━━━━━ 近衛近右衛門 ━━━━━
…………最近、木乃香達から冷たい目で見られるんじゃけど、ワシ何かしたっけ?
お見合いも今後はしたくないって言われたし…………。
…………やっぱり、魔法のことを黙っとったのが悪かったのかのぉ。
特にアスナちゃんからは虫ケラを見るような目つきで見られるし、ワシ泣いちゃいそう…………。
━━━━━ 近衛木乃香 ━━━━━
「さて、来週には終了式。そして春休みには待ちに待った京都旅行です。皆さん、準備は出来ましたか?
あ、そういえば一昨日のジンジャークッキーどうでした? 味見もちゃんとしましたから大丈夫だと思うのですが」
美味しかったで~。クッキーに生姜ってのもオツなもんやな。ココアとかバニラとか色んな種類あって楽しめたし。
それにしても、31人分のクッキーを用意したのは大変と思ったけど、やっぱりエヴァちゃんの別荘って便利やなぁ。
ネギ君からホワイトデー当日朝のエヴァちゃん別荘使用禁止言われたときは意味わからへんかったけどね。
「それではその京都旅行について、二つほどお願いがあります。
別にこのお願いを聞いてくれなくても問題はないと思いますが、念のために安全のために危険を避けるために出来れば承知してほしいです。デメリットも心情上以外はありませんし。
危険というのは、以前説明した関西呪術協会と木乃香さんの関係上の話ですので省きますね」
…………何か皆を危険な目に遭わせてしまいそうなんは悪いなぁ。
ウチとしても、そんなこと起きてほしゅうないんやけど、コレばっかりは相手さん次第やからな。
「まず一つは今から皆さんに渡す、このボールペンとシャーペンを肌身離さず持っていてほしいということです。
ボールペンには科学的な発信機がついており、シャーペンには魔法的にマーキングしてまして、これを持ってさえいれば誘拐されたときでも居場所がわかります。
あ、二つのお願いとは別に、携帯電話持ってる人達はそれぞれ電話番号とか交換しておいてくださいね」
「…………発信機なんてどこで手に入れたんですか、ネギ先生?」
「………………秋葉原って凄いですよね」
「(イギリスにいるときから持ってたはずでしょう、ネギ先生)」
…………せっちゃんから聞いとったけど、ネギ君はやっぱり用心深いんやなぁ。
ウチを脅迫する目的で誰かを誘拐なんてされとうないから、ウチからは何も言えないんやけど…………。
「監視されているみたいで嫌だ、って人は持たなくても結構ですが、念のために持っていてほしいです。迷子のときでも大丈夫ですしね。
なお、京都は僕達が旅行に行く3月から観光客が増え始め、3~5月の間は一ヶ月につき400万人の観光客が訪れるそうです。真面目な話、関西呪術協会の件がなくても持っていてほしいのですけど…………」
はえぇ~、それは知らんかったなぁ。400万人も来るんか。確かに観光には丁度いい季節やもんな。
そういえば旅行のときって、桜は咲いとるかなぁ。
「それは凄いです。観光するのにも一苦労になりそうです」
「一日当たり10万人以上かぁ。ゆえは神社仏閣に熱中して、周りのこと忘れないようにね」
「まあ、そういうことなら拒否する理由はないわね」
「迷子防止のためにGPS持っていると思えばいいか。
…………それはそれで逆に嫌だな」
「ネギ、私は携帯電話を持っていないんだが…………」
「え? …………えーっと、それじゃあこの携帯を使ってください。僕はプライベート用と仕事用の二つ持ってますので、一つお貸ししますよ。
使い方はわかりますか、エヴァさん?」
「ム、馬鹿にする…………いや、わからん。
だから後で教えてくれ」
「わかりました。これが終わった後にでも」
「グギギギギ…………」
「………………はっ!? ネ、ネギ先生! 私と携帯電話の番号交換してください!」
アスナぁー、そう睨むのはやめとき。
それにしてもエヴァちゃんは細かいところから攻めていくんやなぁ。
ムゥ~、アスナやないけど、ウチもあんまりええ気分せんなぁ…………。
「…………皆さんに行き渡りましたね。これで一つのお願いは終了です。旅行のときに忘れないで持ってきてくださいね。
そしてもう一つのお願いなんですけど、もう一度言いますが、これは断っていただいても全然構いませんのであしからず。
そのお願いとは、僕と“お試し契約”をして、一時的に“魔法使いの従者”というものになってほしいんです」
“魔法使いの従者”?
