━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━
…………王子様って…………王子様って何なわけ?
目覚めたの? 女の身体になったせいでソッチの方に目覚めたの、あの人形?
やけに原作でもネギに執着していた気があるから、もしかしてソッチなんじゃないかと思ったこともあったけど…………。
女になって溜め込んでいたナニカを我慢出来なくなったのかなぁ。
ヤバイ。今すぐ魔法世界から逃げ出してぇ…………。
しかもよく考えたら僕が『完全魔法無効化能力』持ってるのバレちゃったよね。
思いっきりデュナミスの影槍を無効化していたし、フェイトの従者の女の子達もアーティファクトを発動させてたのを無効化していたみたいだし。
マズイな。僕が“黄昏の御子”であることバレちゃったよ。
せっかくアスナさんのことは隠し通せていたのに………………でも、逆に考えればこれでアスナさんは益々安全になったってことか。
それこそ僕に対する人質ぐらいとしてでしか狙われないでしょう。ウン、不幸中の幸いだ。
“不幸”が大きすぎて、その中に“幸い”があったとしても誤差の範囲なのが悲しい。…………というかただの現実逃避だ。
あー、でもフェイトのこと本当にどうしよう? 今度出会ったら有無を言わさずに消すか?
でもさすがになぁ…………さすがに女になるなんてことは予想していなかった。
フェイトの従者の暦と環って女の子がやけに僕を睨んでいたんだよなぁ。普通に怒っているだろうなぁ。恩人で恋心っぽいものを抱いてもいる男がいきなり女の子になってしまったもんなぁ。
罪悪感が…………さすがの僕でもこれには罪悪感が…………。
でもフェイト達を放っておいてアスナさん達に危害加えられても困るし、何かしら対応は取らなきゃいけないんだけど…………。
本気でどうしよう?
『もしもし、ネギ先生? 高音君達に話したよ』
「う? ああ……どうでした、ガンドルフィーニ先生?」
そして只今ガンドルフィーニ先生と電話中。
とりあえずゲートポートでの騒ぎは収まり、事情聴取なども終わってドネットさんに紹介されたホテルに到着してエヴァさん召喚したら今日はお休みです。女性陣は1つの部屋に篭って何か相談事をしているみたいですけどね。
それであらかじめ教えてもらっていたガンドルフィーニ先生達が宿泊していたホテルに電話して、詳しい事情と今後のことについてをガンドルフィーニ先生に教えました。
『高音君達も麻帆良に帰ることが出来るのがわかったのでホッとしていたよ。それと君達の用事が終わるまでは帰ることが出来ないというのも納得してくれた。
これからどうするかはまだ決めていないが、ネギ先生達は当初の君達の予定通りに動いてくれていい。君達が帰るときに一緒に麻帆良に帰らしてもらう。麻帆良にはそう伝えてくれ。
…………それと高音君達の家族と僕の妻子にも事情を説明してくれたら助かると学園長に…………』
「了解です。麻帆良にいるちびネギ経由で伝言しておきます。
………………娘さん、大丈夫なんですか? もし何だったらガンドルフィーニ先生だけでも麻帆良に…………」
『…………クッ、帰ったら妻の実家に帰省する約束をしていたのに………………こりゃ離婚かな?
ハハハハハ…………』
いや、職務上の都合だから仕方がないと思いますけど…………。
それにやけにやさぐれていませんか?
