━━━━━ 絡繰茶々丸 ━━━━━
「おはようございます、エヴァさん、茶々丸さん。2人とも早いですね」
「おはよう、ネギ」
「おはようございます、ネギ先生」
はい。マスターのご意向で、新幹線発車2時間前には到着していましたので。
駅を発着する新幹線を、ワクワクした顔で眺められるマスターはとても可愛らしいお姿でした。
ネギ先生のご尽力もあり、無事にマスターが麻帆良の外に出ることが出来て何よりです。
ただ、指輪による魔力封印が効いており、マスターは全力が出せない状態です。もしも何かコトが起こった場合には、ネギ先生の魔力をお借りする予定になっています。
マスターの2倍以上の魔力を持たれるネギ先生なら平気でしょう。
「他の皆さんはまだ来ていないですよね」
「仕方ないだろ。事情を知らない他の奴らについて来られないように、時間差をつけてバラバラに来るのだからな」
「新幹線発車まで後一時間。皆さんの位置関係は発信機で把握しております。あと30分以内には皆さん到着されるでしょう」
「そうですか。今のところ順調のようで何よりですね
それにしても、今日が晴れて良かったです。天気予報見ましたけど、京都も今日は晴れみたいですよ。昨日は雨が降ったみたいですけど、雨雲はもう過ぎ去ったようですし」
危険なことがある可能性もあり、他の2-Aの方々について来られるのは好ましくないので、大宮駅に現地集合といたしました。
名目も、長瀬さんや古菲さんは泊りがけの修行、木乃香さんは里帰りでアスナさんと桜咲さんはその付き合い等々、他の方々に感づかれないようにバラバラです。
ネギ先生も学園長の依頼でお使いという名目を、2-Aの皆さんに予め説明しております。
…………目的地はデタラメなことを言っていましたが。
ある程度情報を開示しておき、自分達の意思でついて来られないようにしてもらうのがネギ先生のやり方だそうです。
「コントロール出来ない平和よりも、コントロール出来る騒乱の方が好みです」
とはネギ先生のお言葉。
この言葉を聞いた桜咲さんや龍宮さんは顔が引き攣っておられ、マスターは「もう何も言うまい」と黄昏ていました。
…………ちなみに私達は特に名目などは作っておりません。元から他の方々とはそんなにお付き合いがありませんでしたので…………。
超鈴音や葉加瀬の他は、超包子のシフトを変更するぐらいでしょうか。
猫さん達のことはハカセ達にお願いしておきましたので、きっと大丈夫でしょう。
「茶々丸さん、認識阻害の方は問題ありませんか?」
「はい、問題ありません。一般人から奇異の視線で見られることもありませんし」
「スマンな、ネギ。茶々丸に認識阻害の魔法具をくれて」
「問題ないなら何よりです。
茶々丸さんには美味しい紅茶をいつも御馳走していただいてますので、そのお礼ですよ」
認識阻害の魔法具である髪留め。ガイノイドである私が目立たないようにするために、ネギ先生から頂きました。
麻帆良以外の場所では私のようなガイノイドは存在しておりませんので、京都に行ったら私は目立ってしまうでしょう。そのためには認識阻害が必要です。
アスナさんの反応からすると、ネギ先生からアクセサリーのようなプレゼントを頂いたのは、マスターと私だけのようです。
さよさんに贈られる予定の幻術がかかる魔法具は、春休みの終わり頃に届くそうですし。
…………ネギ先生からの、プレゼント…………。
「…………あ。木乃香さん、アスナさん、桜咲さんが駅構内に入られました。
尾行護衛をされている龍宮さんもその100m後方に、長瀬さんは違う入り口から3人より先回りして入り、前方の安全を確保するようです」
「了解です。今のところは予定通りですね。このまま問題なく進めばいのですが…………。
(やはり見られてます。木乃香さんが西に戻るのに賛成な方か反対な方かまではわかりませんが、少なくとも殺気は感じませんね)」
「…………やはりネギは何か起こると考えているのか? 正直、考えすぎだと思うのだがな…………。
(そうだな。…………近衛詠春からの派遣された護衛ということはないよな?)」
「考えるだけならタダなのでいいんですよ。対抗手段は最悪の2、3歩手前までしか用意してませんし。
(学園長からはそんな話は伺っていません)」
「…………ちなみにその“最悪”とは?
