━━━━━ 長瀬楓 ━━━━━
…………プリンに釣られて変なことに巻き込まれてしまったでござる。
それにコレって本当に木乃香殿にお伝えしていいのでござろうか?
「お待たせー、楓。これウチが作ったプリンや。あとで食べてなー。
…………で、どうやったん?」
「食べながら話をしましょうよ。お昼休み終わっちゃうわよ」
おや、アスナ殿まで。
そんなにプリンを見つめても、食後のプリンは渡さないでござるよ。
「それにしてもありがとなー、楓。せっちゃんの後をつけるなんて大変やったろ」
「刹那に気づかれないように監視するのは確かに大変でござったが、拙者の良い修行にもなったでござるよ。
昨日刹那に動きがあったので報告するでござる」
“刹那の監視”……それが拙者の任務でござる。………………報酬はプリン。
木乃香殿はいったい何をしたいのでござろうなあ?
とはいえ、いいんちょがネギ先生を招こうとした洋菓子店のプリン詰め合わせを頂いたからには、その分シッカリと働くでござる。木乃香殿の手作りプリンも美味しいでござるしな。
…………けど正直言って、止めておけばよかったと後悔しているでござるよ。
「さて、依頼された当日であるクラス会議の日、つまりおとといは特に何もなかったでござる。
しかし、刹那は昨日の早朝の5時前にエヴァ殿の家を訪れたでござる」
「エヴァちゃんの家? 桜咲さんとエヴァちゃんって付き合いあったっけ?」
「そんな朝早くから悪いなぁ。またプリン作ってくるわ」
「お願いするでござる。実を言うと、頂いたプリンの詰め合わせは風香と史伽に半分取られてしまったので。
…………ここからは少し言いにくいのでござるが、数分後にネギ坊主がエヴァ殿の家に入っていったのでござるよ」
「ネギ君がぁ?」
「はあ? 何でよ!? 昨日は確か、ネギは朝早くからランニングに行くって…………」
そんなこと拙者に言われても困るでござる。
ただ拙者は見たままのことを報告している故に…………。
「…………そういえばネギ君。紅茶を飲みにエヴァちゃんの家に何度か行ってたなぁ」
「ああ、そういえばそんなこと言ってたわね。さすがの木乃香も紅茶には詳しくなかったから。
でもそんな朝早くから紅茶を飲みに行くわけないし、そもそもランニングと言ってネギは部屋を出てったのよ」
「それで? 2人はエヴァちゃんの家で何してたん?」
「さすがに家の中までは探れなかったでござる。
…………ここからは更に言いにくいのでござるが、約一時間後に刹那がエヴァ殿の家から出てきたとき、耳まで真っ赤になるぐらい赤面していたでござる。
しかも、そのときは遠目故にはっきりとは見えなかったが、学校で確認したら肌が物凄くツヤツヤになっていたでござる」
「「………………………………」」
沈黙が怖いでござるよ!?
というか無表情のアスナ殿が物凄く怖いでござる。拙者、こんなアスナ殿の顔は見たことござらん。
「………………ネギったら、エヴァちゃんの家で何をやっていたのかしらねぇ」
「………………エヴァちゃんて、この前のお風呂でネギ君に髪を洗うのを手伝うように言ってたなぁ」
「エ、エヴァ殿はそのときは起きていなかったようでござる! 刹那が凄い勢いで走り去った後にネギ坊主が出てきたのでござるが、見送りの茶々丸殿にエヴァ殿が寝坊しないようにと言っていたでござるよ!
ちなみにネギ坊主はいつもと変わらない様子だったでござる」
「……………………ふーん。
そう言われれば、確かに昨日のせっちゃんは様子が確かに違うていたなぁ」
「……………………ネギはあまり変わっていなかったわねぇ。
変わったと言えば、おとといの夜は木乃香がネギと一緒に寝たぐらいかしら?」
「ええやん。アスナばっかりネギ君独り占めしてズルイわぁ。最初にネギ君と寝てたのはウチなんやで」
本気で怖いでござる。
今からでもこの依頼を取り消してもらうことは出来ないでござるか?
