━━━━━ 近衛近右衛門 ━━━━━
ついさっきネギ君達から連絡があった。茶々丸君経由であらかじめ決めておいた暗号が送られてきたのじゃ。
“敵襲アリ”
“敵は4名”
“関西呪術協会に連絡求む”
“場所は本山麓”
“待ち伏せされた”
“結界で隔離される可能性アリ”
“今のところ怪我人ナシ”
“戦闘の可能性大”
“犯人はおそらく木乃香を無理矢理にでも西へ連れ戻したい一派”
“殺気までは感じず”
暗号を解読するとこんなところじゃな。
解読といっても、数字とアルファベットの羅列を旅行前に渡された暗号表で照らし合わせるだけじゃったがの。
…………ネギ君から念話傍受などの可能性があるからと暗号表を渡されたときは大袈裟と思ったが、実際に必要になるとは…………。
ワシの見通しが甘かったということか。まさかこんな馬鹿なことを仕出かす奴らが実際におるとはの。
「ガンドルフィーニ君、君は用意しておいた長距離通信用の魔法符でネギ君との連絡を試み続けてくれ。ただし、戦闘中の可能性があるので邪魔にならないような出力で頼む。
ワシは関西呪術協会にこのことを伝える」
「ハッ!」
どうやらネギ君達は結界に閉じ込められたらしく、連絡がとれなくなってしもうた。
やれやれ。ガンドルフィーニ君に無理言って学園長室に詰めてもらっていて助かったわい。ワシ1人じゃ手が足りんからの。
prrrrr…………、prrrrr…………、prrrrr…………、prrrrr…………。
…………何をしとるんじゃ、詠春は? せっかく詠春個人の携帯にかけているというのに。
本来なら公式回線で関西呪術協会へ連絡しないといかんが、緊急事態だから仕方あるまい。今は一分一秒を争うのじゃ。
………………イヤ、向こうでも本山麓で結界を張られたとなると、気づかぬわけあるまい。それの対応に手間取っておるのか?
「…………心配ですね」
「なぁに、ネギ君なら大丈夫じゃろ。エヴァもついておることじゃしの。あの子達に勝てる者など、麻帆良でも数えるぐらい…………というか誰も勝てんよね?」
「た、確かにそうですが…………」
「…………フォ、フォッフォッフォ、安心せい。ネギ君ならきっとうまくやってくれる。
あの子なら、むしろうまくやりすぎることの方が心配じゃな。フォッフォッ…………アレ? これってマジでやばいんじゃないかの!?」
「…………っ!? ソッチの方が心配ですねっ!?」
マズイ! ネギ君が何を仕出かすか全然わからんぞ!?
“正当防衛”という名目が十分すぎるほどにある!
ネギ君なら木乃香達の安全を最優先として、尚且つ関西呪術協会に怒られないぐらいで事態を収めてくれるじゃろうが、ネギ君はその収め方の判断基準がギリギリすぎる!
きっとネギ君のことだから、関西呪術協会にとって“文句を言いたいけど、理由があるから文句は言えない”ギリギリレベルまでのことを仕出かすぞい!!!
婿殿! 詠春! 早く電話に出ておくれ!!!
本山が! 京都がピンチなんじゃ!!!
お!? 繋がった!?
「お待たせしました、お義父さん」
「おお、詠春か!? ソチラでは事情を把握しとるかの!? 木乃香達が本山の麓付近で襲われているらしいのじゃ!」
「…………やはりそうでしたか。先ほど侵入者防止用の『無間方処の咒法』が勝手に発動したらしいです。おそらく邪魔が入らぬように犯人が利用したのでしょう」
「うむ! 実は少し前にネギ君達から連絡があっての。敵は4名。待ち伏せされていたらしく、連絡が来たときは怪我人はいないらしいが、今ではどうなのかわからん。おそらく『無間方処の咒法』のせいなのじゃろうが、ネギ君達と連絡がとれなくなっているのじゃ!
そして犯人はおそらく木乃香を無理矢理にでも西へ連れ戻したい一派らしいが、殺気までは感じなかったらしいぞい!」
「詳細な情報をいただき、感謝します。
今部下がありったけの結界破りの装備を用意しているところです」
「悠長にしている時間はないぞい!ネギ君が、ナギの息子が『無間方処の咒法』に閉じ込められておるのじゃ!!!」
「落ち着いてください、お義父さんっ!
確かにネギ君のことは心配ですが、話に聞いているネギ君なら私達が到着するまでは持ちこたえてくれるでしょう。
他に刹那君もいますし、お義父さんが依頼してくれた護衛がいるのでしょう? 逸る気持ちはわかりますが、こんなときだからこそ落ち着いて行動しないと…………」
「これが落ち着いていられるか!
