━━━━━ テオドラ ━━━━━
「これはこれは……拳闘大会陰の出資者が顔を見せるとは珍しい…………」
「おお、久しぶりだな! じゃじゃ馬第三皇女じゃねーか、オイ!」
「なっ!? 貴様!」「殿下に無礼であろう!」
「良いのです、下がりなさい」
「し、しかしテオドラ殿下!」
「命令です」
「ハ……ハッ!」
アハハハハ、相変わらずじゃな。この筋肉ダルマは。
まったく何故顔を見せ…………ん? 何じゃその娘達は?
おお、それにタカミチまでいるではないか! 久しぶりに顔を見るの。
しかし、やはり人間のタカミチは成長するのが早い。20年前は妾と同じくらいの子供だったのに、今ではどう見てもオッサンじゃな。
その娘達はタカミチの連れか?
仕方がない。人目があるならジャックに飛びつくのは止めておくか。
「久しぶりですね、ジャック」
「なぁに猫被ってんだよ、気色悪い。
この嬢ちゃん達なら大丈夫だから、いつものじゃじゃ馬皇女を曝け出しても問題ねーぜ」
「グヌッ! …………やっぱり主は変わらんのぉ」
「アハハ…………お久しぶりです、テオドラ皇女」
「ウム、タカミチも元気そうじゃの。
しかし主がここに居るという事は…………例の“ゲートポート破壊事件”で旧世界に帰れなくなったのか?」
「まあ、似たようなものです。
それとネギ君のことが心配でしたので」
ああ、そういえばタカミチは旧世界の麻帆良で教師をしておって、ネギはその同僚なんじゃったな。
インタビューでネギがそう言っていたのを聞いたぞ。
それにしてもナギの息子…………ネギには驚いたわ。
まさか拳闘試合に出場するや1週間で30連勝という記録を打ちたて、未だに無敗でこの“ナギ・スプリングフィールド杯”の参加権を得おった。
しかもコピーとはいえあの“闇の福音”を自らの使い魔としておるなんて…………あの子もバグなのかの。
メンコイ顔してなかなかの実力者じゃ。
現に闘技場でネギが予選を戦っているが、対戦相手は手も足も出せていない。
コピーエヴァはネギの後ろでふんぞり返って手助けする素振りも見せんが、助けなど要らなくてもネギは勝てるじゃろう。
他の出場者も似たり寄ったりの実力なので、これでは優勝はネギに決まったようなものではないか。
つまらんのぉ。
「やれやれ、妾は大変じゃったんじゃぞ。
昨日の開催記念式典の最中に何故か古龍・龍樹がいきなり逃げ出して、せっかくの式典だったのに恥をかいてしまったんじゃ。
古龍・龍樹にいったい何があったのやら…………」
「ああ、アレ見てたぜ。大騒ぎだったじゃねぇか。
あいつ本当にどうしたんだ? 何か怯えてるっぽい感じだったが…………」
「(…………スイマセン、それネギ君のせいです。何故か古龍・龍樹を見て殺意を覚えたらしくて…………)」
それがわかれば苦労せんよ。
後始末が大変だわ父上から直接文句がくるわで、昨日は休む暇無しじゃったんじゃぞ。
「おお、揃ってやがるな」
「久しぶりね…………あら? 貴女は綾瀬さん? それにガンドルフィーニさんやグッドマンさん達まで…………」
「お久しぶりです、セラス総長。その節はお世話になりました」
「はい、おかげでアリアドネーでは得難い体験をすることが出来ました」
「いえいえ、ガンドルフィーニさん。貴方から旧世界のことについて伺えましたので、アリアドネー教育者にも良い体験をさせることが出来ました。
それにしても何故ここに? この終戦記念祭に遊びに来ることは聞いていましたが…………ああ、そういえば高畑さんと同じ、麻帆良の関係者でしたものね。となると、ここの子達は皆、旧世界の子達なのかしら」
おお、セラス達まで。リカードは相変わらず暑苦しいオッサンじゃな。
そしてあのガンドルフィーニというのはタカミチと同じく麻帆良の教師か。となると娘達は麻帆良の魔法生徒かの。
要するに彼らも“ゲートポート破壊事件”の被害者か。
ゲートポートの復旧には数年かかるらしいが、早いとこ何とかせねばならんのぉ。
ましてやメガロメセンブリアのゲートポートを襲った犯人は“完全なる世界”の残党ということではないか。
となるとヘラスを含め、世界各地のゲートポートを襲った犯人も“完全なる世界”と見て間違いないじゃろう。
