プラントは理想郷となることが約束されていた。
ファースト・コーディネーターであるジョージ・グレンはプラント建国の折り、このような願いをこめた。理想郷たれ。世界は幾度とない戦乱にさらされてきた。それは限られた資源を奪い合うためであり、信じる神の違いであり、領土の争いであり、利益を生み出すためであり、何に価値を与えるかであり、時に為政者の気まぐれであった。
戦争は人の歴史の中に根付き、もはや切り離すことができない。ならば人の歴史を一からやりなおすべきではないか。ジョージ・グレンはそう提唱した。
人はなぜか過ちを犯してしまった。するとそれが禍根を生み、止まらない憎しみの連鎖はもはや歯止めがかからず世界をさらに歪ませてしまう。それなら過ちが行われる前に立ち返ればよい。憎しみが生まれる前の始まりの世界の中で新たに歴史を紡ぐべきではないか。
そうすれば人は憎しみから解き放たれ正しき歴史を歩んでいくことができるのである。ジョージ・グレンがコーディネーターに対して見た夢とは、まさに人類の未来そのものであった。遺伝子を調整する。そのことで優れた人間を作り出す。新たな人類が優れている点は能力だけにとどまらない。これまで人が犯してきた罪から解放され新たな歴史を刻むことができると期待したのである。新たな世界の調整役としてコーディネーターは誕生した。
そのために、ジョージ・グレンはコーディネーターの国を宇宙に求めた。宇宙に眠る無限の資源を求めて、いくらでも作り出せる領土としてコロニーを、もはや地球の延長線としての国土ではなくまったく新しい大地を空に求めたのである。地球上に国土を持たない、コロニー国家としてプラントは誕生した。
しかし、プラントはその出生そのものが人類の憎悪にさらされていたのかもしれない。反コーディネーター派との軋轢が国家建設を推進する動力であったことは歴史が証明している。コーディネーターの干渉を疎ましく感じたナチュラルの意向がプラントを空の彼方へと追放したとする見解も否めない。そのためにプラントは地球のあらゆるものを少しでもわずかでも排斥しようとしながら国を作り上げた。
新たな法は地球の法を参考にすることなくコーディネーター独自に作り上げた。プラント独自の憲法は人々の自由、国家の自由を保障し、他に類を見ないほどリベラルであり自由を保障するものであった。
新たな信仰は生み出されない。ジョージ・グレンは言っていた。信じる神の違いが争いを引き起こすのだと。ならば理想郷に神は必要ではない。誰が決めることもなく、プラント国内では地球上の宗教は信仰されていない。
法も神も人々の争いを止めることなどできなかった。ならば、どちらも必要としない。プラントの人々は独自の法と、そして神を求めた。法は自らの手で作り上げた。神はジョージ・グレンの言葉であり、理想郷を希求するその心そのものである。コーディネーターはその理想として、戦争や争いのない理想郷を求め続けた。そのために、いつまでも戦い、憎み、争うことをやめることができない地球のすべてを嫌い、そして拒絶した。
プラント建国当初、大西洋連邦をはじめとする宗主国の多くはプラントの自立を許さず鎖につなごうとした。そのことがコーディネーターの反発を招かぬはずがないのだ。理想郷を得られなかった者たちが、理想郷を得ようとしている我らを阻害している。この事実が、コーディネーターを奮起させぬはずがなかった。
戦争はジョージ・グレンの言葉を信じるからこそ引き起こされた。
ただ一度の過ちを犯そう。大いなる理想の灯火を決して消してしまわぬ為に。理想郷を作り出すと期待されたプラントは、まだその夢を諦めてなどいなかった。
広い扇状の施設の中、唯一明かりが当てられているステージでは少女が歌を歌っていた。ここはコンサート・ホール。桃色の髪、青い瞳、シンプルながら味わい深い意匠のドレスを纏い、少女は歌う。
軽やかなでたおやかな、その歌声に乗せられてつま弾かれるはジョージョ・グレンの半生。人類最初のコーディネーターとして生まれ、人類の偉大な可能性を締めし続けた。前人未踏とは、まさにこのファースト・コーディネーターのためにある。
聞き入る人々は敬虔でさえあった。厳かな礼拝ではない。厳粛な儀式が執り行われているわけでもない。プラントの歌姫、そう称される少女の声に誰もが聞き入り、歌声の他は物音一つ聞こえてはこない。
その歌声の向こうに死せる英雄の姿を求めていた。
人類のゆくべき道を示し、卑劣なテロリズムに命を落としたジョージ・グレン。ユニウス・セブンを焼き払った血のバレンタイン事件はプラントに2重の悲しみと怒りを与えた。数多くの同胞の死と英雄の喪失。だからこそプラントは戦争という過ちに汚れることを決めた。