「そんで? その後はどうなったん?」
…………無理でござるな。せめて依頼はちゃんと果たすから、拙者に何かしようとは思わないで欲しいでござる。
「そのあと刹那の後を追ったが、それからは普通でござる。
寮に帰って時間になったら学校へ行き、放課後は拙者やアスナ殿と一緒に居残り授業。居残り授業終了後は剣道部。その後は寮に戻って食事、自主トレの素振り、入浴、勉強、就寝といった感じでござる。
これが昨日の刹那の一日でござるな」
「最後は普通やなぁ」
「というか、楓ちゃんってば大丈夫なの?
桜咲さんをずっと監視しているなんて」
「いやいや、これも修行の一つでござる。
ただ、拙者はバレンタイン当日パーティー担当グループなので、パーティーが近くなるとソチラを優先させて頂くでござるよ」
「それはわかっとるわ。改めてありがとうな、楓」
「それにしてもランニングに行くなんて嘘ついてまで、朝早くからエヴァちゃんの家に行くなんて。
ネギったらいったいどうしたのかしらねぇ?」
拙者は何も知らないでござる。
だからその滲み出る殺気はネギ坊主にぶつけて欲しいのでござるが…………。
「その話、詳しく聞かせて欲しいのです」
ごっ、ござっ!? 夕映殿!? 千雨殿にのどか殿に古まで!?
…………う、迂闊でござった。
アスナ殿の殺気に気を取られて、接近する気配に気づかなかったでござる。
「あー、わりぃ。立ち聞きするつもりはなかったんだが、偶然飯食いに屋上まで来ててな。
綾瀬達を押し留めることが出来なかった」
「ネ、ネギ先生がエヴァンジェリンさんと桜咲さんと……………………」
「シッカリするですよ、のどか。まだそうだと決まったわけじゃありません。
錯乱しないでください。英語のノートを見ても解決策が載っているわけじゃありません」
「アイヤー、何だかとんでもないことを聞いてしまったみたいアル」
の、のどか殿、目が…………。
これ以上、コトが大きくなるのは勘弁して欲しいのござるが…………。
━━━━━ 桜咲刹那 ━━━━━
「ふ、ふつつかものですが…………よろしくお願いします」
「刹那さんが嫌ならおんぶにしましょうよ」
「…………別に嫌という訳ではないのですが。その、恥ずかしくて…………」
わ……私はどうしたらいいんだ?
今、私はエヴァンジェリンさんの別荘にいる。
現実の1時間がこの中では24時間となり、その分修行出来るのはありがたい。
初めてここを使わせてもらった日は、修行、勉強、ネギ先生との手合わせを行なったのだが、最後のネギ先生との手合わせで力尽きて気絶してしまった。
ネギ先生は本当に強い。身体能力は私のほうが上だが、剣の腕は私以上。
それに身体能力も『咸卦法』を使われてしまったら、私が気を使った状態よりも上になる。そうでなくとも数年後にはネギ先生の素の状態で上になるだろう。
しかし、まだまだ私も負けてはいられないし、中々良い手合わせが出来たと思う。少なくとも私は得るものがたくさんあった。
そして、気づいたらネギ先生におんぶされていた。
『咸卦治癒』を使用して、私の疲労をとってくれていたらしい。それはいい。
それはいいのだが、10歳の男の子におんぶされて涎を垂らして寝ていた、というのはさすがに恥ずかしすぎる。
ネギ先生が前もって私の顎の下、つまりネギ先生の肩にタオルを置いていなかったら、ネギ先生のシャツがグッショリとなるぐらいの量の涎をだ。
ネギ先生は気にしないと言ってくれたが、その日一日は恥ずかしくてネギ先生の顔をまともに見れなかった。
確かに『咸卦治癒』というものは凄い。あれだけの疲労を、たった2時間ほどの休憩で全快できるとは。
しかし、あの気持ち良さは何とかならないだろうか? あんな気持ち良さだと、疲れた身体だったら絶対に寝てしまう。それに肌も何だかツヤツヤになるし。
そして今日が2回目の別荘での修行の日で、別荘を出たこの後に学校があるので『咸卦治癒』で回復させてもらうのだが、『咸卦治癒』は接触しないと回復しない。
その接触方法でネギ先生と言い争っているのだ。
「僕は別におんぶでも大丈夫ですよ。
『咸卦治癒』発動中なら寝なくても平気ですから」
「いえ! さすがにそこまでして頂いては申しわけありません!
