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No.318の一覧
[0] NADESICO ZONE OF THE ENDERS[シロタカ](2012/11/03 01:50)
[1] NADESICO ZONE OF THE ENDERS 1話:異邦人[シロタカ](2012/11/03 00:51)
[2] NADESICO ZONE OF THE ENDERS 2話:赤くない火星[シロタカ](2012/11/03 01:07)
[3] NADESICO ZONE OF THE ENDERS 3話:謎のプログラム[シロタカ](2012/11/03 00:56)
[4] NADESICO ZONE OF THE ENDERS 4話:交差する運命[シロタカ](2012/11/03 00:59)
[5] NADESICO ZONE OF THE ENDERS 5話:斬 撃 掴[シロタカ](2012/11/03 01:03)
[6] NADESICO ZONE OF THE ENDERS 6話:非常識な常識[シロタカ](2012/11/03 01:07)
[7] NADESICO ZONE OF THE ENDERS 7話:人工知能の心[シロタカ](2012/11/03 01:19)
[8] NADESICO ZONE OF THE ENDERS 外伝:妖精と黒い王子の秘密[シロタカ](2012/11/03 01:21)
[9] NADESICO ZONE OF THE ENDERS 8話:優しい嘘[シロタカ](2012/11/03 01:26)
[10] NADESICO ZONE OF THE ENDERS 9話:パレルワールド[シロタカ](2012/11/03 01:29)
[11] NADESICO ZONE OF THE ENDERS 10話:イレギュラー[シロタカ](2012/11/03 01:32)
[12] NADESICO ZONE OF THE ENDERS 11話:裁く者、裁かれる者[シロタカ](2012/11/03 01:51)
[13] NADESICO ZONE OF THE ENDERS 12話:揺れる心、捨て切れない過去[シロタカ](2012/11/03 01:37)
[14] NADESICO ZONE OF THE ENDERS 13話:作戦会議[シロタカ](2012/11/03 01:39)
[15] NADESICO ZONE OF THE ENDERS 14話:本当の勝者[シロタカ](2012/11/03 01:48)
[16] NADESICO ZONE OF THE ENDERS 15話:敵地潜入[シロタカ](2012/11/03 01:42)
[17] NADESICO ZONE OF THE ENDERS 16話:四面楚歌[シロタカ](2012/11/03 01:43)
[18] NADESICO ZONE OF THE ENDERS 17話:ゼロシフト[シロタカ](2012/11/03 01:44)
[19] NADESICO ZONE OF THE ENDERS 18話:歪められた決意[シロタカ](2012/11/03 01:46)
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[318] NADESICO ZONE OF THE ENDERS 4話:交差する運命
Name: シロタカ◆499de7b5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/03 00:59
オリンポス山脈から少し離れた平地にあるユートピア・コロニー跡地。
本来ならば廃墟と静寂しか存在しないはずのその場所に、一隻の戦艦が佇んでいた。
真っ白な装甲に航空力学をまったく無視したような特異な形態。
機動戦艦ナデシコ。
それがその戦艦の名前である。

……いや、良く見ればそこにいるのはナデシコだけではなかった。

そのナデシコがいる場所からある程度離れた場所の上空。
空の一角をにまるで暗雲のように空を漂う無数の物体が見える。
無人兵器だ。
まるで雲のように大小様々なな無人兵器そこを飛び交っていた。

ナデシコは船首を回し主砲の発射口をその敵がいる方角へと向ける
そして次の瞬間には、いつものようにその発射口からグラビティブラストを発射した。
敵陣のど真ん中を貫いていく黒き破壊の光。
強力無比なその威力は進路上に立ち塞がる全てのものを飲み込み、消し去る威力をもっておりその後には何も残っていなかった。


「え、うそ……」


――いや、いないはずだった。

ブリッジクルーの一人が小さく声を漏らす。
何故なら、メインモニターに映されていたのはいくらか減ったものの未だにその大半が健在な敵の軍団だったのだ。












4話:交差する運命










「さて、どうするのかしら艦長さん?」


イネスは目の前で呆然としている艦長ミスマル・ユリカに問い返した。
彼女の視線の先にあるのはナデシコをのグラビティブラストを受けながらも無事だった敵の無人兵器軍を映しているメインモニター。
その光景は艦長ならず他のブリッジクルーをも驚かせていた。


