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No.31506の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。生生流転(ほのぼのラブコメ)[兄二](2012/02/09 22:54)
[1] 其の一 俺と家庭。[兄二](2012/02/09 22:55)
[2] 其の二 俺と爆発的甘味。[兄二](2012/02/14 22:53)
[3] 其の三 俺と首に嵌ったなんか輪。[兄二](2012/02/19 22:26)
[4] 其の四 似たもの師弟。[兄二](2012/02/22 22:50)
[5] 其の五 俺と正直者。[兄二](2012/02/26 22:39)
[6] 其の六 甘白日。[兄二](2012/03/08 21:17)
[7] 其の七 俺と娘と羞恥プレイ。[兄二](2012/03/06 22:36)
[8] 其の八 俺とスロースタート。[兄二](2012/03/11 22:00)
[9] 其の九 俺と守るべき人。[兄二](2012/03/17 22:19)
[10] 其の十 俺と姉妹。[兄二](2012/03/24 22:30)
[11] 其の十一 俺と疲れる日。[兄二](2012/04/06 08:16)
[12] 其の十二 俺と素敵な遊園地。[兄二](2012/04/08 22:14)
[13] 其の十三 俺と君のお名前は。[兄二](2012/04/12 23:08)
[14] 其の十四 俺と恋愛相談。[兄二](2012/04/15 23:24)
[15] 其の十五 俺と櫛。[兄二](2012/04/21 22:25)
[16] 其の十六 俺と恩リターンズ。[兄二](2012/04/27 22:18)
[17] 其の十七 俺と生首ストレート。[兄二](2012/05/02 23:13)
[18] 其の十八 俺と筋肉。[兄二](2012/05/07 23:25)
[19] 其の十九 俺とダメな奴。[兄二](2012/05/12 22:14)
[20] 其の二十 俺と紺布。[兄二](2012/05/17 23:43)
[21] 其の二十一 俺と気まぐれと猫。[兄二](2012/05/23 23:03)
[22] 其の二十二 俺と大切なモノと俺。[兄二](2012/06/01 00:47)
[23] 其の二十三 喉元を過ぎ行く熱さ。[兄二](2012/06/03 22:04)
[24] 其の二十四 俺と私の秘薬。[兄二](2012/06/10 21:58)
[25] 其の二十五 俺と眠れない夜。[兄二](2012/06/17 22:18)
[26] 其の二十六 俺と眠気。[兄二](2012/06/24 22:38)
[27] 其の二十七 眠れない俺。[兄二](2012/07/01 22:17)
[28] 其の二十八 俺となんとなく撫でて反応を見てみた話。[兄二](2012/07/09 22:41)
[29] 其の二十九 俺と彼女と仕事着。[兄二](2012/07/16 22:08)
[30] 番外編 ならば首輪でも嵌めろと言うのか。[兄二](2012/08/04 22:33)
[31] 其の三十 馬に蹴られるより先に娘に。[兄二](2012/08/14 22:05)
[32] 其の三十一 俺と安っぽい味。[兄二](2012/08/28 22:01)
[33] 其の三十二 妥協しない秋。[兄二](2012/09/08 22:20)
[34] 其の三十三 どうせなら笑顔で。[兄二](2012/09/17 21:58)
[35] 其の三十四 俺と愛情表現について考える会。[兄二](2012/09/25 22:24)
[36] 其の三十五 俺と彼女の過剰なサービス。[兄二](2012/10/05 22:38)
[37] 其の三十六 俺と演技指導。[兄二](2012/10/14 22:33)
[38] 其の三十七 混迷劇場。[兄二](2012/10/27 23:14)
[39] 其の三十八 俺と構ってさん。[兄二](2012/11/04 22:15)
[40] 其の三十九 俺と、……誰もいないだと。[兄二](2012/11/13 23:23)
[41] 其の四十 俺と風呂と背中と手首。[兄二](2012/11/25 22:25)
[42] 其の四十一 俺と昔のやらかした出来事。[兄二](2012/12/16 22:00)
[43] 其の四十二 俺と暖房と襟巻きと。[兄二](2012/12/30 22:13)
[44] 其の四十三 俺と彼とCD。[兄二](2013/01/10 22:21)
[45] 其の四十四 俺とバレ……、バレンタインデーって何だ。[兄二](2013/02/24 23:18)
[46] 其の四十五 いい子悪い子。[兄二](2013/03/17 22:16)
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[31506] 其の三十 馬に蹴られるより先に娘に。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:cddccc51 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/14 22:05
俺と鬼と賽の河原と。生生流転







