━━━━━ ガンドルフィーニ ━━━━━
「先程の戦い方はいったいなんなのですか、ネギ先生!?
もう少し正々堂々と真正面から戦うことは出来ないのですか!?」
「そ、そんなっ!? エヴァさん相手に真正面から戦って勝てるわけないじゃないですか。
それにグッドマンさんは、こんな小さなアルちゃんに茶々丸さんとガチンコ勝負させろと言うんですか!? いくらなんでも酷いですっ!」
「………………えっ!? そ、そういう意味ではありませんわ」
「お姉様。それは無理だと思いますけど……」
「お兄様…………わ、私頑張ります!」
「大丈夫だよ、アルちゃん! そんなことさせないからねっ!
アルちゃんは、アルちゃんが出来ることで僕を助けてくれればいいんだよ」
「ち、違いますっ! 愛衣もそんな目で私を見ないでっ…………」
高音君がネギ先生に突っかかっているが、ネギ先生の純真な瞳に見つめられて困っている。
確かに高音君からすると、ネギ先生の戦い方は魔法使いらしくなくて邪道に見えているんだろう。
でも私は銃やナイフを多用するCQCで戦うからネギ先生と同じく正道的な魔法使いの戦い方とは言えないし、CQCの技術を磨くために警察の訓練などに参加したこともあるから、閃光弾などの利点を良く知っている。
だから、あまりネギ先生を非難するようなことは言えないなぁ。
「それにしても、あんな負け方したのによくエヴァンジェリンは怒らないですねぇ」
「…………それもそうだな、瀬流彦君でも、黙ってネギ先生におんぶされたままってのも怖いぞ」
「大丈夫ですよ、ガンドルフィーニ先生。エヴァはプライド高いですから、負けた後でどうこう言ったりしません。
それにネギ君の「真正面から戦って勝てるわけない」って言葉に反応してましたしね。それと、昔のことを思い出してるんじゃないですか?」
昔? ネギ先生の父親の“千の呪文の男”のことか?
それこそ父子2代に渡って負け越したのに平気なのか? 顔を赤く染めてネギ先生の服を握り締めているが、本当に大丈夫なのだろうか?
それにしてもネギ先生には驚いた。まさか封印されている状態とはいえ、“闇の福音”に勝ってしまうとは。
魔力がないために彼女の使った魔法はほとんどが初級魔法だけだったが、それでもその錬度は恐るべきものだった。
昨日の『闇の咸卦法』も凄いものだったが、あのモビルスーツとやらも凄いな。さすがは“千の呪文の男”の息子。
彼はおそらく将来、優秀な“偉大な魔法使い”になるだろう。
「ネギ先生。すいません、ちょっと失礼します。
エヴァンジェリンさんの最後の氷の盾を、いったい何で斬ったんですか?」
「…………そういえば私は目を閉じていたから見てないな。
ぼー……ネギ。お前どうやって『氷盾』を真っ二つに斬り裂いた?
残った魔法薬全部使って作ったから、けっこう堅いはずだったんだが…………」
「ああ、あれはこの剣で斬ったんですよ」
ネギ先生がそういうと、手のひらに乗るぐらいの小さな棒が現れた。そしてそれを掴むと、ブォンという音と共に棒の先から光が伸び、光の剣となった。
フム。銃だけでなく、接近戦用の武器もあるのか……。
「…………これは、『魔法の射手』か?」
「さすがはエヴァさん。そうです。これは『魔法の射手』を利用して剣にしてます。今のこれは光属性ですけど、火、水、氷、雷、その他様々な属性で剣を作れます。
“ビームサーベル”って呼んでますけどね」
「銃も同じだったね、ネギ先生」
「その通りです、龍宮さん。あの銃も『魔法の射手』を利用して弾を撃ちだしてます。いろいろと応用が利きますよ。
最後に止めを刺すときに使った銃は、特殊な弾丸を使って魔法を撃ちだすことが出来るんです。威力を強めた『戒めの風矢』や『雷の暴風』とか、いろいろな魔法を詰め込むことが出来ます」
「へぇ、それは便利そうだね」
「あ、あのっ! 確かにその剣も凄いのですが……」
「落ち着きなさい、刹那。
ネギ先生。先程エヴァンジェリンの氷の盾を斬ったのは、京都神鳴流の『斬岩剣』ではありませんか?」
「あ、やっぱり京都神鳴流の方から見たらわかってしまいますか?
