そして翌日、タルブ村について、竜の羽衣を飾っている寺院にさっそく出向いた。
そしてケヴィンは、着艦フックがあるのは見たが、記憶にゼロ戦の形や、ゼロの使い魔3巻にのっていた『辰』の字が無いことをみて唖然としていた。
そう、そこにあるのはレシプロ機だが、ゼロ戦ではなく、別な機種であった。
タイガー戦車の口径がたしか俺たちの世界と、口径が違うことがあったなと思いだし、これがきた世界も少し違う世界なのだろうと思う他にはなかった。
使えるかどうかを確認してみると『ガンダールブ』のルーンが光るとともに、中の構造や、操縦法が伝わってくる。
「自動空戦フラップ?」
前世の記憶によれば、日本のレシプロ機で、第二次世界大戦中で自動空戦フラップをもっていたのは『紫電改』のみ。空母に搭載されていたかは記憶にないが、着艦フックがあることから、空母にも搭載できるモデルなのだろう。
ただし、『ガンダールブ』のルーンからは自動空戦フラップを使うよりも、使わない方がよさそうな感じがする。
だまってみていた皆であるが、
「そういえば、これに対して何か残されたことは無いかな?」
「こちらにもってきたものと遺言があるそうです」
シエスタから渡されたのは、古ぼけたゴーグルだった。
「遺言は、あの墓石の碑を読めるものがあらわれたら、その者に『竜の羽衣』を渡すようにだそうです」
「墓石は?」
「共同墓地にあります」
「そこまでつれていってくれないか?」
「はい」
1個だけ違うかたちの墓があり、そこにつれていかれたがケヴィンは
「海軍少佐佐々木武雄、異界ニ眠ルっか」
「はい?」
シエスタは誰も読めない墓石の文字を読んだケヴィンに驚いた。
「ああ。俺は、東方の文字を研究しているからね。その文字と同じなんだよ」
「そうですか。先ほどは申しませんでしたが、この墓石の銘を読めるものがあらわれたら、その者に『竜の羽衣』を渡すようにって」
「そうするとゆずってもらえるのかな?」
「ええ。村のお荷物ですから」
少し間をおいてからシエスタは、
「それと厚かましいのですが、遺言の続きがあるので聞いていただけますでしょうか?」
「いいよ」
「何としてでも『竜の羽衣』を陛下にお返しして欲しい、だそうです。けど無理ですよね」
「……」
ケヴィンとしても答えようのない話であった。
「今のは、聞かなかったことにしてください」
ケヴィンは無言で首をたてに振った。
泊まるのはタルブ村の宿であったが、『竜の羽衣』を譲り受けるのに一行はシエスタの家へ簡単に挨拶をしてきた。
ケヴィンはここしばらく宝探しでおこなっていなかった自室で行う訓練をすることにした。練金で平らな地面にランダムな間隔で土の上に小石を作り、ゴムボールを落としてからランダムに跳ね返るそれを木剣でたたき落とす、これを繰り返す。自室と異なるのは、土に硬化の魔法もかけているところぐらいだろうか。
傍目には遊んでいるようにしかみえないが、動体視力に身体の反応速度の維持・向上を目指す訓練の一種であり、純粋にケヴィンの実力である。
この様子を目撃したコルベールは、それが剣速などから見て如何に大変な訓練であるか気づいたが、ガンダールヴの力だと勘違いをした。そして『竜の羽衣』を早く魔法学院に持ち帰り調べたい願望から目撃したことを忘却するのであった。
翌日は、前日の内にギーシュの父のコネで、竜騎士隊と風竜を借り受けて、魔法学院まで運んだ。運び賃はコルベールがまってましたとばかりに払い、
「ミスタ・フランドル。さあ、使い方を教えてくれないか?」
「まずは燃料となる油が必要なんです。その油ですが、この竜の羽衣と同じ種類か近い性質の物が必要なので、それを錬金することからはじめなければいけません」
「そうか、それじゃ、その油というのは?」
燃料タンクの底にのこっていた油を、コルベールに研究室へ持ち帰ってさっそく調合するようだ。
さて、ルイズの方はオスマン氏がなんとかしてくれると言っていたがどうしているかなと思って、ルイズの部屋まで行きノックをするが返事はしないが中に人の気配はある。ドアは鍵がかかっていなくて開けると、ルイズは一冊の白紙の本を見ながらうんうんと唸っていた。
