ケヴィンやルイズたちが、魔法学院に帰還してから3日後に、アンリエッタ王女と帝政ゲルマニア皇帝アルブレヒト3世との婚姻が正式に発表され、式は1ケ月後に行われる運びとなった。
同時にトリステイン王国と帝政ゲルマニアの軍事同盟締結も本格的に動きだし、両国軍事同盟締結の翌日に、アルビオンの新政府樹立の公布が行われるとともに、アルビオン帝国初代皇帝クロムウェルからの不可侵条約を打診から、両国軍事同盟は表向きの議論の末、受け入れることにした。
両国合わせての空軍力をあわせても、アルビオン艦隊に対抗しきれないのはわかりきっていることではあるが、形式上の手続きというものがある。
アルビオンでは、ウェールズ皇太子が自爆行為にいたったことで、王族がそのような不名誉な死を選択するかとの評議があった。
ワルド子爵から、トリステイン王国でもアルビオンのクロムウェルが死人を生き返らせることを知っている者がいたということで、その者が大使に付随してきていたことを知らせている。
もちろんケヴィンのことであり、ケヴィン自身はまだ魔法学院の生徒の身であることから、その裏には、フランドル家もからんでいるのではないかとの憶測もたてられた。
フランドル家に対しては、レコン・キスタへの参加をやんわりと伝えていたアルビオンにとって、明らかな敵対行為である。
ただし、フランドル家の立地がトリステインとゲルマニアの境界にあるというのが、アルビオンの方針にとって難点であった。
まずは、トリステイン王国を落としたいのであり、その間は、帝政ゲルマニアには干渉されたくないのである。
よって、アルビオンとしては、トリステインを落としたところで、フランドル家の対処を行うというところで方向はきまった。
そんな事とは思っていなかったケヴィンにとって、目先の部分で解決しなければならない問題がある。
ケヴィンに興味をもちだしたキュルケが、親密になるためにと宝探しを提案してきたのであった。
ケヴィンの実家は、軍に属する家系で、グラモン家と並ぶぐらいの名門ではあるが、ゲルマニアとの国境沿いにあるため紛争が日常茶飯事となっており、必要以上に見栄を張る必要もなかった。
以前、ケヴィンがキュルケに言った、「見栄を張る」と言うのについては半分のところでまかせだ。
とはいっても、上流貴族として裕福とまではいかないところが、微妙なところであったが。
最初の3箇所は、キュルケのもってきた地図を優先した。
そして、キュルケの持ってきた中の宝の地図で最後の『ブリーシンガメル』が不発に終わって、今度は、ケヴィンがもってきた2種類の地図の最初である。
ここでワイバーンの群れと対峙する場所と予想されている。
宝探しの探検参加者はキュルケ、タバサ、ギーシュ、シエスタ、ケヴィンに、それを監督するという名目でミスタ・コルベールもオスマン氏よりつかされている。
コルベールとしては、『竜の羽衣』という名の『ひこうき』を一刻もはやくみたかったのである。
ただ、そのための条件として、この宝探しの一行の監督をするということで不承不承ながら、ついてきている。
シエスタがいるのも、オスマン氏のはからいではある。
ケヴィンとしては一般兵士と同じ食事をすることになれてはいたが、保存食料だけというのはさすがにごめんであるので、これは多いに賛同した。
ルイズは、ケヴィンがキュルケと一緒にいるのは気に食わないが、キュルケが最終的に惚れるのはコルベールだと知らされたことにより毒気を抜かれて、ケヴィンが宝探しにでかけるのに承諾してしまった。
ルイズについて、あとはオスマン氏が対処している。
キュルケからしてみれば、ケヴィンはルイズの恋人とはいえなくとも、婚約者らしき人物であり、ラ・ヴァリエールからその恋人もしくは婚約者を奪うのはフォン・ツェルプストーの伝統であるし、暇つぶしとしてちょっかいをかけるのには十分な理由であった。
そこでキュルケから見て考えてみると、ケヴィンが自分に対してそれほどには、興味をもっていないのがしゃくにさわり、自分で落とせそうな金銭がらみの宝探しの話をしたのである。
ケヴィンとしては、キュルケにこれ以上はかかわらずに、コルベールの強さを認識させて、キュルケへほれさせようと思うところで悩んでいたので、
「ミスタ・コルベールは最後に確実な『飛行機』というものに興味をもつであろう。その間に、ガンダールブの真の力を試す機会も必要なのではないかね?」
っという、オスマン氏の提案はキュルケの件は除いた部分ではあるが、魅力的でそのままのった。
ケヴィンのもってきた地図の残り1箇所は、言わずと知れたタルブ村。
その前の地図であり、このワイバーンがいた箇所の近く『破壊の杖』以外で、まだ何かが残っているかもしれないということから選んだ場所でもある。
ただ、時期的にワイバーンの育児期であり、気が立っているワイバーンが多い。
これをどうするかというと、ギーシュの使い魔でジャイアントモールであるヴェルダンデを使って、近く付近を探索するという多少、消極的なものであった。
ギーシュは普通ならこの作戦にのることはなかったであろう。
しかし、ここにくる前での秘宝である『ブリーシンガメル』を探した時に、オーク鬼を落とし穴に落とすという作戦を失敗させた。
それを、本来はケヴィンが対応するつもりであったが、コルベールが見かねて『爆炎』と呼ばれる、巨大な火球によって、あたりを燃やし尽くし範囲内の生物から酸素を奪い、窒息死させるという残虐無比の攻撃魔法をさせた。
これをみたギーシュは、さすがのお気楽さがあったにしても、初めて実戦の危険性に気づかされた。
一方、キュルケは今まで馬鹿にしていたコルベールの評価をいっぺんさせて、それほど興味が強くなかったケヴィンから、コルベールに興味をいだいて、つきまといはじめた。
