━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━
「…………そうだよね。普通に勝てないよね」
「やめてよね。本気で戦ったら(以下略」
タカミチ以上、ラカンさん未満。
それが今のフェイトの強さでした。
未満ではなくてラカンさん以下だった前の身体のときより弱くなっていますけど、要するに悟空の身体のギニュー状態ですね。
この人形故に身体の成長具合と戦闘能力があっていないのは仕方がないのですが…………幼児の身体にこの戦闘能力では違和感が凄すぎる。
周りの人達が僕をどんな風に思っていたのがようやく実感出来ました。皆、ゴメン。
まあ、技のキレとかは技術のインストールで一流のものになってはいましたけど、そもそものリーチが短すぎるから対処は簡単です。
身体が僕のホムンクルスだからなのか『咸卦法』とか『闇の咸卦法』も出来るみたいですけど、そんなものは僕だって出来ますし今まで培ってきた錬度が違います。
色々チートをしてある僕ですが、真面目に修行してきた時間に関してだけは本物です。チート能力だけに頼ったりしていません。
技術や知識がいくらでもインストール可能だとはいえ、そんなインスタントな付け焼刃で僕に勝てるとは思わないことだね、フェイト。
「使っていてわかった。この身体は底無しだ。
僕では君の力を汲めて三割といったぐらいのようだよ」
「何年か身体を慣らせばまた違っただろうけどね。だけどそんな時間は与える必要を感じない。
君が動いたのには驚いたけど…………それにいくら自分のホムンクルスの身体とはいえ、3~4歳ぐらいの子供を甚振るのは気が咎めるけど、時間稼ぎにしかならなかったね」
「…………そんなことはわかっていたよ」
さて…………このフェイトどうしよう。『リライト』が効かないから“完全なる世界”には送れない。
かといって素直に魔法世界に引き渡すわけにはいかないな。
何しろ僕の血を利用して作られたホムンクルスの身体を持っている。
そのことから不完全とはいえ“黄昏の御子”であり、『完全魔法無効化能力』を備えているんだからなぁ。
それに数年もすれば、少なくともラカンさん以上の力をつけることになるだろう。
下手をすれば僕と同じぐらいにまで強くなるかもしれない。
そんなフェイトを放置したり引き渡すわけにはいかないけど…………殺すのもなぁ。
僕と同じ顔をしているし、何より3~4歳ぐらいの幼児姿。
いくら僕が敵に容赦しないとはいえ…………そしていくら中身がフェイトだとはいえ、さすがにコレを殺すのは気が引ける。
フェイトの従者の女の子達も僕の足元にいる倒れ伏しているフェイトを見て涙ぐんでいるし、僕を非難するような目つきで睨んでくる。
敵同士なんだからそんな目で睨まれても気にする必要はないんだけど、3~4歳ぐらいの幼児を踏み付けているという事実が僕に罪悪感を抱かせる。
さすがにこれでフェイト殺したら人でなしだよなぁ……。
それに何だかんだで僕だって人を殺したことないんだよね。さっきのデュナミス達は“完全なる世界”に送っただけだからノーカン。
人を殺すのは避けるべきだとは思っているけど、別に理由があるのなら容赦はしないんだけど…………さすがにこんな幼児を殺すのはちょっと。
本当にどうしよう、コレ。
とりあえず幻術かけて、元のフェイトの顔にしてみようか。
そうすれば罪悪感も少しは薄まるかも…………。
「(ちっちゃなフェイト様っ!?)」
「(か……可愛い……)」
「(ネギ・スプリングフィールドォ……)」
「(あんな小さなフェイト様を足蹴に……)」
「(……殺す。敵わなくても絶対に殺すっ!)」
殺気が増大しました。
すいません。僕が悪かったです。そんなに睨まないでください。
それに自分の顔した幼児虐めるより、フェイトとはいえ他人の顔した幼児虐める方がキツイです。
やっべぇ。この始末、本当にどうしよう……。
アーウェルンクスシリーズの身体を作り直して、それにフェイト入れてから『リライト』で消そうか?
