━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━
時は流れてあれから一ヶ月。
僕達はあの後直ぐに無事に麻帆良に帰還することが出来ました。
「あ、墓守り人の宮殿は『リライトフィールド』と通常の魔法障壁を何層にも重ねて包んでおきましたから。一番外側は『リライトフィールド』。
もちろん転移魔法も無理です」
「調査団スタァァァァァップッッッ!!!」
「無断で入り込もうとするなら、対価はその身体で支払ってもらいましょう!
…………それじゃ僕は麻帆良に帰りますね。あとはクルトさんの良い様に計らってください」
帰る前にはクルトさんとこんな会話しましたけどね。
“造物主の掟”は簡易版も含めて全て回収しましたし、墓守り人の宮殿さえ抑えておけば僕的には大丈夫です。
片付けのためと、もしものときの防衛のためにちびネギを墓守り人の宮殿内部に数千体放っておきましたので、トレジャーハンターにとっては以前の魔物の巣窟よりも危険になってしまいましたけどね。
まあ、そもそも入り込めないでしょうから大丈夫でしょう。
墓所の主さんも宮殿に相変わらず住んでいますが、あの人は“完全なる世界”に拘ってはいないようなので、放っておいてもただ墓守りとしての責務を果たすだけでしょうから安全みたいです。
そして政治的なことはクルトさんにお任せです。
でもあの決戦の前後に何故かまほネットで“紅き翼戦記”が丸ごとうpされて魔法世界中が大騒ぎになったりしているようですけど、クルトさんならうまくやってくれるでしょう。
それにしてもなんで“紅き翼戦記”がうpされたりしたんだろーなー? ふしぎだなー?
誰かが大勢集めて上映会でもしたせいで流出しちゃったのかなー? ネットってこわいなー?
…………ちなみに父さんはやはり10年も封印されていたせいか、まだ本調子ではないみたいですね。
僕がボコったせいじゃないですよ。無理矢理造物主引き剥がしたせいじゃないですよ。
今はアルビレオ・イマさんと一緒に魔力の満ちている図書館島最奥部で療養中です。
別荘で休むことも考えましたが、今更急ぐ必要なんかありませんのでゆっくりと休むそうです。母さんも一緒に。
「ネ……ネギよ。ケーキの味はどうじゃ? コノカと一緒に作ったのじゃが……」
「ええ、美味しいですよ。甘さ控えめで僕の好みです。
母さんも一緒に食べましょうよ。木乃香さんもありがとうございます」
「う、うむ!」
「ええよ~。ウチもお義母さまと一緒に料理出来て嬉しかったわぁ」
僕の「美味しい」という言葉と「一緒に食べよう」という言葉にパァァァッ! と花開くように笑みを浮かべる××歳。
何だかアスナさんや木乃香さん達より大人びているとはいえ、どう見ても親子とかよりは姉妹みたいな感じなんですよね。
それにしても…………ネカネ姉さんが母さんだったとは、アルさんから隠し事を暴いて知ったときは本当に驚きました。
幻術で見た目だけを変えたとかそんなチャチなものじゃなくて、魔法で身体自体を根本的に作り変えていたそうです。
しかも暗示で自分をネカネ・スプリングフィールドと思い込んでいたせいで、母さん自体も今までは眠っていたみたいな感じらしいんですけどね。
見た映画を思い出す感じで今までのことを思い出せるそうですが、実感はないそうです。
前世のことや原作知識もあって、そんなこと考えもしませんでしたよ。
身体を作り変えたことでまさか処○にまでなっているとは……。
道理でネカネ姉さんとアスナさんが似ているわけだ。
道理で父さんと伯父さんが似ていないわけだ。
道理で父さんがネカネ姉さんのことをハッキリと知っていたわけだ。
道理で一個大隊にも勝てるような村人があんな辺鄙な村に集まっていたわけだ。
道理で原作の村襲撃時において、見習い白魔導士であるはずのネカネ姉さんが最後まで石化されずに生き残れたわけだ。
