「やああああああ!!!」
薙刀を手に釈迦堂に向かって全速で突撃する突撃する一子。重りを脱ぎ捨てたことにより、そのスピードはまた一段と上がっていた。速度だけみれば武道四天王と紙一重のレベル、この世界で言う所の壁を超えた領域にまで到達しているといい。
「川神流、水撃ち!!」
「あめえ」
しかしそのスピードが通用しない。釈迦堂は一子の繰り出す攻撃を余裕な態度でと見切り、両者が交差するタイミングで放たれた横薙ぎを横に移動して空振りさせる。そして無防備になった彼女の脇に拳が撃ちこんできた。
「うああっ!」
川神元師範代は伊達ではなかった。凄まじい威力が込められた強烈な一撃を受け、悲鳴を上げながら吹き飛ぶ一子。防御が間に合わず、自分から後ろに飛んで威力を減らす等と言った器用な回避もできていない。しかしそれでも一子は不屈の闘志で立ちあがってみせる。根性と合わせその打たれ強さもまた、速度と同様に壁を超えたレベルに到達していた。
「川神流奥義、山崩し!!」
頭上で薙刀を大きく旋回させ、脛を狙って勢いよく振り下ろす。それを飛んで回避する釈迦堂、諦めずに追撃を仕掛ける一子。
「川神流、鳥落とし!!」
「よっと」
上空に向かってそのまま一回転した一撃、所謂サマーソルトキックで釈迦堂の顎を狙う。だがこの追撃も当たらない。自由の効かない空中にも関わらず上体を逸らす最小限の動きを持って彼はこれをかわして見せた。結果、互いに相手にダメージを与えることなく地面に着地する。ただし、その着地は釈迦堂の方が一瞬速く、必然、それに続く行動も彼のほうが速くなる。
「ふっとびな」
「やああ!!!」
一子が着地するのとほぼ同じタイミングで放たれた音速に迫る速度の蹴り。だが、一子もまた、それと同等の速度で槍を引き盾にする。しかも、着地したばかりの態勢が崩れた状態にもかかわらず、鍛えた足腰でその場で踏みとどまって見せた。
自分の一撃を止められ驚いた顔をする釈迦堂。
そしてその状況を疑問を思い、彼は問いかけをした。
「身体能力の向上は異常ってレベルだな。技量の進歩の方もまあまあだ。お前さんの才能じゃあ、まともな修行じゃそこまで伸びねえだろ。一体、何したんだ?」
「何って、悟空君の真似をして、毎日必死に修行しただけよ」
一子の答えを聞き、そこから彼女の成長の秘密を推察しようとした釈迦堂はそこであることを思い出すと、再度の問いかけを発した。
「必死にねえ。そいや、お前さん、昔っから随分とオーバーワークを繰り返してたが、身体の方は大丈夫かい?」
「えっ、あっ、うん。実はちょっと無理し過ぎちゃったこともあるんだけど、そんな時は悟空君が仙豆をくれたから」
「仙豆、なんだそりゃ?」
「怪我や疲労を一瞬に回復してくれる不思議な豆。悟空君が仙人様にもらったんだって」
(仙人がくれた怪我や疲労を一瞬にして直してくれる不思議な豆だと? うさんくせえことこの上ねえが、そんなものが存在するとすりゃあ、一子の奴の急成長に説明がつくな)
一子の答えに対し、半信半疑ながらも、その成長に対し納得する答えを釈迦堂は見つける。悟空の動きから、その戦闘スタイルが自分や鉄心、リーよりも一子にあった見本であることに彼は気付いていた。技量の成長は本人の才能だけでなく、指導者による影響も大きい。故にこちらについてはまだ納得もいくが、身体能力の向上についてはそうはいかない。
身体能力の向上と言うのは基本的に肉体の疲労と回復を繰り返すこと、超回復でしか成し得ないからだ。どれだけ効率的なトレーニングをしようとも、その成長速度には限りがあり、限界を超える修行は寧ろ逆効果にしかならない。産まれ持った回復の速度が疲労による消耗に対し追いつかないからだ。
そしてその回復速度は産まれついての才能によって大凡が決まってしまうのである。故に釈迦堂には一子の成長がどうにも不可解であったのだが、一子の話しを聞き、彼はある仮説を得ていた。
その仮説とは彼女が仙豆による回復によって、限界を超えたトレーニングをそのまま100%成果に変えることができたのではないかというものである。それにより才能以上の速度で成長することを可能とし、しかもその成果により身体自体が強くなることで、肉体の限界の上限も引き上がる。それを繰り返したのならば、今の一子の成長も理解できるものであった。
(とはいえ、その理屈を成立させるためにゃ、どんだけきついことしなけりゃならないんだか。俺にゃあとても真似できんわな)
得た結論に対し、内心で呆れと感心の混じった感想を漏らす釈迦堂。
そして抱えていた疑問に対し、一応の答えを得たことで、彼は目の前で薙刀を構え直す一子対し意識を戻すと今度は彼の方から攻撃を繰り出す。
「さてと、そろそろ再開させてもらうかな」
言葉と共に踏み込み、一瞬にして間合いを詰め、放たれる正拳。一子は薙刀でそれを受け止めるが、その威力を殺しきれず、空中に投げ飛ばされるが身体を一回転させて地面に着地すると反撃とばかりに飛びこむ。