面倒だけど、このままこのフェイトを殺したりするのは嫌だし。
「…………まあ、君の好きにすると良いよ。
僕の役目は終わったんだから…………」
「ん? やけにアッサリしているね?
それに君の役目が終わったって『ネギッ! テオドラじゃ、空を見てみろ!』…………うん?」
空? いったい何が………………って、ゲェッ!? あれは麻帆良!?
ちびネギを外に出して空を見てみたところ、空に地面が見える!
魔力が溜まり過ぎてゲートが現実世界と魔法世界を繋げちゃったのか!?
しまった! 気づくのが遅れた!
フェイト達逃走阻止のためにちびネギ達を全部この広場に集めたのが仇となった!
「テオドラ皇女! 麻帆良が見えるようになったのはい『式神より本体へ。魔力頂戴』つ…………よくやったちびネギ達!!!」
もしもの時を考えて麻帆良に置いていったちびネギ達か。
まさか本当に必要になるとは…………“備えあれば憂いなし”とはよく言ったものだな。
“僕-金星間魔法輸送扉”から供給された魔力をそのままちびネギ達へ転送。
幻術か何かでいいから、麻帆良の人達からコッチを見えないようにしろ!
それと今ここにいるちびネギ達の半分は直ちに麻帆良へ直行! 浮遊岩などが麻帆良への落下するのを阻止しろ!
…………しかし何でまたこんなに早く?
向こうとコチラが繋がるまでの魔力が溜まるには、戦いの前にした計算ではまだ時間的には余裕があったはずなのに…………。
計算より早すぎる。
「いや、それは君のせいだろ。
あの“僕-金星間魔法輸送扉”とやらから湧き出る魔力のせいで、この付近に集まる魔力の量が多くなったんだよ。
…………というか、あのゲートから本気で魔力が漏れ出てないかい?」
え、マジで? これって初めて使うから、どこかにバグでもあるんかな?
でも“僕-金星間魔法輸送扉”を構成している魔法式をリアルタイムで監視しているけど、今のところ特に問題は出ていない。
コッチで問題がないということは、ゲートの向こう側で何かあった………………アレ?
「ポヨッ!? …………何で私を見るポヨか?
私はちゃんと大人しくしているポヨよ!」
「いえ…………何でもないです」
…………そういえば金星には魔界があるんでしたね。
魔族の人がゲートに何らかの干渉をして、そのせいでゲートから魔力が漏れ出ているということか。
やっべ。一度閉じよう。
そんで“僕-水星間魔法輸送扉”を新規展開。
一応、前の二つの術式を造ったときに念のためと思ってこの術式も作っておいたけど、まさか本当に必要になるとは…………“備えあれば憂いなし”とはよく言ったものだね。ウン。
「そっか…………それなら確かに君の役目は終わってたね、フェイト。
あーあ、完璧にコレは僕のミスだわ。最後だからって調子に乗りすぎた」
「そうだよ。これで彼の復活はなされる。
ネギ君はさっき「時間稼ぎにしかならなかった」と言ったけど、元より僕達の目的はそれだったんだ。だからこんな風にお喋りにも付き合っていたんだよ。
………………あの“僕-金星間魔法輸送扉”には驚いたけどね」
【その通りだ】
…………その声を聴いた瞬間、ゾクリとした。
久しぶりに僕の敵となりうるかもしれない存在。久しぶりに僕を殺せるかもしれない存在と出会った気がする。
これが…………造物主。
前の世界では結局会わなかったけど、確かにラスボスの貫禄を感じる。
【見事な魔法陣だ。我が末え「『リライト』ッ!!!」いっ!?】
だから先手必勝ぉっ!!!
「…………君、ホントに空気読まないよね」
「うっさい。従者の人達と一緒に大人しくしてろ」
フェイト達を『戒めの風矢』でグルグル巻きにして、転移魔法で月詠さんと同じくエヴァさん達のところへ転送。
ついでに足手纏いになりかねないからラカンさん達も転送。一緒にフェイト達の監視お願いします。
さて、遂にラスボスである造物主との戦いか。
でも“造物主の掟・最後の鍵”は僕が持っているし、クウネルさんの考えを読んで、ラカンさんの映画を見てからこんなこともあろうかと対策方法は練っておいた!