(どうする? 始末するのか?)」
「東西全面抗争で「やっぱりもういい」…………そうですか? ちなみに最悪の2、3歩手前は、木乃香さんを長にしたくない人達による“木乃香さん暗殺計画”です。
西だって組織的に最悪なことはしないでしょうけど、個人的にはどうかまではわかりませんからね。個人がどう考えるのかまでは、その個人を知らない限り予想がつきません。
(まだ放置しておきましょう。もし駅構内で仕掛けられても、エヴァさんの家に準備させてもらった転移陣へ瞬時に転移できます。新幹線での移動中ではさすがに無理ですが)」
「…………まぁ、確かにそれはそうだな。
(仕掛けてくるなら観光が終わった後にして欲しいものだ。…………というか、始末する可能性は否定せんのか)」
人の心とは難しいです。
クラスメイトとして少しは知っていたアスナさんが、何故あのように変わったかすら理由がわからない私なら尚更です。
ネギ先生はまるで私のことをニンゲンのように扱ってくださいますが、それでも私は魂を持っていないただの機械です。
…………だから、私はネギ先生と“お試し契約”を結ぶことが出来なかったのでしょうね。
━━━━━ 天ヶ崎千草 ━━━━━
あれが木乃香お嬢様…………確かに極東一の魔力と噂されるだけのことはあるなぁ。
こうやって見るだけでお嬢様の凄さがわかるわ。
…………お嬢様が西に戻ってきてくれさえすれば、東にいる裏切り者達にデカイ面させないですむというのに…………。
そりゃあウチかて明治、大正、昭和という、激動の時代を甘く見るつもりはあらへん。
一歩間違えば日本の呪術どころか、日本という国そのものが亡くなっていたかもしれんということは重々承知してる。
それにこの国際化の時代、一般人が西洋の生活習慣に変わったように、ウチら日本の呪術集団もある程度は西洋との妥協をせなアカンのもわかっとる。
こないだ研修で来た新入りも西洋魔術師やしな。
しかしそれでも、伝統を忘れて西洋魔術に染まり、外国人を日本に呼び込み、我が物顔で関東で好き勝手するのは気に食わんなぁ。
それにしても、まだ修行をしとらんというのに木乃香お嬢様のあの力。
今回の旅行は麻帆良で裏のことを知ってしまい、今後のことについて父親である長と話し合うために里帰りなさるということやけど、是非とも西で日本呪術を学んで頂きたいものやわ。
それにしても話では、木乃香お嬢様と一緒に裏のことを知ってしまったご学友も来はるということやったけど…………アレで全部かいな? 随分と外国人が多くあらへんか?
赤毛でスーツを着た大人びた坊やと西洋人形みたいな金髪のお嬢ちゃん。中華服来た子は…………中国人? それともファッション?
そして背の高い褐色の肌の女………………引率の麻帆良の魔法先生やろか? 魔法先生が1人来ることになっとるらしいし。
加えて気をつけておくのは木乃香お嬢さまの護衛の神鳴流剣士と、あの背の高い目の細い女やな。アレも魔法先生かいな?
…………アレ? 魔法先生は1人のはず。どちらかがお嬢様のご学友?
…………んなわけないか。あの背といいスタイルといい、どう考えても大人の女や。
……………………というか、あのロボットみたいな女の子は何なんや?
麻帆良では魔法と科学の融合ということをしているらしいから、それ関係かいな?
それにそもそもあの坊やは何なんやろ?
