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No.30704の一覧
[0] (幼女戦記二次)子育て戦記(タイトルからギャグを消します)[金子カズミ](2011/12/27 00:43)
[1] 第二話[金子カズミ](2011/12/01 14:36)
[2] 第三話[金子カズミ](2011/12/05 00:42)
[3] 第四話[金子カズミ](2011/12/11 02:04)
[4] 第五話[金子カズミ](2011/12/25 12:21)
[5] 第六話 剣林弾雨、始まります[金子カズミ](2011/12/29 15:19)
[6] 第七話[金子カズミ](2011/12/29 15:18)
[7] 第八話[金子カズミ](2012/01/01 12:08)
[8] 第九話[金子カズミ](2012/01/06 15:03)
[9] 第十話[金子カズミ](2012/02/18 11:18)
[10] 第十一話[金子カズミ](2012/08/10 00:24)
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[30704] 第十話
Name: 金子カズミ◆79c5bb77 ID:be22a0b0 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/02/18 11:18
 北華国首都 新都地下
 皇国軍北華方面軍司令部が置かれているその地下に、公式には存在しない地下室があった。扉は二重構造で、片方が開いているときはもう片方が必ず閉鎖される仕組みを持ち、防音を完備。隣室からはマジックミラーでその中の様子を監視できる。
 さらに室内には、その用途を想像したくないような器具が壁に吊るされ、たとえ実際に使われなくとも室内の人間を威圧していた。
 この部屋の用途が真っ当なものでないのは明白だ。
 そして今、そこには一人の少女が床に固定された椅子に縛り付けられていた。
 金髪碧眼の少女の名は、ターニャ・デグレチャフ・原野といった。





(しまった、やってしまった…)

 ここに連行されてから、ターニャは無表情ながらも猛烈に後悔していた。
 なぜ自分は、あんなバカげたことをしてしまったのか!
 ターニャの記憶は葉月が撃たれた瞬間真っ白になり、気がついた時には周囲はアカとゲリラの死体の山と、震えている自分の部隊の魔導師と歩兵部隊、そして緊張した面持ちでこちらに銃の照準を合わせた憲兵隊の姿があった。
 そしてそのまま自分でも何をしたのか分からないうちに、乗り心地最悪の軍用トラックに憲兵どもに押し込まれ、部隊の魔導師達と引き離されて飛行場に直行。準備よく待機していた輸送機に拘束具を付けられた上で乗せられて即離陸。
 この時点で、一緒に押し込まれた部隊の者に自分が何をしたのか遠まわしに尋ねたが要領を得ない答えが返ってくるばかり。
 仕方なく、機関短銃を構えて監視している憲兵に尋ねると、返ってきたのは民間人の虐殺容疑。
 瞬間、目が覚めた時の光景を思い出した。
 まさか、あれは私がやったのか!?いや、そんな馬鹿な行為をするわけがない。これでは格好の戦犯容疑ではないか!まだ戦争の趨勢も定まらない状況でそんな馬鹿をするわけがない。
 だが、それを聞いた部隊の連中は、一斉に自分の行動を支持。あの行動は正当防衛だと声高に叫び始めたのだ。
 はっきり言ってあまりに馬鹿な行動に頭が痛くなった。ここはしらを切り通す場面だろうに!どうせ自分達が犯人だという証拠はないのだ、戦時中なのだから魔導師をそんな不確かな罪で拘束し続けるなどあり得ない。しらぬ存ぜぬを貫けば、それでしりすぼみになって終わるだろうに。
 だが、いまさらそんな事を言っても手遅れだ。裁判で自分だけ違う事を言えばこちらの証言の信用性を失い不利になる。そもそも事前に口裏合わせを出来なかった時点で正面から挑むほか無くなっている。
 憲兵隊との言いあいで騒然とした雰囲気になる機内。しかし、それを無視してターニャは考えていた。
 …しかし、私があんな行為をするか?
 次の瞬間、答えが出た。
 奴だ、あの神を名乗る存在Xの仕業だ!最近出てこないと油断したらこんな場面で出てくるとは。
 内心で存在Xへの殺意を滾らせながら、ターニャは憲兵隊に従って監禁されながら静かに待ち続ける。
 自分をこんな状況に追い込んだ元凶が訪れるのを。





 ターニャが部屋に監禁されてから半日以上たった時、とうとうあの男が現れた。

「やあ、遅くなってすまないね。原野傭人」

 機関短銃を構えた護衛と共に現れたのは、この北華軍を実質的に支配する参謀長、石井だった。
 あいさつに返事も返さないターニャを無視して石井は続ける。

「まったく、君のせいで大変な騒ぎになった。こっちはほとんど不眠不休の状態だよ」

 そう言う石井、口調は飄々としているが、若干しわの目立つ軍服など疲労の色を隠し切れていない。
 そんな石井を、ターニャは無言でジッと見つめている。
 そんなターニャの視線を気にする事もなく、石井はマイペースに進める。

「さて、私の時間もそれほどないので単刀直入に言おうか。君には民間人の虐殺容疑がかかっている」

 そう言って、どこから手に入れたのか軍法会議の起訴状を見せる。紙面にははっきりとターニャの名前とその罪状が書かれている。この罪状ではまず間違いなく銃殺刑以外の選択肢はない。

