━━━━━ 神楽坂明日菜 ━━━━━
…………目が覚めた。もう朝か。
ハァ……今日は新聞配達が休みの日だっていうのにいつもの時間に起きちゃったわ。習慣って怖いわね。どうせならバイトの日にこうやって自然に起きられればいいのに。
「…………ン…………」
そして私の目の前にはネギの頭がある。私の腕はネギを抱き枕のようにガッチリと抱きしめている。
…………あの日から、ずっとネギを抱き枕にしてるわね。
いい加減にやめようと思うんだけど、ネギの温もりが気持ち良くてやめることが出来ない。
ネギには迷惑かけちゃったわねぇ。最初の日なんて、私が寝付くまでずっと背中をポンポンと優しく叩き続けてくれちゃってさ。
10歳児に甘えるなんて、やっぱりかなり参っちゃってたのよねぇ。
ネギがいてくれて助かったわ。さすがに木乃香に一緒に寝てくれるように頼むなんて出来ないからね。
そういえばネギのことなんだけど、少しわかったことがある。
夜寝るときは私の方へ顔を向けている状態だったとしても、朝になると私に背中を向けている状態になっているのよね。
コッチ向いて寝るのは恥ずかしいのかしら? 寝る場所を左右入れ替えても、いつの間にか背中を向けてるし。
そしてこの状態でギューっと抱きしめると、寝苦しいのか腕の中から逃げ出そうとする。
ここで抱きしめるのをやめると逃げ出そうとするのもやめるのだけど、このまま抱きしめ続ける。
「…………ン、ン~…………」
しばらくすると諦めたのか、逃げ出そうとするのをやめる。
そしてネギを抱きしめている私の腕に手を重ねてきて、逆に私の方へ頭を擦りつけてくる。
「…………ン…………」
そしてまだギューっと抱きしめ続けていると、今度は私の方へ振り向いて甘えるように抱きついてくる。
実を言うと、この甘えてくるような感じのネギの顔が可愛くて好きだ。
いつもは教師をしているためかニコニコと笑っているような表情を変わらずにしているけど、この甘え顔を見ていると作っているような笑顔だったと感じちゃった。
まあ、10歳で教師をするんだから、多少は表情を作るだろうけどね。
だけどこのときばかりは、本当に年相応のあどけない顔をして甘えてくるのだ。
エヘヘ、可愛いなぁ…………。
…………いんちょみたく、ショタコンじゃないんだけどなぁ。
私が好きなのは高畑先生みたく、大人の男性な筈なんだけど…………。
…………高畑先生ぇ…………。
私って、“大人の男性が好きだから高畑先生を好きになった”んじゃなくて、“高畑先生が好きだから大人の男性が好きだった”みたいね。
渋いオジサマを見ても近頃は全然ドキドキしないし。
きっと渋いオジサマに高畑先生を重ねて見ていたからドキドキしていたのね。
ああ、もう! どうしたらいいのかしら!?
「…………ン、ン~…………」
あら、いけない。
ちょっと強く抱きしめすぎたかしら?
ごめんね。よしよし…………。
「…………ン…………」
…………うう、もうショタコンでもいいかなぁ。高畑先生はどうせもう無理なんだし。
あんだけ喧嘩してたいんちょには激怒されるかもしれないけどね。
いつまでもこのままじゃいけなのよねぇ。ずっとネギに甘えてるわけにはいかないし。それでも、もう少しばかりこの温もりを感じていたいわ。
さすがにあの恋の終わり方はショックだったし…………。
……………………3年生、3年生になったら本気を出すわ。
だから、もう少しこのままで…………。
━━━━━ 近衛木乃香 ━━━━━
「それでは、これより臨時2-Aクラス会議を行ないますわ!」
「いきなりクラス会議って何なのよいいんちょ~?
しかも高畑先生もネギ先生もいないじゃん」
「高畑先生にお願いして、2時間ほどネギ先生を教室に近づけないようにしていただいてます。
今日の会議の議題は、間近に迫った“バレンタインデー”についてです!」
確かにバレンタインデー近いなぁ。
でもいきなり放課後に残るように言われたけど、そのバレンタインがどうしたんやろ?
それと毎年高畑先生に渡すアスナのチョコ作りの手伝いしてたけど、今年はどないする気なんやろか?