桜咲さんはタカミチから京都神鳴流と伺っていましたが、葛葉先生もそうなんですね」
「やっぱり!? ネギ先生はどうして神鳴流を使えるのですか!?」
京都神鳴流!? 何故そんなものをネギ先生が使える?
振り向いて高畑先生を見るが、彼も困惑している様子だった。葛葉先生や桜咲君のように学園にも京都神鳴流を使えるものがいるから、必ずしも門外不出というわけではないだろうが…………。
「ビデオで見ました」
「「ハ?」」
「いや、だから…………ビデオで見ました」
「何を言っているんだお前は?」
「いや、ホントですよ。エヴァさん。父が所属していた“紅き翼”の映像を見たことがあるのですが、その中に京都神鳴流を使う方がいたんですよ。
青山詠春さんという方で、おそらく葛葉先生や桜咲さんの方が詳しいと思いますけど…………」
「え、ええ」「それは、確かに……」
「で、その映像の中に戦闘のダイジェストシーン特集がありまして、それを見て自己流で練習しました」
「…………それで?」
「? それだけですけど?」
「ビデオ見ただけで覚えたんですかっ!?」
…………ネギ先生は優秀なんだが、ちょっとなんかズレてるな。
自分のことを大したことないとでも思っているのかもしれん。
まあ、今までメルディアナ魔法学校から出てきたことがないらしいから、世間知らずなのはしょうがないのかもしれないな。
「人の話を聞いてくださいっ!!!」
あ、ずっと放置されていた高音君がキレてしまった。
「ネギ先生! どうしてあんな戦い方をなさるのですかっ!?」
「“あんな”と言われましても…………僕は今のが初めての戦いだったんですけど」
「ほう…………ネギの初めての相手は私だったのか」
「初めてだったのに、あんなに強かったんですか!?」
「今まで修行は自己流でしてましたけどね」
「だったら何故もう少しマシな戦い方をなさらないんですか!?
それこそ貴方の父上であるナギ・スプリングフィールドが所属した“紅き翼”の戦い方を見習うとか」
「いやいや、出来ませんよ。そんなこと。
まあ、今だったらそれに近いことは出来るでしょうけど、修行を始めた3歳のときでは“紅き翼”みたいなバグキャラ連中の戦い方を見習ってもどうしようもないです。ちゃんと現実的な修行をしないと……」
「うっ…………確かに、それはそうなのですが」
「まあ、そうだろう。というか、3歳児があんなこと出来たら一般の魔法使いの出る幕がないな」
「そもそもメルディアナには魔法戦闘の授業とかはありませんし、図書館にも戦闘教本とかはあまり無かったですからねぇ。
しょうがないから、警察や軍隊で使用する教育資料を参考にして修行しました」
なるほど、だからあんな戦い方をするのか。道理で閃光弾とか催涙弾とかの利点を知ってるわけだ。
でもどうやって手に入れたんだ、そんなもの?
「ネギ。それならあのモビルスーツはなんだ?
