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No.30400の一覧
[0] 【チラ裏】Knights of the Round Table【Fate/ZERO】[ブシドー](2011/12/04 18:57)
[1] かくして、円卓は現世に蘇る[ブシドー](2011/11/06 22:52)
[2] 開幕舞台裏[ブシドー](2011/11/10 01:16)
[3] 王と騎士(上)[ブシドー](2011/11/12 23:28)
[4] 王と騎士(下)[ブシドー](2011/11/19 22:30)
[5] 【閑話】苦悩と敵対[ブシドー](2011/12/04 16:51)
[6] 桜の大冒険[ブシドー](2011/12/19 22:50)
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[30400] 王と騎士(下)
Name: ブシドー◆e0a2501e ID:10f8d4d5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/11/19 22:30


モードレッドが剣を振り上げる。



それは膝を着き、頭を垂れる罪人のように項垂れるセイバーの首を一太刀に落とす一撃だった。
その一瞬、セイバーは自身の体内時間が急激に遅滞していくのを感じていた。
ああ、これは経験があるな、とセイバーは思い返す。
炎と騎士、兵士たちの死体に埋め尽くされたカムランの丘。そこで肩を上下に揺らして荒い呼吸を繰り返すモードレッドとの決戦。
セイバーの持った槍がモードレッドの腹を突き破り、勝利を確信したときだ。
モードレッドの被る兜の中から呪うかのような声。
そして次には吐き出したようにむせ返る音と血液が漏れ出し、そしてモードレッドは上段に構えた剣を残った力の限り振り落とす。
それを、呆然と見ていたときと同じだった。
自分がこれから死ぬという事実を避けれない、空虚な感覚。走馬灯というのに似ているのだろう。
セイバーはゆっくりと顔を上げる。
上げるという感覚はないが、視線はその先に向けられていた。

「(ガウェイン……)」

まるで獣のように本能で、そして絶えず鍛え続けたような洗練さを持ったバーサーカーの剣を回避し、逸らし、反撃するガウェインの姿を見た。
イレギュラークラス“ナイト”として呼ばれた彼は、騎士のサーヴァントとして適切な扱いだろう。
セイバーは、そのガウェインと一瞬だけ瞳が合った気がした。
目を見開き、一瞬で後悔に包まれた彼の表情はバーサーカーの肉薄によって見えなくなる。
あのガウェインがそう驚愕するとは、自分はどんな顔をしているのだろう?

「(ラモラック、ユーウェイン……)」

剣と槍を合わせたまま固まり、こちらを凝視する二人を見る。
次いで、ラモラックはこちらへ駆け出そうとし体を令呪による紫電で制御され、ユーウェインは虚空から出現させた剣を手に投擲の体勢になって、射軸が合わず躊躇する。
彼らは、こちらをどうにか助けようとしてくれているのだろう。それだけで、まだ救われたような気がする。
セイバーのために動こうとしたそれは王を守ろうとする騎士の動き。
それはセイバーが王として君臨していたときの忠義の名残りだとすれば、彼らの厚意に静かに感謝した。
同時に、目の前で王の首が飛ぶという光景が彼らにとってどう見えるかあまり考えれないと思う。
セイバーは王として、ブリテンの守護者として値する者じゃないと自身は思っている。
彼らはそう思っているかは分からないが、気づけば小さく謝罪の言葉を告げていた。

ありがとう、すまない、ごめんなさい、ごめんなさい.。
ごめんなさいごめんなさいごメんなさイごメンなさいゴめんなサいごめンなさいごめンナさい――――――ゴメンナサイ。

脳裏をまるで呪いのように駆け巡る後悔の言葉。
これもカムランの丘で思ったことの繰り返し。
王の裁定のやり直しは、あの丘を見て自分がこの光景を生み出したという後悔に押し潰されたくないという、セイバーの逃避した願い。
それだけは思っちゃいけないのに。
だけど私よりも優秀な王にブリテンの守護を任せたい。そうすればあの悲劇は起きなかったのでないか?
だからこそ、王としてのセイバーを消す。そう自身に言い聞かせて、納得して、そして召喚された。
だからこそ、セイバーは死の間際に呟いていた。
それは最も言ってはならない、アーサー王として騎士たちと共に戦った全てを裏切る言葉だった。




