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No.30788の一覧
[0] 御神と不破(とらハ3再構成)[しるうぃっしゅ](2013/02/21 22:48)
[1] 序章[しるうぃっしゅ](2011/12/07 20:12)
[2] 一章[しるうぃっしゅ](2011/12/12 19:53)
[3] 二章[しるうぃっしゅ](2011/12/16 22:08)
[4] 三章[しるうぃっしゅ](2011/12/23 00:29)
[5] 四章[しるうぃっしゅ](2011/12/23 00:39)
[6] 五章[しるうぃっしゅ](2011/12/28 17:57)
[7] 六章[しるうぃっしゅ](2012/01/09 13:32)
[8] 間章[しるうぃっしゅ](2012/01/09 13:33)
[9] 間章2[しるうぃっしゅ](2012/01/09 13:27)
[10] 七章[しるうぃっしゅ](2012/03/02 00:52)
[11] 八章[しるうぃっしゅ](2012/03/02 00:56)
[12] 九章[しるうぃっしゅ](2012/03/02 00:51)
[13] 断章[しるうぃっしゅ](2012/03/11 00:46)
[14] 間章3[しるうぃっしゅ](2012/03/11 01:30)
[15] 十章[しるうぃっしゅ](2012/06/16 23:58)
[16] 十一章[しるうぃっしゅ](2012/07/16 21:15)
[17] 十二章[しるうぃっしゅ](2012/08/02 23:26)
[18] 十三章[しるうぃっしゅ](2012/12/28 02:58)
[19] 十四章[しるうぃっしゅ](2012/12/28 03:06)
[20] 十五章[しるうぃっしゅ](2013/01/02 18:11)
[21] 十六章[しるうぃっしゅ](2012/12/31 08:55)
[22] 十七章   完[しるうぃっしゅ](2013/01/02 18:10)
[23] 断章②[しるうぃっしゅ](2013/02/21 21:56)
[24] 間章4[しるうぃっしゅ](2013/01/06 02:54)
[25] 間章5[しるうぃっしゅ](2013/01/09 21:32)
[26] 十八章 大怨霊編①[しるうぃっしゅ](2013/01/02 18:12)
[27] 十九章 大怨霊編②[しるうぃっしゅ](2013/01/06 02:53)
[28] 二十章 大怨霊編③[しるうぃっしゅ](2013/01/12 09:41)
[29] 二十一章 大怨霊編④[しるうぃっしゅ](2013/01/15 13:20)
[31] 二十二章 大怨霊編⑤[しるうぃっしゅ](2013/01/16 20:47)
[32] 二十三章 大怨霊編⑥[しるうぃっしゅ](2013/01/18 23:37)
[33] 二十四章 大怨霊編⑦[しるうぃっしゅ](2013/01/21 22:38)
[34] 二十五章 大怨霊編 完結[しるうぃっしゅ](2013/01/25 20:41)
[36] 間章0 御神と不破終焉の日[しるうぃっしゅ](2013/02/17 01:42)
[39] 間章6[しるうぃっしゅ](2013/02/21 22:12)
[40] 恭也の休日 殺音編①[しるうぃっしゅ](2014/07/24 13:13)
[41] 登場人物紹介[しるうぃっしゅ](2013/02/21 22:00)
[42] 旧作 御神と不破 一章 前編[しるうぃっしゅ](2012/03/02 01:02)
[43] 旧作 御神と不破 一章 中編[しるうぃっしゅ](2012/03/02 01:03)
[44] 旧作 御神と不破 一章 後編[しるうぃっしゅ](2012/03/02 01:04)
[45] 旧作 御神と不破 二章 美由希編 前編[しるうぃっしゅ](2012/03/11 00:53)
[47] 旧作 御神と不破 二章 美由希編 後編[しるうぃっしゅ](2012/03/11 00:55)
[48] 旧作 御神と不破 二章 恭也編 前編[しるうぃっしゅ](2012/03/11 01:02)
[49] 旧作 御神と不破 二章 恭也編 中編[しるうぃっしゅ](2012/03/11 01:00)
[50] 旧作 御神と不破 二章 恭也編 後編[しるうぃっしゅ](2012/03/11 01:02)
[51] 旧作 御神と不破 三章 前編[しるうぃっしゅ](2012/06/07 01:23)
[52] 旧作 御神と不破 三章 中編[しるうぃっしゅ](2012/06/07 01:29)
[53] 旧作 御神と不破 三章 後編[しるうぃっしゅ](2012/06/07 01:31)
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[30788] 恭也の休日 殺音編①
Name: しるうぃっしゅ◆ea61bf4a ID:ff723e2c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/07/24 13:13
















 大怨霊との戦いが恭也に残した傷跡は深かった―――筈だった。
 常人ならばまだ入院が必要なほどに身体を酷使したにも関わらず、彼は至極あっさりと退院を許されたのだ。
 恭也のかかりつけの医師となった矢沢という名の初老の男性は何度も首をひねっていたが、退院の許可を出さなければならないほど急激な快復をしてしまったのだから仕方ない。
 
 それというのも恭也の意志の力というものも大いに働いた。
 彼は現在高校三年生。一応は推薦で体育大学に進学が決まっている身とはいえ、あまりに学校を休みすぎると出席日数がたりなくなり、卒業が危うくなってしまう。特に高校三年生になってからは、異常なほど人外との遭遇率が高く、死闘を繰り広げていたため、長期に渡って学校を休むことが多かった。
 これ以上は流石に危険ということを教師から告げられたため、必死の覚悟で快復―――もとい再生させたというわけだ。

 そんな卒業式を間近に迎えた二月の中旬の日曜日、恭也は珍しく桃子に日曜日は用事があるため翠屋を手伝えないと前もって伝えていた。
 それを聞いた桃子は少しだけ驚きつつも、あっさりと了解と頷く。
 修行で家をあけるとき以外は、縁側でお茶を飲んで一日を過ごす高町恭也が、用事があるというのだ。どんな用事にしろ、少しだけ嬉しい気持ちを桃子は持った。

 昼ごはんが終わり、高町家にいるのは未だ出かけていない恭也とレンとなのはの三人だけである。
 晶は隣町の明心館へと練習へ行き、美由希は何時もの如く那美と遊びに出かけていた。桃子は翠屋で大忙し、フィアッセは歌のレッスンといった具合だ。
 中庭では遊びに来た子狐バージョンの久遠となのはが戯れており、それを縁側に座ったレンが眺めている。

「では、少し出かけてくる。多分遅くなると思うから御飯は準備しなくてもいい」
「あ、はい。わかりました。おししょ―――」

 突然背後から声をかけられたレンは気づいていたのか驚きもせずに返答をし、くるりと振り返って固まった。
 固まってしまったレンを不思議に思い、なのはと久遠も恭也の姿を見て、レンと同じ様にフリーズする。
 三人の視線の先に立つのは高町恭也―――ただし、服装も髪型は普段のそれではない。滅多に見ることが出来ない黒のスーツ姿。髪型はピシリと決めたオールバック。胸の前においている片腕には黒いコートを下げている。ちなみにこの仕掛け人は高町桃子である。普段の格好で出かけようと考えていた彼の思考を読み取ったのか、前もって口が酸っぱくなるほど何度も準備に口を出してきていた。
 三人が何時も見ている恭也とはまた違った、彼の姿に彼女達の脳が処理の限界を超えていたのだ。