「たああああああ!!!」
袈裟切り、そして左肩から右脇腹にかけて振り下ろす軌道のその一撃はバックステップで回避され空を切るが、そこから半円描くような軌道で追撃の2撃目を放つ。
「取った!!」
「あめえよ!!」」
しかし釈迦堂はその一撃をも受け止め、まだ余裕があることを示して見せた。歯噛みをして、一旦距離を取る一子。未だ彼女は一度も有効な一撃をいれていない。逆に彼女は少しずつダメージを受けている。このままでは徐々に形勢が傾いていくのは明らかであった。しかしながら、彼女は既に逆転の目を掴む一筋の光明を得ていた。
(最後の攻撃だけは釈迦堂さん回避せずに防御した。反撃もしてこなかった)
最初の2回の攻撃と最後の攻撃、その違いは川神流の技かそうでないかと言うこと。最初の2撃は川神流の技をそのままだし、組み合わせたに過ぎないが、最後の攻撃は長物の刃物を使った武術の基本である袈裟切りをベースに悟空の動きを参考にして、一子が自分なりにアレンジしたものである。
(釈迦堂さんは川神院の元師範代、当然、アタシが使えるような技は全部知ってる。だから、動きが読まれちゃうんだわ)
そう考えた一子は薙刀を地面に突き刺すと、両手の掌で何かを包み込むような構えを取った。
「釈迦堂さん、いくわ。これが私の切り札よ!!」
「ほ~、そいつはたのし・・・!?」
一子の言葉に嘲りを返そうと思った釈迦堂が固まる。一子の掌に青い光が生まれ、大きくなっていくのを目にしたからだ。
「か~め~は~め~」
「んな!? まさか!!」
気を使うこと自体はある程度のレベル以上の武術家にとっては極、当たり前のことである。しかし、それを肉体を強化と言った内部に作用する形ではなく、外部に放出する形、ましてや目視できるレベルの技となると川神でも師範代以上のものにしか使えない高等技術なのである。
急成長したとはいえ、それを一子が使おうとすることに釈迦堂は初めて動揺し、そして一子の手からその溜めた力の本流が放たれた。
「波!!!!」
「くっ、力が……」
突如現れた金髪の少女に羽交い絞めにされたかと思うと、急激に力が抜けていく感触を味わい、百代はその場に崩れ落ちる。
「クッキーダイナ……」
「あら、ちょうどいい具合にでてきてくれたわね」
そこで彼女を助けようと飛び出し自身の必殺技を出そうとするクッキー。しかし、その剣が振り下ろされるよりも早く、胸に手が押し当てられたかと思うと、スパークしたかのように全身に電撃がほとばしりその機能を停止する。
「それにしても流石は武神と呼ばれるだけのことはあったわね。アラレ姉さんとの戦いでかなり力を消耗していたでしょうに。一瞬で吸い尽くせないなんて」
クッキーを打倒し、倒れた百代に視線をやると感心したような表情で呟く少女。その時、彼女に向かって正確に矢が放たれる。
「正確な狙いね」
「モモ先輩とクッキーに何したの?」
矢を射た人物、京が静かな口調、しかし怒りがにじみ出た口調で放たれた矢を素手でつかんで見せた金髪の少女に向かって問いかける。
「心配しないでも命に別状はないわ。私はエネルギー吸収型人造人間、人造人間6号よ。武神は私にエネルギーを吸われ、気を使い果たしたのと同じ状態になっただけ。休めば回復するわ。まあ、この大会中の復帰は無理でしょうけどね。それとそっちのロボットはアラレ姉さんに関するデータを消去させてもらったわ。九鬼に姉さんのデータを渡す訳にはいかないもの。荒っぽいやり方だったから機能不具合を起こしているけど、ちゃんとメンテして再起動すれば復活する筈よ」
睨みつける京、そしておなじく睨みつける大和に対し、平然とした様子で素直に答える少女。答えを聞いた後、京は一瞬百代の方に目をやると、金髪の少女に視線を戻し再度矢を射る。しかも今度は連続して。1秒に1発以上と言う速さで、1本外れた以外、他全てが正確に少女に向かって放たれる。しかし、少女は軽々とその全てを裁き、余裕の表情を見せた。
「無駄よ。私はエネルギーを吸えば吸うほど強くなる。そして私は武神だけでなく、この大会に参加した何人もの強豪のエネルギーを吸収している。その程度の攻撃は通用しないわ」
少女の言葉通り、京は一撃も当てることなく矢を全て使い尽くしてみせる。
そしてその状態で彼女は相手をまっすぐに見て言った。
「うん、わかってる。不意打ちとはいえ、モモ先輩を倒すような相手に私の矢が通用するとは思ってないよ。でも、これでいいの。これが大和の策通りだから」
「!?」
最後の一言をニヤリと笑いながら京。同時に後方に感じる巨大な圧力に金髪の少女が振り返る。
そしてそこに立っていた相手の姿に彼女は驚愕を露わにする。
「やってくれたじゃないか」
「なっ、どうして!?」
そこに立っていたのは武神と呼ばれる少女、戦闘不能となった筈の川神百代であった。