━━━━━ 長谷川千雨 ━━━━━
「さて、まだ他に細かいこともあるが、だいたい話は終わりじゃの。
先程も言ったとおり、魔法のことは言わないでもらいたい。例え、家族や友人でもじゃ。
もし、不特定多数の人間にばらされてしまうなら、ワシらとしても対処せざるを得ん。ワシらだって生徒に記憶操作なんかしたくないからの。くれぐれも言わないでおくれ」
言わねーよ、こんなこと。言ったって頭がおかしい女子中学生と思われるだけだ。
やれやれ、最初はどうなることかと思ったが、何とか終わったな。
まさかこんなコトになるとは思わなかったが…………。
「今日はもう遅いですからね。
まず一晩寝て、ゆっくり個人で考えてください。もし考えた結果、黙ってることに自信がなくて記憶を消したいなら言ってください。
他に何か質問はありますか?」
「…………明石教授の話を聞いた後でこんなこと聞くのは、とても不謹慎だとわかっているのですが…………。
私達も魔法を使うことが出来ますか?」
「ゆ、ゆえ?」
「フォッフォッフォ、やはり聞かれてしもうたか。気にすることはない。年頃の女の子なら仕方があるまいよ。
それにそのようにハッキリと聞いてくれたほうがありがたい。内に疑問を秘めたまま帰られても困るからの」
「そうですね。それで答えとしては、一応ほとんどの人は魔法を使うことが出来ます。もちろん個人差はありますけど。
たまにタカミチのように体質的に魔法を使えない人もいますが、そういう人はあまりいませんね」
「? 高畑先生は魔法を使えないアルか?」
「そうだよ、僕は魔法使いとしては落ちこぼれなんだ。教師みたくね。
………………ハハハッ」
もうやめてやれ、古。高畑のライフは0だぞ。
それにしても魔法ねぇ…………。
あのニキビを治してくれるような回復魔法には興味あるが、それでもこれ以上は関わりたくねぇなぁ。
それよりも早く帰って寝たいよ。今日はもう疲れた…………。
「ちなみに魔法だけじゃなくて、“気”を使う人達もいます。
刹那さんや楓さん、それに古菲さんも無意識に気を扱っていますね」
「へぇ~、そういうのもあるんやなぁ」
「僕としては今から習うなら、魔法よりも気の方が良いと思いますけどね。気を扱えるようになると、老化が遅くなって体の調子も良くなり、いつまでも若々しくいられますよ。
座学も多い魔法と違って、身体を動かすのが中心なので運動にもなりますからね」
「ぬぬ、それはまた魅力的な…………」
「むぅ、是非とも気について詳しく知りたいアルな。
そうだ、ネギ坊主! 私魔法のこと黙てるから、また手合わせお願いするアルよ」
「だからくーへ、それ“お願い”やない。“脅迫”や」
「くーふぇ、先生方の目の前で脅迫しないでよ…………」
「…………どうします、学園長? 巻き込んだのはコチラですから、口止め料として何か1人につきお願いを1個聞くことにでもしますか?
皆さんの心情的にもその方がいいと思います。魔法について黙っているだけだったらストレスが溜まりますけど、「お願いを聞いてもらったから黙ってる」の方が自分を納得させることが出来ると思いますよ。もちろんあまりに大きいことだったら駄目ですが。
それに古菲さんだったら今日のことがなくても、いずれ自分でコッチ側に辿り着いていたかもしれないですからね。いっそのこと共犯にした方がいいかもしれません」
「そういうことなら拙者も是非お願いするでござるよ。
刹那がその“別荘”とやらで修行を積んでいるのなら、拙者も参加させて欲しいでござる。競い合える相手がいるなら、より良い修行が出来そうでござる」
「ム、そうじゃの。麻帆良武道四天王のことはよく聞いておる。というか、この場に全員おるんじゃな。
…………確かに彼女達なら放っておくよりも、身内に取り込んだ方が面倒がないかもしれんの。巻き込んだのはコチラのミスじゃし…………。
しかし、“別荘”についてなら所有者のエヴァに許可をもらわんといかんが?」
「…………勝手にしろ」
あー…………あいつ等は元々半分以上アッチ側みたいなもんだしなぁ。私もお願い1個聞いてもらえんのか?