私の勉強と修行に付き合って頂き、その上私の体力回復のためにネギ先生が寝ないなんて…………」
「でも、僕と一緒に寝るのは嫌なんでしょう?」
「で、ですから! …………嫌という訳ではありません。ネギ先生に抱きつくというのが恥ずかしいのです。
…………その、ネギ先生から私に抱きついてきてくれませんか?」
「え? “抱きつく”より“抱きつかれる”方が恥ずかしくないんですか?」
どっちも恥ずかしいんです!!!
10歳の男の子に“おんぶされる”、“抱きつく”、“抱きつかれる”なんて、どれを選べばいいんですか!?
『咸卦治癒』を使わないというのは出来ない。
このまま学校へ行っても途中で力尽きて授業中に寝るだろうし、護衛に差支えがある。
“おんぶされる”は却下! ネギ先生が休まずに私をおんぶするなんて、そこまで迷惑は掛けられない。
そして残りは“抱きつく”と“抱きつかれる”なんだが、こんなものどっちを選べばいいんだ!?
「さすがの僕でも刹那さんに抱きつくのは恥ずかしいんですけど…………」
「ネ、ネギ先生だって“抱きつかれる”より“抱きつく”方が恥ずかしいのではないですか!?」
「いえいえ、僕は10歳の男の子。刹那さんは14歳の女の子という違いがあるじゃないですか。
そもそも「体力を回復させてやるから抱きつかせろ」なんてセクハラじゃないですか!?」
「わ、私は別にセクハラだと思いません!」
た、確かに10歳の男の子には恥ずかしいでしょうけど、14歳の女の子だって恥ずかしいんです!
「…………このままだったら休む時間がなくなります。
ジャンケンで決めましょう。最初はグーの一回こっきり勝負」
「いいでしょう。負けた方が勝った方に抱きついて寝る。…………あいこは?」
「あいこはおんぶです」
「なっ!? それズルイです! あいこだったらやり直しです!」
「僕達だったらずっとあいこになる可能性もあります!」
「く、私達の身体能力なら確かに…………。
なら、あいこだったらお互いに抱きつくのです! それだったら公平でしょう!?」
「…………いいでしょう。
それでは、右手に“気”、左手に『戦いの「ちょっと待ったぁっ! それズル過ぎますよっ!!!」…………チェッ」
ええい、ネギ先生にこんな子供っぽいところがあるとは…………。
年相応のところがあるんだな。
まあ、素のネギ先生を曝け出してくれるのは悪い気はしない。
教師としてのネギ先生とは違った魅力があるし。
「…………わかりました。刹那さんも気で強化はなしですよ」
「そのつもりです」
何で来る?
とりあえず私はグーを作っておいて、ネギ先生が手を変化させてきたらチョキに変えよう。
ゴクリ、と唾を飲み込む。緊張するな。
それでは、いざ尋常に!!!
「「最初はグー! ジャンケンッ!!!」」
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「ズルイです。刹那さん後出し狙ってたでしょ?」
「ネギ先生だってそうじゃないですか…………」
お互いグーでした。
きっとネギ先生も同じこと考えていたんでしょうね。
「術式兵装『咸卦治癒』…………えーっと、それじゃあ…………お休みなさい?」
「何で疑問系なんですか?」
ネギ先生と一緒のベッドに入る…………。
………………ネギ先生は10歳ネギ先生は10歳ネギ先生は10歳ネギ先生は10歳ネギ先生は10歳ネギ先生は10歳ネギ先生は10歳ネギ先生は10歳ネギ先生は10歳ネギ先生は10歳ネギ先生は10歳………………。
だから何ともない!
「失礼します。…………嫌だったら言ってくださいよ。僕はおんぶでも構わないのですから」
「…………大丈夫ですよ」
…………本当にネギ先生は10歳なんだなぁ。私の顔も赤いのだろうが、ネギ先生の顔はそれ以上に真っ赤だ。
このネギ先生見たら、何か逆に落ち着いてきた。
ネギ先生には苦手なものとかはないのかと思っていたが、こういうことは苦手なのか?
でも、木乃香お嬢さまやアスナさんと一緒の布団で寝ているらしいのに。
ギュ、とネギ先生が私の胸に顔をうずめる形で抱きついてくる。それと同時に『咸卦治癒』の効果で身体がポカポカとしてくる。
さすがに胸に抱きつかれるのは少し恥ずかしいけど……………………別に嫌じゃない。
それでは私もネギ先生を抱きしめないといけないな。
…………こういう場合だと、頭と背中に腕を回せばいいのかな? こ、こうかな?
