━━━━━ 近衛木乃香 ━━━━━
「今日からこの学校で英語を教えることになりましたネギ・スプリングフィールドです。
3学期の間だけですけど、よろしくお願いします」
あのトラップ騒ぎの後、ネギ君の自己紹介になったんや。
やっぱりネギ君しっかりしとるなー。テキパキとふーちゃんとふみちゃんをジャージに着替えさせてたし、クラスの皆を前にしても全然物怖じしてないわぁ。
続いて始業式が始まるまでは質問タイムとなったんやけど。
「キャァァッ」「か、かわいいーーー!」「何歳なの~~~!?」「どっから来たの!?」「何人!?」「今どこに住んでるの!?」「ねえ、君ってば頭いいの」「あーん、カワイーーー!」
いやぁ、ネギ君皆に揉みくちゃにされてて、全然質問タイムになってないわぁ。
ネギ君大人気やなぁ。かわえーからわかるけど。
「大変ねぇ、あの子」
「あれ? アスナは混じらんの?」
「子供は好きじゃないの。それにあの中に突っ込んでいくのは疲れるわよ」
まあ、そうやな。
それにウチらは夜になったらゆっくり話せるしなぁ。
「ハイハイ! 歓迎していただけるのは有り難いのですが、このままだったら始業式の時間になってしまいます! 一度皆さん席に戻ってください!
質問のある人はそれからです!」
おんや? 揉みくちゃになってたネギ君がいつの間にか復活しておる。
慣れてんかなぁ? 揉みくちゃにされていたときもニコニコと笑って表情崩しておらへんかったけど。
あれが英国紳士って奴かいな?
「ハーイ! だったらまず2-A報道部の私、朝倉和美が進行させてもらうよー!
それではネギ先生、まず簡単なプロフィールをお願いします」
「えーと、名前は先ほど言ったとおりネギ・スプリングフィールドです。イギリスのウェールズ出身で、今年で10歳になります。去年の7月に大学を卒業しました。
特技はステッキ術です。護身を兼ねて修行してました。趣味はトレッキングです。住んでいたのが山奥だったので、山歩きをよくしていました」
ハア、ネギ君凄いわぁ。本当に大学卒業してるんやねぇ。
それにステッキ術? そういえば長い杖持ってたなぁ。アレ使うんやろか?
「ほほぉ、先生は杖術使いアルか。今度手合わせするアルよ」
「いえいえ。それなりに自信はありますけど、あくまで護身術の一環ですよ」
「謙遜するなアル。歩き方見ても結構な使い手とわかるアルよ」
「ハハハ、ありがとうございます。 古菲さんは中国武術研究会に所属してるんですよね?
近いうちに部活巡りをしようと思ってますので、そのときにでも是非」
「よし、約束したアルよ。…………というかよく私の名前と部活わかたアルね?」
「クラス名簿を見たので名前と顔と所属部活ぐらいはわかります」
そんな感じで質問タイムも順調に進んでった。
えへへ、これからおもろくなりそうやなぁ。
…………ん? 手紙回ってきた?
えーと、ナニナニ?
「始業式後、ネギ先生歓迎会するよん!
各自の分担は××××××(以下略)」
おー、そうやね。せっかくやから歓迎会せなもったいないなぁ。ウチは買い出しやね。
ほなら、アスナにも付き合ってもらおーか。
━━━━━ 神楽坂明日菜 ━━━━━
ハアア~~~……皆はしゃぎすぎよ。いくら新しい担任補佐にあんな小さい子供がきたからって。
まあ、年のせいか、カワイイ顔してるから皆がはしゃぐのもわかるけど。
といっても、私は高畑先生みたいな大人な男性が好きだから、あそこまで騒がないけどね。
しかし、よかったぁ~。高畑先生が担任辞めなくて。
木乃香には悪いけど、あの学園長ならあのネギって子でもアッサリ担任にしそうだから怖いわ。
この事はあの子に感謝しておこうかしら。
それにしても、たとえ10歳の子供とはいえ、男を女子寮に住まわせるって学園長は何考えてるのかしら。
まあ、子供を独り暮らしさせるわけにはいかないってのはわかるし、学費とかの件でお世話になってるからしょうがないのかしら。
これがあの子じゃなくて高畑先生と暮らせるんなら大歓迎なんだけどなぁ。
…………無理ね。
ちょっと想像しただけで顔が赤くなったのがわかるわ。
そういえば、あの子は高畑先生のコト名前で呼んでたわね。高畑先生が独身用職員寮に住んでなければ、一緒に住まわせるようなことも言ってたし。
もしかして昔からの知り合いなのかしら?