あんなもの、どこの警察も軍隊も使ってないぞ」
「昨日言ったとおり、アレは日本に来ることになってから急遽開発、というか完成させたものです。それ以前から考えてはいたんですけどね。
コンセプトとしては“魔法使いは最強になるのではなく、最強のものを生み出せばいい”ってところです。
ホラ、魔法って便利ですけど、詠唱時間とか弱点があるじゃないですか」
「確かにそうですね。無詠唱魔法もありますけど、詠唱魔法に比べたら随分と落ちてしまいます。
でも、そのためにお姉様にとっての私みたいな、“魔法使いの従者”というものがいるんですけど…………」
「つまり、ネギ先生は一人で戦い抜くためにモビルスーツを開発したのですか?」
「いえ、そんなことありませんよ、桜咲さん。ただ単に、“攻撃も防御も移動も魔法一つで出来たら便利だなぁ”と思ったんです」
「…………メルディアナの校長先生が仰っていたことがよくわかりました」
「私としては“納得は出来ないけど理解は出来る”だな」
「龍宮、これは“理解は出来るけど納得は出来ない”の方じゃないのか?」
「…………“理解は出来ないし、納得も出来ません”っ!
次は私達がお相手しますわっ! 魔法使いの戦い方というものを見せてご覧にいれましょう!」
「お、お姉様!? 私“達”って、私も入っているんですかぁっ!?」
おいおい、高音君。
それはいくらなんでも無理だろう…………。
━━━━━ 龍宮真名 ━━━━━
結局、次はネギ先生とグッドマン先輩主従の模擬戦となった。
従者の佐倉は最後まで渋っていたが、ネギ先生が
「怪我したらちゃんと治しますよ。
むしろ明日に残らないよう『咸卦治癒』で治します」
と言ったら、アッサリOKした。
ちなみにその次は葛葉先生が相手をすることになった。
ネギ先生の「『咸卦治癒』で治します」発言で凄いヤル気が出たらしい。
大人の女性は大変だな。私にはその苦労はまだわからないが。
…………本当だぞ。
「お姉様、いったいどうするんですか?
さっきの戦いみたいな、ネギ先生のモビルスーツの動きは捕らえることはできませんよ」
「わかってます。私が『黒衣の夜想曲』で仕掛け、『百の影槍』でネギ先生をで追い込みます。
愛衣は無詠唱の『魔法の射手』を数を撃って牽制しつつ、タイミングを見計らって『紅き焔』を撃ちなさい」
「え? それは危険なのでは? 『紫炎の捕らえ手』の方が……」
「大丈夫よ。ネギ先生がわざと爆発を起こして身を隠したときのことを思い出しなさい。ネギ先生はあんな爆発の至近距離にいたのに、傷一つなく無事だったわ。それに先程のネギ先生のお話では、モビルスーツは“防御”も出来るということです。
だから、『魔法の射手』や『紫炎の捕らえ手』程度では効かないと思ったほうがいいわ」
フム、妥当な判断だ。確かにあの爆発で平気なら、『魔法の射手』で勝負をつけるのは無理だろう。
さて、ネギ先生はどう戦うのかな?
「打ち合わせは終わりましたか? それとルールは先程と同じでいいですか?」
「ええ、構いませんわ。どうぞ、モビルスーツを展開なさってください」
「それではお言葉に甘えます。
グッドマンさんも『黒衣の夜想曲』とやらを展開してください。どうせ展開前に勝負を決めるなんてことはしないつもりですから。
ラス・テル・マ・スキル・マギステル 『ユニコーンガンダム』!」
へえ、先程の『シナンジュ』とは違うモビルスーツだ。所々灰色部分があるが、全身真っ白な装甲。そして“ユニコーン”の名前の通り、額に一本角が生えている。
武器は腰の銃が1丁、あとは左手のシールドか。それとさっきのビームサーベルも持ってるだろうな。
「……ネギ先生は何種類のモビルスーツを使えるのですか?」
「5種類ですね。昨日の『リゼル』とさっきの『シナンジュ』、そしてこの『ユニコーンガンダム』。あとの2つはまた別の機会にでも。
用途ごとによって使い分けます。あえて言うならそうですねぇ…………“輸送機”と“巡航機”と“戦闘機”と“戦闘爆撃機”、あとは……“特殊機”といった感じでしょうか」
「ちなみにそれはなんですの?」
「“特殊機”ですよ。どこが“特殊”なのかはまだ秘密です」
…………“特殊機”というのがまた不安になってくる。どうせネギ先生のことだろうから、とんでもなく“特殊”なのだろうな。
グッドマン先輩も微妙な顔をしているし。
「それではタカミチ、開始の合図をお願いします」
「わかったよ。お互いに怪我のないようにね。…………ネギ君はちゃんと手加減すること。
それでは…………始めっ!」
「行きますわよっ!