「やあ、ルイズ、ただいま。何をそんなにうなっているんだい?」
「ケヴィン! いつのまに入ってきたの!」
「ノックをしたけど返事もなかったし、ドアに鍵もかかっていなかったぞ」
「まあ、いいわ。それよりも読めなくて」
「水のルビーを指にはめて、それで始祖の祈祷書の最初のページを集中して読むんだ。虚無の担い手なら、それで読めるらしい」
「もっと早くに言ってよ」
そういうと早速、水のルビーを指にはめて集中し始めたルイズがいる。水のルビーが光っているので、始祖の祈祷書が読めているのだろう。
そして、ぽつりとルイズは言った。
「ねえ、始祖ブリミル。あんたヌケてんじゃないの? 注意書きも読み手に伝わらないんじゃ意味がないじゃないの」
「最初の方は読めたんだな?」
「そうねぇ。最初のページだけだけど、呪文は?」
「呪文は必要な時になったら、選択されて読めるようになるらしい。最初は、アルビオンとの交戦の時だと思うから、それまで魔法は使わない方がいい」
「えっー。まだ魔法が使えないの」
「注意書きをもう一度読んでみるんだな。確か命を削ることもあるようなことが書いてあるはずだぞ」
ルイズがもう一度始祖の祈祷書を読み直すと
「確かにそうだけど、ちょっとだけでも使えないかしら」
「やめておくんだ。予言書では目覚めの最初の魔法はとても強力で、小型の太陽のようにみえるほどの大きさに広がって数十隻のアルビオン船を沈めたほどなんだから。どうしても、使いたいというのなら、その水のルビーは預かるぞ」
「わかったわよ。せっかく魔法を使えると思ったのに」
「虚無は最初につかえれば、コモンなら多少は使えるようになるみたいだ。だけど、精神力を使いすぎないようにするんだな」
「うー」
「ところで、詔(みことのり)は考えているかい?」
「そっちは、気乗りしないの」
「そうか。無いとは思うが、アンリエッタ姫殿下とウェールズ皇太子が結婚するとでも考えてつくってみたらどうだ?」
「今さら、無理でしょう……」
ケヴィンはゲルマニア皇帝との結婚がなくなったら、ウェールズ皇太子との結婚というのもありえるんだよなぁ。まあ、今はどうしようもしかたがなかろうと考えていた。
そして、通常の魔法学院での生活にもどりつつも、残りの予言書の部分の翻訳やら起こったこととの差異をオスマン氏に報告したりしていた。そのオスマン氏からは
「ミス・ロングビルはもどってこないのぉ」
「まあ、本人の都合でしょう」
ロングビルことマチルダは、トリステイン魔法学院で金銭を少々多めにもらうよりも、フランドル領の孤児院で、テファの面倒も見ながら働く方にしたらしい。
そして魔法学院で、3日間たったところで、コルベールが授業も休みながら作っていた燃料を完成させた。量にしてワイン瓶で2本分だ。これでできるのは、地上での動作確認程度しかないのだが、ケヴィンもそのことを説明するのを忘れていたので、コルベールに謝罪をしながらも、試運転をしてみることにした。
コルベールがプロペラをウィンドの魔法でまわして、それでエンジンをかけることができた。あとはガンダールブのルーンで確認していくが、内部にいる限りは問題なさそうだが、ルイズの入れる空間でも作るかと考えていた。
実際に飛ばすのは樽も1本もあれば簡単な飛行はできるだろうが、戦闘を考えると満タンにしたい。とりあえず樽は5本分をつくってみて、燃料タンクへのたまり具合をみながらどれくらいで満タンになるかをさぐるぐらいだ。
コルベールは「乗りかかった船だ」と、作る気満々である。まだ見ぬこの『竜の羽衣』である紫電改の飛ぶ姿をみたかったのだ。
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紫電改なのは単に個人的な趣味です。
「小石を作ってのゴムボールの訓練」の趣旨の部分は少年マガジン系の野球漫画『Dreams (ドリームス)』36巻の他人がボールを砂利(砂利というほどひきつめられていないので、小石をある程度ばらけさせている感じでしょうか)の上でバウンドさせて、どこに球がくるのかわからないところでノックをするというシーンを参考にしています。
2013.10.06:初出