長編の方がシリアスだから感想があまりつかないのか、単純に面白くないから書かれないのか。
そんな悩みをもったとき、人はゲンドウになれる。だから息抜きに短編ネタを書くのだ。
設定は新劇場版準拠です、あまり関係ないですけど。「とてもかわいい人」という奥さんの言葉を念頭に置きつつ。
※当SSは小説家になろう様にも投稿しています。
――はじめまして。毎月購読させてもらっているPNマダオと申します。
今回はじめてお便りを送らせていただきました。
というのも、このたび家庭と会社の事情から長年親戚に預けていた息子を、家業を手伝ってほしいということから呼び戻すことになり、その文面に悩んでいるのです。
息子は今年で中学二年生、みなさんいつも悩んでおられる通り多感な時期で、どう書けば息子に快く戻ってきてもらえるのか、それがさっぱりわかりません。
よろしければアドバイスをお聞かせください。
――はじめましてマダオさん。メールありがとうございます。
確かに中学二年生というのは思春期真っ盛り! 反抗期や恋や部活に勉強と色々人生で盛りだくさんなシーズンで、そのことに悩まれる親御さんたちも多いですね。
さて、息子さんに手紙を送るということですが、少し古風な方なのですかね?
まず長年接していなかったというのがハードル高いです。
どんな事情であれ息子さんはほっとかれたのですから、下手をすればあなたのことを父親と認めてくれないかもしれません。
手伝ってほしい家業というのが想像つきませんけど(職人さんかな?)、何をどう取り繕っても悪いのはあなたです!
息子だからと頭ごなしに接してはいけません。
いかに自分が息子さんに戻ってきてほしいか、素直な気持ちを手書きでつづってみるのがいいでしょう。
あとは、厳格な父親だと戻りたくないと思うかもしれないので、なにか若者に好まれるものを同封してはどうでしょう?
物で釣ってると思われるといけないのでそんなに値の張るものはいけませんけどね。
さあ、がんばって素直な気持ちを書き綴ってあげてください!
月刊育児の友 六月号より抜粋
―――まるでダメなお父さん ~あるいは彼がいかにしてあのような殴り書きを送るに至ったか~―――
私には息子がいる。
今年の六月で十四歳を迎えた、十年以上も会っていない息子だ。名を碇シンジという。以前親戚に頼んで送ってもらった写真では、顔は亡き妻とよく似ていて、すでに枯れ果てたと思っていた涙腺を刺激したものだ。
保安部を総動員して調査させた結果、息子には若干人間不信のきらいがあるようで、性根もひねくれており、友だちがほとんどいない。似なくともいい不器用なところだけは私に似たらしく、何故だろうと頭をひねったが、息子が自分に似てくれて嬉しいということしかわからなかった。
話がずれたが、私はネルフという組織のトップを務めている。
当然ながら政敵も多く、命を狙われたこともままある。さらに実験で最愛の妻まで失ってしまい、一時は自暴自棄になりそうなほど荒れた。
しかし残されていたいくばくかの理性が息子に当たり散らすことをいさめ、なんとか安全な親戚のところに送ることができた。
息子には恨まれているかもしれない。しかし、なんとしてもシンジに第三新東京市に来てもらわねば、サードインパクトが起きてしまうし、将来的にユイとシンジとレイとの四人家族で過ごす計画がおじゃんになってしまう。なんのために親戚に若干冷たくするよう伝えたと思っているのだ。そうだ、私はやらねばならない。
「冬月」
「なんだ碇」
「……いや、なんでもない」
妻の恩師であった冬月コウゾウという老人には、常日頃から苦労をかけている上、昔の私を知っているとあって頭が上がらない。
彼はその豊富な知識と人生経験をもって私をサポートしてくれる、得難い人材であり人生の師としても敬っている。あまりに万能なため、困難なことがあるとつい投げてしまうことも多いが、今回ばかりは話が別だ。私は父として自分で息子への手紙を書き、送らねばならない。
サングラスを外してこめかみをもむ。火傷の跡を隠すためつけるようにした手袋の感触がざらりと残った。
考えねばらないことは三つ。
