俺と鬼と賽の河原と。生生流転
街を歩く。とある人と待ち合わせがあるために、だ。
藍音に持っていくといいと言われた鞄を肩に下げ、と、そんな時、道中で見知った顔に出会う。
街で出会った美しい少女は少年だった。
「……お前は」
「お久しぶりです」
にこにこと笑って手を振る彼女……、もとい彼の名前は支倉 空。
巷で私キレイ? と問うた後に股間の一物を見せ付けてくる変態である。
正確には、だった、だろうか。俺と鬼兵衛で逮捕したことは記憶に新しい。
「出てきたのか?」
「はい、あの節はどうもご迷惑をお掛けしました」
「いや、いいけどな」
全て終わった話である。終わった話じゃないと困る。
のだが、ふと気になって俺はその疑問を口にした。
「お前さんは普段は何してる人なんだ?」
「あ、いつもは居酒屋で働いてます」
「……おう。男達がくんずほぐれつな映像作品に出てるって言われなくて良かったぜ」
「あー……、手違いで一度だけ出ちゃったことはあります」
そう言って支倉は頬を掻いた。
「……詳しく聞きたいような聞きたくないような」
「廃ビルでホモから逃げ切ったら十万円っていうタイトルだったんですけど」
なんだかありそうな題だな。
それに騙されて出演させられたと。
確かにこの可憐な外見は追われてて絵になるだろうが。
「……逃げ切れたのか?」
「三人くらい捕まえました」
「そっちかよ!!」
思わず背筋に怖気が走る。
「ところで、今日も暑いですね。なんだか、眩暈が……」
こんな可愛い面してこの巨根が。
そんな支倉はわざとらしく頭に手を当ててふらりと倒れそうになっている。
「少し、そこで休憩していきませんか……?」
言いながら、支倉はちらちらとこちらを見てくる。
「そこで休憩していきませんか、チラッ、チラッ、じゃねーんだよ!!」
顔を赤らめこちらを見てくる支倉に俺は叫んだ。
完全に身の危険だった。
「俺はそっちの気はないっ」
「ノンケでも優しく包みますっ! 薬師さんっ」
……名前、教えたっけ?
「誰か助けろ!」
こいつはマジでヤバイ。
いつにない危機である。
そんな俺が切実に助けを求めたその時。
「薬師殿ー」
「おお、正に天の助け!」
救世主が現れる。
まだ姿は見えない。だが、声だけで十分だった。
「おっと待ち合わせの時間に遅れる。じゃあまたな」
そうとも、俺は山崎君に会わなければならない。
渡りに船。丁度いい。
そう思って俺は全速力でその場を立ち去り山崎君を探した。
「どこだ?」
「ここでござる」
その声の方向。それは、俺のすぐ近くから聞こえる。
いやな予感を頼りに、俺は鞄を開いた。
するとそこには――。
「ご無沙汰しておりました」
予想の通りの生首が。
其の十七 俺と生首ストレート。
「何故鞄から出てくる」
「先日移動中に体を紛失して困っていた所、回収された次第にござりまする」
「それで現地まで鞄で俺が連れてきていたと」
粋な演出だがこれはどう考えても恐怖映画的な意味でだ。
鞄から生首を出して俺は山崎君を見つめた。
「で、体は」
「今来るかと」
遠くから、体が手を振って駆け寄ってくる。
「うむ、いつ見ても奇妙だ」
フリルの多い黒いドレスを着た少女の体が走る姿はいかにも異様だった。
「で、今日は何の用だ?」
噴水の前。待ち合わせ場所に時間通り。
しかし、俺は呼び出されたから来ただけで、詳しい内容は聞いていなかった。
そんな俺へと、山崎君は躊躇いもなく言い切った。
「今日はでーとに誘いに来た次第」
「……でーと?」
「逢引にござりまする」
「おう」
「男女が下心を持って行うアレにござる」
いや、それは分かる。
「俺とか?」
「薬師殿じゃないといけませぬ」
俺の手の中の山崎君が真っ直ぐに見詰めてくる。
「……あー、そうかい」
言われて、俺は少しだけ熱くなった頬を掻いた。
なんと言うか、好かれていることを自覚するとよろしくないな。
「それで、受けていただけるのでござろうか……?」
不安げに問われ、俺は苦笑を返す。
「こんな俺でよければな」
そして、照れ隠しに、体へと生首を渡した。
首を渡された山崎君は、一つ微笑むと俺の手を取って朗らかに口を開いた。
「では、行きましょうぞっ」
「おう。ところで、どこに?」
「……えーと、どこかに」
俺達の逢引は早くもつまずいていた。
「で、何処に行きたい?」
うららかな春の陽気の下、俺達はオープンカフェで行き先を話し合っていた。
「何処、でござるか……。そのう……、でーとというだけで舞い上がっていてなにも」
「俺も今の今まで知らなかったからなんともな」
行き先が決まっていないなら今から決めるしかない。
の、だが。
「映画……、つっても今何やってんのか知らんしな」
「拙者、その辺りとても疎いでござる」
「だよな。何か欲しい物とかは?」
「特にないでござる」
「そうか。じゃあ遊園地……、は行きたくない。絶対に行きたくない」
「そうでござるか」
しかし、中々決まりそうもない。
どうしたものだろうか。
「その、薬師殿」
俺が難しい顔で悩む中、山崎君はおずおずとそれを口にした。
