━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━
「ネギ~。早く寝ましょう」
「むぅ~。明日はうちの番やからな、アスナ。
…………ウチもせっちゃん呼んで一緒に寝ようかなぁ」
はいはい、わかりましたよ。大人しくベッドの中で待っててくださいね、明日菜さん。
あの後エヴァさんの家に向かったら、明日菜さん達が寮に戻るところに出くわしました。
別荘の中で2日ほど過ごしていたそうです。何を話していたかまでは、女の子同士の秘密らしいです。
そして口止め料のお願いは、やはり宮崎さんと綾瀬さんは魔法を習うこと。長瀬さんと古菲さんは僕達との修行。
明日菜さん、木乃香さん、長谷川さんはまだ保留。春休みに僕達と一緒に京都に行き、関西呪術協会からも話を聞いた後で決めるそうです。
「術式兵装『咸卦治癒』」
「へぇ、この前も見たけど、やっぱり凄いわねぇ」
「この前言うても、実際には4時間ぐらい前なのがおかしいやね。魔法って本当に凄いなぁ」
「…………わかっていると思いますけど、他の人には言わないでくださいよ」
「わかってるわかってる。ホラ、おいで。ネギ」
「大丈夫や、エヴァちゃんにもキツク言われたしなぁ」
明日菜さんやけに嬉しそうですねぇ。何か良いことでもあったんでしょうか?
それとも『咸卦治癒』の効能が目的?
「それじゃ、電気消すで。おやすみ、アスナ、ネギ君」
「おやすみ、木乃香」
「おやすみなさい、木乃香さん」
今日はいろいろなことがあって、僕も精神的に疲れましたね。まさか、こんな風に魔法バレするとは…………。
宮崎さんみたいな人には、あまり危ないことに関わって欲しくないんですけどねぇ。
まあ、これでもう猫被る必要なくなったから、これからは楽っちゃ楽なんですけど。
学園長達も僕のことを受け入れてくれましたし、京都編に向けて修行を頑張りますか。
今から鍛えれば、古菲さんも十分すぎるほど戦力になりますしね。
「エヘヘ~~~♪」
そして明日菜さんがご機嫌良すぎです。抱きしめられて頬ずりされてます。
本気でどういうこと?
「アスナ~。ご機嫌なのはええけど、騒がれるとウチ眠れんよ」
「…………ちょっとぐらいいいじゃない」
「明日菜さん、どうしたんですか? 何かいつもと違うんですけど…………」
「あ~、エヴァちゃんの別荘でいろいろあってなぁ…………。
(アルちゃんから好感度ランキング見せてもらったのは、絶対に秘密にしとかなアカンなぁ)」
「う~ん、『咸卦治癒』って本当に気持ち良いわねぇ。
桜咲さんやエヴァちゃんが寝ちゃうっていうのもわかる気がするわ」
「…………そうですか」
「アスナぁ~」
「…………とりあえず、木乃香さんに迷惑でしょうから、音が漏れないようにベッドに結界張りますよ。
それだったら木乃香さんも眠れるでしょう」
「え? それだとアスナがネギ君に何するかわから
内外の音を遮断する結界を展開。
これで木乃香さんはゆっくり出来るでしょう。
「…………あれ? 本当に木乃香の声が聞こえなくなったわね」
「振動は伝わりますから、暴れたりすると迷惑になりますけどね。ところで明日菜さん、何かあったんですか?」
「別にぃ~。ただ『咸卦治癒』ってのが気持ち良いだけよ。
ホラ、『咸卦治癒』はくっつけばくっつくほど効果が上がるんでしょ? ネギも私に抱きついてきなさいよ」
「え? でもさすがに女性に抱きつくのは…………」
「…………桜咲さんには抱きつけるのに、私には抱きつけないのかしら?」
「喜んで抱きつかさせて頂きます」
殺気感じました。
アレ? 何で刹那さんと抱きしめあって寝てるの知ってるの?
刹那さん話しちゃったんですか?
というか、何で明日菜さんがそれで怒るの?