一つに手紙の文面、どのような内容にするかが悩ましい。これはまだ時間があるから後になんとかしよう。
二つ、手紙を送る時期。新学期にあわせてだとか、中学生のタイムスケジュールと死海文書のタイムスケジュールとをすり合わせねばならない。
最後にプレゼント。これが最も難しい。というのも長年シンジと別居していたものだから欲しがるものなんて検討もつかない。若者と交流があるわけでもないので、流行も何もわからないのが困り者だ。
ここはひとつ、私よりはまだ歳の近い者に聞いてみるのがいいだろう。備え付けてある受話器をとり、とある場所に連絡する。
「青葉二尉、司令室に来たまえ」
事務処理をしている冬月先生のじろりとした視線を無視しつつ十分ほど無言で待っていると、肩まである長髪を揺らした青年が少し息を切らせてやってきた。
「お待たせしました碇司令」
「青葉二尉、君をここに呼んだのは……」
そこまで言って、ふと考える。
目の前にいる青年は勤務態度こそ実直であるが、見た目はあまり生真面目ではない。若者風に言うならばチャラチャラしているというやつだろうか。それに、ネルフに来た際履歴書のほうで「趣味:エレキベース」と書いていた。
チェロを嗜む心優しいシンジとは少し趣向が違うのではないだろうか。そんな疑念が膨らみ、次に発するべき言葉を見付けられないでいた。
「青葉君、葛城二佐のことだが、どうかね?」
「はっ! ステレオタイプな軍人よりも柔軟な発想ができる点で秀でているという前評判でしたが、実際そのように感じます」
「ふむ。碇、どうだろう」
困っていると冬月先生が助け船を出してくれた。つくづくこの老人には頭が上がらない。
「使徒との戦いは想像を絶するだろう。君から見た葛城二佐の不足な点をあげたまえ。場合によってはサポート役をつける必要がある」
「不足な点ですか。勤務態度に関しては……」
三十分ほど話して、彼は仕事に戻った。
青葉君の話は参考になった。現状では葛城君も問題なくやっているようだ。しかし困ったことにプレゼントの案はまったく浮かばない。
同じくオペレーターの日向君に聞こうかとも思ったが、彼は少々見た目が根暗っぽい。おそらくシンジとはまた違った趣味の持ち主であろうと思う、見た目的に。
かと言って伊吹君は女性だから好みは明らかに違うだろう。ぬいぐるみがその頃欲しかったと言われても参考にならない。
そもそもだ、彼らはセカンドインパクト後の混乱を体験してきているのだから、シンジとは世代が全然違う。いわゆるジェネレーション・ギャップというやつで間違った意見である可能性が高い。
私としたことがそんな単純なことに気づかないとは焦りすぎていたようだ。
では、どんなものを思春期の子どもは欲しがるだろうか。
三十年以上も前のことを思いだそうとしても記憶はかすかなものばかり。高度経済成長まっただ中、私は何を欲していただろうか。
当時のことを思いだすと、真っ先に出てきたのが車である。子ども心にあの鋼鉄のボディに憧れたものだが、果たして今の子どもにそれが当てはまるだろうか。いいや、メカメカしいものというのは時代を超えて男心をくすぐるはず。子どもから大人まで、金属特有の重厚感は男性を魅了するものなのだから。
待てよ。シンジにはエヴァ初号機のパイロットになってもらうのだから、車なんて運転して事故でも起こしたら大変だ。いや、昨今の自動車は安全面から見てもなんら問題ない。うむ、問題ない。
はっとここで気づく。シンジはまだ十四だから運転免許がとれない。そもそも小包程度に車を同封できるはずもない。
一見完全に見えたこのプランも思わぬ落とし穴があったというわけか。私もまだまだだな。
サングラスをかけ直し、内心の動揺までもをリセットするいつもの儀式を行う。幸いにしてこれが動じているときの仕種とは、まだ誰にも気づかれていない。口元を常に隠しているのは思わずニヤけたときや驚いたとき、ごまかすためである。
「しかし、何故いきなり青葉君を呼んだのだ」
この老人は変なところで鋭い。
「勝算はあるとは言え、勝率をあげるにこしたことはない。そのためなら私は労力を惜しまん」
うん、司令っぽいぞこの言い訳は!