「え、えっと……グラビティブラスト再チャージしてください!」

「無理です、再チャージまで1分かかります」

「艦長、大気圏内の相転移エンジンの出力じゃあ連続発射は無理だわ」

「え、そ、そんなぁ!?」


イネスの問いにハッとしたかのように急いでニ発目のグラビティブラストの発射を命令するユリカ。
だがその直後にルリとミナトから否定の言葉が返ってくる。


「敵機のエネルギー反応増大中。大よそ今から50秒後に敵の一斉攻撃が開始されると思われます。このままだとナデシコは撃沈されますね」


続いて入ってくるナデシコの絶体絶命を伝える報告。


「そ、それじゃあ早くディストーションフィールドを――」

「あらあら、貴女、火星の生き残りの人達を殺す気?」

「え、どういうことですか?」


報告に対して対処をしようとするユリカの言葉がイネスによって遮られる。


「このままディストーションフィールドを発生させた場合、フィールドの圧力でナデシコの下にいる地面が陥没します」


話を聞いていたのかイネスの台詞をルリが補足する。


「え、そ、それじゃあ……シェルターの人達は……」

「はい、シェルターの中にいる人達は生き埋めですね」

「それなら、ナデシコを移動させて――」

「それも無理です。今からナデシコを浮上させてもシェルターがフィールドの有効圏外に出るまで敵の攻撃がきます」


自分が今、命の危険に晒されている状態にも関わらずルリは冷静に事実だけを告げる。


「まったく……艦長の貴女が相転移エンジンの特性すら理解してないなんてどういうことかしら? 相転移エンジンは真空をより高い真空に相転移させることでエネルギーを生み出すのよ。大気圏内じゃあその能力は極端に落ちるに決まってるじゃない」


イネスは溜息を吐く。
何しろ彼女はナデシコの設計者であり、その性能を知り尽くしている人物なのだ。
それ故に、彼女の行動がいかに愚かしい事か理解しているのである。


「さて……艦長さん、もう一度聞くわ。貴女はどうするのかしら?」


顔上げ、再び試すかのような視線でユリカを見つめるイネス。
フィールドを張れば地下のシェルターにいる避難民達は生き埋め。
かといってフィールドを張らずにこの場から移動すればシェルターは無事かもしれないが、ナデシコは確実に撃沈。
イネスはユリカにどちらを選ぶのか聞いているのだ。

もちろんナデシコの艦長として、選ばなければならないのは前者なのは分かっている。
だがそれは、今まで本当の意味で命のやり取りをしたことがないユリカにとって非常に辛い選択になることは間違いなかった。


「敵一斉射撃まで後およそ20秒」


時間という厳しい現実がユリカの精神を追い詰める。


「ルリちゃん……フィールドを――」


そしてユリカが決断を下そうとしたその時――。


バコンッ!


小さい爆発音がナデシコに響き渡った。


「おい艦長、聞こえるか! ナナシの野郎が行き成りエステバリスで格納庫のハッチを破壊して飛び出していきやがった!」


同時にブリッジに響く格納庫からのウリバタケの通信。


「こちらでも確認しました。ナナシ機、敵陣の中心に向かっています」


そういってモニターに映しだされる漆黒のエステバリス。


「ナ、ナナシさん!?」


雷光の如く敵陣に向かって突き進んでいく漆黒のエステバリスの姿を見たユリカがナナシの名を叫ぶ。
もちろん、この時通信機はまだ繋がれていないため、相手にその叫びが聞こえてはいない。
だが、たった一機のエステバリスが空を覆い尽くさんばかりの敵の中心目がけて飛んでいっているのである。
驚かない方がおかしいであろう。

ナナシの乗ったエステバリスはそんなユリカの叫び声に気づかぬまま敵陣の中心目がけて突き進んでいく。
そしてそのまま敵陣の真正面にたどり着くと手に持った『何か』を敵陣の中心目がけて投げつけた。


「――――っ」


小さい爆発音と共に激しい閃光が発生する。
あまりの光にブリッジのモニターが一瞬ホワイトアウトするが、すぐさま自動光量調節機能が働き再び映像が映し出された。


「え……どうして?」


モニターを映し出された映像を見て再び呆然とするユリカ。
他のブリッジクルーも似たような反応をしている。
理由はまたしても目の前のモニターに映っている光景。
先ほどまで、そこには綺麗に船首をナデシコに向けるように浮かんでいた敵の姿が映っていた。
だが今度はその画面には、まるで酔っ払ったかのようにふらふらと無秩序な方向に迷走する敵の姿が映されていたのである。


