━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━
「アーウェルンクスじゃと!?」
「はい、ネギ君からいただいた映像を確認したところと、私達が20年前に戦った本人ではないようですが…………確かに似ています。
本人も否定していませんでしたし、おそらく間違いないかと…………」
現在、詠春さんと一緒に学園長に報告中です。何とか一段落つきました。
無事に本山に到着出来ましたし、天ヶ崎千草と月詠もちゃんと回収出来ました。まだ座敷牢で寝てますけどね。
え? 2人はランダム転送だから場所わからなかったはずなんじゃって?
別に嘘ついてませんよ。転移させる前に、彼女達の衣服に発信機を転移させておいたんです。そうすれば茶々丸さんが居場所を特定出来ますからね。
まあ、衣服も大部分焼け焦げて、ちょっとあられもない姿になってましたけど。
「…………ムゥ、しかし何故に奴が関西呪術協会に…………」
「そこまではまだ…………主犯である天ヶ崎千草の目が覚めたら事情を聞くつもりなのですが…………」
「えーっと、僕の見立てでは明日までは起きれないでしょうねぇ。怪我は治しておきましたけど…………」
ごめんなさい、ちょっとやりすぎました。
『無間方処の咒法』で『雷の暴風』があそこまでループしたのは予想外でした。
小太郎君たちのことを考えて威力を弱めにしたのが逆に仇となったようです。
それにフェイトも悪いんですよ。
フェイトの曼荼羅障壁で『雷の暴風』が減衰してましたし、もしかしたらそのフェイトの後ろに『無間方処の咒法』の基点があったのかもしれないのです。
だいたい、あの『無間方処の咒法』を準備したのアッチですからね。
僕はただ『雷の暴風』を放っただけです。ループについては僕の責任じゃありません。
だから、僕は悪くない。
「だ、大丈夫なのかね?
スマンの、ネギ君が迷惑掛けたんじゃ…………?」
「ハハハ、確かに物損被害はかなりありましたし、ネギ君から先制攻撃を仕掛けたみたいですが、アーウェルンクス相手では仕方がないでしょう。
しかも『無間方処の咒法』で閉じ込められ、戦闘が避けられない状況でしたから尚更です。何より木乃香を守るための行動でしたしね。犯人が力ずくで木乃香を攫おうとしていたのも確認出来てますし」
「そ、それなら良いのじゃが…………本当に何か問題はないのかね?」
「……………………まあ、あると言えばあるのですが…………」
「な、何がじゃ!?」
「いえ、映像で天ヶ崎千草が、
“次代の長候補は修行も何もしていない木乃香よりも駄目”とか
“次代の長候補は力不足”とか
“最近の関西呪術協会は落ち目”とか、
散々言いたいこと言ってまして。しかも“木乃香を次代の長にする目的”で行動していたことまでシッカリ言ってました。
おかげで一緒に映像を見てた次代の長候補の身内達が激怒しちゃって、彼女が起きたら大変だなぁ…………と」
「ああ、確かにビキビキと青筋立ててらっしゃいましたよねぇ」
「………………うわぁ…………」
「逆に木乃香の株は上がりましたね。
天ヶ崎千草とのやり取りも冷静にこなし、現在の自らの立場をちゃんと理解していることなど、それこそ一緒に見てた次代の長候補の身内達からも称賛の声が上がりましたよ」
すいません。裏で糸引いてたの自分です。
木乃香さんは腹黒くなってないですから安心してください。
「フォッフォッフォ、それは不幸中の幸いじゃの」
「ええ。これで木乃香が東西どちらを選んでも、特に問題は起きなさそうです。
西を選んでも家督争いが起きなさそうなことが周知出来ましたし、東を選んでもこの件のおかげで文句は言われないでしょう。
さすがにこんなことがあって“それでも西に来い”なんて言える人はいないはずです」
「おお! それは何よりじゃ!」
「今のところはこれぐらいですね。何かわかり次第、あらためて連絡します」
「ウム。それではネギ君やウチの生徒のことをよろしく頼むぞい。
ネギ君もシッカリとな」
「はい、学園長」
「お任せください。それでは………………うん、改めてありがとうございます、ネギ君。木乃香を守ってくれて」
「いえいえ、コチラこそやむを得なかったとはいえ、参道とか鳥居とか壊してしまいまして申しわけありません」
原作でも小太郎君とか結構壊してましたし、別に問題にされないと思いますがね。
まぁ、社交辞令ということで謝っておきましょう。
「ハハハ、気にしなくていいですよ。
君達に怪我がなくて何よりです」
「ありがとうございます。
それではこれからしばらくの間、生徒と一緒にお世話になります」
「歓迎させていただきますよ。予定では、今日1日はゆっくりする予定でしたね。
関西呪術協会の視点から見た裏についての説明は明日に。説明が長引かなければ明後日以降は京都観光と聞いていましたが…………」
「ええ…………しかし、アーウェルンクスが捕まっていない以上、迂闊にここから出るのは危険だと思います。
かといって、これから麻帆良に戻ろうとしたら途中で襲撃されるかもしれませんし、何より皆さん移動で疲れています。せめて今日1日は休ませてあげたいですね」
「その方が良いでしょう。その間に何としてもアーウェルンクスを捕まえます…………と言いたいところなのですが、奴は強敵です。生半可な追っ手では返り討ちにあってしまうでしょう。
奴に対抗出来そうな使い手は、関西呪術協会にも数えるぐらいしか…………」
そうでしょうねぇ。
僕は前世で結局会わなかったから今日で初めて会ったんですけど、確かに強いですね。今の僕ほどじゃありませんが、駄目親父クラスの力は確かに持ってます。
それに僕なら勝てるとはいえ、それはあくまでタイマンでの話であって、素人5人を守りながらというのはつらいです。
前世で僕がした修行は1対1か1対多ばっかりで、多対多は修行しませんでしたしねぇ。
…………“ぼっち”とか言うなっ!!!