「それでは行って来る」
「あ、は、はい。行ってらっしゃいです!!」

 三人の固まっている姿を見ながらも、特に追求せずに恭也が玄関へと向かう。辛うじて返答をできたのは我を取り戻したレンだけで、なのはと久遠は恭也の後姿を黙って見つめることしかできなかった。
 恭也が出て行った後も三人の間には沈黙が横たわり、たっぷり数分もたって、久遠がポンっと音をたてて子供姿に変化することによって何ともいえない雰囲気が砕け散った。

「……きょうや、かっこいい……」
「う、うん。あんなおにーちゃん初めてみたかも」
「はぁー。眼の保養になったわ。ワイルドなお師匠むっちゃかっこええ……」

 特に服や髪といった身だしなみに関心を払わない恭也だけに、しっかりと決めた時の破壊力は相当なものがあったようで、三人は暫く彼の正装姿を脳裏に描いて更に十分以上の時間ぼうっと佇んでいたという。

 一方恭也はまさか三人がそんな事態に陥っているとも知らずに、マイペースに歩みを続ける。
 日曜日ということもあり、途中近所の奥様方に出くわすものの、恭也の普段とは違ったスーツ姿に驚き、挨拶程度でしか呼び止められていなかった。
 普段の彼女達だったならば長話になるのは明白だったために、ある意味スーツ姿が魔除けとなったのかもしれない。

 歩くこと十数分。最近海鳴でも随分と話題になってきたメイド喫茶北斗。日曜日に相応しく、店内は満席なのが外からでも一目で判る。だが、今日の恭也は北斗で一服するために来たわけではない。別の用事があるのだ。
 入り口のドアに手をかけ押すと、カランカランと翠屋と似たような音をたてて扉が開く。
 
「いらっしゃいま―――」

 ドアを潜ったすぐ先にて出くわしたのは相変わらずのチビッコメイド水無月冥だった。
 見事な営業スマイルだったが、なのは達と同じ様に彫像となってしまい、反応が停止する。
 しかし、なのは達が普段の状態に戻るまで数分の時間を要したが、冥は十数秒で自分を取り戻すと、ごまかすようにコホンと咳払いをしつつ営業スマイルを消した。その頬は何故か若干の赤みを帯びている。

「ん―――なんだ、キミか。久しぶりだね」
「ああ、久しぶりだ。最近顔を出せなくてすまなかった」
「全くだよ……といいたいけど、何かあったのかい?入院したとか殺音に聞いたけど」
「大怨霊とかいう怪物とちょっとな」
「ふーん。大怨霊か。それはま―――」

 至極あっさりと入院する原因を話した恭也につられて、冥もあっさりと流そうとして、冷静になって頭の中で繰り返す。
 
 ―――だい、おん、りょう?

 大音量……なわけはあるまい。まさか大声をだして入院するといった間抜けなことを目の前の男がするわけもない。となれば、思い当たるのはただ一つ。
 歴史にさえも名を残す最悪の怨霊。その力はアンチナンバーズと呼ばれる集団で伝説の怪物とされる一桁台の人外にも匹敵―――或いは凌駕するという曰くつきの悪霊だ。その圧倒的な強さは先代猫神に時々話を聞かされたこともある。
 
「―――そんな馬鹿なといいたいところだけど、キミなら有り得るから困るよ」

 驚きすぎて逆に冷静になってしまった水無月冥が、どこか疲れた吐息を漏らす。
 
「それよりも、耳と尻尾がでてるぞ?」
「……驚きが身体にでちゃってた」

 突如頭にはえた猫耳と後尻から生えた尻尾がパタパタと強く自己主張をしている。
 さっと周囲を見渡すが、気づいた人間はとくにはいないのを確認する。もっとも、メイド服姿に猫耳と尻尾がはえたからといって驚く人間はこの喫茶にはきていないだろう。逆にご褒美だと有り難がるに違いない。

 心を落ち着け猫耳と尻尾をあっさりとしまった冥に、一体その服はどうやって尻尾の部分を出し入れできるようにしているのか聞こうとした恭也だったが、あまりこういう場で聞く話題でもないと感じ、後回しにする。
  
「それで今日は何の用だい?飲食目的なら少し待ってもらうけど……あー、なんなら僕達専用の部屋に通すよ?」
「いや、今日は殺音の奴と約束が合ったんだが、いるか?」
「ん……殺音? あー、そういえば何か用があるといって、一時間くらい前に出て行ったかな。臨海公園に行くとか言ってたけど?」
「一時間前?」

 珍しくキョトンと聞き返す恭也に、頷いて答える冥。
 自分の聞き間違えではなかったことを確認する恭也だったが、はてっと首を捻る。腕時計にちらりと眼をやると時間は昼の一時を少し回ったくらいで、自分の勘違いではないことを確かだ。
 今日は言葉に出した通り、殺音と約束があったのだがその時間は昼の二時。海鳴臨海公園で待ち合わせの予定だったが、少し早めに準備もできたのでこうして喫茶北斗まで迎えに来たわけだ。
 しかし、冥を信じるならば、今から一時間近く前に約束の場所に向かったという。つまりは十二時―――待ち合わせの時間まで二時間はある。流石に二時間も前に約束の場所にいく物好きはいないだろう。
 恭也か殺音のどちらかが時間を勘違いしているという可能性が高い。どちらにせよ、殺音は既に一時間近く待ちぼうけをくらっていることになる。

「ああ。もしかしてあいつと約束をしていたのはキミかい?」
「ん……まぁ、そうだ」
「それならあいつのここ数日の浮ついた様子も納得だね。注文を聞き間違えるわ、食器を落とすわ、注文の品を違うテーブルに持っていくわで使い物にならなかったんだよ……」
「そ、そうか」

 心底疲れた表情で、ふっと苦笑する苦労人。
 北斗喫茶の不幸を小さな背中に背負う彼女に、どんな言葉をかければいいのか。少し迷った恭也だったが―――。

「俺が協力できることがあれば言ってくれ。出来るだけ力になるぞ」
「……ああ、有難う。ってもしかして例のあれかい?」
「ああ、多分例のあれで間違っていない」
「そうか……まぁ、キミは悪くないね、うん」

 あたりさわりのない慰めをかけると、それに短い返答をする冥だったが、胃のあたりを両手で押さえるその姿は恭也の目から見ても痛々しかった。そして何かに気付いたのか、一人頷いている水無月冥。
 その時カランカランと、新たな来客を告げるベルの音が店内に響き渡り、入り口の扉を潜って二人連れのカップルが現れる。

「殺音の情報助かった。今日はこのまま失礼するが、また時間をみつけて売り上げに協力しよう」
「ああ、うん。また来てくれると嬉しい。あのバカの世話は大変だと思うけど、任せたからね」

 これ以上話すのも仕事の邪魔になると判断して、恭也がカップルと入れ違う形で喫茶北斗から外の商店街へと戻る。
 いらっしゃいませーと冥の接客用語が、扉が閉まる寸前の隙間から聞こえてきた。相変わらず苦労しているなと不憫に思いながらも、恭也は海鳴臨海公園の方角へとやや早歩きで向かう。

