有史以来、人類は様々なエネルギーを手に入れ、文明はその力に導かれ歩んできたでは、太陽系を滅ぼすほどのエネルギーに巻き込まれた人間の運命はなんだ?________ NADESICO ______ ZONE OF THE ENDERS1話:異邦人AGE 2197火星と木星の間に存在する巨大なアステロイドベルト地帯が存在する。そこは隕石と宇宙ゴミだけが漂い、廃墟のように静寂しか存在しない。「――――」だが、その静寂しかないはずの空間に突然として巨大な空間の歪みが発生した。まるでそこに穴を形成するかのように歪んでいく空間。そしてその穴が完全に形成された瞬間、中から何かが吐き出された。人型の機動兵器。それがその歪みから排出された物体だった。ところどころが破損しているが、その状態でもわかるほど美しく洗練されたシャープなボディ。だが、機能が停止しているのかまったく動く気配が見られない。空間の歪みは、その物体を吐き出すと同時にまるでそれが役目だったかと言わんばかりに急速に元通りになっていく。そして完全に空間の歪みが修復されると辺りに静寂が戻り、その人型機動兵器もまたアステロイドベルト地帯に漂う小隕石と一緒になってそのまま漂っていった。それから数十分過ぎた時だろうか、明かり一つ無い空間に僅かな光が灯る。光の原因は先ほどまでまったく身動ぎすらする気配を見せなかった機動兵器。その表面に刻まれたスリットの様な模様に光が奔っている。「システム再起動、コンディションチェック並びに、装甲の修復を開始」同時に淡々とした女性の声がコックピットに聞こえ、今まで静寂だけが広がっていた空間に僅かな駆動音が響き渡った。------------------------------「――ん」機動兵器が駆動し始めて数分経った頃、コックピットの中で小さく声をだした一人の男がいた。少し伸ばした白髪と、それとは対照的に黒い肌をした男は暫く身じろぎをした後、薄っすらとその両目を開ける。「おはようございます」「ん? ああ、おはようさん」淡々とした女性の声に片手で軽く頭を抑えながら返事をする男。「突然ですみませんが、頭は大丈夫でしょうか?」「ん、ああ、少し痛むが……問題ない」「では、記憶の方ははっきりしていますか?」「はぁ、何言って――」と、そこまで言ってやっと頭が冴えてきたのだろう。まるで霧ががかかっていたかのようにぼやけていた表情が徐々に引き締まっていく。「――なるほど、そういう意味か」「ご理解頂けて何よりです」淡々とした声で女性の声、エイダは、はぁっと溜息を着きながら頭をボリボリとかきむしる男、ディンゴ・イーグリットに声をかける。「で、一体どうなってなるんだ? あの世にしちゃあやけにリアリティがありすぎるぜ」そしてディンゴは急に目つきを変えたと思うと、真剣な声でエイダに問い返した。「はい、それは――」「それは?」「――私にも分かりません」「は?」真剣な顔が急に間抜けに歪み、間抜けな声がコックピットに響いた。「いえ、正確にはまったく分からないというわけではありません」「どういうことだ?」「はい、あなたが気絶している間に周りの星座の位置などから現在地を割りだしていました。その結果アーマーンがあった場所からさほど離れて居ないということがわかりました」「なら早くケンに連絡を……」「その事なのですが、先ほどから信号を送っているにもかかわらずまったく反応がないのです。いえ、それどころかジェフティを中心に周囲数キロ以内には熱源反応おろか、連邦船の残骸と思しき金属片の反応すら感知できません」「なっ!? じゃ、じゃあまさか……」連絡が取れない、それはすなわちアーマーンが始動して――――「――いえ、あなたが心配しているようなことはありません」まるでディンゴの心の中を覗いたかのようなタイミングでエイダ声をかけてくる。「確かにアーマーンのエネルギーの圧縮と解放は、マスターの機転でアヌビスの動力炉をぶつけた事により確実に食い止めました」「それは確か?」「はい。現に周囲の星座標系にも変化は見られません。画像にも出力可能ですが確認しますか?」「いや、かまわねぇ」そう言って半ば身を乗り出しそうになっていたディンゴは一息つき、再びシートに深く腰を落す。確かにエイダの言うことは間違ってはいない。事実、アーマーンが完全に始動していたのなら、火星どころか太陽系が全て吹き飛んだはずなのである。「それよりも今一番確かめなきゃならないのは……どうして俺たちが生きてるのか、ってことだな?」「はい、その通りです」そう、これが一番の謎だった。あの時ジェフティは確実にアーマーンから発生したエネルギーの波に飲み込まれたはずなのである。確かアヌビスをぶつけることで圧縮されていたエネルギー自体は共鳴作用により消えたはずなのだが、アーマーン自体が爆発する時に発生したエネルギーは十分にジェフティを吹き飛ばすほどの破壊力を秘めていたはずなのである。「まったく……分けが分からねぇな」「はい、申し訳ありませんがそういうことになります」「いや、お前さんが気にすることじゃないさ」珍しく消沈した様子で答えるエイダに、苦笑しながら声をかけるディンゴ。まあ、元々AIにしては妙に人間味が溢れる彼女である。それ故にディンゴも彼女の事を一人の人間のように接していた。「とりあえず、辺りの様子を探るか……エイダ、ジェフティは動けるか?」「ある程度修復が完了していますので、可能です」「どれぐらい修復が済んでるんだ?」「はい、SSA(セルフサポーティングアーマー)が完全破損した部分の装甲は無理でしたが、辛うじて全壊を逃れたSSAの修復は完了しています。短時間であれば戦闘行動も可能です」「わかった。それでゼロシフト使用可能なのか?」「はい、『一応』は使用可能です。ですが機体の受けたダメージが規定値を超えていたせいかプログラムが不安定になっています。さらに各部関節や機体自体の疲労が激しいため、現在ところゼロシフトを使用した場合、機体の安全が保障できません」「ちなみに聞くが、どれぐらい危険なんだ?」「最悪、使用した瞬間機体が分解する可能性があります」「なるほどな……」どうやら事実上、現在のところジェフティの最大の能力であるゼロシフトは使用できないらしい。しかしながら、思ったより機体が回復しているのは嬉しい誤算であった。「ま、動けるだけ御の字ってやつか……」「現在のところプログラムの最適化を行っていますが、かなりの時間を要すると思われます」「わかった。エイダ、とりあえず火星へ向かうぞ。あそこなら人がいるはずだ」「わかりました。マップに火星到着まで移動経路を表示します」コックピットの隅にマップが表示される。どうやら火星からはさほど離れてはいないようである。「んじゃま……行くとしますか」「バーニアをオートに設定」二人の声が終わると同時にバーニアが勢い良く点火する。加速するジェフティの進路方向には数多くの隕石が存在していたが、ジェフティはそれをまるで踊るかのように回避し、火星に向けて突き進んでいった。