リヴァル・カルデモンドにとって、ゼロという名の持つ意味は複雑だ。
オレンジ事件での華々しいデビュー以来、
リヴァルはゼロのことを好意的に捉えていた。
たしかに彼の思想や言葉が理想主義的で
彼を盲目的に支持する「日本人」には閉口もした。
だが、この世界に正義や真実が一つしかないと思うほど頭脳が子供でもない。
ブリタニアという国の大原則に関して少なくない疑問を持っていた彼としては
黒の騎士団をある程度支持していた。
しかし友人シャーリーの父親がゼロの行動に伴って死亡したことにより、考えを改めねばならなくなる。
これまでリヴァルにとってゼロはどこか物語上の人物だった。
けれど彼のコミュニティー内の人物を傷つけたことで
ゼロの行う革命を他人事でない、現実として評価しなければならなくなったのだ。
しかし・・・
「あぁ~、もう何やってんだよぉ。ゼロも、副総督も!」
生徒会室でミレイ・アッシュフォードと共に
テレビを見ていたリヴァルはたまらずに叫んだ。
今日はユーフェミア副総督による行政特区日本の式典日。
ゼロへの評価を決めるためにも
授業をサボって中継の様子を見ていた。
しかし式典会場にゼロが見たこともないナイトメアで現れたかと思ったら
そのままユーフェミアと二人きりで会談したいと言い、
舞台の奥に姿を消してしまった。
そしてそのまま二人が密室に入ってから30分が経とうとしていた。
「本格的に交渉してるんじゃないかしら。だとしたら1,2時間じゃ済まないかもね」
同じく授業をサボタージュしたミレイが答える。
リヴァルが振り返ると
普段は「明るく楽しく」がモットーのような彼女だが、
セミロングの金髪に飾られた美貌に遊びの色はない。
「えぇ? フツーはそういう協議って式典前に済ませておくモンじゃないんですか?」
「普通なら、ね。でもテロリストのワンマンリーダーと、・・・まだ若い皇女様よ?
そういう下準備ができてない方が自然かもしれないわ」
口元に手を当ててテレビ画面を見たまま考えこんでいる。
普段の天真爛漫なキャラもいいが
貴族の娘然とした今の姿も見惚れるほどだ。
しかし茶々を入れる雰囲気でもないので言わないでおく。
「あ゙~、今日はバイトもあるから早く決まってくれないと・・・」
言いかけたところでテレビから歓声が聞こえてきた。
慌ててテレビに向き直る。
画面には式典会場の舞台奥から現れるゼロがユーフェミア副総督が映し出された。
ミレイ共々息をのんで画面を注視するなか
こちらが焦れるほどゆっくりと歩を進め、檀上につくとまずはゼロが口を開いた。
『黒の騎士団よ! 行政特区日本に参加せよ!!』
『現在の団は解散するが、それは我々の敗北を意味しない!』
『黒の騎士団よ! 行政特区日本の中で生き続け
潜在的な脅威として私の為すことを見張るがいい!』
『もし私がブリタニアに取り込まれ、殺されたと思ったのであれば』
『諸君が仮面を被り、新たにゼロを名乗るのだ!』
『ゼロの真贋はその行いで決められる』
『全ての「ゼロ」よ! 私の為すことを見届けるがいい!!』
「いや、ムリでしょ・・・」
テレビからは万雷の拍手が聞こえてきたが、リヴァルはそう呟いた。
ブリタニア側にとって必須条件である武装解除に応じる、というのは評価できる。
しかし彼らは帝国に反逆したテロリストなのだ。
司法取引をするにしても、ユーフェミアを前に
実力行使の大義名分を失ったテロリストに
ブリタニア側が大きく譲歩する理由はない。
そもそもこの特区日本は『 お飾りの副総督 』であるユーフェミアの独断らしい。
武闘派として名高い姉コーネリアとの関係は良好だと聞いていたが
早くも特区日本絡みで姉妹の仲が拗れたというゴシップも流れている。
はたして総督がブリタニアの敵を許すのだろうか。
そもそもこの演説は何だ?
まるでゼロ本人は武力を放棄したがっていて
黒の騎士団を説得しようとしてるようにすら感じる。
いや、あるいはゼロの何らかの陰謀か?
今のゼロが殺された事にして
新ゼロが旧ゼロ殺害を大義名分に特区日本を潰す、とか・・・
リヴァルがまとまらぬ思考を続けるうちに
ゼロからマイクを渡されたユーフェミア副総督が演説を始めた。
特区日本の理念に関する話だったが
ゼロの言葉と比べるといかにも「誰かが用意した原稿を読んでます」感が強い。
『・・・最後に、この特区日本への参加者が日本人だけでないことをお伝えさせていただきます』
『信じられないかもしれませんが、ブリタニア人から私以外にも参加者はいるんです』
『その、特別というわけではないのですが、その人を紹介させてもらいます』
『少し・・・ええと・・・ワケありなので舞台にあがってきてもらいましょう』
「なんだあ?プロレスじゃないっての・・・」
リヴァルの疑問が声に出てしまう。
前半の原稿丸暗記演説が一転、妙な流れになっている。
口にしているユーフェミア自身、躊躇っているような感じで歯切れが悪いし
カメラマンも明らかに撮るべき場所が分からず慌てている様子だ。
しばらく画面が右往左往したあと
テレビは人ごみをかき分けて前に進む一人の青年のを映し出した。
角度から後姿しか見えないが制服のようなものを着ていて・・・
「あれ、もしかして、アレってうちの制服じゃん!?」
「・・・っ!まさかっ!」
血相を変えて立ち上がるミレイ。
驚いて振り返りかかるリヴァルだが、
好奇心か不安か、画面から目を離せない。
徐々にアップになっていく後姿。
制服がアッシュフォード学園のものである事はもう疑いようもない。
問題はその痩せぎすな体格に、
やや無造作な黒髪に、
妙に貴族然とした歩き方に見覚えがあることだ。
護衛がその男を止めようとするのを副総督が制し、男は壇上に上がった。
神聖ブリタニア帝国第3皇女ユーフェミア・リ・ブリタニアから悠然とマイクを受け取り
聞きなれた、しかしどこか初めて聞くような口調ではっきりと言った。
『この中継はこのエリア11全体に流れています。
特区日本に関して様々な立場の方が様々なこと考えているでしょう。
なので色々と話す前に、まず私から大事なことを言わせてもらいます』
『私、神聖ブリタニア帝国の第11皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは皇籍を返還し、
皇籍返還特権に基づき黒の騎士団の恩赦を要求します。』
リヴァルは
フリーズした。