仲間たちの死と、英雄の遺志を無駄にしないために。
少女の歌は英雄を讃える。
この歌は、戦いに疲れた人々を慰め、その先の栄光を約束していた。その瞳は青く、コーディネーターが捨て去った母なる海を象徴しているように澄んだ包容力を感じさせる。ナチュラルには存在しない桃色の髪の鮮やかさはコーディネーターの選択した未来の正しさを象徴する。
少女はプラントの歌姫と呼ばれていた。
その歌声響く会場はクラッシク・コンサートのように厳かに厳粛に、観客、いや聴衆は身動き1つなく音色を貪欲に拾い上げていた。その様子は、鑑賞ではない。神の御言葉に耳を傾ける信徒のようである。
信教が人の歴史に争いの種を蒔いてきた。そのためにコーディネーターは神というものを放棄した。しかし、心のより所が必要なことに変わりない。はるかに高い理想を求め生み出されたはずのコーディネーターが戦争という旧き人の繰り返してきた愚行に巻き込まれ、その力を浪費させられている。
この瞬間にも同胞が命を落としている。コーディネーターに安寧と栄光を約束する歌を与えるのはプラントの歌姫。少女の声楽。
少女の名前は、ラクス・クライン。
アーク・エンジェルは軌道を大きくはずれ、アフリカの大地に降り立った。そのことは大きな不幸であったが、数少ない幸運もあった。友軍である大洋州連合の基地に匿ってもらうことができたのである。
このことはマリュー・ラミアスに大きなため息をつかせた。アルテミスにしろこの基地に関してにしろ、母国である大西洋連邦は基地施設の拡充につとめた方がよいようだ。
ここ、キンバライド基地は、それは堅牢なものであった。
岩盤をくり貫いた半地下構造の格納庫はアーク・エンジェルを隠匿することさえできた。壁にはところどころ剥き出しの岩肌が見えているがそれはこの基地の力強さを醸し出しているようにさえ思われる。
アーク・エンジェルのブリッジから格納庫の様子を眺めただけでもここがアフリカ地方の重要拠点の1つであると理解できる。敵に傍受される危険性の少ない専用の通信機器まで貸してくれた。すでに外部ケーブルが接続されているはずで、艦長席から立ち上げることができるはずである。
通信をつなぐ。正面のモニターが繋がる前に艦長席から立ち上がり、敬礼の姿勢をしておく。モニターには口ひげをはやしたデュエイン・ハルバートン少将が映し出された。敬礼をしてから、実直な指揮官は話に入った。
「ラミアス大尉、無傷とは言いがたいが、無事なようで何よりだ」
当の本人も頬にテープを貼っていた。旗艦ネメラオスも被弾したと聞いたのは後の話だ。それほど低軌道における戦闘は激しいものだった。自身が傷つきながらもこちらを気遣ってくれることに、正直な感謝を伝えた。
「はい、ありがとうございます」
手振りでこれ以上の敬礼は不要と示されたことで手を降ろした。これからが本題であるようだ。
「君たちの現在位置は最前線にあたる。よりにもよって、それが正直な感想だ」
口ではそう言っておきながら、ハルバートン少将に悲観した様子はない。おそらく、この上官が取り乱した様子を見ることは今後もあり得ないだろう。
「君たちにアラスカに向かってもらいたいことに変わりはない。しかし、大西洋を渡るのではなく、東側ルートで目指してもらいたい」
このことには2つの理由があると判断した。大西洋連邦本土に渡ることになった場合、急進派の干渉を受けかねない。それにザフトとてこのルートを予測し網を張っているおそれもある。
染み着いた癖として、つい敬礼をしながら答えてしまった。
「了解しました」
優秀な上司は融通のきかない部下のそんな行動をたしなめることなく、小さく笑っただけだった。だが、すぐに真顔に戻すと、マリューの方も自然と体が緊張する。
「君には教えておくが、私もこちらの処理が終わり次第アラスカに向かうことにした」
その意図は正直なところわからない。だが聞き返すつもりもない。愚鈍な部下と思われたくないからではなく、ハルバートン少将は情報の足りないような不格好な話はしないからだ。
「急進派の動きが活発になってきている。何か大規模な作戦を計画しているようなのだ。今ここで動きを抑えておきたい」
アラスカの総司令部は現在急進派が牛耳っている。その中に進んで目の上の瘤になろうとしているのだ。
新型をなんとしてでも届けなければならない。そのためにこれまでいくつものことを犠牲にしてきた。それでもまだ足りないというのであればいくらでも生け贄に捧げよう。
厳しい顔をしているのは、ハルバートン少将も同じである。すると、これまで聞いたことのないような声がした。
「今、そこには君しかいないかね?」