木乃香お嬢様は女子中に通っておられるから、男の同級生はいるはずがないし、何よりどう見たって小学生くらいやろ。ウチの小太郎や新入りと同じくらいやし。
でもそんなこと言うたら、金髪のお嬢ちゃんもどう見たって小学生やなぁ…………。
…………あ! もしかして赤毛の坊やと金髪のお嬢ちゃんは、引率の魔法先生が担当している魔法生徒かいな?
観光も兼ねてるという話やし、京都を観光するために連れて来たのかもしれへんな。今の時期の京都は観光の外国人で一杯やし、まだ小さい子供で学校は春休み。それなら連れて来てもおかしくないかも。
というか、金髪のお嬢ちゃんは新幹線をキラッキラした目で見とったからなぁ。
アレはどう見ても完璧に観光に来た外国人の子供やった。
やっぱり外国人の目から見ても、新幹線は凄いものに写るんやろうなぁ。
他の子達は木乃香お嬢様のご学友やろ。お嬢様と楽しそうにお喋りしとるし。
よし、そろそろ発車時刻やな。お嬢様達は乗車位置からして…………グリーン車か。
…………ウチは普通席なのに。まあええ。さっさと乗ろか。
さて、これからどないしようかなぁ?
木乃香お嬢様を西に戻すためにいろいろ企んでいたけど、この旅行で自発的に戻ってこられるかもしれないというのなら、ウチがここでチョッカイかけるのは逆効果やしなぁ…………。
とりあえず、式神を使うて情報収集といこか。
魔法先生らしき人も2人いるみたいやし、新幹線の中での会話から、お嬢様が今後どのような道を選ばれるおつもりなのかわかるかもしれん。
魔法先生が良からぬことを企んでいるとすれば当初の予定通り、無理矢理にでも木乃香お嬢様は西に戻ってきてもらうことにしましょ。
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『…………おおおぉぉーーー! 凄いぞ、ネギ! 外の景色を見てみろ!!!』
『はいはい、落ち着いてください、エヴァさん。周りのお客様のご迷惑になりますから、少し静かに…………』
感度良好や。小ザル式神がうまく潜り込めたようやな。西洋魔術師なんていうても大したことあらへん。
…………それにしても、子供は元気あってうらやましいなぁ~。
『それにしても、京都に帰るんは久しぶりやなぁ。中学生になってからは帰っとらんかったし』
『木乃香と刹那さん以外は京都初めてなんじゃない? 楽しみね~』
『今日は真っ直ぐ木乃香さんの実家に向かう予定でしたね。
アチラから話を伺うこともあって、観光に出られるのは最低でも明後日以降となりそうですね』
『何だと!? せっかくの京都なのに、明後日まで観光はお預けだというのか!?
話を聞くのはお前達だけでいいだろう!? 私は明日から神社仏閣巡りをするぞ!!!』
『だからエヴァさん落ち着いて…………ああ、もう…………』
…………ザザァッ!…………ザァッ!…………
結界を張られた!? 式神に気づかれたんか!?