それってエヴァちゃんとアルちゃんから聞いたことあるなぁ。
確か、魔法使いの戦闘のパートナーのことやけど、現在では戦ったりすることはないから恋人がなるのが一般的なんやってね。
“魔法使いの従者”になるためには『仮契約』という儀式をするんやったっけ。
で、その儀式っちゅうのが、魔法陣上で魔法使いの人と…………その、キスをするんやよねぇ。
…………。
……………………。
………………………………って、えええぇぇっ!?
「な、何言ってるのよ、ネギ!? そういうのはちゃんとお互いを知ってからじゃないと…………。
で、でもネギがどうしてもと言うならしょうがないわねっ!!!」
「ちょ!? 待てぇっ! そんなことは許さんぞ!!!
それだったら私がネギのパートナーになる!!!」
「ネ、ネギ先生のパートナーに…………。
よ、喜んでパートナーになりましゅっ!!! ……………………噛んじゃった」
うわぁ。アスナとエヴァちゃんとのどかが凄い剣幕や。
「え? 皆さん“魔法使いの従者”については知ってるんですか?
あ~、だったら説明の仕方間違いましたねぇ。ごめんなさい。
落ち着いてください。別に僕と『仮契約』をして貰おうというわけではないですから。
説明しますので落ち着いてください、というかジリジリと寄って来ないでください。いや、ホントにマジで…………」
ん? そんならどういうことなんかな?
ホラ、落ち着き、アスナ。
ウチもビックリしたけど、そこまで興奮することないやろ。
「えーっと、どこまで皆さんご存知かわかりませんので、最初から説明することにしますか。
まず、“ミニストラ・マギ”とは日本語で“魔法使いの従者”という意味です。ちなみに“ミニストラ”は女性の場合の呼び方で、男性の場合は“ミニステル”となります。
元来、魔法使いは呪文詠唱中は全くの無防備でして、その間に攻撃されてしまうと魔法は完成出来ません。魔法詠唱中の魔法使いを守る従者が“魔法使いの従者”です。
今では戦うことはほとんど無いので、恋愛対象がそのパートナーという感じですけどね。
“魔法使いの従者”は魔法使いの魔力により身体能力を強化出来たり、に対して念話、召喚などをすることが出来ます。
それと魔法使いの能力によっては、各従者毎に潜在能力をさらに引き出すことができる固有のアーティファクトが発現出来る事もあります。ここまでは良いですか?」
うん、ええよ。ここまではだいたいエヴァちゃんとアルちゃんの説明通りやな。
「仮契約を行うと、契約者が描かれた“仮契約カード”が出現し、そのカードに従者の“称号”、“徳性”などが書かれています。
えーっと、ちなみにこれが僕の“仮契約カード”ですね」
ゴソゴソとネギ君がポケットから取り出したのは1枚のカード。白と赤の2色のカードで、中心にネギ君の姿が描かれとる。
ええなぁ~、これ。カッコエエわ。
『仮契約』したらこのカードが手に入るんか。
なーんかこのカード欲しさで『仮契約』しちゃいそうやわ。アッハッハ…………。
…………。
……………………。
………………………………何、やて?
「ネ「まずは裏に書かれている契約主の名前をを見てくださいっ!!!」…………わ、わかったえ」
「…………ネ、ネギ先生には既にパートナーが…………?」
「そ、そんな。ネギったら、私という者がありながら…………。ギリギリギリギリ…………」
「だ、誰なんだ!? ネギと仮契約してい…………って、おい、ネギ?
何で契約主と従者の名前が両方とも“ネギ・スプリングフィールド”なんだ?」
…………あ、ホンマや。裏面に書かれてる名前と表面に書かれてる名前が一緒やん。
これが契約主と従者の名前のとこなんよね? あれ? 何でその二つが一緒なん?
「というか本気で何なんだ、この仮契約カード!?
契約主と従者が同一人物なんて聞いたことないぞっ!?」
「は? エヴァンジェリン、ちょっと見せてくれ?
………………本当だ。ネギ先生、これはどういうことだい?