あれ? 何か変な電波が…………?
ま、最悪の場合は転移魔法で帰ればいいだけです。
京都-麻帆良間を10人ぐらいで転移するのは疲れますが、出来ないわけじゃありません。
エヴァさんの家に転移先となる魔法陣も用意してますしね。
「今日は休んで、明日は予定通り説明をしていただきながら様子を伺い、アーウェルンクスの出方を待つのがいいですかね。
諦めて京都から逃げてくれれば、それに越したことはないですし」
「そうですね。まずは身体を休めることでしょう。
…………生徒の皆さんは大丈夫ですか?」
「今のところは特に問題はなさそうです。
心配してた人は戦闘が怖かったというより、僕への突っ込みに疲れてたみたいですし…………というか、全員が僕のとった行動に疲れてたみたいです。特に刹那さん」
「ハ、ハハハ…………彼女にもお礼を言わなければなりませんね。よくぞ今まで木乃香を守り続けていてくれました。
それでは私はこれから部下から現在までの状況の報告を受け、新たな指示を出さなければいけません。それが済み次第、皆さんに改めて挨拶に行きますので、もうしばらく休憩していてください。
ネギ君は木乃香達のことをよろしくお願いします」
「はい、わかりました。確か木乃香さんが昔使っていた部屋でしたね。僕もそこに行きます」
「ええ、場所は部屋の外に待機している者に聞いてください。
…………それにしても、ネギ君を見ているとナギを思い出しますね」
「そうなんですか? 確かに顔は父親似と言われますが…………」
「フフフ、顔は似ているけど、性格はナギと正反対…………のように感じますが、やはり根っこはナギと同じですよ」
ゲェッ!? あの駄目親父と同じ!?
勘弁してくださいよ、詠春さん…………。
「(え? 何で微妙そうな顔するの?)
それにしても、よくアーウェルンクスのこと知っていましたね。魔法世界の雑誌なんかはコチラに持ち込めないはずになってますが…………」
「ま、そこは蛇の道は蛇、と言いますか。祖父にいろいろお願いしまして…………。
“紅き翼”の資料を手に入れたとき、“ょぅι゛ょ誘拐犯”についてのことも載ってましたから」
「(…………何か変な感じが?)
ああ、確かにそうですね。“紅き翼”と“完全なる世界”は切っても切れない関係ですから、“紅き翼”について調べれると自然に彼らにも辿り着きますか。
そういえばネギ君は、私の映っている映像を見て神鳴流を習得したと聞きましたが…………」
「え? …………えーっと何と言いますか。技を盗むような形になってしまいまして…………」
「ハハハ、まぁ、そういう形でなら仕方がないでしょう。こう言っては何ですが、盗まれた私の方が悪いわけですから。
しかし、いったい誰がそんな映像を? “紅き翼”の映画や映像が魔法世界で出回っているのは知ってますが、技を盗めるほどの詳細な映像を誰が?」
「え? 誰も何も、“紅き翼”のジャック・ラカンさんですよ?」
「!? あの筋肉馬鹿ですかっ!?」
「え?」
「あっ!? いや、ゴホン! 失礼しました。…………そうか、あの馬鹿かぁ。あいつだったらあり得るな。
それに“完全なる世界”を見た目5~6歳の女の子を誘拐して、その女の子を怪しげな儀式の生贄にして世界を滅ぼそうとした、魔法世界全土に指名手配されている秘密結社なんて言うのはあの馬鹿ぐらいだな…………」
ゴメン、筋肉達磨。
あなたのこと言い訳に利用させもらいました。
…………ま、納得されるのも、自らの日頃の行いが悪かったということで。
それと技の映像を撮ったのがラカンさんとは言いましたが、“幼女誘拐犯”云々についてはラカンさんの映像とは言ってませんけどね。
別に勘違いされても構わないことですから放置しますけど。
「…………えーっと、それでは僕は木乃香さん達のところに行きますので」
「え? ええ、お願いします。後で顔を出しますし、夕食は皆さんとご一緒しましょう。
それでは君、ネギ君を木乃香達のところへ…………」
「かしこまりました」
さーて、本当にこれからどうしましょうねぇ。?