小声で、抑えた声は威風堂々とした上官にそぐわないものだった。つい姿勢が乱れて、瞬きを3回余計にした。現在ブリッジにはマリューの他にダリダ・ローラハ・チャンドラⅡ世がいる。事実上の副艦長であったアーノルド・ノイマン曹長が療養中の間、マリューをサポートしてくれたのはこの男である。ダリダ曹長は命じるまでもなく軽く頭を下げてブリッジから退席してくれた。何かと気の回る男なのである。
現在ブリッジにはマリューしかいない。ただ、念のため首を回してから、姿勢を整えつつ肯定した。ハルバートン将軍は目を細め、瞬きを1度した。それでも目はいつもの大きさにまで開かれることはない。まるを嘆いているかのような表情である。
「フラガ大尉のことなのだが、注意したまえ。現在はっきりとしたことは言えないが、急進派の息がかかっている恐れがある」
せっかくなおした姿勢がもう一度崩れ、今度聞いたこともない自分の声に驚くことになった。
「フラガ大尉がですか……?」
妙に高く、乙女の悲鳴のような声だった。気恥ずかしさについ口に手をあてた。上官がかまわず話を続くけてくれたのは幸いである。
「アーク・エンジェル乗艦にしても急進派が滑り込ませた節があることが今になってわかった。こちらでも調査を続けるが、警戒だけは怠らないようにしてくれたまえ」
「わ、わかりました」
こうは答えたものの、ムウ・ラ・フラガ大尉に急進派は馴染まない。コーディネーターであるキラ・ヤマト軍曹や、捕虜にさえ気さくな様子で接しているからだ。
疑惑は拭えぬまま、しかしマリューの中で一つ一つの疑問が結実を始めだしたのも事実であった。何故、ザフト軍はヘリオポリスにおけるガンダム開発の事実を知っていたのか、何故アーク・エンジェルの向かう先々にザフト軍が執拗に追跡できたのか。そんな疑問を解決するあまりに安易な方法が用意されたのだから。
捕虜になって、当たり前のことだがすることがない。敵さんは地球降下を果たしたら本部に引き渡すつもりだったらしいが、その目論見は外れたらしい。これからも当分、天井をキャンパスにどうでもいい空想を続けるしかないらしい。
ベッドに寝そべりながら、ディアッカ・エルスマンはそんなことを考えた。ずいぶんと静かなもので廊下を歩く足音さえ聞こえてくるほどだ。
足音は懲罰房の前で止まった。首だけ持ち上げてドアの方を向くと、格子のはめられた覗き窓から言うことも背もでかいおっさんがいた。名前はたしかムウ・ラ・フラガだったか。ほかに人が来ないところを見ると、世話係はおっさんで決定してしまったらしい。
「飯の時間だぞ、ディアッカ」
すっかり名前を覚えられてしまった。思えばこの艦に来て以来おっさんにしろ、キラ・ヤマトとか言うガキにしろ、野郎にしか会っていない。ずいぶんとむさ苦しい場所のようだ。
首を再び横たえた。ジャスミン・ジュリエッタの声が懐かしい。ただ、女性がいないわけでもないようだ。配膳でも担当しているのか、おっさんに食事を届けに来たと話しかける高い声がしたかと思うと、短い悲鳴が聞こえた。
こけたのか。面倒なことになったと立ち上がることにした。扉へと歩きながら頭をかいた。
「おいおい、これが唯一の楽しみなんだぞ」
格子を掴んで廊下の様子をのぞき込む。どうやら転倒は免れたようで、おっさんが少女を支えていた。幸い、食事は死守してくれたらしい。大きく前のめりになりながらも手を伸ばして食事のおかれたトレイを保持していた。
おっさんは少女の姿勢をゆっくりと起こす。桃色の髪がずいぶんと鮮やかで、コーディネーターであるようだ。それにしても、髪型三つ編みに黒いリボンが結ばれているだけ。ずいぶんと地味な女であるらしい。
どんな顔かと想像している内に少女が上体を起こした。その瞳の青さが飛び込んできた。単に少女と目があったというだけのことだが、こうとしか表現しようのないほど脳裏を目の前の少女が占めていた。
つい呆けたように少女のことを眺めていた。体勢を立て直した少女は、ディアッカの視線に気づいて照れ隠しの笑みをした。
「こ、こんにちは……」
声の質までディアッカの心を捉えて離さない。少しでも近くで見ようと扉に体を押しつけ、格子の冷たさが頬を撫でた。
「お前……、いや、君、名前は……?」
本来なら初対面の同世代はお前と呼びつけにする。しかし、それはどうしようもなく気が咎めて結局言い直す羽目になった。捕虜にこんな態度をとられて戸惑わない方がおかしいだろう。少女はトレイをムウに手渡しながらディアッカのことを観察でもするように眺めていた。
「アイリス、アイリス・インディアです……」
やはり違うのだろうか。あの人に他人とは思えないくらい似ている気がしたが、姓は違った。しかし、あまりに似すぎている。どうしても腑に落ちず、少女を眺めていた。すると、横槍を入れてきたのはおっさんである。