考えてもみい! ナギが『無間方処の咒法』に閉じ込められたとしたらどうする!?」
「は? ナギがですか?
…………そうですね。あの単純馬鹿のことですから、力ずくで無理矢理破ろ………………お義父さん?」
そうじゃろうなぁ。ナギなら力ずくで無理矢理破ろうとするじゃろうなぁ…………。
そしてネギ君は、そのナギの…………
「…………ネギ君はやっぱりナギの息子なんじゃよ」
「…………いやいや、仮にも関西呪術協会本山の侵入者防止用の『無間方処の咒法』ですよ?
そんな簡単に、10歳の子供が力ずくで破るなん「ドォーーーーーンッ!!!」……………………え?」
………………何、今の音?
電話の向こうから爆発音が聞こえたんじゃけど?
「…………が、学園長、今ネギ先生と一瞬だけ連絡が取れました。
“全員無事。ただし犯人除く。まだ手が離せない。コチラから連絡し直す”…………だそうです」
………………間に、合わなかった?
え? 犯人生きてるよね? いくら何でも木乃香達の前では殺人は犯さないよね?
「…………詠春?」
「すいません。今すぐ私も現場に向かいます。
ネギ君達の無事を確認し次第、コチラからあらためてかけ直「ピーポー!ピーポー!ピーポー!」って、何で本山でパトカーのサイレン音が!?」
「………………明らかにネギ君じゃなぁ」
「はぁっ!? …………と、とりあえず現場に向かいます! それでは失礼!!!」
………………どーせ、アレじゃろ? 一般人に聞かれたとしても、問題ない警戒音だからじゃろ?
あんなもん本山の麓で鳴り響かせたら、本山から術者がすっ飛んでくるじゃろうからな。
…………う、また胃が痛くなってきた。胃薬を飲まんと。
「学園長、水を持ってきます…………それと私にも胃薬をください」
「…………すまんの。好きなだけ飲むとええ」
…………明日はガンドルフィーニ君を休ませんといかんな。代わりに他の先生を呼ばんと。
念のため、明日は2~3人来てもらおうか。
………………道連れは多い方がええしのぉ。フォッフォッフォ。
━━━━━ 桜咲刹那 ━━━━━
「生きている人、いますかー?」
………………さ、参道が…………鳥居が…………ネギ先生、いくら何でも今のはオーバーキルでしょう?
ネギ先生がとった行動はこうだ。
まず、アーウェルンクスという白髪の少年に敵味方全員の注目が集まった瞬間、ネギ先生を含めた私達全員を障壁で防御する。
そして次に鳥居もスッポリ覆うぐらいの回廊状の結界で、『無間方処の咒法』範囲内の参道を全て覆う。これは敵を逃がさないためだ。
ここで奴らもネギ先生のしていることに気づいた。
しかし障壁があった上、ネギ先生得意の高速詠唱による魔法の前に妨害が間に合うはずもなく、私達を防御している障壁の外、つまり奴らを閉じ込めている結界内でネギ先生の攻撃魔法が放たれた。
奴らに向かって放たれた『雷の暴風』は『無間方処の咒法』のせいで、威力がなくなるまでに10周はループしてたぞ。
しかもネギ先生が張った障壁と『雷の暴風』はおそらく特殊な術式にしていたんだろうなぁ。私達を守っていた障壁にぶつかって『雷の暴風』の威力が減衰するようなこともなかったし。
…………あ、向こうの空間に光の亀裂が見えてる。『無間方処の咒法』の術の基点は、壊れた鳥居のどれかにあったのかな?
っ!? じゃあ、威力がなくなって攻撃魔法が消滅したんじゃなくて、『無間方処の咒法』の外に飛んでいったのか!?
…………ハハハ。長になんて言おう、この惨状。
っていうか、何? このさっきから「ピーポー!ピーポー!ピーポー!」と鳴ってるパトカーのサイレン音は?
「ふむ、さすがはアーウェルンクス。こんなんじゃ倒せないか。犬上小太郎君も無事か。
けど、これで残り2人だ」
「…………やってくれたね、ネギ・スプリングフィールド君。
有無を言わずに先制攻撃か。そんなところは君の父親に似てるね」
「ムッ、取り消してくれ。僕はあんな出鱈目でバグキャラな父親と似てるわけないじゃないか」
「ないない。それはない。っていうか、ナギよりお前の方が酷いわっ!!!」
生きてる!? 良かった、無事だったんだな!