「レーダーの機能がマヒしています。どうやらナナシさんが投げたのは高出力のジャミング機能を持つ爆弾みたいな物だったようですね」


唯一冷静だったルリが状況を報告する。
いや、もう一人冷静だった者がいる――――漆黒のエステバリスのパイロットだ。
この事態を引き起こした彼もまた目の前の光景に動じることなく次の行動を起こしていたのだ。

肩に担いでいたロケットランチャーをその迷走する敵無人戦艦に向け、次々とミサイルを発射していく。
真っ直ぐと敵戦艦目がけて突き進んでいくミサイル達。
当たる直前に敵のディストーションフィールドにその動きを一瞬だけ遮られる――が次の瞬間にはまるで何事もなかったかのように敵の装甲に突き刺さっていた。


「すごい、敵のフィールドをあんなに簡単に……」


メグミが驚くのも無理はない。
何しろナナシが放ったミサイルは先ほどのグラビティブラストにすら耐えきったはずの敵のフィールドをいとも簡単に貫通してしているのだ。


「まさかあの野郎、『アレ』使いやがったのか!?」

「ウリバタケさん、『アレ』って何ですか?」

「ディストーションフィールドを中和させる機能を持たせた新型弾頭ミサイルだ。幾つか試作してみたんだが、コストがかかり過ぎて結局お蔵入りになったやつなんだが……あの野郎何で知ってやがったんだ?」


ウリバタケ特製新型弾頭付ミサイル。
それが敵フィールドを易々と貫通したミサイルの正体だった。
以前よりウリバタケがナデシコのお金を勝手に横流し――もとい秘密裏に運営して開発を進めていた物なのだが、それをナナシが勝手に持ち出したのだ。
ちなみに最初にナナシが投げ込んだジャミング爆弾もウリバタケ開発していた試作兵器の一つである。


「けど、まあ……上手くいくかどうかわからなかったんだが、どうやら成功だったみたいだな」


次々とミサイルが直撃し、爆発していく敵戦艦を眺めつつ自然とガッツポーズを取るウリバタケ。
機械屋の本望である『こんなこともあろうかと』という言葉を言えなかったが、作っていた物が思った以上の結果を出したからである。
そして後にこれがフィールドランサーの原型となった技術でもあった。


「敵機の10%減少。どうやらナデシコを攻撃しようとしていたのが仇になったみたいですね」


通常よりも大きな爆発が起こり周囲のバッタ達を巻き込みながら沈んでいく敵戦艦達。
どうやら不意打ちを喰らったため、ナデシコを攻撃するために溜めていたエネルギーがそのまま爆発力に変換されてしまったらしい。


「レーダー機能回復。ジャミングの効果がなくなりました」


ルリの声が響くと同時にそれまで迷走するだけだった敵軍団が一気にその陣形を整え始める。
だが、今度はその矛先をナデシコではなかった。


「敵の目標がナデシコからナナシさんに変更されてるみたいです」


矛先が向けられたのは一機のエステバリス。
どうやら先ほどの攻撃で、敵のAIが優先順位を変更したらしい。
生き残ったバッタ達がナナシの操るエステバリス目がけて一気に襲いかかり、カトンボの砲撃が雨あられの如く降り注いでいく。

逃げ場すらないような、敵の攻撃の嵐。
普通のエステバリスならばこの数秒後に跡形もなく消え去っていただろう。
普通のパイロットならばそこで死を覚悟したことだろう。

だが――。

あいにくこのナナシと呼ばれたパイロットは普通では無かった。

敵の攻撃が当たると思われたその直前、エステバリスの姿が突如かき消える。
いや、本当に消えたわけではない。
あまりの急加速に機体が一瞬消えたように見えたのだ。
もちろんこの急加速の際には並のパイロット……いや熟練したパイロットでさえも気絶しかねないほどのGがかかっている。
だが、ナナシと呼ばれたパイロットはその殺人的なまでのGに耐えているのである。


「ナナシさんがこんなに強かっただなんて……」

「いやはや、わかっていたつもりでしたがこれは予想以上ですね」

「すごい、まるで踊ってるみたい……」

「くっそー、格好よすぎるぜ! まるでゲキガンガーじゃねぇか!」

「アイツがあんなに強いなんて……」


飛んでくる砲弾の一発一発。
襲いかかってくるバッタの一体一体。
まるでそれらの動きが全て見えているかの如く敵の攻撃をかいくぐって行く漆黒のエステバリス。
その姿にブリッジのメンバーは驚嘆を隠さずにはいられなかった。