タカミチやクルトが残党を潰したと聞いておったが、まだ生き残っておったんじゃな。
ただの事故ならまだしも、彼奴らが関わっておるとなると座してみているだけというわけにはいかん。
「お、ネギの試合やってんじゃねーか。もうあちこちで話題になってるぜ。ウチでもエヴァンジェリンのコピーの処遇をどうしようか議論したしな。
もちろん“闇の福音”とは認められないって結論になったぜ。本気で量産されて持ってこられたらマズイからよ。賞金的に考えて。
しっかし人気だなぁ。ネギのファンクラブも…………うわ、観客席の1/3ぐらいはファンクラブっぽい女で埋まってんな。10歳のガキによくあそこまで熱狂出来るもんだ」
「(…………スイマセン。試合に出てるのは本物のエヴァなんです)
ハハハ、おかげでネギ君が女性恐怖症になりそうで怖いですよ。
どうも熱狂的…………というか、ああいう狂信的な女性は苦手みたいですからね」
「ハッハッハ、仕方がねーだろ。
それにしてもまさか10歳でこの大会に出て、未だ敵無しとはなぁ。一応世界各地の猛者が集まるはずの大会なんだが」
「しかしここまで圧倒的だと逆につまらんぞ。これでも拳闘に詳しいからわかるが、他の出場者でネギに勝てる者はおるまい。
何というか“全力を出しているけど本気ではない”というか“本気だけど全力ではない”みたいな…………とにかく説明に困るが、圧倒的な試合でもどこか力を隠しているような感じなんじゃ。
まあ、優勝はネギで決まりのようなものじゃな」
「…………ふふ、そうだな。結構イイ線いってるな。
それに…………優勝がアイツで決まりってのもどうかな? わかんねぇぞ」
「ん? なんでじゃ?」
「なんつーか…………俺もちょっと本気でアイツに興味があってな。
ホラ、予選Dブロックのカゲタロウっているだろ」
ああ、タッグ戦をずっと1人で勝ち抜いている勝ち進んできている選手じゃろ。
タッグ戦であるこの大会を1人で勝ち抜いているだけあってなかなかの強者じゃが、ネギにはどこか劣る…………って、まさか!?
「ジャック…………主、もしかしてカゲタロウのパートナーというわけじゃあるまいな?」
「その通りだぜ」
「お、おいおい! いくら何でも無理じゃねぇか!?
確かに10歳にしてはやるようだが、お前を相手にするには………………あ、お前まさかこれを“例の約束”のための試験にするつもりか?」
「…………ん? …………ああ……まぁな。前にカゲちゃんに頼んでチョッカイ出してもらったけど、試すだけの価値はありそうだぜ。
ちなみに今は魔力も気も半分以下に封印したままらしいぞ」
「(1/10を半分以下と言い張るネギ君に一言言いたい…………)」
何じゃと!? 魔力と気を半分以下に封印してここまで勝ち上がってきたのか!?
妾の感じた違和感は間違っておらんかったみたいじゃが、アレで半分以下の力とは末恐ろしい子供じゃの。
それなら確かにジャックとも戦えるかもしれんが…………“例の約束”?
「ジャック、“例の約束”とは何じゃ?」
「あん? 何だテオドラは知らなかったのか?」
「ム、リカードは知っておるのか?」
「“アリカ”のことだよ。“紅き翼”の間で決めてたんだ。
“ネギが一人前の男になるまで、魔法世界でのコトは話さない”ってな…………」
「あら、それは私も知らなかったわね」
セラスも知らんかったのか。
知らんかったのは妾だけじゃないようじゃが…………そんな約束を主らだけで決めておるなんて、妾にも教えんか。
妾もナギとアリカの友人で、大戦の関係者じゃぞ。
まあ、妾も戦後のアリカのことは詳しく知らぬから、アリカのことをどう話せばいいかわからんが…………。
しかしそういうことならネギの応援をしてやろうではないか!
妾は戦い方を教えてやれるというわけではないが、確か妾の船に1日を10日にするダイオラマ魔法球が積んであったはずじゃ。それを貸してやるなり、他にサポートしてやれることがあるなら手伝ってやろう!
フム、どうせならリカードとセラスも誘ってみるか。コイツラもネギには興味あるじゃろうからな。
いや~、何だか楽しみになってきたの!!!