冬月先生も納得したのかそれきりじっと黙り込んで手元のコンピュータに視線を落とす。
……む、冷静になってみれば今のは何の言い訳にもなっていないのではなかろうか。まあいい、今はシンジのプレゼントだ。子ども時代、思春期は何を欲していたか。
ああ、思い当たるものがあった。
今や本屋のみならずコンビニにも陳列され、未成年が買ってはいけないとされるもの。
私は中学生のころ、エロ本が欲しかった――。
誤解してほしくないのは、欲していたのは私だけではなかったというところだ。あの年頃、ほとばしる熱いパトスを感じる年齢には聖書か、あるいはゼーレの有する死海文書に等しい価値があるのだ。それはきっと今でも変わりないだろう。
よし決めた、シンジへのプレゼントはちょっぴりイヤンなものにしよう。完璧だ。
だが待てよ。十年以上も連絡を取っていなかった父親から突然の手紙、それもこちらへ移ってこいという内容に、エロ本が同封してあったらどう思うだろう。
私は嬉しいが、奥ゆかしい性格のシンジは喜ばないかもしれない。ストレートすぎるのはよくない、もう少しオブラートに包んでおくべきか。それになんのかんのでああいう雑誌が規制されているのは情操教育上よくないからだろう。直接的なものはやはりヤメだ。
ではグラビア雑誌は、いやよくないな。もっと手軽に楽しめる、というと語弊があるが気楽なものの方がいいだろう。
そのとき脳裏に電流が走る。これぞ天啓というものだろうか。かつてない衝撃を受けたまま、再びがちゃりと電話を取る。
「葛城二佐、司令室に来たまえ」
ほどなくして、凛々しい顔立ちのさっそうとした美女が司令室にやって来た。ネルフの戦術作戦部作戦局第一課の課長を務める葛城君である。
「葛城二佐、出頭いたしました!」
敬礼する動作もきびきびとして、ネルフに規律をもたらしてくれる頼もしい部下だと私は思う。
しかし、そんな彼女に申し訳ない頼みをせねばならない。これもシンジのため、ひいては明るい未来のためだ。そのためならこの碇ゲンドウ、鬼とも悪魔とも呼ばれてもかまわん。家族以外からならだが。
「楽にしてくれ葛城君。君の活躍は色々と聞いているよ」
こういうときは年の功がものを言う。冬月先生が柔らかな口調で、彼女の緊張をときほぐしてくれる。ナイスフォローです先生。次のお歳暮は奮発しましょう。
すちゃっとサングラスの位置を直して、葛城君と視線を合わせながら私は言った。
「ときに葛城二佐」
「はい」
「君はセクシーな写真を持っているか」
「はい?」
天使が通るとはこのようなときに使う言葉だったか。先ほどまではきはきと冬月先生に答えていた葛城君は、なにかすごく意外なものを見た顔をしている。たとえば使徒がムーンウォークをしているところとか。
「あの、碇司令?」
「セクシーな写真を持っているかと聞いたのだ」
私と葛城君とでは一回り以上も歳が違う。ひょっとしてセクシーという言葉が通じてないのかもしれない。イケイケな写真と表現すべきだったかもしれない。
そんなことを考えていると、目を白黒させた彼女が質問を投げかけてきた。
「その、セクシーな写真とは具体的にどのような?」
なるほど、これは私が言葉足らずだったようだ。具体性を欠いた指示を出すとは、元研究者だというのに情けない。
「裸体や水着である必要はない。ただ非日常を想起させるようなポーズで、そうだな、年下をからかっているようなものが好ましい」
うむ、あまり刺激的すぎるのは教育上よくないからな。何事もほどほどが一番だ。
「お、おそらくあるかと」
「明日持ってきたまえ。写真には『シンジくん江(ハァト 私が迎えにいくから待っててネ(ハァト』という文面を書き入れておくように」
「りょ、了解しました」