「はーいっ! 私はお父さんとネギ君に渡しまーす!」
「あーっ! ゆーなズルーイ! 私もネギ先生に渡すーーーっ!」
「のどか、チャンス到来です。バレンタインで勝負に出るのです」
「は、はわわわわ…………」
「静粛に! 静粛に! そのバレンタインデーに対しての会議ですわ!!!
長谷川さん! 説明をお願いします!!!」
「わ、私かよ!? いいんちょからしろよ…………」
「発案者は長谷川さんでございましょう」
? なんなんやろ?
ウチもネギ君と一応おじいちゃんに渡して、他の皆にも配ろうかな~。
そ、そしたらせっちゃんにもチョコを自然にあげれるし…………。
「あ~、わかったわかった。発端はいいんちょがバレンタインに企んでた企画だ。
いいんちょはネギ先生のために麻帆良で一番有名な洋菓子店を貸切にして、ネギ先生をそこに招こうとしてたんだよ…………」
「え~~! いいんちょズルイよ。バレンタインデーにネギ先生を独り占めしようなんて…………」
「てゆーか、一番有名な洋菓子店ってどこなの? 私達も招待してよ~」
「わ、わかっておりますわ! ですからこの場で皆さんと会議をしているのでしょう!」
「…………話し続けていいか?
いいんちょがそういうことを企んでいたとすると、クラス全員が何かしら企んでいるんじゃないかと思ってな。そうじゃなくてもネギ先生にチョコ渡すような奴が大半だろう。
それでなんだが…………例えば日持ちしないチョコケーキなんかをクラスの皆からたくさん渡されたとしたら、その場合ネギ先生ならどうすると思う?」
あ~、なるほどなぁ。
そういうことかいな。
「きっとネギ君なら、無理してでも皆の分食べるやろうなぁ」
「だろうな。ネギ先生は生徒から貰ったモン捨てるようなことは出来ないだろうし。
まあ、貰う量にもよるだろうが、ヘタしたら食いすぎで腹壊すだろうな」
「そんなことあってはなりませんわ!
ですので! バレンタインデーは2-A全員で抜け駆け無しのチョコレートパーティーを開くことにいたします!」
「いいから落ち着け、いいんちょ。
まあ、バレンタインデー当日はきっとこんないいんちょみたく、騒ぎが大きくなって収拾が収まらないようになるだろうな。
しかもコトが大きくなればなるほど、ネギ先生のホワイトデーの負担がでかくなってくる」
「そうねぇ。ネギはそういうところは生真面目だから、ヘタしたら“3倍返し”をマトモに信じるかもしれないわね」
「さすがにそれは可哀想…………」
「そういうことならチョコレートパーティーに賛成~!」
「ム、せっかくのどかのアピールチャンスだったのですが、そういう事情ならば致し方ないと思うのです」
「そ、そうだね。ネギ先生がお腹壊したりしたら嫌だもん…………」
そういうことならウチも賛成やわ。
それにネギ君の歓迎パーティー以来、特にそういうのやっておらへんかったから丁度ええしな。
「というわけで、役割分担を決めるぞ。
まあ、“当日のパーティーの準備をするグループ”、“2、3日は持つチョコを作るグループ”、“長期保管出来て、仕事中にもつまむことの出来るチョコを作るグループ”ぐらいでいいと思うが」
「そうですわね。せっかくのバレンタインですので、パーティーの他にもチョコレートを渡すべきでしょう」
「とりあえず、四葉とか超みたいに料理上手なのと、私みたいに料理に自信無いのに別れてくれ。
それからくじ引きで料理上手がそれぞれにちゃんと入るようにしよう。全員が飯マズだったら悲劇だからな」
「人数はどうするの?」
「バレンタインデー当日のパーティー担当グループが20人、残りが5人ずつでいいと思う。
パーティーは飾り付けとかもいるだろうし、パーティーでチョコだけってのも淋しいので、他にもクラス全員分の料理を作ったりするだろうから20人。
送るチョコを作るグループはたくさん作りすぎても迷惑だろうからそれぞれ5人ずつ」
「そんなところでしょうね。それにしても長谷川さんには感謝いたしますわ!
