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正月、俺は一年ぶりに実家のある石川県の羽咋市に帰ってきて、そして二年ぶりに父方の実家親族会に顔を出した。
「真二郎かい?あんた顔しばらく顔みせんかって、元気にしとったかいや」
「あけまして。……うん、仕事で戻れんかってん」
「そうか、今年は休みが取れてよかったわいね」
祖母の髪はすっかり白くなっていて、黒い毛が見事なほど無くなっていた。
「おばあちゃん髪、ずいぶん白くなったな。染めたら?」
「そうやねえ。すっかり白なってしもて」
おばあちゃんとの久しい会話もそこそこに居間へ入ると、もう親族のいくらかが集まっていた。
「あけましておめでとう。……真ちゃんか?」
「おじさん。あけましておめでとうございます」
一番に話し掛けてきたのは俺の父親の兄の徳男さん。つまり俺にとっての伯父さんだ。
「東京の仕事はどうや。つらないけ?」
「ええ、まあ、そこそこです」
「今年は価子もいるんや、相手してやってくれ」
価子ちゃん。確か、最後に見たのは三年前、同じここでだったか。当時価子ちゃんが小学四年生で、俺が大学四年生の時。
記憶にあるのは、ファミコンのエキサイトバイクを一緒に遊んだくらいか。
もともとゲームが好きな自分と、同じくゲームに熱中しやすい価子ちゃんとで、よく遊んでいた。ゲームをしている時は生き生きとしていたような気がするな。
……今ならわかる。精神レベルが近いだろうという周りの思惑で、俺に価子ちゃんがあてがわれていたのだろうけど。
「わかりました。でも、もうファミコンするような歳でもないですよね」
「それがそうでもないんや。中学に上がったんに、友達とも遊ばんとパソコンばっかやっててな。真ちゃんからも言うてやってくれ」
一瞬俺のことかとびっくりしたが、なるほど価子ちゃんも似たような道を歩んでいるらしい。だとしたら、俺に何が言えるっていうんだか。
確かに年頃の子が友達とも遊ばず家でひとりきりで居ることは健全とは言いがたい状態だ。
……だけど、気持ちはよくわかる。パソコン、楽しいもんな。俺もご多分に漏れず中学高校では嵌まったものだ。チャットとか。
ここは同じ道を歩んできた俺が、できるだけ落とし穴に落ちないようアドバイスをすべきだと、そう思った。
それに、中学に上がった価子ちゃんとも話してみたいしな。
父方の実家はなかなかに広いので、探すのに少し手こずった。
一階では見つからなかったので、あまり上がらない二階を見てみようと階段をのぼってすぐに、妙な音に気付く。
使われていないと思われる部屋から、がさごそと物音がするのだ。俺はそっと部屋を覗き込んでみた。
一瞬、目を疑った。
半開きになった押し入れから、小さなお尻が突き出ながらゆらゆらと揺らいでいるのだ。
今時よくあるタイトなデニムショーツから、明らかに見て取れる小さなお尻のライン。
……何の冗談だ、と思ったが、この尻がいま探している子に他ならないとすぐに思い至る。
「価子」
ぴた、とお尻の揺らぎが止む。
押し入れからバックしながら出てきたそれは、間違い無く、あの時から三年成長した、価子だった。
「価子、だよな?驚かせたか?」
「おにいちゃん!来てたの!?」
まるで見つからないと思っていたものが見つかった時のような、そんな驚きと喜びの混じった表情で価子は答える。
「ああ、来たよ」
「あっ……あけましておめでとうございます」
「ああ、おめでとう」
価子はうやうやしくお辞儀をして、そして黙り込んだ。
もともとこいつは寡黙なやつだという印象だったので、むしろこちらの方がしっくり来るというか、最初のテンションには正直、少し驚いた。
「悪いな、探し物、してたのか?」
何に対して悪い、と俺は思ってしまったのか。
後でわかったことだが、俺の欲情をもんもんとさせる尻を、思わず凝視していたことに対してなのだと気が付いた。
「……うん」
「もしかして、エキサイトバイクか?」
「?ううん、違うの」
「じゃあ何?」
今、エキサイトバイクという単語をまるで初めて聞いたかのような反応をしなかったか?女の一年は早いと言うし、忘れていたとしても全然おかしくはないけど。