でも、アッチ側に関わる気はねぇから、古や長瀬みたいに頼むことないや。
…………新型PCとか現金はさすがに駄目かなぁ?
「ネギ君は構わんかね? 古菲君は君との手合わせを望んでおるようじゃが」
「まあ、そんなに頻繁に挑まれても困りますが、たまになら構いません。中国拳法の使い手と手合わせするのは僕としても修行となりますし、刹那さんとしている修行も長瀬さんや古菲さんが参加するなら良い刺激になります。
…………ああ、ただし今度の期末テストで合計点が平均を下回った場合は、勉強の方を優先してもらいます。魔法を習いたいという人も同じです。
学生の本業はあくまで勉強ですので」
「そのくらい構わないアル。よし、約束アルよ!」
「わ、私達もいいのですか!?」
「まぁ、少し落ち着いてください、古菲さん、綾瀬さん。
ゆっくり考えたほうがいいですよ。1人につき1個限りですから。何も今日決めなきゃいけない訳ではありません。
それと木乃香さんは魔法を習いたいとしても、一度お父さんと話し合ってからの方がいいと思います」
「え? 何でやの?」
「ええと、先程も説明したように、木乃香さんのお父さんは“関西呪術協会”というところの長でして、麻帆良が所属している関東魔法協会とその関西呪術協会は昔から仲が悪いんですよ。
簡単に説明しますと…………」
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ふーん、オカルト側はオカルト側で大変なんだな。
古くからの西と、新たに住み着いた東。仲が悪くなるのは当然だな。しかし近衛がお嬢さまだとはねぇ…………。
って、アレ? でも今の説明おかしくねぇか?
「すいません。ちょっとわからないことがあるんですが?」
「何ですか、長谷川さん?」
「東と西の仲が悪いのなら、何故学園長は東にいるんですか? 学園長だって“近衛”じゃないですか。
そもそも東と西両方の偉い人の子供である近衛がいること自体変じゃないですか?」
「ああ、そういうことか。ワシは確かに西の出身なのじゃが、若い頃に先々代の長であるワシの父から西洋魔法を学ぶようにと言われたのじゃよ。これからは否が応にも日本の中だけに閉じこもっていることは出来ん、と父が考えての。
東としても、昔から日本に住んでいた西と誼を持ちたかったから受け入れられたんじゃ。要するにお互いのパイプ役じゃな。そのおかげで関東魔法協会の理事にまでなれたのかもしれんが…………。
関西呪術協会の方はワシの兄が継いだんじゃが、子供が出来ないまま亡くなってしまっての。
近衛の家の分家もあるが、その当時は長になれる適当な年齢の人物がいなかったのでな。亡くなった長の姪であるワシの娘が西に嫁ぎ、その相手が新たな長になるということになったのじゃよ」
「…………政略結婚ってやつですか? 現代でもあるんですね」
「勘違いしないでおくれ。娘と婿殿は確かに見合いから始まったが、ちゃんと2人は愛し合っていたよ。
結婚するにあたって娘が出した条件は、“結婚相手は自分が決める”という条件じゃったからの。長になれるような家柄と実力を兼ね備えた若者20人以上と見合いして、最後に婿殿を選んだのじゃ。
何でも「浮気しそうにないから良い」と言っておったがの…………」
贅沢な話だな。選ばれる側じゃなくて、選ぶ側に回ったのかよ。
20人以上の中から選ぶなんて選り取り見取りじゃねーか。
っていうか、そんな理由でいいのかよ?
