━━━━━ 高畑・T・タカミチ ━━━━━
「電話では何回か話したが、直接会うのはこれが初めてじゃの。儂がこの麻帆良学園の学園長である近衛近右衛門じゃ。
君の事はメルディアナの校長からよく聞いておるよ。麻帆良にようこそ、ネギ・スプリングフィールド君」
「はい、はじめまして。近衛学園長。
ネギ・スプリングフィールドです。よろしくお願いします」
僕の目の前に大きくなったネギ君がいる。半年見ないうちに、また大きくなったなぁ。
やはりこの年頃の子供の成長は早いな。
それにしても、ネギ君と同僚になるとはね。
学園長とメルディアナの校長から事情を聞くまではそんなこと思いもしなかったな。
よくよく思い返せば、ネギ君と初めて会ったのはもう6年も前になるのか。
元老院によるネギ君の暗殺計画があったことを知った僕は、急ぎウェールズに向かった。
その前からネギ君のことは聞いていたし、“とある事情”で通常より早く魔法学校に入学したことも聞き及んでいた。
…………“とある事情”の中身を聞くまではネギ君の暗殺計画のせいだと思ったけど、まさかネギ君が校長を燃やしたせいだとは思わなかったな。ハハハ。
まあ、ナギの息子らしいといえば息子らしいのかな。
「ところでネギ君には彼女はおるのか?
どーじゃな? うちの孫娘なぞ」
「ややわ、じいちゃん」
ガスッ! そんな音がして学園長の頭に金槌が突き刺さる。
教師としてなら注意しなくてはいけないけど…………学園長だから別にいいか。
まあ、そんなどうでもいいことは置いておくとして、ネギ君と友達になった僕は時間があればウェールズに行ってネギ君の顔を見るようになった。
ナギとあの御方の忘れ形見が大きくなっていくのを見るのは楽しかったし、校長の話ではナギが生きているかもしれないということも聞けた。
魔法を使えない僕には魔法を教えてあげることは出来なかったけど、少しばかり武術を教えることが出来た。
…………まさか『咸卦法』を3ヵ月で習得するとは思っていなかったけどねぇ。
ネギ君に『咸卦法』を見てみたいと言われたので見せてあげたら、3ヵ月後に次会ったときには既に習得してたなんてのは流石に予想外だった。
思わず咥えてた煙草を落として、落ち葉を延焼させるとこだったよ。僕は覚えるのに苦労したのになぁ。
それからもネギ君は綿が水を吸収するようにどんどん成長していった。
…………ネギ君もナギと同じ、バグキャラかな。
そういえば、ネギ君に麻帆良では魚釣りならともかく、狩りはしないように言っておかないといけないな。
たくましいのはいいことだけど、ナイフ一本でイノシシを解体する4歳児ってのはインパクトがありすぎて、どうかと思ったよ。美味しかったけどね。
まあ、ナギも魔法世界でトカゲ肉をサバイバルで料理していたっていうし、そんなところも似てるのかな?
「そうそう、もう一つ」
しまった。
昔を思い返していたらいつの間にか話が終わりそうだった。
昔を懐かしむってコトは、僕もやっぱりもうトシなのかなぁ。ハハハ。
「木乃香、アスナちゃん。
ネギ君をお前達の部屋に泊めてもらえんかの」
「え!? ど、どういうことですか、学園長先生!?」
「ウチは別にえーけど?」
「え? 学園長。いくらなんでも女子寮に僕が入るのはマズイのでは?
独身者用の職員寮とかはないのですか?」
「確かにタカミチ君が入っているような独身者用の職員寮はあるし、空き部屋もあることはあるんじゃがのう。そこはペット禁止なのじゃよ。
それにいくら先生といっても、10歳の君を独り暮らしさせるわけにはいかんじゃろ。
タカミチ君は出張が多いから任せるわけにもいかんし、何より2人暮らしには狭いじゃろうからな」
「う、年齢を言われると僕には何も反論できません。
僕としては家事能力はあるつもりですが、10歳の僕が独り暮らしをして火事でも起こしたら、責任問題どころの話じゃなくなりますからね」
「そういうことじゃ。フォフォフォ」
…………ネギ君なら大丈夫だろうけど、ここは黙っておいた方がいいだろうな。
というかネギ君なら野宿でも大丈夫なんだよね。よく僕とネギ君の2人でキャンプに行ったけど、弟や息子がいればあんな感じなのかな?
「ええやろ、アスナ。かわえーよ、この子」
「も、もう! しょうがないわね!」
「申し訳ありません。お世話になります。
出来るだけ家事もお手伝いしますので」
「ありがとう、スマナイね。アスナ君、木乃香君。僕からも礼を言うよ」
「ハ、ハイッ! この子のことは私にお任せください、高畑先生!!!」
ハハハ、相変わらずアスナ君は元気がいいなあ。
この2人に任せておけばネギ君は大丈夫かな。
「へー、ネギ君料理出来るんや。
どーゆーの作るん? イギリス料理? ……イギリス、料理?」
「イギリス料理といえばイギリス料理ですね。一応イギリスにも料理はありますよ。プティングとかパイとか。スコーンとかも焼けますけど、オーブンが無いと難しいですね。
あとはキャンプなんかで作るサバイバル料理とかも出来ます」
「ちっちゃいのに凄いなぁ。
アスナより出来るんちゃうか?」
「私だって少しは出来るわよ!」
「あとはハンティングで獲った獲物の解体ですかね。ウサギとかイノシシとかカモとか」
「へあ? …………へ、へ~? そう……なんや?」
…………ウン、あとでキツク言っておかないといけないな。
まあ、日本と外国だったら文化の違いもあって狩猟の認識が違うから、しょうがないといえばしょうがないのかもしれないけど。
日本だったら20歳以上の狩猟免許を持った猟友会関係しか狩猟は出来ないけど、欧米だったら子供でも普通に狩猟する地域があるしね。
「魚料理はあんまり自信ないですね。
釣った川魚を捌いて塩焼きか、フィッシュアンドチップスを作れるぐらいです」
「フィッシュアンドチップス?
