━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━
「それっ!! 女子高生アタックーーー!!」
「蹴り足ハサミ殺し!」
パァッーーーン!!!
あ、いけね。
バレーボール破裂させちゃった。
「ア、アレは“蹴り足ハサミ殺し”!?」
「知ってるの!? ゆーな!?」
「“蹴り足ハサミ殺し”とは、敵の打突を肘打ちと膝蹴りで挟み潰す高等技術よっ!!!」
「私も弟の漫画で見たことあるわ!」
━━━━━ 高畑・T・タカミチ ━━━━━
「本当にごめんなさい」
「いえいえ、大丈夫ですよ。このボールも古くなってたみたいですからね」
昼休みも終わる頃、職員室に戻って次の授業の準備をしようとしたらネギ君が体育の先生に謝っていた。
何か問題でもあったのかな?
「やあ、ネギ君。何かあったのかい?」
「あ、タカミチ。昼休みに2-Aの皆さんとバレーボールしてたんですけど、僕がボールを受けとめたときに破裂しちゃいまして。
体育の先生が言うにはもう古くなってたみたいですけど」
「そうかい。怪我はないみたいだね。それなら何よりだ」
ネギ君が担任補佐として赴任して、今日でもう2週間が経った。2-Aの皆にも受け入れられているようで何よりだ。
女の子の扱いも、ネカネさんやアーニャ君と過ごしていたから落ち着いて対応している。メルディアナでも年上の後輩に魔法を教えていたというから、年上相手にも授業もちゃんと出来ている。
まるで教師の経験があるみたいだったな。
「ところでタカミチ。今日の居残り授業のことですけど」
「うん。前から言っていたように、僕は今日の授業が終わったらしばらく出張に行かなくちゃいけなくてね。
ネギ君には悪いけど、居残り授業と明日からのホームルームをよろしく頼むよ」
「居残り授業は別に構いませんよ。明日菜さんの勉強を夜に少し見てますけど、それでは他の人に不公平でしたからね。
明日からも、何かあったらしずな先生に相談しますから大丈夫です」
「はい。ネギ先生のことは任せてくださいな、高畑先生」
「ハハハ、よろしくお願いします」
アスナ君か。今日の英語の小テストで良い点数を取ったのには正直驚いちゃったな。
やっぱりアスナ君はやれば出来る子なんだよ。ウン。
ネギ君とも良い関係が築けているようで何よりだ。
いやぁ、何か職員室のコーヒーがいつもより美味しく感じられるなぁ。
「そういえば、タカミチって明日菜さんとデートとかしてるんですか?」
「ブフォッッッ!?!?」
………………コーヒー吹いた。まさか僕もエヴァと同じ目に遭うとは…………。
というか職員室で何を言い出すんだ、ネギ君。
周りの先生が見ているじゃないか。僕はアスナ君の後見人とはいえ一応教師なんだから、女子中学生とデートなんか出来るわけないだろう。。
「アラアラ、ネギ先生。
いったいどこからそのようなお話が出てきたのですか?」
しずな先生が何か怖い…………。
よくネギ君は正面からあのプレッシャーを受け止められるな。よくわからないような顔をしてるけど、本当に気づいていないのか?
「? ウチのクラスの明石さんが「日本人の女の子の初恋はお父さんなんだよ!」って言ってましたよ?
明石さんは休日に明石教授の部屋の掃除をしたり、デートをしたりして過ごしているそうです。
タカミチは明日菜さんの後見人ですよね。だったらタカミチは、明日菜さんのお父さんみたいなものじゃないんですか?」
…………ああ、なるほど。そういうことか。
よかった。周りの先生からの視線も減って、しずな先生のプレッシャーも小さくなった。
「オホホホホ、そういうことでしたか。
確かに明石さんは明石教授のことが大好きですからねぇ」
「そうですね。明石教授からも娘自慢を聞かされることもありますし、あの親娘は仲が良いですよね。
ああ、でもそうだなぁ。アスナ君が小学生の頃はいろいろと遊びに連れて行ったけど、中学生になってからはほとんどないなぁ。
………………もしかして、アスナ君に何かあったのかい?」
「特に何かあったというわけじゃないんですけどね。まだ明日菜さんとも2週間しか付き合いがないですし。
でも、学費を早く返すために新聞配達のアルバイトを頑張っているのを見ると、明日菜さんって責任感が強いというか、一人で頑張ろうとしているように見えてしまうんですよね。
タカミチは明日菜さんから弱音とか聞いたことあります? 勉強関連以外で」
ム、最初は何なのかと思ったけど、意外に真面目な話らしい。
…………アスナ君の弱音か。小学生の頃は雪広君とのことをよく愚痴っていたけど、そういえば最近は個人的なそういうのは無かったな。
そういえば僕はアスナ君の保護者なのに、被保護者から一度もそういう相談や弱音を聞いたことがないというのはマズイかな?