 日曜日ということもあり、商店街は人混みで溢れている。これだけの人が歩いているのだから一人くらいは知り合いがいるのではないかと歩きながら視線を左右に動かすが、生憎とそれらしい人は見つからなかった。
 そして、自分がそれほど知り合いが多いわけではないことに気づき、少しだけショックを受ける。
 そんな悲しみを振り払い、歩くこと十数分。海に面した巨大な公園に辿り着く。海鳴デートスポットにも雑誌で紹介されている真新しい海鳴臨海公園だ。特に先月あたりに再度雑誌で特集を組まれたせいか、学校でも話題となっていた。
 待ち合わせ場所である、海鳴公園鯛焼き屋台を目指す恭也は、途中何度か男女の二人組みとすれ違った。
 一目でカップルとわかる彼らを見て、雑誌の効果とはなかなか凄まじいものがあると一人再認識する恭也だった。
 
 目的の場所である鯛焼き屋台の前へと辿り着き、殺音を探すために周囲を見渡す。
 するとあっさりと探し人は見つかった。それも当然―――何故なら彼女は一人だけ、異常なほどに目立っていたのだから。
 屋台から少し離れたベンチが並んでいる空間。殺音はその一つに腰掛、なにやら心ここにあらずといった様子で手鏡を覗き込んでいる。
 喫茶北斗で会うことが多いいため、メイド服姿を見慣れていたが、流石に今回はそうではなかった。
 普段とは異なり、腰まで伸びている黒髪を後ろで一括りにしてポニーティルに纏め上げている。その名の由来となった馬の尻尾のようにさらさらと風に揺らいでいた。実に珍しく薄く化粧までしており、薄紅色の唇にも口紅がひいてあり人の目を惹きつける。元々が恭也に並ぶ長身ということもあり、手足もすらりと長く、無駄なく引き締まった肉体は自然と健康的な美を周囲の人間に示していた。
 黒を基調とした厚手の服装は、何故か異常なほどに彼女に似合っている。いや、きっとどんな色合いでも殺音には似合ってしまうのだろう。まだ二月ということもあり寒さが激しいため、彼女もまた黒いコートを羽織っていた。
 恭也も自分が途中から上から着た黒いコートを見て、妙なところで気が合うものだと苦笑する。
 
 さて一方の殺音はというと……。
 はっきり言おう、彼女はこれまで生きてきた長い人生で最高最大にテンパっていた。
 現在の殺音の心境は―――。

 


 
 うん、髪の毛はオッケー。ちゃんと手入れしてきたし、埃とかもついてない。えっと、服は……お洒落なんて気にしたことないしなぁ。一番良さそうなモノを着てきたけど、やっぱり地味かな……。うぅ、意地張らないで冥に買い物に付き合ってもらえば良かった。
 滅多にしないけど、化粧もちゃんとしたし特に問題はないかな、うんうん。ちゃんと下着は新品の勝負下着をつけてきたし……あ、でも一度洗濯しておけばよかった。ごわごわするし、昨日慌てて買いに行ったのが、まずかったかな……。
 普段と違ってポニーティルにしてみたけど、いつもと同じ髪型の方がよかったかも。いや、でもインパクトって大切だし普段とは違うアピールをしておかないと―――うぅ、なかなかきまらないし。
 今から戻そうかな……いや、でも……。
 ああーそれよりも今日はまずは百貨店によって、そこから店内を見回った後、喫茶店で一休みしてから、ええっと……。




 

 手鏡を凝視しながらチェックを怠らない殺音に、通行人は見惚れたように足を一端止める。
 そして暫くたって、自分が立ち止まっていることに気づき、慌ててその場から立ち去っていった。そういった人間が多く、カップルの中には、恋人に抓られて我を取り戻すといった男性も多く、ある意味修羅場を作り出す原因にもなっている。
 そんな物思いに耽っている殺音の気持ちなど全く知らずに、恭也は彼女に近づいていく。普段の殺音ならば既に気づいていたはずだ。いや、公園に到着した時点で恭也の気配を察知することができたに違いない。
 だがしかし、今の彼女にはそんな余裕があるはずもなく―――。

「殺音、すまん。随分と待たせてしまったみたいだ、申し訳ない」
「―――ひゃふっほぉぉぉお!?」

 恭也に呼びかけられた殺音は意味不明な叫び声をあげながら、ベンチから飛び上がって距離を取った。
 絶世の美女ともいえる彼女のそんな奇行に、周囲にいた人間は目を丸くする。何人からも凝視されているのだが、その視線には全く気づかず、バクバクと高鳴っている心臓を胸の上から押さえて乱れている呼吸を整えようとした。

「きょ、きょ、きょうや!? どうして、ここに!?」
「……いや、どうしてと言われても困るんだが。それより悪かった。もしかして待ち合わせの時間は一時だったか?」
「え? ううん、二時だけど……」
「ああ、やはり二時で大丈夫だったか。随分と早く待ち合わせの場所に来ていたから驚いたぞ」
「そ、それは……ま、まぁ、うん。なんというか、ほらね?」   
 
 普段はどちらかというとストレートな物言いの殺音にしては、何やら言葉を詰まらせ、ごにょごにょと独り言のように呟いている。恭也としてみても、ほらねっと言われても何がほらねなのかわかるはずもなく、曖昧に頷いているだけだった。
 ようやく心臓が落ち着きを取り戻してきた殺音は、恭也の姿が普段とは異なることに気づく。彼の姿にぽわわんっと見惚れること数秒―――。

「とにかく、約束の時間より大分早いが、もう行くとするか」
「―――っ、え、あ? う、うん。そうしようか」

 恭也の呼びかけで我を取り戻し、取りあえず返事をするのだが、それがどこかうわの空だったとしても無理なかろう話だ。
 日曜日の昼過ぎに、男女二人が待ち合わせまでして揃って出掛けると言うことは、誰が聞いてもデートにしか思えない。二人の普段とは異なった服装もそれに拍車をかけるが―――実はデートでも何でもない。単純に殺音の買い物に付き合う約束をしていただけのことだ。元々の発端は数日ほど前に、病院へ見舞いに来てくれたお礼を兼ねて、喫茶北斗に挨拶に向かったところ、入り口から入ってきた恭也に気を取られた殺音は、運んでいた食器を見事に落として割ってしまった。まとめて運んでいただけに被害は尋常ではなく、さらにはコーヒーを飲んで休憩していった恭也を気にするあまりその被害は拡大していき、結果冥がぶち切れるに至る。
 食器を新しく買い足して来ることを約束した殺音に、自分がいることで彼女の集中力を乱したと多少は感じ取り罪悪感を感じた恭也もそれに付き合うことにした。それが週の頭の話であり、ようやく本日両者の予定が合い、買い物に出掛ける事ができたのだが―――恭也はデートだとは思っていないだけで、果たして殺音はどうであろうか。


 それは―――殺音の現状を見れば言葉に出さずとも誰もが一目で理解できることであった。
 今の彼女は恋する乙女そのものでしかなかったのだから。
















   