あの村は僕を守るための村ではなく、母さんを守るための村だったということですね。
僕という目立つ標的がいれば、カラクリがバレなければ母さんは安心だ。どうせ僕は隠せるわけもないし、それなら母さんから目を逸らすことに使っても特に問題は増えない。
というか元から問題だらけだけだし。
そしてその母さんが…………ネカネ姉さんが僕を守れば、結局僕も守れる。一石二鳥というワケか。
ネカネ姉さんとアスナさんが似ているわけは、二人に血の繋がりがあったから。
いくら身体自体を作り変えていたとはいえ、元の身体の影響を完璧に無くすことは出来ないからですね。
父さんと伯父さんが似ていないわけは、そもそも二人に血の繋がりがなかったから。
あくまであの伯父さんはネカネ姉さんの父親役ですからね。
父さんの実家は数代遡ってもあくまで特筆すべきこともない一般人の家庭なので、注目されていない分だけ細工は簡単です。
父さんがネカネ姉さんのことをハッキリと知っていたわけは、そもそもこれは僕を産んだ母さんが身を隠すための計画だったから。
世界中を飛び回っていてろくすっぽ里帰りもしない父さん。しかも10年前からは麻帆良の地下でずっと封印されていた。
普通だったらネカネ姉さんのコトなんか覚えていないですよね。というか下手したら会ったことすらないのが普通ですよね。
一個大隊にも勝てるような村人があんな辺鄙な村に集まっていたわけは、母さんを守るために事情を知っている旧オスティアの現実世界にこれる現実の人間が集まったから。
トサカさんも言っていたように、オスティアの人間で元老院の話を信じていた人は少なかった。裏の事情を察していた人はたくさんいたはずです。
ましてや母さんは元女王。忠誠心溢れる騎士なんかの当てはいくらでもあります。まあ、現実世界人は少なかったでしょうけど。
父さんを慕って集まったという理由にしたのは、本当のことを言えるわけないからなんでしょう。
原作の村襲撃時において白魔導士であるはずのネカネ姉さんが最後まで石化されずに生き残れたわけは、村の皆が母さんを最後まで守ったから。
結局父さんが来るまでの時間稼ぎは出来たんだから、護衛としての面目躍如というところですね。
おかげで母さんは助かりました。村の皆、ありがとう。
まあ、僕が村の皆から放って置かれていた感がありますが、それは如何に主君の息子とはいえ、僕にどう接して良いかが村の皆はわからなかったんでしょう。
本来ならウェスペルタティアの正当な王位継承者な僕ですけど、その王という位のせいで母さんは濡れ衣を着せられて殺されかけた。
だから母さんの話はしづらいし、亡国の王子として育て上げるのは気が引ける。何より王子として育てるのには母さんが難色を示したんでしょうね。
危ないことをして不安だけど、なるべくネギの好きなようにさせるように言われたので、どこまで過保護にしいいかわからない。
何より母さんが身を隠すために僕と一緒にいるのを我慢しているのに、そんな母さんを差し置いて僕と仲良くすることなんて出来ない。
そうして迷っているうちに村の襲撃で全てがご破算。
見事に原作のネギは捻くれて成長してしまいましたとさ。
………………考えてみれば原作で村の襲撃がなかったら、ネギはただのワガママぼーやに育っていたんじゃないですかね?
何しても注意されないんですから。いや、原作でも普通にワガママっぽいですけど、更に。
ま、全てが終わった今ではもう隠す必要はないですので、こうやって親子三人+お嫁さん候補十二人で堂々とお茶なんかしているわけです。
…………結局お嫁さん候補増えました。エヴァさんと茶々丸さんとアーニャ。
これでアスナさん、木乃香さん、刹那さん、のどかさん、夕映さん、エヴァさん、茶々丸さん、楓さん、菲さん、千雨さん、マナさん、アーニャという大所帯になりました。
ここまで来たら、もうどうとでもなれですね。
でも十二人か………………大丈夫なんだろうか、僕?