………………夜にでも少しあの子…………イヤ、ネギ先生にお話しを聞かせてもらおうかしら。
居候させてあげるんだから、宿泊代の代わりに色々とお話しは聞かせてもらわないとねぇ。
具体的には高畑先生の好みなんかを。ウフフフフ…………。
「あ」
って、あら? ネギ先生じゃない。
始業式終わったら職員室に挨拶しに行ってたみたいだけど終わったのかしら。なら、ついでに歓迎会に連れて行きましょうか。
でも、何を見ているのかしら? 目線の先には………………本屋ちゃん?
…………危ないわね。たくさんの本持ってグラついてるのに、階段降りてるなんて……って、本屋ちゃんが足を捻ったのかバランス崩した!?
あの高さで落ちたらケガじゃすまないわよ!
ダメっ! ここからじゃ、受け止めるのは間に合わない!
「!!! やっぱし!」
「きゃあああああ!」
それを見たネギ先生は、今日始めて会ったときから常に持ち歩いていた、自分の身長よりも長い杖を本屋ちゃんに向けて構え、
「ハァッ!」
という掛け声と共に、
ブン投げた! …………って、えええぇぇっーーーーー!?
何やってんのよっ、あの子はーーーーーー!?
ビュオン! そんな擬音が聞こえてきそうな勢いで投げられた杖はガスッ! と石垣の隙間に突き刺さった!
そして丁度その上に本屋ちゃんが落ちてきて、杖を中心にしてクルリと一回転半。
その隙に本屋ちゃんがあの杖を掴めたら良かったんだけど、それでも地面に落ちるまでの時間稼ぎは出来たみたい。
投げると同時に駆け出していたネギ先生が先に本屋ちゃんの下に到着していて、落ちてきた本屋ちゃんを受け止めたわ。
…………ふう~、間一髪だったわね。ネギ先生が杖投げたときは何かと思ったけど。
ネギ先生ったら槍投げでもやってたのかしら?
って、こうしちゃいられないわね。受け止めれたのは見たけど、一応無事を確認しなきゃ。
少なくとも本屋ちゃんは目を回してそうね。
「ちょっと、2人とも大丈夫?」
「あ、神楽坂さん」
「…………う、せ、先生?」
「見てたわよ。大丈夫?
2人ともケガとかしてない? 立てる?」
「僕は大丈夫です。宮崎さんは大丈夫ですか?」
「ハ、ハイ。大丈夫です。ありがとうございます。
…………って、はううぅぅ~~~! お、降ろしてください~~~!」
あら、テンパっちゃってるわ。よくよく考えてみれば、本屋ちゃんって今ネギ先生にお姫様抱っこされてるものね。
恥ずかしがりやの本屋ちゃんならそりゃテンパるか。
「み、宮崎さん! 顔真っ赤ですよ!
大丈夫ですか!? 保健室行きますか!?」
「い、いえ! 大丈夫ですぅ!」
逆効果だから顔近づけるのはやめなさい。でも見た感じ大丈夫そうね。安心したわ。
とりあえず2人共落ち着かせてから歓迎会に連れて行きましょうか。
まったく、3学期初日だっていうのにドタバタな日になっちゃったわねぇ。
本屋ちゃんにケガがなかったのは良かったけどね。
「それにしても凄いわね、ネギ先生。杖をあんな風に投げて本屋ちゃんを助けるなんて。
槍投げでもやってたの?」
「ええ、イノシシとかウサギ狩るのにやってましたね」
イノシシは槍ぐらいの大型のエモノじゃないと致命傷与えられないんですよねー、ハッハッハ、と朗らかに笑う10歳児。
陸上競技じゃなくてハンティング? 何か間違ってないかしら?
………変な子。
「宮崎さん立てますか?
神楽坂さん、申し訳ありませんけど本拾うの手伝ってあげていただけますか?」
僕は杖をとってきますので、と垂直に立っている石垣をロッククライミングのように両手両足を使って登っていく10歳児(スーツ・革靴着用)。
野生的なインテリ。
…………いや、インテリな野生児。
それがネギ先生に抱いた私の感想だった。