「魔力糸展開! 『封鎖領域』構築!
『来れ』 “破魔の剣”!」
まずは魔力を欠片も通さない結界を構築。もちろん転移魔法なんかも無駄。
これでもう造物主は僕を倒さない限り、外に出ることは出来ない。
一応造物主もグランドマスターキーらしきものを持っているので『リライト』を使われたらこの結界も破られるかもしれないけど、そしたらコンマ秒で再構成してやる。
確かに今まで会った人の中で一番強いのかもしれない。確かに父さんの身体やゼクトって人の身体を乗っ取ったように不滅なのかもしれない。
だけど所詮今のアンタは『凍れる時の秘法』がかかっていないミストバーンに過ぎないんだよっ!
現にさっきの『リライト』は避けた。
いくら不滅と言われていたとしても、それは肉体を持たずに他人を依り代として魂だけで生き続けていただけのこと。
魔法を魔力に分解する『リライト』で魂ごと魔力に分解してやれば、さすがに復活することなんて二度と出来まい。
僕に勝ちたければ、せめてワラキアの夜ぐらいにまでレベルアップしてから来い!
ワラキアの夜になったとしても、集まった霊子全部喰って二度と発現しないようにするけどな!
「『リライト』ッ!!!」
【………………】
…………あ、父さんの中に入りやがった。これじゃあ『リライト』が効かん。
本気でミストバーンだな、この人。
しゃあない。父さんの身体ごとボコるか。
━━━━━ ナギ・スプリングフィールド ━━━━━
ネギが…………俺の息子が目の前にいる。
けど目の前にいるのに俺は何もしてやれない。
俺の身体を使って造物主が戦っているのを見ているだけだ。
「ハァッ!!!」ベキィッ!
…………容赦無くアバラ折られた………………ア、アレ? 折られていない?
感覚がおかしなってやがんのかな? 痛みは感じるんだけど……?
しっかしネギって本当に強いんだなぁ。
造物主が手も足も出せていないぞ。
最初のうちは造物主も魔法を使ったりしてネギに反撃していたが、その魔法の尽くをネギは打ち消した。
ネギが『完全魔法無効化能力』を持っていることを…………“黄昏の御子”であることを知ったときは驚いたけど、少なくともアスナのように大人に良いように利用されるようなタマじゃねーってのがこの短い時間でよくわかった。
そしてネギは最初『リライト』で攻撃していたけど、造物主が俺の中に入り込んでいる状態では効果が無く、その後は魔法らしき光を拳に纏わせての肉弾戦を挑んできている。
俺は10年前の決戦直前に生まれたばかりのネギしか見ていない。
6年前に元老院がネギの暗殺を企んでいるという情報を掴んだとき、造物主の支配を強引に打ち破って助けに行ったことがあった。
でもそのときは結局ネギが普通より早くメルディアナ魔法学校に入学していたらしく、村を訪れたはいいけどネギに会うことは出来なかった。
まあ、悪魔を召喚していた暗殺者みたいな奴はぶっ飛ばしたし、スタンの爺に俺の形見として杖をネギに渡すように頼んだから、骨折り損の草臥れ儲けにならなかったのは不幸中の幸いだったけどよ。
…………無理矢理に造物主の支配を打ち破ったのが悪かったのか、造物主の支配率が更に進んだのは不幸中の不幸だったけどな。
「フンッ!!!」メキョッ!
元気に育ってくれたみたいでよかった。
アルには遺言を託したりもしたけど、俺は結局何もネギにしてやれなかったからな。
さっきまでここにいたタカミチとかも、それとなくネギの面倒を見てくれたんだろう。悪ぃな、手間かけさせて。
でも今のままじゃ俺には…………造物主には勝てない。
互角以上に戦っているネギには本当に驚くけど、そういう次元の問題じゃないんだ。
「オラァッ!!!」グシャッ!