アーニャも魔法使いの修行辞めて麻帆良に来ましたけど、ネカネ姉さんのことには本気で驚いていました。
あ、アーニャの両親は普通に昔から村に住んでいた父さんの友人だそうです。
それとフェイト達ですが…………とりあえず身体は元のアーウェルンクスシリーズに戻しました。
その際にパラメータを一般人程度まで下げておいたので、もう何か出来るような力は残っていません。従者の人達の方が強いぐらいです。
戦闘が終了してテンション下がっちゃったので、殺したり“完全なる世界”のも何だと思い、六人を人里離れた自然溢れる山中に放置しました。
結界も張って閉じ込めたんでもうそこから離れることは出来ませんが、家も畑も造ってあげたので家族六人自給自足の生活をしながら幸せに暮らしているでしょう。“造物主の掟”マジ便利。
まあ、別にフェイト達のために頭をこれ以上使うのもアレですし、考えてみればこれ以上無いってぐらいな温情な措置なのでもう放っておけばいいや。
逃げ出そうとしたら始末すればいいだけですからね。
ついでに従者の人達にフェイトをいつでも幼児化と女体化出来るような魔法具あげましたけどね。
“造物主の掟”マジ便利。
…………え、デュナミス? クゥァルトゥム? クゥィントゥム?
誰でしたっけ、それ?
ザジさん(姉)は魔界に帰りました。
とりあえずお互いに未来志向でOHANASHIする予定なので、悪いようにはならないでしょう。
ザジさん(妹)は変わらず麻帆良で生徒やってます。
ま、そんなわけで魔法世界から戻った後は普通に過ごしています。
平日は学校で授業をして、休日はこうやって皆でお茶会したりなどの平穏な生活です。
………………タカミチがあれから出張行きっぱなしで、顔を全然見ていないのが気になりますがね。
今日は久しぶりに麻帆良に帰ってくるのですが、何故かクルトさんやテオドラ皇女達も一緒に来るそうです。
いったい何の用なんでしょうかね?
━━━━━ アリカ・スプリングフィールド ━━━━━
「い、今…………何と言ったのだ、クルト?」
「申しわけありません、アリカ様。
…………魔法世界が成立してから2600年。如何に造物主が造り上げた異界とはいえ、それだけの年数が経てば綻びが出ていたことがわかりました。
何十億年分の魔力が堆積していた火星の魔力が、たった2600年で底を尽きそうになったのはそのためです。おそらく造物主が“完全なる世界”に全ての者を誘おうとしたのは、それも理由だったのでしょう。
ですので、ただ単純に“火星-水星間魔法輸送扉プロジェクト”を進めるだけでは、魔法世界の崩壊が避けられないことがわかったのです。
造物主に代わる存在、“黄昏の御子”の力で持って魔法世界の安定をさせないと、如何に水星の魔力を火星に供給しようと再び魔法世界が再び崩壊の危機に…………魔界がある金星が無事なのは、おそらく綻びが生じていないからでしょうね。
それを防ぐためにネギ君には…………魔法世界救済計画の礎である“黄昏の御子”のネギ君には、言葉通りの“礎”として墓守り人の宮殿にて百年の眠りについていただきます。
残念ですが…………これは手伝っていただいた超さんと聡美さんも同じ結論を出しています」
「…………それ以前に、何で葉加瀬さんのことを名前で呼んでるんですか?」
「え!? …………べ、別に私とクルトさんは変な関係じゃないですよ、ネギ先生!」
「(…………調査のための出張に葉加瀬君達にも一緒に来てもらったけど、本気で何があったんだ?)」
目の前が真っ暗になる。
椅子に座っていなかったら膝から崩れ落ちていたじゃろう。
どうして…………どうしてネギだけがそんな目に?