「あー…………神鳴流である青山詠春さんが長になったのって、そういう理由だったんですか?」
「まぁ、あくまで中継ぎの長という感じじゃからの」
「…………もしかして、お父様の一人娘のウチが次の長にならんとアカン、というわけやの?」
「そんなことはないぞい。先代の長が亡くなった頃ならともかく、今なら近衛の分家の人材も育っておる。次代の長はその者達が継ぐことが出来るからの。
じゃから、木乃香が無理して継がないといけないというわけではない…………はずじゃったのじゃがなぁ。
…………問題となったのは、木乃香の才能なんじゃよ。祖父であるワシが言うのはなんじゃが、木乃香の才能は飛び抜けていての。
“関西呪術協会を建て直すためには先々代の長の曾孫であり、才能豊かな木乃香が次の長となるべきだ”と考える輩もおっての。そんな輩が木乃香が西洋魔術師となると聞いたら、何を仕出かすかわからんのじゃ。
木乃香が婿殿から離れて麻帆良に来たのは、そういう政争に巻き込まれないためなんじゃよ。婿殿は木乃香をそういうことに巻き込みたくはないのじゃよ」
「…………何なの、それ? 木乃香のことを勝手に決めちゃって。そいつらは何様のつもりなのよ…………」
「怒らんでくれ、アスナちゃん。西でもそういう考えをしているのは少数じゃ。
しかし、そういう考えを持つ人間が出てくるほど、木乃香は凄まじい魔力を秘めているんじゃよ」
「…………そんな、ウチ…………」
うわぁ、まさに“事実は小説よりも奇なり”だな。
まさかそんなお話が現実にあるとは思ってなかった。
…………ところで、何でネギ先生は不思議そうな顔をしているんだ?
「どうしたんですか、ネギ先生?
そんな不思議そうな顔をして?」
「え!? …………いや、何でもないですよ、長谷川さん」
「フォ? 何か不思議なことでもあったのかね、ネギ君?
聞きたいことがあるならこの際じゃ。何でも聞いてみるとええ」
「…………えーっと、木乃香さんって魔力の制御とか学んでないんですよね? 魔力を封じる魔法具なんかつけてないですよね?」
「え? ウチそういう修行なんてした覚えないで? 魔法具ってゆーもんは知らへんけど」
「そうじゃよ。木乃香は魔法関係の修行なんかしたことはないぞい。魔力封じの魔法具も持たしておらん。
…………それがどうかしたのかね?」
「ですよねー。だったら木乃香さんの魔力は、今の状態で感じ取れる魔力で全部なんですよね?」
“感じ取れる魔力”かぁ。本当にゲームやアニメの世界の言葉だなぁ。
全然私には理解出来ねーや。
「そうじゃよ。ネギ君だって感じ取れるじゃろ。
木乃香の内に秘められた凄まじい魔力を」
「…………木乃香さんから感じ取れる魔力って、“僕の半分ちょっと”ぐらいしか感じ取れないんですけど?
僕を“10”とすると、木乃香さんは“5強”ですか」
へぇ、普通の魔法使いよりも才能がある近衛よりも、ネギ先生の方がMPは2倍近く多いんだ。スゲェなぁ。
…………でも何で周りの先生方が驚いているんだ?
「…………。
……………………。
………………………………フォッ!?」
「え?」
「なにそれこわい」
「えっ!?」
えっ? 何なの、この流れ?
━━━━━ 高畑・T・タカミチ ━━━━━
一難去ってまた一難。さて、ネギ君はいったい何を言い出すのかな?