「敵を口説きたいなら戦争が終わってからにするんだな」
そんなんじゃない。首はアイリスに向けたまま曲げず、視線だけを向けた。ただ一言否定しておきたかっただけなので、すぐに目を戻す。よく見るとそんなに似ていないだろうか。ただそう考えたのも髪型が違うからかもしれない。それとも、表情が違うからだろうか。
「もっと上品そうな凛とした顔してみろ」
アイリスは扉の前まで歩み寄った。それからディアッカへと微笑んだ。笑ってほしいわけではないと注文をつけそうになったところで、アイリスの手がまっすぐにディアッカの顔へと突き出された。
上体を後ろへ大きく反らすことでそれをかわした。格子を通り抜けた少女の手はディアッカの顔の前で止まった。人差し指と中指が人の目の間隔で開いていた。典型的な目潰しの構えである。
手が引き戻されたため、おそるおそる格子に顔を近づけた。すると、大仰な歩き方をしたアイリスの後ろ姿が見えた。
「失礼な人ですね!」
上品でも凜ともしていないと言われたことにご立腹らしい。あの人と同じ顔をしていながら、ずいぶん凶暴なようだ。
「待て! 俺が悪かった。ただ、知ってる人によく似てたんだ」
一応立ち止まってはくれたが、振り向いた顔には私は不機嫌ですと書いてあった。
「ゼフィランサスさんですか? もう何回も言われてます、そんなこと」
ゼフィランサスという人物のことをアイリスはさも知っているかのように話したが、ディアッカに心当たりはなかった。
「ゼフィ、なんとか……、誰だそれ?」
アイリスは体ごとこちらに向き直った。どうやら、興味を持ってくれたらしく、表情もどことなく落ち着いている。
「ラクス・クラインて知らないか? プラントじゃ、歌姫なんて呼ばれてて知らない奴がいないくらい有名なんだ。その人にお前は本当によく似てる」
夜明けを待って、アスランはGAT-X103バスターガンダムに乗り込んだ。モニターには青いジンオーカーが立ち上がる様子が映し出された。モーガン・シュバリエ中佐がゲリラの勢力範囲を抜けるまで協力する見返りに、ザフト軍基地の場所を教えてもらう手はずになっていた。
アスランがいたオアシスから一歩踏み出すと、完全な砂砂漠が広がっていた。これほど砂のみで構成される砂漠も珍しい。足がとられないといいが。
先を歩いていたジンオーカーが砂を踏みしめた。さすがに砂漠用にチューニングされた機体らしく、扱いにくい砂の抵抗を把握した危なげない歩きをする。バスターはそうはいかないだろう。砂を踏むと、予想通り足下から砂の粒子が流れ出た。設置面が沈み込んだことにOSが対応しきれず、上半身が傾く。反対の足を動かしバランスをとろうとすると、今度はその足が砂にとられた。その繰り返しである。
それを2度、3度繰り返した時だろうか。OSが砂の特性をあっさりと掴んだ。逃げる抵抗を計算に入れ、それを鑑みた上で機体を安定させるようになる。砂を意識することなく歩けるようになった。
過剰と思えるほどの汎用姓だった。OSにこれほどの性能を与えるとはゼフィランサスらしいと言えばそれまでだが、小娘にそれほど潤沢な資金を提供するとはずいぶん思い切ったことをする。小国が1つ買えるほどの額が動いたのではないか。
そんなことを考えていると、ジンオーカーが立ち止まりこちらを見ていることに気づいた。バスターの歩行速度をあげて追いつくと、2機が並ぶ状態で進むことになった。
それからしばらく無言で歩き続けることになった。
強い日差しが照りつけている。モビル・スーツには空調設備が完備されているため特に問題にはならないが、モーガン中佐に言わせればこの陽光が重要なのだそうだ。
ゲリラである明けの砂漠は高性能のサーモグラフィを所有しているらしい。単なる地方ゲリラがそのような機器を有していることに、正直懐疑的である。だが、この地方の実状もわからない。夜間ではモビル・スーツの熱源が一際目立ってしまうため、敢えて昼の時間帯を選択した。その方が敵に発見されることを遅らせることができるからである。
だが、モーガンはこうも言い加えた。敵さんの方が早くこちらを見つけると。
ジンオーカーが突然立ち止まり、アサルト・ライフルを構えた。バスターを止まらせる。付近を警戒してみるが、敵の姿はない。不気味で、不愉快な緊張感がまとわりつく嫌な空気が流れた。
突然、モーガンが叫んだ。
「くるぞ!!」
いくつもの砂が塊となって舞い上がった。それが上に砂を被せられたシートだと気づいた時には、バスターのモニターにハーフトラック、ロケットランチャーという文字列が多数表示されていた。