『まあ、それをともかくとして…………やはり君達の都合を優先してくれればいいさ。魔法世界崩壊の危機に私情を挟んではいられない。
何より私達は麻帆良の代表として正規の手段でコチラに来てるんだ。いきなり行方不明になったとしたら騒ぎになるだろうし、事情を説明したらネギ先生に旧世界へ帰りたい人達が殺到することになるだろう。
そんなことになったら君達の魔法世界の調査にも支障が出てしまう。君が言った通り、調査が終わってから“新たに帰還方法を開発した”ということにして公表した方がいいだろうね。ソッチの方が混乱は少ない。
帰れなくて不安になっている人達には悪いとは思うが…………』
「ちびネギ達はもう調査に出したので調査自体は終了といえば終了なんですがね。
それに一応は今でも帰れることは帰れるらしいですよ。思いっきり転移陣が不安定みたいですが…………」
『おいおい、やめてくれ。いくら何でも生徒達をそんなもので帰らせるわけにはいかないだろう。
いつ完全に壊れるかわからない状態なんだ。もし私達が帰るときに運悪く完全に壊れたとしたら、私達はヘタしたら深海や土の中に放り出されるかもしれないんだよ』
もしくは宇宙空間や亜空間ですね。
僕としてもあの壊れかけの転移陣を使うのは御免被りたいところですし。
「了解です。それでは明日にでも一度合流しましょうか。僕達がそちらのホテルに向かいます。
あとは観光を楽しむだけ…………だったのですが、よく考えたら“新たに帰還方法を開発した”ってことを公表しても皆さん信じてくれますかね?」
『…………ム、確かにそれはあるな。
私達は君のことを知っているから信じられるが、いくら“千の呪文の男”の息子の君といえど、君はコチラではまったく知られていないだろう』
フム、それなら原作通りに拳闘大会……“ナギ・スプリングフィールド杯”にでも出るかな?
そうすれば金稼ぎにもなるだろうし顔も売れるだろうから“魔力輸送扉による魔法世界救済”事業を公表するときも楽にことが進むだろうし。
ま、いいや。アスナさん達の意見も聞いて明日皆で考えよう。
今日はホントに衝撃的すぎることが起きて疲れた。さっさと寝よう。
…………あ、ちなみに部屋は全員個室でしたよ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「…………別行動、ですか?」
「そうだ。別行動だ」
それは何でまた?
次の日、ガンドルフィーニ先生達の泊まっている豪華なホテルに到着したと思ったら、何故か僕だけ1人だけでガンドルフィーニ先生の部屋に閉じ込められ、残りの皆さんで春日さん達が泊まっていた部屋で話し合いを始められました。当たり前ですが男女別の部屋だったようです。
いったい何の話をしているのかな~? と思っていたら、話し合いが終わったエヴァさん達に、僕とはしばらく別行動を取ると言われてしまいましたよ。
「理由を聞いてもいいですか?」
「ウム、アスナ達の腕試しの良い機会だし、ネギは拳闘大会に出るつもりみたいだがその間私達は暇だからな。
今まで厳しい修行を課してきたが、それはあくまで“ネギの監督下”という安全な状況においてのみだった。しかし、そろそろアスナ達も自分達の力のみで何処まで出来るかというのを試してみてもいいだろう。
他にも賞金稼ぎとか素材集めとか……自分達で金を稼ぐなどの経験も将来の良い糧になるだろうしな」
「…………そういわれると確かに良い機会ですが…………。
細かいところは計算しなければわかりませんが、おそらくゲートポートが壊されたことによって地球と魔法世界の時間の流れが変わるでしょう。夏休みが終わるまでがこちらの時間で約2ヶ月間ぐらいに伸びることになると思います。
それならば“オスティア終戦記念祭”が終わる頃に帰ればいいかと思っていましたが…………」
「それに普段はお前や私が魔法を皆に教えているが、少しばかり正規の魔法授業を経験しておくのもいいだろう。
夕映やグッドマン達にはアリアドネーを体験してもらうつもりだ」
「グッドマンさん達もですか?」
「ええ。私達ではネギ先生のお手伝いは出来ませんし、賞金稼ぎなどはさすがに危険そうですしね。かといって帰れるまでの時間を無為に過ごすわけには参りません。
