「たあああああ!!!」
「ほええええーーーー」
百代のパンチが炸裂、ガードもせずにまともに受けたアラレが遥か彼方へと吹っ飛んで行き、その姿が見えなくなる位にまで飛ばされる。
「きょほほーーーー!!!」
「ぐうううう」
しかしマッハ2の足で直ぐに戻ってくると、そのままジャンピングヘッドで百代の胸目がけて突っ込んでくる。それはまさに人間の形をした高速の弾丸、大砲であった。百代は腕を十字にしてそれを受け止めるものの、常識外のパワーを持つ彼女を更に上回る超常識外のアラレの怪力の前に力負けし弾き飛ばされてしまう。
「ぐっ」
「ほほーい!!」
数十メートル吹っ飛び地面に叩きつけられる百代の身体。そこで追いかけてきたアラレがその足を掴むと、その体を思いっきりぶんまわし、そして手を離した。ジャイアントスイング、当然遠心力によって彼女の身体は遥か遠くに飛ばされて行く。
「ぬわあああああ!!! か、かわかみ波!!」
先程までいた山頂に近い場所から100メートル以上、ギャグ漫画のような勢いで吹っ飛ばされる百代だったが何とか空中で体勢を立て直すと、先程と同じようにかわかみ波の逆噴射を使って地上に戻ろうとする。しかし、そこには膝を曲げた状態でアラレが待ち構えていたのだった。
「ジャーンプ」
降下する百代の身体を負い越して回転蹴り、頭部に強烈な一撃を喰らった百代の身体は速度を増し、地面に勢いよく叩きつけられる。その衝撃は凄まじく、まるで隕石が落下したかのように地面が大きく陥没する。
「ほよよ、やりすぎちったかな?」
百代が地面に叩きつけられた衝撃で産まれたクレーターと立ちこめる土煙を見て、のんきそうな口調で言うアラレ。だが、実際はそんなのんきに言えるようなものでは無い。百代が受けたのは一般人どころか達人クラスの武術家でもよくて気絶、悪くて死亡する程の衝撃であり、実際、彼女は全身に数ヵ所の骨折を負っていた。
「はああああ!!!!」
しかし百代には瞬間回復という反則的な切り札があった。受けたダメージを即座に回復し立ちあがると、上空から落ちてくるアラレに向かって拳をかざすと必殺の一撃を放つ。
「川神流!! 星砕き!!!」
「ほえっ?」
百代の手から放たれた光の奔流に飲まれるアラレ。しかし、その光の奔流が消えた時、そこには少し顔が煤けただけで無事な彼女の姿があった。
「あはは、こげちった」
地面に着地し、平然とした表情で笑うアラレ。遠巻きでそれを見ながら、大和達は目の前の次元違いの戦いに驚愕の表情を浮かべながら、戦況を分析する。
「凄いね、ってかとんでもないね。モモ先輩の方も改めて飛んでもなさを実感させられてるけど、あの子パワーとスピードだけならモモ先輩を完全に上回ってるみたい。その分、戦い方は見た目通りに子供みたいで目茶苦茶だけど」
「だが、身体スペックが単純に強いと言うのはそれだけで厄介だ。何より直撃を受けてあの程度のダメージしか受けない防御力があると言うのがまずいな」
「いや、姉さんなら勝てる筈だ!! それにあの子がクッキーと同じロボットなら……」
戦いの形勢は百代の方が不利に見え京とクッキー2はやや悲観的な意見を述べるが、大和は百代の勝利を信じていた。それは彼女に対するやや盲信的な信頼もあったが、それ以上に勝機に繋がるある予測があったからである。
しかしこの直後に起こった光景はその信頼も計算も揺るがすものであった。
「手がピカって光って綺麗だったね」
「くくくっ、星砕きを受けて、その感想か? だが、まあ言われてみれば確かに綺麗かもしれんな」
自信の切り札の一つが通じなかったにも関わらず楽しそうに答え、何時も大和達と遊んでいる時のような感じでアラレの言葉に納得して見せる百代。しかし、続く言葉には眉をひそめる。
「アタシも見せたげるね」
「何?」
すぅっと息を吸うアラレ。それによって彼女の口の奥にエネルギーが収束する。彼女はロボットであり、“気”を持たない。故にそのエネルギーは百代には感知出来なかったが、同じようにロボットであるクッキーはそのエネルギーの異常なまでの出力を感知し叫ぶ。
「百代!!」
「んちゃ!!!!!!」
アラレの口から放たれた超強力なエネルギー波。クッキーの声が届いたと言うより、本能的な直感から回避運動を取った百代は、間一髪のタイミングでそれを回避。通り過ぎたその一撃は彼女達が今居る山の隣の山に直撃し、山を吹き飛ばした。
「大和よ。本当に百代に勝てるのか?」
「……いや、もしかしたらやばいかも」
呆然とした口調で呟くクッキー2の言葉に、大和は上半分にぽっかりとした直径100メートルを超える大きな穴を空けた山を見ながら呟くのだった。
「素晴らしい。あれで、デッドコピーとはな。オリジナルの則巻アラレとやらはどれほどの性能だったのか。後は、あの性格さえどうにかできれば完璧だったのだが」
白衣を来た男が、アラレの破壊した山を見て感嘆の声をあげ、サイドテールの少女が男の“デッドコピー”と言う言葉に僅かに眉をひそめるが、口を紡ぐ。