「ヒャッ!!!」「うわっ!?」
…………ビックリした。
ネギ先生の頭の裏に腕を回したら、ビクリ! とネギ先生が跳ねた。
「抱きつかれるのは慣れているはずなのでは?」
「………………抱きつかれるのは慣れていても、抱きつきながら抱きしめられるのは慣れていません」
? その2つに何か違いがあるのだろうか?
胸の中で喋られるのはこそばゆいな。しかも私に顔を見せたくないのか、ギュウっと抱きついてくる。
この状態だと肌は耳しか見えないが、その耳は凄く真っ赤だ。
………………カワイイ。
少し私が動くと、小動物みたいにビクつく。
ネギ先生の髪の毛はサラサラしているな。良い匂いもする。
…………手合わせ後にお互いにシャワーを浴びたが、私は大丈夫かな? 随分と汗をかいてしまったが、ちゃんと匂いが取れているだろうか?
いや、そもそもこの寝巻きに使っているジャージはちゃんと洗濯できていたのだろうか?
いつも洗濯機に放り込んで自動で洗濯していて、素材にあわせた洗濯などはしたことがない。それに結構長い間使っているから、私の匂いが染み込んでいるかも…………。
…………マズイ、気になってきた。
「…………あの、私の体は変な匂いとかしていませんか?」
「え? こ、答えなきゃいけませんか?
…………変な匂いとかは別にしません。良い匂いです。あったかくて柔らかくて………………気持ち良いです」
「え? あ、ありがとうございます…………」
そ、そういう意味で聞いたワケじゃないのだけれど………………気持ち良いんだ。
…………エヘヘ。
ふあ…………眠くなってきた。エヴァンジェリンさんすら寝てしまったというのは本当だなぁ。これは誰だって寝てしまう。
ネギ先生との手合わせは疲れた。起きたら学校なんだし、さっさと眠るか。
これならアッサリと眠れそうだ。
このちゃんがネギ先生を抱き枕にしているという気持ちがわかる気がする。
…………このちゃん、ウチ頑張るからね。修行も勉強も頑張って、絶対このちゃんを守るから。
だから、いつまでもこのちゃんは笑っていてね。
このちゃんの笑顔は、絶対にウチが守るから…………。
━━━━━ 長瀬楓 ━━━━━
ネ、ネギ坊主と刹那は拙者に恨みでもあるのでござるか?
今日はネギ坊主が顔を赤くし、刹那はニコニコと笑って、二人で手を繋いでエヴァ殿の家から出てくるなんて…………。
こんなこと、アスナ殿や木乃香殿にどのように報告すればいいのでござる?
しかも今度からのどか殿たちにまで報告しなければいかぬとは…………。
無表情のアスナ殿も怖いでござるが、笑っているだけのはずの木乃香殿も怖いのでござる。
プリンに釣られて変なことに巻き込まれてしまったでござる。依頼の危険度を見誤るとは、拙者もまだまだ未熟でござる。
…………こうなったら腹をくくって、最後まで付き合うしかないでござるな。何とかして木乃香殿達の狙いをネギ坊主達のままにしておかなければ。
ネギ坊主と刹那には悪いが、拙者の身の安全を優先させてもらうでござるよ。
━━━━━ 後書き ━━━━━
ピコーーーン! 無表情明日菜というクールアスナ誕生フラグが立ちました。
ただし、選択肢を間違えると明日菜ヤンデレルートに突入しますので注意しましょう。
ピコーーーン! 「いつまでもこのちゃんは笑っていてね」という刹那の願いが(別の意味で)叶うフラグが立ちました。
ただし、選択肢を間違えると木乃香ヤンデレルートに突入しますので注意しましょう。
ピコーーーン! “空鍋をかき回す”ならぬ“白紙を読書”フラグが立ちました。
ただし、選択肢を間違えるとのどかヤンデレルートに突入しますので注意しましょう。
ピコーーーン! ネギのヘタレフラグが立ちました。
今までこんな機会がなかったので気づきませんでしたが、子供と意識された上で攻めるのや攻められるのは平気でも、お互いに男女と意識した上で攻めるのや攻められるのは苦手なようです。
体感時間年齢100歳の魔法使いは伊達じゃありません。今までは平気だったとしても、相手に意識された途端に恥ずかしくなることってありますよね。