…………慣れてきてしまった自分が悲しいよ。
「…………スマン、ちょっと待っておくれ、ネギ君。
木乃香の魔力が君の半分ちょっとしかないとは、どういうことかね?」
「え? そのままの意味ですが…………」
「素人が口を挟んで申しわけありません。それはただ、ネギ先生の魔力が更に大きいだけなのではないのですか?」
「いや、綾瀬君。確かにネギ君の魔力は木乃香より大きいが、タカミチ君の見立てでは木乃香よりほんの少し上ぐらいと聞いておったんじゃよ。
…………ネギ君。君の魔力を“10”とすると、他の人はどの位なのかね?」
「えーっと、僕を“10”としますと感じ取れる魔力量は、木乃香さんが“5強”、学園長が“3強”、タカミチが“2弱”、今のエヴァさんが“1弱”ってところですかね?」
「ネ、ネギ? それは…………」
「ああ、わかってますよ。今のエヴァさんは封印されている状態ですからね。きっと元の状態の数%しか発揮できないんでしょう?」
「はあっ!? すっ、数%っ!? いや、それは…………その…………」
いや、さすがにそれはない。いくら元のエヴァの魔力量が大きくても、今の10倍以上なんてのはさすがにありえない。
今の数値からいくと、きっとナギの魔力量は“5”ぐらいになるな。きっと全力のエヴァが“5弱”ぐらいだと思う。
でもいくら何でもネギ君はナギの2倍も魔力はないだろう。
ネギ君の魔力の制御が完璧になったら魔力がまったく感じ取れなくなったけど、初めて会ったときは“5.5”ってところだったはずだ。
「それがいったい何なのよ?
ネギの魔力が凄く大きいってことでしょう?」
「いやいや、違いますよ、明日菜さん。今言ったのは、あくまで僕が感じ取れる魔力量です。
熟練の魔法使いは、僕のような見習い魔法使いが感じ取れる魔力の数倍の魔力を実は隠しているんです」
「フォッ!?」
はあっ!?!? 何を言っているんだネギ君は!?
もしかしてネギ君ってば、何だか凄い勘違いをしていないかいっ!?
「えっ? 僕、何か変なこと言いました? 魔法学校でそう習いましたよ?
“魔力の制御を学んでいくと、相手に己の実力を悟らせないことが出来るようになる。熟練の魔法使いになると、見習い魔法使いが感じ取れる数倍の魔力を隠している”って」
「魔法使いの世界でもやはりそういうものなのアルか。
私が故郷で拳法を教えてくれた老師も、見た目はただの優しそうなお爺ちゃんだたアルよ」
「そうでござるな。熟練者ほど己の実力を相手に悟らせないものでござるよ。どこの世界でも一緒でござるな。
となると数倍というぐらいだから、学園長の魔力は最低でも3倍の“10”以上はあるということでござるな?」
「…………あー、漫画やアニメでそういうのよくあるよな。筋骨隆々の若者を、小柄で今にも折れてしまいそうな老人が倒すとかって」
「へぇ~、おじいちゃんって凄いんやねぇ」
「…………あの、ネギ先生。
さっき言った魔力量が全てだということはないのですか?」
「やだなぁ、綾瀬さん。僕はまだ10歳の見習い魔法使いで、学園長は麻帆良最強の魔法使いですよ。
学園長の魔力量が僕の半分以下しかないなんてありえないじゃないですか。常識的に考えて」
お、お願いだから、ネギ君が常識を語らないでくれっ!!!
「そうよねぇ。大人っぽいって言っても、ネギはまだ10歳だもんね」
「しかし、変な勘違いせずに真面目に修行に勤しむ、というのは良いことアルよ」
「ネギ坊主は真面目でござるからなぁ」
「す、凄いです。ネギ先生!」
「ええ~? おじいちゃんって麻帆良で一番強いんか。凄いなぁ」
「…………おい、何だか先生方が死にそうな目をしているぞ?」
「…………ネギ先生、もしかして…………?」
多分、僕も死にそうな目をしてると思う。
ガンドルフィーニ先生なんか頭を抱えて蹲っちゃってるし…………。
「…………ネギ君、スマンがちょっと席を…………ああ、いや……ちょっと自動販売機で適当にこの子達の飲み物を買ってきてくれないかの。
考えてみれば、休憩なしの飲み物なしは辛かろうて…………」
「え? もうだいたい話は終わりなんじゃ?」
「いや、もうちょっと話すことがあっての。年のせいか言い忘れていたことがあったんじゃよ…………」
「…………? よくわかりませんが、とりあえず行ってきます。
どうせなら他の先生方の分も適当に買ってきますよ」
「ウン、頼んだぞい。フォッフォッフォ…………。
…………。
……………………。
………………………………全員集合っ!!!