………………んなわけないか。
あのお嬢ちゃんがうるさかったから、周りの客に迷惑掛けないように結界張ったんやろ。
えーっと、もうちょい出力上げて…………。
『…………りましたから。皆さんには僕がついていますから、エヴァさんはどうぞ明日から観光してください』
『ム、ネギは来ないのか? だったら…………でも、せっかくの京都…………』
繋がった繋がった。さて、せっかく結界を張って秘密の話を出来るようになったんやから、いろんな話をしてくれへんかなぁ。
木乃香お嬢様が今後どうするのかとか。
あ、販売員のおねーさん。
お茶…………えーっと、そのペットボトルのやつおくれやす。
『それにしても関西呪術協会ですか。いったいどんなところなんですか、桜咲さん?』
『そうですね、炫昆神社という古い神社が関西呪術協会の本拠地です。
京都だから大きい神社は観光地にされてしまいそうですけど、さすがにそこは観光地にはなってないですね』
『神社アルかぁ。まさしく日本の呪術集団の本拠地、って感じアルな』
『ところで本屋ちゃん達は結局魔法を習うみたいだけど、西洋魔術か東洋呪術にするか決めたの?』
『いえ、まだです。ネギ先生の言う通り、やはり関西呪術協会の方からもお話を伺ってからと思って…………』
『私ものどかと同じです。でも、東洋呪術を習うとすると、麻帆良から引っ越さなきゃいけなくなるかもしれないのがネックなのです。
麻帆良から離れたくないというのが正直な気持ちですね』
あら、残念。若い子が入ってくるなら大歓迎やったのに…………。
ウチらは先祖代々続いての呪術集団な分、新規の若手がぜんぜん入って来ないからなぁ。
『それに私は使うとするなら攻撃魔法とかじゃなく、治癒魔法の方がいいですし…………』
『そうですね。一通りのことは勉強するつもりですが、今の時代では攻撃魔法を使う機会があるとは思えません。
日常生活でも使える治癒魔法の方が私達にあっていると思うのです』
『そうやなぁ。ウチも魔法を習うことにするんなら、危ないのよりはネギ君みたいな治癒魔法とかの方がええわ』
『僕の使うような治癒魔法とは違いますけど、ちゃんと東洋の呪術にも回復系の術がありますよ。僕が少し調べた感じでは、西洋の“外科”に対して、東洋は“内科”という印象を受けました。えーっと、日本に漢方とかありますけど、それに近いニュアンスを感じましたね。身体の芯から治すような感じです。
僕の『咸卦治癒』でも似たようなことは出来ますけど、東洋呪術の方が専門的だと思いますよ。いつまでも健康に長生きしたいと思うなら、東洋呪術の方がいいかもしれませんね』
『ふーん、そういうのもあるんやなぁ。…………でも、ゆえの言う通り、西を選ぶことになったら皆と離れ離れになってまうのが嫌やなぁ。
せめて中学は麻帆良で卒業したいわぁ』
へぇ~、あの坊やは治癒術師か。なかなか勉強しとるみたいやし、坊やは木乃香お嬢様を西洋魔術に引っ張り込もうとは思っておらんようやな。
素直そうな坊やみたいやし、幸せに育った甘ちゃんかな?
そして木乃香お嬢様は治癒術師志望か。
まあ、今まで裏のことを知らなかった女の子ならしゃーないな。おっとりしてそうな御方やし。
『そういうのも含めて、今回の旅行でお父さんと話し合ってみればいいですよ。
ぼくはちょっとトイレに行ってきます。ついでに新幹線の中を見回りしてきますね』
『うん、気をつけてね』
『迷子にならんようにな~』
『アハハ、新幹線の中でどう迷子になれと?』
『いってらっしゃい、ネギ先生』
『お土産よろしくお願いアル』
『ああ、悪いけど、ネギ先生。帰りでいいから缶コーヒーお願いしていいかな、無糖の奴』
『わかりました。他に何か買ってくるようなものはあります?
…………ないなら行ってきます。10~20分で戻ってきますので』
…………。
……………………。
………………………………あの坊やが“先生”?
え? どういうことなんや? どー見たって10歳くらいの子供やないかい!?
というか、あの背の高い女達はホンマに中学生なんか!?
