両者が飛び出したのは同時であった。
そして、その動きは何れも常軌を逸するレベル。もし、この場に第3者がいたとして、そのものが一般人であれば、否、相当に鍛えた武術家であっても常識の範囲にとどまるものであったのならば二人の姿を捕らえることはできなかったであろう。それができるのは常識の枠を超えた達人のみ、二人の速さはそれ程のものであった。
「たあ!!!」
「てりゃああ!!!」
二人は互いに秒間数十発という速さで突きを放ち、それらの突きが交差しあう。その突きを二人は時にかわし、時に防御し、時に互いの拳と拳をぶつけ合い迎撃する。両者の実力は拮抗しており、数秒間の間、両者共にクリーンヒットが一度も無い状態が続いていた。
そしてその拮抗状態を先に崩したのは百代だった。バックステップで距離を取り、力を溜め、大技をしかけてくる。
「川神流、無双正拳突きぃぃ!!」
大岩をも砕く威力のある必殺の突き。しかしそれを悟空は両腕を交差しガードし受け止めて見せた。
「てりゃああ!!」
突きの勢いが僅かに落ちた瞬間に両腕を広げ百代の拳を弾き飛ばす悟空。それにより百代の体勢を崩れ、悟空はそこを狙って反撃の蹴りを放った。
それは普通ならば回避は愚かガードすら間に合わないタイミングの一撃だった。
しかし百代は素早く左腕をあげ、その一撃を防いでみせた。だが勢いを殺しきることは出来ず、彼女の身体は大きく弾き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「ありゃ、やりすぎちまった……なんてことはねえよな?」
「勿論だ」
一瞬、不安そうな表情を浮かべ、直ぐにそれを無用の心配だったとでも言うように問いかける悟空。起き上り、それに答えると同時に急スピードで飛びこんでくる百代。彼女の右手に気が集中する
「禁じ手、富士砕き!!」
「!!」
その気の高まりようから先程の無双聖拳突きを超える威力があると予測される一撃。流石にそれをまともに受け止めるのは危険だと判断した悟空は上空に飛びあがって、その一撃を回避しようとする。
「川神流、致死蛍!!」
「んなっ!?」
そこで上空に逃げた悟空に対し気功波が放たれる。まさか、飛び道具が来るとは予測していなかった悟空はその一撃をまともに受けて弾き飛ばされてしまう。
しかしダメージは然程でもなかったようで空中で体勢を立て直すと体を回転させると、地面に着地して見せた。
「ふぃー、驚いたぞ。おめえもかめはめ波みたいなの使えるんだな」
「ほぅ、その口調だとおまえも気功波を使えるのか?」
悟空の言葉を聞いて百代は笑う。致死蛍は彼女の使う技の中ではそれ程、強力な技ではないが、それでも余波だけで地面をえぐる程の威力のある技だ。それを受けてほぼ無傷のタフさ、互角のスピード、自分を弾き飛ばしたパワー。期待を遥かに超える悟空の強さに百代は歓喜していた。
「くくっ、これ程とはな。揚羽さん以来の強敵、いや、それ以上だ」
彼女が今まで出会った中で間違いなく最強クラスの相手、しかも相手の持ち札がわからないが故に勝敗のまるで読めない。この戦いに彼女はこれまで味わったことの無い程の楽しさを覚え、興奮もこの上無い程に高まっていた。
「オラもだ。おめえ見たいに強い奴と戦うのは久々だ」
「ほう、久々と言うことは、他に強い相手と戦っているということか?」
「おう、神様だろ、それにテンシンハンにジャッキーのじっちゃん、クリリン、ヤムチャ、世の中にはつええ奴が一杯いっからな」
数を数えるように指を折りながら強者の名前をあげていく悟空。それを聞いて百代は元々楽しそうだ表情を更に楽しそうなものへと変える。
「くくっそうか、そんなにもたくさんの強者がいるのか。ずっと世界の狭さに悩んで来たが、どうやら世界は限りなく広そうだ。何れそいつらとも何れ戦ってみたいが、今は目の前のお前に集中させてもらおうか」