「――――私は、王になどならなければよかった……」




迫るアヴェンジャーの剣と殺意が、止まる。
それを訝しげに思い、顔を上げるとそこには無表情となって固まったアヴェンジャーの、モードレッドの顔。
剣は後頭部に纏められたセイバーの髪とリボンを切ったのか、はらりと髪がセイバーの頬を撫でる。
髪を下ろしたセイバーの顔を見たアヴェンジャーはその顔を更に人形のように固め、剣を下ろしていた。

「………なぜ、斬らないのです!」
「冷めた」

セイバーの叫びにモードレッドは淡々と、たった一言だけ返す。
そして剣を肩に担ぐようにしてセイバーへと背を向けたモードレッド…アヴェンジャーは大号令を発する王のような大声量を持って声を上げる。
それは姿形だけで言えば、アーサー王と変わりない光景。
まるでセイバーは鏡を見るように、同じ姿の少年を見ていた。

「今宵はこれまで!残るもよし、戦うもよし、誘いに呼び出されてくれて感謝する!」

別に貴様に呼ばれたから来たんじゃない。サーヴァントの気配に呼ばれて来たんだ、と言いたげにランサーとライダーはアヴェンジャーを見る。
それを鼻で笑うように受け流したアヴェンジャーは、地面に座り込んだままのセイバーを見下ろし、口を開いた。

「……私は小娘を斬るためにこの戦に参加したわけじゃない」
「なっ……モードレッド!貴様は私を、アーサー・ペンドラゴンを憎んでいたのだろう!?王の首級を前にそれを今果たそうとせずに何を……!」
「黙れ!その腑抜けた顔で王を語るな、小娘!!」
「――――ッ」

アヴェンジャーのはセイバーの目の前に自身の剣、王位の宝剣クラレントを突き刺す。
そしてアヴェンジャーはセイバーが自身の得物として所有している聖剣・エクスカリバーを拾い上げ、それの調子を確かめるように二、三度振る。
セイバーが疑問の声を上げる前に、アヴェンジャーは言った。

「貴様は、私が殺したい王とは最早違う――――――貴女は、父上はっ……どうしてそんなに脆くなっているのですか……」

ポツリ、とまた湖面のように静かになった声色でアヴェンジャーは言った。最後は縋るような声だ。
安定しない彼の言動や態度、その全てにセイバーは思考が追いつかないが、理解できることはあった。
アヴェンジャーは、モードレッドは、王である自分のままを殺したいのだ。
だが、それを果たす前にセイバーは折れた。折れてはいけないのに、折れてしまった。
アヴェンジャーは最後まで王として絶望したセイバーを殺したかったのに、騎士王アルトリア・ペンドラゴンではなくただのアルトリアとしか言えない存在に戻りきってしまったから。
だから、アヴェンジャーは斬らないのだ。
それはモードレッドにとっても、アヴェンジャーにとっても想定外だったのだろう。
彼の知る王とは、追いつけない高みにいた存在だった。
だが、それがただの少女としか感じれないほどに落ちた存在になっている。
それが認められない、理解できない……そう叫びを上げるモードレッドの心は、完全に混濁していた。

「アルトリア・ペンドラゴン。貴女は王だ、王でなければならない……さぁ、剣を執れ!王として名乗りを上げろ!!その剣を反逆者の胸を突き刺してみせろ!!!」

そう、モードレッドは謳い上げる。
己の胸を指差し、王として反逆者を討つために剣を執って立ち向かえと
さすれば、目の前に指されたこの王位の剣は、カリバーンの代わりなのだろうか。
カリバーンが王を選定する剣ならば、クラレントは王位を戴冠する剣。そのどちらもが王の剣だ。
これを引き抜き、王としての覚悟を再度持てということなのか?
モードレッドは続けた。

「貴女はこの程度で折れる剣ではない!王としての器を問うたあの時、私は貴女に届かないと理解させたあの王の姿はどうしたのですか!」

人が変わった、というのがピッタリくるのだろう。
今ここにはどこまでもセイバーを苦しめようとしていたアヴェンジャーとしての姿はなく、王へと心情を叫ぶ一人の騎士がそこにはある。
情緒不安定な子供。
そう例えるよりもコインの表と裏、リバーシブルな変化がモードレッドにはあった。
それがバーサーカーのクラススキルである“狂化”と似た、アヴェンジャーというクラスに適用されるようなものかは不明だ。
だが、モードレッドの叫びが真から出ているというのは、この叫びを聞いた全員に理解が出来ていた。