「……やあ」

「よう」


 仕事帰りに偶然会った鬼兵衛。


「唐突だけど、知ってるかい?」


 その顔は。


「……お宅の由壱君と、うちの娘がね」

「おう」

「――一緒に夏祭りに行くそうなんだ」


 正に鬼の形相だった。


「知らんがな」

「知らんがなじゃないんだよ。これは一大事だ。娘の一大事なんだよ」

「だからってどうするんだよ」


 問うと、あっさりと鬼兵衛は言う。


「ちょっと事故に見せかけてぽろっと殺ってしまおうかと」

「……おい」


 常識人、青野鬼兵衛は娘のことになるとあっさりさっくりと常識を放り投げる。


「常識を取り戻せ。思いとどまれ」

「常識は放り捨てるものさ」

「不法投棄よくない」

「では僕のいきり立ったこの思いはどうしろと?」

「飲み込めよ」


 途端に駄目な大人になった鬼兵衛を諭すように言葉を続ける。


「第一、お前さんが殺人で捕まったら事だぞ。運営に迷惑が掛かる」

「大丈夫、人ごみに乗じるし、隠蔽の道具なら幾らでも」

「本気出してんじゃねーよ!」


 何でこいつは娘が絡んだ途端酒呑童子並に成り下がるのか。


「いい大人がな、そういう派手な迷惑撒くのはだめだろ、な?」

「……ふーむ、そこまで言うなら」


 俺の地道な説得が功を奏したか。

 鬼兵衛の態度が軟化する。


「でも、人知れずこっそり邪魔する位はアリだよね」

「……もう好きにしてくれ」


 もうこいつは駄目だ、使い物にならん。

 由壱、頑張れよ。

 俺は心中でそう呟いたのだった。













 と、そんなこんなで。


「ま、だが。いい大人がっつう話だよなぁ」


 錯乱した鬼兵衛は放っておいたら間違いなく、由壱たちの邪魔をしにいくだろう。

 意気揚々と、声高らかに。


「仕方ねーなぁ。仕方ねーよなぁ……」


 俺は、ふらりと玄関へと向かう。

 と、その途中で。


「お父様、どこかに行くのですか?」


 外に出る直前で由美に出会う。

 まあ、隠すようなことはなにもない。

 正直に俺は返答を返す。


「祭りに行ってくる」


 それだけ言って、出て行こうとすると、何故か俺は袖を引っ張られていた。

 そうして、振り返った俺に、由美は――。


「……あ。私も、行っていいですか?」

「別に面白いことにはならんと思うぞ」


 と、俺は返すのだが、由美は何故か顔を赤くしてもじもじしながら、口を開く。


「……いいです。それで。お父様と一緒なら」

「なら、まあ、別に付いて来てもいいけどな。じゃ、行くか」


 ……弟の恋路の応援に。















其の三十 馬に蹴られるより先に娘に。














「……うへぇ、混んでるな」

「そうですね」


 辿り着いた会場はまあ、想定の範囲内と言うべきか。

 例年通り滅茶苦茶に混んでいる。


「まあ、いいか。とりあえず、由壱は来てるのか……?」


 呟いた俺へと、由美は小首を傾げて問う。


「お兄ちゃん、ですか?」

「おう。ちょっとな。若い二人に邪魔が入りそうなんで応援しにな」


 と、俺の感覚に、知ってる気配が引っかかる。由壱だ。

 この人ごみの中だろうが、よく知る人間ならば風での探知は容易い。

 どうやら、その隣にもう一人いるし、こちらはお相手の方だろう。


「もしかして……、鬼兵衛さん、ですか?」

