━━━━━ メルディアナ魔法学校校長 ━━━━━
我が校には一人の天才児がいる。
名前をネギ・スプリングフィールドといい、世界を救った英雄であるナギ・スプリングフィールドの息子じゃ。
初めて唱えた魔法で大人すら出せそうにない火柱を立て、治療魔法を3ヶ月勉強しただけでワシを含めた教師の誰よりも上達した。
魔力量もナギ・スプリングフィールド以上のものを持ち、それに驕ることなく貪欲に勉強を欠かさない。
これだけ聞くと本当に天才児なのじゃが、同時にあの子は天災児でもあった。
最初はあの子が3歳のとき。
初めて唱えた魔法で火柱を立てたのはいいのじゃが、そのおかげでわしはコンガリと焼かれてしまった。
いや、それはまあいい。誰もあんなことになるなんて思ってもいなかったし、それこそ初めて魔法を試したネギでは予想することは出来なかったじゃろう。
事故が起こった責任はその場にいた大人、つまりわしにある。ナギの息子なんだから、同じようにとんでもないことを仕出かすかもしれないのを失念していたわしの責任じゃろう。
英雄であるナギの息子でもあるということで、教師の期待も大きかった。
じゃが、ネギはそんなこと全然気にしないでマイペースに日々を過ごしていった。
ナギは狭苦しいのが嫌なのか魔法学校を中退して世界を巡った。それに比べたらネギはマシなのじゃが、それでも“我を貫き通す”ということについてはナギと一緒じゃ。
やはりネギは“ナギの息子”なのだと思わされることが何度もあった。
教師が何を言おうと、まず治療魔法を勉強し始めたのが良い例じゃ。おそらくわしを焼いたことを悪いと思ったのじゃろう。
必死に勉強したため、わずか3歳のうちに治療魔法は学校の誰よりも上達し、教師を唖然とさせていた。
おかげで治療魔法の教師が自信をなくし、実家へ帰ろうとしたのを説得しなければならなかった。
別にネギが悪いわけではないのじゃがのぉ。
だが、後輩へ治療魔法を実践して見せるためとはいえ、自分の腕を切り落とそうとするのはどうかと思うのじゃがなぁ…………。
「優れた治癒術者は千切れた腕を接合したり、欠損した部位を復活させたりすら出来るそうなんですけど、先輩は出来るんですか?」
「ん? やってみようか?」
何でこの会話で自分の腕を切り落とそうとするんじゃ?
あれじゃな。ネギ的には指に軽く切り傷つけるのと、腕を切り落とすのは同程度の事なんじゃろうな。「治せるから別にどっちでもいいや」ぐらいの。
実際ネギの実力なら治せるじゃろうし。
あの子は常識を持っているようなのじゃが、その尺度が違いすぎる。
“治療魔法で治せる傷を自分に付けて、治療魔法の練習をする”、というのはよくある治療魔法の練習での常識なのじゃが。
ネギと他人の間では、“治療魔法で治せる傷”という尺度が違うのじゃろう。
慌てて止めたからよかったのじゃが、止めておらなかったら後輩がトラウマになるところじゃったぞ。
10歳にもなっていない子供の目の前で腕を切り落とそうなんて、少しは考えて事を行なって欲しいのう。
………そういうネギもまだ10歳になっておらんのじゃがな。
全員がネギのように肝っ玉が座っているというか、ズレているワケじゃないんじゃ。
ここら辺が理由でアーニャに「どこか抜けてる」と言われているんじゃろうな。
魔力量の多さは…………両親のおかげじゃろうな。
父親がただでさえ出鱈目に魔力が大きかったナギで、母君がウェスペルタティア王家の御方。
突然変異のバグキャラと脈々と魔法世界最古の血を受け継いできた血筋の御方の息子。サラブレッドと呼んでいいのかどうか…………。
そしてそんなネギも遂に卒業することとなった。
成績的には学校が始まって以来の好成績じゃから問題はなかったが、問題となったのは卒業後の一人前となるための修行場所じゃった。
元老院は本国によこせ、と言ってくるがそんなことは出来ん。大方都合の良い英雄に祭り上げるつもりじゃろう。
祭り上げられるだけならまだ良い。しかし、あのネギの性格では元老院すら相手にしないじゃろうな。
元老院とは悪い関係しか築けないであろうから、元老院にとって都合の良い英雄として使い潰されるか、ブチ切れたネギが元老院を潰すか。
いくらネギとはいえ元老院には勝てないじゃろうから、使い潰されるのがオチじゃ。
………………さすがに元老院には勝てない、じゃろうな?
