「今日は待ちに待ったクリスマスだぞっ、ぼーや!!!」
吸血鬼がクリスマス祝うなよ。
テンション高いですね、この人は。
「ちゃんとご馳走も用意したぞ!
七面鳥のローストもクリスマス・プティングも用意した。
味は四葉先生からのお墨付きだっ!!!」
ちゃんとアーニャやネカネ姉さんにクリスマスカード届いたのかなぁ。
とはいえウェールズはまだ朝の8時ですから、郵便はまだ配達されていないですかね?
「……こ、このクリスマス・プティングはぼーやが家に来てすぐに作ったものなんだ!
熟成されていて美味しいぞ!!!」
あとで電話しないと駄目ですね。考えてみれば手紙ばっかりで、2人の声を聞いてません。
でも日本とイギリスの時差が9時間というのが中途半端なんですよねぇ。
「え、えと…………ク、クリスマスツリーも大きいのを用意したんだが、木が大きすぎてしまってな。家に入らなかったんだよ、ハッハッハ。
家の外に置いてあるから見に行かないか?」
そういえばアルちゃんどうしてるんでしょうか?
いくらアーニャとの仲が良いといっても、アルちゃんは自分の使い魔ですからね。
アーニャに任せっぱなしだと主人として駄目です。
うん、電話したときに声を聞かせてもらいましょう。
今の自分ならアルちゃんにも自然に接することが出来る気がします。
「…………タ、タカミチに採ってきてもらったんだが、タカミチは馬鹿だな。家の大きさがわかっておらん。
どーせ、ぼーやに良いところを見せようと考えたんだろう」
「タカミチは張り切りすぎると空回りするらしいですからね。
尤も「木乃香の弟は9歳か。そのぐらいの年頃の男の子から“お母さん”と呼ばれるにはどうしたらいいのだろう?」なんて、よりにもよって教室で相談する人よりはマシじゃないですか?」
「…………私が悪かった」
絶望した!!!
エヴァさんが自分の母の座を狙っているということが、既に2-Aに知られていることに絶望したっ!!!
しかも、よりにもよって朝倉和美さんに得意満面に語るとは何事ですか!?
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「エヴァさん、僕は言いましたよね?
担任補佐となる僕が生徒のことを“お母さん”と呼ぶのはおかしいって…………」
「…………う、うん」
「じゃあ、何でそんな相談を教室でするんですか?」
「い、いやな。木乃香が弟のこと話していてな。9歳という難しい年頃なんだそうだ。
実家に電話をしても「恥ずかしい」といって電話に出てくれないとか…………。
その話から色々と話が弾んでいって…………その、なんだな」
どうしたらいいんでしょうか、この状況?
木乃香さんと刹那さんと遊び終わった後、家に帰りエヴァさんを問い詰めたら目を逸らされました。
やっぱり喋ってたようです。コンチクショウ。
それからアスナさんや木乃香さん達と連絡を取って状況を調べたところ、エヴァさんは朝倉和美さんに色々と語っていたようです。
それ以来、エヴァさんとはクリスマスの今日まで会話しませんでした。
「…………ハア、2-Aはお祭り好きと聞いてますけど、その相談の結果どうなったんですか?」
「ぼ、ぼーやの話題で持ちきりになったぞ。
きっとクラスの皆は3学期からぼーやのことを暖かく迎えてくれるはずだ、ハッハッハ………………ごめんなさい」
「事態の沈静化をエヴァさんにお願いしたいのですが」
「……わかった。なんとかやってみる」
おそらく今晩、幼女なサンタクロースが2-A生徒に暗示というプレゼントを振りまくことになるでしょう。
それとアスナさんや木乃香さん達、アルカナさんに口止めしておかなければいけませんね。
「お願いしますね、エヴァさん。
ではこれをどうぞ。一緒に住んでるので手渡しですがクリスマスカードです」
「! くれるのか!? ありがとう、ぼーや!!!」
「はい、エヴァさんにはお世話になってますからね。
昼は簡単なものしか食べてないのでお腹がすきました。少し早いですけど夕飯にしましょうか」
何だか最近自分が“まるで駄目な男の子”、略して“マダオ”になってきたような気がしますけど………………気のせいですよね?