「……まーな」


 そう言って俺が肩を竦めると、由美はくすくすと笑う。


「娘思いの、いいお父さんだと思うんですけど……」

「だから手に負えんのだ」

「ところで、お父様は、お兄ちゃんの恋愛に反対じゃないんですか?」

「ん? 俺か? そら、まあ、男だからなぁ。道さえ踏み外さなきゃ好きに生きろと」


 確かにちょいと若い気はするがもう死んでるんだしこの際気にしても仕方ない。

 それに、男はどこまで行ったって減るもんじゃないのだ、ああいうのは。


「それに、色恋に関しちゃ俺のほうが素人だろうからなぁ」


 それはそれで少し癪だが。


「ま、そういうこった。つっても……、まあ、まだ来てないみたいだな親父の方は」

「そうなんですか?」

「ああ。つーこって、しばらくぶらつくか」


 言うと、由美は嬉しそうに顔を綻ばせる。


「あ、はい……!」


 まあ、来た以上、鬼兵衛の邪魔だけして帰るのも不毛この上ないだろう。

 これで由美が顔を綻ばせてくれるなら、安いものだ。

 ……まあ、祭りの高い食い物で懐が寒くなろうとも、安いものだろう。















「綿飴、口んとこ付いてるぞ」

「え……、えっ?」


 慌てて逆の口の端を擦る由美の微笑ましさにひとしきり苦笑した後、俺は指で由美の口の端を拭ってやった。


「流石、甘ぇ」


 めっちゃ甘い。まあ、砂糖みたいなもんだから甘くなかったら困るけどな。


「お、お父様……、そのっ。困ります……」

「ん?」


 なんでか由美を困らせてしまったらしい。

 首を傾げて考えてみるも、どうにも分からん。


「どうかしたか?」


 聞いてみたら今度は由美は俺に呆れたのか、苦笑してしまった。


「もう……、お父様ったらっ……」

「おう? すまんな」


 怒ってはおらず、はにかみながら笑っているので、俺はそれ以上の追及はやめることにする。

 そして、俺はとっとと話題を変えることにした。


「いやしかし、屋台のしょっぱい食い物とかは美味いな」

「そうですね、お父様」


 雰囲気補正による美味は、祭りでしか味わえない魅惑の味だ。

 しかし、問題点はお値段とついつい買い込んでしまうことだろうか。


「いやはや、これだけ食うと太っちまいそうだ」


 たこ焼き、焼き蕎麦、お好み焼き、揚げた芋、と、色々既に食した後だ。

 冗談めかして言う俺に、由美が微笑みながらたしなめるように言う。


「お父様、女性に体重の話はタブーだと思います」

「おっと、そうだな」

「めっ、ですよ?」

「おう……、でも、なんかあれだな」

「なんでしょう?」

「いやぁ、由美は可愛いな、としみじみと」

「そ、そうですか……? 嬉しい……、です……」


 照れて尻切れに小さくなっていく由美の声に俺は苦笑でもって返した。

 引っ込み思案な由美が俺をたしなめたり、意見したり。

 これが成長か……。嬉しくも寂しくもある。

 と、一人しみじみとする俺に対し、由美はどうやら照れくさくて話題を変えたいようである。


「あっ、あの!」


 意を決したように由美は言う。


「お、お父様はっ、どんな体形の女の子が好みですかっ……!」

「藪から棒が飛び出してこめかみに突き刺さったような気分だ」


 脈絡が無さ過ぎる、いや、一応俺の太りそうだという話に絡めているのか?

