ホイポイカプセルで家を出した悟空達はその中で、机を囲み、夕食を取っていた。
そして机の上の料理は瞬く間に消えて行く。食卓を囲むメンバーの中では、一子等もかなりの大食であるが、この現象の一番の要因はやはり悟空であった。
「おい、その位にしといたらどうだ? もう、10人前は食ったぞ」
そう言う忠勝の言葉通り、悟空の目の前には何枚もの皿が積み上げられている。
それに対し、言われた悟空の方は口の中に大量の食べ物を詰め込んだまま答えた。
「むわっだ、ふぁらふぁんぶんめぶらいばぞ」
「えーと、『まだ、腹三分目位だぞ』かしら?」
悟空の言葉を翻訳する一子。一緒に暮らした二ヶ月の経験と野性の感から解釈したようである。
「よく、わかるな……。にしても、こんだけ食って三分目とか。どこまで、非常識なんだこいつは。異世界人だって言う嘘臭い話もこいつなら逆に納得できるな」
「うむ、我の腕を直した仙豆も異世界の産物であるとのことだしな」
実は悟空が異世界から来たことについてはいままで知らなかった忠勝であったが、ホイポイカプセルで家をだしたことに流石に突っ込み、悟空や一子も彼ならば信頼できるとその正体を明かしたのだった。
ちなみに英雄は姉を通して元から知っていたことである。
「んぐっ……っと。ふぃー、しかし忠勝、おめえの作る飯うめえな」
「別におめえのために作った訳じゃねえ。俺も飯食いたかったら、そのついでに作っただけだ。勘違いすんな」
口の中の食べ物を飲み込むと料理を作った忠勝に対し、賞賛の言葉を述べる悟空。それに対し、彼は何時も通りのツンデレな調子で返す。
「けど、やっぱこんだけじゃ物足りねえなあ。もっと食うもんねえか?」
「おい、この家ん中にある食材半分使ったんだぞ。これ以上、大会終わるまでもたねえだろう……」
「うーん、アタシもちょっと物足りないかな。料理の大半、悟空君が食べちゃったし」
「……まあ、明日買い出しに行きゃあいいか。この家ん中に入れときゃあ、荷物にもなんねえしな」
悟空の要望に反論しかけ、一子の言葉にそれをひっこめる忠勝。惚れた弱みであった。そして更にこの場には彼女に惚れた男がもう一名も存在し、彼もまた彼女のために行動を取る。
「うむ、一子殿には満足行くまで食べていただかねばな。あずみ!!」
「はいー、英雄様お呼びですかー!?」
英雄がその名を呼ぶと、ドアが開き彼の専属メイドであるあずみが入って来る。
「うむ、食料の調達を頼む。明日以降に食すものと、直ぐに食べられるものの両方をなるべく早急にな」
「わかりましたーー。直ぐ、行ってまいります!!」
主の指示に敬礼で答え、飛び出して行こうとするあずみ。しかし、そこで待ったがかかった。
「ちょっと待て!! なんで、忍足がここに居るんだ!?」
「あ~ん、てめえ、なんの権限があって、英雄様の命令を妨げてんだよ」
つっこむ忠勝に顔を寄せ、英雄に見られないよう睨みつけるあずみ。普段ならばあずみが英雄の傍についているのは見慣れた光景であるが、今はKOSの真っ最中である。彼等はずっとチームメンバーの四人だけで行動していた筈であり、ここにあずみが居る筈がなかった。しかし悟空はきょとんした表情で、忠勝が突っ込んだことに逆に驚いたようだった。
「んっ、なんだ忠勝、おめえ気付いてなかったんか?そいつ、ずっとオラ達の後、付けてたぞ」
「うん、アタシも気付いてたわ。正確な位置とかまでは把握できてなかったけど。敵意はなかったし、正体も分かってたから放って置いてもいいのかなって」