これでフェイトがこれで諦めて帰ってくれるならそれで良いですし、本山を攻めてきたとしても関西呪術協会の人達に任せればいいですよね。
僕が動くのは関西呪術協会の人達が全滅した後。それまでは木乃香さん達の護衛を最優先です。
“完全なる世界”は人死にをなるべく出さないようにしてますから、気休め程度には安心できますしね。
…………原作で、エヴァさんには平気で殺す攻撃してたようですが。
ま、腹を貫かれるぐらいなら僕でも平気です。頭と心臓さえ無事なら『咸卦治癒』で大丈夫ですし。
………………というか、『咸卦治癒』発動中なら心臓潰されても平気かな? さすがに試したことないけど?
というか、今回の転生ではまだ大怪我したことないですからね。せいぜいが腕を切り落とすぐらいで…………。
腹を貫かれるまではしたことありませんから、どうなるかわかりませんね。
…………だけどなーんかまだ忘れてることがあるような気がします。
何だったかなぁ…………?
「ネギ先生、こちらが木乃香お嬢様のお部屋です」
「あ、ありがとうございます」
「はい。それではネギ先生の分のお茶をお持ちいたします」
「お願いします」
…………改めて見ると、ここにいる人達って本当に巫女さんなんだよなぁ。前世のアスナさん、木乃香さん、刹那さん、マナさんの巫女服姿を思い出します。
あれは眼福でした…………。
まあ、いいや。
過去を思い出すには、僕はまだ若いでしょう。
「失礼します。お待たせしました、皆さん。
学園長への報告は無事に終わ………………おや、長谷川さん?」
「お帰り、ネギ君。
そうなんや、千雨ちゃん寝てもうてな。疲れてたみたいやから、そっとしといてあげて」
あらあら、長谷川さん横になって寝ちゃってます。移動の疲れがあるでしょうし、魔法の戦闘なんか見てしまったら精神的にも疲れるでしょうね。
ファンタジーが嫌いな長谷川さんなら尚更です。
…………でも、思ったより僕に対しては忌避感とか抱かれてないようなんですよねぇ。何ででしょ?
魔法バレの仕方が仕方でしたから、原作と違って嫌われると思ってましたのに、意外と普通に付き合ってくれてます。
仲良くしてくれるには越したことはないんですがね。
「お父様やおじいちゃんとの話し合いはどうやったの?」
「とりあえずは予定通りに日程を進めることにしますが、皆さんの意見を聞いてから最終的に判断します。
逃げた“ょぅι゛ょ誘拐犯”の足取りがわからない以上、麻帆良に帰るために今から本山の外へ出るのは危険です。
関西呪術協会の人達が“ょぅι゛ょ誘拐犯”を捕まえてくれるのを期待しましょう」
「確かにそうでしょうね。この関西呪術協会の本山なら安全でしょう」
「そっかぁ。せっかく里帰りしたのに、とんぼ返りになるんわ嫌やからそれがええわ。
…………それじゃあ、ネギ君。一段楽したところで、約束守ろーか」
ハ? 約束?
僕、何か木乃香さんと約束してましたっけ?
あれ? 何で明日菜さんと宮崎さんとエヴァさんが僕にジリジリ寄ってくるんですか?
あれ? 何で綾瀬さんが襖を閉めて、茶々丸さんと刹那さんが僕の肩を押さえて、僕が逃げられないようにしてるんですか?
━━━━━ 近衛詠春 ━━━━━
筋肉馬鹿の馬鹿野郎。
ネギ君がどこかズレていることはお義父さんから聞いてましたが、まさかジャックの映像が原因じゃないだろうな?