 だが、別に好みと言われても、だ。

 つまり男女の好き嫌いという奴の系統の質問だというのは分かるのだが、返答に困る。好みなどぶっちゃければ存在しないのだ。

 だから、特に無い、あるいは分からんと俺は答える、のだろう。山崎君に告白される前の俺ならば。

 そう、これでも色々模索中の俺である。こういった所で逃げずにちゃんと考えることが色事の理解に繋がるのではあるまいかというわけで。

 真面目に考えてみる。

 好きな体形。体形か。そしてこの状況からだと体重を主軸に考えるべきだろう。

 つまり、太り気味が好きとか、標準より細い方が好きとかそんな感じだ。


「ぬ……」


 だが、今の俺に特定のこれが好きという感情は無い。

 ならば、消去法ならどうだろうか。例えば標準から大きく逸脱して太っている場合。これは俺の好みに当てはまらん。初心者の俺には格が違いすぎる世界だ。

 では、激しく痩せている場合。これも駄目だな。骨が見える所まで行っていると流石に好きとか嫌いとかよりも心配になる。うっかりポッキリ折ってしまいそうで怖いし。

 つまり、何事も程々が一番何じゃないだろうか。

 いや、しかしこれは答えとしてはあまりに玉虫色すぎるのではなかろうか。

 逆に言ってしまえば激しく逸脱していなければ何でもよい、なのだ。これでは答えになっていない。


「ぬう……」


 考えろ俺。そうだ、もっと別方向から探るんだ。

 先ほどの俺は見たときの印象を考えていた。だが、体形とはそれだけに収まるものなのだろうか。

 否。

 男の感性とは、視覚的な芸術性ともう一つ。

 実用性に大きな魅力を感じるものである。

 つまり実用性の観点から考えると、考えると……。

 実用性って何だ。


「……うぬぬ」

「あの、お父様? あまり考え込まなくても……」

「いや、少し待て」


 実用性、実用性……、つまり性能面。

 人体の性能面。つまりあれだろうか、子供を産むにあたり安産型がいいとかそんな感じか。

 しかし俺の問題上子供が作れるか怪しいのでそこに魅力を感じるのは俺は難しい。

 では一体なんだ。体形における性能ってなんだ。

 ……。

 ……抱き心地?


「由美、少しいいか?」

「あ、なんですか?」

「少し抱きしめさせろ」

「――え?」


 しゃがみこむと、俺は有無を言わさず由美を抱きしめた。


「え、え? あ、あぅ……」


 ふむ、これが抱き心地か。

 由美の体形は極めて普通と言えるだろう。太ってはいないし、痩せてもいない。

 ただ、体の線は細く、手折れてしまいそうな儚げな空気がある。

 すっぽりと俺に収まるようで、細身でありながらも柔らかい。


「うーむ……、お前さんぐらいが丁度良いんじゃないか?」

「あ……、あぅあぅ……」


 どちらにも逸脱しすぎない、というのがやはり俺の好みなのだろうか。

 結局一極化しなかったな、俺の好み。

 それとも、今後の蓄積でこれだ、というような体形に出会えるのだろうか。

 そんなことを考えながら俺は由美を離した。


「ふーむ……」

「お父様ったら……、大胆です……」


 頬に手を当てる由美が、妙に色っぽく呟いた。

 と、そこで俺は当初の目的を思い出す。


「そういや、鬼兵衛が来たみたいだな」


 忘れかかっていたが俺がここにいるのは鬼兵衛の凶行を止める為。

 探知に引っかかった鬼兵衛を止めに行くことを決意した。


















「……あんなに葵と接近して……。ゆ、許せんッ」

「許せよ」


 別に人格崩壊するほど、動揺しなくたってよかろうに。


「なっ、薬師君っ。いたのかい?」

「ああ」

「僕は丁度由壱君を殺っちゃおうかなと思ったところさ」

「その兄に向かってなんてことを。っつか思いとどまれこの親馬鹿つうか馬鹿親父」

「な、何を言うんだいきなり。父が娘に集る虫を羽虫のように叩き潰すのは創世前からの倣いだよ?」

「どんな倣いだ馬鹿野郎」


 本当に、いつもの常識人な鬼兵衛はどこへ飛び立ったのか。

 溜息を吐きながら肩を叩く。


「涙で娘を見送るのも父の倣いだ。鬼兵衛」


 だが、説得は難しいようだった。


「駄目だ。君もわかっているだろう、父ならば、この気持ちが! もしもそこの由美ちゃんがお嫁さんに行くことになったら!! 君も同じ事をするだろう!!」

「まあ、そうかもしれんな。お前さんほど過激に行くかはおいといて、程ほどにはな」


 由美は愛娘である。そして、俺が親馬鹿なのも自覚済みだ。


「だがな。それとこれとは話が別だ。何せ、俺はそこで由壱と仲良くしてる娘さんの父親でも何でもねー。つーかなんも関係ない。義理の兄にはなりそうだけどな」

 俺はつまらなさげに鬼兵衛を見据えた。

「それより先に、俺は由壱の兄だろーがよ」


 親父の俺より、兄としての俺が優先されるべきだろう、この件に関しては。

 それを聞いて、鬼兵衛は表情を変える。

 友人知人へのそれから、宿敵を前にしたときのような顔に。


「なるほど、君の思いは確かに届いた。相容れぬ、交わらぬ、そういうことだね」

「いや、ほんと帰ってくださいよもうあんた。面倒臭くなってきた」

「ならば、力尽くで行かせて貰うよ」


 そう言って鬼兵衛が金棒を構える。


「いや、待てよ。おかしいだろこの流れ」


 なんでこんな流れで戦うことになってるんだ。

 だが、聞いてもらえなかった。

 一触即発。

 こんなアホな方向性で戦わねばならんのか。

 いやでも、来るなら仕方がないか――?