「ねぇ、ネギ?」
「何ですか?」
「私のこと好き?」
「…………は?」
「だから…………私のこと好き?」
「…………えっと、明日菜さんのことは好きです。
というか、嫌いな人と一緒に寝れるほど人間出来てませんし…………」
これは本当。アスナさんのことが好きでしたが、明日菜さんのことも好きです。
クールで知的なアスナさんと、明るくて生き生きとしている明日菜さん。
2人ともそれぞれ違った魅力があって、どちらかなんて選べないぐらいに好きです。
アスナさんの微笑も明日菜さんのカラッとした笑いも、頭を優しく撫でてくれるアスナさんも頭を強く撫でてくれる明日菜さんも。
僕は2人の明日菜さんのことが大好きです。
「そう? ありがとう、私もネギのこと好きよ」
「…………はぁ、ありがとうございます」
タカミチとの一件から弟のように可愛がってくれるのはいいですけど、明日菜さん最近ブラコンの境地に達してきていますね。
かいぐりかいぐり、と頭を撫でられて抱きしめられて頬ずりされて、何というか揉みくちゃです。
「…………明日菜さん、ちょっと苦しいです」
「あ、ゴメンね。でもネギの方からもちゃんと抱きついてきてよ。恥ずかしがらないでいいからさ」
「わかりました」
「…………恥ずかしがらなくてもいいけど、別に恥ずかしがってもいいのよ?」
「明日菜さんが何を言ってるのか本気でわからないんですけど?」
「別にぃ~。桜咲さんに抱きつくときは顔が真っ赤になるぐらい恥ずかしがるのに、私に抱きつくときはそうじゃないんだなぁ、と思っただけよ」
「…………初めて明日菜さんと一緒に寝たときって、そういうことを気に出来る状況じゃなかったと思いますけど。
それから最近までずっと一緒に寝てましたからね。もう慣れちゃいましたよ」
「う~…………それはそうなんだけどさぁ」
やっぱり刹那さん話しちゃったみたいですね。これが女の子同士の秘密の話って奴ですか…………。
怖いなぁ。女の子同士の秘密の話って。
女子中の教師やるときから覚悟は決めてましたけどねぇ。
「刹那さんが僕と寝ることで真っ赤になっちゃって、それにつられて僕も意識しちゃっただけですよ。
故郷の従姉とか明日菜さんとか木乃香さんはそういうのなかったですからね。あそこまで恥ずかしがられるなんて慣れていませんでしたから」
「ふ~ん。そんなこと言うってことは、ネギにとって桜咲さんは特別なのかしら?」
「特別、ですか? そういうつもりはありませんけど?
むしろ2-Aの皆さんは僕にとって全員特別です」
「…………そういう意味じゃなくて、桜咲さんに意識されちゃったからネギも意識しちゃったんでしょう?
やっぱりネギも男の子なんだから、桜咲さんのことを…………えっちな目で見たりしたんじゃないの?」
「そんなことはないですよ。抱きしめられるのは慣れていても、抱きつくのには慣れていませんでしたからね。正直、刹那さんに恥ずかしいと言う気持ちを抱いたのは確かですし、抱きついたときに“気持ち良いなぁ”、ぐらいは思いましたけど。
でも最近はもう慣れてきました」
「ふ~ん。だったら、私に抱きついたら気持ち良い?」
「え? それはまぁ…………そうですけど」
「ちゃんとハッキリ言いなさい」
「…………えと、明日菜さんに抱きついたら気持ち良いです。
明日菜さんに抱きついたら柔らかくてあったかいです。良い匂いもします」
「そ、そう!? …………じゃあ、もっと強く抱きついてきてもいいわよ」
はあ…………本当に明日菜さんに何があったんでしょう?
とりあえず、言われた通りに強く抱きつきますか。
…………そういえば、抱き枕には良くされていたけど、僕から明日菜さんには抱きついたことなかったなぁ。
━━━━━ 神楽坂明日菜 ━━━━━
…………嘘ついてる様子はないわね。もしかして、元々は桜咲さんに対する“色欲”は1以上あったのに、慣れてきたせいで1まで下がっていたのかしら?
それなら少し安心できるんだけど…………。
私に抱きついてきても顔を赤くしたりしないし、やっぱりアルちゃんが言うようにそういうことにまだ興味がないのかしら?
「…………エヴァさんの指輪ですか?