コルベールとしては、キュルケは詠唱は早いが、実践経験が少ないのか、多少の隙がある女生徒としてあつかっていたが、『ジャン』と呼ばれてとまどっている。
ケヴィンもこんなに早くにキュルケがコルベールに興味を持ち出すとは本気では思っていなかったので、予想外だった。
ただし、少なくとも、条件はそろったはずである。
キュルケの興味が、いつ他人に移るかという懸念さえなければだが。
コルベールからみた、ケヴィンはブレイドの使い手としてはかなり上位に入るのであろうが、純粋に魔法の力に関しては、ラインではない。
ただし、精神力をためておける量は多いのか、魔法を発動できる回数はラインの上位並であるが、ガンダールヴとしての力量は不明である。
タバサには、風メイジとして実践的であり、同じトライアングルでも短期戦なら負けるかもとは感じていた。
ギーシュは、7つの青銅のゴーレムを扱えるのは、非常に珍しいが、独りよがりな面が目立ち、チームプレイに向いていない。
なので、今回の消極的な作戦を指示することにしたのである。
ケヴィンから、コルベールを見ると現場での指揮官としての能力はケヴィンをうわまわっていた。
これは、コルベールの小隊長としての実践経験の差と、ケヴィンが領地を護る戦略を重視する経験の差と言えよう。
ガンダールヴの力を試す機会はなかったが、実践としてはワルドの風の偏在相手に、奇襲をかけられた感触は残っているのと、普段の訓練から、サイトよりはうまく扱えるだろうとさほど心配はしていなかった。
そして、今回の目標地点となるのは、ケヴィンの使い魔であるカイザーの眼を共有して、発見したものである。
該当の場所までの地下の指示は、ケヴィンとタバサが目標地点を、それぞれの使い魔から得た情報により、地中を進んでいった。
そして目的地についたときにあるものは、戦車であったが、草や蔦、コケに覆われ錆がめだっている。
主砲の口径は7~8サントほどで、機銃もある。
しかし、ケヴィンが、
「これは、使い物にならなそうだな」
ケヴィンのガンダールブのルーンが反応しないことから、そう判断した。
見た目にも、巨大な鉄の塊であり、これが動くものとは、コルベールを除いて思ってもいない。
逆に、コルベールは落胆したが、ここまで錆ついていたり、草やコケが生えているならばしかたがなかろうと納得することにした。
「そうだね」
キュルケは、“好事家”のことを思い浮かべていたが、さすがにこれだけの錆と、竜をどれだけ集めたら運べそうなのかを考えて、ゲルマニア式の手口をつかっても、これを好事家に売ってもうけるのは無理そうだと考えて、それを口に出すことはしなかった。
各自の理由をもってこの戦車をあきらめることにして、その場をさるためにシルフィードとカイザーにわかれて移動し、いったん夕食をとることにする。
夕食は、シエスタが用意するヨシェナベである。
平民であるシエスタも、最初はまわりが貴族だらけでかしこまっていたが、ケヴィンもコルベールも平民だからといって、特にどうのこうのいうタイプでなかったり、キュルケは、ゲルマニア出身だけあって、特定方向でも才能のある平民には、好意的な対応をしたり、ギーシュにしても、モンモランシーのご機嫌取りの件がなければ、暇つぶしに口説き始めかねない勢いであった。
タバサは、いつもの通りに無口であり、そこだけがシエスタにとって不気味なところであるが、おおむね、平均的な魔法学院の教師や生徒たちよりは好感がもてた。
ただし、あくまで平民と貴族との差を意識はしていたが。
夕食中にキュルケが、ケヴィンに質問をする。
「最後にするのはどこのつもりなの? もう次で最後にするつもりなんでしょうから、教えなさいよ!」
「そうだね。特に秘密にしておく必要もなかったのだけど、知っていそうな人間がいたから、だまっていただけさ」
「何よ! それ!」
「いいじゃないか。最後の地図では『竜の羽衣』を選んでいる」
そこで、思わず「ぶほっ」と口の中にあったものを吐き出した者がいた。
「おいおい、大丈夫かい?」
「貴族様の前で、すみませんでした」
シエスタがまわりにあやまっているが、直接の被害を誰もこうむっていないし、他で汚れたりもしていたが、それは『錬金』ですぐに落とせるので、このメンバーでは気にするものもいなかった。
ただ、その様子を周りには気づかれないように興味深げに見ているコルベールと、対照的にニヤニヤしながら尋ねてくるケヴィンがいる。
「シエスタはタルブ村の出身なんだろう? だから竜の羽衣のことはある程度知っているだろうと思ってだまっていただけだから、気にするなよ」
「そう言われましても……あれは、インチキなんです」
「インチキと聞いてはいるが、実際に確かめてみる価値は十分にあると俺は思っている」
「あれをですか?」
貴族を相手に困惑気なのを隠しきれずにシエスタが答えると、ケヴィンは
「実際に見てみれば、ある程度はわかるさ。魔法は無いが、誰でも使える技術が進んでいると言われている東方の物かもしれないって、聞いている。それが実際につかえるかどうかは、以前から興味はあったんだ」
サイトがくれば使えるはずと思っていたので素直にそれを口にだす。
シエスタは東の地から来たと聞かされて育ったので、それ以上は、この貴族にたいして口をはさむことはなかった。
そして翌日、タルブ村について、竜の羽衣を飾っている寺院にさっそく出向いた。
そしてケヴィンは、着艦フックがあるのは見たが、記憶にゼロ戦の形や、ゼロの使い魔3巻にのっていた『辰』の字が無いことをみて唖然としていた。
そう、そこにあるのはレシプロ機だが、ゼロ戦ではなく、別な機種であった。
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2012.08.12:初出