 ▼
 














 二人の買い物兼デートは平穏に終わりは―――当然しなかった。
 殺音も恭也も二人で並んでいるときはまだよかったのだが、何かしらが原因で一人になってしまうとナンパ目的で言い寄られてしまうのだ。勿論、殺音だけでなく、恭也もそれなりに大人の女性に声をかけられていた。
 その度に殺音が頑張って牽制したのだが、中々に波乱万丈な買い物になったというのが彼女の本音である。


 買い物も終え、しばらくデートを楽しんだ殺音と恭也。
 空が茜色に染まる頃には、恭也はあまり遅くなっては申し訳ないと判断し、帰宅を提案する。非常に複雑な表情で殺音は渋々とそれにしたがった。 

 だが、恭也は海鳴駅に到着した後、何故か喫茶北斗に向かおうとしなかった。
 彼の足は、そことは別の場所に向けられており、殺音は内心で疑問を感じながらも黙って愛しい男の背中を追う。
 しかし、数分も歩けば、恭也がどこに向かっているのか自ずと理解し―――喜びで爛々と瞳を輝かせながら並んで歩み始めた。  

 二人の一日の終着駅。そこは八束神社と呼ばれる神聖な地。
 既に茜色の空から夜天へと変わっているが夜の闇の中に建ちながら鳥居も神社もピカピカと光り輝いているのは、決して気のせいではない。
 十二月の下旬―――世間はクリスマスで騒がしかった時期に、跡形一つ残さず、何者かによって滅ぼされたために、神主が泣く泣く大金を支払い建て替えが行われたばかりだ。
 トントンっとスキップを踏みつつ、広い境内を進んでいく殺音は賽銭箱の前でくるりと後ろを振り返る。鳥居から少し進んだ場所で殺音の背中を目で追っていた恭也と視線があった。
 
「うん、良い場所だね。ここなら―――最後まで楽しめそうだ」

 ばさりと服がはためく音が静かな境内に響く。
 黒いコートを脱ぎ去り、それに続いて、よいしょっとかけ声をかけながら上着まで躊躇いなく脱ぐと、コートと一緒に賽銭箱の隣りに無造作にたたんで置く。 
 上着を脱いだ殺音は、誰もが思わず見とれるほどに美しい彫刻のような白い肌をさらす。暗闇にも負けない白さが、見る人間の心を鷲づかみにする。上半身と腕の半ばまでを覆う黒い薄手のシャツが、ひゅうっと吹いた夜風に揺れた。
 まだ冬の寒さが残る二月―――しかも夜ということもあり、半袖になろうものなら鳥肌がたってもおかしくはないはずだが、殺音の皮膚はいつも通りだ。いや、どこか火照ったように、身体を若干赤くしている。それはまるで今から始まることが楽しみで仕方ないかのようで……。

「じゃあ、始めよう」
「ああ、そうだな。準備運動は必要か?」
「いや、いらない。だって、私とキミとの戦いは―――」

 ―――最初からクライマックスだ―――。

 世界を揺るがす驚天動地の気配が、八束神社を含めた山々を震撼させる。
 全身の毛穴という毛穴が開き、冷たい汗が噴き出し始める。世界に終末を告げる殺気が巻き起こり、両者の放つ人外の気配が爆発的に膨れあがりながら天空を穿つ勢いで立ち昇った。常人ならば気を失わなければ正気を保っていられない、そんな禍々しい圧迫感が世界を覆い始める。

「―――覚醒【猫神】」

 力ある言霊が殺音の赤い唇から漏れた。
 ぞわっと生暖かい突風が、恭也の全身を強く打つ。二つの猫耳が頭でピョコピョコと主張をし、腰の部分から生えた尻尾がパタパタと喜びの感情を表すように揺れている。
 

「―――解放【猫神】」

 さらに続けて呪言が冷たい空気に融ける。
 幾何学的な紋様が、殺音の肉体へと浸食を開始した。彼女の白い皮膚を犯すように、次々と広がっていく。足から脚へ、脚から胴へ。胴から胸へ、胸から手へ。そして、首から顔へと―――。
 埋め尽くす紋様が頬まで浸食したところで、水無月殺音という女性は笑った。そこに恐れはなく、畏れもなく、怖れもない。数百年に渡ってあらゆる人や人外を屠って、積み上げてきた猫神の呪いに犯されながらも、楽しそうに笑っていた。彼女の瞳にはそんな呪いなど塵芥にしか見えず、己の想い人、不破恭也しか映ってはいない。

 殺音は両手を強く握りしめる。骨が音をたてるほどに強く、痛みを感じるも、その痛みにも喜びしかなく―――。
 厚い雲に覆われた夜天を見上げる。どんよりとした不吉な雲を振り払うかのごとく、彼女は最後の言霊を言い放つ。

「―――超越【猫神】」

 バキリっと空間が軋み音を確かにあげた。周囲一帯の動物全てが、身動き一つすることなく活動を停止させる。
 鳥も獣も虫も、そこに現れた魔人に恐怖で怯えながらも、逃げ出すことさえも出来ずに、嵐がさるのをじっと待つ。もしもその場から一歩でも動き出せば、殺される。そんな幻想をこの空間にいる生物達は、自ずと理解していた。そこまで恐ろしい、人外をも超越した最悪の化け物が産声をあげた。
 殺音が纏っていた重圧が、比較にならないほどに強大化する。まるで今までが蛹だったかのように、彼女は確かに今ここで最高の進化を遂げた。目の前にいる生誕した怪物を前にすれば、怯えることも、怖れることも、笑ってしまうことも、泣いてしまうことも忘却させる。あらゆる存在の正と負の全ての感情を消失させ得る、文字通りの超越者。
 殺音を浸食しようとしていた幾何学の紋様は残滓も残さず消え失せ、恭也の目の前にいる怪物は普段通りの姿で佇んでいた。深紅の瞳を爛々と輝かせ、一つ異なる点をあげるとすれば、殺音の身体を薄く覆う闇色の靄。それは一人の怪物を思い起こさせる深い闇の気配だった―――そう、それはまさに未来視の魔人が闇の衣と呼んでいた、絶対防御に瓜二つ。
 そんな彼女には不思議と、一切の力みや気負いは見受けられない。目の前の愛しい男を抱きしめたい、純粋な愛情だけを胸に秘め、両手を左右に大きく広げる。その表情は透明で、清清しささえ漂っている。夜を支配する美しく白き肉体。闇を侵食する漆黒の波動。
 
 猫神を知らぬ者は、こう語る。
 水無月殺音は先代猫神である水無月風音を超えたと。

 猫神を知っている者は、こう語る。
 水無月殺音は先代猫神である水無月風音を超えてはいないと。

 果たして真実はどちらなのだろうか。多くの者を悩ませる命題の答えは、至極簡単なことである。
 真実は後者。殺音の力は先代猫神に及んではいなかった。例え先代が、自分を超えたと認めていたのだとしても、それは違う。風音は己の力を過小評価しすぎていた。御神恭也のために命を賭ける彼女の力は、魑魅魍魎が溢れていた六百年前の時代でなお、世界最強の二人に次いでいたのだから。
 だが、恭也と出会い、戦った水無月殺音は本来の自分へと覚醒した。その力は、この世に蔓延る数多の人外を遥か後方へと置き去りにするほどの極限の高み。今まさに―――水無月殺音は先代猫神を確かに超えた。