あ、悪いのじゃが、木乃香達はソッチのソファーにでも座って少し待ってておくれ。ちょっと関係者で話し合いたいことがあっての」
「わ、わかったえ」
どうしてこうなったんだろう?
ネギ君は真面目な良い子だったはずなのになぁ…………。
魔法関係者全員で円陣を組んで話し合う。
この中にエヴァが普通に混じっているのに違和感を感じてしまうけど、ガンドルフィーニ先生すらそれについて気にしていない。
そんな余裕なんかないからね。
「…………タカミチ君?」
「ネギ君の目は本気でした。確かにネギ君は自分の魔力量を鼻にかけることはないと思っていましたが、本気でああいう考えをしているみたいです」
「…………エヴァ?」
「あってる。ネギの言う通りだ。近衛木乃香を“5強”で今の私を“1弱”とすると、ジジイが“3強”、タカミチが“2弱”であってる。ただし、ジジイとタカミチは力を隠してなんかいないがな…………。
ちなみに魔法先生の平均は“1.5”ぐらいで、魔法生徒の平均が“1”ぐらいだ。あくまで魔力量だから、実際の戦闘力とは違うんだが…………」
「…………刹那君?」
「ネ、ネギ先生と行なっている修行はほとんどが基礎と剣の組み手でしたので、ネギ先生の魔力量が如何ほどなのかはちょっと…………」
「…………龍宮君?」
「刹那に以前言った覚えがあるが、魔力総量は私が魔眼で見ても分からなかった」
「…………アルちゃん?」
「も、申しわけありません。私もネギお兄様の全力を見たことはないのです。『千の雷』を平気で唱えていたので、てっきりそれぐらいかと…………」
「…………一度まとめてみるぞい。
1.ネギ君の魔力は木乃香の約2倍
2.ネギ君はその自分の魔力量がすごいとは思っておらん
3.ネギ君は他の魔法使いの隠している実力も見抜ける
4.ネギ君はその実力を“見せるための魔力”と思っている
5.他の魔法使いはその数倍の魔力を隠していると勘違いしている
…………。
……………………。
………………………………何でじゃ?」
「「「「「……………………」」」」」
誰も何も言えない。当然だ、僕も何を言っていいかわからない。
何でだ? 何でネギ君はそんな考えをしているんだ?
「隠している実力を見抜けるのはまだいい。ソッチ方面の感覚がかなり鋭い奴なら、実在していてもおかしくはない。あの年齢でそこまで出来るのは珍しいだろうが、珍しいだけでいないわけではない。
しかし、魔力量について何故あんな勘違い…………あっ!? おい、タカミチ。ネギの魔力は近衛木乃香よりほんの少し上ぐらいと感じたのはいつの話だ!?」
「何か思いついたのかね、エヴァ?
…………確かタカミチ君がネギ君と初めて会ったときじゃったな。帰ってきたときにそう報告された覚えがあるぞい」
「ええ、そうです。初めて会ったときのネギ君は、確かにその位の魔力量でした。
さきほどの数値でいくと、“5.5”ぐらいだったはずです」
「以前、ウェールズでネギと2人でかくれんぼで遊んで、結局見つけることが出来なかったと言っていたな。それはいつの話だ?」
「え? 確か…………初めて会ってから半年後ぐらいだったと思う。
ネギ君は会うたびに魔力の制御が上達していって、半年経った頃には魔法とは関係ない普通の子供のように思えるまで制御出来ていたよ」
「向こうの校長の話では、ネギ君は魔力の制御に失敗したせいで向こうの校長に大火傷を負わせてから、治癒魔法に力を入れて勉強していたと聞いた。
当然、基礎である魔力の制御にも力をいれて勉強もしておったじゃろうな」
「つまりネギは、タカミチが感知可能な魔力を半年で“5.5”から“0”にしたんだな?