私もこの業界に長くいて『仮契約』も過去にしたこともあるが、こんなこと出来るなんて聞いたことないぞ」
「裏技使いました」
「「……………………ハァ?」」
「裏技? 魔法にもそういうのもあるんだな」
ほぇ~。ゲームとかにもそういう裏技とか隠し技あるもんなぁ。
でもエヴァちゃんが知らないってことは、よっぽど隠れてたやり方なんやろうな。
「…………まあ、裏技というか力技というか、技ですらないというか…………。
やった当時は大丈夫と思ったからやったんですけど、多分その内容をタカミチとかに話したら怒られると思います」
「またか? また何かやったのか、ネギ?」
「聞かない方がいい、エヴァンジェリン。どうせまた微妙な気分になるぞ」
「…………ム。それはそうなんだが…………」
「こういっては何ですが、僕以外には出来ないと思いますね。
もし出来るとしたら、エヴァさんぐらいですか。『闇の魔法』的に」
「何だそれは!? 何で『闇の魔法』が『仮契約』と関係が………………やっぱりいい。
確かに微妙な気分になりそうだ。というか、もう既に微妙な気分だ」
「キーワードとしては“『闇の魔法』”、“ワザと肉体を魔族化して別人判定”、“霊体と変化した肉体間で無理矢「言うなっ! それ以上言うんじゃない!!!」…………ま、そんなわけです」
「…………何か今物騒な発言があったような」
「やめろ、刹那。これ以上掘り返すんじゃない。忘れるんだ。
大事なのはネギ先生が『仮契約』を自分と自分の間でしてることだけだ。
それ以外のことは考えるな」
「ちなみにこのカードを見るのは、アルちゃん以外では皆さんが初めてです」
…………え、ええんかな? 本当に突っ込まないで…………。
というか、アルちゃんが何かを思い出したのか、神さまにお祈りしながら部屋の隅でガタガタ震えて命乞いしとるんやけど?
「…………儀式を手伝ってくれたアルちゃんには、ちょっと刺激が強すぎたみたいでしたので…………。
とりあえずこの『仮契約』によって、僕もアーティファクトを持つことが出来ました。
『来れ』、“空飛ぶゲタ”、“白紙仮契約カード”」
ポン! と出てきたのは、仮契約カードと同じ大きさの真っ白な紙、それと人が数人乗れそうなぐらい大きくて平べったいフヨフヨ浮いとる板。
何やのコレ? UFO?
「コッチの“空飛ぶゲタ”は名前の通りというか見ての通りというか、簡単に言うと乗って空を飛べます。
簡易的な認識阻害、微弱な魔法障壁も常時発動しています」
「…………これはモビルスーツと同じ飛び方なのかい?」
「そうですね。魔力をジェット噴射のように噴出してます。出力上げれば瞬動のように移動出来ますし、出力弱めれば柔らかい機動が可能です。
モビルスーツのスラスターはこの“空飛ぶゲタ”を参考にしてますね」
「面白そうね~」
「話が終わったら乗ってみますか?
風を切って空を飛ぶのは気持ちいいですよ」
あ、ええなぁ。ウチも空飛んでみたいわ。
飛行機とかも乗ったことあらへんし、空飛ぶなんて初めてやわ。
「で、コッチが本命なのですが、僕のもう一つのアーティファクト、“白紙仮契約カード”です。
見ての通り、契約主と従者の名前欄が空白である以外は、真っ白で何も書かれていない仮契約カードです。
“契約者と従者のどちらかに、ネギ・スプリングフィールドの名前を入れること”、
“名前欄に、自分の血で、自分の名前を、自分で書くこと”で契約成立です。
なお、“契約者と従者を交換して、同じ人間で相互に主従となるのは不可能”、“契約者と従者を交換する場合は一度契約を破棄すること”、等の制約があります。
ただし、“この“白紙仮契約カード”と“本当の仮契約”を使用して相互に主従となるのは可能”で、しかも“何枚でも作成可能”という利点があります。
詳しい効果としましては、
“従者への魔力供給”、“従者の召喚”、“念話”、“防御力アップ”は使用可能。
“潜在能力の発現”、“アーティファクトの召喚”“衣装の登録”は使用不可能です。
アーティファクトの召喚こそ出来ませんが、それでも十分使える能力です」
「…………何ともまぁ、変則的なアーティファクトだな。つまりネギの狙いは“従者の召喚”“念話”機能か」
「確かにその二つがあったら、何か事態が起きても楽になるな」
「それもありますけど、一番の狙いは“防御力アップ”ですね。“従者への魔力供給”による身体強化も大きいですが。
本来の仮契約なら、『来れ』でアーティファクトを出すことまでしなければ“防御力アップ”は出来ないんですが、これならカードを手に持つだけでOKです。
僕の魔力容量なら長時間、ここにいる全員に魔力供給して身体強化しても支障はないですし。
まぁ、実際にどれだけ魔力供給で身体能力が上がるのかを見てもらいましょうか。
行くよ、アルちゃん。『契約執行 60秒 ネギの従者 アルベール・カモミール』」
あや? アルちゃんもネギ君と“お試し契約”しとるんやな。
何かアルちゃんがうっすら光って見えとる。これが魔力なんやろか?