 空気中のあらゆる水分が凍った幻覚を感じさせ、呼吸をするのにも一苦労な重圧を浴びながら、恭也は微かな笑みで口元を歪める。その笑みに含まれた意味は一つだけ―――言葉では表現できないほどの喜びだった。
 数ヶ月前には確かに恭也が勝利を掴んだ。紙一重、どちらが勝利してもおかしくはない死闘の果ての結果。それから恭也も幾つかの死地を乗り越えた。虎熊童子や天眼、祟り狐、神咲三流、大怨霊。あれからさらに力をつけたつもりではあったが、それ以上の高みに水無月殺音という好敵手は駆け上がっていたのだ。
 夜の一族ということに胡座をかかず、驕らず、彼女は恭也と同じく遙かな頂を目指して歩みを続けていた。
 それがとてつもなく嬉しい。不破恭也の心が、喜びと感謝で満ちあふれる。
 
「―――有り難う、殺音。水無月殺音。お前には感謝しかない。お前には、感謝しかできない。悪意の結晶に取り憑かれ、剣に狂うことしかできなかったこの俺が、お前との約束を忘れずに生きてこれた。それはきっと、お前だからこそだ」

 殺音が空間に軋み音を響かせたのと同等に、恭也の放つ得体の知れぬ黒く蠢いた闇の重圧が、空間を圧殺していく。
 その音は錯覚だ。だが実体を持たないはずの、目に見えぬ殺気は確かに世界を破壊するかのように、拡大を続けた。二人が放つ気配は、もはや人間や人外と言った枠組みを粉微塵に粉砕し、世界最強を名乗るに相応しき怪物としてこの場に佇む彼らを包む。

「何分で、決める?」
「一分。それで充分だよ」
「ああ、そうだな。それ以上はきっと―――」
「―――止まれなくなる」

 彼と彼女が獰猛な苦笑を浮かべ―――双眸が細まる。
 二人が地を蹴った一瞬。恭也と殺音の立ち位置が入れ替わっていた。
 それ以外に異なることと言えば、恭也が二刀の小太刀を抜いていて、殺音が右手を振り下ろしている状態で固まっていることだけだ。誰一人として認識することも許さない、超速世界。恭也にのみ許されていた絶対速度。世界の時間の流れを支配する、無言の領域。そこに踏み込んだ恭也の動きを、殺音は認識し対抗することを可能としていた。
 かつての殺音や大怨霊でさえも打ち破り、反応を許さなかった自分の超越領域に侵入してきたことに、驚きを抱くことはない。今の彼女ならば、今の猫神を名乗る超越者ならばそれくらいはするだろうとわかりきっていたからだ。

「これが―――これが、キミの視ていた世界!! これが、キミが感じていた世界!! ようやく私も、ここに来た!! ごめんよ、恭也!! キミを独りぼっちにさせていて!!」
「―――謝罪はいらない。言ったはずだ、水無月殺音!! お前には感謝しかないと!!」

 同時に振り返り、互いに静止した状態から一歩で最速へと辿り着く。
 神速を容易く突き抜け、神域も軽々と飛び越えた、音も残さぬ神代の領域。無言の世界と呼ばれるそこに、彼と彼女は狂喜を漂わせて突入する。
 恭也の両手が霞み、ぶれる。光の残滓を残しながら殺音へと迫る一瞬十斬の乱撃が視界全てに広がっていた。それら刃の軍勢を、あろうことか猫神という名の怪物は、右手のたった一振りで全てを弾き落とす。
 金属と何かが激しく激突する奇妙な衝撃音。右拳の一撃で弾かれた恭也が、両手に伝わってくる鈍痛に耐えながら後方へと飛び下がる。殺音もまた、右手に感じた衝撃を逃がすように背後へと退避した。  
 
 戦いを始めて合計数秒。二度しか刃と拳を交えていない、二人の立ち会い。
 だが、人外魔境海鳴にいるどんな人間や人外、怪物であったとしても―――何が起きたのか視認することさえできなかっただろう。速度に特化した天守翼であったとしても、最初の一撃も避けることは不可能だった。それほどに二人の世界は別の次元に辿り着いていた。それは、世界最強を欲しいがままにした御神恭也が自在に操ったとされる領域。まだ未熟とはいえ、確かにこの場にいる二人の剣士と怪物は、最強を名乗るに足る世界へと到達していた。

 殺音が頭上へと掲げた右手の五本の指を広げ空中の【何か】を掴む。
 ビキビキと破滅を告げる、人の嫌悪感を呼び起こす―――まるで硝子の窓を引っ掻いたかのような響きが恭也の耳に届く。空気中の【何か】と拮抗していたのは一秒にも満たない時間で、殺音は躊躇いなく頭上から恭也へと向かって振り下ろした。
 
 ぶわっと死の風が巻き起こる。自分が死んだと錯覚するほどの、絶望の突風が生み出された。空間に創り出された五本の爪痕。殺音が空間に残した傷痕が、五つの三日月の真空の刃―――空間断裂に至った衝撃刃が恭也を切り裂き、後方に建っていた八束神社の賽銭箱を裁断、続いて本殿への扉を細切れにし、本殿を破砕。そのまま突き抜け、さらに後方に広がっていた森の木々を薙ぎ倒し、切り刻みながら彼方へと消えてゆく。
 切り裂いたと思われた恭也の姿がぶれ、跡形もなく消え去る。それに全くの注意を払っていなかった殺音は、大幅に右手へと逃げていた恭也に襲い掛かった。
 あまりの破壊力に、ぶるりと一度身体を震わせた恭也は、宙から舞い降りてきた殺音の左の拳に両手の小太刀を合わせて斬り弾く。全く同時とも言えるタイミングで叩き込まれた雷徹が二重の衝撃を殺音の拳に伝えるも、それに一切の怯みを見せない。
 
 徹を超えた純粋な破壊力が伝えてくる衝撃が、波動となって小太刀へと叩き込まれる。
 まずい、と判断した恭也は、後方へと逃げ飛ぶことによって両の小太刀を折られる事を回避した。その判断も神技だ。コンマ一秒の遅れがあれば、小太刀ごと恭也は捻りつぶされていたのだから。
 地面に降り立った殺音が轟音をたてる。地面に敷かれていた石畳を粉砕、パラパラと舞い散る残骸と砂埃。殺音の全身を覆い隠していた埃が揺らぐ。それが揺らいだ瞬間には、既に彼女は恭也の間合いに踏み入っていて、愛する剣士の肩を掴んでいた。見た目は長身痩躯の女性の肉体。だが、掴まれた肩から伝わってくるのは数トン―――否、数十トンにも匹敵する大質量。
 
 人間など紙くずのように容易くひき潰す怪物の接触を、瞬時に身体を捻り回転。殺音の腕の束縛を切ると、大質量の衝撃と回転の勢いを殺さずに、弧月を描いた小太刀が彼女の延髄に叩き込まれた。
 肩から切り離された腕に小太刀を這わせ、殺音の突進力の方向を正面から斜め下へと変更させる。前に立ち塞がる者は如何なる者も、物も粉砕するであろう怪物の突撃力は、そのまま地面へと吸い込まれていく。
 おまけとばかりに延髄に斬り放った斬撃で威力を増強。爆発音とも聞き取れる大衝撃。地面が爆撃を受けたかのように、地が穴を空けた。追撃をかけることもなく、吹き飛ぶ土や埃とともに、跳躍。 
 砂埃が止んだその場所で、水無月殺音は怪我一つなく、傷一つなく、笑っていた。
 恭也はその異常な姿に戸惑うことは無い。この程度で目の前の怪物をどうこうできるとは一切考えていないからだ。また、殺音も下手をしたら恭也を死体へと導くことになる威力の破壊を躊躇なく撒き散らしているが、それは信頼の為せる行為だ。恭也ならば、全てを予定調和の如くかわしつづけると。いや、狂いきった愛情と言い換えたほうが正しいのかもしれない。