『黒衣の夜想曲』ッ!」
開始の合図と共に、使い魔を背後に展開したグッドマン先輩がネギ先生に突っ込んでいく。
対するネギ先生は右手にビームサーベルを装備しつつ、突っ込んでくるグッドマン先輩ではなくその背後の佐倉さんに向けて、頭部から機関砲のように魔力弾を連続して撃った。
あんなところにも武装があったのか。
「きゃあっ!?」
撃った弾はあくまで牽制だったらしく、佐倉さんの魔法障壁にアッサリと弾かれていた。あの魔力弾は『魔法の射手』よりも数段弱いな。
だが、無詠唱の『魔法の射手』を撃とうしていた佐倉さんには奇襲で、ネギ先生に突っ込むグッドマン先輩の援護を出来ないでいる。
「愛衣っ!? …………くっ、ハァッ!」
ネギ先生に接近したグッドマン先輩が攻撃を仕掛けたために佐倉さんへの攻撃が止んだが、ネギ先生はその攻撃をヒョイッとかわす。
さっきの『シナンジュ』よりは遅いが、それでもなかなか早い。
グッドマン先輩が身体に纏っている使い魔のパンチなどは回避し、時折放たれる『影の槍』をビームサーベルで切り払っている。
ネギ先生はやはり体術もできるようで、手加減しているのにグッドマン先輩を軽くあしらっている。生まれつき持っていた魔力量やモビルスーツにおんぶに抱っこされているわけではないようだ。
「お、お姉様!
その位置だったら援護できません!」
そして佐倉さんは、ずっとグッドマン先輩の援護を出来ないままになっている。ネギ先生が佐倉さんの射線上に、常にグッドマン先輩を置くように戦っているからだ。
あの位置関係だったらネギ先生へ魔法を撃っても、グッドマン先輩に当たる恐れがある。
それに気づいたグッドマン先輩がネギ先生から距離をとろうとしても、自らグッドマン先輩に接近するか、グッドマン先輩を佐倉さんへの盾に出来るような位置に移動する。
「…………随分と戦い慣れているように見えるな。本当にこの模擬戦が初めてなのか?」
「本当ですよ。お兄様の対人戦はコレが初めてです」
「おや、アルちゃん。ネギ先生の手伝いはいいのかな? それと“対人戦が初めて”ということは、“人以外”となら戦ったことがあるのかい?」
「ええ。今回は私がいなくとも平気だそうです。それと“対人戦”以外では、ウェールズで熊やイノシシなどと少々」
「そういえばそんなこと言ってましたっけ。…………木乃香お嬢さまに変な影響与えなければいいのだが」
「それだけではあるまい。ネギは獣相手だけではなく、ちゃんと対人戦の修行もちゃんとしていたんだろう。魔法使いとしてではなく、現代の人間としてな。
そうだろう? …………えーと、アル……ちゃん?」
「はい。先程も言ったように、お兄様は軍隊や警察の資料で対人戦の勉強をいたしました。
現代のそれらの戦い方は魔法戦にも役に立つようで、お兄様は「基本は皆同じなんだ」と言っていましたね」
まあ、そうだな。
となると、ネギ先生は魔法を絶対のものとして思っておらず、むしろ道具の一つとして思ってそうだな。
「………………」
「? どうかなさいましたか、エヴァンジェリン様?」
「…………イヤ、なんでもない。
(どうしよう…………ネギの使い魔だし、躾もちゃんとされていて礼儀正しいから、“小動物”とか“オコジョ”とかで呼ぶのは可哀想だ。
でも“アル”と呼び捨てにすると、あの変態と被ってしまう。その方がもっと可哀想だ。
となると、やはり“ちゃん”付け? しかし、それは私のキャラではないぞ?)」
? 何考えてるんだ、エヴァンジェリンは?
