これは川神百代が孫悟空と出会った頃にあった出来事である。
百代は『風間ファミリー』と呼ばれる友人グループに属している。
幼馴染7人に新人2人を加えたそのグループであり、彼女にとって最も居心地の良い場所に一つである。
そしてそのグループには9人を纏める一人のリーダーが居る。
彼の名は風間翔一、彼は今、危機に陥り、そしてこの上なく興奮していた。
「くぅ、まさか、この目で本物の恐竜を目にすることができるとはな」
「ああ、全くだ。だが、今はこの危機を乗り切ることを考えないとな」
翔一は今、父親と共に大きな岩の陰に隠れていた。その岩の向こうには、彼等の会話に出た存在“恐竜”が存在していた。
全長20メートル程度、ティラノサウルスに似た外見をした巨大な爬虫類。当然のことであるが、翔一が産まれ住む地球には現在そのような生物は存在していない。にもかかわらず、彼等の直ぐ側にそのような存在が徘徊しており、その存在によって彼とその父親は命を脅かされていた。
この状況は九鬼財閥がクローンで絶滅した生物を復活させたと言う訳でもなく、勿論、模型やロボットだと言う訳でもなく、彼等が今居るのが、“彼等が産まれた地球”ではないからであった。
南米の奥地で発見された遺跡を冒険家である父親と共に探索した翔一は隠し通路を発見。その先にあった『この扉をくぐりし者、強き魂持ちし者ならば、未知なる世界へと誘わん』と書かれた扉を潜った所、一瞬めまいを感じたこと思えば、気がつけば二人は見知らぬ場所、異世界へと移転していたのである。
そしてそこで二人は恐竜を発見、同時に二人は恐竜に発見され逃走。現在、隠れてやり過ごそうとしているのであった。
「大きな声を出すなよ」
「おう、俺も食われて、消化されるのはごめんだからな。しかし、この興奮を思いっきり叫べないのは辛いぜ!!」
小声で注意する父親に対し、小声で答える翔一。自由奔放と言う言葉を形にしたような二人であったが、慎重さもなければ冒険家などやっていられない。興奮や緊張から大声をだしたり、物音を立てるような迂闊な真似はしなかった。
「ぐぅぅぅぅぅ!!!!!!」
「……親父、どうして居場所がばれたと思う?」
「嗅覚が鋭いのかもしれんな」
最も、ミスをしようがしまいが、結果として見つかってしまっては、それは何の意味もないのだが。
「うおおおおおおお!!!!」
「うおおおおおおお!!!!」
風の如き速さで逃げる二人と追いかける恐竜。最近の定説では骨格等から予想し、ティラノサウルスは走るのに向いた体のつくりをしておらず、巨体を考慮に入れてもその走る速度は人間の足で逃げ切れる程度と言われている。故によく知られた凶暴で強い恐竜とのイメージとは異なり、実際はハイエナのように他の動物が狩った獲物の残りを餌としていたのではないかと予測されているのだ。
しかしその説が間違っていたのか、あるいはそもそも目の前の恐竜をティラノサウルスと同一視すること自体が誤りだったのか、人間としては快速である二人を上回る速度で恐竜は走り追いかけてきていた。
「くそっ、はええ!!」
「おまけに凄いパワーだな」
最初に隠れていた岩や木々などの障害物を利用して何とか逃げる二人だったが、恐竜は足が速いばかりでなく、障害物を破壊しながら進むパワーまでも備えており、間の距離は数百メートルもない。加えて走り続けた消耗から二人の体力は尽きかけており、このままでいけば二人が追いつかれ食われてしまうのは時間の問題であった。
「こうなったら翔一、俺が囮になる。お前だけでも逃げろ!!」
「なっ、何、馬鹿なこと言ってるんだ、親父!!」
自らが犠牲になると発言する父親に翔一が走りながら叫ぶ。それに対し、父親は同じように走りながらニヒルな笑みを浮かべ答えてみせた。
「心配するな。俺一人なら上手く立ちまわって見せる。お前は自分のことだけ考えてろ」
「んなことできるか!!」
自分も生きて見せるといいながら、父親のその表情には覚悟が浮かんでいた。それに気付き、納得できないと叫ぶ翔一。とは言え、このままでは二人共食われてしまうだけなのは明らかである。何とか打開策を考える翔一。何かいいものは無いかと周囲を見渡し、そこで彼の目にあるものが入った。
「親父、あそこだ!!」
足を止めあるものを指差す。それは進行方向右手の岩壁に開いた洞穴だった。全長2メートル位の大きさで、人間は入れるが恐竜は入れないサイズ。恐竜のパワーと言えど木と違い、岩は破壊できないだろうから逃げ込むのには最適な場所だった。
「よし、行くぞ!!」
当然、父親もこれに賛同し、方向転換しその場所を目指す。当然、追いかけてくる恐竜。洞窟までの距離はどんどん小さくなる。だが、それと同時に、二人と恐竜の間にある距離も詰まって行く。
「くっ、間に合え!!」
長時間走り、疲労の溜まった体に鞭打って二人は走る。
洞窟までの距離は後、100メートル。
「あと、一息だ、翔一!!」
残り、70メートル。
「親父踏ん張れ!!」
40メートル。
「「うおおおお!!!」」
気合いの叫びをあげる二人。だが、そこで二人の強運は尽きた。洞窟まで後、20メートルと迫った所で、恐竜が二人に届く距離にまで追いついたのである。二人を喰らおうと大口をあけ迫る恐竜。
「くっ」
流石の二人も死を覚悟し、そして、鮮血が舞った。
「!?」
牙を折られ、口から血をだした恐竜の鮮血が。
それを為したのは一人の男。二人が目指した岩壁の上、崖になっている所からその男は飛びおり、そしてその勢い恐竜の顔面に蹴りを見舞ったのである。
そしてその男は一旦、地面に着地すると再び飛びあがり、その両手を獣のかぎ爪のような形にし、恐竜の顔面に連撃を見舞った。
「狼牙風風拳」
狼の牙を連想させる鋭さを持って、マシンガンの弾丸の如き速さを持って振るわれる連撃。それを受け、恐竜は白目を向くと昏倒しその場に倒れた。
「すげえ、まるでモモ先輩みたいだ」
感嘆の声を上げる翔一。ちっぽけ人間が巨大な恐竜を虐げる。あまりに非常識な話しである。そのような非常識なことができそうな存在を彼は今まで一人しか知らなかった。
そして、彼にとって二人目となった非常識な存在が二人のもとへ近づいてくる。
「危なかったな。怪我はないか?」
「おう、助かったぜ!! 俺は風間翔一。あんたは!?」
興奮し、名前を恩人に対し名前を尋ねる翔一。少しばかり失礼な行動であったが、男は特に気にした様子もなく、苦笑だけを漏らす。
「その様子だと大丈夫そうだな。ああ、俺の名前だったな……」
そして男は自らの名前を名乗った。
「俺の名はヤムチャ。武闘家さ」
(後書き)
普通の物差しで測れば、すっごく強いヤムチャが普通にかっこいい話って感じで書きました。
後、無印DBの世界はキャップに物凄く似合いそうだなあって思って書きました。