確かにアレは僕が贈ったものですね。エヴァさんには別荘の件でお世話になってますし、春になったら花粉で悩まされるみたいですからね。
あの指輪で魔力を少しでも出せるようになれば、花粉症とかに悩まされなくても済むはずです」
「でも何でわざわざ指輪なのよ? 魔法具って指輪しかないの?」
「いえ、腕輪型とかイヤリング型とかもありますよ。
でもそれらだと校則違反になるかもしれませんし、そもそも選んだのはエヴァさんですよ」
「…………桜咲さんの言ってたことは本当だったのね」
「?」
「何でもないわよ」
エヴァちゃんたら自分からリクエストしたものなのに、あたかもネギが自分から選んでプレゼントしたような言い方しちゃって。
それに比べて私は毎日のように勉強見てもらってるし、こんな風に一緒に寝れるもんね。
「そういえばネギ。ドネットさんてどういう人なの?
アルちゃんに聞いたらネギのお祖父さんの秘書みたいな人で、“年上の綺麗なお姉さん”らしいけど?」
「ドネットさんですか? そうですね、そんな感じの人です。
ドネットさんは出張で麻帆良に何回か来たことがあって、僕が麻帆良に来ることになったときに麻帆良のことを聞かせてもらったりしました。
明石教授の亡くなられた奥様とは友人だったらしく、裕奈さんが小さい頃に会ったこともあるらしいですね。裕奈さんが憶えているかどうかは知りませんけど」
「え? ゆーなのお母さんの友達?
ドネットさんっていくつなの?」
「…………直接聞いたことはないから正確な年齢はわかりませんけど、40前後だったと思います。
僕の『咸卦治癒』でアンチエイジングしたこともあって、20代前半と言っても信じれますけどね」
「40歳なのに“年上の綺麗なお姉さん”なの?」
「…………明日菜さんは僕に死ねというのですか?
よくしてもらっていて若く見える女性に向かって、“おばさん”なんて言えるわけないですよ…………」
なーんだ、ただのお世辞なのね。よかったよかった。
ネギってフェミニストだから、女性に悪い言葉は使わないからねぇ。
っていうか、『咸卦治癒』って本当に凄いのね。
40歳の女性を20代前半に見せれるなんて…………。
それに気持ち良いし。いいなぁ、これ。あったかーい。
ギュゥーっと、ネギを抱きしめれば抱きしめるほどネギの心地良さが伝わってくる。
それにネギも私に抱きついてくるから、もっともっと心地良い。
ネギが自分で抱きついてくるのって、これが初めてよねぇ。
無意識に抱きついてくるときもあるけど、擦り寄ってくる感じであまり強く抱きついてこないし…………。
皆も言ってたけど、ネギの身体ってガッシリしてるわよねぇ。
プニプニと柔らかくて頼りない感じじゃなくて、弾力があるけど固くなくて感触がシッカリとわかる身体。
しかも、肌も荒れてなくて触ると気持ち良いのよね。ツルツルの卵肌というわけじゃないんだけど、シットリしてるというか。うらやましいなー。
特にこの脇腹辺りの感触が良いのよねぇ。筋肉の弾力と肌のシットリさとか一辺に味わえて。何気にお腹が割れているのもわかるし。
いいないいなー。
…………あっ、コラ。身体を捩らないの。
身体の方は筋肉質でガッシリしてるけど、顔はプニプニして柔らかいのよねぇ。
頬ずりしたら気持ち良いし、シャンプーの良い匂いもする。
ああ、もう絶対に手放さない。ネギはずっと私の抱き枕にする。
…………でも、明日は木乃香に貸さなきゃいけないのよね。
まぁ、エヴァちゃんの別荘では木乃香に迷惑掛けちゃったし、しょうがないか。むぅ~。
だから、今日の内にネギの感触を精一杯感じておきましょう。
あったかいなー。良い匂いするなー。気持ち良いなー。
ああ、もう大好き!
…………いいもん。もうショタコンでいいもん。
ああ、いんちょの気持ちが今ならわかるわ。
私はあそこまで見境無しじゃなくて、ネギ一筋だけど。
ネギも私のこと好きって言ってくれたしね。
まぁ、“姉”とかそういう感じでしか見てくれてないのかもしれないけど、一緒にいれるならそれでいいもん。
━━━━━ エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル ━━━━━
prrrrr……、prrrrr……、prrrrr……、prrrrr……。
なかなか繋がらんな。何をしているのだ、タカミチは。
…………お、繋がった。
「…………何だい、エヴァ。こんな朝っぱらから」
「朝っぱらって、もう10時だぞ。吸血鬼である私より遅く起きてどうする。
昨日のネギの説得がうまくいったかどうか学園長室までジジイに聞きに来たんだが、ジジイがいなくてな。どこにいるか知ってるか?」
「出張明けであんなことがあったんだ。寝坊ぐらい勘弁してくれ。
それとネギ君の説得なら成功したよ。学園長は途中で血を吐いてリタイヤしたけどね。今頃病院じゃないかな?」
…………カーペットの血を拭いた跡はそれのせいか。
ストレスで胃に穴でも開いたのか?
