「どういうこと?貴女のエネルギーは吸い尽くした筈よ」
気を吸い尽くされた筈の百代が立ち上がっていることに驚愕した表情を浮かべる人造人間6号。そんな彼女に対し、百代は“袋”が取り付けられた京が射た弓を掲げ種明かしをしてみせる。
「ふふん、実は知り合いから一ついいものをもらっていてな。仙豆と言って食べるだけで、体力も気も前回、怪我も完治するという便利な豆なんだ。おかげで私は今、元気一杯だよ」
「なるほど、さっき、あなたの仲間が取った行動は私を倒すためではなく、それをあなたに渡すためのものだったていう訳ね。食べるだけで全回復なんて非常識な話だけど、まあいいわ。どの道、それで私が困る訳じゃない。いえ、寧ろ好都合ね。もう一度あなたのエネルギーをいただけるのだもの」
「ほほぅ、言うじゃないか」
謎が解けたことで余裕を取戻し、挑発的な言葉を投げかけてくる人造人間6号。それに対し、百代も獰猛な笑みを返す。
周囲に緊張感が走り、対峙する両者はしばし睨みあった後、同時に相手に向かって飛び出す。
「うわっ!!?」
二人が飛び出した瞬間に巻き起こったのは大和の悲鳴、そしてその原因となる暴風だった。百代と人造人間6号が激突し、その衝撃だけで台風のような突風を巻き起こしたのである。
「これはまずい、離れるぞ」
「うん。大和、急いで」
このまま近くで観戦して居ては危険と判断し、クッキーと京が大和をカバーしながら退避を開始する。
一方、百代と人造人間6号は激突後、拳の応酬へと移っていた。二人の間で交わされる拳の連撃。その速度はどちらも驚異的、常人は勿論、京クラスの実力者ですら半分も捉えられない程の速度である。この世界では一定レベルを超えた強さの者を『壁を超えた者』と評するが両者とも間違いなくその中でも更にトップクラスの実力を有していた。
「くっ、なんて力だ」
拳同士のぶつかり合い、それに押し負け百代の身体がはじかれる。そこで空いた距離を一気に詰める人造人間6号。
「無駄よ。あなたのエネルギーを吸収したことで、既に私のエネルギー量はあなたを大幅に超えている。パワーもスピードも私の方が上よ。それに私はアラレ姉さんとは違い、さまざまな格闘技術を身に着けているの。こんな風にね!!」
言葉と共に放たれるのは伸びあがるような拳の一撃。それはフックとアップの中間の軌道を描くガゼルパンチと呼ばれるボクシングの技であった。人間であればしなやかな筋肉を持つものしか撃てない必殺の拳がと百代の顎に吸い込まれるように撃ちこまれる。
「ぐっ」
苦悶の声をあげふらつく百代。更に人造人間6号は体を回転させ勢いをつけたハイキックを放つ。それを見て百代はガードを諦め、しゃがんで回避しようと試みる。しかし、間に合わずかわし切れなかった蹴りが彼女の頭頂部をかすめた。
「!!」
直撃すればコンクリートの大柱を一撃で粉砕できるだろう程の威力、かすめただけとはいえ既に頭部に一撃を受けていた彼女に対し、効果は絶大であった。脳を激しく揺らされ、意識を朦朧とさせてしまう。当然、その隙が見逃される筈も無い。胸元に掌底を叩きこまれ、その身体は弾丸のような速度で百代の身体は吹っ飛んでいく。
「姉さん!!」
地面に叩きつけられてようやく停止した百代の姿を見て、思わず叫ぶ大和達達。しかし、そこで彼等に対し、返ってきたのは予想外のもの。“笑い声”であった。
「あははははは!!」
地面に叩きつけられ、俯いた姿で、突如狂ったように笑いだす百代。
「えっ、モモ先輩、大丈夫……だよね?」
「だ、大丈夫だと思うけど」
「え、えーと、大丈夫かしら? やりすぎちゃった?」
そのあまりに異常な事態に近寄ることも躊躇われ、思わずその場に立ち尽くし、冷や汗を流しながら心配する京達。人造人間6号でさえも思わず、心配そうな声をだす。
「ああ、大丈夫だ。ただ、嬉しくてな」
声に答え、顔をあげる百代。その表情には口にだした言葉を証明するかのように満面の笑みが浮かんでいる。
「アラレと言いお前といい、まさか一日の内にこんなに強い奴らに二人も会えるとは思っていなかったな。まったく、世界は広い。これなら、悟空が帰っても退屈しなさそうだ。いや、よく考えたら悟空が帰ってしまったとしても何とか会いに行く方法を見つければいい。全く、戦える奴がいなくなるだとか、孤独になってしまうだとか、私らしくなくうじうじと考えてしまったものだ」
語るその表情は単に楽しい、嬉しいというのでは迷いが消えた、悩み事が無くなったと言ったような晴れやかなもの。ところがそこで、また唐突に彼女は表情を考える。
「決着が着いたのか。それに……まさか、一子の奴がここまで成長してくれるなんてな」
気を感じ取ることの出来ないものには脈絡も無く飛び出した一子の名前。実は百代は一子と釈迦堂が交戦になったことを少し前から気付いていた。釈迦堂は昔から一子には甘く、可愛がっていたことを知っており、その気から殺気は感じられなかったことで特に心配していなかったのだが、どうやらその戦いが、たった今、終結したらしかった。
その結果は勝敗で言えば結局予想通り“一子の負け”に終わったようであったが、その過程は彼女の予想を大きく覆したものだった。
