※0話は飛ばしても本編に影響はありません。0話:発端西暦2174年。火星の周囲に浮かぶ巨大な衛星フォボス。そこで全人類を未曾有の危機に陥れようとした事件が終わりを迎えようとしていた。「これで最後だ!!」「ぬおおぉぉぉぉぉ!?!?」ディンゴの高らかな叫び声と同時に腕に付けられたブレードを振り下ろすジェフティ。そして動力炉と頭部のみを残して爆散するアヌビス。こうしてアーマーン計画の指導者ノウマンはその生涯に終止符を打つこととなった。だが――「こ、この光はなんだ?」「アーマーンが起動が始まっています」――これで全てが終わったわけではなかった。アヌビスが破壊されると同時にアーマーンが突如として起動を開始し、凄まじい光と共にエネルギーの収縮を開始しはじめたのだ。「システム移行、ジェフティ起爆準備完了まであと200」システムの根幹に位置づけられた命令に従い、アーマーンを止めるためジェフティの自爆準備を進めるエイダ。「やめろぉぉぉ!」彼女の自爆させまいとアーマーンの中心目掛けてボロボロのビックバイパーを突進させるレオ。「エイダ! ジェフティの全エネルギーを表面に開放してアーマーンの中心にぶつける! もしも、それで駄目なら自爆するなり何なりお前の好きにしろ!」最後まで諦めず足掻き続けようとするディンゴ。「だがな、最後まで何もしないまま諦めるな!」それが彼の信念だといわんばかりに声を張り上げる。そして同時にジェフティの表面からエネルギーが解放され、迫り来るアーマーンから開放されたエネルギーと衝突した。激しい衝撃がジェフティを襲う。凄まじいエネルギーによって圧縮された空間が元に戻ろうとする反動によって生まれた衝撃波が直撃したのだ。「――――っ!!!」大半の装甲が吹き飛ぶ。そして、その衝撃波が通り過ぎたと思った次の瞬間、まるで時間が無くなったかのように空間が固まった。(くっ、このままじゃ……やべぇな)アーマーンのエネルギー解放に巻き込まれ、漆黒の空間の中を漂うジェフティのコックピットの中でディンゴはそう思った。刻一刻と迫るジェフティの起爆準備の完了時間。そしてあれだけ啖呵をきっておきながらまったくこの状況を打破する方法が思いつかないという事実。もちろん必死に生き残るための方法は考え続けてはいる。しかし、それでも覆しがたい厳しい現実だけがディンゴの目の前にあった。心が折れそうになる。そう、たとえこのまま自分が諦めたとしても、ジェフティの自爆という手段によって最悪でも太陽系は救われるのだ。だが――(――アイツに帰るって約束しちまったからな)約束があった。アヌビスとの決戦の直前にした彼女との約束が……。ジェフティの自爆、それはすなわち彼の死を意味する。そして、それは彼女との約束を反故にするということだった。(くっ、何か方法は無いのか!?)残された時間は既に十数秒。ディンゴは、嘗てバフラムの一流ランナーをやっていた頃に蓄えられた知識と経験を駆使し、再び思考を巡らせる。だが、それでも太陽系を滅亡させるほどのエネルギーに対抗する方法など思いつかなかった。焦燥感が心を支配しはじめる――。(ん……?)――とその時、漆黒の闇しか無い空間の中に強い光を放つ物体がディンゴの視界に映る。まるで導かれるようにジェフティ方に向かって漂ってきているそれは――破壊されたアヌビスの頭部とその動力部だった。(これだ!)閃きが生じる。ディンゴは思いつくままにジェフティを動かしアヌビスを掴みとると、そのまま腕を大きく振りかぶり、アーマーンの中心目掛けて投げつけた。「――――――――――っ!?」凄まじい爆発。今まで凝固していた空間が、まるでひび割れたかのような音をたてて崩壊する。ジェフティは即座に踵を返し、脱出を試みる。途中、動くことさえ出来なくなり漂っていたビックバイパーを一緒に連れて行く。だが――「なっ!?」――爆発範囲外までほんのあと少しでというところで、ジェフティが急激に減速する。慌てて、ジェフティのコンディションを確認すると背部のブースター部分が赤く点滅し、その横には破損を示す表示がされていた。真後ろには、破壊されたアーマーンの爆発の余波で生まれた巨大なエネルギーの波が押し寄せてきている。恐らく十数秒後にはジェフティとビックバイパーはその波に飲み込まれてしまうことだろう。「レオ」「ディンゴさん?」突然、レオに声をかけるディンゴ。そして同時にジェフティがビックバイパーをもった手を大きく振りかぶる。「な、何を!?」ディンゴの行動の意味が分からず問い返すレオ。「ケンに伝えてくれ……」だが、その問いに答えることなくディンゴはそう答えると――。「約束破って悪かった、てな!」――手に持ったビックバイパーを思いっきり前方に向かって放り投げた。「ディンゴさぁぁぁぁん!」高速で前方に向かって遠のいていくビックバイパー。そして反作用によって、ジェフティは逆に一気に減速することとなった。---------------------------------------「これでよかったのですか?」「ああ、道連れは一人って決めてるんでな……いや、お前もいるから二人になっちまったか」「私は人ではありませんが?」「はは、まあ気にするな」ジェフティの中で談笑するディンゴとエイダ。あと数秒後には死が待っているはずなのに、死という概念がない機械であるエイダはともかく、人間であるはずのディンゴは笑みさえ浮べていた。「でもまあ……」だが、不意にディンゴの表情が少しだけ困ったような顔をする。そしてまるでこの場に似合わない大きな溜息をつくと、こう呟いた。「今度ばかりは生き返らせてもらえそうにないな……」その言葉を最後に、ジェフティは完全にエネルギーの奔流の中に飲み込まれた。___________________あとがき7話の執筆が上手くいかないので、繋ぎにどうぞ。今後もこのような外伝形式で他の不鮮明な部分を補完していく予定です。2012/11/03追記改めて読み直すとアヌビス本編と同じ台紙が多すぎるので書き直すか、消すかするかもしれません。