…………もう一度聞く。ネギの魔力は近衛木乃香よりほんの少し上ぐらいと感じたのはいつの話だ?ネギが魔法学校に入学してからどれくらい後の話だ!?」
「え? 確かネギ君がメルディアナ魔法学校に入学してから半年ぐら…………い?」
「…………まさか、タカミチ君に出会う前の半年で、感知可能な魔力を既に“10”から“5.5”にしていたということかの?
更にそれからの半年で“5.5”から“0”にしたと…………?」
「そして魔力の感知も他人の実力を見抜けるぐらい優れていたけど、魔法学校で習ったことを鵜呑みにして“見せるための魔力”と勘違いしていたのか?
ネギ君の魔力が“10”とすると、他の大人は“1~2”ぐらい。その数値を数倍にしてもネギ君より下だけど、ネギ君自身の魔力が大きいことは校長から聞いていたはずだから、今まで違和感を感じずに過ごしていた…………?」
「…………ネギだったらありえそう、と思うのは私だけか?」
「「「「「………………………………」」」」」
ネギ君ホントにどうしよう?
…………一度、ネギ君にシッカリと現実を教えた方がいいようだね。
何だか“現実を教える”という言葉の使い方を間違っている気がするけど、気のせいということにしておこう…………。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「お待たせしました、皆さん。
ハイ、好きなのをどうぞ」
「うわぁ~、缶ジュースが宙に浮いとる。ホンマに魔法って凄いなぁ…………」
「さすがに20人以上の缶ジュースを手で持ってくるのは大変ですからね」
「ウム。ありがとう、ネギ君。
さて、ネギ君がジュースを買いに行っている間に話し合って決まったんじゃが、今回魔法を知ってしまった生徒達へのお願いは、基本的にエヴァが責任を持って叶えることとなった。
一番ドジ踏んだのはエヴァじゃからの。妥当なところじゃろうて。それに古菲君や長瀬君のお願いはどちらにしろエヴァの協力が必要じゃからの。もちろんワシらにしか叶えられないお願いの場合はワシらが聞くから、ネギ君もそのつもりでいておくれ」
「わかりました。それがエヴァさんへのペナルティということですね」
「この後エヴァの別荘に赴いて詳しい説明をするそうじゃ。あの中でなら時間がかかってもせっかくの明日の休日に響かんし、何より目で見て納得しやすいじゃろ」
「そうですね、皆さん驚きますよ。映画に出てくるようなお城ですから。
よし、それなら行きましょうか。僕も一緒に行きます」
「ま、待っておくれ、ネギ君。ちょっと君に話したいことがあっての…………」
「え? でも僕も行った方がいいのでは? 僕への話は後日では駄目なのですか?」
「いや、話を聞いておけ、ネギ。魔法についての説明だが、女の私から説明した方がいいこともあってな。いくら子供とはいえ、男であるネギは遠慮しておけ。
(…………まったくの嘘だがな)」
「そ、そういうのがあるんですか!? そういうことならわかりました…………」
「よし、良い子だ。では全員行くぞ」
そういえば、アスナ君にこんな形で魔法がばれてしまうとはなぁ。
何だか最近避けられていて話し合うことが出来ていないけど、本気で話し合いの機会を持った方がいいな。
『頼むぞ、タカミチ。ネギに現実というものを教えてやってくれ。
封印されている私が言っても、おそらく信じてくれないだろうからな』
『わかってるよ、エヴァ。エヴァもアスナ君たちのことを頼むよ。
正直、ソッチまでフォロー出来るかわからないから…………』
『大丈夫だ。自分の仕出かした不始末は自分で始末するさ。
気をつけろ、ネギは手強いぞ…………』
『…………わかってるよ』
ネギ君の説得か…………うまく出来るかな?
