一子は長刀、クリスはレイピア、京は弓、それぞれの得意の武器をもち、それに対し、背中に如意棒を背負った悟空。
そしてその両者の間には審判として百代が立ちあっていた。
「西方、川神一子、クリスティアーネ・フリードリヒ、椎名京」
「はい!!」
「はい!」
「はい」
答えると共に武器を構え闘気をたぎらせる武士娘3人。
「東方、孫悟空」
「おう、オラ何時でもいいぞ!」
如意棒は抜かず素手のまま自然体を取る悟空。
「いざ尋常に……始め!!」
「やあーーー!!!」
百代の試合開始の言葉が発せられると同時に気合いの掛け声をあげながら飛びだす一子。先手必勝とばかりに初撃を放つ。その一撃はかなりの鋭さがあり、しかしやや大振りで単調さが目立つ上段からの振り下ろしであった。
「よっと」
その一撃を切っ先を見切り、紙一重でかわす悟空。攻撃をかわされた一子は直ぐ様体勢立て直し2撃目を放つが、しかしそれも回避される。
「はあっ!!」
そこで今度はクリスが飛びだす。放たれるレイピアの一撃。真っ直ぐに伸びた鋭い突きが悟空の身体を貫く。
「クリス!!」
叫び、同時に矢を放つ京。悟空の身体を貫いた一撃は、クリスの腕に何の手ごたえも与えず、悟空の姿が空に書き消える。彼女が貫いたのは彼の残像であった。
そして本物の彼はクリスの真後ろに一瞬で移動していた。しかし、それを見逃さなかった京が彼に向けて矢を射たのである
「いい目してるな、おめえ」
京の放った矢を掴み、自分の動きに反応して見せた京に対し、感心した様子を見せる悟空。
それに対し、間近で見た悟空の動きに脅威を感じる一子達。しかしながら臆することはなく、一子が再び彼に向かって飛びこんでいく。
「たあ!!」
一子は真っ直ぐに近づくと、悟空の眼前、後少しで手が届く位の距離に近づいた所で、長刀の柄を地面に押し当てると棒高跳びのようにして、上空高く舞い上がって見せた。
「川神流……天の槌!!」
落下の速度を利用して放たれる強烈な踵落とし、その一撃を悟空は両手を交差して受け止める。
「おめえ、面白い技使うなー」
両手で一子の踵を受け止めながら楽しそうな表情で言う悟空。
そして悟空は腕を押しだし、一子の身体を弾き飛ばす。空中に投げ出され、無防備に近い状態になる一子。それをフォローしようとクリスと京が攻撃をしかける。
「零距離刺突!!」
「はっ!!」
クリス必殺の一撃と京の矢が同時に悟空を襲う。しかしそれらの攻撃は一瞬の間に抜かれていた如意棒によって弾かれるのであった。
「すげえな、あの3人相手に一人で互角かよ」
「いや、どっちかって言うと京達の方が押されてるね」
「ああ、けど、ワン子達には悪いけど、この位なら姉さんと互角てのはちょっと大げさだったのかな」
悟空と武士娘達の戦いを観戦し、3者3様の感想を漏らす風間ファミリーの男3人。そこに審判を務めていた筈が何時の間にか彼等の傍に寄って来ていた百代が現れ、大和の頭を掴んで解説を始める。
「甘いぞ、弟。今の悟空のスピードは本気の2割以下、パワーにいたっちゃあ1割も出してないだろう。総合的に評価するなら私と戦う時は今の50倍は強いな」
「げっ、まじかよ。つうことは、クリス達が100人以上居ても本気をだしたあいつに勝てねぇってことか」
「とんでも無いね。ってか、モモ先輩のとんでも無さの方も改めて理解させられるよ」
百代の説明に驚愕を通りこして呆れた表情をする岳人とモロ。一子やクリスとて重火器を持った相手にも立ち向かえ、表の世界最強クラスの一歩手前位の実力を持ち、握力100キロ越えの岳人でも敵わない位に強いのである。そんな彼女達の最低150倍は強いと言うのだから悟空や百代が如何に非常識かということがわかる話しである。
「そうだな。だが、今位に手加減した悟空にすら3人がかりで勝てないようではな……」
そこで一子を見ながら呟く百代。その表情は真剣で辛そうな想いが浮かんでいた。
「姉さん?」
「いや、何でも無い。さて、私もあいつが棒で戦うのを見るのは初めてだからな。手加減しているとはいえ、どう言った戦い方をするのか楽しみだ」
百代の様子がおかしいことに気付く大和。それに対し、百代は誤魔化すように悟空達の戦いに視線を戻した。
少し納得しないものを抱えながら大和も視線をそちらにもどす、そこには悟空の攻撃を必死に防ぐ二人の姿があった。
「てりゃてりゃてりゃ!!」
「くっ」
マシンガンのように連続して放たれる突き、そうかと思うと、旋回させ変化させてくるしなやかで縦横無尽な動きに二人は翻弄されていた。