『…………そういえばくーふぇと楓って、ネギ君と修行してるんやよね。どんな感じなん?』
『どんな感じといわれても…………自らの力不足を恥じるばかりでござるよ』
『…………まだ一本も取れたことないアル。というか、ネギ坊主は酷いアルよ。
「椅子に座ったままでも古菲さんに勝てますよ」
なんて言われて試合してみたら、ネギ坊主は椅子に座ったまま空に飛んで逃げたアル。それからは手の届かない空から魔法で滅多打ちだたアルよ…………』
『…………嘘は別についてねーな』
…………それはまた、けったいな戦い方する坊ややなぁ。
『だから前に言っただろう、古。ネギ先生に勝とうとするなら、空を飛ぶことが出来るか射程数kmの飛び道具がないと絶対勝てないとな。
こんなジョークがある。
「イギリスでは“法で禁止されてなければやってもよい”
ドイツでは“法で許可されていなければやってはいけない”
フランスでは“法で禁止されていてもやってよい”
ソビエトでは“法で許可されていてもやってはいけない”」
…………とな。古のときは狙ってやったんだろうが、このジョークはイギリス人のネギ先生らしく感じないか?』
『…………わかる、龍宮。何かわかるぞ、それ。
そうか。国民性の違いというものもあるのかなぁ…………』
『…………話の流れ的に魔法無しと思ていたアルよ。
まあ、そのあとに虚空瞬動とか実演して見せてもらたので、今はそれを練習中アル。瞬動はなかなかうまくいくようになてきたけど、虚空瞬動の方はまだまだアルね』
『ネギ坊主は瞬動とか、そういう力の制御が凄くうまいでござるよ。ずっと1人で修行していたせいで、基礎訓練ばっかりやっていたらしいでござるから。
何でもない、普通のはずの動作がコチラに対して必殺の一撃になるでござるし』
『さすがは“スプリングフィールド”ということか。“蛙の子は蛙”とはよく言ったものだ』
『…………いや、ナギもあそこまで出鱈目じゃなかったと思うぞ…………』
!? “スプリングフィールド”!? “ナギ”!? 大戦の英雄!?
あの坊やは“千の呪文の男”とやらの息子かいな!?
“先生”やってるのも、それと何か関係あるかもしれへんな。
『しかし改めてアスナ殿や木乃香殿たちを見ると、やはりネギ坊主の本領は癒しだと思うでござる。
最近ますます肌ツヤが良くなったでござるなぁ』
『あ、やっぱりわかっちゃうわよねぇ。クラスでも他の皆に聞かれちゃうしさ~』
『アレやなぁ。若さにかまけて、お肌のお手入れとかは特別な事とかはしておらへんかったからなぁ。
そりゃ洗顔とかはちゃんとしとったけど、まさかネギ君のおかげでここまでお肌が綺麗になると思っとらんかったわぁ』
『それについては同感だな。口止め料の代わりというわけじゃないが、私も何度かやってもらったけどさ。本当に肌の感じが違ってくるんだよ。
魔法とかには関わりたくないと思っていたけど、アレをしてもらうためなら関わってもいいような気になってきた。
(おかげで最近はフォトショップ使わないで済むようになったしな)』
…………何か、随分とうらやましい話をしとるなぁ。あの坊やの治癒魔法はそんなに凄いんか?
それにしても治癒魔法が得意ってのは英雄らしくないなぁ。
まあ、英雄の息子といっても親と子は別モンだから、坊やが英雄らしくなくてもしゃーないか。
『あれ? でも楓達はネギにしてもらってないの?』
『普通の治癒魔法はしてもらったことはあるでござるが、『咸卦治癒』での治癒はないでござるな。
ネギ坊主はそこら辺のところ、シッカリしてるでござるし』
『? そこら辺って?』
『アスナ殿や木乃香殿は普段から世話になってるから、刹那は神鳴流の手ほどき等、ネギ坊主はお礼として3人に『咸卦治癒』をしているでござる。千雨殿は…………おそらく関西呪術協会から話を聞くまで何も無しというのは不公平だからでござろう。
この旅行が終わってお願いを聞いてもらったら、多分もうしてくれないと思うでござるよ。
拙者達は既に、魔法を黙っている代わりに一緒に修行してもらうというお願いを決めたでござる。要するに、もう貸し借りはない状態でござるよ。
頼めばしてくれると思うが、頼まなかったらしてくれないでござろう。もちろん『咸卦治癒』でしか治癒出来ない傷などは別でござるが…………』
『く…………アレをしてもらえなくなるのは辛いな。こうなったらお願いを使ってでもやってもらおうかな…………』
『…………で、では私達も駄目だということに…………』
『う~、でも元々ネギ先生と一緒に寝ることなんか出来そうにないから…………』
『別にウチはネギ君と寝るぐらいは気にせんけどなぁ。湯たんぽ代わりに丁度ええし。なぁ、せっちゃん?』
は? あの坊やは木乃香お嬢様と一緒に寝てるんかい?