何でネギ君は、考え方と実力がアンバランスなんだろう?
自分の実力を過大評価するのも困りものだけど、過小評価しすぎるというのも困りものだよ…………。
━━━━━ 後書き ━━━━━
「(“紅き翼”の修行で)魔力容量が増えたよ!!」
「やったねネギ君!」
さて、今回もオリジナル設定がかなり入りました。
“近右衛門が“近衛”なのに関東魔法協会の理事であること”
“刹那が裏切り者とされるのに、近右衛門にはそういう描写がないこと”
“東に敵対する行動まで起こす人間は、あくまで少数であること”
“関東魔法協会の理事の娘が西の長の妻だったこと”
“神鳴流の青山詠春が西の長であること”
“木乃香が麻帆良に行くことが出来たこと”
“木乃香が将来の西の長にならなくてもよさそうなこと”
“むしろ木乃香が西洋魔術師になってもよさそうなこと”
という疑問がたくさんあったのですが、これなら不自然ではないと思います。
“近衛”みたいな古い家なら、分家とかたくさんありそうですしね。
他の方のお話では、「近右衛門が西を裏切って東についた」ということでよく描写されます。
しかし、この作品では、
「逆に考えるんだ。
“近右衛門が西を裏切って東についた”ではなく、“西の人間である近右衛門が東の要職についた”と考えるんだ」
という発想ですね。
まぁ、近右衛門も大人ですから、公私混同はあまりせずに東の人間として生きていますが。
まとめますと、
“近右衛門が東にいるのは西も納得済み、むしろ偉くなって便宜図れ”
“詠春は中継ぎの長、そのために近右衛門の娘と結婚”
“近衛の分家としては、自分の家から長を輩出するチャンス!”
“一番楽なのは、木乃香と結婚して近衛本家に婿入り”
“でも、それだと神鳴流とか東とのしがらみも一緒についてきそう”
“だから木乃香を西に戻したいのは少数派、むしろ木乃香は東にいろ”
という、感じです。
これだったら近右衛門は西に対して貸しはあっても借りはなく、詠春に対して手厳しいことを言ってもおかしくはないのかなぁ、と。
例えるなら、
「父である社長の命令で、冷戦している相手とのパイプ役になるために相手の会社に入社したのに、父の跡を継いだ兄は後継者いない状況で死んじゃって、実家でお家騒動起きそうだったから娘を差し出したんだけどさぁ。
実家の下っ端は孫娘に対して良からぬ企みするわ、兄の跡を継いだ婿殿はその下っ端押さえつけられないわで最悪なんだけど。
文句言ってもバチ当たらんよね?」
って感じでしょうか?
ちなみに右大臣と左大臣だったら、左大臣の方が地位的には上です。
“近右衛門”に対して、“近左衛門”って名前は変でしょうか?
ネギは近右衛門のことを“東の長”と言ってましたが、あくまで近右衛門は関東魔法協会の“理事”であって、“理事長”ではないんですよねぇ。
同格の理事が他にも数人いておかしくはないと思うのですが…………。
“理事”というのは普通の会社だったら“取締役”のようなもので、社長である“代表取締役”に相当するのは“理事長”です。
それと魔力量の数値もオリジナルです。
だいたいこんな感じということにしておいてください。
もし、新たな事実が判明したら、その度に修正していきます。
とりあえず、ネギの魔力は木乃香の魔力の2倍弱、としておいてください。
魔力容量は“トレーニングなどで強化しにくい天賦の才”ということですので、あくまで“しにくい”だけみたいで増やせないわけじゃないみたいですね。
“紅き翼”の修行で元の倍以上に増えてたみたいです。
やったねネギ君!