━━━━━ 高音・D・グッドマン ━━━━━
…………この子、本当に強い。かれこれ5分以上攻撃を仕掛けていますが、まったく当たりません。
ネギ先生は防御と回避するだけで攻撃してきません。明らかに手加減されていますわ。
「…………グッドマンさんって、体術に関しては素人ですか?」
「な、何ですか。いきなりっ!? 確かに専門的に習ったことはありませんが…………」
「ああ、やっぱり。その背後にいる使い魔がパンチをするとき、同時にグッドマンさんもパンチする動作なされていますけど。正直、素人のパンチでどこ狙っているか丸分かりなんですよ。
だから簡単に避けることができます」
くっ、そういうことですか。
これは今後改善すべきですわねっ!
「サ、『魔法の射手・炎の三矢』ッ!」
なんとか援護できる位置に移動した愛衣の攻撃も、ビームサーベルで切り払われるか、頭から発射される魔力弾で迎撃されてしまいます。
このまま時間切れを狙うつもりかしら?
そうはいきません。例え敵わなくとも、せめて一矢報います!
「愛衣っ、仕掛けます。準備なさい! 『影よ』!」
「はいっ! ネイプル・メイプル・アラモード!」
「お? 複数の使い魔の使役ですか?」
影の使い魔を5体召喚します。
あまり多かったら攻撃するのにお互い邪魔になるので、このぐらいでいいでしょう。
「『百の影槍』!」
「ものみな焼き尽くす浄北の炎 破壊の王にして再生の徴よ 我が手に宿りて敵を喰らえ!」
私も5体の使い魔と共に、『百の影槍』で仕掛けます。
ネギ先生は左手にもビームサーベルを持って二刀流で迎撃するようですが、それだけでは防げません!
「ハァッ!」
クッ、しかし、さすがはネギ先生。
こちらの攻撃は一撃も当たることなく、『百の影槍』のほとんどが切り払われ、使い魔も2体斬り倒されました。
しかし、残りは迎撃出来ないらしく、押さえ込まれることを防ぐために私がわざと空けておいた隙間から強引に突破するようです。
「愛衣っ!」
「ハイッ、お姉様! 『紅き焔』ッ!」
だけどそこに待ち構えていた愛衣が、ネギ先生に向かって『紅き焔』を放ちました。
直撃コース! これなら回避できない! ネギ先生は盾を構えますが、これでダメージを与えられるでしょう!
「おっと、危ない」バシュウウウッ!!!
………………ハア?
「ま、魔法がっ!?」
「かき消された!?」
そんなっ!? 盾に当たった『紅き焔』がかき消された!?
『魔法の射手』ならともかく、中級魔法の『紅き焔』まで効かないのですかっ!?
くっ、詠唱魔法での防御ならともかく、あらかじめ持っていた盾で防がれるとは思いませんでした。
これでは愛衣の攻撃が何も通じないということに…………。
「『影よ』!」
愛衣と合流して出せるだけの使い魔を壁役として出しますが、正直打つ手がありません。
愛衣の魔法は効かないし、私の『黒衣の夜想曲』ではネギ先生を捕らえれません。
…………いったいどうすれば?
「今のは良かったですよ。でも、『紅き焔』を撃って気を抜いたのは駄目ですね。
グッドマンさんもそういうときは追撃してこないと。せっかくの遠隔操作式の使い魔で倒されてもグッドマンさんには被害はないのですから、使い魔を特攻させて僕の動きを封じるとかした方が良いと思いますよ」
「クッ…………何故攻撃してこないのですか、ネギ先生!?
私達には攻撃する価値すらないということですか!?」
「え? いや、そういうわけじゃありません。
ただ、ちょっと気になることが…………」
「何ですか、いったい!?」
「グッドマンさんは影で衣服を編んで防御力を上げていると思うんですが、気絶とかしたらどうなるんですか?」
「…………それは、編んでいる服は……なくなってしまいますわ」
「そうですよね。僕のモビルスーツもそういうのですし。
で、服変わったら、肩とか露出するようになりましたけど、その下って何か着てますか?