「(…………やべぇ。実はぼーずがもう全部の事情を知ってるなんて今更言えねぇ…………)」
「(…………まさかあの自主制作映画をネギ君に渡した理由が借金の形だったなんて…………)」
「あー、ネギ君ようやく勝ったなぁ」
「居合い拳オンリーなんて…………ネギったら遊びすぎね」
「そ、そうですね、アスナ殿…………様」
「次の試合は神鳴流オンリーでござろうか?」
「ネギ先生もそろそろ魔法を使うと思いますけど」
「…………そういえば拳闘試合では重力魔法以外の魔法は使ったことありませんね」
「確かにそうアルな。
使うのは居合い拳か神鳴流か重力魔法。“紅き翼”のメンバーの技だけアル」
「…………のう、タカミチ。あの娘達はネギと親しいのか?
それにネギを先生と呼んでいるということは…………」
「ええ、彼女達はネギ君が担当している麻帆良の魔法生徒です。
ちなみにあの中に詠春さんの娘さんもいますよ」
「ほお、詠春の娘か。…………確か木乃香とかいったかの。
詠春の娘がナギの息子の世話になっているとは、親の関係とは逆ではないか。ハッハッハ」
「あー、ちなみにその木乃香ちゃんはぼーずの“魔法使いの従者”だぜ。
つーかぼーずの“魔法使いの従者”はあの中の7人だそうだ」
「(…………他にも数人増えそうだけどね)」
何ぃっ!? 7人もの娘を“魔法使いの従者”に!?
ナギはアリカ一筋じゃったというのに、まさかネギがそのような好色だったとは! いろいろ驚いた今日の中で、コレが一番驚いたぞ!!!
━━━━━ 長瀬楓 ━━━━━
「ワーハッハッハッハッハ!!!
いよぉッ! お前がネ「ノックしてから入れ」オブロファッッッ!?!?」
「リカードォーーーッ!?!?」
「リカードを一瞬で!?!?」
…………何か暑苦しいオッサンがホテルに殴りこんで来たでござる。
ネギ坊主に鎧袖一触されたけど。
そして何故かジャック・ラカン氏との戦いについての手助けを申し出られたのでござるが…………。
「え、1日が10日になるダイオラマ魔法球? 1日が24日になるのありますけど…………。
はあ、戦闘魔法ですか? 『『千の雷』』クラスの大呪文なら全種類使えますけど。さすがに土系の『引き裂く大地』は相性の問題上、少し苦手ですけどね…………。
あ、きたないからかたづけておいてくださいよ、そのボロクズを」
ネギ坊主は相変わらず男に対しては厳しいでござるなぁ………………あ、お帰りはアチラでござる。
いやー、それにしてもリカード殿のあの変な髪形も随分とサッパリしたでござるな。それと血を失ったせいで血の気も引けて、あの暑苦しいのも少しは収まるでござろう。
…………でもあんなに軽くあしらってよかったのでござろうか?
あの人達は魔法世界ではかなりのVIPのようでござるが。
「いいんですよ。後々のことを考えるのなら、あの人達に借りを作るのは好ましくありません。
むしろ対等の立場…………出来るなら一目置かれるような位置に立てた方が、“火星-水星間魔法輸送扉プロジェクト”を実施するときに面倒が少なくていいです。
どうせもう少ししたらあの人達も協力をせざるを得ない状況に追い込みますから、今のうちに僕の値段を吊り上げておいた方がいいでしょう」
拙者は何も聞いていないでござる。
「だいたい女性もいる部屋にノックもせずに入ってくる男に手加減する義理なんてありませんしね。
まったく………………せっかく予選が終わって皆さんとゆっくりしようとホテルに戻ってくるなり、あんな暑苦しいオッサンの襲撃を受けるなんて…………」
「ま、ラカンに勝ったらその立場もますます強化出来るだろう。
せいぜい派手な技でラカンに勝つことだな」
「あー、ラカンさんが出場することがわかってから、街は大騒ぎになってたですね。
しかもネギ先生との戦いは決勝。コレットが興奮して知らせてきたですよ」
「コレットさんというと…………夕映さんとアーニャがアリアドネーでお世話になったという人でしたっけ。
試合は見に来られるんですか?」
「いえ、クジ運が悪かったらしく、当日は会場外の警備シフトになったらしいです。
…………それでなんですが。後日コレット達と会う約束をしているのですけど、出来るならネギ先生にも会っていただきたいのです。
彼女達は熱烈なネギ先生とお義父さまのファンなのですが…………彼女達には世話になったにも関わらず、私がネギ先生の“魔法使いの従者”であることをずっと秘密にしてしまっているので、そろそろ本当のことを言いたくて…………」
「…………ああ、なるほど。そういうことなら構いませんよ。
そうですね…………確か決勝の次の日は午後まで予定が空いていますから、コレットさん達の都合がよければ昼食でもご一緒しましょうか。
何しろ夕映さんに僕のことを秘密にしてもらうように頼んだのは僕自身ですからね。そのぐらいの埋め合わせはしませんと…………」
「あ、ありがとうございます! 早速コレット達に…………伝えたら大騒ぎになりそうですね。特に委員長。
ネギ先生のことは伏せて約束をしておきます」
ネギ坊主も熱狂的なファンが苦手とはいえ、少人数なら大丈夫でござるからな。
それにしても、余裕にしているがネギ坊主はジャック・ラカン殿に勝てるのでござろうか?
