悟空達が落ちた崖、その下には森林が広がり、そこで悟空と人造人間7号は戦いを繰り広げていた。
かなりの高さの崖を落ちたにも関わらず、大した怪我を負うことのなかった悟空であるが、それにも関わらず防戦一方となっている。それは目の前の相手が友人とは別人であることを未だに理解しておらず、何とか話し合おうとしていたからである。
「わっ、ほっ、ふっ、何すんだハッチャン、やめてくれ!!」
攻撃をかわしながら説得する悟空に対し、当然の如く7号は止まらない。大振りの拳を次々と振るってくる。その一撃は凄まじい破壊力で、避けた悟空の後ろにあった、高さ10メートル近い大岩を粉砕してみせる程であった。
「ひぇー、やっぱすげえな、ハッチャン」
砕け散った勢いで飛び散り、地面に落下する無数の岩の残骸を見て、感心した声を上げる悟空。
それに対し、彼の言葉を聞いた7号は振り返ると再度自分の名を名乗ってみせた。
「違うと言っている。俺は人造人間7号だ」
「へっ、何とか7号って、おめえほんとにハッチャンじゃねえんか?……そういや、ハッチャンは自分のこと何とか8号とか言ってたな。んで、おめえが7号ってことは……もしかしておめえ、ハッチャンの兄貴なんか?」
ようやく別人であることを受け止めた悟空は7号と8号と言う名前と、見た目が一緒なことを考え、二人が兄弟であるのではないかという結論をだす。その言葉に今まで、悟空が何を言っても攻撃をやめなかった7号は初めて手を止めてみせると悟空に対し、問いかけた。
「……お前の言う、ハッチャン、人造人間8号のことか?」
「おう、確か、そんな名前だったぞ。呼びにくいからオラ、ハッチャンって呼んでんだ」
「そうか。……俺と8号、同じ時期に作られた同型機。けど、俺の方が少しだけ先に作られた。だから俺は8号の兄と呼べないことも無い」
悟空の問いかけに7号は少し考えてから肯定の意を示す。それを聞いて、悟空は楽しそうな笑顔を浮かべた。
「そっかあ。ハッちゃん、兄貴が居るなんて言ってなかったかんな。オラ、びっくりしたぞ」
「お前、8号と知り合いなのか。今、あいつはどうしてる? 今もレッドリボン軍に居るのか?」
「ハッチャンならオラの友達だ。レッドリボン軍ならオラがぶっつぶしてやったからもうねえし、今はジングル村で元気に暮らしてっぞ」
「友達……元気に……」
悟空がハッチャンと知り合いであることを知り、興味を示した7号は悟空の答えに更に驚いた表情を浮かべる。
そしてその事実を噛みしめるように呟くと優しい笑顔を浮かべた。
「そうか……よかった」
「やっぱ、おめえ、ハッチャンと同じでいい奴なんだな」
その温かさを感じる笑顔を見て、悟空は目の前に居る人造人間7号もハッチャンと同じく優しい存在だと確信した。しかし、その言葉を聞いた7号は予想外な反応を見せる。突如優しい笑顔を険しいものに変え、再び悟空に挑みかかったのだ。
「俺、お前を倒す!! それで、この大会に優勝する」
先程まで、ハッチャンの話しをしていた時とは一転した態度。その表情は何か強い決意を抱えているかのようだった。今まで以上に勢いを付けた拳が振るわれ、その一撃が悟空に直撃する。
「!!」
「いきなりひでえな。けど、おめえもKOSの参加者だったんか。だったら遠慮することはねえな。おめえがやるってんなら、オラも相手してやっぞ!!」
大岩をも粉砕する威力を秘めた7号の一撃は構えた悟空の腕によってがっちりと受け止められていた。
そしてその腕の隙間から見える悟空の目。それは先程までの戸惑ったものではなく、相手を憎んだり、怒ったりするものでもなく、純粋に戦いを楽しもうとする者の目へと変わっていたのである。
「ぐっ」
「おめえはつええかんな。オラも本気でいくぞ」
戦闘モードに入ったことで変わった悟空の気配に威圧されたかのように上半身をのけぞらせる7号。しかし、自らを奮い立たせるように気合いの叫びをあげると彼に向かって飛びかかる。
「うおおおお!!!」
「てりゃあああ!!!」
それに対し、同じく雄叫びをあげ真っ直ぐに拳を振るう悟空。脇に潜り込む形で、カウンターのようなタイミングで放たれた一撃が7号の胸に直撃。その一撃の威力で、見た目を更に超える重量を持った7号の巨体が吹っ飛んで行こうとする。
「うぐっ!!はあああああ!!!」
そこで再度気合いの雄叫びをあげる7号。背中に取りつけられたブースターから火花が迸り、後方に飛ぶ勢いを一瞬で殺し、そのまま一気に前方に加速し悟空に再度突撃をする。体当たりにも近い形、勢いをつけた状態で拳を振るい、硬直した状態から回復しきっていなかった悟空の顔面を殴りつけた。