ようやく会えたのに。ようやく親子三人+義娘十二人と平穏に暮らせると思っていたのに………………義娘が十二人もいるということだけで平穏というのはおかしいかもしれんが。
ネギは私とナギが側にいなくても立派に育ってくれた。
ましてや“完全なる世界”との長きに渡る因縁に終止符を打ち、魔法世界の崩壊の危機を救うという私達以上の偉業を達成してくれた。
先日、テオドラと電話で話したときにそれに付随する後始末の大変さを愚痴られたが、ネギがいなければ愚痴すら言えないような状況になっていたからネギが責められるわけではない。
むろんテオドラもそれがわかっているので、愚痴という形で発散しておるのじゃろうがな。
…………まあ、以前の大戦の真実が衆目に晒されたせいで、魔法世界が大混乱に陥って大変なのは同情するがの。
でもそのキッカケとなったのが“紅き翼戦記”ということが恥ずかしい。
ナギと一緒になれたことが嬉しくて、エピソード2製作のときはクルトの取材にノリノリでナギと一緒に応じてしまったから、今から見るとかなり恥ずかしい作品になってしまっているのじゃ。
おかげで魔法世界にはナギやネギのファンクラブだけでなく、私のファンクラブまで出来てしまったというのがまた………………ナギとのことを祝福してくれるのは嬉しいのじゃがな。
しかし、うってかわって大変なのがメガロメセンブリアの元老院。自らの悪事がバレたので当然じゃな。
このときのためにクルトが用意しておいた数々の証拠もついでにと言わんばかりにブチ撒けられたし、何よりネギやナギ、“紅き翼”が揃って真実を証言したことで彼らの命運は尽きた。
極めつけなのは、やはりネギじゃな。
クルトに貸したネギのアーティファクト“千の絆”でノドカの“いどの絵日記”がその猛威を振るい、元老院議員は嘘をつくことも出来なかった。
それでも往生際の悪い議員も多かった。
ネギの力なども全て公表したのじゃが、そのネギの魔法世界の運命を握れる力を危険視するなどの抵抗を示したが、
「ふーん。母さんを陥れた元老院議員がですか? …………ま、そちらのことはそちらでやってください。僕はそちらにこれ以上関わろうとは思っていませんので。
え? オスティア再興? …………うーん。親子三人でこれから幸せに暮らしていくつもりだったんですが。
というか、何で僕がこれ以上あんたらの関わらなきゃいけないんですか? 魔法世界の崩壊を阻止しただけで充分でしょう。これ以上何でもかんでも僕に頼らないでくださいよ。
…………は? MMを滅ぼして魔法世界の王様になるんじゃないか?
あの…………オスティアの人達ならともかく、あんたらみたいな恥知らずの人達の王様になって何か僕にメリットがあるとでも?」
というネギのインタビューを聞いたMM市民から総スカンを食らって終わった。
まあ、ネギのそんな言葉を聞いたら、恥を知っているような人間は耐えられないじゃろう。特にまほネットの“魔女板”が大騒ぎになっておったそうじゃしな。
何しろ自分達の代表が私に濡れ衣を着せ、全ての原因の黒幕として処刑しようとしたんじゃ。そんな人間と一緒にされたくはなかった市民が蜂起した。
毎日のようにデモを行なうなどの抗議行動をし、終いにはクルトの手によって終焉。全員が裁判を待つ身になったそうじゃ。
ましてやネギは幼くして英雄となった身。
そのネギから「お前達には支配する価値すらねぇ!」と言われてしまったら、メガロ市民が世界中から軽蔑される。
あのときのネギの目付きは、まるで虫ケラを見るような目付きじゃったからな。
ネギに“濡れ衣を着せてまで他人を生贄にして、幸せを謳歌している恥知らず達”などと認識されたくなかったのじゃろう。
というか、インタビューに同席していたナギを始めとした“紅き翼”がネギの言葉に何も言わなかったからの。
過去の英雄にも未来の英雄にも見捨てられるとなると……。
「それと言い難いことですが、ネギ君がやり過ぎたということもあります。
先日の事件の詳細を魔法世界に公表したのですが、それを知った潔白だった元老院議員を始め、ヘラス帝国などの他国までネギ君を危険視しております。
といっても真っ正面から争ってもネギ君に勝てるわけがないので、この件を利用してネギ君の排除を企んでいるということですね。
…………まあ、無理ありませんがね」
「でもよー、クルト。
そいつらはネギがブチ切れて魔法世界を滅ぼす…………なんてことは考えつかなかったのか?