それもそのはず。
ナデシコのメンバーは今までナナシの実力をほとんど知らなかったのである。
その理由はランダムジャンプにより未来から過去に遡った後、元の名を捨て、『ナナシ(名無し)』と名乗り始めた時から、彼はナデシコの人達の命が危険に晒された場合を除き、極力自分は戦わないように心がけてきたことにあった。
そのため、ナデシコに乗るためにある程度エステバリスのパイロットとしての実力は見せたものの、真に本気を出した所は誰にも見せた事は無かったのである。

ナナシの思いもよらぬ活躍にいままでブリッジに漂っていた悲壮感が徐々にに払拭されはじめる。
そして、いままで絶望感に浸っていたブリッジクルー達の気持ちがナナシの活躍によって一気に息を吹き返しはじめていた。


「でも、このままじゃまずいんじゃないでしょうか?」

「え?」

「パイロットと機体の両方に負担がかかりすぎてます。あんな機動を繰り返してたら、たとえ被弾しなくてもナナシさんかエステバリス自体が持ちません」


だが、エステバリスの機体コンディションをチェックしていたルリの一言が再び払拭されかけた悲壮感を蘇らせる。
彼女の言葉がそう言うのも無理はない。
外から見ても分からないが、先ほどからナナシとエステバリスには訓練されたパイロットでさえ気絶してしまうような殺人的なGがかかりっぱなしなのだ。
しかも相手の機体を操っているのはコンピュータ。
電力さえあれば疲れることはない相手と違い、こちらの体力はあっても精神がいずれ限界を迎えてしまう。
集中力が切れてしまえばそこで終わりなのだ。

その事実を知らされたユリカは一瞬ハッとした表情する――が、すぐさまその優れた頭脳をフル回転させる。
そして数瞬後には溌剌とした声をブリッジに響かせた。


「ルリちゃん、大至急相転移エンジンを始動! シェルターがフィールドの範囲外に出ると同時にディストーションフィールドを起動してください」 

「わかりました。相転移エンジン始動、ナデシコ浮上します」

「ミナトさん、ナデシコ浮上後、近くにある渓谷にナデシコを移動をお願いします!」

「オッケー♪」


流石はナデシコ。性格に問題はあっても能力は一流という謳い文句は伊達ではない。
命令が下された直後、すぐさま行動が開始されている。


「ナナシさんに連絡をとってください」

「わかりました」


ユリカがナナシに連絡をとるように命令する。
ナナシが稼いだわずか数分間。
だが、そのわずか数分の間にナデシコは背後にあった渓谷の近くまで移動し、その周囲には強固なディストーションフィールドが展開されていた。


「ナナシさん、聞こえますか?」


通信機に呼びかけるユリカ。


「……逃げる準備は……整ったのか?」


ナデシコの通信機に返ってくるナナシの声。
流石にあれだけの戦闘をしただけに疲労の色が濃いのだろう。
返ってきた声は少し荒い息遣いに塗れて途切れ途切れになっていた。


「はい、ナナシさんのおかげでナデシコもシェルターにいる人達も全員無事です!」 

「それは……なによりだ」

「準備が整いしだい援護射撃をしますのでその間に帰還してください。タイミングはこちらで指示します」

「……了解した」


その返事を受け取る同時にナデシコは主砲であるグラビティブラストの発射口を敵陣に向ける。
既にグラビティブラストのコンデンサーには一発分のエネルギーが充電されている。
同時に艦体の両脇にあるミサイルの発射口も次々と開放され、何時でも発射可能な状態になっていた。


「グラビティブラスト、及び弾薬の装填全て完了しました。いつでも発射できます」

「わかりました。ナナシさん、そのまま敵を惹きつけててください」


準備が整いナナシに最終確認をとるユリカ。
それを聞いたのかナナシも、無作為に飛び回っていた敵をまるで魔法でも使ったかのように綺麗に一箇所に纏め上げていった。
後はそれらを、タイミング良く攻撃すれば良いだけ。
そして相手が混乱している間にナナシ機を回収し逃走すれば良いだけであった。

だが――。


「――あれ?」


幾ら待ってもコミュニケから返事が無い。


「おーい、ナナシさーん」


再度呼びかけるがやはり返事はこない。
もちろん通信機の故障でもない。
一瞬撃墜されてしまったのかと思ったが、モニターを見れば未だに無事なエステバリスの姿が映しだされている。
映像を出して相手の姿を確認できればよいのだが、現在戦闘中のためサウンドオンリーになっているためそれもできない。
ブリッジにいる誰もが不安なる。
そしてもう一度ユリカが通信機に声をかけようとしたその時――。