さっきまでのように、ローブみたいな形で俺の身体の外で物質化していたのなら、ネギの思惑通りに『リライト』で消すことも出来ただろう。
誰かの身体に取り憑き、その身体が造物主とする。
そしてその身体が滅びても、また新たな身体に取り憑いて造物主を続けていく。
しかしそうやって生き続けてきた造物主だが、不滅とはいえハッキリ言ってしまえばゴーストと本質的には同じだ。
物体を原子分解魔法で原子を分解するように、『リライト』で魔力まで分解してやればさすがの造物主も倒すことが出来るはずだ。
だが今の造物主は完璧に俺の中に入り込んでしまっている。
だからこれでは造物主に『リライト』が届かない…………んだけどよぉ……、
「WRYYYY!!!」ゴキゴキィッ!
「さっきからマジで痛ぇーんだよっ!!!」
「『星の白金の世界』!!!」
人が大人しくていればこのガキャァッ!
とーちゃんはお前をそんな子に育てた覚えねーぞゴラァッッッ!!!
…………って、あれ? ネギの容赦の無い攻撃に思わず反撃しちまったけど、造物主から支配取り戻せた?
つかネギが消えた!? 転移魔法とかの発動はしていなかったはず!?
いったい何処行きやがった!
「そして時は動き出す」
後ろっ!? と思った瞬間に、詠春が使っていた日本刀みたいな短刀が身体中にグサグサと突き刺さった!
いつの間に俺の後ろを取ったんだよ!? というかネギの奴マジで強すぎるんだけど!?
「やめて(以下略
『去れ』 “匕首・十六串呂”。
それにしてもしつこいな。やはりこのままじゃ駄目か。
(“僕-水星間魔法輸送扉”って本当に便利だなぁ。魔力使い放題だから『星の白金の世界』も簡単に使える)」
…………自分の親ぶん殴りまくってんのに顔色一つ変えていねぇ。
元気に育ち過ぎじゃねぇか?
「一応、『リライト』を纏わせた拳の攻撃によって、直接『リライト』を体内にぶち込むことで造物主自体を削ることは出来ている………………出来てはいるけど時間がかかりすぎるな」
あん? 造物主の支配力が弱まったのはそのせいか?
「…………手数が足りない。
『封鎖領域』の制御で容量をかなり使っているからなぁ。逃げられたら困るから弱めるわけにはいかないし。
でもこれ以上『固有時制御』の倍率を上げたら身体を動かせなくなる。そしたら直接攻撃が出来なくなるので、効果のある攻撃が出来ない。
このままだと何万発もぶん殴んないと駄目っぽいし、何より周囲の魔力を吸収して微妙に回復しているっぽい」
…………何万発もぶん殴られるのは勘弁して欲しいんだけどよ。
何だかんだで痛覚とは残っているんで、ぶん殴られ続けたせいで身体中が痛ぇんだけど。
「応援を呼ぼうにもこの状況ではラカンさん達じゃ役に立たないし、ちびネギの数で圧倒しようにもちびネギには『リライト』が効いちゃう。
せめて『封鎖領域』の制御を他人に任せることが出来たんならあっという間に片をつけられるのに………………父さんごともう一回封印しようかな? 麻帆良に運んでそれからゆっくりと……。
それかもういっそのこと綺麗サッパリと…………もしくは太陽に突っ込ませるか」
綺麗サッパリって何だよっ!?
ってか太陽に突っ込ませるって………………そこまでしたら、さすがの造物主もどうしようもないと思うけど、この父ちゃんだって死んじまうぞ!
…………そりゃあさ。造物主を自分の身体の中に封印することを決めたときから、いつかこういうことが起きるのは覚悟していたんだけどよ。
せめてもうちょっと悲壮な決意を固めたような顔をして言ってくんね?
「麻帆良に持っていくのは却下だな。一般人がたくさんいるところに持っていくのは、もしものときのことを考えたら危険過ぎる。
かといって時間をかけて攻略するのも駄目だ。何しろもうすぐ二学期が始まっちゃうから、早く麻帆良に戻って二学期の準備をしないといけないし………………となると別荘かなぁ。
でもメンドイなぁ。サクッとやっちゃいたいなぁ…………」
死んでも死に切れねぇ。
俺の中の造物主の囁きと、俺の意見が始めて一致した。
なーんでこんな子供に育っちまったのかなぁ?