我が息子ながら実際にやりそーだぞ、こいつなら」
「ええ。皆、それを心配しておりました。
しかしどちらにしろネギ君に頼る以外に手はありませんので、大義名分としては充分だと思ったのでしょう。
おかげで私とテオドラ皇女がこうやってお願いに参上したわけでして……」
「そうじゃな。妾も一応反対をしたのじゃが、放っておけば魔法世界が滅びてしまうのじゃ。
じゃから妾の立場としてはネギにお願いするしか道はない。
まさか今のように人形の中に入って、民を見捨てて現実世界に逃げるというワケにはいかんからの」
…………ム、そういうことを言われたら、テオドラ達の立場もわかってやらねばならんの。
私としてもオスティアの民がいる魔法世界が滅びるのは避けたい。
せっかく再びオスティアが浮き上がり、難民として苦労していた者達がオスティアに帰ってきておるのじゃ。
しかもその者達はMMから独立して、ネギを王として招こうとしているようじゃしな。
だけど、そのためにネギを犠牲にするなんてことは…………ようやく会えたのに。
かといってネギの性格なら、アスナを代わりに行かせるなんてことはするまい。
…………そういえばアスナに“お義母さま”と呼ばれたときは心底驚いてしまったのぉ。
アスナの性格が変わったのもあるが、見た目はともかく実年齢はアスナの方が私の数倍は上なのじゃが“お義母さま”。
というか600歳の“闇の福音”も義娘になるなんて思いもせんかった。
しかし…………どちらにしろネギが百年も礎となるか、それとも魔法世界の崩壊を黙って見ているかの二択。
こんなものいったいどうすればいいのじゃ?
「ま、いいですけど。
せっかく救った魔法世界が崩壊するのは避けたいですし」
え?
「あ、いいんですか。
いやぁ、これで肩の荷が下りましたよ」
「うむ、よろしく頼むぞ、ネギ」
…………え、何それ? …………アスナ! アスナ達はこれで良いのか!?
「ネギも大変ねぇ。休む暇もないじゃない」
軽っ!? そんな軽く決めてしまって良いのか、アスナ!?
百年もネギは眠りにつくのじゃぞ! もう二度とネギと会えなくなってしまうではないか!!!
「じゃあ、ちょっと行ってきます」
「「「「「いってらっしゃい」」」」」
だからちょっと待てというに!!!
しかし止める間もなく転移魔法で行ってしまうネギ。
何故じゃ!? 何故ネギがそこまで自らを犠牲にしなければならないのじゃ!?
というかクルト達もアスナ達も何故そんな平然としておるのじゃ!?
「ただいま」
「「「「「おかえりなさい」」」」」
え? 戻ってきた?
………………忘れ物…………かの?
「いや、ちゃんと魔法世界崩壊の危機を防いできましたけど」
「だからさっきからどういうことなんじゃあっ!?」
「落ち着いてください、アリカ様。
ネギ君の場合に限って常に最良のケースを想定してください。ネギ君は必ずそのかなり斜め上を行きますので」
「はい、お義母さま。お水」
ハァ……ハァ…………すまないの、チサメ。
そうじゃの。まずは落ち着くべきじゃろうな。
考えてみればアスナ達は私よりもネギとの付き合いが深い。
そのアスナ達が落ち着いていたということは、クルトの言っていたようにネギが最良の結果を出すことを信じていたのじゃろう。
アスナ達が信じておったのじゃから、ネギの母である私がネギを信じなくてどうするというのじゃ!
最良の結果。
それは考えてみるまでもなく“ネギが魔法世界救済の礎にならずに済み、なおかつ魔法世界が崩壊しない”、ということじゃろう。
…………しかし、それはいったいどうやって?