「うわっ」
凄い勢いで顔面を殴られ、今度は悟空の身体が吹っ飛んで行きそうになるが、足を踏ん張りなんとか堪えて見せ、その場に踏みとどまってみせる。
「へへっ、オラ、ワクワクしてきたぞ」
「……」
そして口元から流れる血を拭うと言葉通りに興奮した表情を浮かべ、それに対し7号は無言で答えるのだった。
(よかったわ。釈迦堂さんは、どうやら動く気は無いみたい)
「くそっ、てめえ、やるじゃねえか」
赤い髪の少女、板垣天使の攻撃を捌きながら、釈迦堂が戦いに加わる様子を見せないことに安堵する一子。彼女は今、彼の動向に気を配りながら、目の前の相手からも注意を逸らしていない。相手はゴルフクラブと言う武器を持ち、自身は素手と言うハンデを背負いながらだ。それだけの実力差が今の二人の間には存在した。
「なら、こいつでパワーアップだ!!」
余裕を感じさせる一子の様子にいらついた天使はポケットからカプセルを取り出すと、そのままそれを飲み込んで見せる。すると彼女の目がかっと見開かれ、全身から湧き出ていた殺気の勢いが強くなる。
「ヒャッハ―、エンドオブワールドだぜ!!」
「動きが速くなった!? まさか、麻薬とか?」
薬の服用後、パワーとスピードを増してみせる天使。それを見て驚く一子に対し、天使は嘲笑うかのように種明かしをする。
「ただの興奮剤だよ。努力なんてダセえことに必死になんなくても、こんな簡単に強くなれるんだぜ!!」
「むっ、その言葉、聞き捨てならないわね」
天使の言葉を聞いて、表情をむっとさせる一子。誰よりも努力し、それが報われると信じ続けてきた彼女にとって、努力を軽視するその言葉は決して認められないものだった。しかし、その怒りを何とか堪えて見せ、一旦距離を離す。
「はぁ、はぁ……はっ!!」
そして呼吸を整え、構え直すと裂帛の掛け声を吐くと同時に、一気にその開けた距離を詰めてみせる。その予想を超えた速さに目を見開く天使。彼女の腹に一子の掌底が突き刺さる。
「あがっ」
もろに一撃を受け、身体をくの字に曲げ、口から唾液と胃液の混じった液を垂らす天使。そこで一子は拳を一旦引くと、駄目押しの一撃を撃ちこむ。
「川神流、蠍撃ち!!」
突き刺さる正拳。内臓がある地点に撃ちこむことで、身体を内部から破壊する必殺の一撃を受けた天使は口から吐く液体を血反吐へと変え、その場に崩れ落ちていく。そんな彼女に対し、一子は言葉を放って見せた。
「努力を馬鹿にするんじゃないわよ!!」
それは薬に頼った天使に打ち勝つことで、自らの努力の意味を証明してみせる強さだった。そんな二人の戦いを傍から見ていた釈迦堂、彼は驚愕の表情を隠しきれないで居た。
(こいつあ、驚いた。2ヶ月位前に見た時の見立てじゃ、いい勝負だと思ったんだが。まさか、あそこまで一方的なるとはな。しかも“あんなもの”をつけたままでな。一体どういうトリックを使ったんだか知らねえが、一子の奴、この短期間で川神の準師範代クラスにまで成長してやがったんじゃねか?)
彼が知る一子と比べ、現在の彼女は技量的にも上がっているが、なによりも身体能力の向上が異常なレベルであった。その成長を見て釈迦堂は驚きと同時に喜びと興奮が抑えきれないで居た。
川神院に居た頃、彼は自分を恐れることもへつらうことも無い無邪気さと明るい強さを持った一子のことを割と好ましく思い、百代と並び可愛がっていた。故に彼にしては極めて稀なことに、思いやりの気持ちから一子には武術家の道を諦め、別の道を歩むべきだと考えていた。彼女には才能が無いとし、その夢である川神院の師範代になれる可能性は全く無いと判断していたからだ。
しかし今、彼女はその予想を覆す強さを彼の前で見せた。未だ師範代のレベルには遠く及ばないが、それでも彼女の年齢を考えれば将来的に辿りつけるかもしれない。可愛がっていた相手が夢を叶えられる望みがでてきたのならば、彼としても嬉しく無い訳でない。故に喜びがある。
そして興奮の方はと言うと。
(もし、本気の一子が俺の予想よりももう一段階上だとすると。くくっ、ちょっとばかし、確かめてみるとすっか)
久々に遣り甲斐のある獲物を見つけたかもしれないという獣の疼きであった。
(後書き)
間が開いてしまってすいません。次も更新は少し遅くなるかもしれませんがそろそろ完結が近づいてきたので、なんとか頑張りたいと思います。
PS.誤記が多いというご指摘を受けました。一応、何度か見直してから投降してはいるのですが、気付いたところがあれば、指摘していただけるとありがたいです。