確かにアスナ君は頑張り屋さんだから、最近はそれに甘えてアスナ君に気を払っていなかったかもしれない。
アスナ君が普通の女の子として暮らしていることに喜んでいたけど、少し平和ボケし過ぎていたか…………。
何をやっているんだ、僕は。
彼女はガトウさんから託された大事な女の子なんだぞ。
「…………ありがとう、ネギ君。確かにアスナ君が何も言ってこないことに甘えていたかもしれない。これから注意してアスナ君を見てみるよ。
といっても、しばらく出張に行かなきゃいけないから、悪いけどネギ君もアスナ君を見ていてくれないかい?」
「わかってます。明日菜さんにはお世話になっていますからね。
まあ、男性には言えない悩みなんかを持ってた場合だと、しずな先生に力を借りることになると思いますけど。例えば、恋の悩みとか…………」
「ハハハ、その場合は僕でも一緒さ。しずな先生、そのときはよろしくお願いしますよ」
「ハイ。そのときはお任せくださいな」
「そういえば明日菜さんに彼氏でも出来たら、タカミチはどうします?
やっぱり「ウチの娘が欲しかったら僕を倒してからにしろ!」とでも言うんですか?」
「おいおい、僕はそんなステレオタイプな厳格な父親じゃないよ。アスナ君が選んだ男ならグダグダ言ったりしないさ
というか、いったい何処でそんなことを覚えたんだい、ネギ君?」
「アラ? 高畑先生は案外子煩悩なタイプだと思いますわよ?」
………………まあ、あんまり酷いようなら僕の『居合い拳』が唸ることになるかもしれないけどね。
でも、きっとアスナ君が選んだ男ならおそらく大丈夫さ…………多分。
しかし…………アスナ君に彼氏かぁ。
もう中学生3年生にもなったのだから、そういう話が出てきても当たり前の話なのかな?
でも僕にはそういう関係の話は出来ないから明石教授辺りに相談してみようか。あの人もアスナ君と同い年の娘さんを持っているのだし…………。
「明日菜さんは「大人の男性」がタイプって言ってましたけどねぇ。
明石さんが言っていたことを置いといても、案外タカミチのこと好きなんじゃないですか? というか、明日菜さんと接する機会がある男性ってタカミチの他にいます?」
え? …………えーっと、同僚の瀬流彦君みたいな男性教師と…………部活は麻帆良女子中の学内の部活だから男性はいないな。それに顧問は僕だし。
あ! アルバイト先の新聞販売店のお父さん…………って駄目じゃないか! 僕より年上だし、何より既婚者だろ!
…………アレ? そう考えると、アスナ君は男性と接する機会って少ないな。
女子中に通って女子寮暮らし、しかもアルバイトで忙しいとなるとしょうがないのかもしれないけど。
「アラ、ネギ先生の話が現実味を帯びてきましたわね」
「ちょ、からかわないでくださいよ、しずな先生。そんなことあるわけないじゃないですか。
アスナ君は僕にとって、妹というか娘みたいな女の子ですよ」
「ハァ、駄目ですよ高畑先生。中学生をそう子供扱いしては。今のあの子たちは丁度大人と子供の中間で、とても不安定な年頃なのですから。
それに大事なのは高畑先生の気持ちではなく、神楽坂さんの気持ちですわ」
「…………う、すいません」
「ア、アハハ…………ごめんなさい。変な話題振っちゃったみたいですね。
明日菜さんがタカミチのことを男性として好きなのかどうかはわからないのですから、そこまで気にしなくていいのでは?」
「確かにそうですわね。
でも、もし告白されてしまった場合は、子ども扱いをしないで一人の女性として相手を見て、お茶を濁さずにちゃんと返事をなされた方が良いと思いますよ」
「…………そうですね。そんなことがあるかどうかわからないですけど…………。
もしその時が来たら、真剣に返事をしますよ」
「アラ? 受け入れるのですか?」
「いえいえ。さっきも言ったようにアスナ君は僕にとって、妹というか娘みたいな女の子です。
アスナ君の気持ちは嬉しいですけど、受け入れることは出来ませんよ」
「イヤ、まだ告白されてもいないんだから、別に断ることに決めなくても良いんじゃないかなぁ…………なぁんて………………アハハ…………ハ?」
そうだなぁ。アスナ君ももう中学生なんだ。そういうのに興味が出てきても当たり前なんだよなぁ。
彼氏とかを連れてきたら正直言って微妙な気持ちになるだろうけど、アスナ君の見る目を信じることにしよう。アスナ君が選んだ男ならきっと大丈夫さ。
…………おっと、いけない。もうこんな時間か。
早く準備しないと次の授業に間に合わなくなるな。
それと今回の出張から戻ったら、アスナ君と少しゆっくり話してみようかな。
最近はあまり話し合いとかはしてなかったから、丁度良いだろう。
ところで、何でネギ君は「やっちゃったよ…………」みたいな顔をしてるんだろう?