「だが、私も鬼ではない。君にもう一つの選択肢を上げよう」

 そう言ってもう一枚の紙を取り出す。

「ちょうど南方の特務機関の人出が足りなくてね。魔導師を一個中隊欲しいと言ってきている」

 これに、君と部隊の全員で行ってもらいたい。
 これを聞き、ターニャは脳内で高速で思考を行う。
 これでは軍法会議に出るという選択肢はない。まず間違いなく死刑になるしそうでなくとも公式に記録に残る。そうなると万が一にも敗戦の際戦犯として裁かれる可能性がある。
 だが、南方の特務機関へ行くのなら話は別だ。
 特務機関に配属されるなら通常部隊への在籍記録は可能な限り抹消される。つまり、今回の事件もなかった事になるのだ。しかも石井の目から離れられる。最悪現地で亡命を図る事も出来るという素晴らしい選択肢ではないか!
 だが、ここで即答したら自分が戦地に行きたい戦争馬鹿の烙印を押されかねない。
 ならばここは、

「申し訳ないが、少し考えさせてほしい」

 そう口にした。
 すると石井は大きくうなずいて、答える。

「分かった、半日待とう。私は君の選択を尊重するよ」

 そのまま石井は護衛と共に部屋を出て行った。
 それを確認すると、ターニャは俯いて静かに考えているふりをしながら眠り始める。
 さすがのターニャも、戦闘行動の後丸一日以上寝ていないのは厳しかったのだ。
 その時、一つの事を聞き忘れているのを思い出し呟いた。





 ターニャを監禁している部屋から出た石井は、その手が微かに震えるのを感じた。
 自分の息のかかった憲兵隊の人間の話では、あの少女は連行される輸送機の機内でも部下を気づかうような発言を繰り返していたという。あれだけの事をしでかした後で、息子よりも実質的な部下の事を気づかうとは、根っからの軍人としか思えない。
 しかし、扉がしまる寸前に聞こえた声が石井の心を乱した。

「…葉月」

 それは自分の息子を気づかう声。輸送機の機内でも部下の負傷などには気づかいながらも自分の息子がどうなったかは一切尋ねなかったというターニャの心の声だと思えた。
 原野魔導少尉は、現在新都の陸軍病院で治療を受けている。右肩の銃創は幸運にも貫通しており抗生物質の投与と安静で回復できるとの事だった。特に後遺症も残らないそうだ。

(私は、彼女を見誤っていたかもしれんな…)

 特務機関が調べ上げた彼女の実績は、まさしく悪魔のごとき代物だった。彼女がいなければ先の大戦の収束が二年は早まっただろう。それだけの時間を彼女は帝国に作り出していた。
 今会話した彼女は、まさにその軍人としての彼女だろう。
 そして、考える時間が欲しいというのは実質的な部下である中隊の面々を気づかったせいだろう。このまま裁判になれば彼女と指揮官であった息子の葉月少尉だけが罪に問われる。軍において責任は全て指揮官がとるものだからだ。
 だが、南方に行くとなれば中隊全員を巻き添えにする事になる。彼女はその事で悩んでいるのだろう。本当に部下思いな最高の士官だろう。
 しかし、石井としてはさっさとターニャに南方に行って欲しかった。
 ポケットに突っ込んだ手が握りつぶされた報告書に触れる。
 そこには、こう記されていた。

『H監視班 通信途絶。残留していた双子と妹の消息不明』

 この『H』は原野のHである。つまり、ターニャの家に残っていた家族の監視が破られたという事である。
 石井は嘘をついていた。
 軍事裁判の話は全く存在していない。あの事件は内々に処分されなかった事になっている。第十三独立強襲魔導戦隊には緘口令(かんこうれい)が敷かれ、彼女と共に掃討に当たった歩兵部隊は補給線防備の名目で前線から引き抜かれ編成表からすでに消滅している。予定ではこのまま北華の国境要塞群に配備され、この戦が終わるまで本土に帰還する事は叶わないだろう。
 その状況で偽の裁判への召喚状を見せたのは、一刻も早く彼女を情報の届かない、少なくとも入手を遅らす事が出来る南の地、南海群島に送りこんでいしまいたかったからだった。
 これまで自らを縛っていた手綱がない事を彼女が知ったらどうなるか。

「…計画を早める必要があるかもしれんな」

 小さくつぶやくと、石井は護衛を兼ねた従兵に、大陸から突き出た小半島の突端に位置する極東最大規模の港湾都市、大都から運行される民間長距離飛行艇の予約を命じた。
 せめて葉月少尉だけでも先に南に送ってしまおう。稼げる時間は高がしれているが、それでも構わない。
 こちらの計画は、精々半年もあれば終わるのだから。





 彼らは、自らの住処にて優雅なお茶会を楽しんでいた。
 先の大戦の際は信仰の危機に立ちあがったが、今の世界は穏やかに安定し信仰も緩やかに回復しているからだ。
 すでに彼らは自らの使徒を地上に送りだす意味を認めていない。
 そんな中、かつて使徒のひとりとして活動していた者を偶然にも彼らは目にとめた。

「ほほう、彼女はまだ我らを疑っているようですな」
「なに、彼女一人の問題なら大したことはありますまい。信仰の回復は順調ですぞ」

 それを穏やかな気持ちで受け入れるだけの余裕が彼らにはあった。

「しかし、あの者がこのようになるとは、さすがに信じられませんでしたな」
「まったく。もしやして、あれこそが信仰の行きつく先なのやもしれませんぞ」

 彼女に信仰心を強制する事はもう行っていない。だが、それでも彼女は我らの教えにあるように隣人を大切にし、家族を愛しているではないか。

「これからも、あれが隣人を愛し、我らの信仰を守る事を願いましょう」

 彼らは気がつかない。その信仰の回復が、これまでとは方向を異にしている事実に。
 信仰が日常の生活への感謝から生まれるのではなく、戦塵への不安から拡大しつつある事に。


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