もちろんネギ坊主の実力を信じていないわけではないが、それでもラカン殿はおそらく魔法世界で5本の指に入るであろう実力者。
戦いに絶対ということはないので、もしかしたらネギ坊主だって足を掬われることがあるかもしれないでござる。
…………まあ、ネギ坊主が油断するなんてことは有り得ないので、心配するだけ無駄かもしれないでござるが。
いやぁ~、それにしてもネギ坊主とラカン殿という強者2人のぶつかり合いが見れるなんて決勝戦が楽しみでござるなぁ。
拙者も魔法世界に来てからの修行の日々で、少しは強くなった気がするでござる。
さすがに今はそんな暇はないであろうから諦めるが、麻帆良に帰ったらネギ坊主に一戦をお願いしてみるでござるか。
もちろん拙者1人じゃ相手にならないだろうから、刹那や古を誘ってでござるがな。
なあ、刹那?
「お勤めお疲れ様でございました、ネギ王子殿下!!!」
…………刹那は変わったでござるなぁ……。
裏の事情についての説明でネギ坊主がアリカ女王の息子ということを知ってから、刹那のネギ坊主に対する態度が思いっきり変わったでござるよ。
ネギ坊主と同じく、王族とわかったアスナ殿への接し方も変わったでござるし。
「…………ですから刹那さん。いくら王族の血を引いているとはいえ、別に僕自身は王族というわけではありませんってば…………。
というか、それよりどっかのヤーさんじゃないんですから“お勤め”は止めてください」
「いえ! ネギ王子殿下にあらせられましてはかの神代に連なる王国を受け継ぎ、その御力を持って魔法世界に生きるもの全てを御救いになろうとされる慈悲深き尊き御方!
本来ならば私のような者とは口をきくのも勿体無き御身であります!!!」
「……………………」
「知らぬこととはいえ数々のこれまでの無礼な振る舞い、平に平にご容赦を!
その上でなお、この不肖桜咲刹那! ネギ殿下の薫陶を受ける身として内外世間に恥じること無きよう、全力をつくす所存であります!!!」
「…………木乃香さん」
「あー、ネギ君ごめんなぁ。昨日の夜とかも少し話してみたんやけど…………。
せっちゃんは由緒正しき伝統ある権威とか これと見出した主君に仕えることに至上の喜びを見出す生き物なんや」
「ネギ殿下、紅茶の用意が出来ました!」
…………拙者も忍びとして修行を重ねた身。
“これと見出した主君に仕えることに至上の喜びを見出す”という気持ちは共感出来るが…………いくらなんでも刹那は大袈裟すぎると思うでござるがなぁ。
まあ、確かに“由緒正しき伝統ある権威”となると、ネギ坊主やアスナ殿に勝てる人物はそうそういないから仕方がないところもあるでござるか。
何しろ魔法世界の創造神の娘ともいわれる最古の血筋に連なる王族にして、その王族の中でも稀にしか現れない“完全魔法無効化能力”を持った2人。
まさにサラブレッド中のサラブレッドでござるからな。先ほど訪れたヘラスの皇女も血筋的にはネギ坊主達に敵わぬでござろう。
とはいえ、いくら血筋が良くても万人が認めなければそれは権威とはならないでござる。
その点においてだけは、一般人に知られていない2人よりもヘラスの皇女が勝っているが………………来月になったらそれがいったいどう変化しているのでござろうか?
…………想像するだけで少し怖いでござる。
いったい何時ネギ坊主が魔法世界全土に全てをバラすことになるやら…………。
そしてどんな風にそれらをバラすのやら…………。
「…………ハア。あのですね刹那さん。
確かに色々と計画を練っている僕ですが、クラスの皆さんを放り出すような真似はしませんよ。最低でも3-Aの皆さんが卒業するまでは絶対麻帆良にいます。
だから麻帆良に帰ったらどうするつもりなんですか? 麻帆良でもそんな言葉使いを続けるつもりですか?