敵の心配をしなきゃならないのが意味不明だが、木乃香お嬢様の前で死人を出すわけにはいかないからな!!!
しかしアーウェルンクスという少年は無傷か。障壁で防御したらしいが…………何だ? あの曼荼羅のような障壁は? あれでネギ先生の攻撃を防いだのか?
犬上小太郎はところどころ焦げているが、そこまで大きなダメージはないようだな。でも、もう疲れ果ててヘロヘロになってる。気を使い果たしたようだな…………あ、ボロボロになった護符を捨ててる。
…………天ヶ崎千草と月詠は……焦げてる。真っ黒に。何か痙攣もしているぞ? 大丈夫か、アレ!?
天ヶ崎千草は後衛の術者だし、月詠は速度重視の剣士で防御力が低そうだったからああなったみたいだな。
天ヶ崎千草は咄嗟に式神で防御したようだったけど、3週目ぐらいのループで式神が全部やられてた。
何というか見てて切なかった。前にテレビで見た、雪崩に飲み込まれる瞬間の人を見てる気分だった…………。
月詠はいくら速度重視でも、閉じ込められて逃げ場がどこにもない状態だったらどうしようもなかったみたいだ。
天ヶ崎千草の後ろに隠れたみたいだったけど、天ヶ崎千草が倒れたあとは為す術もなく攻撃魔法に飲み込まれた。
「ガンドルフィーニ先生と連絡がとれたことから、『無間方処の咒法』もちゃんと破れた。これで本山からの応援も直ぐに到着する。
鳥居も随分壊したけど…………ま、しょうがなかったということで」
「明らかに駄目じゃねーかっ!?
どーすんだよ、この惨状!?」
「お、落ち着いてください、長谷川さん!」
それは私が一番突っ込みたかったですから…………。
「正当防衛、正当防衛。『無間方処の咒法』を破るにはこれが効果的だったんですよ。どうやら『無間方処の咒法』の術式の基点を鳥居に仕掛けていたみたいですから。
それにあのアーウェルンクスは危険です。最低でも全力のエヴァさんと同等クラスと思って相手してください」
やめて! そんな人達が本山の近くで戦わないで!!!
本山が消滅しちゃうでしょう!!!
「…………ま、犯人をちゃんと確保して、言い訳出来るようにしときましょうか。
僕1人でいいです。皆さんは防衛に専念してく…………早いな、もう応援が来た」
「…………逃げるよ、小太郎君」
「ま、待てや! ここまでコケにされておいて、このまま帰れっちゅーのか!?」
「無理だよ。君も限界だし、このままだと本山の応援と挟み撃ちにされる。
僕が千草さんと月詠さんを「させないよ」…………転移魔法?」
あ、天ヶ崎千草と月詠の下に魔法陣が現れたと思ったら、2人の姿が消えた。ネギ先生の転移魔法か。
それに本山の方向からこちらに向かってくる人影が見える。
…………さすがにあんなことしたら本山の術者も気づくか。
「ネ、ネギっ!? 2人をどこやったんや!?」
「ランダム転送だから知らない。転移先とかの指定すると時間かかるからね。この場から半径5km以内にはいるだろうから、運が良ければ逃げるときに会えるんじゃない?
彼女達は、君達が逃げたあとにゆっくりと回収させてもらうよ」
「…………ということは、逃げてもいいということかな?」
「うん。いいよ」
「ちょっ!? ネギ先生!?」
「言いたいことはわかってます、刹那さん。しかし、さっきも言った通りアーウェルンクスは危険です。これ以上、木乃香さん達非戦闘員がいる状況で戦うのは避けたいです。追撃は関西呪術協会の人達にお任せしましょう。
“ょぅι゛ょ誘拐犯”を野に放すのは心苦しいですが、ここは安全策をとるべきです」
「…………お言葉に甘えさせてもらうよ。行こう、小太郎君。
それとその“幼女誘拐犯”というのはやめてくれないかい」
「チィッ…………ネギっ!!! この借りは絶対返すからなっ!!!」
…………とりあえず危険は去った、のか?