人はどういうときに進んで引っ越しをしたがるか。
決まっている、転居先に希望がある場合だ。インターネットやなんやらでその手の写真を引っ張ってくるのではなく、ネルフにはこのような美人がいる、しかも迎えに来てくれるとなればシンジも喜んでやってくるだろう。いつの時代だってオトコノコは煩悩にまみれているのだから。
さらに葛城君はシンジの上司にあたる人物だ。青葉君が言うには勤務態度も毅然としているようだし、公私ともにきっちりしているだろう。美人で完璧な憧れのお姉さんという存在は、ある種背徳感すら覚えるに違いなく、きっとある行為の際、得も言われぬ高揚感を与えてくれることだろう。
流石私、完璧な計画だ。
「碇、いいのか?」
「ああ、問題ない。すべては計画通りだ」
冬月先生が眉間にしわを寄せているが、この人はこう言っておけば深くは追及してこない。
とかくこれでプレゼントはなんとかなった。あとは手紙と送る時期だが、追々考えることにしよう。
先ほどから冬月先生が変な目でこちらを見ているのも気になることだし、ひとまず仕事を片付けよう。
***
光陰矢のごとし、とは誰の言葉であったか。
先人の言った通り年月が流れ去るのは早いもので、あれから手紙の文面を考える暇もなく私は忙殺されていた。
大体なんだ、ゼーレ主催南極杯だとか、「わしのショットはセカンドインパクト並みじゃ」だとか、普段は車いす生活を送っている老人どもがこういうときに限って元気になる。接待ゴルフも楽ではない。
楽ではないと言っている間にどんどん歳月は過ぎ行き、気づけば死海文書の予言にある第四使徒襲来の日が近づいていた。
こいつはマズい。なにがマズいかって言うとまだシンジに手紙を出していない。
「碇司令、サードチルドレンの件ですが」
「問題ない。間もなく来る予定だ。日程が決まれば迎えは君に任せる」
「はっ!」
葛城君も不審に思っているのか確認に来る始末、こいつぁ困ったものだ。
困ったものだが時間がない。とにかく文面を考えねば。
時田シロウ先生(育児の友おたよりコーナー担当)によれば素直な気持ちを綴ればいいという話だが、この溢れる心情を書き出してしまえば原稿用紙五十枚では収まらない。もっとシンプルに、父親らしい威厳に満ちた文章を考えねば。
とは言っても父親らしいことなんてした覚えがとんとない私だ。親のなんたるかを知らずして威厳ばかりを出しても仕方があるまい。
しかし悩ましい。一体何を書けばいいのだ。
思い悩んでいるとき、同封する予定である葛城君のブロマイドが目に留まった。きちんと私のリクエスト通り、「シンジくん江(ハァト 私が迎えにいくから待っててネ(ハァト」と書いてある。
はたと思い当たることがあった。保安部の報告によれば、シンジは奥ゆかしさを極めんばかりの内向的性格であるらしい。ならこの健康的なエロスをほのめかした写真を見ても、罪悪感から使用できないのではなかろうか。
それはいかん、なんのために同封するというのだ。
葛城君が書きこんだのと同じ太さのペンを取り出す。
『ココに注目』
何を隠そう、私は筆跡をまねる達人! 高校時代、イヤな奴の靴箱にクラスのマドンナを装ったラブレターを入れてからかったものだ。
その技能がここで生きようとは、人生とはわからない。
まあいかにシンジが謙虚な性格であろうと、ここまで指し示したならじっくりと覗き込むに違いない。
ほのかな満足感を覚え、IDカードを張り付けた紙にクリップで止め、愕然とした。なにも問題が解決していない。
しかもこんなときに限って電話が鳴る。将棋会のお誘い? 冬月先生の居場所など今の俺が知るものか! ゼーレの老人どもめ、仮にもヨーロッパ人なら将棋でなくチェスにしろ!!