「ほー、孫の奴はともかく、川神までアタシの尾行に気づいていたとはな。随分と成長したじゃねえか」
一子が自分のことを気付いたことに驚いて見せるあずみ。一方、忠勝は少しだけ落ち込み、苛立って感じで自分の頭を掻きむしって見せた。
「ちっ、結局、俺一人が気付いてなかったってことか、情けねえ」
「仕方無いですよー!! 素人にまで見つかるようじゃ、こっちが終わりです。忠勝様も仮にも英雄様がチームメンバーなんですから、できないことを落ち込むよりも、できることをしっかりやって見せてくださいね」
そんな彼をにこやかな笑顔で、しかし本気の殺気を向けながら叱咤するあずみ。これでいじけ続けているようならば彼の身が危なかったであろうが、元々本気で落ち込んでいた訳ではなかった忠勝は言葉を素直に受け止め、立ち直って見せた。
そしてある懸念について確認する。
「ああ、そうだな。実力不足はわかってたことだ。ところで、忍足がここに居る理由はわかったが、四人一組のこの大会で五人目の手助けなんか受けたら失格になっちまったりしねえのか?」
「問題はあるまい。直接的に戦闘に参加したりしなければルールには触れることはないであろう。そうでなければ、物の売り買いとてできぬではないか」
「広義で言えばそれも支援を受けるってことな訳か。なるほどな」
英雄の説明に納得した様子の忠勝。それをみてあずみは再度敬礼を取り、英雄の方に向き合う。
「それでは、お仲間の方々にも納得いただけたたようですので、買い出し行ってまいりますねーー」
「うむ、よろしく頼むぞ。その後は先程まで通り、哨戒を頼むぞ。異常があれば決して交戦せず、我か悟空殿に通達しろ」
「かしこまりましたー!!」
飛び出して行くあずみ。彼女の姿が見えなくなった後、一子が心配そうな表情で呟く。
「私達が家に入ってからどうしてるのかと思ったけど、あの人ずっと外で見張りしてたんだ。そろそろ冬も近いし、大丈夫かしら? なんだか悪い気がするわ」
心配そうな、同時に申し訳無さそうな表情で呟く一子。その呟きを捕らえた英雄が真剣な口調で答える。
「お優しいですな一子殿は。しかしこれはあずみ自身が望んだことなのです。陰ながらであっても我をサポートしたいとな」
そう言いながら彼の表情には僅かに苦渋が浮かんでいた。本人の意志を尊重してとは言え、自分達が快適な家の中に居ながら、部下を辛い立場に置くことは、やはり気が咎める部分もあるのであろう。
とはいえ、その辛さに耐えることも上を使う者の役目と理解している彼は、決して彼女の行いを辞めさせようとはしなかった。
そんな彼に救いの手が入る。
「だが俺達が家ん中に居て、一人外ってのは流石に気ぃひけるな。戦いに直接加わらなきゃOKだってんなら、せめて見張りは家ん中にしてもらったらいいんじゃねか?」
「たっちゃん、ナイスアイディア!! どうかな、九鬼君!悟空君!」
忠勝の提案を名案とばかりに手を叩き、悟空と九鬼に視線をやる一子。当然、悟空は直ぐに頷く。
「オラは別にかまわねえぞ」
「……皆がそう言ってくれるなら我としても異論などあろう筈が無い」
少し沈黙した後、肯定の意を返し、あずみを思いやってくれた仲間達に対し、小さく頭を下げる九鬼。プライドの高い彼が頭を下げるというのはそれだけ感謝している証であった。
そこで忠勝が席を立つ。
「んじゃ、さてと足りない分の飯つくってくるか」
「あっ、たっちゃん。あの……」
「ああ、わかってる。あのメイドの分も作ってくるよ。……言っとくが、一人だけ食わせねえとか飯がまずくなるから用意するだけだ。勘違いするなよ」
「うん!! あっ、アタシも少し手伝うわ!」