「そうか、結局あの後ネギとは会わなかったからな。どうなったのか心配だったんだ。
説得が成功したのなら何よりだ」
「…………そうかい。ネギ君はエヴァの家まで行くようなこと言っていたけどね。途中でアスナ君たちに会ったのかな?
何にせよ疲れてるんだ。今日ぐらいは休ませてくれ…………」
本当に死にそうな声しているな。説得に苦労したんだろう。
月曜の放課後から出張して、戻ってきた直後にアレだからな。無理もあるまい。
「わかった。説得に成功したなら良いさ。
ただ、もう一つ聞きたいことがあるんだが…………」
「手短に頼むよ…………ファ…………」
「電話の最中に欠伸をするな。
…………聞きたいこととは、学園長室に倒れ伏している魔法先生のことなんだが?」
ガンドルフィーニとか葛葉刀子とか…………あのとき揃っていた魔法先生が学園長室で倒れこんで寝ている。
いったい何があった?
「魔法先生? ………………あー、いけない。忘れてた。
皆、説得の途中でバタバタと力尽きていったんだよ」
「“忘れてた”、ってお前…………説得終わったら、途中で力尽きたコイツラを放って帰ったのか?」
「ゴメン、あのときはもう意識朦朧としていたから。
悪いけど、エヴァ。皆を起こしてやってくれ、頼むよ。それじゃ」
「お、おい! ちょっと待「ブチッ!」て…………」
…………タカミチの奴、電話を切りおった。あのタカミチがあんなに疲労するなんて、どれだけ説得が大変だったんだ?
それにしても今の頼み方はないだろう、マダオ風情が…………。
「如何しますか? マスター?」
「…………茶々丸はお茶かコーヒーでも淹れて来い。私はその間にコイツラを起こしておく」
「わかりました」
さすがにこのまま放っておくのは目覚めが悪いしな。
まったく、何で私がこんなことを…………。
ホラ、起きろ。ガンドルフィーニ。
起きて他の起こすの手伝え。
「立った。娘が立った。
…………まだ1歳なのに、もう立ち上がれるなんて凄いなぁ…………フフフフフ…………」
…………気色悪い。寝ながらニヤニヤと笑ってるぞ、コイツ。
昔の夢でも見てるのか?
何か触るのは嫌だから、水でもぶっ掛けるか。
━━━━━ 後書き ━━━━━
…………明日菜が壊れた?
(・3・)アルェー? 何でこうなったんだろ?
何か止まりませんでした。
これにて一連の魔法バレについてのお話は終了です。
まだちょこっと期末テストとかありますけど、それが終わり次第に京都編に突入します。あと数話です。
それとエヴァとのデートは京都旅行後の予定です。
前回のネギに対しての好感度ランキングの“色欲”は、
“短パン、ランニングシャツ(裾捲くれてヘソ見え状態)のネギと昼寝させたら、いったいどういう行動をとるか?”
というシミュレートしたところこうなりましたw
“色欲”5点の人達:興味深々にネギが起きない程度に身体を触る
“色欲”6点の人達:興味深々にネギが起きない程度に身体をまさぐる
“色欲”7点の茶々丸:“ネギと触れ合いたい”、“ネギを感じたい”という気持ちが強い
“色欲”8点のせっちゃん:鼻血でネギを赤く染める
“色欲”9点のエヴァ:「エヴァンジェリン・A・K・マグダウェル、吶喊します!!!」
こんな感じですw
せっちゃんもムッツリスケベタイプだと思います。
明日菜は“色欲”よりも人肌恋しの気持ちの方が強いですから、まだ暴走はしませんね。
ちなみにネギが逆の立場だったとしたら、
「何やってんだか、この女子中学生は?」
と呆れる気持ちの方が強いですね。