ああ、聞いたことあるえ。日本で知られてるイギリス料理の中でも一番有名やないかな」
「あと料理法知ってるのは“ウナギのゼリー寄せ”とかですかね」
「“ウナギのゼリー寄せ”? 何よソレ?」
それはやめておくんだ、ネギ君。
━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━
「神楽坂さん達は先に教室に戻っていなさい。それでは2-Aに私達も行きましょうか、ネギ先生。
9:30から始業式のために順次体育館に移動開始します。それまでは教室待機なんだけど、質問時間でほとんど潰れるでしょうね。今のうちに自己紹介を考えておくいいわ」
「僕は用があるので先に体育館に行ってるよ。
時間になったらしずな先生と一緒に、生徒達を体育館に連れてきてくれ」
「あ、神楽坂さん、近衛さん。案内ありがとうございました。これからよろしくお願いしますね」
「うん、よろしくなー」
「わかってるわよ。そ、それでは高畑先生! また後で!」
原作通り、明日菜さんと木乃香さんの部屋に居候させてもらうことになりました。
アルちゃんは他の荷物と一緒に学園長室に置いてきたままですけど大丈夫でしょう。
「ハイ、これがクラス名簿。
早くみんなの顔と名前を覚えられるといいわね」
ほうほう……………………よし! ちゃんと超鈴音さんが存在しています!
前の世界では彼女がいなかったことが一番驚きましたからねぇ。
あ、いや、一番驚いたのはさっちゃんでしたっけ。
何であのコアラの人がべ○ータに並ぶツンデレキャラみたくなったんでしょうか?
「どうしたの? 緊張してるのかしら?」
「ちょっとしてますけど、大丈夫です」
前の世界のトラウマが疼いてましたなんて言えません。
って、いつの間にか2-Aに到着してましたね。
さあ、これから再び子供先生の始まりです。
前の世界ではエヴァさんがいつ暴走するかわからなかった分だけ気が休まりませんでしたけど、コッチ側ではそんなこともなく平穏に暮らせそうですね。
ドアに仕掛けられている黒板消しとかが懐かしく感じてしまう違和感は放っておく事にしましょう。
さて、それではノックしてドアを開けましょうか。ただし教室に入らず、開けるだけです。
ガラッ! ボトッ!
ドア開けたら目の前に黒板消しが落ちてきました。
もちろんドア開けただけなんで僕の目の前に。
「「「「「……………………」」」」」」
パスッ! と足元に落ちた黒板消しを見つめ、
「「「「「……………………」」」」」」
その先に仕掛けられていたロープやバケツを見つめ、
「「「「「……………………」」」」」」
沈黙している2-A生徒を見つめ、
「「「「「……………………」」」」」」
最後に後ろに振り返って、沈黙しているしずな先生を見つめて一言。
「引っかかった方が良かったですかね?」
「………………ど、どうかしらね?」
「じゃあ、やり直しますのでテイク2お願いします」
仕方がない。少しばかり2-Aの皆さんに付き合って差し上げましょうか。
教師と生徒のコミュニケーションというものはとても大事ですからね。
それでは落ちた黒板消しをドアに挟みながらドアを閉めます。結構背の高いドアですけど、僕ならジャンプすれば十分にドアの上まで届きます。
そしてドアを閉め終わると、後ろ側のドアへ瞬動を使って移動。
「…………え!? ちょっと待ってよ!!!」
「はい、何ですか?」
話は聞かせて貰いました!
あなた達皆図書館島送りですっ!!!
「!? 今度は後のドアから!? ってヘブッ!?」
「アララ。駄目じゃないですか、鳴滝風香さん。
目の前で仕掛けた黒板消しトラップに引っかかるなんて」
「お、お姉ちゃん、大丈夫!? ってキャア!?」
「ふ、ふみかーーー!!!」
うわぁ。
風香さんを助けようとした史伽さんがロープに引っかかり、矢の掃射を受けてバケツが顔に嵌まったみたいです。かわいそうに。
残念ですが2-Aの皆さん。
あなた達が仕掛ける悪戯など、自分が既に10年前に通過した場所なのです!!!
…………そういうところは並行世界では無くなっていて欲しかったんですけど、残念ながら前の並行世界でもありましたね、コンチクショウ。
「目に、目にチョークの粉入ったー!」「うえー、びしょ濡れですー」「ちょっと、二人とも大丈夫ー?」「衛生兵! 衛生兵!!!」「何やってんのよ、もう!」
おっと。昔を懐かしむよりも事態を収拾しなきゃいけませんね。
始業式の前にある程度の質問タイムも用意しておかないと、式の最中でも私語が止まらないかもしれないですし。
まずはチョークの粉まみれになった風香さんと、バケツの水で濡れ鼠になった史伽さんを着替えさせますか。
いや~、それにしてもアレですね。
「わぁ、大惨事」
「いや、お前のせいだろう」
エヴァさんに突っ込まれた!?