だが、それでも、そうも言われていても―――。
セイバーは、アルトリアは剣へと手を伸ばせない――――伸ばさなかった。




「私は、王を……名乗れない……」
「―――――――――ッ………!!」


泣きそうな顔で、全てを諦めた瞳でそう吐き捨てたセイバーの姿に、モードレッドは叫び声を咽喉の奥に押し込んだ。
そうして耐えなければ、今すぐにでも激情に駆られてしまいそうだから。
アヴェンジャーとしての本質が、まだ殺すな、とモードレッドを押さえつけていた。
それでも、抑えきれない呪いが、モードレッドから吐き出される。

「なら、なぜ……!なぜ貴女は、王になった!?」

モードレッドにとってアルトリア・ペンドラゴンとは自身の主であり、父であり、もう一人の自分だった。
それは母モルゴースによって生み出されたホムンクルスである自身にとって、“男のアーサー王”としての役割を与えられたことは深い悩みの渦へと自身を招いていた。
―――円卓の騎士の多くは、アルトリア・ペンドラゴンを女性だと見破っていた。
それはアーサー王の義兄でもあったあのケイ卿が匂わせていたというもあれば、幾つもの戦を共に駆け抜けたからこそ気づいた者もいる。
中には全く気づかない者もいたし、王としての器に性別など関係しないと言った者もいる。
だからこそ、それを騎士たちは問わなかった。
王が自身を男と言うのであればそういうことであり、それに異論を挟むことを許されない。
アーサーの妻であったギネヴィアもそれは理解していて、ランスロットはそれを不憫に思っての行動が円卓が割れた要因だ。
母は、モルゴースはそういった王国の崩壊を防ぐため――――男としてのアーサー王を、モードレッドを生み出したのに、意味はなかった。
ただ王の、男としての一面を補足するためだけの命。
そのために常に兜へと顔を隠し、自身を常に偽る。それが生きる意味だったが、必要とはされない毎日。
それを不満に感じたことも、疑問に感じたこともない。
敬愛する父に、そして王へと忠義を尽くせるということに純粋に喜びを感じていた。
ただ、それでも、そうであっても、モードレッドにとって全てであった母が殺されたことはモードレッドの中に闇を落とした。
他に誰も存在しない野営地。
王と対面する機会を得たモードレッドはアーサー王へと問いかけたことがあった。

『王よ!なぜラモラックを討ち取らせてはいただけない!?殺したのは兄ガヘリスと言えど原因は我が母の仇、ラモラックです!そして貴方の姉なのですぞ!?』
『……円卓の力と結束を削ぐことは、王たる私が許しはしない』
『王ッ!!』
『―――下がれモードレッド。王の決定に逆らうか』

この時の会話をしたのが戦の直前だったというのもあり、余計な問題を持ち込みたくなかったのだろう。
だがそれはモードレッドにとって見捨てたと感じるに十分すぎた。
その小さな炎は、着実にその勢いを広げていった。
炎は燃え広がるままに、憎しみをもってモードレッドはラモラックを殺した。王は何も言わなかった。
モードレッドはその頃から、母モルゴースの姉であるモルガンを慕い、相談した。
あのとき、体は恐怖に震えていたと思う。

『王はまるで彫刻のようだ。心内で父と慕ったあのお方ではない何かが王を名乗っている』

モードレッドからすれば、アーサー王はただ何を考えているか理解できない存在へとなっていた。
母が殺されても深くは言わず、ラモラックを殺しても多くを問わない。
ただただ変わらないことを維持するために、完璧な王という鎧を纏っているように感じれた。
それは動乱の時代であれば救世主のように思えるほどに威風堂々とした姿だったのだろう。
だがブリテンが―――ログレスが統一された後、アーサー王は、アルトリアという存在を多くの人々が恐ろしく感じたのだ。
年を取らない少年王、その気高き魂は負けを知らず、王国へと平和をもたらす赤き竜。
王国を守るために、治めるために人としての一面を何も見せなかった。
それでは、まるで人形だ。

―――王は人の心が分からない。

それは、人間ではないから?
なら人間でないものから作られた私は、化け物じゃないか。
モードレッドは一人、恐怖する。
そして、自身でも気づかずに自分を肯定する何かを得ようと、行動した。