━━━━━ 桜咲刹那 ━━━━━
…………今日の英語の小テストでバカレンジャー全員に負けちゃった。
最近あの5人は勉強を頑張っていたみたいだけど、負けたのは正直に言ってショックだった。
ああ、この前のネギ先生の言葉が胸に突き刺さる。
模擬戦からしばらく経った日、朝に夕凪で素振りをしていたらネギ先生がいきなりやってきた。
…………一応夕凪を扱っていたので、護符で人払いはしておいたはずだったんだがな。
それにネギ先生が近づいてきたことに全然気がつけなかった。ネギ先生は気配遮断が凄い上手みたいだ。
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「おはようございます、桜咲さん。
朝の鍛錬中に申しわけありません。少しお話がしたかったものですから」
「お、おはようございます、ネギ先生」
「学園長から木乃香さんの護衛をしていることは聞きました。僕に手伝えることがあったら遠慮なく相談してくださいね。
いやぁ、木乃香さんのお父さんが“青山詠春”さんだったとは思ってもいませんでしたよ。ああ、木乃香さんに魔法を秘密にしておきたいというのも聞いてますので大丈夫です。
それでなんですが、桜咲さんの成績のことで少々お話が…………」
「ハ、ハア…………私の成績、ですか?」
「ええ。…………その、成績落ちきてますよね。
麻帆良に入学当初は“中の上”ぐらいだったんですが、最近は“下の上”と“下の中”の中間ぐらいですよね」
「う!? た、確かに私は勉強があまり得意ではないですが…………。
木乃香お嬢さまの護衛と腕を磨くための鍛錬もありまして、なかなか勉強する時間が取れないのです…………」
「ええ、それはわかります。僕も担任補佐の仕事だけで手一杯だから、他の人たちみたく“魔法先生”として働けていないです。だから二束の草鞋が大変なのはわかります。
しかしですね、エスカレータ式で高校に入学出来ても、高校には“留年”というものがあるんですよ。桜咲さんは徐々に勉強に着いていけなくなったのかもしれませんけど、どんどん成績が下がっていってます。
この調子で高校に入っても成績が下がるようなら、おそらく留年しちゃいますよ」
「…………りゅ、留年ですか?」
「ええ、そうです。実際問題、留年しちゃったらどうします? 木乃香さんの護衛のために同じクラスにいるんですよね? 留年して学年違うようになったら、護衛に支障が出るんじゃないですか?