 そう考えたときだった。

 由美が、俺の前に出る。


「わ、私は」

「由美?」

「よ、由美ちゃん……?」


 そして、由美は俺の前に立って、鬼兵衛に向かってこう言った。


「私はお父様としか結婚しませんから……っ!!」


 鬼兵衛が、その言葉に固まる。


「いや、気持ちは嬉しいが……」


 気持ちは嬉しいが危ないから今は下がっていてくれ。

 そう言おうとした、その時。


「……負けたよ」


 鬼兵衛が地面に膝を付いた。


「っていうか……、僕の前に、娘連れで現れてデートしてたとか、当て付けだよね、死にたい……」

「生きろ」

「あ、葵だって……、葵だって……、昔は、昔は僕と結婚するって……! うわああああ!!」


 泣いた、男泣きだった。

 むしろこの状況に俺が泣きたい。

 そう思ったら、そんな鬼兵衛に声が掛かる。


「……何やってんのよ、父さん」

「あ、葵?」


 うむ、まあ、流石にばれるか。

 後ろから声を掛けてきたのは、当の葵。そしてその隣に由壱が苦笑しながら立っていた。

 そして、彼女は鬼兵衛に向かって辛辣な言葉を投げかける。


「こんな道端で蹲ってないでよ。邪魔でしょ?」

「……娘が冷たい」

「ほら、これあげるから」


 沈む鬼兵衛へと、葵が何かを差し出した。

 どうやら、祭りの景品のストラップのようだ。

 さっきまで萎れていた鬼兵衛がみるみるうちに明るくなっていく。


「いいのかい? いやあ、嬉しいね」


 表面上冷静を装っているが明らかにもう駄目だろこいつ。


「うん、あげるわ。由壱からだけど」

「あ、つまらないものですけど、受け取ってもらえると嬉しいです」


 瞬間、鬼兵衛が黒い殺気をだだ漏れにする。


「……いいのかい? 由壱君。殺っちゃってもいいのかい……?」

「いや、それはちょっと困るかなぁ、なんて……」

「あ、由壱になにかしたら絶交だからね」

「……え、うん」


 そして、燻る火種が一瞬で鎮火。


「あと、未来のお義兄さんと妹にあんまり迷惑かけないでよね!」

「ご、ごめんなさい……」

「ほら、しゃきっとして! 一人で帰れるでしょ?」

「いや、まあ、うん。でもお父さん、一人だとちょっと寂しいかなーって」

「そこのストラップがいるでしょ。早く帰って」

「…………うん」


 とぼとぼと帰る、鬼兵衛の背中の寂しそうなこと。

 ……戦いとはかくも空しいか。


「いやあ、ごめんね兄さん。なんか、気遣ってくれたみたいで」


 と、鬼兵衛を見送り、由壱が声を掛けてくる。


「まあ、結局邪魔になっちまったけどな」

「いやいや、十分じゃないかなぁ。俺じゃあの人止めらんないし」

「娘さんがいれば大丈夫っぽいけどな」

「でも、痛めつけておいてくれないと、結局暴れるから」

「……そうか」

「うん。葵が関わってないところなら普通にいい人なんだけど」


 と、そこで葵が俺の会話に割って入る。


「うちの父が迷惑掛けちゃったみたいで……」

「いや、ただのお節介だから問題ねーさ」


 頭を下げる未来の義妹に、俺は笑って答える。

 そんな横で、兄妹も会話を始める。


「由美もごめん。邪魔しちゃったみたいで」

「……でも、おかげでお父様とお祭りに来れたから。お兄ちゃん、ぐっじょぶです」

「いやぁ、ごめんね? うちの馬鹿親父が面倒掛けちゃって」

「あ、だいじょぶです。頑張ったのは、お父様ですから」

「んー、由美ちゃんは可愛いなぁ。由壱と結婚したら、妹になるのよね。あれ? でもお義兄さんの娘だから姪?」

「妹でいいんじゃねーの? 叔母さんは……、アレだろ」

「あはは、そうですね」


 そうして、ひとしきり談笑し、俺達は別れることに。


「それじゃあ、そろそろ行きますね。由壱、借りてきます」

「おうおう、好きなだけ借りてってくれ」

