俺と鬼と賽の河原と。生生流転
ぬう……?
腹に圧迫感を感じる。
どうしたんだこれは、金縛りか。
俺は昨日いつも通りに寝て、妙なことにはなってないはずだ。
というか金縛りって何だよ。
ここは地獄だよ。
「なんで霊が霊に金縛りされるんだよ!」
「きゃっ!」
「……よ?」
なんか聞こえたぞ。
きゃっ、と可愛い声が。
残念ながら、うちの人間の半数以上はこんな可愛い声を上げたりしないので、誰かなんて大体予想がつく。
「由美?」
「は、はい……、由美です、お父様」
「おう、おはよう」
「おはようございます」
にこりと笑って返されて、爽やかな気分になった。
ああ、いい朝だ、なんと爽やかな気分だろう、二度寝していいだろうか。
「って、なんで俺の上に」
可愛い笑顔に忘れかけていた事実を俺は思い出す。
そう、この子なんで俺の腹の上に馬乗りになってるんだ。
「えっと、起こしに、来ました」
「おー、そっか。ありがとさん、お休み」
「え、あ、あれ……?」
そうか今日は由美が起こしてくれたのか。
うむ、娘に起こされる父親。いいじゃないか、上等ではないか。
ではお休み。
「って、何で乗ってるんだ?」
起こしに来たのはわかったが。
しかし、なにも解決してはいなかった。
「……えと。春奈ちゃんが、してたから、です」
「……おう」
「わ、私は駄目ですか……?」
困ったような顔をされてしまった。
「いや、別にいいぞ、ばんばんいいぞ。そら、娘だからな。それ以上のことも可だ」
「そ、それ以上のこと……、ですか?」
「おう」
「例えば……?」
「……おやすみ」
「え、あ、お、お父様?」
そうして、俺は由美を布団の中に引きずり込んだ。
抱きしめるように固定し、俺は目を閉じる。
そうして、俺は二度寝を敢行しようとするのだが。
いやいやと、由美が可愛らしく抵抗するので仕方ない。
腕の力を緩めて由美を開放すると、無駄に抵抗させてしまったのか、それとも怒らせてしまったか。
赤い顔で由美は俺へと叱るような声を上げた。
「お、起きてください……! お寝坊さんはいけませんっ……!」
「……おー」
娘に叱られ、俺はようやくその身を起こしたのだった。
「……おはようさん」
其の七 俺と娘と羞恥プレイ。
「お父様、こっちです」
うーむ、眠い。
だがしかし、大体の事情はわかったぞ。
つまり、着る服がうんぬんかんぬんという話らしい。
要するに、着る服が足りないので買いに行かなければなりません、引率をどうぞということだ。
「おう」
ならば藍音とか、あるいは憐子さんという暇な大人に頼めばよろしい、と言いたい気もしたが。
しかし、だがしかし、果たしてお父様お父様と慕ってくれる日々も一体どれほど続くのか。
娘との時間を大事にしたいと思うのは、親父病が大分進行した証だろうか。
「由美は可愛いなぁ……」
「お父様?」
もうこの際親馬鹿でもなんでもいい。
「だが、その可愛さ、いつまで持つかな」
悪役っぽく言ってみるも、空しいだけだった。
「お、お父様」
「なんだ?」
「私は、その。ずっとお父様にとって可愛い娘でいたいと思って、ます」
「由美は可愛いなぁ……」
「え、えと、ありがとうございます?」
無駄に由美を照れさせてしまった。
と、まあ、そんな長閑な休日の一幕。
俺達は、目的の店の中に入っていった。
わけだが。
「……由美、俺は帰っていいか」
「え、ど、どうしてですか、お父様」
「下着屋に俺が居ていいのだろうか、いや、いいはずがない」
そこは女性用の下着を取り扱う店であり、到底俺が居ていいような場所ではない。
恥ずかしさが半端ではなかった。
「だ、だめです。行っちゃやです」
「ぬううう……」
俺は耐えるしかないのであろうか。
由美に袖をつかまれては退路を絶たれたも同然。
「ぬううううううう……、できるだけ迅速にたのむ」
「はいっ」
そうして、由美が売り場へと入っていく。
あれやこれやと見ているようだ。
やがて――。
「お父様、こういうのはどうでしょうか」
「やめなさい、今すぐ戻してきなさい、お前さんにはまだ早い」
由美が持ってきたのは勝負下着という奴だ。
「気持ちは分かるような分からんようなつまり思春期というアレなのかもしれんがお父さんは許せん。もしもそれを着けた姿を男に見せるというのであればその男児の首を捻る。同じ方向に三度くらい」
「み、見せません!」
「じゃあ、なんでそれを使用するんだ?」
「お……」
「お?」
「お、お、お父様にだけ見せますっ……!!」
「……お、おう?」
なら、いいのか?