【…………解せぬ。
何故そこまで利己的になれる? 何故その力で皆を救おうとしない?】
あ、また身体の支配奪われた。
「…………そもそもの考え方が違うんだよ。僕は永遠なんて信じていない。
魔法世界どころか地球も太陽も…………それこそ宇宙にだっていつか終わりは来る。
それなのに皆を“完全なる世界”に連れて行って永遠の安らぎを与える?
世界を一つ造った程度で神様にでもなったつもりか? 思い上がるなよ、人間。
それに“全てを満たす解は無い”…………貴方自身が言っていたことだ」
【だが私の語る”永遠”こそが“全ての魂”を救い得る唯一の次善解であることには間違いない。
例えいつかは滅び行くのだとしても、現在のように理不尽な目に遭う者達を救済し、平穏を与えることが出来る】
「利己的なのは貴方の方だ。幸せとか平穏というものは他人から恵んでもらうものじゃない。
それなのに“与えることが出来る”? さっきも言ったが付け上がるなよ、人間。
結局貴方はただのワガママなんだよ。自分の造った世界が自分の思う通りにいかなくて、もうどうにもならなくなったから無理矢理にでも自分の考えた幸せを押し付けようとする。
まるで自分の子供が不良になったって嘆いて、遅れて子供を自分の理想通りの性格に矯正させようとしているバカ親みたいだ。
そもそも放ったからしにしておきながら今頃そんなこと言い出すぐらいなら、最初っから面倒見てろよ。この育児放棄者が」
…………育児放棄者ってソレ、俺に言ってんじゃないよな?
「それに何より、本当は貴方自身が“完全なる世界”をそんなに良いものだと思っていないんだろう。
それなのに他人には強制しようとするのは駄目だと思う」
【そんなことはない】
「だったら何故、楽園だというのなら貴方自身がさっさと“完全なる世界”に行かないの?」
【…………やるべきことがあるからだ。
この世界に生きるもの全てに平穏を与えるという、この世界を造った者として果たすべき責任がな…………】
「はい、駄目。論理破綻。
“完全なる世界”に行けばそんなこと気にしなくて済むようになるはずでしょう?」
【だから私にはやるべきことが…………】
「つまり“完全なる世界”はこの現実以下ということですね。わかります。
だって何しろ“この現実には完全なる世界に行くより大切なことがある”ってことだからね」
【しかしそれでは皆が…………】
「ハッキリ言っていい? 僕にとって貴方達は“絶対にギャンブルで勝てる方法を特別に教えます”みたいなこと言ってくる詐欺師にしか見えないんだよ。
そして思うことは“何でその方法を自分で試さないんだ?”ってことだ。
そんなに素晴らしいものなら他人に構わずにさっさと自分で入るだろう。常識的に考えて」
えーと…………“全能のパラドックス”って感じか?
“神様は自分が持ち上げることの出来ないぐらいの重い石を作れるか?”って奴。
確かに“完全なる世界”が全てのものにとっての楽園になるはずなら、もちろん造物主にとっても楽園になるはず。
そして造物主はこの魔法世界に生きるものを救済するために“完全なる世界”へ入らない。
それって要するに楽園に入るよりも、この現実で生きる方が造物主にとっては重要ってことだもんな。
だけど“完全なる世界”が全てのものの魂を救済出来るなら、造物主は別に救済なんかしなくても良くなるはず。
しかし造物主はこの現実でやることがあるので“完全なる世界”には行かない。
それっておかしくね?