それに魔法世界最大の学術研究都市というものには興味はありますわ」
「えー、いいじゃん。帰るまで遊んで暮らそーよ」
「…………ミソラ、それだとシスターシャークティに怒られると思ウ」
春日さんは相変わらずぶれませんねぇ。
まあ、そういうところが逆に安心出来るんですけど。
でも別にお金は気にしなくていいんですけどね。
拳闘大会に僕が出るつもりですから、皆さんは僕に全試合で全財産賭けてくれればそれだけで一財産築くことが出来ますよ。
それでエヴァさんの話をまとめると、3つのグループに別れるそうです。
力試しチームはエヴァさん、アスナさん、木乃香さん、刹那さん、楓さん、菲さん、のどかさんの計7人。
かなりの武闘派揃いになってますが、このメンバーなら“ょぅι゛ょ誘拐犯”に襲われても最低でも逃げ切ることは出来るでしょうね。何しろエヴァさんがいるんですから。
それにエヴァさんが言う通り、僕が“黄昏の御子”ということが“ょぅι゛ょ誘拐犯”にバレた可能性が高い以上、僕の側の方が逆に皆さんにとっては危険かもしれませんね。
様子を見るためにも、確かに別行動を取った方がいいかもしれないなぁ。特にアスナさん。
それとアリアドネー短期留学チームは夕映さん、アーニャ、超さん。それとガンドルフィーニ先生御一行。
アリアドネーなら危険はないでしょうからこのメンバーでも大丈夫でしょう。ちびネギもついていますし。
夕映さん達は純粋にアリアドネーに興味があるそうです。まあ、これも良い経験になるかもしれませんね。僕やエヴァさんみたいなバグキャラを基準に考えられるようになったらマズイですから、ここで夕映さんに“普通の魔法使い”というものを知ってもらうのもいいでしょう。
ちなみに超さんは、良い機会だからアリアドネーの資料を手当たり次第漁ってみるとのこと。確かにあそこには魔法世界についての資料はたくさんありそうですね。地理なんかを調べるだけでも効率的な魔力輸送扉の配置場所の計算にも役立ちそうですし。
…………念のために、アーニャに“千の絆”貸しとくかな。アレあったらいろんなことに使えて便利だし、護衛にも使えるだろうし。
て、残りは僕と一緒に行動する人達。千雨さん、龍宮さん、茶々丸さんの3人とアルちゃん。
千雨さんは力試しは出来ないし、アリアドネーにも興味ないですので、僕が拳闘大会に出たときに僕に全財産を賭ける役をやってもらおうと思います。
龍宮さんは千雨さんの護衛…………というか消去法で選んだみたいです。この人も力試しとかアリアドネーには興味ないでしょうからね。
茶々丸さんは僕のお世話役。まあ、力試しに参加してもしボディが壊れたら修理で困るし、アリアドネーに行ったら興味持たれてヘタしたら分解されちゃうかもしれませんよね。
………………アスナさん達全員とは別行動か。
距離が離れるから『従者の召喚』とかで咄嗟に呼び出したり呼び出されることは無理だから、何かあったときはちびネギが転移陣展開しなきゃ無理だな。
その展開するためのわずかな時間ぐらいなら皆さんだけでも大丈夫だと思うけど…………。
「…………なに不機嫌になってるんだ?」
「別に不機嫌じゃないですよ」
ただ心配なだけです。
皆さんのためになるのなら、仕方がないから認めますけどね………………ムゥ。
「…………で、小太郎君はどうするの?
今のチームには何処にも入っていなかったみたいだけど?」
「ん? ああ…………ちょっとエヴァさんの別荘借りて、一から鍛えなおそうと思ってな。
それでちびネギを1人だけコーチとして借りたいんやけど…………ええか?」
「…………それは別に構わないけど」
「ム…………別荘は私の影にしまっておくから、そういうことなら犬がもし外に出たくなったときのために連絡手段が必要だな」
それは別に構わないけど…………やけにあのフェイト見てから随分と決意を固めたような表情をしているね。
京都での一件でフェイトと原作より仲良くなったみたいだから、あのフェイト見たらさすがに思うところがあるんだろうな。
…………もしかして、本気でデュナミス倒してフェイトを解放しようとか思ってない?
