「ホーミング・ミサイル(以後H・ミサイル)全弾直撃。未確認人型機動兵器の周囲の無人兵器撃墜に成功しました」「エイダ、ウィスプであの機体を回収しろ!」「了解」そう言うと同時にジェフティの周囲に漂う数個のビットが撃ち出される。そして落下していく機体に取り付くと、そのまま高速で手元まで引き寄せた。5話:斬 撃 掴「エイダ、この機体のパイロットは無事か?」「はい、未確認人型機動兵器より生体反応を確認、パイロットも無事のようです」「ふう、間に合ったか……」パイロットの無事を確認したことで、ほっと一安心をするディンゴ。何しろ本当に間一発のタイミングだったのだ。オリンパス山脈の上を通過している時にエイダが高エネルギー反応を感知したのが数分前。そして何事かと様子を見に来てみれば、見た事もない漆黒の人型機動兵器が数十分前自分を襲ってきたバッタに似た無人兵器が戦闘しているのを発見したががほんの数十秒前。そして、エイダがその人型機動兵器に生体反応を確認したまさにその瞬間に、目の前でその人型機動兵器が被弾したのである。もしも、ほんの後少しでもディンゴの判断が遅れていれば今頃はあの機体のパイロットはこの世にはいなかったことだろう。「まったく、冷や汗もの――」「前方の敵無人戦艦より高エネルギー反応」「――ちっ」突然、敵の砲撃がジェフティに向かって発射された。ディンゴはエイダの声に反応して即座にマミーを、自機及び回収した機動兵器の前方に展開する。そしてその直後、敵の攻撃がマミーの表面装甲に直撃した。「なっ!?」敵の攻撃が凌ぎ切った後、ディンゴは驚愕の表情浮べた。マミーは機体の前方に特殊な強化装甲を展開すると同時に、機体の周囲を特殊な力場で覆うジェフティの持つ最強の防御兵装である。だが、そのマミーの表面装甲の一部が陥没し破損していたのだ。「先ほどの砲撃を受けた際、機体の周囲に強力な重力場を感知しました。あの攻撃は嗜好性を持たせた重力波を対象にぶつける事で圧壊させる効果があるようです」「おいおい、そんな兵器聞いたことねぇぞ」「私のデータにもこのような効果を持った兵器は存在しません。まったくの未知の兵器だと思われます」「……勘弁してくれ」エイダの解析結果に思わず冷や汗が頬を伝う。何しろオービタル・フレームにはほとんど完璧に近い慣性緩和機能が備わっている。そのため、どんな無茶な機動を行ったとしてもパイロットや機体にダメージを与えることがないし、重力や圧力に対してもかなりの耐性をもっていると言っていい。だが、先ほどの敵の攻撃はそれらの機能すらも突破して、ジェフティの防御兵装マミーに損傷を与えたのだ。今回はマミーだけで済んだが、もしも、ディンゴがマミーではなく通常シールドを展開していたならば果たしてどうなっていたか解からない。そして回収した漆黒の機体は確実に圧壊していたことだろう。「敵小型無人兵器がこちらに接近しています、迎撃してください」「エイダ、H・ミサイルの再装填までどれぐらいかかる?」「発射したミサイルの回収は全て完了していますが、弾頭の修復、推進エネルギーの充填が終わるまで180秒かかります」「残ってるミサイルは?」「先ほどの攻撃で全弾発射しましたので、現在使用できるH・ミサイルはありません」「ちっ、せめてあの厄介なバリアさえどうにかできりゃもう少しやり易いんだが……」ディンゴは思わず舌打ちをする。何しろ、敵はレーダーを埋め尽くすほどの圧倒的多数。しかも一匹一匹が空間歪曲力場等という非常に厄介な防御フィールドを常時展開している。その為、ジェフティの兵装で唯一マルチロック機能のあるH・ミサイルとH・レーザーの二つの内、H・レーザーが通用しない。しかも今は先ほど回収した機体を抱えているため、両手を使うサブウェポンが使えない状態なのだ。「その事なのですが」「ん、何だ?」「敵の力場の斥力を算出した結果、H・レーザーの一本一本のエネルギー分配量を数倍にすれば、H・レーザーでも小型無人兵器の力場なら突破可能です」「そりゃ本当か!?」「はい、ですがそれに応じて発射数、連射速度は減少します。