一子も立ち上がり厨房へ向かう。その姿を見て英雄は椅子に座ったまま、嬉しそうな表情で呟く。
「ふふっ、我はいい仲間を持ったものだ」
「おう、ワン子も忠勝もおめえもいい奴だぞ!!」
こうして結束を強めていく悟空・一子チームの。一方、百代チームの方はと言うと、百代が空を舞い、他の三人がそれを見上げていた。
「姉さん!!」
「モモ先輩が吹っ飛ばされるなんてレアだね。吹っ飛ばすのはしょっちゅうだけど」
「そんなこと言ってる場合か!? 早く姉さんを助けに行かないと」
「大丈夫。モモ先輩の気はちゃんと生きてるから。気を失っていたりもしないみたい」
百代の身を案じる大和に冷静な口調で答える京。その言葉を証明するように周囲に声が響き渡る。
「か・わ・か・み」
「むっ、凄いエネルギーを感知したぞ。これは……」
「波!!!!!!!!!」
極太のエネルギー波を大和達が居る場所とは反対方向に放ち、それを推進力として急速度で戻って来る百代。そのまま減速せず、突っ込む。
「美少女キィィィィィック!!!!」
「ほえーーーーー!!」
勢いをつけた状態でアラレに炸裂する飛び蹴り。今度は彼女が遥か遠くへ吹っ飛んで行く。
「ねっ、大丈夫だったでしょう?」
「確かにな。いきなりで慌てたけど、流石はねえさんか」
「相手が非常識なら、百代もまた非常識だったな。心配するだけ無駄という訳か。それにしても、あの弾金アラレとか言う少女何者だ? あのような人間に近い姿な上、あれほどに戦闘力の高いロボットなど九鬼でも作れない筈だが。名前からして、まさか弾金重工が作りだしたというのか? 確かにあの企業は高い技術力を持っていたが……」
当然のこととでも言うように言う京と姉の非常識さに慣れているが故に、逆に今の展開に納得して見せる大和。
一方クッキーはアラレの正体について考えるが、答えをだすには材料が足りず、そうこうしている内にアラレが戻って来る。
「キィィィィィン!!!」
声を出し、土煙をあげながらマッハ2の速度で山を駆けてくるアラレ。百代達の目の前で止まって手を上げると楽しそうな表情で言う。
「お姉さん、つおいね」
「お前もな。さっきは油断したが、今度はそうはいかんぞ。思いっきり戦おうじゃないか」
構えを取る百代。その表情には未知なる敵に対する緊張と共に、隠しきれない歓喜が浮かんでいた。
「ほーい!」
能天気な調子で百代の挑戦を受け取るアラレ。その答えに百代は更に頬の端を浮かべると大和達に対し、指示をだす。
「大和、お前達は下がってろ」
「……わかった」
「私達じゃ足手纏いにしかなりそうにないしね」
「百代。お前の非常識さは誰にも負けぬと信じているぞ」
実力的についていけないと判断し、少し悔しそうな顔をしながら、同時に百代の強さを信頼し大人しく言う事を聞いて離れる三人。
そしていよいよ本格的にぶつかりあおうとする百代とアラレ。一方、遠くからそんな二人を見る者達が居た。白衣を来た分かりやすい科学者らしき男とその両側に立つ金髪で髪型をサイドテールにした少女、フランケンシュタインを連想させる様相をした巨躯の男。科学者らしい男が双眼鏡を通し百代を見てニヤリと笑って言う。
「武神よ、今日がお前のそして武術の敗北の時だ。人造人間5号よ、その力を見せてやれ」
そう呟きながらその視線の先にあるのはアラレの姿であった。
(後書き)
タイトルに反して悟空の出番が少ないですね。次回は百代とアラレの勝負がメインなので、活躍はもうしばらくお待ちください。
後、次回の更新は少し遅れるかもしれません。