「時間移動魔法で百年後から戻ってきました。時間は…………行ったときとそんなにズレていないみたいですね。
ちなみに時間移動魔法は寝てる間に“幻想空間”の中で作りました。
(術式は“航時機”を参考に)」
斜め上過ぎた。
“かなり”どころじゃなくて、とてつもなく斜め上過ぎる。
「ああ、そういう直接的な方法だったんですか。
私はてっきりアーウェルンクスを再びネギ君のホムンクルスの身体に入れて、そいつを礎にすると思っていましたよ」
「僕は式神かなー。
礎になれるぐらいの高性能の式神を造れば万事解決だったからね」
「妾は魔法世界崩壊の綻びを一晩で何とかすると思っていたぞ」
クルトもタカミチもテオドラも、お主達は何を言っておるんじゃ?
いくらネギでもそんな非常識なこと…………非常識なこと………………時間移動魔法を使う方が非常識じゃな、ウン。
「私は綻びを直すどころか、一度皆さんを“完全なる世界”に誘ってから、魔法世界を最初から造り直すのかと思いました」
「何にせよこれで問題が解決して何よりだねー」
ユエもノドカまでもっ!?
お主達はこれでいいのか!?
「諦めるでござるよ、義母上殿」
「そうよ。お……お義母さん」
「ネギ坊主のすることに対してイチイチ驚いていたら身が持たないアル」
「何だかんだでネギ先生のやり方でうまくいくからな。
…………学園長達の胃を除いて」
「最近の学園長も大分慣れてきたんじゃないか?
何だか髪の毛の量が夏休み前より増えてきた感じが…………」
カエデ、アーニャ、フェイ、マナ、セツナ…………お主達まで。
お主達はこうなることを予想していたというのか!?
「いや、方法までは見当つかなかったが、とりあえずネギの余裕さから見て問題ないと思っただけだ。
問題があったらネギもまた違った反応を示しただろうし………………まあ、素直にあきらめろ、お義母さま」
私か!? 納得出来ていない私が変なのかっ!?
というか“闇の福音”にお義母さまって呼ばれるのは違和感しか感じないのじゃがっ!!!
「…………ム、さすがに百年も経つと少し臭うか。お腹も空いたし。
ちょっとお風呂入ってきます。茶々丸さん、その間に何か軽く食べれるものをお願いします」
「了解しました、ネギ先生」
「でも、アレだな。これで魔法世界の連中もぼーずにチョッカイ掛けたらどうなるかわかっただろうから、今後は楽になるだろうぜ。
何しろ無理難題を押し付けても斜め上の方法で解決される上、更にはぼーずがドンドン手に負えなくなっていくんだからよ」
「そうじゃな。これで妾も父上の説得が楽に出来そうじゃ」
「またネギ君の魔法世界に対する貸しが増えましたね。
この件はまだ関係者以外には秘密だったのですが、解決したからにはマスコミに発表しましょうか。もちろんネギ君を礎にしようとした連中の実名もですけど。
…………でも、これマスコミに言っても信じてくれますかねぇ?」
そりゃ「魔法世界崩壊の危機を救うための礎になりましたけど時間移動魔法で帰ってきました」なんて言われたら、どうしていいかわからなくなるじゃろうよ!
これを知ったら二度とネギに手出ししないじゃろうよ!
クルトやテオドラが平然としていたのはこのためじゃったのか……。
どうやって解決するかまではわからなかったが、どうせネギのことだから何らかの方法で解決はすると信じておったのじゃな。
…………信じていなかった私がおかしいのか?
何故皆は…………ナギまでもがそんな平然としておるのじゃ。
こんな小さな頃からこのような感じでは、いったいネギはどんな大人になってしまうのか…………。
「大丈夫ですよ、お母さま」
おお、アルちゃん!
ネギが3歳の頃からの使い魔として仕えてきたアルちゃんならば、きっとネギをまともな大人に育て上げる腹案があるのじゃろう!
「しばらくしたら慣れますから」
絶望した! 息子の更正が使い魔にも見放されたことに絶望した!!!