まさか学園長に、「このままでは留年してしまいます。木乃香お嬢さまの護衛のために、成績に下駄を履かしてください!」とでもお願いするわけにはいかないでしょう?」
「ま、まさか!? そのようなこと学園長に頼めるはずありません!!!」
「ですからね、授業はちゃんと受けましょうよ。あとで困るのは桜咲さんですよ。
それに2-Aにはエヴァさんとか龍宮さんがいるじゃないですか。女子寮にいるときとかならともかく、授業中に何かあったらあの二人も対処してくれるから大丈夫ですよ。
龍宮さんはあとで料金を請求されるかもしれませんが、きっと力を貸してくれます」
「ええ、まあ。確かに龍宮なら報酬を用意すれば力になってくれるでしょう。
しかし、エヴァンジェリンさんが力を貸してくれるとは思えないのですが…………」
「何を言っているんですか?。
もし教室にいるときに、エヴァさんの目の前で木乃香さんに危害が加わるようなことがあったら、犯人は「“闇の福音”なんぞ恐れるに足らず」と言っているのと同じです。そんなこと、あのプライドの高いエヴァさんが許すわけないでしょう。
まあ、その場合は木乃香さんを守るためではなく、自分をコケにした奴を〆るという感じになるでしょうけどね」
「た、確かに…………」
「だから授業時間ぐらいは授業に集中してください。今でも木乃香さんのこと気にしてて、勉強に手が付いていないじゃないですか。今から勉強を頑張れば、高校に入ってからも安心できますよ。
それに今はまだ赤点とって補習を受けることはないみたいですけど、もし補習を受けるようなことになったら護衛の方も大変ですよね」
「それはそうです。正直な話、今でも完璧に木乃香お嬢さまの安全を確保できているというわけではありません。
補習なんかを受けるようになった場合は、もっと護衛出来なくなってしまいます」
「僕のお世話になっている木乃香さんの部屋には入りにくいでしょうから、まずは放課後に行なわれる居残り授業に参加してみてください。他のバカレンジャーの皆さんも参加予定です。
剣道部に参加する時間を削れば大丈夫でしょう。
きっと「勉強会に参加したい」と言えば、顧問の先生だって許してくれる筈です。むしろ喜んで送り出してくれる筈です」
「え? 何でそう思うんですか?」
「え? …………べ、別に顧問の先生に話を聞きに行ったわけじゃないデスヨ。
そ、そうだ! 英語だけでなく他の4教科も僕は出来ますので、わからないところがあったら遠慮なく質問してくださいね。
それでは朝の鍛錬中にお邪魔しました!」
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………………ネギ先生の逃げ足は速かったなぁ。
というか、“他のバカレンジャー”ってことは、私もバカレンジャーと思われているのか?
アハハ。バカレンジャーじゃないな。英語の小テストで負けたんだから、私が下だよなぁ。
レンジャーじゃなくて悪の組織の下っ端戦闘員だな。
それともアレか? 途中加入の6人目か?
私は何色だ? 緑か? 白か? 銀色か?
フフフフフ、きっと白やな。どーせウチは禁忌の忌み子なんや…………。
結局、私は居残り授業に参加することにした。
さすがに学園長に、「このままでは留年してしまいます。木乃香お嬢さまの護衛のために、成績に下駄を履かしてください!」なんか言えない。
それにもし留年してしまったら、私を信じて木乃香お嬢さまの護衛にしてくれた長に何てお詫び申し上げればいいのだろうか?
…………何だろう。木乃香お嬢様が私を見つめていらっしゃる。
そんなとき、以前だったら申し訳なさで心が張り裂けそうになったのに、今は申し訳なさで心が萎みそうになる。私はどうしてしまったのだろう?
ハハハ、これじゃ護衛失格だな。
イヤ。まずは勉強を頑張らなければ。
もし本当に護衛をクビになってしまったら、私は何をしていいかわからなくなる。
ネギ先生には感謝しなければ。確かにこのまま高校に進んでいたら、確実に不味いことになっただろう。
最悪なことになる前に解決出来るチャンスを手に入れることが出来た、と前向きに考えよう。
神楽坂さん達だって勉強を頑張っているんだ。
私だって頑張らなければ。
アレ? そういえば何で神楽坂さんは落ち込んでいるんだろう?
せっかくの居残り授業なのに。
イヤホンで何かを聞くまでは元気だったのになぁ…………。
━━━━━ 神楽坂明日菜 ━━━━━
…………ああ、協力ありがとうね、ネギ。大丈夫よ、まだ生きているわ。
テープレコーダー返すわね。こんなことに貸してくれてありがとう。
…………ううん。別にネギが悪いわけじゃないわ。
何となくわかっていたことなんだから…………。
…………うん、大丈夫よ、木乃香。コレぐらいへっちゃらだって…………。
………………ゴメン、木乃香。今日はネギ貸して頂戴。
え? 抱いて寝たら、暖かくて気持ち良いんでしょ?
大丈夫大丈夫。明日も新聞配達のアルバイトあるから早めに寝なきゃね。
…………。
……………………。
………………………………終わった。私の恋。
【ネギの被害者リスト】
メルディアナ学校長:燃やされた
カモ:去勢された
鳴滝姉妹:悪戯し掛けて返り討ち
エヴァンジェリン:紅茶吹かされた
バカレンジャー:勉強地獄
学園長:初恋の人を成仏させると言われたせいで胃痛
さよ:知らないうちに成仏させられるところだった
魔法先生一同:「この子ホントにどうしよう?」という困惑
愛衣:幼児退行させられた
高音:露出狂の嫌疑かけられた
刀子:露出狂の嫌疑かけられた
バレーボール:破裂させられた ← new!
タカミチ:コーヒー吹かされた ← new!
刹那:勉強地獄+バカホワイト就任 ← new!
明日菜:失恋 ← new!