しかも、スタンの話では過去にネギの殺害計画があり、それを知ったナギがネギを助けるために村に来たということじゃ。
あいにく、その頃にはネギは入学しておったがの。ネギの杖はそのときにナギが置いていったものだという。
そんな企みがあったと知った以上、本国にネギはやれん。
アリアドネーという手も考えた。
“学ぶ意思があるもの”はたとえ魔物や犯罪者であっても捕らえることは禁止されている、というアリアドネーならばネギでも問題なかろう。それにナギと共に大戦を戦ったセラス総長がいるから安心じゃしな。
しかし、問題なさ過ぎて逆に不安になってしまう。あの探求者の巣窟にネギを放り込んだらどうなるか?
“混ぜるな危険”………そんな言葉が浮かび上がってきたわい。
たとえ危険なことにならなくても、あの研究するのに環境の良いアリアドネーに行かせると研究に熱中して引き篭るのではなかろうか?
となると、やはり日本の麻帆良しかなかった。
あそこはナギの知り合いでもあるコノエモンが学園長を務めておるし、“紅き翼”のタカミチ殿もおる。あの2人ならネギに悪いようにせんじゃろう。
コノエモンの悪フザケは心配じゃがの。
ネギも麻帆良の図書館島に興味を持っていたので、ネギ自身は特に反対しないじゃろう。元から果たす義務は果たす性格じゃしな。
“教師になる”というのは気になるが、後輩にモノを教えるのは上手じゃったから問題あるまい。
というか“生徒になる”というのはあの性格だと無理じゃろうな。ネギの先生になる方が気の毒になるわい。
………決してコノエモンに押し付けようとは考えておらんぞ。
他に選択肢がないだけじゃ。
もう少しネギがシッカリしてくれていれば、こんな心配しなくて済んだんじゃがのう。
思わずそんなことが心に浮かびながら、ネギに卒業証書を渡すわしじゃった。
━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━
こんにちは。卒業証書を渡されたときのおじいちゃんがした憐れんだ目が気になるネギです。
アレ? もしかして本国行き?
時系列を乱さない卒業時期になるようにちゃんと調節したんですけど。
まあ、卒業証書を見てみればわかりますね。
そういえば、卒業式である今日の朝まで村にいたんですが、昨日の夜にスタン爺さんから
「実はナギは生きている。その杖はナギのものなんじゃ。
ぼーずが魔法学校に入学したあとにナギがこの村に来たんじゃ」
と、告白されました。
そういえばそれを知っておかないと、エヴァさんと良好な関係を築けないかもしれませんね。
原作でもナギが生きていることを知ったからこそ、ネギに協力しようと思ったかもしれないですし。まあ、それが全てではないですけど、少しは関係あるでしょう。
ありがとう、スタン爺さん。
さて、そろそろ浮かび上がってくるでしょう。
ちゃんと原作通りでしょうか?
「ネギ何て書いてあった?
私はロンドンで占い師よ」
「修行の地はどこだったの?」
「今浮かびあがるとこ」
ハイハイ、…………えーと。お、よかったよかった。
ちゃんと原作と一緒です。
「“日本で教師をすること”、だってさ」
「…………ハ? な、何よソレ!?」
「校長!
“先生”ってどーゆーことですか!?」
「ほう…………“先生”か…………」
「何かのマチガイではないのですか!? 10歳で先生など無理です!」
「そうよ!
ネギったらただでさえ治療魔法の実践で腕を切り落とそうとするボケで……!!!」
「しかし卒業証書にそう書いてあるなら、決まったことじゃ。
確かにネギを外に出すのは心配じゃが、“偉大な魔法使い”になるためには、頑張って修行してくるしかないのう。
………………でも、あまり頑張りすぎるでないぞ」
あれ? 原作とセリフ違わね?
まあ、このくらいの乖離なら問題ないでしょうけど、何か自分変な事やりましたっけ?
さーて、荷造りとかしないといけないし、日本語はもう話せますけど、出来れば原作開始時期と同じくらいに行きたいですねぇ。
ま、それは麻帆良との話し合い次第ですか。とりあえずタカミチと連絡とってみましょう。
…………あ、しまった。
タカミチはもう自分が日本語話せるの知ってるんだった。となると原作より行くの早まりますかね。
━━━━━ 後書き ━━━━━
ネギは“紅き翼”の修行のおかげで、怪我に対する常識が失われています。
「腕がちぎれた? くっつければいいじゃん。
腹に穴が開いた? 塞げばいいじゃん」
ですが本人にとっては普通のつもりです。
そんなこと“紅き翼”の修行では日常茶飯事だぜ!
ちなみに校長のネギに対する感想はぶっちゃけると
「魔法に関しては天才だけど、アホの子」
ぐらいに思われています。