―――聖杯を求めた。
―――王の息子として王位を継ごうとした。
―――反逆の大罪を犯し裏切りの騎士の名を広めた。


いや、最後の反逆はモルガンの思いでもあったな、と思う。
アーサー王を補完するためでなく、アーサーを殺し新しい王へとなる。そうモルガンはモードレッドに聞かせていた。
王を憎んでいたモルガンは聖剣の鞘を盗み出し、モードレッドは反逆を選んだが、それはあくまで後付けの理由だ。
ただ存在自体が個として無い私に色を染めてくれるのがそれだけであって、私はどうにでも転がっただろう。
空の器に中身を満たすのは酒でも水でも油でも、たとえ毒でもいい。どんなものであっても、器は受け入れる。
だが、アヴェンジャーという中身は器すら蝕むものであるのをモードレッドは実感していた。

アヴェンジャーは、呪いだ。

全うな英霊であっても上から塗り潰すだけの底暗さを持った汚濁。
それを注がれてもなお自我が存在するのは、まさにモードレッド自身が“器”であるからだった。
モードレッドとアヴェンジャー。その二つが今、拮抗していた。
『アーサー王を殺したいモードレッド』と『絶望に沈んだアルトリアを犯したいアヴェンジャー』はお互いを奪い合う。
最初はアヴェンジャーで、今はモードレッド。
この一瞬の先にはモードレッドでなくアヴェンジャーと成ってるかも知れない。
その前に、モードレッドは奥底に沸き上がる「目の前の少女を汚す」という衝動を押さえ込む。
ああ、でも今目の前にいる少女は“俺”好みなどこまでも濁った瞳を―――。



―――――そう、そこまで考えて、モードレッドは体を貫く鈍い衝撃を感じた。
視線を下に、自身の胸に向ける。
そこには、胸を貫通して突き立った1本の矢。
声を押し潰すように、咽喉を、口内を、肺を、融けた金属のように粘ついた血が満たした。

「あ―――――」

不味い、マズイ、まずい。
モードレッドの直感が警告する。
この一撃は、己の存在を綻ばせるのに十分すぎる―――。

「あ、アーチャー…!!貴様……ガァ―――ッ!?」

今度は腿、そして頭部。
急所である頭部に迫る矢を弾いたその隙に腿を打ち抜かれる。
次いで、膝の関節を同時に打ち抜かれ、モードレッドはそのまま体を地面へ投げ出した。

「モードレッド!!」

セイバーは立ち上がり、剣を拾い上げ、モードレッドを庇うように背におく。
その背は、その気迫は、モードレッドが望んでいた王の物。
王としての気の中に、別の何かを混ぜたような声でセイバーは問いかけた。

「モードレッド!無事ですか!!」
「これが無事に見えるのでしたら、無事なのでしょうね………」
「無理に喋らないで!」

突き立てられたクラレントを杖に、モードレッドは片手を差し出したセイバーの手は借りず立ち上がる。
そのままセイバーを見据え、こちらの様子を伺うような子供じみた顔をし出したセイバーへ剣を突きつけ、体を霊体化させる。
体の輪郭が消える前に、モードレッドは出血のためか青くなり始めた顔を引き締め、口を開いた。

「貴女に、聖杯は渡さない」

モードレッドには理解できた。
「王になど成らなければよかった」というセイバーの呟きは真実であり、それが望みであると。
だとすれば、それは自身に対する類を見ない最大の裏切りだ。
そうはさせない、とモードレッドは思う。でなければ、自分の生涯に意味は無くなるのだから。

「………聖杯を得るということは、全ての騎士を斬り捨てたその血の先に掴めると思うことだ。アルトリア・ペンドラゴン」

ただ、一言。
呪いを残し、モードレッドは消える。
それを何も言えず、騎士の姿をした少女はただ無言で見送った。
直後、バーサーカーは咆哮と共にその姿を消す。その先には傷こそないものの消耗したガウェインと、周辺には砕けたバーサーカーの得物。
それも直後、帰還の命が出たのか、セイバーへと小さく頭を下げ、消えていった。
残るランサーとライダーも、アーチャーの狙撃を警戒してか未だ膠着している。
だが、次の瞬間には空気を抜いたように、張り詰めていた戦いの気は霧散していた。