荒れ地の走破に向いた開放式の小型トラックに携帯ランチャーを抱えた人が3、4人乗り込んでいた。ハーフトラックの総数は15といったところだろうか。そのすべてにロケットランチャーが乗せられていることを考えると、その攻撃力は侮れない。
走り出したハーフトラックから一斉にロケットが放たれた。一撃でモビル・スーツを破壊する威力はないが、この数を浴びることは避けた方がいい。ジンオーカーとバスターが別々の方向へ跳んだ。2機がいた場所を通り抜けたランチャーが砂漠に火の花を植え付ける。
跳び出した先で両腰にライフルを構えた。発射はしない。威嚇の為に構えただけだ。生身の相手に武器を使用することがためらわれたわけではない。撃つことができないのだ。ビームもレールガンも使用にはエネルギーを消費する。今のバスターの懐具合は決して潤沢とは言えない。大気圏突入の際、フェイズシフト・アーマーを展開し続けたことでエネルギーがほとんど残されていない状況だった。これからの移動や空調の維持を考えると、ビームは使用できない。レールガンは銃身の損傷が激しい。使用すれば2度と使いものにならなくなる。
弾を禁止された。それが戦車や戦闘機なら絶望的だろうが、モビル・スーツならではの戦い方が残されている。
砲撃もかわす意味もかねて上へと跳び上がる。眼下にこちらを見上げてくるゲリラたちの顔を見ながら、地球の重力がバスターを砂の大地に投げ落とした。バスターは人と同じく膝を曲げ軟着陸するが、強い衝撃が砂を盛り上がらせる。この隆起に巻き込まれた数台のハーフトラックが転倒し、走行不能となった。
残りの敵は数える気にもなれない。それだけの数が間髪入れず押し寄せてきている。ランチャーがバスターに直撃すると、微かな光と流れる煙を出して消えていった。
まさか同じ戦法を何度もするわけにはいかない。ひとまず間合いを開けようと弾幕の薄いところを通るようにバスターを移動させる。
モーガンの方はアサルト・ライフルでハーフトラックを着実にしとめる戦い方をしていた。こうして2人が別れ、敵戦力を分散することで徐々に包囲網を削っていく。
この作戦は示し合わせて決めていた。モーガンから提案し、アスランが受け入れた形だった。そんな作戦を、先に反故にしようとしたのは他ならぬモーガンの方であった。青いジンオーカーがこちらへと駆けだした。合流しては戦力を集中させてしまう。そう、連絡しようとした時、モーガンからの一言が耳に届いた。
「罠だ!」
突如、バスターの足下が崩れた。破れた薄いシートが見えて初めて、地面と考えていた場所が単にシート1枚被せただけの奈落であると気づかされた。砂漠における5mほどの段差をゲリラはほんの薄膜1枚で天然の落とし穴に変えたのである。
落ちる感覚を覚悟していると、意外にも衝撃は横から来た。穴を通り抜け投げ出される。なんとか片膝をつくことで着地することができた。
砂漠に不慣れな愚者が落ちるべき穴に代わりに陥っていたのは、モーガンのジンオーカーだった。落ちた衝撃で足が砂にくい込んでしまったらしい。上半身だけが穴の上に出ていた。これでは身動きがとれない。
ハーフトラックが一斉に集まり始めていた。
助けなければならない。それがどうして、自分でもわからない。無理矢理、理由をつけるならまだ友軍と合流できる場所を聞き出していないから。この理由はモーガンの手によってあっさりと瓦解させられた。
「行け! 北北東に行けばいやでもザフトに会える!」
これでわざわざ敵を助ける理由はなくなった。それでも不思議とアクセル・ペダルを踏む足から力が抜けることはなかった。バスターを穴に降ろして、ジンオーカーを後ろから抱える。すぐスラスターの出力を上げるが、砂が思いの外固い。
モーガンが文句を言ってくるが、これは無視することにした。
「何をしている!? お前も巻き添えを食うぞ!」
キラが考え、ユッカが伝え、ゼフィランサスが生み出した力が、ガンダムがこの程度のこと、できないはずがない。
「ガンダムなら、これくらい!」
まるで、その思いに答えるかのようにバスターがジンオーカーを抱えたまま上空へと飛び上がった。背面を映すモニターにハーフトラックが一団となってロケットランチャーを一斉発射する様子があった。
次々バスターに命中し、生じた煙が前面のモニターにさえ映し出されるほどだ。だが、損傷はない。フェイズシフト・アーマーの輝きを振り払うようにバスターを振り向かせる。レールガンを構えるため、右手だけでジンオーカーを支えようとすると、過大な負担であるにも関わらずガンダムは耐えて見せた。
レールガンを前へと突き出す。すると、銃身に刻まれた傷が痛々しい。正常に発射できるのはせいぜいが1発。傷ついた武器から目を外し、鋭さをました目つきは敵を捉えた。