(まさか、一瞬とはいえ、釈迦堂さんを本気に近い状態にさせるとはな。……本当に私のライバルになってくれるかもしれないな。未知なる強者に追いかけて来てくれる後輩か。全く、楽しいじゃないか)
流石に離れた所から気を感じるだけではどういう戦いを繰り広げたのか細かい所まではわからないが、釈迦堂に気を全開にさせたと言うだけでも以前の一子からは考えられない大殊勲である。正直な所、一度も期待していなかった一子の言葉。それを今、初めて百代は現実的な夢として夢想した。
「さてと、一子の頑張りに答えるためにも、姉としてここは意地でも負けてられないじゃないか」
追いかけて来てくれる妹のためにも、彼女の目標として負けられないとばかりに闘志を再燃する百代。今の彼女は未来への希望に満ち溢れ、気力は十分である。
しかしそんな彼女を人造人間6号は冷ややかな目で見る。彼女の中で、既に自分の勝利を確信的な出来事なのである。
「まだ、わからないのかしら? 最早、貴女に勝機などないのよ」
「ふふっ、それはどうかな。私は、もうお前の攻略方法を掴んだぞ」
「攻略方法? 負け惜しみにしては随分ね。そんなものがあると言うのなら見せてもらおうじゃないの」
自信あり気な笑みと言葉を返す百代に対し、それをハッタリと切り捨てる人造人間6号。
そして百代は今度は言葉ではなく、行動で反応を返す。右腕の掌に気を集中させ始めたのでだ。
「川神流……」
高められていく気。放出されれば山一つを吹き飛ばす程の威力がそこには秘められていた。しかしその強大な力を前に、人造人間6号はまるで臆することなく、寧ろ失望を感じたかのような態度を取って見せた。
「その一撃で私をどうにかしようと言うのなら無駄どころか、逆効果もいい所よ。放出した気の塊なんて、私にとっては格好の餌でしかないわ。言って置くけど、よくある漫画の展開みたいにエネルギーを吸収しきれず自爆なんて間抜けなことはしないわよ」
エネルギー吸収装置をつけた掌を見せて宣言する人造6号。しかし、百代はその言葉を気にせず発射態勢を取る。
「星砕き!!」
「愚かね、これで私の勝率は100%になったわ」
次の瞬間、両者は同時に手を突き出した。しかしその目的は真逆。百代は気を放つため、人造人間6号はその気を吸収するための動作。百代より放たれた極太のエネルギー波は地面を抉り、人造人間6号へと迫るが、人造人間6号が既に迎撃の態勢を取っている以上、彼女の宣言通りそのエネルギーは吸収されるのみ。
ただし、それは放たれたエネルギー波が直進しかしないのであればの話であった。
「曲がれ!!」
百代が叫んだ瞬間、放たれたエネルギーは野球のカーブボールのように軌道を変え、地面に着弾したのだ。悟空と模擬選をした時、彼はかめはめ波を曲げて見せた。それを真似て編み出した百代の新技である。
「なっ!?」
この世界でエネルギー波を曲げたものは今までいない。データに無い予想外な行動に狼狽する人造人間6号。
そして膨大なエネルギーが地面に叩きつけられることで、当然引き起こる大爆発は盛大な土煙をその場に巻き起こす。その土煙が目隠しとなり、6号が気付いた瞬間には百代は彼女の直ぐ目の前にまで迫っていた。
「くっ!!」
慌てて迎撃しようと足を振り上げ踵落としを放つ人造人間6号。しかしその一撃は回避され、空を切った足はそのまま地面にめり込んでしまう。
「技のキレは確かに凄いな。だが、レベルの近い相手にいきなり大技をだしてもそうそう当たるものじゃないぞ」
横にかわした百代からの駄目だしの言葉。それこそが人造人間6号の弱点、圧倒的な実践不足。例えば先程の攻防でハイキックを撃つ前に繋ぎの崩しを入れられてその後で撃たれていたら、その一撃で百代は意識を断ち切られそこで勝負は決まっていたであろう。生まれてまだ、短い人造人間6号にはパワーもスピードも技術もあれど、それを生かすための経験や訓練が不十分だったのである。
「川神流、川神百烈拳!!」
胴体に撃ちこまれる百連撃。如何に基本スペックで勝っているとはいえ、それだけの数の連撃を受けてはたまらない。形勢は一気に逆転、勝敗を決するとどめの一撃が放たれる。
「川神流、無双正拳突き!!」
その一撃は見事に決まる。しかし、その強烈な一撃で意識を失った彼女の身体は僅か数メートルしか吹っ飛んで行かなかった。なぜならば、猛スピードでこの場に現れた山吹色の胴着を来た人物によってその身体が受け受け止められたからである
「よっと、大丈夫か。おめえ。って、気い失ってるみてえだな」
「お、お前!?」
その人物の登場に驚く百代に対し、現れた男は軽い調子で返す。その人物の正体、それは言うまでも無い。主催者から百代と並び今大会、最大の優勝候補と目された存在。異世界からの客人。常に更なる強さを求める武闘家。
「オッス、モモヨ」
孫悟空である。
(後書き)
更新に1年以上も間が空いてしまってすいませんでした。
書きたいエピソードや活躍させたいキャラを入れ過ぎた結果、キャラの性格が変になったり、風呂敷を広げ過ぎて話がたためなくなったりしてしまい、一時は最初から書き直そうかなどとも考えましたが、まずは完結させることが第一と思い、強引ながらも続きを書くこととしました。一応、次回で完結の予定ですので、できればお付き合いよろしくお願いします。