 そんな水無月殺音の恭也へ対する想いは、彼を慕う人間達と少し異なっている。
 例えば、高町美由希は高町恭也を尊敬していて、兄であり師である彼の背中に追いつこうと日々鍛錬を積んでいる。
 城島晶も美由希と同じだ。幼い頃に出会って以来兄と慕い、師匠と尊敬して、彼の背中を美由希と同じように追っている。
 鳳蓮飛は、二人と違う。戦うということを好まない彼女は、日常という面で師である恭也の帰るべき場所を守っていようとしている。
 リスティ槙原はさらに特殊だ。見惚れるほどに研ぎ澄まされた一本の刀。高町恭也という剣士が到達した、剣の極地。それに魅せられてしまった。ただの人間が磨き続け、辿り着いた一種の狂気に。剣に命を捧げるという存在を知らなかったが故に、心を奪われてしまった。遠き昔の、エルシートゥエンティと呼ばれていた、感情の希薄だったあの時代、自分が求め続けていた理想を恭也に見た。
 天守翼はというと、恭也の背に追いつき、彼の隣で支えようと剣に磨きをかけていた。今のままでは決して届かないと気づいている彼女は、天守翼という人間を知るものならば到底信じられないほどに鍛錬に命と時間を費やしている。

 そして殺音は―――恭也の【好敵手】であろうとし続けていた。
 背中を追うのではなく、横に立って支えようとするのするのでもなく、恭也の【前】で、彼を満足させつづける敵たらんと心に決めていた。
 水無月殺音は、高町恭也に好意を抱いている。尊敬もしている。これ以上ないほどに、どうしようもないほどに、殺音は恭也という男を愛していた。魂までも痺れさせ、心の臓まで甘く凍えさせる。彼と一緒に居るだけで身体中が蕩けるような感情が支配していくる。
 愛しているからこそ、恭也の前に立つ。愛しているからこそ、敵であり続けようとする。
 水無月殺音は、心に刻んでいる。高町恭也という底知れぬ闇を抱えた剣士を満たし続ける―――最高の女たれ、と。

「あぁ!! あぁ!! 凄いよ、恭也!! わかるかい、恭也!! 私の気持ちが!! 私の想いが!! 私の、私の、私の―――!!」
「―――ああ、わかっている!! 理解している!! 言葉にせずとも、それくらい!!」
「愛死てる!! 愛死てるんだ!! 愛死てるよ!! 愛死続けるよ、キミを!! 私が死ぬまで!! いや、私が死んでも離さない!! 忘れさせてやるものか!! キミの心に!! 魂に刻んであげる!! ねぇ、恭也!! 恭也!! 恭也!! 恭也!! 恭也ぁぁぁあああああああああああああああああ!!」
 

 殺音は猛る。これ以上ないほどの歓喜に打ち震えて。
 殺音は吼える。これ以上ないほどの幸福に打ち震えて。
 殺音は叫ぶ。これ以上ないほどの愛情に打ち震えて。

 十年以上も昔に幼き恭也と邂逅したあの日以来―――不破恭也という男に狂った、一匹の怪物が牙を剥く。
 
 戦闘開始からこの間僅か二十秒。両者は再び無言の世界へと加速する。
 殺音が踏み込むと同時に空間を断裂させる左の横薙ぎを正面へと放つ。先程と同様に、抉り取られた空間が悲鳴をあげながら五線の爪痕が生み出された。その不可視の刃を跳躍して回避した恭也の切り落としの一撃が、不吉な煌きを残しながら殺音の頭上に叩き込まれる。
 切り落とされる小太刀と振り上げられる拳。拮抗するのは一瞬で、宙からの重力と体重を乗せた恭也の身体が後方へと弾き飛ばされる。ミシミシと小太刀が悲鳴をあげるのを聞きながら、眼前へと迫ってきていた殺音の左手が斜め上から打ち下ろしてくるのを、恭也は視界に捉えた。

 破壊者の鉄槌が振り下ろされ、何もかもを打ち砕く拳の軌道に合わせた小太刀が、その一撃の破壊力を真下へと流す。拳が地面に着弾し、大穴が開けられる。四方八方に砂や小石が撒き散らされて視界が塞がったその空間で、恭也の小太刀が濁った視界を断ち切って振り下ろされた。砂埃を切り裂いた光の刃が、殺音の右胸を貫く。
 だが、これでは駄目だと恭也は手応えから感じ取っていた。天眼と戦ったときのように、この程度の攻撃では彼女達が纏う闇の衣を突き破ることはできない。小太刀は胸を貫く僅かに手前で止められていた。

 殺音は瞬時に胸を突き破ろうとしている小太刀を掴むと、力任せに振り回す。抵抗しようとした恭也を嘲笑い、彼の肉体はまるでボールのように放物線を描いて放り投げられた。凄い勢いで視界の景色が変化していくなか、恭也の身体は八束神社の壁をぶち破り、本殿の中でなんとか体勢を整えて着地する。
 パラパラと木屑が舞い散っている最中、恭也は後方へと跳び下がり、小太刀を四閃。大人が通れる大きさの穴を創り出すと、そこから外へと飛び出した。そんな恭也の姿を追って、不可視の衝撃刃が荒れ狂い、建物を切り刻み、粉砕していく。もしも本殿から飛び出すのがもう一秒でも遅かったならば、殺音が放った空間断裂に巻き込まれていたのは想像に難くない。

 だが、殺音は恭也の行動を読んでいたのか、背後から感じ取れる空気の微かな流れ。異質感。
 振り向きながら両の小太刀を十字に構えたその刹那、小太刀を通して伝わってくる凶悪な衝撃。振り向いた恭也の視界に入ったのは、真後ろから一直線に、躊躇いもなく突撃してきた殺音の前蹴りを紙一重で小太刀防ぐことができた光景だった。
 受け止めた小太刀のみならず、両腕ごと粉砕しようと暴れまわる衝撃を、再度下へと流し伝える。蹴り足が、土を抉り、逃がされた衝撃が地面をはつる。
 恭也の全身が筋肉を引き絞る。空気を深く取り入れ、指先にまで染み渡ったのを確認。秒間十を超える乱撃が、殺音の肉体に叩き込まれた。足に、脚に、胴に、手に、肩に―――最速を持って繰り出された刃が自分に喰らいつくのを見届けながら、殺音は口元をゆがめる。
 死の刃が支配する近距離において、殺音は注意を払うことなく逡巡なく右手を突き出してきた。掴まれたわけでも、殴られたわけでもないが、右手が近づいてくるだけで言い様のない圧迫感を自然と受ける。集中していなければ、恭也といえどそれだけで気が遠くなるほどの重圧だ。