あの2人(しかも1人は“幼女誘拐犯”らしい)を逃がすのは不安だが、確かにこれ以上木乃香お嬢様を危険な目に晒すのは避けたい。
しかもネギ先生が言った通り、あのアーウェルンクスとやらがエヴァンジェリンさんと同等クラスの力を持っていたとしたら、これ以上ここで戦うのはマズイ。
いくらネギ先生でも木乃香お嬢様達を守りつつ戦うというのは難しいだろうし、引いてもらえるのなら引いてもらった方が良かっただろう。
………………でもこの惨状、本当に長に何て言おうか…………。
…………まあ、過ぎ去ったことは仕方がない。
とにかく今は木乃香お嬢様達を安全な本山にお連れするのを優先しよう。そのためにはまずこちらに向かってきてる本山からの応援と合流して…………。
「……………………追撃は関西呪術協会にお任せしますけど、追い撃ちぐらいはしておきますか。
ラス・テル・マ・スキル・マギステル…………」
っ!? やめてぇーーーっ! 本当にもうやめてください!!!
これ以上、本山を滅茶苦茶にしないでぇーーーっ!!!
「…………走れよ 稲あっ!? ……………………チッ! 水たまりから転移された。昨日降った雨が仇となったか」
…………よかった。あやうく『千の雷』が本山間近で放たれるところだった。
さすがにあんな魔法撃たれたら、隠蔽工作が更に大変になったろうし…………。
ああ、もう! 少しは自重してください、ネギ先生!!!
━━━━━ フェイト・アーウェルンクス ━━━━━
いや、困ったね。まさかこんなことになるとは…………。
僕が関西呪術協会に潜り込んだ目的は2つ。
“麻帆良に封じられているであろう、彼の詳細な情報の入手”
“東西の対立激化による、麻帆良のダメージ”
…………だったんだけど、まさか“千の呪文の男”の息子が邪魔するとは。
千草さんからネギ君の名前を聞いたときはそれほど重要視していなかったけど、こうなったからにはネギ君に対する認識を改める必要があるみたいだ。
彼が麻帆良に封印されていることは確実。
それでも詳細な情報が手に入れれるなら手に入れたいから、近衛詠春あたりから情報を手に入れたかったのに…………。
近衛詠春が彼のことを知らないということはないだろう。
近衛詠春は“千の呪文の男”の盟友で、麻帆良のトップである近衛近右衛門の娘婿であり、関西呪術協会の長。
何かあったときのために、少なからず事情は聞いているはずだ。
それと麻帆良に封印されている彼を復活させるとき、麻帆良の力が強いとイレギュラーが発生するかもしれない。そのためにも出来うる限り、麻帆良の力は今のうちに削いでおきたかった。
だから日本の東西の組織を争わせてみようかと思って、千草さんに協力をしたんだけど…………。
…………いや、本当に困ったね。
まさかネギ君が“完全なる世界”のことを知っていたなんて…………。
さて、これからどうしようか?
このまま尻尾を巻いて逃げる、というわけにもいかないね。
これで“完全なる世界”がこの件に関わっていたことが知られたから、東西の対立激化は無理だ。もしかしたら逆に東西が融和して、麻帆良の力が増すかもしれない。
そうなったらわざわざ僕が来た意味がなくなる。
ここは一つ、もう少しばかり引っ掻き回すべきだね。
最低でも西にダメージを与えて、麻帆良に味方出来る余裕をなくすぐらいは必要だ。
となると、やはり千草さん達を助け、内紛扱いで西にダメージを与えた方がいいか。
それとネギ・スプリングフィールド君についても、少し調べる必要がありそうだ。
少し対峙したぐらいだけど、もしかしたら彼はイレギュラーになるかもしれない。
せめてネギ君の実力がどのようなものかぐらいは調べよう。
それにしても、
見た目5~6歳の女の子を誘拐して、その女の子を怪しげな儀式の生贄にして世界を滅ぼそうとした、魔法世界全土に指名手配されている秘密結社の一員、か。
…………別に嘘は言われてないけどさ。
━━━━━ 後書き ━━━━━
フン! くだらんなあ~~。一対一の決闘なんてなあ~~~~っ。
このネギの目的はあくまでも“平穏”! あくまでも“平穏”に生きること!!!
小太郎君のような戦士になるつもりもなければ、ロマンチストでもない…………。
どんな手をつかおうが…………最終的に…………勝てばよかろうなのだァァァァッ!!!
ょぅι゛ょ誘拐についての反論? させるわけないじゃないですか。
こういうのはレッテルを貼ったモン勝ちなんですよ。
前哨戦はネギの勝ち。
もちろんまだまだ終わりじゃないです。
もう一波乱か二波乱はあります。
というか、戦闘にすらなっていないですね。
そしてフェイトが関西呪術協会に潜り込んだ理由はこのように致しました。
他に理由が思いつきません…………。
それと今回のことでの被害者リスト入りはありません。
一応は戦闘という状況でしたので、被害者加害者の関係ではないからです………………ないですよね?