窮地は、必ず好機にも繋がる。ゲリラは攻撃を集中しようとするあまり、ハーフトラックを1カ所に集めすぎていた。レール・ガンがその命と引き替えに放った一撃によって、あっさりと勝敗は決した。一度に多くのハーフトラックを失ったゲリラは撤退を余儀なくされてのだ。
ザフトと地球軍。この奇妙な組み合わせをした2機は無事、ゲリラの勢力範囲を抜けたところで膝をついた。コクピット・ハッチに備えられた昇降用のロープに足をかけ、初めて自分の足で砂というものを踏みしめた。日が高くなりはじめ、ずいぶんと暑い。ヘルメットを脱ぐことにした。
見ると、ヘルメットを肩越しに担いだモーガンがアスランを見ていた。
「ずいぶんでかい隠し玉を持ってたようだな。……どうして助けた?」
しかめられたその顔は、不機嫌というよりは単純に疑問を口にしているだけだろう。威圧的な様子はない。それでも答えに窮したのは自分でも答えを言葉にまとめ切れていなかったためだ。
「一宿一飯の恩義……でしょうか……?」
そう言うと、モーガンは口を抑えて笑った。どうやら、冗談であると解されたらしい。心ならずお返しができたようだ。モーガンは破顔したままで忠告を発した。
「だが、次会う時情けは無用だぞ」
今度会うときは敵同士。それは真実以外の何者でもないが、モーガンはずいぶんと調子軽く言ってのけた。振り向き歩きだした時には手を振ってくれたくらいである。1人の男がモビル・スーツに乗る込むところを見送ると、アスランはヘルメットを被りなおした。
これが、月下の狂犬と呼ばれる大洋州連合のエースとの出会いであった。
アスランという少年の助けによって、モーガンは基地にたどり着くことができた。
キンバライド基地。モーガンが中佐として指揮を任せられているこの基地には、留守中珍客を招き入れていた。白亜の戦艦アーク・エンジェル。それに、今見上げている2機のモビル・スーツである。格納庫の反響する音を染み込ませたその顔は、アスランが搭乗していた機体と同じ顔をしていた。
「まさか顔つきがここにもあるとはな」
独り言が短いエコーを発すると、それを塗りつぶすように足音が聞こえた。その音の主はちょうど隣で立ち止まった。それは物静かな少年であった。その顔はたくましさや凛々しさとは無縁であった。見るからに凄腕というようなわかりやすい様子は微塵もないのだ。
いつも周りに神経を張り巡らせる。その態度と雰囲気を取り合わせれば周りのご機嫌うかがいしかできない気弱な少年のようでもあったが、瞳の奥底は静かに澄んでいた。瞳孔に一切の震えが見られないのは自信の現れであろう。
牙を剥き出しにした子犬より、静かにたたずむ狼の方が恐ろしい。敵にはしたくない男のようだ。この歳でこのような気配を纏う男など、そうはいない。どこかしら、アスランとも似た空気を感じた。
大西洋連邦軍の軍服の着こなし方が堂に入っている様子で、少年はモーガンに語りかけた。
「名前はガンダムです、モーガン・シュバリエ中佐」
手を差し出され、礼儀として握り返す。握手した右手に加わる力はずいぶんと強い。
「僕はキラ・ヤマト。階級は軍曹。右側の機体、ストライクガンダムのパイロットです」
白い機体だ。自分がいない間のことは報告書で読ませてもらったが、ジンオーカー相手に大立ち回りを演じたらしい。
「降下早々お手柄だったようだな。だが、覚悟しておけ。お前は砂漠の虎を本気にさせた」
忠告はしておきたいが、萎縮されても困る。そのため、笑いながら多少冗談めかして言った。こんなことは余計なことであったようだ。表情は変わっていない。しかし瞳の奥に怪しげな光をキラは宿していた。
「僕は誰よりも強くなりたい……。猫とじゃれあってる暇なんてありません」
アーク・エンジェルがキンバライド基地に入ってから今日で17日になる。本来ならすぐにでも動きたいところだったが、破損したデュエルの修復に志願兵の教育、現地の状況の見極めなどすることが山積であったためだ。
ムウ・ラ・フラガはちょうど、FX-550スカイグラスパーから梯子を伝い降りるところだった。TS-MA2-mod.00メビウス・ゼロは無重力下での運用を前提としたものであり、地球では使用できない。これからの戦闘はこいつに頼ることになる。
梯子を降りきってしまうと、すぐ後ろにアーノルド・ノイマンの姿があった。もう傷は癒えたらしく、包帯は巻いていない。
「フラガ大尉、少しよろしいでしょうか?」
休憩用のテーブルに手招きしてまずは自分から腰掛けた。格納庫備え付けの金属を張り合わせたような不格好な作りだが、座り心地は悪くない。アーノルドも続いて座った。なんとも深刻そうな顔で、話とは相談事のようだ。
「何だ? 好きな女でもできたか?」