というか、なんで制服のときより露出が多く? 防御服なんだから全身を覆えばいいのに…………」
…………う。私のこの魔法は通常で防御力3倍、肌に密着させれば7倍になりますので、最大の防御力を得るために今は肌に密着させています。
つまり、この下は何も着けていません。
気絶してしまったら、この模擬戦を見ている周りの大勢の魔法先生達に肌を見られることに…………。
!! そのことに気づいた愛衣がカクカクと震えだしてしまいました。
「まあ、女の人と戦うのはイヤだと言うつもりはありませんが、さすがに女の人を裸に剥くというのは勘弁して欲しいんですけど…………」
「あ、ありがとうごじゃいましゅ。ネギ先生…………」
め、愛衣が幼児退行してますわ!?
ネギ先生が本気を出さなかったのは私のせいですか!?
…………私の負けですわね。自分のことだけではなく、戦う相手のことすら考えることが出来るなんて。
思えば、私は“頭が固い”と注意されたことがありますわ。もっと視野を広く持つべきですわね。
自らの視点に凝り固まってしまうのは、確かに“偉大な魔法使い”としてふさわしくありません。
これからは自分のことだけでなく、相手のことも考えて行動することにしましょう。
フフ、まさか10歳のネギ先生に教わることになるとは。感謝しますわ、ネギ先生。
「ネギ先「というわけで、グッドマンさんを気絶させずに取り押さえようと思います」…………え?」
続けるのですか?
━━━━━ 瀬流彦 ━━━━━――――――
ネギ先生はやはり紳士だなぁ。コレが英国紳士って奴かな?
でも高音君にはこの模擬戦が良い経験になったろうね。頭の固い方のガンドルフィーニ先生でさえも、たまに高音君に頭が固いことを注意するぐらいだったんだから。
「やっぱりネギ先生はズレているな」
「ああ、さっきのグッドマン先輩の顔からすると、もう少し待てば負けを認めていただろうな。
なんか感動していたみたいだし…………」
「そうだな。ガキだからしょうがないが、ネギは女心がわからないタイプだろう」
「しょ、しょうがないんじゃないかな。ネギ君はまだ10歳なんだし…………、ハハハ……」
…………まあ、10歳だからねぇ。10歳であんなに戦闘能力があるのは驚きだけど。
僕じゃ絶対勝てそうにないな。
「さて、それではいきますよ。怪我はさせませんから、安心してください。
“MM-D”システム発動」
“MM-D”システム? ネギ先生がそう言った瞬間、モビルスーツが変形、イヤ、変身した。
全身の装甲が展開し、顔を覆っていた白いのっぺらぼうなフェイスガードが上がり、その下から人の顔のように見えるフェイスガードがまた現れた。
そして、ユニコーンの名の通り額に生えていた一本角がV字に割れて金色に、展開した装甲の露出部分が赤く光りだした。
…………カッコ良いじゃないか!
昨日もそれらしきこと言ってたけど、ネギ先生ってロボットアニメとか好きなのかな?
10歳らしいところもあるね。ウン。
「この魔力は…………」
「ネギ先生が“特殊機”と言ったのはこのことか」
「イヤ、どうせネギのことだ。絶対まだ何か他にあるぞ」
「ネギ君だからねぇ……」
…………最近、高畑先生っていろいろと諦めかけてない?
ゾワッ!
ネギ先生のフェイスガードの人の目に見える部分が光ったと思ったら、急に違和感…………というか悪寒が体中に走った。
何だ今の? どうやら感じたのは僕だけじゃないらしく、周りの皆もキョロキョロと辺りを見回している。
そうこうしている間に、ネギ先生が動いた。高音君達を右手で指差した後、掌を上に向けて力強く握り締める。
その瞬間、ネギ先生と対峙していた筈の15体の高音君の使い魔が、ゆっくり高音君達の方へと振り返り始めた。
「!? 『影よ』ッ!?」
「お、お姉しゃま……!? なんでしゅか、いったい!?」
高音君が動かしているわけではないのか!?