「ぐっ、がはっ」


通信機からまるで呻くような声が響いてきた。


「ナナシさん、大丈夫ですか!?」


同時に一際高い声がブリッジに響く。


「え、ルリルリ?」


その声にミナトは呆気にとられた表情をした。
彼女はこのナデシコで一番ルリに親しく、かつ一番詳しい人物でもあった。
だがその彼女でさえ、いままでこんな感情を露わにした彼女を見た事が無かったのである。


「……ああ、一応は……まだ……無事だ」

「よかった……」


ルリの叫びが届いたのか漸くナナシから返事が返って来る。
途切れ途切れではあったがナナシからの声を聞いたルリは安堵の声をもらした。


「それじゃあ今から援護射撃しますのでその隙に戻ってください」


ルリは涙を拭いながら再び無表情に――いや、少しだけ表情を緩めながら作業を再開する。
そう、ルリだけは知っていたのだ。
ナナシの戦闘能力を。
そして彼女は信じていたのだ。
だからこそ、あの時ナデシコが撃沈されそうになった時でさえ、それほど取り乱すことが無かったのである。


「……いや……残念ながら……それは無理だ」


だが、通信機から返ってきた返事は彼女にとって無情なものであった。


「――え?」


一瞬、その言葉が理解できず手が止まるルリ。


「ど、どうしてですか!?」


そして、その言葉を理解した瞬間すぐさまナナシに問い返した。


「どうやら……持病のアレが治まらなくてな……そちらに戻れそうにもない」

「え、まさかあの時の……でも、そんなに酷かったのならどうして言ってくれなかったんですか!」

「君に……余計な心配を……かけたくなかったもので……な」


会話をするのも辛くなってきたのか、息が徐々に荒くなってきているナナシ。
その証拠に先ほどまで俊敏だったはずのエステバリスの動きは、先ほどまでのそれと比べると明らかに鈍くなっていた。


「いえ、でも、まだ間に合うはずです! 何事も諦めたら終わりだって言ったのは貴方じゃないですか!」


悲痛なルリの声がナナシに届く。
だが、ナナシは冷静にそんな彼女に向けて返事を返した。


「いや、もう遅い……纏めていた……敵が散らばって……しまっている」 

「そんな……」


確かにナナシの言うとおり、先ほどまで綺麗に一箇所に纏められていた敵がいつの間にか広範囲に散らばってしまっている。
これでは今のナデシコの攻撃ではほんの少ししか損害を与えることができず、撹乱にはならない。


「もう、俺は……ここから……逃げられない」

「そんなことありません!」

「これは……もう確定事項だ……だから俺が敵の注意を惹きつけている間に……さっさと逃げろ!」 

「いやです!」


彼女の日頃抑えていた感情が一気に溢れだした瞬間であった。
日頃の彼女からは考えられない態度に、今度はミナトならずブリッジの全員も呆気にとられている。


「……そうか、わかった」


いくら言ってもいう事を聞きそうにないルリ。


「だが、やはり無理だ……イネスさん、貴女からも言ってやってくれ」


だからナナシはその矛先をこの状況を一番理解しているであろう人物――イネスへと変更する。
声をかけらたことに一瞬だけ驚くイネス。
だが、彼女はすぐさま彼が言わんとしていることを理解した。


「そうね……確かに今の状況下で彼を救い出すことは困難――いえ、ほぼ不可能といっていいわ」


このナデシコの性能を誰よりも知り尽くしているイネスの言葉。
その事実はブリッジの全員、そしてなによりルリの肩に重く圧し掛かった。


「それに私は彼のいう事に賛成よ。どうせ彼はもう助からないんだし。何より彼の尊い犠牲を無駄にしないようにね」

「まだナナシさんは死んでません!」


その言葉にルリの強い視線と言葉がイネスを襲う。


「あらあら、怖いこと。そんなに彼の事が大事なのかしら」

「イネスさん!」

「あら、艦長さん。元はと言えば貴女に責任があるのよ。貴女がこんなところにナデシコを連れてこなければ彼が出撃することもなかったのに」

「そ、それは……」


ユリカはイネスの無神経とも取れる発言を注意するが、逆に反論されてしまう。
ルリもユリカと同じくイネスに何か言おうとしていたが、彼女が正論を言っていることに気づいてしまったがため何も言えなくなってしまった。