生真面目な操舵手は笑いもせずに否定した。
「いえ、違います。そんなことではなく、私にスカイグラスパーの操縦を教えてもらえないでしょうか?」
こちらは冗談ではすまない話のようだ。まっすぐにアーノルドのことを見てみるが、この男は目をはずそうとはしない。
「パイロットになりたいってことか?」
アーノルドは頷いた。
一度、スカイグラスパーの方を見る。2機が並んでおかれている。余剰パーツは別にあるため、残りの1機を遊ばせておくよりはいいことかもしれない。だが、問題が3つほどある。スカイグラスパーに目を向けたままで問いかける。
「マリュー艦長には話したのか?」
「すでに許可をいただいています」
視線を戻すと、今度はアーノルドの方がスカイグラスパーを見ていた。かまわず話を続ける。
「しかし、お前は戦闘機を扱う訓練なんか受けていないだろ」
こちらに視線を戻してから、返事がある。
「シミュレーター訓練なら受けています。それに、ユニウス・セブンでは自分は最低限の任務を果たしたつもりです」
確かに不慣れな機体を操縦している割にアーノルドは戦艦と連携する形でこそあったが十分な時間を稼いだ。相手がラウ・ル・クルーゼでなければGAT-X303イージスガンダムの乱入こそなければアーク・エンジェルを守りきることはできたかもしれない。反対に現在のアーク・エンジェルでスカイグラスパーを扱わせることができるのは誰かといえば、すでにパイロットであるムウやキラ・ヤマトを除けばこの男の名前が挙がる。
「わかった。だが、お前がいなくなったら舵は誰がとる? アーノルド・ノイマンは2人いないんだぞ」
「それはフレイ・アルスター二等兵が現在訓練を受けています。飲み込みが早く上達が目覚ましい」
この志願兵の少女は聞いたところによると緊急処置として舵をとったとも聞かせられている。アーノルドが言うには、現在訓練を受けており、すでに動かすくらいならできるらしい。当分の間、新兵の教官と見習いパイロットの二足の草鞋をはくつもりらしい。楽なことではないが、本人が大丈夫といっている。さらに艦長殿の許可まで加わってはムウに拒否する権限はない。
「話は分かった。アーノルド曹長は2号機を使ってくれ。細かい訓練内容については、いずれ話す」
空を並んで飛ぶことになった仲間ははっきりとした声で返事をした。ただ残念なことは、この声をかき消してしまう歓声が上がってしまったことだ。
何の騒ぎか。つい気になって声のした方へと行ってみることにした。アーノルドもついてきているようだ。格納庫をほぼ横断して、たどり着いた先はその入り口だ。モビル・スーツさえ通ることができる大きなゲートを抜けると、乾いた風が頬を叩いた。
太陽光に炙られた岩肌に取り囲まれた、ちょっとした広場があった。キンバライド基地のほぼ中央に存在するここはモビル・スーツの実験や訓練に使用される。巨大な岩山の内部に設営されたこの基地において、隠匿性の観点からもここが唯一外にでられる場所だ。
たしかに、まるで闘技場のような適度な広さと、このゲートのような見物席がある。ムウとアーノルドの他にも、手の空いた連中がゲートに並んでいた。
残念ながらいいところは見逃してしまったらしい。すでに勝敗は決していた。
青いTMF/S-3ジンオーカーが背中から広場の砂地に倒れていた。その前にはライフルを構えたGAT-X102デュエルガンダムが立っていた。
仰向けのジンオーカーのコクピットから男が這いでた。訓練であるためか、ヘルメットはしていない。いかにも若造という言葉の似合う若者で、アフメドとか呼ばれていただろうか。この基地にモーガン・シュバリエ中佐を含めて5人いるモビル・スーツ・パイロットの中でも一番の新米だと記憶している。
デュエルからは小柄な女性。ヘルメットを脱ぐと、リボンで束ねられた桃色の髪が風になびいた。アイリス・インディアだ。美少女の勝利に、若い男衆が沸き立つ。まるでこの基地のアイドルのようになってしまったが、当の本人は困ったような表情で、コクピット・ハッチの上から手を振って応えるだけだった。
乗り初めて1週間で正規の軍人を負かすとは、アイリスは着実にモビル・スーツ・パイロットとして成長している。アーノルドは正直に感心しているようだ。呆気にとられたようにこの光景を眺めていた。
ムウにはこの場で一番冷めているのは自分だという確信がある。
「至高の娘の妹なんだ、これくらいできても驚くに値しないな……」
この声は誰にも聞かせるつもりはなかった。特に、アーク・エンジェルのクルーであるアーノルドには。
新兵に舵を任せ、優秀な操舵手をパイロットに回す。本来ならあり得ない采配である。このことから導き出される答えは、艦長であるマリュー・ラミアスがムウへの依存度を減らそうとしているからだと考えられた。