 生憎と殺音の絶対防御を突き破る目途はたってはいない。単純な話、殺音は攻撃にだけ専念できる。人外をも超越した怪物が、防御も考えず襲い掛かってくる姿は、それだけで恐怖を呼び起こす。
 迫りくる右手を断ち切ることは出来ないが、攻撃の軌道を逸らすことは恭也になら可能であり、それが今現在の唯一の防御方法だ。恭也ですら、逸らすことしかできない殺音の破壊を褒めるべきか、猫神という怪物の攻撃を逸らせる恭也を褒めるべきか。

 そんな巨人の掌の幻覚を感じさせる、殺音の拳へと恭也は踏み込む。
 姿勢を低く、殺音の死角に入り込んだ彼は、通り過ぎるついでに相手の軸足となっている左足を小太刀で払う。払いあげた足に腕を添え、回転を加えて跳ね上げる。
 宙で上下逆さとなった殺音が驚きの表情を浮かべるも、横一閃。頚動脈を狙った研ぎ澄まされた斬撃は、やはり闇の衣に防がれて決定打には為らず。ふっと息を吐いて、切っ先をピタリと腹部に添えた。

 両足が地面を踏み砕く。大地が怖れた悲鳴をあげる。世界を轟かす震脚が、山間に響き渡った。
 全身のあらゆる筋肉が、骨格が連動し、一瞬ともいえぬ刹那の時に爆発的な力を解放させる。上半身と下半身が一切の無駄なく連結し、放たれるは零距離からの奥義之参射抜。手を捻り小太刀が抉りこむように、殺音の腹部を貫く―――には至らず、凄まじい勢いで弾き飛ばされた殺音は見る影も無くなった八束神社に激突。壁を破壊しながら逆側の壁をさらに突き破り、先ほどの恭也と同じく神社の向こう側へと飛ばされた。両足を地面に叩きつけ、勢いを殺し体勢を整える殺音の眼前でバラバラと木の屑が激しく彼女の前で散っている。
 
 神社を突き抜けた自分と同じ経路で追って来るか。それとも上の屋根伝いにくるのか。それとも回り込んで向かってくるのか。殺音の瞳が獣のように縦に裂け、爛々と赤く輝いている。どの方向から来たとしても、見逃さない。そんな意思を秘めた彼女の視覚を潜り抜け、恭也は既に背後にゆらりと亡霊の如き立ち姿で存在していた。
 
 背後で立ち昇った剣気に、殺音は背筋を凍らせる。振り返るよりも速く、叩き込まれるのはこれまで以上の斬撃乱雨。目の前に立つあらゆる生命を喰らい尽くす、魔人殺しの剣閃が夜の闇を白銀に照らした。殺音でさえも何度の斬撃を叩き込まれたか理解できない、二十を超える乱撃が余すことなく殺音の肉体に斬りこまれるものの、斬の極みに達したそれらのどれ一つとしても彼女の肉体を傷つけることは不可能だった。 
 
 再度弾き飛ばされた殺音は何度目になるかの八束神社の壁を破壊。本殿の中へと叩き込まれたその時、両足を地面で蹴りつけ跳躍。頭上に迫った天井を、振り上げた一撃が貫き巨大な穴を開けた。その穴から飛び出た殺音は、屋根へと着地し、眼下で疾駆していた恭也の姿を発見すると同時に空気を引き裂く。空間を断裂させた衝撃刃の荒波が、恭也へと追撃をし、決死の思いでそれらを避けた彼の頭上から、狙い済ましたかのように怪物が飛び降りてきた。
 放物線を描くようにではなく、一直線に恭也へと迫る。それは放たれた矢のように。獲物に襲い掛かる肉食獣のように躊躇いは無い。漆黒の弾丸が、渾身の力を込めて拳が振りぬかれる。

 流石にこの一撃の衝撃は殺しきれないと咄嗟に判断した恭也は大きく間合いを取るように動く。地面を強く蹴りつけ、後方へと避難したと同時に爆音が轟く。舞い飛ぶ埃が衝撃波によって吹き飛び、殺音が突撃した地面から巻き上げられた破砕礫が周囲に散弾の如く飛び散った。
 小さなクレーターを作り出し、その半円形に抉られた最下層にて、四肢を地面につけて顔だけを見上げている怪物は、こんな殺戮劇には相応しくない―――いや、こんな殺戮劇だからこそ相応しい笑みを口元に浮かべ、目を見開いて恭也だけを凝視している。
 
「―――不思議だね!! キミとこうしている時間が何よりも楽しいんだ!! 心の底からそう思う!! 私とキミだけのこの世界!! 最高で、最高に、最高の―――時間だ!!」

 恭也と殺音がぶつかり合う所々に散りばめている無言の世界。その世界は恭也は無論のことだが、殺音とて突入するのは至難の領域。本来ならば、互いに二、三度が限界のはず―――だった。だが、すでに二人の突入回数は数度を超え、それでも再び彼らは二人だけの世界へと舞い戻る。
 限界に辿り着き、そして限界を容易く超えて二人は互いの魂を削りあう。それはきっと、不破恭也と水無月殺音という両者が認め合った好敵手同士だからこそ為し得る本来ならば決して有り得なかった奇跡。



 理解しているはずもない。
 理解出来ているはずもない。



 だが、二人は確かに自分達の全てを互いに見せ付けるようにぶつけ合う。




 

 二人の歪みに歪んだ愛情表現は、未だ終わりを告げることはなかった。
























 ▼




















「―――驚きました」

 未来視の魔人は自分が気がつかぬうちに、そんな言葉を漏らしていた。
 恭也や殺音が戦っていた八束神社から遠く離れたある場所で、天眼は片方しか開けてはいない瞳をこれ以上ないほどに大きく広げ、半ば呆然としている。
 その姿を、彼女を知っている者が見れば逆に驚かされたかもしれない。常に不吉な笑みを崩さない魔人でも、このような表情をするのか、と。
 
 天眼が腰をおろしている場所。そこは八束神社が存在する山とは少しばかり離れた所に位置する。といっても周囲は鬱蒼とした木々に覆われているというわけでもなく、道はきちんと舗装され、登山者達も時々みかける人気の山だ。時間が時間だけに、今は人っ子一人見受けられないのは当然のことだが。その一画にある石造りのベンチに彼女は座っているところであった。

 本来ならば恭也達を視覚できる距離ではない。だが、天眼は何かしらの方法を使ってか、確かに伝承墜としと猫神の戦闘を見物していたのだ。その一分という短い死闘を最初から最後まで見続けていた唯一の見学者である彼女の感想が―――。

「まさか、彼女が無言の領域に侵入してくるとは……。ありえない―――いえ、或いは水無月殺音が生存していれば、こうなった未来もあったというわけですか」

 カリッと何かの音が天眼の耳に届く。
 何かと思えば無意識のうちに右手の親指の爪を噛んでいたらしい。奇妙なほどに心がささくれ立っていく。ざわざわっと言葉では表現できない嫌悪感が胸の内を支配していっていた。
 この感情はなんだろうかっと、天眼は視線を鋭くする。遥か遠方にて、恭也と笑いあっている殺音の笑顔をもう一度ねめつけるように視界に入れた彼女は―――。