焦りと暢気な連中に対する怒りに心が真っ赤に燃えそうになり、大きく息を吐いて鎮静化した。
だがこの猛りはこれだけで済みそうもない。とにかく冬月先生に回す仕事もメールで来ている、戻ったらすぐ来てもらわねばならない。
そこらへんの紙に「来い」と書きなぐり、司令室のすぐそばにある副司令室、先生のデスクの上にわかりやすく置いておいた。
これで彼もすぐ連絡をとってくれるだろう。
しかし今日は不思議なくらい落ち着かない、奇妙な怒りが持続している。部下に当たり散らすわけにもいかないし、散歩にでもいこう。戻ってきたころには冬月先生も帰っているだろうし、心も落ち着いているに違いない。
これが更年期障害かとため息をつきながら、私はネルフの無機質な廊下に歩み出た。
どうでもいい話ではあるが、私はエレベーターの奥に行くのが嫌いだ。何故かと言えば、昔聞いた怖い話のせいである。
とある人がエレベーターに一人で乗っているとき、何階であったか、押してもいないボタンが点灯したそうだ。最初彼は何気なく誰か乗ってくるのかと見ていたが、すぐに全力ですべての階層ボタンを押してエレベーターから転がり出たそうな。
この話の意味するところ、おわかりだろうか? エレベーターとは外の人が押しても内部のボタンが連動するようにはできていない。
つまり、一人きりだったエレベーター内に見えない誰か、おそらくは幽霊かプレデターが乗っていたということなのだ。
ユイにこれを聞かされて以来、私はいついかなるときも脱出できるよう、エレベーターに乗る際はドア付近で立っているのだ。
たまに乗り込んでくる人に驚かれるが、些細な問題だ。日々ストレスや恐怖心をためないよう生きるためには仕方あるまい。
それはさておき、エレベーターで適当な階に下りて、自販機のコーヒーを飲んでいると、先ほどまでの憤怒がすぅっと空気に溶けるように消えて行った。
みなさんにもそんな経験はあるだろう。不思議なほど晴れやかで、思わずスキップでもしてしまいたいほどの気分だ。
実際スキップしたらリツコ君に見られた、問題ないと誤魔化したがあのひきつり笑いは大丈夫だろうか。
とにかく、機嫌も良くなったので冬月先生の副司令室に向かうことにした。
もう冬月先生も戻っているだろうと思い、事実そうであった。
「碇、こう言ってはなんだが、もう少し父親らしくしたらどうだ?」
開口一番、先生はよくわからないことを言う。
何が言いたいのだろうか。物にも部下にもあたったわけではないからまだいいと思うのだが。
氷解しない疑問を抱いていると、冬月先生はやれやれとこれみよがしにため息をつく。
「十数年ぶりの息子への手紙が『来い』の一言では、シンジ君もかわいそうだろう」
……この人は痴呆がはじまったのだろうか。
「デスクの上にIDカードを張り付けた紙と葛城君の写真を置いていただろう? 郵送すら私に押し付けるとは……」
どうやら冬月先生を働かせすぎたようだ。まさか、そんなまさか。
「時間もない。超速達にしておいたから今夜にも届くだろう」
「冬月……」
私は無言で先生を殴った。
***
さて困った。
あんな手紙とも言えぬ手紙を私の本心だと勘違いしてもらっては、シンジとの溝がますます深くなってしまう。
そうなる前に電話をかけようと思うのだが、どうにも思いつかない。私はシンジになんと言えばいいのだろうか。
零, 久しぶりっ! パパだよ!
初, 久しぶりだな、シンジ。
弐, あの手紙は本心じゃないんだ、許してくれシンジ!
まず零だが、当初の予定ではこういうキャラづくりで再会するはずだった。フランクで、だけど締めるところはきっちり締めるダンディズムとチャーミングさの黄金比がかもし出す中年。そうシンジに思われたかったのだが……。
あんな殴り書きの手紙を送ったのでは、チャーミングというよりマヌケキャラになってしまう。よって却下だ。
次に初、これは真っ当だ。私のイメージする威厳ある父親像というのに合致する。
だが私は自分で言うのもなんだが、いかつい外見をしている。見た目怖い×怖い口調ではシンジと心の溝が広まるばかりだろう。よってこれもなしだ。
最後の弐、これはいかん。情けなさすぎる。
シンジに対する申し訳ない気持ちはあるものの、再会ののっけから頭を下げる父親に息子が尊敬するものか。少なくとも私なら見下す、こいつは情けない野郎だと唾を吐きかけるかもしれん。
マズい。心の選択肢がなんの役にも立たない。今が昼なら午後は□□テレビの司会者さんに聞けると言うのに、もう夜だ。
いや、むしろこれを奇貨ととらえるべきだ。
十年以上あっていなかった父からの突然の手紙、内容は殴り書きの『来い』という文字と謎の美女の写真。親戚から追い出されるように第三新東京市に来た少年は、人類を護る戦争に身を投じることになった。ミステリアスな美少女と、威厳のある父に見守られながら少年の戦いがはじまる……!
ぬおおおお! 燃える! これは燃えるぞ!!
二十世紀のアニメにでもありそうな展開じゃないか! 我ながら素晴らしいことを思いついたものだ。
よし、こうとなってはこの展開以外ありえん。早速親戚に電話をしてシンジをこちらに送るよう言っておかねば。
シンジ、お父さんはお前のことを待っているぞ!
了
Taka様の指摘通り、サードチルドレンとするところがサードインパクトになっていたので修正。これもキール議長がすべて悪い。