く塗られていた。
「この赤く塗られているエリア全てがリングとなる。戦う期間は3日間、優勝条件は最後まで生き残った組だ! これから選手達はこのエリア内を移動し、敵の選手と出会ったら、戦闘に入る! 例え食事してようが、寝ていようが常に戦闘、周囲は敵だらけのバトルロワイヤル形式とする!!」
ルールを聞いてそれぞれの選手たちは対策を考えたりしながら続きの説明に耳を傾ける。
「それと戦わないでいるチキンが発生した場合だが、これには処刑人を用意した。我と……」
「川神鉄心じゃ、よろしくのう……見た顔多!」
「頑張ってるかね? ルーだヨ」
「中村北斗です」
揚羽の言葉を繋いで川神院の総代である鉄心と同じく師範代二人が現れる。川神院の知名度と漂う雰囲気がその三人の実力を参加者達に知らしめていた。
「以上四名が処刑人になる。もし一定以上戦わないでいるチームがあったら、我等がそのチームを消去に向かう。夜の間もこのルールは適用される!忘れるな」
処刑人の役割を説明し、更にそれぞれのサポーターが持っている腕輪からデータを通し本部で監視するため、逃れることもできないことを説明する揚羽。処刑人はその全員実力がこの場に居る参加者のほとんどより上であり、彼女達の相手をする位であるならば、逃げ回らずに他の参加者と戦う方が賢い選択であることは明らかだった。
最も、中にはそう考えないものも居る。
「なあ、大和。一定時間戦わなければ即、失格とは言われていないということは、処刑人を返り撃ちにすればOKってことだよな?」
「えっ、ああ、多分、そう言うことだろうな」
大和に耳打ちし尋ねる百代。その答えを聞いて考え込むような仕草を見せる。
「そうか。揚羽さんに、じじい、ルー師範代に中村さん……いっそ戦わないで居るのもいいかもしれないな」
「姉さん!?」
百代の呟きを聞いて、声を上げ過ぎないようにして叫ぶ大和。一対一の戦いよりも乱戦の方が被害は拡大しやすい。悟空と百代、規格外な二人に合わせ、リングを市街地から山中へと変更された今回の戦いであるが、彼女が処刑人四人と全力でぶつかりあえば、街の方まで被害が及ぶ危険もあり得る。勿論、それよりも早くチームのメンバーである大和達は巻き込まれるであろう。
しかし、その辺は百代も理解しているらしく、心配は要らないと告げる。
「大丈夫だ。半分は冗談だからな。流石に私もその四人を同時に相手どるのはきつい。少なくともお前達にまで気を配る余裕はないだろうからな」
「半分は本気なんだね」
大丈夫と言いながら不安になる発言をする百代に対し、溜息をついて突っ込む京。最も、彼女は真剣に心配している訳ではなかった。もしチーム戦でなければ百代は言った通りのことを本気で実行したかもしれないが、自分達が居る以上、無茶し過ぎることはないと信頼しているのである。
「ところで皆、説明を聞きつつ端へ移動しよう」
京と同じく百代を信頼している大和は一つの問題が片付いたとして、他に気付いた懸念点に対する対策をあげる。しかし百代、京、クッキーの三名はその提案に対し、意図が分からず訝しげな顔をした。
「何故だ。まだ説明の途中だぞ?」
三人が共通し抱える疑問に対し確認を取ろうとするクッキー。しかし、大和は回答しながらもその行動の理由については述べず実行を促す。
「説明が終わってからじゃ遅いかもしれない。理由はあるがあまり周りに聞かれたくない。今は俺を信じてくれ」
「私は大和の言うことなら信じるよ」
「そっち方面に関しては信頼してる。お前に任せるさ」
長年つるんだ信頼感。仲間達は説明無しでも大和の行動が正しいと信じ、提案を承諾して移動を開始する四名。また彼等と同じように行動するする者達が他に何チームが存在した。
そして悟空チームでもその状況に気付き、その理由を察する者が一名。
「おい、お前等、俺達も移動するぞ」
「むっ、何故だ?」
忠勝の言葉に問いかける英雄。忠勝はメンバーを集めると小声で簡潔に説明する。
「バトルロワイヤル形式って言われただろう。下手すりゃ、この密集した状態でいきなりスタートって危険性がある。そうなりゃ、敵に周りをかこまれた状態になっちまう」
「なんだ、そのようなことか。そのような脅えた態度をとる必要は無い。我等は王者らしく、堂々と迎え撃ってやればいいのだ」
「おう、オラもそれでいいぞ」
「うーん、でもそれだとタッちゃんや九鬼君が危ない目に……」
現状の危険性を示す忠勝。しかしそれを聞いても英雄と悟空は全く気にした様子を見せず、一子は不安そうな表情をするが、それは自信のことを心配してと言うより、忠勝と英雄の身を案じ迷っている状態のようだった。
結果として反対2、保留1、多数決で負けた状態になる。その状況に忠勝は諦めたと言った態度を取って口を開いた。
「……わかったよ。言った俺が馬鹿だった。一子悩む必要はねえ。このまま、ここに居るぞ」
「えっ、大丈夫なの?」
「ああ」
心配そうな表情の一子に無愛想な態度で答える。ここで粘れば自分一人がびびっているような状況になってしまう。好きな相手の前でそのような情けない姿を見せることはしたくなかった。
「一応、俺も鍛え直してきたしな」
最も忠勝は自分の力と言うものをわきまえ、その上で冷静に判断することのできる能力を持った人物である。対処できる自信が薄ければ、例え恥を去らそうが移動を提案し続けていただろう。
しかし、彼はこの大会に備え、彼は実力を隠している達人である義父の巨人から指導を受けてきていた。無論、2ヶ月程度の修行では付け焼刃に過ぎないが、元々喧嘩慣れしていたところと、素養の高さからそれなりに成果を得ている。だからこそ、この場に残ったとしても自分自身は足を引っ張らない程度には動け、悟空が居れば、敵の数を一気に減らせると考え決断したのであった。
「最後に禁止事項をあげておこう。エリア範囲外にでたチームは即座に失格。一般人を攻撃し、負傷させれば失格。この事、ゆめゆめ忘れるな!!」
そしてそこで揚羽がルール説明を終え、戦いの始まりを告げる合図を下すのだった。
「それでは、始め!!」
(後書き)
今回登場した中村北斗と言うのはオリキャラです。
原作で川神院の師範代は複数人居ると説明があったので(その説明の時点で、釈迦堂は既に破門されている)作中に出てこないだけで、ルーと釈迦堂以外にも居るのだと判断し、原作で処刑人だった百代の代役と言うか穴埋めとしてだしました。実力的には原作登場の師範代二人よりも1ランク下位です。役割的には完全に脇役ですね。