「ああ、オラも思いっきしいくぞ」
お互い歓喜の表情を浮かべる二人はその表情のまま再度、闘気を高めて行く。
「今度はオラのかめはめ波を見せてやる!!か~め~は~め~」
「川神流……」
そして両掌を合わせるような構えを取る悟空。その手に気が集中していく。それを感じ取り、百代を気を高め集中させる。
「波!!!!!!!」「星殺し!!!!!」
両者の放った気弾がぶつかり合うぶつかりあう。生じたエネルギーの余波が地面がえぐれ、周りにの木々が倒れていく。しかし、力の拮抗は僅かの間だった。悟空のかめはめ波が百代の星殺しを貫いて百代に迫った。
「ちっ、私が力負けするとはな」
しかし自分の気弾が打ち破られるよりも早く力負けを悟っていた百代は舌打ちをしながら空に飛びあがっていた。先ほどまで彼女の居た場所をかめはめ波が素通りする。
攻撃を回避した百代は右手に気を集中させ、反撃の為、再び気弾を撃とうと構えた。
だが、そこで悟空が不敵な笑みを浮かべ。
そして次の瞬間、彼の放ったかめはめ波の軌道が曲がって、上空の彼女に迫ったのである。
「何!?」
驚愕する百代。このままでは直撃は確実である。
しかしそこで彼女は驚きの行動を見せた。かめはめ波に対し、回避を試みるでも防御するでも、あるいは溜めた気弾を迎撃として放つ訳でもなく、無防備な姿をさらし、溜めた気を反撃として悟空に向かって放ったのだ。
「川神流、星砕き!!」
「!!」
当然、百代はかめはめ波をまともに受けることになるが、悟空の方も流石に予想外だったのか、百代の放った星砕きを回避できず、その場に二つの爆発音が鳴り響き、盛大な土煙が舞い上がる。
そしてその土煙が、晴れて行き、戦っていた二人の姿が見えてくる。
「いちち、まさか、あそこから攻撃してくるとはなー。流石にちっと、堪えたぞ」
悟空は上に着た胴着が破れ、下に着ていた青い胴着が見えていた。その他、全身にいくつもの傷が見え、かなりのダメージを受けているようだった。
一方、百代の方は悟空よりも更にダメージが大きい。何とか立ってはいるが、これ以上戦えるようには見えなかった。にもかかわらず、彼女の表情には何故か余裕が見える。
「? あんまり、無理しねえ方がいいぞ。ここまでにしといた方がいいんじゃねえか?」
「ふふっ、それはどうかな?」
百代の表情に訝しがりながら試合の終了を薦める悟空。しかし、百代は余裕の表情を崩さない。
そして信じられないことが起こる。
「いーっ!!?」
目の前で起こった出来事に驚愕の声を上げる悟空。何と彼の前でみるみる彼女の怪我が治っていったのだ。そして数瞬後にはまるで最初から怪我などしなかったかのように完全回復していた。
「瞬間回復と言ってな。どんな怪我でも私は直ぐに治せるんだ」
「ひぇー。ズリ-な、そりゃ」
呆れたと言った表情をする悟空。何時も周りを呆れさせることの多い彼にとってはある意味珍しいことである。
そんな彼の様子を見ながら百代は問いかける。
「ならどうする? 降参でもするか?」
「いや、オラ、そう簡単に諦めねえぞ。それにおめえとの戦いは楽しいからんな。こんなとこでやめたらもったいねえ」
「そうこなくてはな」
構えを取り、戦闘継続の意思を見せる悟空。期待通りの答えを見せてくれた彼に百代は今日、幾度目かになる獰猛な笑みを浮かべると彼女もまた構えを取った。しかし、そこで勝負再開とはならなかった。
「止めんか、この馬鹿孫が!!!」
その場に戦いを止めるものが現れたからである。
(後書き)
感想の方を見ると、ほとんどの方が悟空楽勝だろうという意見でしたが、とりあえず、この作品のパワーバランスは今回の話しのような感じですすめて行こうと思っています。
PS.一話を微修正しました。
・悟空の神様の神殿での修行歴を2年から1年半に変更
・ポポの選別に亀仙流の胴着を追加