そして先程まで居た大男はその場から居なくなっていた。
「くくくっ、この調子ならいけそうだな。人造人間6号、“準備”をしておけ」
「……ええ、分かっているわ。けど、博士、私のことはアリスと呼んで頂戴」
相手を尊重する意思の感じられない命令の言葉に、少女は逆らわず、代わりに別の所に意義を申し出る。
「ふん、大会登録用に適当に作った偽名がそんなに気にいったか。まあいい、アリス、しっかりとやれよ」
少女の言葉にあまり面白くなさそうな表情を浮かべつつも、むきなって諌める程のことでもないと承諾し、男は少女を呼び直して再度指示する。
少女は頷き、そして付け加えるように男に聞こえない小さな声で呟く。
「ええ、分かっているわ」
呟きながら開かれた少女の掌、そこには赤く丸い球体が取り付けられ、闇夜にきらめいていた。
「なあ、ちょっとだけ食っちまっちゃ駄目か?」
「お前はちょっとじゃすまねえだろうが。もう少し待ちやがれ」
「うー、辛いわ。けど、我慢、我慢」
ホイポイカプセルで出した家の中。そこには残った食材を全て使い切って作られた、料理の数々が並べられていた。しかし誰も手を付けない。折角だからあずみが戻って来るまで待ってみんなで食べようと言う事になったからである。そのため、そこにはお預け状態で耐える悟空と一子の姿があった。
今か今かと彼女の帰りを待ちわびる二人。するとそこで部屋のドアをノックする音が響き渡る。
「あっ、帰って来たのかしら?」
「おっし、オラがドア開けてくっぞ」
待ちかねたとばかりにドアを開ける悟空。しかし、そこにはあずみの姿はなかった。代わりにあったのは大男の姿。その予想と違う姿を見て悟空は一瞬、呆気に取られた表情になり、そして直ぐに歓声をあげた。
「ハッチャン!! ハッチャンじゃねえか!! いやー、久しぶりだな。元気にしてたか!?」
「えっ、悟空君の知り合いなの?」
「おう、オラの友達だ」
見知らぬ男性の登場に驚く一子と答える悟空。
ドアを開けた先にあったのは彼の懐かしい友人の姿であった。嘗て悟空がレッドリボン軍と戦かった時、彼等の兵器として作られながら、暴力を嫌い悟空の仲間となった人造人間8号、“ハッチャン”と変わらぬ姿であった。
思わぬ再会に喜ぶ悟空であったが、ふとあることに気付く。彼は今、悟空の来た世界にあるジングル村に住んでいる筈である。しかしここは彼の居た世界から見れば異世界の筈なのだ。
「あれ?でも、ハッチャンなんでこんなところに居るんだ?」
「俺……ハッチャンじゃない……。俺の名前、人造人間7号……弾金七郎だ」
「へっ?」
返って来た答えの意味が理解できず、目を丸くする悟空。
そして、七郎を名乗る男はそんな悟空の身体を掴むと、そのまま一気に持ち上げ、谷のある方向へ向けて思いっきり投げ飛ばしてしまう。
「うわああああ」
宙に身体を投げ出され、悲鳴を上げながら落下して行く悟空。それを見て仲間達は立ちあがるが、時既に遅し。悟空の身体は崖下へと落ちて行き、七郎がそれを追いかけて崖から飛び降りて行く。
「孫!!」
「悟空君!!」
「くっ、高過ぎるな。悟空殿のこと、無事であるとは思うが、これでは追いかけられん!!」
慌てて崖の方へ行き下を覗くが、夜であることもあって、崖下は見えない程深い。迂闊に降りるのはあまり危険過ぎ、迂回するしかなかった。これにより、悟空はチームから大きく引き離された状態になってしまう。残された仲間達は何とか打開策を考えようとするが、そこで彼等を更なる災厄が彼等を襲う。この場に新たな乱入者が現れたのだ。
「おー、こいつは都合いいな。寝床を探してたら、まさかこんないいタイミングでお前等と出くわすとはな」
「しゃ、釈迦堂さん!?どうしてここに!?」
声と共に現れたのは川神院元師範代の釈迦堂とその後ろに並ぶ三人の少女。口調は親しげであったが、それを友好的であると取らえるものは誰もいなかった。何せ全員が禍々しい気を身に纏い、獲物を前にした獣のような表情を浮かべていたのだから。
「おいおい、この大会はだれでも参加自由だろ? 腕試しだよ。俺の弟子達のな」
一子の言葉に対し、心外とばかりにおどけた調子で答える釈迦堂。その言葉に一子が疑問を呟く。
「弟子?」
「おう、こいつらだ。上手い具合にあの厄介な兄さんが居なくなってくれたみたいだし、お前等にはちっとばかし相手してもらうぜ」
一子の言葉に対し、釈迦堂は肩越しに後ろの三人を指差し、それを合図にしたかのように三人の女達は武器を構え交戦の意志を示してくる。
「きゃはは、ついでに飯と寝床ももらうぜ」
「悪く思うんじゃないよ。まあ、どうしても嫌って言うなら……精々抗ってみな。私等に勝つことが逃れる唯一の道さ」
「うーん。ふかふかベッドで寝れるのかー。うれしーなー」
そして強くなる禍々しい気。一子達もそれに負けまいと迎撃体勢を取る。KOS、その大会初日となるこの夜は混迷を極めていき、また新たなる戦いの火ぶたが切って落とされるのであった。