「主より帰還の命が下った……次は縛りなき手合わせをしよう、ユーウェイン卿」
「ケイもどきにはよろしく言っておけ、ラモラック卿」

ラモラックはユーウェインの言葉に小さく笑い、姿を消す。
残るサーヴァントはライダーとセイバーだけだ。
セイバーはアイリスフィールを守るように立ち、ライダーを向いて剣を構えた。
だが、ライダーはセイバーに向けて視線を一瞬だけ向けると、そのまま剣を仕舞ってウェイバーへと訊ねた。

「さて……ウェイバー、まだ戦う気力はあるかね?」
「………どーせ、戦うって言っても断るだろ、お前」
「分かるか」
「敵サーヴァントとマスター前にして剣しまってりゃ誰だって分かるわ!!」

頭が痛いと言いたげに指を米神に当ててウェイバーはうめく。
だが、ライダーはそれにすまなそうに小さく笑むと、セイバーへと向き直った。

「さて……」

ライダーの声にセイバーは一瞬だけ震え、足が後ろへ下がる。
それは無意識に体が拒否しているという表れなのだが、それをどうしたもんかとライダーは悩む。
いかんな、どうにもトラウマになっているぞ―――。
今はまだ戦闘の高揚や血を見たことによる精神的なガードによって気づいてないだけで、興奮が冷めればどうなるかは考えられない。
まるで初めて戦場に立った素人のようで、既に王としての姿はない。
どうしたものかとライダーが悩んでいると、何時の間にか隣にライダーの友である白獅子がこちらを見上げていた。
それで何を言いたいかは理解できた。

「……っ」

獅子がセイバーの前に進んでいく。
ライダーの宝具でもあるその巨大な獅子の姿に、セイバーは身を硬くしたが、それは直ぐに解かれる。
獅子はまるで飼い主に従うかのように這い蹲り、セイバーの足元で座り込んでいた。
咽喉がグーグーと、甘えるような響きを持って鳴いた。

「……元気を出せ、と言ってくれるのですね……」

セイバーはその意図を知って笑う。
そのままゆっくりと、右手を獅子の頭部に置き、ゆっくりと撫でる。
獅子もまた、それを懐かしそうに受け入れていた。




騎士たちの夜が明ける。





 ○





「生きているな、アヴェンジャー」

綺礼はゆっくりと口を開き、声をかけると自室のソファーにアヴェンジャーが現れる。
見た目に傷こそ無いが、重傷であるアヴェンジャーは静かに、傷を刺激しないように口を開いた。

「なんだ、綺礼……命令無視で罰しにでもきたか」
「そんなつまらんことに令呪を消費などしない……――――意味は見つかったのか」

綺礼はそうアヴェンジャーに問う。
アヴェンジャーが行ったそれを綺礼は視覚共有で見たが、アヴェンジャーにとってそれは満足する結果ではないらしい。
だが、綺礼からすればあの場での行いは理解できない何かを言峰 綺礼にもたらしていた。
アヴェンジャーの目的だというセイバーのサーヴァントは、アヴェンジャーの復讐によって戦意を失う結果となった。
その正から負への変動を行う様はまるで手術を行うためのメスだと、綺礼は思う。
肉に刃を当て引く。
それだけで簡単に切れるように、アヴェンジャーはセイバーを切開した。
しかもその傷を縫わないままにするのが性質が悪い。

「時臣師には私から君を御しきれなかったと言っておいた……暫らくは大人しくしてもらおう」
「元よりこの傷ではそうするしかない………なぁ、綺礼」

ソファーに腰掛けた綺礼へとアヴェンジャーは声かける。
綺礼は無言のまま、言葉を促すようにワインのコルクを外した。
なぜか、アレを見てから飲みたくなっていた。
グラスをアヴェンジャーに渡すと、アヴェンジャーは言った。

「自分が存在しない、というのはどうすれば埋まるのだろうな」
「……」

アヴェンジャーは、モードレッドはそう言ってワインを飲み干し、そして、また中身の無くなったグラスにとワインを注ぐ。
それが今のモードレッドを端的に表しているよう綺礼には映った。
モードレッドに対しての答えは綺礼は持っていない。
だが、神の僕として耳を傾けることだけは出来た。

「このワインのようにな……」

二杯、三杯とグラスを空け、モードレッドはぽつりと呟く。
グラスを見つめる瞳は、どこか寂しい。
            ワイン
「杯を空ければ、違う私を持ってくるように、流動なんだ。騎士ならば王に忠誠を、というように絶対的なソレが私にはない」
「……」
「いや、逆に言えば最初に得たはずの騎士としての忠誠ですらも、自分の意味を求めて軽んじたんだったか……では、手に入るはずもないか」