そして遂にネギは、これから麻帆良関係者の前でも本当の実力を出してもよくなりました。
今まで打っていた数々の布石が見事に効果を発揮したようです。
麻帆良関係者はネギの実力を見たとしても、変に思わずに納得してくれ…………納得? 変に思わず?
…………。
……………………。
………………………………「ネギ君だからしょうがないんだよっ!!!」と、無理矢理にでも納得してくれるでしょう。
エヴァも魔法バレ連中の面倒を見なければいけませんが、基本的に無罪放免です。
学園長達からすると、
「エヴァの責任どころの話じゃねぇ!!!」
って状況ですので。
タイトルの“斜め下”は、皆様もご存知の“斜め上”とは少し違うものという感じでつけました。
“斜め上”が予想を裏切り全く予期できない、ありえない方向への発想ならば、
“斜め下”は予想を裏切り全く予期できない、だけどありえてもおかしくない方向への発想、という感じでしょうか。
何となくニュアンスはわかっていただけると思います。
予想よりは下回ったけど、それでも斜めな発想です。
言葉の上だけを考えるなら、別にネギは変なことを言っているわけじゃないんですがね…………。
※ 木乃香の魔力が“5強”で魔法先生の魔力が“1.5”について
もしかしたら「木乃香の魔力はもっと高いのではないか?」という感想を抱かれるかもしれません。
確かにもっと多くても良さそうかな、とは思ったのですが、それですと青天井になりそうだったので止めておきました。
魔法を使うことについて“魔力容量”の他に、“精神力の強化”、“術の効率化”など様々な要因がありますし、量だけではなく質も重要だと思いまして…………。
それと詠春は木乃香の力について「魔力を操る力が眠っています」と表現しました。「魔力が眠っています」ではなくです。
ですので木乃香は魔力も多いのでしょうが、むしろ“精神力”の方が大きいのではないでしょうか?
車で例えるなら、
“魔力容量”=ガソリンタンク容量
“精神力”=馬力
“術の効率”=燃費
といった感じです。
“術の難易度”を坂道とすると、難易度が高くなるほど傾斜が上がっていきます。
それですとガソリンタンクの容量がどんなに大きくても、馬力がないと坂道を登ることは出来ません。
そしてスクナの召喚ですが、例えますと、
“100kgのバーベル”を持ち上げれる人が“5人”いても、“500kgのバーベル”を持ち上げられるかはわかりません。
何故なら、“500kgのバーベル”を持ち上げるには5人全員がバランス良く、全力を発揮しなければならないからです。
バーベルが小さくて3人しか持てなかったら? 5人の息が合ってなくてバラバラに力を入れたら? 持つところがバラバラで、バランスがとれなかったら?
きっとバーベルを持ち上げることは出来ないでしょう。
それと、“100m10秒”で走れる人が“5人”集まったとしても、“100m9秒”で走れる人“1人”相手では、どう頑張っても100m走で勝つことは出来ない、という感じです。
リレー式にして専用の訓練をしたら、もしかしたら勝てるかもしれませんが、それでも5人の息を合わせるための訓練が物凄く必要になるはずです。
千草はスクナのことについて、「お嬢さまの力で制御可能」と言っていました。
“召喚”に必要なのは“魔力”なのでしょうが、“制御”について必要なのは“精神力”ではないでしょうか?
自分としましては6作目以降のドラクエの賢者みたく、LVが上がると“魔力効率”が上がり、魔法発動に必要な消費魔力もドンドン減っていくと考えています。
そうでなければ、ネギは修学旅行からラカン戦までの間で、魔力が最低でも10倍以上に増えてなきゃ駄目なように思います。
魔力容量は“トレーニングなどで強化しにくい天賦の才”ということなので、いくら何でもそこまで魔力が急激に増えることはないでしょう。
以上の理由から、木乃香の魔力が“5強”、魔法先生の魔力が“1.5”としました。