 ぶちり。

 歯が爪を噛み千切る音と感覚。知らず知らず、歯に力を込めていた天眼が、唾液と一緒に地面に吐き捨てる。
 ころんっと噛み千切った爪先が転がった。天眼は笑みを深くしようとして、止める。頬が引き攣った様に、言うことを聞いてくれない。この気持ちは初めて―――ではない。遠い昔。気が遠くなるというレベルではなく、もはや遥かなる太古の過去。【第三位】の怪物として世界の頂点に君臨していた、世界の思い出。
 あの時代に感じたことがある、もう自分には存在しないと考えていた青臭いモノ。

「―――嫉妬、ですか、これは」

 笑顔を消し去った天眼は、ゆっくりと立ち上がる。それと同時に石造りのベンチは闇に包まれ、一瞬でこの空間から溶けて消えた。ゆらりと幽鬼のように見えるその姿は、どこか危うさを醸しだしていて、声をかけるのも憚られる恐怖感を撒き散らしていた。

「結局は、終末は一緒。ならば、水無月殺音。貴女にはここで―――」

 彼女は、笑っていない。だからこそ、恐ろしい。
 地面に立っているだけの彼女の足元が、闇に侵食されていく。この場にいるだけで、魂まで喰われていく圧迫感を発しながら、未来視の魔人は一歩を踏み出す。
 その気配は尋常ではなく、ありとあらゆる人外も凌駕せし凶悪さを秘めていた。彼女こそがアンチナンバーズのⅡ。数百年に渡って、世界最強と認められた剣の頂に立つ者と酒呑童子と唯一単騎で渡り合うことができた人外の中の人外。
 そう―――全盛期の彼らと、戦うことができた現存するただ一人の怪物なのだ。
 もはや酒呑童子と彼の配下しか記憶に無い事実。それはつまり―――。

「―――そなたが実質の世界最強と名乗っても異論は出ぬことだろう」
「っ!?」

 嫉妬に身を焦がしていた天眼が、背後に生まれた気配に気づき地面を蹴りつけ右へと跳躍したのと、女性の声が響いたのは同時の出来事であった。
 退避は数十分の一秒という短さで遅れ、天眼の左手に灼熱の激痛を生み出す。
 
 空中に散じる鮮血が、パシャリっと音を鳴らしながら地面を濡らした。
 恭也の斬さえも容易く凌いだ闇の羽衣をあっさりと無効化した張本人―――ざからは、天眼から幾分か離れた場所で優雅に佇んでいた。珍しく忌々しげにそれに舌打ちをした未来視の魔人は、無事な右手で途中から食いちぎられた左手を撫でると、それだけで溢れ出ていた血液がピタリと止まる。

 その魔法のような技に驚くでもなく、ざからは唇の端から滴り落ちそうになっていた一滴の血液を手の甲で拭う。それが異常なまでに美しく妖艶に感じられた。


「……国喰らいの魔獣。貴女が何故このようなところに?」
「なに。我の住処に近しい場所にそなたのような輩がくれば何事かと気になるのも当然であろう」
「気配は消していたつもりでしたが……」
「ふん。どれだけ消そうとも、あふれんばかりの血臭は消すことは出来ぬ」

 クンっと鼻を鳴らしたざからは、淡々と語る。
 その姿は普段の彼女と同じように見えるが―――どこかがおかしい。なにかがおかしい。

 まるで今にも爆発しそうな火山を目の前にしているかのような異様で異質な重圧を滲ませている。


「本来ならば我が手を出すことではない。そなたが執心なのはあの剣士殿なのだから。うむ、我が関わることではない」


 ぞっとするほどに冷たい眼差しでざからは、天眼の全身をあますことなく刺すように睨み付ける。



「だがな、かつての友との約束を果たすときがきたということだろう。なぁ、未来視の魔人よ―――」




 膨れ上がる邪気。あの天眼でさえも、背中が粟立つのを止める事が出来なかった。
 周囲一帯の全ての生物が恐れをなして、縮こまる。
  
 完全解放状態の水無月殺音にも匹敵―――或いは凌駕しかねない触れるだけで全てを押しつぶす圧力を発しながら、遥かなる空の頂に座する神すらも喰らいし獣が獰猛に口角を吊り上げた。







「―――そなたは今ここで死ね」


 
























 ▼
























「ふむ……一人、というのも中々に物足りないところもある、か」



 殺音との激闘から数日の時が流れ、恭也は八束神社の裏手で何時ものように鍛錬を行っていたが、彼の口から自然とそんな台詞が零れ落ちる。
 本日は美由希はさざなみ寮でお泊り会があるとのことで、恭也一人で鍛錬を行っているのだが―――。


 本来ならば、恭也一人の時確実といって良いほどに姿を現すある人物がここ数日姿を見せていないことに、心のどこかで何かしらの引っ掛かりを覚えていた。


「全く。あの人は姿を見せているときも見せていないときも、困らせる人だ」


 夜の闇を断ち切る一筋の銀光。
 シャランっと綺麗な金属音が、周囲に木霊する。

 それに満足気に頷いた恭也は―――。



「―――今度会ったときにはもう少し話を聞くとするか」

  


 そう独白すると、一人鍛錬を続けるのであった。






















 それから三日が過ぎた。
 しかし、ざからは姿を現さなかった。


 さらに一週間が過ぎた。
 しかし、ざからは姿を現さなかった。


 二週間もの月日が流れ―――。

 それでも、ざからは姿を現さなかった。






















 ▼

 











 時間は少し巻き戻り、恭也と殺音が殺し愛をした翌日の朝。
 八束神社の階段をのぼる一人の少女がいた。

 朝日に映える巫女服姿。
 ほのぼのとした雰囲気を漂わせ、ゆっくりと階段を上っていく傍らには、小さな狐が一匹。
 即ち、神咲那美と久遠である。

 本日は学校が休みと言うこともあり朝から巫女のアルバイトに精を出す予定で来たのだが―――神社の境内へと辿り着いた所で固まった。
 那美も久遠もゴシゴシと眼をこすってみるが、彼女達の視界に広がっている光景は変化しない。

 鳥居は薙ぎ倒され、神社は本来の姿が思い浮かばないほどに粉砕され、言葉にだせない程に荒れ果てたアルバイト先の神社。
 おかしい。こんなはずがない。先日まで確かにここには神社があったのだ。
 しかし、幾ら見てもそれは事実でしかなく―――。

「ぇぇぇ!? ぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええ!?」
「くぅ、くぅぅぅぅぅぅぅぅうううううううん!?」


 那美と久遠の魂の雄叫びがあがった。
 再来! 八束神社壊滅の日。海鳴では毎年この月日は何時しかそう呼ばれることになったという。




























-----------atogaki--------------


 一年と半年振りくらいにお久しぶりです。
 他の小説に浮気をしていたため&リアルが立て込んでいたため更新が遅れました。
 け、けっしてわすれていたわけでは……。

 オリジナルの小説ももうちょっとで終わりそうなのでそちらがおわったら本格的に龍変を再開させたい……かなーなんて思ってます。待っている方がいるかどうかわかりませぬが。

 なんとか完結させたいっす……ええ。

 オリジナルの方も読んでいただいている方がいらっしゃるようで御礼を申し上げます。
 



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