いや、いいのかそれで。
「それとも、ストライプとかの方がいいですか?」
「いや、俺に何を聞いてるんだよ。女の下着事情なんて分からんから」
「でも、お父様に選んでもらいたい、です」
「ぐぬぬうううう……」
「らっしゃっせー、ご注文をどうぞー」
「ここ喫茶店か?」
「どう見たら喫茶店以外に見えると?」
「店かどうかも怪しい」
俺が羞恥の地獄を耐え抜き己に打ち勝った後、どうせなので、喫茶店によることにした。
「おや、今日はお嬢さんを連れて変態ロリコンおまわりさんこっちです」
「娘だ」
「……既婚だったのかい?」
「残念だが未婚だ。婚活男子亜種だ」
「狩猟していい?」
「だ、ダメですっ」
由美が、声を上げる。
店主が目を丸くして由美を見た。
「……おさわりまんこっちです……!」
「なぜ俺を見る」
「いや、こんな年端も行かない少女まで……。お客様もう婚活っていうかフィッシングじゃないですか」
「どういうことだよ」
「うるせぇ! 婚活女子舐めんなタコスケ野郎ってことですよ」
「ところで婚活中の人間って大概男子女子って年じゃないよな」
「黙れい」
と、そんな中、俺達の座る卓にケーキがおかれた。
「なんも頼んでないぞ」
「そちらのお嬢さんにサービスさせていただきます。そこのお兄ちゃんに何かされたら言うんだよ?」
「貴様何を言ってやがると言いたいところだが、お兄さんと言ったので許す」
「な、なにかされたいですっ……」
「患部が深い……。末期ですね」
店主は、わざとらしく笑って見せた。
「で、どういう風の吹き回しだ?」
「さて、何のことやら」
惚けて見せるが、お見通しである。
こちとら猫の表情だって見分けられるってんだ。
猫、無表情、ポーカーフェイスの相手には事欠かなかったからな。
「まあ、家族を思い出したまでですよ」
「母親だったのか」
「違いますって」
「……父親? 男だったのか……!」
まさかの新事実。戦慄を隠せん。
「妹ですよ」
「お前さんが?」
「もうそのボケ止めてくれないかな?」
「んで、妹思い出すって? 春奈とかいつも連れてきてんだろ」
「いやあ、あの子はタイプが真逆だから」
「そうかい。妹さんは可愛いかよ」
「目に入れたら流石に痛かったね。というか眼窩の面積に入りきりそうもなくて断念したよ」
「物理的にかよ」
「ま、向こうはもう思い出しもしてないかもしれないけれど……」
どうやらあれこれ事情があるらしい。
これ以上は地雷原だ。
俺は何も言わずに、茶をすすることにした。
―――
次回、いい加減シリアスしようと思います。
シリアス効果で少し投稿が遅くなるかもしれません。
返信
男鹿鰆様
シリアス入ったらそれどころじゃなくなってしまいますからね、早めに。
そして、リボンで縛られる男の図。書いてて誰が得するんだと思いましたけど、鈴以外誰も得しません。
由壱に関しては完全にもうロデオ状態。暴れ馬に乗るのを楽しんでるから手に負えません。
そろそろ愛のSMとかに目覚めかけない辺り由壱ももうだめです。間違いなく葵は可愛いなぁの一言で全部片付けます。
リーク様
ホワイトデー、しかし確実に今やらないとスルーの予感なのでやっちゃいました。
そして、じゃら男が見たいとの声もあったので、じゃら男を縛っておきました。
じゃら男の本名を覚えてた貴方にはシルバーチェーン勲章をどうぞ。じゃらじゃらしてください。
由壱は金棒で殴られる日々みたいです。それでも幸せを感じる辺りMなのかもしれません。でもからかって楽しむ辺りSなのかも知れません。
通りすがり六世様
閻魔が仕事に私情を挟みまくってます。まあ、ホワイトデーを生半可に過ごしたらパワーバランスが崩れかねませんから。
まあ、一応閻魔の婚約者とかなってますしね、普通の逸般人なことだけは確かです。
それにしても、いつの間にか数珠繋ぎになった相関図ですが、暁御が消えかかって薬師←じゃら男……、いやないな。ブライアンじゃあるまいし。
由壱は手の平で葵を弄ぶのが趣味のようです。たまに手の平を飛び出してきますけども。
wamer様
もうじゃら男とか暁御の気配すら察知できないんじゃないかと思います。
これは鈴と結婚するしかないですね。このまま放置しとけば間違いなくそうなりますが。
由壱は薬師の薫陶を受けて立派に成長してるような気がします。
そして、好意を自覚して開き直ったおかげで薬師より数段性質悪いです。薬師みたいなツンデレでもないし。
最後に。
娘とランジェリーショップとか正気じゃない。