「あ、それと、応援してもらえてるみたいで、凄く、嬉しかったです。ありがとうございます」


 そう言って頭を下げる葵は本当にいい子だな。いつも派手に由壱をぶん殴ってる姿を見ているといかんせんなんともいえない気分だが。

 まあ、由壱の前でだけは自然体でいられるということにしておけばいい話だな。


「ま、あれだ。感謝してもらえるなら、お前さんに一つ頼みがある」

「え、なんですか?」


 そこには、好きな人の親族に気に入られたいという思いがあるのだろう。

 健気じゃないか、わが弟ながら果報者め。

 そんなことを考えて苦笑しながら、俺は彼女に言うのだった。


「精々、由壱に幸せにされてやってくれ」

「あ……、はい!」


 では、後は若いお二人に、と俺は踵を返す。

 追従して俺の隣を歩き始める由美。


「さて、じゃあ、何食べるか」

「また食べるんですか、お父様。本当に太っちゃいます……」

「大丈夫だ。むしろもうちょっと肉付きがよくてもいいと俺は思うぞ」

「そ、そうですか?」

「おう」

「……じゃあ、食べます」

「ああ。祭りの食いもんは祭りでしか食えないからな」


 そうして、俺は由美の手を取る。


「手、離すなよ? まあ、はぐれてもいいけどな。すぐ見つかるから」

「はい、絶対離しません」


 由美が微笑み、俺達は人ごみの中を歩いていくのだった。
























―――
なんか予定よりかなり長くなってしまった不思議。









返信

月様

そういうのもあったようです。ハーレムが容易に築けますね。
しかも大本が皆同じですから修羅場もないです。いや、あえて起こす演出もそれはそれで。
しかし今回の話で好みの体形とか出ましたけど山崎君なら変え放題ですね。
生首なところだけはどう頑張っても変わりませんけど。


男鹿鰆様

たまには別のことがしたくなった結果がアレでした。せっかくだったので。
これだけやきもきさせられるとたまにはくっつく話が書きたくなるってものです。
まあ、まさかの山崎君でしたけどね! 色々と振り切っての山崎君でした。
次は魃辺りですかねぇ、春奈や愛沙あたりも捨て難いですけどなんとなく。


通りすがり六世様

なんとなくとかいいつつ結婚指輪購入までして往生際の悪い薬師でしたがもうアウトです。
まあ、色々差し置いて山崎君だったのは、やはり薬師のバリアに傷を付けたのが大きいですかね。
これまでで薬師に一番のダメージを与えたからこそのアレだったのでしょう。乙女力が高かったんです。いやむしろ男前かもしれませんが。
そして前さん番外編っていうかそれはもう本編最終輪ですからねぇ。早く書きたくもあるのですが、まだ遣り残していうることも多いので。


wamer様

やはり難攻不落の要塞に傷をつけたのがでかかったですね、山崎君。
大方の予想を裏切ってまさかの山崎君でしたが、確か季知さんとにゃん子もやってたはずですね、番外。
次は一応銀子、春奈、愛沙、魃、店主くらいの構想はあるんですけどね。でも書き上げるのに結構労力使うんですよね。
しかし、これで甘くないとは……、悟りの境地に入られましたか。きっと拓け切ったら天狗になってモテモテですよ。


通りすがり100様

こちらこそよろしくお願いします。それにしても、もう三年か四年位前からですか……、ありがたいです。
しかし、最近はこれで甘くないとか、新境地に入られた方が幾人かいるようで。よし、砂糖を煮詰める作業を開始しましょう。
影の薄いあの人はネタのストックは何本かあるんですけどね。前さんとは別のベクトルで出し惜しみしたくなります。
由壱は……、最近もうアレですね。半分新婚ですね。じゃら男は、そろそろ進展させようかどうか思案中です。




最後に。

帰った鬼兵衛は美人の嫁に慰めてもらったそうです。


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