だってそもそも“完全なる世界”に行けばそんなこと気にしなくて済むようになるはずじゃん。
ってことをネギは言いたいんだろう。
…………随分と変わった考え方すんなぁ。
いや、考え方は変わっていないのかもしれないけど、明らかにそれを考える状況が間違っていると思うぞ。
「要するに“完全なる世界”は貴方が何を置いてでも入りたいと思わない程度の楽園でしかないんだ。
そんな欠陥品に突き落とされるなんて、僕だったらゴメンだね。だったら魔法世界が崩壊しない以上、今まで通りの現実を過ごせばいい。
他にも理不尽とか何とか甘っちょろいことを言ってもいるけどさ、人間だって所詮は動物。そういう日常が当たり前なんだよ。
それなのに人間は完璧だと思い込んで“完全平和”なんかを模索するバカがたまにいる。
でも人間が他の生き物より優れていた所で、別に人間が完璧な訳じゃねぇだろォがよ。あァ!?」
息子が現実的な思考し過ぎていて、とーちゃん困っちゃうなー。
その脇道なんか存在しないような一方通行な考え方されたら、とーちゃん困っちゃうなー
「貴方は“井の中の蛙”じゃなくて“大海の白長須鯨”かもしれないけど、それでも所詮は地球レベルでの話だ。
驕れるなよ、人間。
貴方は力を持っていても結局は人間しか過ぎないんだよ。僕と同じようにね」
【………………お前が人間?】
気持ちはわかるけど疑問系にすんな。
「当然だろう。僕は人間だ。
どこかの少佐のように“化け物みたいな人間”なのかもしれないけど、それでも僕は僕である限りは人間だ。
貴方のように夢を見過ぎることがないぐらいには身の程を弁えているさ」
…………もうちょっと夢を見てくれ、と思うのは親のワガママなんだろうか?
でもきっと俺の息子ってことで苦労したこともあっただろうから、今まで放っておいた俺が言えることじゃねーし……。
「それにコソコソとネズミの様に陰で企むのがおかしい。
皆のためになるという自信があるのなら、全ての事情を皆に明かして計画を進めなよ。賛同してくれる人は半分もいないだろうけどさ。
貴方も賛同されないということはわかっていたから、コソコソと陰で動いていたんだろう。根性無しの誤用じゃない方の確信犯め。
お前それ皆の前でも同じ事言えんの?」
【……………………】
「そんな訳で、貴方の独り善がりな妄想には付き合っていられません。
………………よし、じゃあお終いにしましょうか。今のお喋りで時間稼ぎは充分。
これで条件は全てクリアされた!」
何かコイツ随分とはっちゃけてね?
やけに自信満々なネギがそう言うと、急に煙幕を出し始めた。
あっという間に煙は結界内に充満し視界がゼロになる。
煙に紛れて不意打ちするつもりか?
この煙は魔力探知妨害の役目もするらしく周りの状況が全くつかめないが、不意打ちしたってどうにかなるわけじゃないだろう。
………………少し待つが特に変化は見られない。
このまま煙を充満させていてもどうにもならないとでも思ったのか、造物主は突風で煙を散らした。
煙は問題なく吹き飛び、ネギが姿を見せる。
…………やっぱり特にネギに変化は見られない。
いったい何をしたいんだ、ネギは……って!? これは重力魔法!?
地面に重力で押し付けられる。しかし、造物主はすぐさま『リライト』を上空に放って重力魔法をかき消した。
これはアルが使っていたのと同じ奴だな。
ネギは詠春の神鳴流を使っていたが、アルの重力魔法も使えるのか。
しかし重力魔法を使えたとしても、この戦いでは根本的な解決にはならない。
ネギは手の平を握ったり開いたりしているみたいだけど、いったいどうするつもりなんだ?
「…………やれやれ。まさかここまで威力があるとは思いませんでしたよ」
は? 今の重力魔法のことか?
確かにアルの重力魔法より威力が数段上だったけど、そもそも重力魔法じゃ何の役にも………………ってオイ、ちょっと待て。
ネギが指と指の間に挟んでいる栞はいったい何だ?