自嘲するように洩らすモードレッドに綺礼は、なるほど、と思った。
モードレッドは『起源』が無いのだ。
起源とは、そのモノの存在の因となる混沌衝動。その存在が始まった場所で、魂の原点。
言ってしまえばモノの全ての始まりとも言うべきもの。
起源が無いというのは、そのモノが存在する意味はないということになり、これ以上ない否定だ。
常に意味を求めるモードレッドからすれば、それが発狂という優しい結果で終わるかも怪しかった。
だが、と綺礼はふと思う。
自身が無いのなら、逆に言えば全てを受け入れることが出来るのではないか?
何せ器だ。
その容量にこそ限度はあれど、差異はあれど、器は何でも受け入れる。そうモードレッド自身が言っていたではないか。

「……私では、どうにも出来ないだろうな」
「だろうな……自分で理解できないことを他人が分かるとは思えない」

だが、綺礼はそれを口に出さない。
どういった影響を与えるかも予測できないというのもあったが、それを口にして彼を導くというのは“面白くない”。
もし、自身に意味すらないとモードレッドが気づいたとき―――。

「どうなるのだろうな……」

綺礼は、なぜか沸き上がった笑いをゆっくりと咀嚼し、飲み込む。
それを、ワインを飲み干すことで流し込んだ綺礼は、同じように思い浮かんだ疑問を噛み殺し、飲み込んだ。






アヴェンジャーは自身の本質に気づかないように無意識に自己を守っている。
なら、言峰綺礼という人間も同じように自己の本質に気づかぬようにしているのではないか、と。








後書き
モードレッド君が何をどうしたらいいか全然わからない10歳の男の子です(棒)
もしかすると設定的にもっと若いかも知れない。
以下サーヴァント設定その1


【CLASS】アヴェンジャー
【マスター】 言峰綺礼
【真名】モードレッド
【性別】男性
【身長・体重】156cm・48kg
【属性】秩序・悪 ( )
【ステータス】筋力B+ 耐久A 敏捷B 魔力A 幸運D 宝具A+
【クラス別スキル】
・対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

・騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

【固有スキル】
・戦闘続行:B
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、死の間際であっても戦いの手を緩めない。

・心眼(偽):B
直感・第六感による危険回避。

・カリスマ:C
王国を手中に治めるために騎士たちを反逆の徒を立ち上がらせることを可能とする。

・魔力放出:B
武器、ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、 瞬間的に放出する事によって能力を向上させる。

【宝具】
・『簒奪された王位の剣(クラレント)』
モードレッドによってキャメロットの制圧後、奪われた王位の剣。
歴代の王を戴冠させてきたためにアルトリアを含めた複数の使い手を有するが、アルトリアが所有することはない。
炎の剣とされるに相応しく、高火力の炎を収束して放つ。

【備考】
アルトリア(セイバー)の息子にしてその命を落とす原因になった反逆の騎士。
アルトリアとその姉モルゴースの遺伝子をベースとしたホムンクルスとして産まれ、男の面でのアーサー王を支える予定だった。
だがマーリンによって解決したその問題のために、不要となったがその後は王の影武者として生きる道を選ぶ。
なお、マーリンによって5月1日に生まれた子供が王国に終焉をもたらすという予言は魔術師としてモードレッドの異常性を理解したためである。
だが自身を肯定する存在であった母モルゴースは殺され、血の繋がるアルトリアへと自身の肯定(子としての愛)を望んだが王であるアルトリアに答えを貰えなかった。
それ故、母の姉であるモルガンを依存するように慕い、最後には王を殺すという,
モードレッドの存在として意味を与えられた。
その後、アグラヴェインら兄弟とともにランスロットとグィネヴィア王妃の不倫を暴く。
それが原因となったランスロットの反乱を鎮圧するため、アルトリアが国を離れると隙をついて反乱を起こし、キャメロットを制圧。
アルトリアの帰還を待ち伏せた。
その最期は父であるアーサー、アルトリアとカムランの丘にて一騎打ちを演じ、腹を王槍ロンにより貫かれ死を覚悟。
手に持つクラレントを振り落とし、アルトリアに致命傷を与える。


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