そんでネギ君は空手の試し割りで使われそうな木の板取り出して、アルちゃんの前に差し出した。
木の板を前にしたアルちゃんは後ろの2本足で立って、ボクシングのファイティングポーズをとった。
…………やっぱ、カワエエなぁ。
「ハァッ!!!」
おお! アルちゃんの掛け声と共に繰り出した拳が、木の板をバキィッ! っと真っ二つに割りよった。
アルちゃん凄いなぁ。これが魔力供給による身体強化なんか~。
「と、このように非力なアルちゃんでも、こんな木の板を割るぐらいに身体能力を強化できます。防御力も車に撥ねられたとしても、悪くて骨折で済むようになるぐらいに上がりますね。
契約を破棄する際はカードを破くだけでいいですし、破棄しても再び契約することはもちろん可能です。
それと“空飛ぶゲタ”も“白紙仮契約カード”で契約したら操縦可能になります」
便利そうやねぇ~。
でも、これがあったら確かに皆安全やなぁ。
「…………危険はなさそうだし、いつでも辞めれるなら京都旅行の間だけなら問題ないかな。
血文字を書くってのオカルトっぽくて嫌だけど、傷は先生が治してくれるんだろ?」
「それはもちろんです。指先にちょっと切り傷つけるぐらいでいいですし、傷跡が残るようなことはないように念入りに治癒魔法をかけます。
安心してくださって結構ですよ、長谷川さん」
「本当に“お試し”契約なんだなぁ。
『本契約』の劣化版である『仮契約』とは、本当に違う意味での“お試し”だ」
「…………スマナイが、私は断らせてもらうよ、ネギ先生。
確かに私は護衛だが、例え“お試し”といえどネギ先生と契約するのは依頼のうちには入っていない」
「わかりました。龍宮さんの実力ならお試し契約をしなくても問題ないでしょう。
あ、それと木乃香さんは立場上、僕の“魔法使いの従者”になるのは止めておいた方がいいと思います」
「え? ウチだけネギ君と契約出来ひんの?」
「同感です、ネギ先生。
木乃香お嬢さま、お嬢さまが東西どちらの道を歩まれるかわからない現時点で、“お試し”とはいえ西洋魔術師の従者になるのはマズイかと…………」
う~、確かにそうやけど…………。
ウチだけ仲間ハズレみたいで嫌やなぁ。
…………そうや! 逆に考えるんや。
ウチは立場的な問題で、ネギ君の“魔法使いの従者”になるのが駄目なんなら…………、
「ネギ君がウチの“魔法使いの従者”になればいいんや!!!
…………っ!? ウチがネギ君のご主人様っ!?」
「え? ソッチですか、お嬢さま?」
「…………それなら問題ない…………んですかねぇ? 黙っていればいいのかな?」
「問題ありまくりだ、近衛木乃香」
「そうよ~、そんなの駄目に決まってるじゃない、木乃香ったら」
「だ、駄目ですよ! 木乃香さん!」
ええ~、ええやん。それやったらウチがネギ君呼べるからなぁ。
それに皆だけネギ君と契約するのはズルイわぁ。
━━━━━ 後書き ━━━━━
フェイトは修学旅行の前の月に研修で来たらしいので、今回の旅行のときにはちゃんと京都にいます。
もちろん、『闇の魔法』を利用して自分と自分の間で『仮契約』するのはオリジナルです。
それと茶々丸が『仮契約』出来るのなら、アルちゃんも出来ますよね。アーティファクトは選ばれた者にしか与えられないらしいので、アーティファクトまでは無理でしょうが。
そして学園長は出番無かったほうが幸せだったかもしれませんね。
まぁ、これはネギの被害者というわけではないので…………。
【ネギの被害者リスト】
メルディアナ学校長:燃やされた
カモ:去勢された+“『仮契約』儀式の手伝い” ← new!
鳴滝姉妹:悪戯し掛けて返り討ち
エヴァンジェリン:紅茶吹かされた
バカレンジャー:勉強地獄
学園長:ストレスによる急性胃潰瘍にて吐血
さよ:知らないうちに成仏させられるところだった
魔法先生一同:「この子ホントにどうしよう?」という絶望
愛衣:幼児退行させられた
高音:露出狂の嫌疑かけられた
刀子:露出狂の嫌疑かけられた
バレーボール:破裂させられた
タカミチ:コーヒー吹かされた+担任クビ+マダオ就任
刹那:勉強地獄+バカホワイト就任
明日菜:失恋