こう言ってはなんですが、長谷川さんはどこかクラスメートから一歩引いたところがありましたから、積極的にクラスのことを考えていただけるようになって何よりですわ!
ネギ先生がいらしてからバカレンジャーの皆様の成績も上がっていますし、本当にネギ先生は2-Aの救世主で…………ま、まさか、長谷川さん! あなたもネギ先生のことを!?」
「ちげーよっ! ネギ先生のことになるといいんちょが暴走するからだろうが!!!
(…………クッ、落ち着け。これでいいんだ。どうせクラスの奴らに自重しろといっても聞くわけがない。だったらコントロール可能な範囲になるように誘導するまでだ。
いくらなんでも、あのガキが腹壊して寝込んだら可哀想だしな)」
ならウチは料理に自信があるグループやな。
わー、これは楽しみや。…………パーティーの次の日の体重計が怖いことになりそうやけど。
くじ引きの結果、ウチは“長期保管出来て、仕事中にもつまむことの出来るチョコを作るグループ”やったわ。
えーっと、他のグループメンバーは、超りんとエヴァちゃんと千雨ちゃんと…………せっちゃん。
!!! せっちゃん!?
…………せっちゃんと同じグループになってもうた。
チャンスや! ウチもネギ君見習って、せっちゃんに真正面から立ち向かうんや!
「よかったじゃないか。居残り授業で面倒かけている礼が出来るぞ。
なぁ、桜咲刹那?」
「グハァッ!!!」
「オヤ、死んだネ」
「生真面目な奴ってメンドイな」
せっちゃーーーんっ!?
死んだらアカンーーーっ!!!
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「さて、打ち合わせを始めるネ。
最初に改めて確認しておくけど、料理に自信があるのは私と木乃香サンでいいカナ?」
「私は調理実習レベルだな。寮でも自炊はしていないし」
「出来んわけではないが、菓子作りは自信があるわけではないな」
「ウチはいつも寮でアスナとネギ君のご飯作っておるえ。ネギ君も手伝ってくれるから、最近は楽になったわぁ。
チョコ作りも去年まで毎年アスナに付き合っていたから、そこそこは出来るえ」
「……………………」
「…………返事がないヨ。ただのしかばねのようネ」
…………せっちゃんが落ちこんどる。こんなとき何て言えばいいんやろ?
「ま、イイネ。なら私と木乃香サンが中心になて作るとして、どういうのを作るのかダヨ」
「やっぱり“仕事中にもつまむことの出来るチョコ”なら、食っても手が汚れたりしないほうがいいな」
「あー、そういうことやな。じゃあ、仕上げにココアパウダー振り掛けたりするのとかはアカンなぁ」
「となると、銀紙とかで包んだボンボン・ショコラとかだな。ウィスキーボンボンとかでいいんじゃないのか?」
「…………ネギ先生は未成年ですよ」
あ、生き返ってくれたわ。
よかったぁ。あのままだと話しかけることも出来ひんかったからなぁ。
「そういえば確認し忘れていたが、ネギ先生って好き嫌いあるのか? 超包子では出されたモン全部食ってたけどよ。
他にもアレルギーとか大丈夫か?」
「好き嫌いはウチが知る限りあらへんわ。納豆とかもちゃんと食べるし、生卵も平気みたいやえ。アレルギーは…………どうやろ? そういえば確認し忘れてたわ。
でも、ネギ君の性格なら最初に言っといてくれるちゃうんかな? 少なくともチョコレートは平気やで」
「確かにネギは几帳面というか、生真面目な性格をしているからな。あったら事前に言っているだろう。
まあ、一応念のために確認しておいた方がいいな」
「そうやね。ウチが聞き出しておくわ。そしたら他のグループにも伝えなあかんな」
今や、勇気を出すんや!
ウチから動かなきゃ一生せっちゃんとはこのままになってまう。
「どんなのがええかな~………………せ、せっちゃんはどんなのがええと思う!?」
「え!? ………………わ、私にはわかりません」
「そ、そんな風に言わんと…………」
ウチはただせっちゃんと仲良くしたいだけやのに…………。
いや、諦めたら駄目や。
せっちゃんがウチを避けても、もっと根気よくアタックするんや!