それでもよろしいでしょうか?」「かまわねぇ、やってくれ!」「了解」即座にジェフティのエネルギー制御プログラムを変更するエイダ。同時にディンゴは左手に持っていた黒い機体を右手に持ち変える。ブレードは使えなくなるが、どのみちこのお荷物を抱えている今は接近戦などできないのだ。「くらえ!!」突き出されたジェフティの左腕の先から数条の光の蛇が飛び出していく。だが、本来数十発放たれるはずのそれは、その数を大幅に減らしわずか六。しかし、その一本一本に内包されているエネルギーは本来のそれに比べて遥かに強大だった。意思を持った光の蛇はそれぞれ別々の狙った獲物へと突き進んでいく。敵の小型無人兵器も漸く危険を察知したらしく、回避行動をとるが――時既に遅し。軌道を敵の方へと変えた光の蛇はその顎門(あぎと)で敵の空間歪曲力場を易々と突き破ると、その牙を敵の装甲へと喰いこませた。火星の空に小さな6つの花火ほぼ同時に咲く。花火が起こった場所からは、破壊された無数の金属片が大地へと落下していくのが見えた。「敵機、撃破」「よし、次!」「後方に敵が集中しています、注意してください」散開して襲ってきた敵はH・レーザーが貫き。敵が密集した場所には、フローディングマイン(以後F・マイン)投げつけられ、次々と破壊されていく敵小型無人兵器達。素早く、されど的確なエイダの高度な情報収集能力。荒々しく、されど繊細なディンゴの天才的な戦闘センス。偶然とはいえその二つが備わっていたジェフティ。この不利な状況下でさえ、その能力を十二分に発揮していた。だが――。「前方より高エネルギー反応」「――くっ!?」回避行動を取ったジェフティの真傍を黒い光が通り過ぎる。「敵無人戦艦からの砲撃です」「くそ、やっぱりあのデカ物共をどうにかしねぇとどうにもならねぇ」そう、敵は目の前にいる小型無人兵器だけではないのだ。その後ろに控えている敵の母船。それこそが、一番厄介な敵なのである。敵無人戦艦がその身に纏っているフィールドは、小型無人兵器のそれとは比にならない。その為、H・レーザーは通じず、Fマインでさえも敵フィールドに接触した時点で爆発してしまい、本体にダメージを与えることはできないのだ。「H・ミサイル再装填まであと120秒」「後2分か……」もちろん、他のサブウェポンさえ使用可能ならば突破は容易だ――が、それは現在不可能。現在使用可能なサブウェポンの中で唯一敵戦艦のフィールドを突破可能なHミサイルも再装填までまだもう暫く時間がかかる。バーストショットでも最大出力で発射すれば突破は可能なのだろうが――。「――この状況じゃあ無理だな」それも敵がエネルギーをチャージする時間を与えてくれたらの話である。この空域にはまだまだ数多くの敵小型無人兵器が飛び駆っている。そんな中、エネルギーをチャージなどしようものなら一瞬で敵の一斉攻撃を受けることだろう。「敵母船より、増援を確認。注意してください」まるで底が無いかのように倒しても倒しても小型無人兵器達。そしてそれらを易々を蹴散らしながらも、決定打を決める事ができないジェフティ。数多くの偶然が重なることによって、今この二つの戦力は拮抗していた。しかし、この拮抗が成り立っている条件は非常に危うい……。何か一つでも別の要素が加われば一瞬で崩壊してしまうほど脆いものだ。そして――。「通信をキャッチ」――その要素は直ぐ傍に存在していた。「こんな時に一体どこのどいつだ!」「発信源は後方の大型戦艦。所属は不明です。どうされますか?」その問いにディンゴは一瞬、その通信を拒否しようかと思った。だが、即座にその考えを否定する。通信があったという事はその戦艦は少なくとも有人。そして、今自分が抱えている機動兵器のパイロットとも何かしら関係があると判断したのだ。「……わかった、繋いでくれ!」「了解」ディンゴの答えに即座に反応し、エイダが通信を繋ぐ。コックピットの隅に四角い通信画面が開かれ、そこに一人の女性の顔が浮かび上がった。________________________________あとがき今回はアヌビスパート。