「…………まあ、どちらにしろ心配だったら直接言えばいいのですよ。
お兄さまは鈍感というか変わったところがありますので直接言わないと察してくれないことがありますが、逆に直接言えばそのことについてはキッチリと気にかけてくださいます」
…………ム、そう言われれば確かにネギはそういう性格じゃな。
まだネギに逢えてから半月も経っておらんが、この短い間でネギが素直な子だというのはよくわかっておる。
だから逆に素直過ぎてああいう感じなのかもしれんの。
そうじゃな。突然のことに驚いてしまったが、私達にはこれから時間がたくさんある。
ネギは平日は女子寮で今まで通りの生活をしているが、休日になったら私達の元に来て一緒に過ごしている。義娘と一緒に。
そうして親子としてゆっくりとわかりあえていけばいいのじゃ。焦ることはない。
アスナ達と結婚して家を出て行くかもしれんが、それにはまだ時間がある。
というかオスティア王家を再興させるようなことも言っておったしの。
じゃから………………ム?
「のう、アルちゃん。アスナ達は何処に行ったのじゃ?」
はて? つい今まで同じテーブルで茶を楽しんでいたはずなのじゃが……?
「先ほど風呂場に突撃されていきましたが?」
…………なぬっ!?
ム……ムゥ。年齢的にあのぐらいの男女が一緒に風呂に入るのは正しいのじゃろうか?
ネギ達は結婚を前提に付き合っているので、そう不適切なことは………………むしろその方が不適切なことになる?
…………。
……………………。
………………………………よし、なら私も入りにいこう!
二次性徴も始まっていない10歳のネギなら、母子で一緒に風呂に入るのは問題あるまい。
何よりネカネであったときも最近まで別に問題なく入っておったが、再会してからネギと一緒に風呂に入ったことはないしの。
どうせならナギも一緒に入っ…………たら死ぬな、ナギが。
アスナ達が一緒に入るんじゃし。
まあ、今回は母子と義娘達のコミュニケーションの場とするかの。
待っておれ、ネギ! せっかくだから背中の流し合いでもしようではないか!!!
━━━━━ 後書き ━━━━━
アスナ達はもうイロイロと悟ってます。
それとこの後、水着着用で風呂に入っていたネギ達の中に、独り全裸で突撃してパニクるアリカでした。
まあ、今後も皆で仲良くやっていくんじゃないでしょうか。
これで敵を除いてハッピーエンドということで…………。
それとアリカがどうなっていたのかは、作者的にはこれぐらいで精一杯です。
第二章の第8話を書いていたときに
「いくらなんでもこの物語が終盤に行くころには原作も終了してるだろ。
だったらアリカがどうなったかは原作で真実を確認してからにすればいいだろ、二次創作的に考えて」
なんて考えていた自分が悪いのです。こんちくしょう。
しかも書いておいてなんですが、これは絶対に公式のものとは違うと思います。
だってそもそもアスナが未来でタイムカプセルに入っていた写真を見たときに、アーニャやスタンと一緒にネカネも写っていたっぽいですからね。
でも他に考え付きませんでしたorz
これにて“テンプレ通りに進めたい”は完結でございます。
最初はにじファンで書き始め、途中でこちらに移動するなどありましたが、完結までに約一年半。初めての作品にしては長すぎましたね。
第一章で使わなかったネタを使いたいがために第二章を書き始めましたが、もうちょっとスッキリと書ければよかったです。
ここまで長くなるとは思いませんでした。
とはいえ本当に初めての作品でしたので、こういう言い方はアレですが良い練習となりました。
最終的にはよくある主人公最強的なものになったかもしれませんが、少なくともネタ的には他の作者様と被らないようなネタを書けたと思っています。作者の頭がオカシイ的に。
どうやらネギのホムンクルスみたいに似てるのもあったようでしたが、皆様からは問題にされませんでしたのでOKということで……。
次回作についてはまだ決めておりません。
オリジナル作品をとも考えていますが、その前に三人称で書くための練習作品を書こうかなと思っています。
中編の“IS少女 プリティ☆モッピー”か短編の“銀河従卒伝説”か…………まあ、これが完結したのでゆっくりと考えます。積んである本やゲームやアニメも消化しないといけませんし。
それもこちらで書くか“小説家になろう”で書くかはわかりませんが、もし次回作品を見る機会がありましたら、そのときは応援よろしくお願いいたします。
それでは皆様、拙作を読んで頂きありがとうございました。