「あ、あー…………ウィスキーボンボンはともかく、ボンボン・ショコラというのはいいんじゃないか。まあ、手が汚れるトリュフは駄目だけど、ガナッシュとかプラリネとかならさ。
なぁ、桜咲?」
「…………え? ト、トリュフ? ガナッシュ? プ、プラ……ナリア?
トリュフというのはキノコなのでは?」
「「「「……………………」」」」
「…………え、えと……違っていましたか?」
「……せっちゃん」
「……違てはいないけどネ」
「……お前、本当にわからないのか」
「……トリュフは知っているんだな」
「そ、それぐらい知ってます! 世界三大珍味のキノコでしょう!?」
「ちなみに中華三大珍味は“アワビ”、“フカヒレ”、“ツバメの巣”ヨ。超包子のような普段向けの屋台では出せないけどネ♪
…………。
……………………。
………………………………ゴメン、バカホワイト舐めてたヨ」
「まぁ、チョコレートのトリュフは、キノコのトリュフに形が似せているからトリュフと呼ばれているのは事実だがな」
「いや、それでも話の流れ的にわかって欲しかったぞ」
アカン! ウチの話の振り方がおかしかったせいで、変なことになってもうた!
「まぁ、まだ時間もあるし、各々で少し考えてくれればいいヨ。明日また集まて考えよう。
私はこれから当日パーティー担当の五月とかと一緒に、チョコとパーティーに必要な材料費についても調べてみるネ。超包子のツテを使えば畑違いの分野の食材でも安くなる手に入るヨ。
木乃香サン達はお菓子作りの本で難易度を調べて欲しいネ。チョコ作りはさすがの私でも専門外ネ。
それとバカせつな君は少しチョコレート専門店で買い食いしてくるとヨロシ。今日はコレにて解散ヨ」
「な…………バ…………?」
「ち、違うんや、超りん! えと……………………せっちゃんは和菓子派なんや!!!」
「…………………………」
「おい。桜咲が死にそうだからそこらでやめとけ。
私はとりあえずネットで適当なチョコ作りの仕方を調べておく」
「せ、せっちゃん! ならウチと一緒に行こう! 美味しいチョコ売ってる店知ってるえ!」
「け、結構ですっ! 私に構わないでくださーーーいっ!!!」
「せ、せっちゃーーんっ!?」
…………あ、行ってもうた。
諦めへん! ウチはまだこんなんじゃ諦めへん!
小さかったときみたいに、せっちゃんとまた仲良くなるんや!!!
「フン。私は帰るぞ。何だかチョコの話題をしていたらチョコを食べたくなってきたな」
「…………あー、大丈夫か、近衛?」
「う、うん。ありがとう、千雨ちゃん。ウチは諦めへんわ。ネギ君見習ってせっちゃんに真正面からぶつかってみるって決めたんや。
今までみたいに避けられ続けても諦めへん!」
「詳しい事情はわからんから私からは何も言えないが…………。
少なくとも今回のは、“今までみたいな避けられ方”じゃないことは確かだと思うぞ」
「じゃあ、今日みたいの続けていたらせっちゃんと仲良くなれるんかな!?」
「それはやめておいた方がいいヨ」
「お前、本当は桜咲を虐めたいのか?」
え? …………やっぱりアカンのかなぁ?
━━━━━ 桜咲刹那 ━━━━━
…………最近調子がおかしい。
きっとネギ先生に高校での留年の可能性を言われてからだ。
あれから自分でも周りの環境を気にするようになったと思う。
勉強にも力を入れるようになったし、居残り授業に出ているおかげで授業もより良く理解出来るようになった。
護衛に力を入れるのは当たり前だが、他のことをおろそかにする言い訳にしてはならない。よくよく思えば、護衛を言い訳にして周りを拒絶していたところがあったんじゃないだろうか。
しかし、それではいけないことにネギ先生のおかげで気づけた。留年みたく、護衛をしていく為の前提が根元から崩れるような事だってあるのだから。
そして周りを気にするようになった分、自分と周りの違いがわかるようになってきた。
それでわかったことが一つある。
私は世間知らずだったのだ。
クラスの皆が休み時間に話していることに聞き耳をコッソリ立てたとしても、半分も理解できない。
今日のチョコレートについてだってそうだ。確かに和菓子の方が好きだからあまりチョコは食べたことはないが、お嬢さま達の反応を見る限りでは知らないほうがおかしいみたいだ。
…………以前だったらこんなこと気にしなかったのに。
「………………ハァ、ネギ先生」
ネギ先生が来てからこういうことを考えるようになった。それにしてもあの人は本当に10歳なんだろうか?