…………まさか東の連中、坊やを餌に木乃香お嬢様を東に留めて置くつもりやないやろうな?
それに長と“千の呪文の男”は盟友だったはずや。
だったら坊やと木乃香お嬢様が許婚だとかの話があってもおかしくあらへん。
『え、ええ…………最初は意識してしまいましたけど、今はもう平気になりました。
でも、たまにネギ先生が木乃香お嬢さまと私に潰されていることとかありますし、やはりあのベッドに3人はキツイのでは?』
『そうやなぁ。でも新しいベッドを部屋に入れるわけにもいかんしなぁ』
『…………言っておくが、私はネギ先生と一緒に寝てないぞ。前のときみたく、手でしてもらってるからな。
というか、昨日もしてもらったんだけどネギ先生が愚痴ってたぞ。
「何かたまに明日菜さん達の目が怖いときがあるんですよ」
って…………お前ら少しは自重しろよ』
『…………別に変なことしてないわよ』
『目ぇ逸らすな、神楽坂』
『え? “達”ってことはウチも?』
『…………きっと旅行の準備の買い物のときに、ネギ先生を着せ替え人形にして遊んだのがマズかったのでは?』
『な、何だそれは!? ネギを着せ替え人形にだと!? 何故私を呼ばなかった!?』
『…………やっぱりスカートはマズかったんかなぁ』
『ネギ先生にスカート!?』
『何ですか、ソレはっ!?』
…………あの坊やは坊やで大変みたいやなぁ。話みたいな治癒魔法が使えるなら、引っ張りだこになってもそりゃしゃーないわ。
しかも女子中の教師みたいやし、きっと学校でもオモチャにされとるんやろ。
………………不憫な。
しかし、木乃香お嬢様はどうやら、西洋魔術の方に心が傾いておられるようやな。
正確には、魔術についてはこだわりは持っておられへんようやけど、ご友人達や今までの生活が気に入っておられるみたいや。
これだと自発的に西に戻ってもらうのは厳しいかもしれんなぁ。やはり強硬手段に出るしかないか。
元からそのつもりやったから、計画を変更しないでもいいんやし。
…………さっきまでの会話を聞いとったら、お嬢様とご友人の仲を裂くのは悪い気がするけど、生まれのせいだと思って諦めてもらうしかありまへんな。
…………あ、販売員のおねーさん。駅弁一つおくれやす。
ま、ええわ。どーせウチはもう止まれんのや。京都駅では人目があって無理やし、本山に入られたら手が出せん。
となると、本山に着く前に仕掛けるしかないな。腹ごしらえしたら、小太郎達に予定通りに決行することを連絡せんとな。
…………あ、しもた。お茶全部飲んでしもたんや。
さっきの販売員のおねーさんに一緒に頼めばよかったわ。
このミルクティーじゃ駅弁とあわへんし、ウチはやっぱり緑茶の方が好………………ってミルクティー?
…………ウチ、ミルクティーなんか買った覚えあらへんけど?
? ミルクティーの缶にメモ紙が貼り付けられとる?
「お勤めご苦労様です。
ペットボトルは空ですので捨てておきますね。
このミルクティーはプレゼントです。
ネギ・スプリングフィールド」
…………。
……………………。
………………………………いつの間に?
━━━━━ 後書き ━━━━━
原作でも茶々丸との『仮契約』は力技で無理矢理成功させていたので、力技が無理な“白紙仮契約カード”による契約は不可能です。
さすがにレンズ洗浄液で“お試し契約”を結ぶのは無理でした。
そしてネギはもちろんわざとです。ネギとしては
「コントロール出来ない平和よりも、コントロール出来る騒乱の方が好みです」
ので、京都で一連の事件は旅行中に全部終わらせます。放っておくと、麻帆良に来られるかもしれませんからね。
ネギは夏休みの宿題はさっさと終わらせるタイプです。