そろそろ潮時か。アーク・エンジェルは楽しいゲームだったが、遊んでばかりもいられないものだ。
等間隔に降りていく。光はかすか。青磁に似た光沢が明かりを貪欲に貪りその形を示す。これを人は階段と名付け、そう呼んでいる。一時に跳び下りてしまえばいいものを、落下の対価を支払うことを恐れそれを一方的に分割するための道具であった。
そんなものを頼っても、行くつく末は何も変わりはしない。そして、階段とは名細い通路の床を占有する主の名でもある。
歌姫と呼ばれる少女が1歩1歩、その身を落としていた。やがて、扉を持たない小部屋が少女を迎え入れた。部屋には6角形のテーブルと6つの椅子。そして、2人の少女が歌姫を出迎える。
1人は腕を組みながら座っていた。不揃いな瞳が、自分と同じ顔をした歌姫を見ていた。
1人は人形かのように座っていた。真紅の双眸が、自分と同じ顔をした歌姫を見ていた。
純白の小部屋。中央には6角形のテーブルがおかれ、それぞれに椅子が1つ添えられている。背もたれがひどく高く、凝ったデザインが彫り込まれている。
大きな箱を2つかつぎ上げる巨人が描かれた椅子に座るはオッドアイの少女。不揃いな瞳と片側にだけ垂らされた三つ編み。手足を露出した姿がその活発さを印象づける。
たなびく羽衣を纏う天女が描かれた椅子にはアルビノの少女。赤い瞳と白い肌。漆黒の衣装を身に纏い、表情に乏しいその顔は、まるで置かれた人形のよう。
旗を掲げた女神が描かれた椅子には完璧な均整のとれた少女。桃色の髪は鮮やかに、青い瞳は澄んだ水の色を湛えている。華やかさが強調されたその衣装。
そして3者は同じ顔をしていた。残りの3席は空席であった。
まずはラクス・クラインが明るく透き通った声をこの部屋に染み込ませた。
「こうして6人の半分が集まるなんて、何年ぶりのことでしょう? デンドロビウムお姉さま、ゼフィランサス」
3人はちょうど対角線の位置に座っていた。ラクスにとって右側に座っていたデンドロビウム・デルタは足をテーブルに投げ出していた。その様子はカガリ・ユラ・アスハに詰め寄った時と何ら変わりない。
「2年くらいかな。もっとも、メンバーは違うけどさ」
そう言ってデンドロビウムはゼフィランサス・ズールを見た。ずいぶんと表情がおとなしくはなったが、おしゃべりなところは変わっていない。そんな印象を受けた。
「私はプラントをずっと離れてたから……。ここに来ること自体……、今回が初めて……」
赤い瞳がゆっくりと部屋を見渡す。その瞳が姉であるラクスの青い瞳を捉えると、歌姫は妹へと柔らかな微笑を向けた。
「ゼフィランサス、あなたが無事でいてくれたことを、大変嬉しく思いますわ。あなたが成し遂げた成果を、お父様はお喜びになることでしょう」
ゼフィランサスはラクスから目をそらした。それが彼女なりの照れ隠しであると気づくと、今度はデンドロビウムならデンドロビウムの、ラクスならラクスなりに微笑した。これも照れ隠しの1つだろうか。ゼフィランサスは唐突に話題をふる。
「ラクスお姉さま……、テットがキラって名前変えて生きてたよ……。今はストライクのパイロット……」
苦いものを噛んだような顔をしたのはデンドロビウムである。
「あいつ、まだストーカーしてんのか?」
ゆっくりとした動作で、ゼフィランサスはこの場で最年長である姉を見た。それが末妹の不機嫌ゆえの行動だとは、デンドロビウムは気づかない。ゼフィランサスにしてもすぐに視線を引き上げさせた。
「話は変わるけど……、デンドロビウムお姉さまは……、地球に戻るんでしょ……?」
デンドロビウムは手をひらひらと動かした。それを肯定だと判断して、ゼフィランサスは姉へとケースに入れられた記憶媒体を差し出した。
「これを……、カルミアお姉さまに届けて……」
デンドロビウムは記憶媒体を受け取るが、それが何かはわからないようだった。説明役はラクスが買って出た。
「お父様はビーム兵器の量産化を望んでいます。これはわたくしからお願いしてゼフィランサスにまとめてもらったデータです」
この説明が理解できなかったわけではない。しかし、記憶媒体を見るデンドロビウムの表情は晴れない。このような顔をしたまま、デンドロビウムはゼフィランサスの方を向いた。
「いいのか……?」
カルミアの手にこのデータが渡れば、アフリカ地区のザフト軍の戦力は大幅に強化される。そうすれば、危機にさらされるのは敵対勢力に所属しているキラ・ヤマトに他ならない。
ゼフィランサスは誰にも視線を向けず、何を見ているでもない眼差しで答えた。
「お父様はキラのこと……、必要ないみたいだから……」