「一応、私もそれなりの使い手のつもりですが、まさか10歳の少年がそれ以上の使い手になるとは……。
やはり貴方の息子である…………ということですかね、ナギ?」
…………うん、明らかに今目の前にいるネギはネギじゃねーな。
「いきなり転移魔法で引っ張り出されたときは焦りましたが、みっともないところを晒した学園祭などとは違ってネギ君の役に立てるようで何よりです。
それではナギは知っているでしょうが造物主は知らないかもしれませんので、改めて紹介しておきましょうか。
私のアーティファクト“イノチノシヘン”の能力は、まず一つは特定人物の身体能力と外見的特徴の再生です。
しかし、自分より優れた人物の再生は数分しか出来ず、あまり使える能力ではありません………………と今まで思っていたのですがね。
自分よりも圧倒的に強い人間がいるとなると、話は変わるということに今更ながらも気づいてしまいました」
指に挟んでいる栞が燃えると同時に、ネギが姿を詠春に。詠春からジャックに。
そしてまたジャックからネギへと姿を変える。
なーんだ。ネギじゃなくてアルだったのかー。懐かしいなー。
「そしてもう一つはこの“半生の書”を作成した時点での、特定人物の性格、記憶、感情、全てを含めての“全人格の完全再生”。
………………もちろん“強さ”においても完全再生出来ますよ。
今回は出し惜しみしないのでコチラを使用させていただきます」
うわーい。
ネギ一人でもボコボコにされていたのに、ネギが二人になっちまうぞー。
「それにしても…………ネギ君は恥かしがり屋さんですねぇ。
せっかくネギ君の半生が記されている魔法書が手に入ったのに、半分以上が黒く塗り潰されています。どうやら魔法で自らの記憶を封印したみたいですね。
一時間後に封印が自動的に解かれるようになっていますが、あくまでこの書に記されたことしか知ることが出来ない私にはわかりません」
あー、そっか。
さっきまでのお喋りは何の目的かと思えば、記憶を封印するための時間稼ぎだったんだなー。
「興味は尽きないですが自重すべきでしょうね。ネギ君に不機嫌になられても困りますし、何より無理矢理見ようとしたら本気で殺されそうです。
おそらくはお嬢さん達との蜜月や、お嬢さん達の可愛らしい姿を私には見せたくないのでしょうからね。
それと小さいときのことも塗り潰されていますが………………ああ、ネカネさんやアーニャさんと一緒にお風呂に入ろうとした直前からなどが特に重点的に塗り潰されていますね。………………本当にキティは私のことを何てネギ君に説明したんでしょうか?
ま、時間を掛けすぎてもアレですし、さっさと終わらせましょうか………………心の準備はよろしいですか?」
…………よくねーよっ!!!
「僕になった後のクウネルさんは『封鎖領域』の維持をお願いします。
僕は父さんの中から造物主を引きずり出しますので」
っ!? 後ろっ!? 後ろにネギがいやがった!!!
両腕の袖を捲り上げ、肘から先が外に出ているが………………何だか腕が半透明だ。
何だかまるで腕が魔力で出来ているような……?
「僕は最近、霊媒治療なんかも勉強していまして。
見ての通り、腕をこのように霊体化することによって、肉体をすり抜けて取り憑いている幽霊を引き剥がす除霊なんかも出来るんですよ。
東洋呪術も勉強してて良かったなぁ。それにヴィルさんでイロイロ実験しておいて良かったなぁ。
さすがに造物主相手には難しそうですけど、クウネルさんが『封鎖領域』の制御をしてくれるなら、容量に余裕が出来るから大丈夫です。
…………あ、父さんの身体から逃げ出そうとしたら『リライト』で消すから」
俺の身体の中に篭城しても無理矢理に引っ張り出され、身体の外に出た瞬間に『リライト』で消滅させられる。
もう詰んだ。造物主終了のお知らせ。
「………………ところで突然に話は変わりますが。
その人の脳み○を食べるという方法でその人の知識を手に入れることが出来るとか、天使の○みそはだだ甘で不味いとかって話は本当なんですかねぇ?」
━━━━━ 後書き ━━━━━
脳○そおいしいねん。
やべぇ、本気でラスボスになっちゃった。
………………いや、本当に脳み○食べたりしないですよ。造物主に脳み○はないでしょうから。
とりあえず最終決戦…………造物主戦はこれにて終了!
次が最終話となります。やっぱり全100話を越えましたねw
ネギを助けに来たナギは造物主ではありませんでしたが、造物主に取り憑かれていたことは間違いないと思います。
もしかしたら封印の場所を一時的に変えたなんてこともありそうですが、そんなことは簡単に出来ないでしょうので気合で造物主の支配に抗ったんじゃないでしょうか。