アレはあくまで僕が適当に嘘八百並べただけなんだけど…………残念ながら今の僕には否定する材料がないんだよなぁ。
調子に乗って戯言を言い過ぎたか。反省反省。
━━━━━ エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル ━━━━━
「よし、何としても性転換薬を作るぞ!」
「ええ、それでフェイトを男に戻しましょう!」
「賛成や!」
「フェイトを男にさえ戻せば、ネギ先生はフェイトのことを気にしなくてすむようになるでしょう」
これで別行動についてのネギの了解はもぎ取った。
私達腕試しチームは片っ端から性転換薬に必要そうな材料をあらかじめ集めておき、夕映達アリアドネーチームが性転換薬について調べることが出来る。
あ、ガンドルフィーニ達に事情を話したら、苦笑いだったかが協力を約束してくれたぞ。
もちろん真面目にアリアドネーで勉強をするつもりらしいので、時間に余裕があればの話らしいがな。ガンドルフィーニもアリアドネーの教育現場には興味があるらしいし。
そして何としてもこの旅行中の間に性転換薬を作成し、フェイトに飲ませて男に戻さなければならん。
ゲートポートでの一件のあらましを聞いたときは、さすがの私でも開いた口が塞がらなかったぞ。
しかし…………こう息巻いておいてなんだが、本当に性転換薬なんて作れるのだろうか?
少なくとも私は知らん。以前、惚れ薬を作るために別荘の中の魔法資料を探したときもそういうのは無かったしなぁ。
これについては夕映達アリアドネーチームに頼るしかあるまい。いくらアリアドネーが“学ぶ意思があるものはたとえ魔物や犯罪者であっても捕らえることは禁止されている”といえど、さすがに私がアリアドネーに行ったら騒ぎになって資料集めどころではなくなってしまう。
夕映の“世界図絵”がこんなときこそ役に立つな。しかもアーニャが“千の絆”をネギから借りるようだから、効率は更に2倍だ。超鈴音もこういうことには役立つだろう。
さすがのネギでも性転換薬については知らんだろう。
アイツは関係ないことには手出ししない性質だから、“女の子になってみたい”という思いを抱いていない限り調べようともせんだろうからな。
…………女の子になったネギ。少し見てみたい……イジメてみたい気がするな。
もし性転換薬が出来たら試してみるか。
よし、楽しみが増えた! 何としても性転換薬を作るぞ!!!
「…………でも、別行動になるのはネギにとっても良い機会だったかもしれないわね」
「そうやねぇ。最近のネギ君はウチらにベッタリやったもんね」
「ベッタリの割にはスキンシップは全然してくれませんでしたけどね。
私達の方から近づいたら逃げるのに、私達の方から離れると近づいてくるというか…………」
「あのネギ先生ってやっぱり警戒心の高い猫みたいですよねー」
「学園祭のときに自分の気持ちに気づいたせいなんでござろうな」
「そのせいで私達とはどういう距離をとっていいかわからないようになったみたいアルね」
確かにな。あのネギはあのネギで可愛くて好きなんだが、将来的なことを考えるならネギにはもっと立派な男になってもらいたい。
今のネギなら無理矢理迫れば押し倒せそうだが、やはり最後はネギの方から私達へと告白してほしい。愛すのも良いが愛されるの方が良い。
だからネギと会えなくなるのは寂しいが、これもネギを良い男に育て上げるための一歩なのだ。
それにきっとネギの方も私達に会えなくなることによって、私達がどれだけ大事だったかを再認識するはずだ。
そして私達への想いがさらに深まることになるだろう。
今度会ったときのネギはどうなっているかが楽しみだな。そしてネギに纏わりつくかもしれない毒虫排除の準備を何とかせねば。
その間、私達全員がネギから離れてしまうので、しばらくは千雨や茶々丸にネギを見張っておいてもらうことにしよう。
知らん仲ではないので千雨や茶々丸になら手を出しても認めてやるから、フェイトだけはやめてくれ。
いくら何でも元男が言い寄ってくるのは生理的に無理だ。
しかしネギに黙って事を進めなければならんのが面倒臭い。
アスナの言う通り、ネギが私達のしようとしている事を知ったら「そんなことは必要ない」というだろうから仕方がないがな。
どうせネギのことだ。私達に自分の尻拭いをさせるのは嫌がるだろう。
だが今回のことは私達、女のプライドの問題でもある。ここは黙ってでも進めさせてもらうぞ、ネギ。
━━━━━ 後書き ━━━━━
逃げろ、ネギ。超逃げろ。
エヴァがよからぬ事を企んでいるようです。
ネギ的には“女装ならまだともかく、性転換はマジ勘弁してください”です。