しかし、木乃香が魔法を知ってしまったと言われたときには、こんなことになるとは思いもしなかったですね。
木乃香が襲われたことはよくありませんが、これで木乃香の自由にさせられることが出来る。瓢箪から駒です。
それにしてもネギ君とはまだ少し話しただけですけど、本当に顔はナギの面影が強いですね。まぁ、性格はナギに似ずに礼儀正しくて真面目みたいですが。
でも、根っこはナギに似ている。やはり親子なんですね。
…………根っこもあまり似ててほしくなかったなぁ。
さて、あの子達に改めて挨拶をしておきましょうか。
夕食の時間にはまだ少し早いから、顔を出すぐらいですが。
先ほどは事後処理があったので、ほとんど事務的なことしかネギ君とは話せませんでしたし、何より木乃香ともあまり話せてません。
それと木乃香がお世話になっていることに対して、木乃香のお友達にお礼を言わねば。うん、父親らしいこともようやく出来ますね。
それにしてもあの年頃の子供の成長は早い。小さかった木乃香があんなに大きくなって…………。
お友達もたくさん出来ているようですし、やはり木乃香を麻帆良に送って正解でした。
魔法バレしたせいで刹那君とも再び仲良くなれたらしいですし、良いタイミングで魔法のことを知ってもらえたようです。
………………考えてみれば、木乃香のお友達に挨拶するなんて初めてですね。
刹那君のことは木乃香の友達になってくれる前から知ってましたし。
参りました。何だか緊張してきましたね。木乃香に恥をかかせないようにビシッと。だけどお友達を怖がらせてもいけない。これは匙加減が難しい。
世の中のお父さんは娘のお友達にどんな風に接しているのでしょうか?
しかし木乃香の面倒を今まであまり見れなかったとはいえ、これでも私は木乃香の父。挨拶もしないままではいきません。
さて、木乃香の部屋はここですね。久しぶりにこの部屋から人の気配が感じられます。
木乃香が麻帆良に行ってからもこの部屋はちゃんといつでも使えるようにしておきましたが、ようやくそのことが実りましたね。
………………しかし、人の気配はしますが、やけに静かですね?
「フハハハハハハハ!
お前達がキスした場所は神楽坂明日菜が額、近衛木乃香が左頬、宮崎のどかが右頬だったよなぁ。
だが、ネギの初めての唇をもらったのはお前達ではないッ! このエヴァンジェリンだーーーッ!!!」
「「「アアアァァーーーッ!?」」」
「さすがマスター。皆さんが出来ないことを平然とやってのけられます。
そこに痺れませんし、憧れません」
…………何事?
今の叫びには木乃香の声も混じっていましたね?
「…………ロマンチックとはかけ離れたファーストキスでした。
というか、エヴァさんいきなり何するんですか?」
「…………エ、エヴァちゃん、何してくれやがるのかしら?」
「ウチは頬にだったのに…………」
「ネ、ネギ先生の初めてが…………」
「…………フアァ…………うるさいなぁ。
いったい何なんだよ?」
「…………い、いやぁ。エヴァにゃんが“ズキュゥゥゥン!!!”という感じで、ネギ坊主の唇を奪たアルよ」
「順番を最後にしたのはこういう狙いがあったんでござるなぁ…………」
「ネ、ネギ先生! この墨汁で口をすすぐです!!!」
「あ、ソレ木乃香お嬢様が習字の練習に使ってた8年ぐらい前の墨汁ですけど…………」
「もう固形化してるんじゃないのか?」
え? 本当に何ですか、この状況?
━━━━━ 後書き ━━━━━
この嘴広鴻が、甘酸っぱくて思い出に残るようなはじめてのチュウなんぞネギにさせると思っていたのかァーーーーーッ!!!
私は『読者を笑わせるため』にこの話を書いている!
『読者に笑わせるため』、ただそれだけのためだ !
単純なただひとつの理由だが それ以外はどうでもいいのだ!!!
…………まぁ、このネタを予想してた人いたでしょうねぇ。特にDIO=エヴァは。
ネギは参道とか鳥居とか壊しましたけど、別に文句は言われません。
「関西呪術協会の人が襲ってこなかったら、僕もモノ壊したりしなくてすんだんですけどねぇ」
って言われたら反論できませんからね。
まぁ、心の中では言われているかもしれませんが、これぐらいなら“文句を言いたいけど、理由があるから文句は言えない”レベルでしょう。
そしてネギの中では、“腕を切り落とす”=“大怪我じゃない”となっているようです。
やっぱりネギはどこかズレてます。
あと木乃香みたいなお嬢様だったら、習字の練習は墨から磨りますかね?
小学校の頃、一度墨から磨って墨汁作ったことありますけど、ああいうのって何故か磨っただけで何かもう満足しちゃうんですよねw
良い墨と良い硯を使えば違うらしいですが、もう10年以上書道なんてやってないなぁ…………。