刹那さんは生真面目なんですから、麻帆良に帰ったら言葉使いを怪しまれないように今までのように戻すなんて器用なことは出来ないでしょう。それだったら早いうちに今までの言葉使いに戻してくださいよ」
「そ……そんな無礼なことは出来ません! 今までの言葉使いが間違っていたのです!」
「(麻帆良でもネギ先生に対してその言葉使いを続けるつもりなの!?)」
「(そんなことになったらまたクラスで大騒ぎになるですよ)」
「(というか、ネギ先生はいったいどんな計画を練ってるんだ?)」
「(…………いや、やっぱアレだろ。魔力結晶使ってのオスティア再興)」
…………刹那にも困ったものでござるな。
「…………あー、ならアレです。
言葉使いを今までに戻してください。命令です」
「命令!? そ……それだけはご容赦を。
ただでさえ今までの自らの行いを悔いているというのに、これ以上無礼な振る舞いを続けるわけには参りませぬ。
もし私めのことを考えていただけるのなら、どうか…………どうかその儀についてはご容赦の程を…………」
「(…………遂に泣き落としに入ったアル)」
「(しかし刹那さんの性格的には「今まで通りに振る舞え」と言う方が酷だと思います。私もネギ先生を呼び捨てするようになんて言われたら困りますし)」
「(茶々丸…………お前は結構柔軟に対応出来そうな気がするぞ)」
「(というか私にも様付けするの止めてほしいんだけどなー)」
やれやれ。刹那の長所は真面目なところでござるが、短所も同じく真面目なところなのでござる。
この状況、引いても駄目で押しても駄目ならネギ坊主はいったいどのように収拾をつけるのでござろうか。
「引いても駄目で押しても駄目なら…………押し倒すしかないんじゃないですか。
コピーエヴァさん。ちょっと巻物の中を貸してください」
そう言ってネギ坊主はエヴァ殿の巻物に手を突っ込み、コピーエヴァ殿を引っ張り出したでござる。
…………って、押し倒す?
「おわっ!?!?
…………きゅ、急に引っ張り出すな! というか何で巻物の中の私に干渉出来るんだ!?」
「そんなもん“ネギだから”に決まってるだろう。相変わらず私の分身の癖に諦めるのが遅い奴だな」
「ネギ君どうするつもりやの?」
「いえ、刹那さんの説得にはちょっと時間がかかりそうなので、この巻物でOHANASHIをしようと思います。
最大で72倍の時間差ですから…………木乃香さん、5分経ったらこの中に入ってきてくれませんか」
6時間も2人っきりで何する気でござるか!?
「だから普通にOHANASHIするだけです。
というわけで、この巻物借りますね」
「お……お待ちください、ネギ殿下!!!」
「…………汚すなよ」
「汚すようなことはしませんし、そもそもまだ出来ません。決意的にも肉体的にも。
それじゃあ木乃香さん、5分後にお願いしますね」
「う…………うん」
そう言って刹那をお姫様抱っこして巻物の中に入っていくネギ坊主。
…………い、いったいあの中で何をする気でござろうか?
再会してからのネギ坊主はやけに落ち着いていて、アスナ殿達とも今までのようにスキンシップをとるようになった。
といってもベタベタするような関係じゃなくて、前よりはどこか落ち着いた雰囲気のある関係でござった。
しかし変わったこともある。ネギ坊主も素直に好意を示すようになったことでござる。
例えば、今までみたいに「好きです」と言われても顔を真っ赤にして返事していたのが、目を合わせて「僕も好きです」と返事するようになった。もちろん一番最初の何もわかっていなかったときとは違う感じで。
抱き締められたら普通に抱き締め返すし………………ほ、頬などにならキスをしてくるようにもなった。
もう完璧吹っ切れたみたいでござるな。
それでも唇にキスしたりしないのは、ケジメを大事にするネギ坊主らしいでござるが。
その………………まあ、正直言って悪くないでござるかな。
━━━━━ 後書き ━━━━━
ネギは前世の夏休み、ナギ達に魔法世界に連行されて古龍・龍樹とガチタイマンをやらされて死に掛けました。当時のネギでは“負けに近い引き分け”が精一杯。
そしてナギに勝てるようになった以降の冬休みには、帝都守護聖獣オールスターで再び死に掛けました。
もちろん立案者は筋肉ダルマです。いつか殺す。
その光景を見たヘラスの皇帝が優しくしてくれたのが唯一の救いです。
…………テオドラ? 楽しそうに観戦してましたよ。