…………まさかネギ先生が!? 他人の使い魔を操ることが出来るとでもいうのか!?
「『影よ』ッ! ………………そ、そんな?」
「お姉しゃま……キャアッ!」
影の使い魔が高音君達を襲い始めた。
佐倉君は3体の使い魔に襲われた。1体に箒を奪われ、もう2体で身体を拘束された。
「め、愛衣っ!
クッ、私がわからないのですかぁっ!!!」
身に纏っている使い魔本体は未だ高音君のコントロール下にあるらしく、高音君は使い魔本体で襲い掛かってきた残り12体の使い魔へ応戦しているが、あまり持たないだろう。
何よりネギ先生がそんな隙を見逃すはずがない。
左腕に装備していた盾を捨て、両手でビームサーベルを構えたネギ先生がその場から忽然と姿を消したと思うと、赤い光が走って高音君の横を通り過ぎた。
通り過ぎた後に残ったのは、上半身と下半身の2つに断たれた使い魔本体だった。
……瞬動、なのかな?
高音君は使い魔本体を失ったので使い魔に取り押さえられている。佐倉君も既に取り押さえられているし、コレで勝負ありだろう。
と、思ったら、10体の使い魔でグッドマン君達をグルリと囲んで壁を作った。これでグッドマン君達の様子が見えなくなってしまった。
「…………僕の勝ちです。
大丈夫ですよね? グッドマンさん意識ありますよね? 服脱げたりしてないですよね?」
「……だ、大丈夫ですわ。ですから早く使い魔を退けてくださいまし」
「わかりました。とりあえず使い魔がお二人の周りに壁になってますので、落ち着いたら教えてください」
「あ、ありがとうごじゃいましゅ。ネギ先生…………」
これが“特殊機”の力か……。
他人の使い魔のコントロールを奪ったり、凄いことを出来るんだなぁ。ネギ先生は。
……それにしても、幼児退行気味の佐倉君は大丈夫かな?
━━━━━ 後書き ━━━━━
エヴァンジェリンが“逆光源氏計画”を企み始めたようです。
ちなみに、ナギが生きているだろうということをエヴァに話していません。
それどころか“学園結界”で力を封印されていることも話していませんw
モビルスーツ紹介(Wikiから抜粋+個人的感想)
『ユニコーンガンダム』
パイロットの精神波に反応する構造材“サイコフレーム”で、機体の駆動式内骨格“ムーバブルフレーム”全てを構築した史上初のフルサイコフレーム機であり、極めて高い機体追従性を発揮する。
通常は、一角獣の名の由来である額のブレードアンテナである一本角とフェイスガードに覆われたゴーグル状のカメラアイが特徴の“ユニコーンモード”で運用される。
限界稼動状態では、全身の装甲が展開し体格も一回り拡張、ブレードアンテナがV字型に割れガンダムタイプの顔が現れ、“デストロイモード”に変身する。
この際、露出したサイコフレームが眩く発光するのが特徴である。
インテンション・オートマチック・システムというパイロットの感応波を拾い上げ、行動に直結することができるシステムを搭載している。
連動する機体のフル・サイコフレームに直接思考を反映させることで、実際に操縦するよりも速く機体を動かすことができ、パイロットは操縦をすることなく考えるだけで、その動作がダイレクトに機体に反応される。
最初、雑誌で“ユニコーンモード”の画像を見たときは正直微妙な感じでしたけど、“デストロイモード”は格好良いのではないでしょうか。
シナンジュのほうが好きですがねw
この作品での“デストロイモード”は、常に“瞬動”クラスの速さで自由自在に動けるが、同時に『咸卦治癒』を発動してないと3分でバタンキュー、といった感じです。
詳しくはガンダムUCの第三話をご覧ください。