模擬戦とはいえ、一人で魔法先生二人に勝てるほどの戦闘力。
私達に勉強を教えられるほどの学力・知識も豊富に持っている。
しかも私と違ってクラスの皆から好かれ、良い関係を築けている。
特にエヴァンジェリンさんでさえもネギ先生を対等な存在と見なしている。学園長であろうと下に見ているであろうエヴァンジェリンさんでさえもだ。
今までのエヴァンジェリンさんなら、こんなバレンタインの企画なんて参加しなかっただろうに。
ネギ先生を見ていると、私なんかちっぽけな存在に思えてくる。何で10歳という年齢であんなに強くなれたんだろう。
私にネギ先生ぐらいの才能があれば、今よりも木乃香お嬢さまをお守り出来るのに。
………………何を情けないことを考えているんだ、私は?
それもこれも私の努力が足りないせいだろう。それを才能のせいにしてネギ先生を羨むとは…………我ながら恥知らずにも程がある!
きっとネギ先生だって努力してあんなに強くなったんだ。私だってこれからもっと努力して、いっそう修行を励めばきっと………………きっと、そしたら留年しちゃうな。
…………え!? ウ、ウチはどないしたらええんや!?
“木乃香お嬢さまの護衛は遂行する”、“護衛に必要な修行もする”。“両方”やらなアカンのが“護衛”の辛いところや。
でも、その二つをこなす覚悟ならあったんや。
せやけど、“勉強”もせなアカンのはいくらなんでも無理やわ。
今の“護衛”と“修行”だけでも大変やのに“勉強”もやなんて…………。
…………アカン。やっぱりネギ先生の才能が欲しいわ。“強さ”の才能はええから、せめて“勉強”の才能だけでも欲しい。
ああ、ウチはどないしたらええんや? た……助けて、ネギ先生…………。
「…………ハァ、ネギ先生」
「はい、何ですか?」
「ヒャアァッ!?」
ビ、ビックリしたぁ。な、何でネギ先生がここに…………って、そうか。もう高畑先生の引止めが終わる時間なのか。
「悩み事ですか、桜咲さん?
僕がここまで接近しても気づかれないということは、余程深い悩みのようですね。よかったら相談に乗りますよ?」
「そんなことは…………いえ、お願いしていいですか?
正直、私一人ではどうしていいかわからなかったので…………」
良い機会だ。一度ネギ先生と話をしてみよう。
何か良い助言を頂けるかもしれないし、ネギ先生という変わった人の視点から見た意見も今後の参考になるだろう。
「構いませんよ。実を言うと、今日は何故か追い出されるように仕事が早く終わったので時間がとれるんですよ。
前々から桜咲さんは悩みをお持ちのようでしたので、この機会に是非と思いましてね。
立ち話もなんですから、どこか店に入りましょうか。やっぱり和菓子の店の方がいいですか?」
「……………………」
「? …………桜咲さん?」
「…………チョコレート」
「ハ?」
チョコレートが食べたいです。ネギ先生。
━━━━━ 後書き ━━━━━
せっちゃんがちびせつな君より先に、バカせつなの二つ名を獲得しました。
せっちゃんはチョコレートのこととか全然知らないと思います。
というか、自分も今回の話を書くためにチョコレートについて調べるまで、ガナッシュとトリュフの違いがわかりませんでした。
プラリネは存在は知っていましたが、名前は知りませんでした。
外国土産のチョコレートを食べたら、甘すぎて歯が痛くなります。
やっぱり日本製のお菓子の甘さが丁度いいです。
明日菜はまだ恋愛感情を持っているわけではありません。
失恋のショックで弱気になっていますし、気持ち的に木乃香と一緒で、まだペットを抱いて寝るような感じでしょうか。
ちなみに寝ているときのネギは素です。
大人ぶっていても、結局20年の子供生活で子供っぽさが身体に染み込んじゃっています。