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「…………そんな感じでさ。毎日色々大変だよ」
『ふーん。まさか“闇の福音”と一緒に暮らすことになるなんて夢にも思わなかったけど、優しそうな人でよかったわ』
クリスマスパーティーを一時中座してアーニャに電話してます。
ウェールズはようやく昼頃になったのでパーティーの時間ではありませんし、僕達魔法使いは教会にミサへ行ったりしませんからね。
それにしてもアーニャの声を聞くのも久しぶりです。
………………ああ、何でこんなに望郷の念に駆られるのでしょうか?
「アハハ、まあエヴァさんの噂が噂だからね。
アーニャのことはエヴァさんに話したけど、「ぼーやの妹のような子なら私にとって娘のようなものだ。ちゃんと面倒みてやろう」って言ってくれてるから大丈夫だよ」
『ちょっと! なんで私が妹なのよ!? あんたの方が年下でしょーが!?』
「ん? えーと、背丈からいくとそうなるかな?」
『くっ! ネギ本当に背が伸びたんでしょうね!?
帰ってきたとき全然変ってなかったら怒るからね!?』
「いや、本当に日本に来てから急に伸びたんだよ。
日本のご飯が美味しいせいかな? ウェールズにいるときよりたくさん食べるようになったし、武術も始めたからね。
ウェールズにいたときより健康的な生活を送ってるよ」
本当に背が伸びてます。この数ヶ月で5cmは伸びましたね。やはり日本のご飯が美味しいからです。
メルディアナ魔法学院の食事は流石イギリスというか大味でしたから、前世が日本人の自分には合わなかったのです。
『まあいいわ。
それより本当に村の皆を治せるようになったんでしょうね?』
「大丈夫だよ。ヴィルさんに手伝って貰ったおかげで無事に完成した。
ねずみ相手の動物実験でも成功したよ」
『その“ヴィルさん”ってのが信用できないんでしょーが!
村の皆を石にした張本人なんでしょう!?』
アーニャの言うことは尤もです。
尤もなんですが。
「…………アーニャ。
もし“3人のネカネ姉さんにフルボッコにされた人が「何でもしますから許してください」と言った”ら信じるだろう?」
『…………ごめん。それは確かに信じるわ』
「大丈夫だよ。
生まれ変わったヴィルさんは、毎日涙を流してエヴァさんの下で働いてるから」
『それって…………いや、なんでもないわ』
「うん。年明けにウェールズに帰るから待っててね。
タカミチも一緒に着いてきてくれて、アーニャが麻帆良に来る準備も手伝ってくれるってさ」
『あら、そうなの?
そういえばそのときにネギにお客様が来るらしいわよ。おじいちゃんが言ってたわ』
お客様? 誰でしょう?
まあ、向こうで会えばわかりますね
『うん? ああ、ごめんね。
アルちゃんもネギとお話したいわよね』
『お久しぶりです、お兄様。無理はなされていませんか?
お兄様は自分のことを忘れるときがありますからお気を付けください』
「……。
…………。
………………うん、大丈夫だよ。アル……ちゃん」
さっき「今の自分ならアルちゃんにも自然に接することが出来る気がします」とキッパリ言ったばっかりだったのに、スミマセン。
ありゃウソでした。
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次の日の朝、外に出たらサンタクロースの格好したタカミチが氷漬けになっていました。
そういえば、確か24日はクラスのクリスマス・イヴ・パーティーに参加して、25日はこちらに顔を出すと言ってましたけど、結局顔を出しませんでしたね。
思えば昨日の夕飯のときに魔法の発動らしきものを感じたなぁ。
…………どうやらエヴァさんのトラップに引っかかってしまったようですね。
エヴァさんとタカミチは仲が良いのか悪いのか未だによくわかりません。
…………とりあえず家の中に運び込んでおきますか。