「っと、ふぃー、京、おめぇ、あいかわらずうめえな」
「どうも」
京の放った矢を弾いて言う悟空。
如意棒が抜かれて以降、形勢は完全に彼の有利に変わっていた。しかし二人が追い詰められそうになると京が的確なフォローを入れてくれるので、何とか粘れている形になっている。
「ありがとね京。さーて、そろそろ反撃行くわよ!!」
「意気込むのはいいが、大丈夫なのか? 無策で行って勝てる相手ではないだろう?」
そこで気合いを入れ直す一子と突っ込むクリス。正々堂々を信条とし、正面から挑むことを好むクリスであるが、力の差を考えればそれは無謀でしかないと分かる。
そしてそんな不安を感じる彼女に対し、一子は妙に自信ありげな態度で答えて見せた。
「ふふーん。クリと初めて戦った時、お姉様に言われたのよ。『もっと本能で戦えって』」
「……それは、無策で突っ込むというか?」
一子の表情にクリスが呆れの表情を浮かべる。それに対し、一子が怒って叫ぶと、自分の作戦を説明した。
「違うわよ!! いい、まずアタシが突っ込むから隙をついてクリスが攻撃して」
「ふむ、だか、それではこれまでと同じではないのか?」
この戦い一番足を引っ張っているのは一子である。彼女がピンチになり、他の二人がカバーする。あるいは、一子とクリスがピンチになり、京がカバーする。大まかな流れはこの繰り返しだ。今、言った一子の作戦ではこれまでの流れを繰り返すだけのように思える。
そして一子の方も、そのことに自覚があったらしく、少しばつの悪そうな表情をした。しかし、直ぐに前向きな表情になって言った。
「まあね。けど、次はちょっと違うわよ。今までは悟空君に隙を作るところまでいかなかったけど、今度はやって見せるわ。戦いながらちょこちょこ試して、やっとコツを掴んできたから」
「コツ? なにやら、自信がありそうだな。わかった、犬、お前を信じよう」
「任せて!! じゃあ、行くわよ!!」
作戦が決まり、悟空に向かって飛びかかる一子。それを迎撃しようとする悟空。ここまではこれまでと同じである。しかし、そこからが違った。
「てえええええええい!!」
悟空の如意棒で放った突きを、一子は薙刀を高速で旋回させ防いで見せたのだ。継いで悟空は2撃目も放つが、一子はそれも回転させた薙刀で防ぐと、踏み込んで更に接近した
その動き方を見て百代はあることに気付く。
「ワン子の奴、悟空の動きを真似にしたのか!?」
一子が薙刀を旋回させた動き、それは悟空が如意棒を使い、戦いの中で何度か見せた動作によく似ていた。付け焼刃である筈なのに、妙に様になった感じで、百代からみても中々に見事な動きであった。
そして、彼女は必殺の一撃を放つ。
「川神流、山崩し!!」
「っと」
防御のために旋回させた勢いをそのまま使い、スムーズな流れで放たれ場一撃が悟空の脛を狙う。それをバックステップしてかわす悟空。しかし、突然動きのよくなった一子に驚いたのか中途半端な高さに飛んでしまう。
「そこだ!!!」
それは千載一隅のチャンス、空中に着地するまで、自由に身動きの取れない一瞬の隙を狙ってクリスが全速で走り込み、その加速を全て生かした突きを放とうとする。それに対し、如意棒を構える悟空。
(取った!!)
しかし、クリスは勝機を確信する。加速した勢いを使えば、悟空の如意棒で防御しても棒ごと弾き飛ばせる。空中では回避はできない。カウンターを狙ってきても悟空の如意棒とクリスのレイピアでは腕の長さを考慮しても彼女のリーチの方が長いため、成功しない。
悟空が本気をだせば幾らでも対処の手はあるが、そうでない限り、この一撃が決まるのは確定の筈だった。ただ一つ、誤算がなければ。
「伸びろぉぉぉ、如意棒!!」
「なっ!?」
それはクリスが悟空の持つ棒をただの棒だと思っていたことである。一気に長さを増した如意棒が高速で接近していたクリスに対し、カウンターで決まる。
完全な直撃が決まり、その場に倒れるクリス。
「クリ!!」
(馬鹿!! まだ、終わってないぞ)
「っと」
クリスに気を取られる一子。内心で警告の声を発する百代。
そして一子の首筋に、彼女が気を取られている間に接近していた悟空の手刀が入れられる。
「これは……駄目だね。降参するよ」
一子が気を失うのを確認し、仲間2名の戦闘不能に勝ち目無しと判断し、最後に残った京がギブアップをするのだった。
(後書き)
戦闘シーン、前半はDBぽく、後半は真剣恋ぽくを意識して書いてみたつもりです。
両方の作品のバランス取りに苦労しつつ、割と楽しんで書いてたり。