それにしても、父方の実家で探すようなものなんて、あったか。
精々俺は庭にぶら下がっている干し柿や、干し餅を土産にくすねようと思ったくらいだが、この部屋にぶら下がっているとも思えないし、中学一年生のこの子がそのようなものをくすねにここを探しに来たとも思えない。
もしそうだったら遺伝子レベルで気が合いそうだが。っていうのは当然か。
「うん。えっとね……灰色で」
「灰色で?」
「ううん、灰色じゃないかもしれない。昔のもので、戦ったりするやつで」
「……戦ったり?」
「ううん、戦ったりするって限らないの。ソフトによるの」
価子の単語を拾っていくうちに、ひとつの答えを導き出した。
「……わかった。セガサターンやろ」
っていうか、なんでセガサターンが断片的な情報なんだか。
「そう言えばあったよな。無かったかばあちゃんに聞いとくわ。ここ寒いから、早く部屋戻り」
「……うん」
我ながらなんて気のきいたせりふだろう。
「ばあちゃん。セガサターンどこやった?」
「せがさたーん?ファミコンのか?」
話が噛み合っていないが、お母さんやおばあちゃんとは得てしてそういうものだからこの際どうでもいい。
「あーうん。ゲーム機のセガサターン」
「ほんなん、ほうてしもたわいね」
「ほうった?なんで」
「なんやゆうくんセーブできんからって、もう壊れてからって言って捨てたよ」
ゆうくんとは有太郎のことで、これまた俺の従兄弟の名前だ。歳は俺より一つ上。
あんなろ、セーブデータ用の電池切れ程度で捨てるとか、情弱にも程があるだろ。
そもそも、ゆうくんは独占欲が強くてセガサターンを持っていると自慢しながらも、ゲームをさせて貰ったのは後にも先にも一度きりだった。
だから当時、俺や価子はこの家ではファミコンという8ビット機で遊ぶしかなかったのだが。
しかしなんでまた価子はセガサターンなんて探していたんだろうか。この家でやることが無くてよほど暇だったのだろうか。
まあ、いいか。無いなら仕方がない。お節料理が出揃うまでマラソン中継でも見ていてくれるんだな。
心の中で、そううそぶく。
……だけどどうしてか俺は諦めきれなかった。
どちらかというと無欲そうな顔をしてる価子が、あんなに躍起になって探している姿を見るのなんて、初めてだった。
三年もすれば誰でも変わるとは言うが、俺にうやうやしく新年挨拶をしてきた価子は三年前の価子そのまんまだったし。
俺はパーカーのポケットからIS01を取り出しておもむろに検索をする。
" セガサターン オークション"
今日プレイすることは出来ないだろう。だけど、俺が地元にいるうち、いや来年の正月にまた価子とプレイできるなら……。
そう思って検索結果を待つが、表示されたのは不思議な結果だった。
「4件……?」
検索に引っ掛かったのは、僅かなターンテーブルなどの商品のみで、ゲーム機らしい品は一つも見当たらなかった。
おかしい、そんなはずは無い。
あの、90年代を風靡したはずのセガサターンが4件?グーグルがまたおかしなフィルタリングをしているのか?
……しかし、ヤフー、バイドゥ、ビング検索を掛けても、結果は同様だった。
背中に寒気を覚えながら、まだだ、と心の中でつぶやく。
いつものスレを開き、こう書き込む。
"セガサターン無いかね、検索に掛からなかった。いよいよ手に入らなくなったんけ?怪しい品でも構わんから頼む、できればソフトも"
ここのヤツらとは、付き合いも長く信頼も厚かった。顔も名前も知らないやつらだし、モニターの向こう側の人はきっと入れ替わり立ち替わりしているだろうけれど、それでも俺にとっては唯一無二の"親友"に違いなかった。
彼らならいかに検索エンジンがだんまりを決め込んでいても、そんなことはささいな問題に違いない。
「すまんな、みんな……後でお礼の特価は探すからな」
そう心の中で呟き、10分ほど待ってから更新ボタンをクリックした。
そこには、意外な反応があった。
いや、意外というにはいささか早計か。
返答があったのは一つだけ。
それ以外は俺の書き込みなどスルーだ。流されるのはいつものことだ、それはいい。
しかし、ただ一つ答えてくれた返事が、異様としか言いようが無かった。
"やめろ"