「拙者は、薬師殿と一緒なら、その……、どこでも楽しいでござりまする」
はにかむような笑顔で言われ、俺は上へと視線を外す。
「……そーかい。そりゃ良かったな」
「はい」
微笑みながら言われ、結局視線を外してもなんとも言えない状況に。
「眩しくて直視できねー!」
「?」
しかし、嬉しい言葉なのだろうが、困りもする。
本当に何処に行ったものか。
「何処でもいい、ねえ?」
「は。しかし、一つだけいいでござろうか」
「いいぜ、現状打破できんならなんでも」
「じゃあ、薬師殿。その、拙者の、家に、来ると、いうのは……?」
途切れ途切れに照れながら言われ、俺は問いを返す。
「いいのか?」
「どきどきと、わくわくで、ござる」
それは果たして金を使ったりとかを気にしてのことなのかと思っての問いだったが、つまり構わないということか。
「まあ、俺もそれでいいなら構わんが」
「おお、決まりでござるな」
「そーだな」
何はともあれ山崎君の家に行く方向で何とかなりそうだ。
「では、早速参りましょうぞ! ささ、手を」
手を出してくる山崎君を拒絶する理由もない。
その手を取って、俺達は動き出したのだった。
山崎君の部屋はその言動とは違って、小洒落た洋風の部屋だった。
「そのう……、あまり見られると……」
「おっとすまん」
普通の部屋のわりにそれっぽい置物とか調度が上品にまとまっていて地味に気になる。
そんな中、俺と山崎君は椅子に座って、卓を挟んで向かい合っている。
彼女は胸に生首を抱えて俺を見ていた。
「しかし」
「なにか?」
目の前には紅茶が置いてある。
味は決して悪くはない。
「あんまり状況は変わってない気がするな」
ひたすら見詰め合うだけなら、先ほどとあまり変わっていない気もする。
「拙者は……、どきどきして候」
「おうそーかい。でも、どきどきさせてたら、疲れないか?」
俺が疲労の原因になるというのも困りものだろう。
そう思ったのだが、それは杞憂だったようだ。
「この、どきどきは、いやじゃありませぬ。心地よいもの、です」
「……ならいいけどな」
くそ、やはり照れくさい。
「そ、その!」
「なんだ」
「隣に行っても、良いでしょうか」
「ああ」
頷くと、山崎君が椅子を動かして俺の隣へと移動してくる。
そして、体が俺の方に体重を預けてきた。
「……えい」
そんな中、生首は俺の頬へと口付けをする。
「……いや、なんだよ」
「あたっくでござる。振り向いてもらえるように。薬師殿へ」
照れくさそうに言う山崎君。
やはり恥ずかしい。
「好きでござる、薬師殿」
「ぬう……」
俺は視線を外して明後日の方向を見つめる。
「それとも、こういうのは迷惑でござりましょうか……。で、あれば、控えようと思いまするが……」
問われて、俺は黙り込んだ。
迷惑か、と言われると――。
何と言ったものか。
考えてから、俺は口を開いた。
「迷惑ではない」
こうして表現してもらえることをいやだとは思わない。
「……あー、だが、手加減してもらえると、助かる。何せ、照れる」
口にすると、山崎君は柔らかく微笑んだ。
「そうでござりまするか。では、頑張りまするっ」
「振り向いてやれるかはまだ分からんが。というか、マジで手加減してくれよ。あんまり真っ直ぐ来られると本当に照れるからな」
俺は念を押すが山崎君は微笑むばかり。
「大丈夫でござる」
「どうだよ」
「その時は、拙者も一緒に照れます故――」
……一体。
何が大丈夫なのかよく分からないが。
まあ、いいかと思った。
―――
直球の山崎君が薬師のSAN値をガリガリ削ります。
返信
男鹿鰆様
いやはや、インフル流行ってるみたいですね。人間健康が一番です。お気を付けを。
オフクロカスタム参式セカンドダッシュレヴォリューションVer,Ωは間違いなく改良を重ねられすぎて装甲板に覆われてますね、もう飛びそうです。
ついでにナノマシンである程度自己再生しそうです。そしてメンテナンスフリーで長期間保存可能。
ムラサキは、とりあえずテンパらせたら勝ちだと思います。焦らせるとつんつんにボロが出てくるので。
1010bag様
治った後も、地味にお休みしないといけないのが辛いです。発症から五日とか、熱下がって三日とか。
しかし、とりあえず計算してみたら、バリエーション八は存在しますね、肉じゃが。Ω前まで全部あるなら二桁余裕ですけど。
ムラサキはツンデレ気取りですが、突かれるとすぐボロがでます。ボロが出るとデレデレになります。ほんとにボロを出すと今以上にデレデレです。
そして、ジャガイモ咥えて喋れる無駄特技。なんに使うんだ。
通りすがり六世様
GRは作画が凄まじかったのが印象に残ってます。そして指を鳴らしまくりながら踊るヒィッツカラルドも印象に残ってます。
しかし、その設定は初めて知りました。一人単純明快に悪役してて好きでしたけど。ただし真っ二つだぞ。
とりあえず、喫茶店姉妹は妹の方が姉にべったりなので色々と複雑な気分でもあるみたいです。
しかしながら何だかんだと姉妹丼に持っていく薬師はやはりヴェルタース本物を口にしこたま詰められて窒息すればいい。
最後に。
山崎君の攻撃力半端ない。