「はやく……逃げろ。こっちも……せいぜい後1分ぐらいしか……持たない……ぞ」


通信機からのナナシの声はかなり荒くなっている。
そして残された時間も、恐らく彼の言うとおりなのだろう。


「さて、艦長さん。状況は違えど今度こそ決めなくちゃならないみたいね。ちなみに言っとくけど、私はまだ死にたくないわよ」

イネスからの三度目の問い。
だが、今回はかける命の量が圧倒的に違う。
一度目と二度目にかけられていたのはナデシコ全員とシェルターに居た火星の生き残りの住民の命。
今回かけているのはナデシコに乗っている乗員全員とたった一人のパイロットの命。

そして艦長として選ばなければならない答えはもちろん決まっている。
命の重さに大小など無いというがたった一人のために何百人もの乗員の命を危険に晒すわけにはいかないのだ。


「ナデシコ180度反転……」


ユリカの一瞬奥歯を強く噛みしめた後、重い口を開く。


「これからナデシコは……渓谷に向かいます」


そして静かに命令が吐き出された。


「それでいい……」


通信機からナナシの声が響く。


「ナナシさん……」

「気にするな……艦長……それが……正しい選択だ」

「ナデシコの後ろを……お任せします」

「任務……了解した」


同時に通信が切れる。
最後の任務を受け取ったナナシが通信機を切ったのだ。

ユリカは顔を俯け、何かに耐えるように振るえている。
初めて艦長として出したパイロットに『死ね』という命令。
今まで親の優しさと生まれ持った才能の両方に助けられながら順風満帆とも言える人生を歩んできた彼女にとって、それがどれほど衝撃を与えたことだろう。
だが、それは『艦長』という職に就いている限りいつかは通らなければならない試練。
彼女は手のひらに指が食い込むほど強く手を握り締めながらその試練に耐えていたのだ。


「ユリカ……」


今まで黙り込んでいたアキトがユリカに声をかけようとする。
だが、ユリカはそれを片手を突き出し静止させる。
ユリカはゆっくりと顔上げる。
上げられた顔には既に先ほどまでの悲壮の色はない。
強い意思を秘めた表情がそこにはあった。
そして――


ナデシコを発進させてください、そう命令をしようとしたその時。


「前方より未確認超高速飛行物体接近してきます!」


ナデシコのレーダーが何かを捕らえた。










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激しい痛みが全身を襲う。


「――ぐっ――がはっ、ごほっ!」


喉から込みあげてくる熱い液体。
口の中に鉄の味が広がり、口元からそれが伝い落ちていく。


(まずい、機体のコントロールが……)


IFSに伝わる痛みというノイズ。
それが、それまで敵の攻撃を紙一重で回避していたエステバリスの神業ともいえる操縦に僅かな乱れを与えてしまう。
もちろん敵はそんな事など知った事ではない。
容赦なくミサイルや銃弾の嵐をエステバリスに加えていく。

未だ直撃こそしないが、徐々に掠り始める敵の攻撃。
それでも、朦朧とする意識の中必死にエステバリスを操縦する。
苦悶に歪む唇。
血が滲みでるほど噛みしめられた歯。
だがいくら耐えても痛みは治まらず、逆に増すばかりであった。


(そろそろ本当に限界か――)


ランダムジャンプをする前日に、イネスから言われた余命がおよそ後2年。
しかも絶対安静にした状態でだ。
もちろん安静になどしていなかった自分。
後どれほど余命が残されているのかは不明だがそう長くは無いはずであった。


「――ぐっ」


一際大きな振動がナナシを襲い、思考が中断される。
ミサイルが片足の先端に直撃し、吹き飛ばされたのだ。
もちろんその捕らえた獲物を敵が見逃すはずもない。
バランスを崩し、力なく落ちていくエステバリスに無数のバッタが群がっていく。


(ここまでか――)


迫りくる敵を見ながらナナシはどこか悟ったような表情をしていた。
いくら彼が超一流だろうとも、この状態では回避のしようも無い。

覚悟を決めるナナシ。
そしてバッタ達がその牙をナナシのエステバリスに突きたてようとしたその時――。


「――――!!!!!!」


無数の何かが飛来し、ナナシの周囲のバッタ達を薙ぎ払った。






_______________
あとがき
今回はナデシコパート。

消えてる事に気づかず再投稿が遅れて申し訳ありませんでした。
ちなみにナデシコ側の詳しい設定についてはまた後ほど別のお話でw


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